説明

コーティング剤

【課題】本発明のコーティング剤によれば、耐熱性、透明性および膜強度に優れ、加工性に優れたポリアリレート被膜を提供できる。
【解決手段】2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−プロパン、テレフタル酸、イソフタル酸より構成され、インヘレント粘度が0.70〜1.30であるポリアリレート樹脂と、非ハロゲン系有機溶媒から構成されるコーティング剤、および非ハロゲン系有機溶媒の沸点が50〜170℃であるコーティング剤。。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアリレート樹脂のコーティング剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ビスフェノール類と芳香族ジカルボン酸から得られるポリエステルは、ポリアリレートとして知られ、非晶性が高く透明でかつ耐熱性に優れることから、さまざまな用途に用いられている。
【0003】
代表的なポリアリレート樹脂として、ビスフェノールA、テレフタル酸、およびイソフタル酸から構成されたものが知られ、主に、押出成形品や射出成形品として用いられている。一方、このポリアリレート樹脂は塩化メチレン等の塩素系溶媒の溶液として被膜形成用途に使用されている(特許文献1)。しかしながら、塩化メチレンは沸点が40℃と低く乾燥速度が早いため、被膜の乾燥中にボイドが発生しやすく、均質な被膜が得られ難いという問題があった。また、塩化メチレン等の塩素系溶媒は、環境への影響が懸念されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平08−269214号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来、ビスフェノールA、テレフタル酸、およびイソフタル酸からなるポリアリレートは、テトラヒドロフランといった非ハロゲン系有機溶媒に安定に溶解することは知られていなかった。
【0006】
本発明は、前記ポリアリレート樹脂の非ハロゲン系有機溶媒を用いたコーティング剤を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、ビスフェノールA、テレフタル酸およびイソフタル酸から構成されるポリアリレート樹脂のインヘレント粘度を、通常コーティング用途に使用される値に比べて高くすると、上記目的が達成されることを見出し、本発明に到達した。すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
(1)2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−プロパン、テレフタル酸、およびイソフタル酸より構成され、インヘレント粘度が0.70〜1.30であるポリアリレート樹脂と、非ハロゲン系有機溶媒とを含有するコーティング剤。
(2)非ハロゲン系有機溶媒の沸点が50〜170℃である(1)記載のコーティング剤。
(3)非ハロゲン系有機溶媒が、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、シクロヘキサノン、およびシクロペンタノンより選ばれた少なくとも1種類である(2)記載のコーティング剤。
【発明の効果】
【0008】
本発明のコーティング剤によれば、ハロゲン系有機溶媒を用いることなしに、耐熱性、透明性および膜強度に優れ、加工性に優れたポリアリレート被膜を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のコーティング剤は、ポリアリレート樹脂と非ハロゲン系有機溶媒から構成される。
【0010】
まず、ポリアリレート樹脂について説明する。
【0011】
本発明で用いるポリアリレート樹脂は、ビスフェノールA、テレフタル酸、およびイソフタル酸から構成される。「ビスフェノールA」は、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−プロパン)の通称名である。
【0012】
ポリアリレート樹脂におけるテレフタル酸とイソフタル酸のモル比率は特に限定されないが、溶媒溶解性の観点から、3/7〜7/3の範囲が好ましく、4/6〜6/4がより好ましい。
【0013】
ポリアリレート樹脂のインヘレント粘度は0.70〜1.30とする必要があり、実用的に十分な溶解性、溶液安定性を得る観点から、0.85〜1.30が好ましい。ポリアリレート樹脂のインヘレント粘度が0.70未満であると、コーティング剤の溶解性、溶液安定性が不良になるので好ましくない。一方、ポリアリレート樹脂のインヘレント粘度が1.30を超えると、溶解性、溶液安定性が不良になるので好ましくない。
【0014】
一般に、汎用樹脂の多くは、分子量が高くなるにしたがって、有機溶剤に対する溶解性、溶液安定性に乏しくなる傾向がある。これに対し、本発明で用いるポリアリレート樹脂は、分子量の指標であるインヘレント粘度が上昇すると、前記知見に反して、非ハロゲン系有機溶剤への溶解性、溶液安定性が向上する傾向がある。
【0015】
ポリアリレート樹脂のインヘレント粘度の制御方法としては、特に限定されるものではないが、後述する製造方法において用いる末端封止剤または酸ハライドの添加量を制御する方法等が挙げられる。
【0016】
ポリアリレート樹脂を製造する方法としては、界面重合法、溶液重合法等が挙げられる。界面重合法は溶液重合法と比較すると、反応が速いため、酸ハライドの加水分解を抑えることができ、結果として高分子量のポリマーを得ることができる。
【0017】
界面重合法としては、二価カルボン酸ハライドを水と相溶しない有機溶媒に溶解させた溶液(有機相)を、二価フェノール、末端封止剤、酸化防止剤および重合触媒を含むアルカリ水溶液(水相)に混合し、50℃以下の温度で1時間〜8時間撹拌しながら重合反応をおこなう方法が挙げられる。
【0018】
有機相に用いる溶媒としては、水と相溶せずポリアリレート樹脂を溶解する溶媒が好ましい。そのような溶媒としては、塩化メチレン、クロロホルム等が挙げられ、製造上使用しやすいことから、塩化メチレンが好ましい。
【0019】
水相に用いるアルカリ水溶液としては、水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等の水溶液が挙げられる。
【0020】
末端封止剤としては、一価フェノール、一価酸クロライド、一価アルコール、一価カルボン酸等が挙げられる。一価フェノールとしては、フェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、p−tert−ブチルフェノール、o−フェニルフェノール、m−フェニルフェノール、p−フェニルフェノール、o−メトキシフェノール、m−メトキシフェノール、p−メトキシフェノール、2,3,6−トリメチルフェノール、2,3−キシレノール、2,4−キシレノール、2,5−キシレノール、2,6−キシレノール、3,4−キシレノール、3,5−キシレノール、2−フェニル−2−(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2−フェニル−2−(2−ヒドロキシフェニル)プロパン、2−フェニル−2−(3−ヒドロキシフェニル)プロパン等が挙げられ、一価酸クロライドとしては、ベンゾイルクロライド、安息香酸クロライド、メタンスルホニルクロライド、フェニルクロロホルメート等が挙げられ、一価アルコールとしては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、2−ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ドデシルアルコール、ステアリルアルコール、ベンジルアルコール、フェネチルアルコール等が挙げられ、一価カルボン酸としては、酢酸、プロピオン酸、オクタン酸、シクロヘキサンカルボン酸、安息香酸、トルイル酸、フェニル酢酸、p−tert−ブチル安息香酸、p−メトキシフェニル酢酸等が挙げられる。これらの中でも、反応性と熱安定性の点から、p−tert−ブチルフェノールが好ましい。
【0021】
酸化防止剤としては、ハイドロサルファイトナトリウム、L−アスコルビン酸、エリソルビン酸、カテキン、トコフェノール、ブチルヒドロキシアニソール等が挙げられ、速やかに水溶することからハイドロサルファイトナトリウムが好ましい。
【0022】
重合触媒としては、トリブチルベンジルアンモニウムハライド、テトラブチルアンモニウムハライド、トリメチルベンジルアンモニウムハライド、トリエチルベンジルアンモニウムハライド等の第四級アンモニウム塩や、トリブチルベンジルホスホニウムハライド、テトラブチルホスホニウムハライド、トリメチルベンジルホスホニウムハライド、トリエチルベンジルホスホニウムハライド等の第四級ホスホニウム塩が挙げられる。中でも、高分子量で低カルボキシル価のポリマーを得ることができる点で、トリブチルベンジルアンモニウムハライド、テトラブチルアンモニウムハライド、トリブチルベンジルホスホニウムハライド、テトラブチルホスホニウムハライドが好ましい。
【0023】
次に、本発明のコーティング剤に用いる非ハロゲン系有機溶媒について説明する。
【0024】
非ハロゲン系有機溶媒とは、化学構造式において、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)を含まない有機溶媒である。ハロゲン系有機溶媒を用いると、環境への負荷が増大するので好ましくない。特に、塩化メチレン等の沸点が低いハロゲン系有機溶媒を用いると、塗工時に乾燥速度が早すぎるため、塗工面にボイドが発生しやすくなるので好ましくない。
【0025】
非ハロゲン系有機溶媒は、沸点が50〜170℃のものを用いることが好ましく、より低温で乾燥が可能になることから、50〜100℃のものがより好ましい。有機溶媒の沸点が50℃未満であると、乾燥時に白化したり、乾燥中に気泡が発生したりすることがあり、透明な被膜を得ることが難しくなる。有機溶媒の沸点が170℃を超えると、所定の乾燥条件内で十分な乾燥ができないことがある。
【0026】
このような非ハロゲン系有機溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン等が挙げられる。中でも、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、シクロヘキサノン、およびシクロペンタノンより選ばれた少なくとも1種類であることがより好ましく、沸点が低く、溶解性に優れている点から、テトラヒドロフランがさらに好ましい。
【0027】
コーティング剤の固形分濃度の下限としては、10質量%以上が好ましく、12質量%以上がより好ましい。固形分濃度が10質量%未満の場合、大量の溶媒を用いることになり、環境への負荷が増大したり、溶媒乾燥や溶媒回収のコストが増加する。固形分濃度の上限としては、30質量%以下が好ましく、22質量%以下がより好ましい。固形分濃度が30質量%を超えると、ポリアリレート樹脂が溶け残る場合がある。
【0028】
なお、コーティング剤には、必要に応じて、滑剤、顔料、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の添加剤を含有させてもよい。
【0029】
本発明のコーティング剤は、公知のコーティング方法で、基材に塗布することができ、その後、乾燥工程に付されてポリアリレート被膜を形成することができる。
【0030】
乾燥方法は特に限定されないが、効率よく溶媒を除去するためには加熱乾燥することが好ましい。乾燥温度や乾燥時間はポリアリレート樹脂の物性や塗布基板の組み合わせにより適宜選択される。経済性を考慮した場合、乾燥温度は40〜150℃が好ましく、40〜100℃がより好ましく、乾燥時間は1〜30分が好ましく、3〜15分がより好ましい。なお、必要に応じて、室温で自然乾燥してもよい。
【0031】
ポリアリレート被膜の厚みの調整方法は、溶液濃度やコーティング方法により異なるが、例えば、アプリケーターを用いた場合、アプリケーターの隙間幅を調整することにより、また、ワイヤーバーコーターの場合ではバーコーターに巻きつけられた針金直径を選択することにより調整することができる。
【0032】
コーティング方法は特に限定されないが、ワイヤーバーコーター塗り、フィルムアプリケーター塗り、はけ塗りやスプレー塗り、グラビアロールコーティング法、スクリーン印刷法、リバースロールコーティング法、リップコーティング、エアナイフコーティング法、カーテンフローコーティング法、浸漬コーティング法を用いることができる。
【0033】
本発明のコーティング剤を用いて、基材フィルム上にポリアリレート被膜を形成させることにより、積層フィルムとすることができる。また、得られたポリアリレート被膜を基材フィルムから剥離させフィルムとして用いることもできる。
【0034】
ポリアリレート被膜は、金属材料の腐食防止膜として用いることができる。また被膜にパターン加工して金属基板等のエッチングマスクとして用いたり、コンデンサ、光ディスクやプリント基板等の絶縁膜、印刷版等に使用することが可能である。
【実施例】
【0035】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、ポリアリレート樹脂の物性測定は以下の方法によりおこなった。
(1)インヘレント粘度
ポリアリレート樹脂を1,1,2,2−テトラクロロエタンに溶解し、濃度1g/dlの試料溶液を作製した。続いて、ウベローデ型粘度計を用い、25℃の温度にて試料溶液および溶媒の落下時間を測定し、以下の式を用いてインヘレント粘度を求めた。
インヘレント粘度=ln[(試料溶液の落下時間/溶媒のみの落下時間)/樹脂濃度(g/dl)]
(2)ガラス転移温度
得られた被膜15mgをサンプルとし、DSC(示差走査熱量測定)装置(パーキンエルマー社製DSC7)を用いて昇温速度10℃/分の条件で測定をおこない、得られた昇温曲線中のガラス転移に由来する2つの折曲点の温度の中間値を求め、これをガラス転移温度とした。耐熱性の指標として、ガラス転移温度が150℃以上を合格とした。
(3)溶解性、溶液安定性
所定の樹脂濃度になるように、ポリアリレート樹脂と有機溶媒とを、25℃で24時間混合した。24時間混合しても溶解しなかった場合、「×」とした。24時間混合して溶解した場合、得られた樹脂溶液を透明なガラス瓶中、25℃で保存し、溶液安定性を目視で観察し、以下の指標で判断した。「◎」「○」「△」を合格とした。
◎:48時間以上溶液状態を維持した。
○:24時間以上溶液状態を維持したが、48時間までにゲル化した。
△:24時間溶液状態を維持できず、24時間までにゲル化した。
(4)塗工性
安田精機製フィルムアプリケーターを用い、樹脂溶液をポリエチレンテレフタレートフィルム上に乾燥後の厚みが50μmとなるように塗布した後、熱風乾燥機を用いて、120℃で5分間乾燥し、コーティング被膜を形成させ、そのコーティング被膜の状態を目視で観察した。塗工性を以下の指標で判定し、「◎」「○」を合格とした。
【0036】
◎:タックがない均一な被膜が得られた。
【0037】
○:5分間乾燥後にはタックが残っていたが、さらに1時間乾燥すればタックがなくなり、均一な被膜が得られた。
【0038】
×:1時間追加乾燥してもタックが残っていた。または、タックはなかったが、被膜中に泡が見られる等、均一な被膜が得られなかった。
実施例1
攪拌装置を備えた反応容器中に、ビスフェノールA62.4質量部、末端封止剤としてp−tert−ブチルフェノール(以下、PTBPと略称する。)1.64質量部、アルカリとして水酸化ナトリウム23.43質量部、重合触媒としてベンジル−トリ−n−ブチルアンモニウムクロライド0.60質量部、酸化防止剤としてハイドロサルファイトナトリウム0.30質量部を仕込み、水2000質量部に溶解した(水相)。これとは別に、塩化メチレン790質量部に、テレフタル酸クロライド(以下、TPCと略称する。)28.33質量部と、イソフタル酸クロライド(以下、IPCと略称する。)28.33質量部を溶解した(有機相)。(ビスフェノールA:PTBP:TPC:IPC=100:4:51:51(モル比))水相をあらかじめ攪拌しておき、有機相を水相中に強攪拌下で添加し、15℃で4時間、界面重合法で重合をおこなった。この後、攪拌を停止し、水相と有機相をデカンテーションして分離した。水相を除去した後、塩化メチレン200質量部、純水2000質量部と酢酸1質量部を添加して反応を停止し、15℃で30分間攪拌した。その後、有機相を純水で10回洗浄し、有機相をメタノール中に添加してポリマーを沈殿させ、分離・乾燥後、ポリアリレート樹脂を得た。
得られたポリアリレート樹脂をテトラヒドロフランに、所定の濃度で溶解させコーティング剤を得た。
実施例2〜14、比較例1〜8
表1に示すように、ポリアリレート樹脂を作製する際に用いるPTBP量およびコーティング剤に用いる有機溶媒を変更する以外は、実施例1と同様にコーティング剤を得た。
【0039】
【表1】

【0040】
表1に、コーティング剤の構成およびその評価結果を示した。
【0041】
実施例1〜14のコーティング剤は、溶液安定性、塗工性が良好であった。
中でも、非ハロゲン系有機溶媒の沸点が50〜170℃である実施例1〜12は、塗工性が特に良好であった。
【0042】
比較例1〜3のコーティング剤は、ポリアリレート樹脂のインヘレント粘度が低かったため、溶解性が不良であった。
【0043】
比較例4〜6のコーティング剤は、ポリアリレート樹脂のインヘレント粘度が高かったため、溶解性が不良であった。
【0044】
比較例7、8のコーティング剤は、非ハロゲン系有機溶媒の代わりに塩化メチレンを用いたため、塗工性が不良であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−プロパン、テレフタル酸、およびイソフタル酸より構成され、インヘレント粘度が0.70〜1.30であるポリアリレート樹脂と、非ハロゲン系有機溶媒とを含有するコーティング剤。
【請求項2】
非ハロゲン系有機溶媒の沸点が50〜170℃である請求項1記載のコーティング剤。
【請求項3】
非ハロゲン系有機溶媒が、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、シクロヘキサノン、およびシクロペンタノンより選ばれた少なくとも1種類である請求項2記載のコーティング剤。

【公開番号】特開2011−246551(P2011−246551A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−119339(P2010−119339)
【出願日】平成22年5月25日(2010.5.25)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】