説明

コーティング組成物、およびこれを用いてなる透明導電膜

【課題】別途導電性の塗膜を設けたり、帯電防止剤を添加することなくゾルゲル法で得られる塗膜に帯電防止性を付与することができ、かつ帯電防止性を長期的に維持できる透明導電膜を形成可能なコーティング組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】金属アルコキシドを触媒の作用により加水分解してなるゾルを含むコーティング組成物であって、前記触媒として、骨格構成原子の一部を欠損させたヘテロポリ酸塩の欠損部位に、金属アルコキシドの加水分解物を導入してなる修飾フリーアシッド型ヘテロポリ酸を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゾルゲル法で塗膜化するコーティング組成物に関し、塗膜化した際の塗膜が優れた帯電防止性と透明性を有するコーティング組成物、および該コーティング組成物から形成されてなる透明導電膜に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ゾルゲル法を利用した塗膜化技術が実施されており、例えば、反射防止膜、表面保護膜などが作製されている。
【0003】
ゾルゲル法では、まず出発原料である金属アルコキシドを加水分解してゾルを調整し、次いで得られたゾルを塗布、乾燥して塗膜化(ゲル化)することにより塗膜を得ることができる。金属アルコキシドを加水分解する際には触媒が用いられており、触媒としては塩酸が広く用いられている。
【0004】
一方、反射防止膜などのゾルゲル法により得られた塗膜に帯電防止性が求められる場合がある。このような場合、例えば別途導電性の塗膜を設けたり(特許文献1参照)、コーティング組成物中にあらかじめ帯電防止剤を添加したりする手段が行われている。
【0005】
しかし、別途導電性の塗膜を設ける手段では作業性が低下するという問題があった。また、コーティング組成物中に帯電防止剤を添加する手段では、塗膜中において金属アルコキシドから得られる成分以外の成分が増加することにより、透明性等の光学特性や耐擦傷性等の塗膜物性が低下してしまうという問題があった。
【0006】
これら問題を解決するものとして、本発明者は金属アルコキシドを加水分解する際の触媒として、相手カチオンにH+を含むヘテロポリ酸(フリーアシッド型ヘテロポリ酸)を使用することにより、別途導電性の塗膜を設けたり、帯電防止剤を添加することなく、ゾルゲル法で得られた塗膜に帯電防止性を付与する技術を提案している(特許文献2)。
【0007】
【特許文献1】特開2004−118145号公報(請求項1、段落番号0051)
【特許文献2】特願2004−223070号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献2は確かに上記問題を解決できるものであるが、塗膜中にフリーアシッド型ヘテロポリ酸が固定化されておらず、フリーアシッド型ヘテロポリ酸が塗膜中からブリードアウトするおそれがあり、帯電防止性能を長期的に維持しにくいという問題があった。
【0009】
そこで本発明は、別途導電性の塗膜を設けたり、帯電防止剤を添加することなく帯電防止性を付与することができ、かつ帯電防止性を長期的に維持できる透明導電膜を形成可能なコーティング組成物を提供することを目的とする。また、本発明は、光学特性や耐擦傷性に優れるとともに、帯電防止性を長期的に維持できる透明導電膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成する本発明のコーティング組成物は、金属アルコキシドを触媒の作用により加水分解してなるゾルを含むコーティング組成物であって、前記触媒として、骨格構成原子の一部を欠損させたヘテロポリ酸塩の欠損部位に、金属アルコキシドの加水分解物を導入してなる修飾フリーアシッド型ヘテロポリ酸(以下、単に「修飾フリーアシッド型ヘテロポリ酸」という場合もある)を用いてなることを特徴とするものである。
【0011】
また、本発明のコーティング組成物は、前記修飾フリーアシッド型ヘテロポリ酸として一般式(1)で示される修飾フリーアシッド型ヘテロポリ酸を用いてなることを特徴とするものである。
m[X(YOH)ab]・nH2O ・・・(1)
[式中、Xは骨格構成原子の一部を欠損させたヘテロポリアニオンであり、YはSi、Ti、Al、Zrから選ばれる何れか1種の原子であり、mは1以上の整数であって一般式(1)中の[X(YOH)ab]から決定される負電荷の絶対値であり、nは1以上の整数である。また、aは1又は2であり、bはaが1のとき0、aが2のとき1である。]
【0012】
また、本発明の透明導電膜は、前記コーティング組成物から形成されてなることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明のコーティング組成物は、修飾フリーアシッド型ヘテロポリ酸が、金属アルコキシドを加水分解する際の触媒として機能するとともに、イオン伝導型の帯電防止剤として機能することから、別途導電性の塗膜を設けたり、帯電防止剤を添加したりすることなく、得られる塗膜に帯電防止性を付与することができる。したがって、塗膜を得る際の作業性を良好なものとし、得られる塗膜は光学特性や塗膜物性が損なわれることもない。
【0014】
さらに、本発明のコーティング組成物は、修飾フリーアシッド型ヘテロポリ酸を用いていることから、当該ヘテロポリ酸の金属アルコキシドの加水分解物が導入された部分と、金属アルコキシド及び/又は金属アルコキシドの加水分解物との間で縮合反応が生じ、修飾フリーアシッド型ヘテロポリ酸を固定化させることができる。これにより、修飾フリーアシッド型ヘテロポリ酸が塗膜からブリードアウトすることなく、帯電防止性を長期的に維持することができる。
【0015】
このようなコーティング組成物により形成される本発明の透明導電膜は、透明性に優れつつ帯電防止性を有し、かつ帯電防止性を長期的に維持できるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
まず、本発明のコーティング組成物について説明する。本発明のコーティング組成物は、金属アルコキシドを触媒の作用により加水分解してなるゾルを含むコーティング組成物であって、前記触媒として、骨格構成原子の一部を欠損させたヘテロポリ酸塩の欠損部位に、金属アルコキシドの加水分解物を導入してなる修飾フリーアシッド型ヘテロポリ酸を用いてなることを特徴とするものである。以下、各構成要素の実施の形態について説明する。
【0017】
金属アルコキシドは、ゾルゲル法により塗膜を得るための出発原料として使用されるものである。金属アルコキシドを用いてゾルゲル法により得られる塗膜は、透明性を有するものである。
【0018】
金属アルコキシドとしては、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ジルコニアプロポキシド、アルミニウムイソプロポキシド、チタンブトキシド、チタンイソプロポキシドなどの多官能金属アルコキシドを用いることができる。これら金属アルコキシドは、用途に応じて適宜選択して使用することができる。例えば、高透明の塗膜を得たい場合には、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン等のアルコキシシランが好適に使用される。
【0019】
このような金属アルコキシドは、加水分解されてゾルとなる。加水分解の際は、触媒として主として塩酸が使用されるが、本発明では、骨格構成原子の一部を欠損させたヘテロポリ酸塩の欠損部位に、金属アルコキシドの加水分解物を導入してなる修飾フリーアシッド型ヘテロポリ酸を使用する。
【0020】
本発明で使用する修飾フリーアシッド型ヘテロポリ酸は、相手カチオンがすべてH+であるため、金属アルコキシドを加水分解してゾルを調整する際の触媒として機能することができるとともに、イオン伝導型の帯電防止剤として機能し、コーティング組成物から形成される塗膜に帯電防止性を付与することができる。また、本発明で使用する修飾フリーアシッド型ヘテロポリ酸は、骨格構成原子の欠損部分に金属アルコキシドの加水分解物が導入されていることから、当該加水分解物が導入された部分と、金属アルコキシド及び/又は金属アルコキシドの加水分解物との間で縮合反応が生じ、修飾フリーアシッド型ヘテロポリ酸を固定化させることができる。これにより、修飾フリーアシッド型ヘテロポリ酸が塗膜からブリードアウトすることなく、帯電防止性を長期的に維持することができる。
【0021】
修飾フリーアシッド型ヘテロポリ酸としては、例えば、一般式(1)で示されるものがあげられる。
m[X(YOH)ab]・nH2O ・・・(1)
[式中、Xは骨格構成原子の一部を欠損させたヘテロポリアニオンであり、YはSi、Ti、Al、Zrから選ばれる何れか1種の原子であり、mは1以上の整数であって一般式(1)中の[X(YOH)ab]から決定される負電荷の絶対値であり、nは1以上の整数である。また、aは1又は2であり、bはaが1のとき0、aが2のとき1である。]
【0022】
一般式(1)中のXは骨格構成原子の一部を欠損させたヘテロポリアニオンを示す。このようなヘテロポリアニオンとしては、P21761、PW1139、γ−PW1036、SiW1139、γ−SiW1036、GeW1139などがあげられる。
【0023】
一般式(1)中の(YOH)abの部分は、金属アルコキシドの加水分解物を示している。この部分に残存する水酸基が金属アルコキシド及び/又は金属アルコキシドの加水分解物との間で縮合反応を起こし、修飾フリーアシッド型ヘテロポリ酸を担体に固定化することができる。(YOH)abの部分は具体的には、(SiOH)2O、(TiOH)、(AlOH)、(ZrOH)などがあげられる。これらの中でも、(SiOH)2Oは水酸基を二つ有することから、金属アルコキシド及び/又は金属アルコキシドの加水分解物との間で縮合反応を起こす際に架橋構造をとることができ、耐擦傷性や耐溶剤性をより向上させることができる点で好ましい。
【0024】
また、一般式(1)で示すように、一般式(1)のヘテロポリアニオンの相手カチオンはH+となっている。このように相手カチオンをH+としたフリーアシッド型のヘテロポリ酸とすることにより、触媒活性や帯電防止性能を良好にすることができる。
【0025】
このような修飾フリーアシッド型ヘテロポリ酸は、骨格構成原子の一部を欠損させたヘテロポリ酸塩の欠損部位に、金属アルコキシドの加水分解物を導入することにより得ることができる。
【0026】
具体的には、まず水とアルコール中に金属アルコキシドが溶解した溶液に、別途合成したK10[P21761]などのヘテロポリ酸塩の欠損種を化学量論だけ加えて攪拌する。次いで、塩酸で溶液のpHを3以下程度に調整する。この作業により、反応系中で金属アルコキシドが加水分解され、当該加水分解物が、骨格構成原子の一部を欠損させたヘテロポリ酸塩の欠損部分に導入される。次いで、得られた溶液を陽イオン交換樹脂が充填されたカラムに通過させることにより、相手カチオンがすべてH+に置換され、修飾フリーアシッド型ヘテロポリ酸を得ることができる。このようにして得られた修飾フリーアシッド型ヘテロポリ酸は、当該物質の生成を反応系中で確認後溶液状態のまま用いてもよいし、溶媒を除去後固体として用いてもよい。
【0027】
骨格構成原子の一部を欠損させたヘテロポリ酸塩は、既知文献を参照することにより得ることができる。例えば、R.Contant,Inorg.Synth.,27,104,1990.(アメリカ)。
【0028】
修飾フリーアシッド型ヘテロポリ酸の使用量は、種類により異なるので一概にはいえないが、金属アルコキシドに対して修飾フリーアシッド型ヘテロポリ酸のH+を、3.0×10-2〜3.0×10-1のモル比で用いることが好ましい。モル比を3.0×10-2以上とすることにより、塗膜に十分な帯電防止性を付与することができ、モル比を3.0×10-1以下とすることにより、コーティング組成物から形成される塗膜がもろくなるのを防止することができる。また、修飾フリーアシッド型ヘテロポリ酸の含有率がこのような範囲であれば、金属アルコキシドを加水分解する触媒としても十分に機能することができる。
【0029】
金属アルコキシドに修飾フリーアシッド型ヘテロポリ酸を作用させて加水分解するには、塩酸を作用させて加水分解する際と同様の条件下で行えばよい。例えば、金属アルコキシドおよび修飾フリーアシッド型ヘテロポリ酸に、水、アルコールを添加してなる組成物を室温で24時間攪拌することにより、金属アルコキシドが加水分解されゾルが調整される。
【0030】
本発明のコーティング組成物においては、修飾フリーアシッド型ヘテロポリ酸の金属アルコキシドの加水分解物が導入された部分と、金属アルコキシド及び/又は金属アルコキシドの加水分解物との間で縮合反応を生じさせることにより、修飾フリーアシッド型ヘテロポリ酸を固定化させることができる。この縮合反応は、修飾フリーアシッド型ヘテロポリ酸と、金属アルコキシド及び/又は金属アルコキシドの加水分解物とが混合されていれば常温でも反応が進行するが、室温〜70℃程度に加熱することで反応速度を速めることができる。反応時間は、加熱下で2〜24時間程度である。したがって、上述した加水分解反応と同時に進行させることが可能である。
【0031】
一般式(2)は、骨格構成原子の一部を欠損させたヘテロポリ酸塩の欠損部位に、金属アルコキシドであるテトラエトキシシランの加水分解物を導入してなる修飾フリーアシッド型ヘテロポリ酸が、担体となる金属アルコキシド(テトラエトキシシラン)の加水分解物に固定化されてなる化合物の一部分を示している。一般式(2)中において、Xは骨格構成原子の一部を欠損させたヘテロポリアニオンである。一般式(2)に示すように、Si−O−Si結合により、フリーアシッド型ヘテロポリ酸が担体となる金属アルコキシドの加水分解物に固定化されていると考えられる。なお、一般式(2)は全体の一部分であり、実際は金属アルコキシドの加水分解物が縮合してさらに連なった状態になっている。
【0032】
【化1】

【0033】
コーティング組成物の形態は特に限定されるものではないが、溶媒により希釈され塗液化されているものが好ましい。溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、アセトン、1,4−ジオキサン、水などがあげられる。
【0034】
以上のような本発明のコーティング組成物は、修飾フリーアシッド型ヘテロポリ酸が、金属アルコキシドを加水分解する際の触媒として機能するとともに、イオン伝導型の帯電防止剤として機能することから、得られた塗膜に帯電防止性を付与することができる。また、本発明で使用する修飾フリーアシッド型ヘテロポリ酸は、骨格構成原子の欠損部分に金属アルコキシドの加水分解物が導入されていることから、当該加水分解物が導入された部分と、金属アルコキシド及び/又は金属アルコキシドの加水分解物との間で縮合反応が生じ、修飾フリーアシッド型ヘテロポリ酸を固定化させることができる。これにより、修飾フリーアシッド型ヘテロポリ酸が塗膜からブリードアウトすることなく、帯電防止性を長期的に維持することができる。
【0035】
一方、別途導電性の薄膜を設けたり、コーティング組成物中にあらかじめ帯電防止剤を添加しても、コーティング組成物から得られた塗膜に帯電防止性を付与することはできる。しかし、別途導電性の薄膜を設ける手段では作業性が低下してしまう。また、コーティング組成物中に帯電防止剤を添加する手段では、塗膜中において金属アルコキシドから得られる成分以外の成分が増加することにより、透明性等の光学特性や耐擦傷性等の塗膜物性が損なわれてしまう。また、固定化できないフリーアシッド型ヘテロポリ酸を触媒として用いた場合には、フリーアシッド型ヘテロポリ酸がブリードアウトするおそれがあり、帯電防止性能を長期的に維持することができない。
【0036】
次に、本発明の透明導電膜について説明する。
【0037】
本発明の透明導電膜は、上述した本発明のコーティング組成物(金属アルコキシドを修飾フリーアシッド型ヘテロポリ酸の作用により加水分解してなるゾルを含むコーティング組成物)から形成されてなるものである。具体的には、上述した本発明のコーティング組成物を、基材上に塗布、乾燥して、ゾル中の成分を脱水縮合して塗膜化(ゲル化)することにより得ることができる。
【0038】
基材は用途に応じて選択されるため特に制限されるものではないが、例えばポリエステルフィルム、アクリルフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、ポリスチレンフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリプロピレンフィルム、トリアセチルセルロースフィルム、各種フッ素系樹脂フィルムなどのプラスチックフィルムの他、プラスチック板、ガラス板などがあげられる。基材の厚みは特に限定されるものではないが、取り扱い性などの観点から5〜300μmのものが好適に使用される。
【0039】
基材にコーティング組成物を塗布する手段としては、例えば、バーコーター法、ロールコーター法、カーテンフロー法などの公知の塗布方法があげられる。
【0040】
コーティング組成物の乾燥条件は通常80〜150℃で1〜5分程度である。
【0041】
透明導電膜の厚みは用途により異なるので一概にはいえない。例えば、反射防止膜として用いる場合には、透明導電膜の厚みは、光の反射防止理論より次式(3)を満たすことが好ましい。
d=(a+1)λ/4n ・・・(3)
ここで、dは透明導電膜の厚み(単位は「nm」)、aは0又は正の偶数、λは特定波長(単位は「nm」)、nは透明導電膜の屈折率である。
【0042】
基材と透明導電膜との間には、基材と透明導電膜との接着性を向上させるために、下引き層を設けたり、コロナ放電処理などしてもよい。下引き層は、例えば、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂などから形成される。
【0043】
また、基材上の透明導電膜を有する面とは反対側の面には、被着体に貼着するための接着剤層、セパレータを有していてもよい。
【0044】
以上のような本発明の透明導電膜は、塗膜中に含まれる修飾フリーアシッド型ヘテロポリ酸が固定化されていることから、透明性に優れつつ長期に渡って帯電防止性を維持できるものであり、例えば、反射防止膜、表面保護膜などとして利用することができる。
【実施例】
【0045】
以下、実施例により本発明を更に説明する。なお、「部」、「%」は特に示さない限り、重量基準とする。
【0046】
[実施例1]
1.修飾物製造工程
(1)ヘテロポリ酸塩の欠損部位への加水分解物の導入、イオン交換
テトラエトキシシラン0.42g(2mmol)をH2O/EtOH=50/50mLの混合溶媒に溶解させた。5分間攪拌後、文献(R.Contant,Inorg.Synth.,27,104,1990)に従い合成した一欠損Dawson型タングストポリ酸塩K10[P21761]・19H2Oを5.0g(1mmol)加えてしばらく攪拌した。次いで、1M塩酸を用いて溶液のpHを1.8に調整して30分間攪拌した。このとき反応溶液は白色懸濁から淡黄色懸濁液に変化した。次いで、不溶物をろ過により取り除いた溶液をH+でチャージされたイオン交換樹脂(アンバーライト120NBA:ローム・アンド・ハース社)に通薬した。使用したイオン交換樹脂の量は100mL、通薬速度はSV4とした。次いで、通薬後の溶液をナスフラスコに移しロータリーエバポレーターを使用して溶媒を取り除き、黄色粉体の化合物aを得た。次いで、析出した粉体を回収して一晩真空乾燥した。得られた化合物aの収量は3.18gであった。
【0047】
(2)構造解析
得られた化合物aについてFT−IRおよびNMRの測定を行った。結果を以下に示す。
<FT−IR(ATR法)>
3381m,2113w,1612m,1083s,953s,903s,684s cm-1
31P NMR>
(19.9℃、D2O):δ−10.0,−13.2ppm
【0048】
以上の分析結果から、化合物aは、骨格構成原子の一部を欠損させたヘテロポリ酸塩であるK10[P21761]・19H2Oの欠損部位に、金属アルコキシドであるテトラエトキシシランの加水分解物が導入されてなる修飾フリーアシッド型へテロポリ酸H6[P21761(SiOH)2O]の水和物であること、およびこの修飾フリーアシッド型ヘテロポリ酸の構造を保つ単一種として得られていることが確認された。
【0049】
2.実施例1のコーティング組成物、および透明導電膜の形成
テトラエトキシシラン5部、水2.5部、エタノール5.1部、触媒(化合物a)1.5部からなる混合液を、25℃で24時間攪拌してテトラエトキシシランを加水分解し、母液Aを得た。この段階で担体となるテトラエトキシシランの加水分解物と、化合物a(修飾フリーアシッド型ヘテロポリ酸)との間で縮合反応が生じ、修飾フリーアシッド型ヘテロポリ酸が担体に固定化された状態となっている。
【0050】
次いで、5.0部の母液Aに対し、イソプロピルアルコール、n−ブタノール、シクロヘキサノンをそれぞれ4.0部、5.0部、1.0部添加して希釈し、希釈液A’(コーティング組成物)を得た。次いで、厚み100μmのポリエステルフィルム上に、希釈液A’をバーコーター法で塗布し、100℃で3分間加熱して、加水分解物を脱水縮合して透明導電膜を形成し、実施例1の透明導電性シートを得た。
【0051】
実施例1で得られた透明導電性シートを用い、JIS K6911:1995に基づき、透明導電性シートの表面抵抗を測定し表面抵抗率を算出した。測定は、透明導電性シートを水に浸漬していないもの、水に1時間浸漬後のもの、15時間浸漬後のもの、60時間浸漬後のものについて行った。測定結果は、順に、3.9×108Ω/□、4.9×108Ω/□、5.3×108Ω/□、6.6×108Ω/□であった。
【0052】
[実施例2]
1.修飾物製造工程
(1)ヘテロポリ酸塩の欠損部位への加水分解物の導入、イオン交換
Al(OEt)3 0.162g(1mmol)を純水40mLに分散させ、1M塩酸を用いて溶液のpHを1.5に調整した。得られた無色透明溶液に、実施例1と同様の一欠損Dawson型タングストポリ酸塩K10[P21761]・19H2Oを5.0g(1mmol)加えて1時間攪拌した。ひだ折ろ紙を用いて未反応のポリ酸塩を除去後、過剰量のMe2NH2Cl 5.5g(67.5mmol)を加えて白色粉体を得た。
【0053】
得られた粉体をエタノール、ジエチルエーテルで洗浄後充分吸引乾燥させた。この粉体3.0gを純水5mLに分散させ、実施例1と同様のイオン交換樹脂5gを加えてカチオン交換した。ろ過によりイオン交換樹脂を取り除き得られたろ液に再び実施例1と同様のイオン交換樹脂を5g添加した。次いで、イオン交換樹脂をろ別した後、得られた淡黄色溶液を凍結乾燥させて、化合物bを得た。化合物bの収量は2.3gであった。
【0054】
(2)構造解析
得られた化合物bについてFT−IRおよびNMRの測定を行った。結果を以下に示す。
<FT−IR(ATR法)>
1095m,966m,899m,735m cm-1
31P NMR>
(19.2℃、D2O):δ−10.5,−13.1ppm
【0055】
以上の分析結果から、化合物bは、骨格構成原子の一部を欠損させたヘテロポリ酸塩であるK10[P21761]・19H2Oの欠損部位に、金属アルコキシドであるAl(OEt)3の加水分解物が導入されてなる修飾フリーアシッド型へテロポリ酸H8[P21761(AlOH)]の水和物であること、およびこの修飾フリーアシッド型ヘテロポリ酸の構造を保つ単一種として得られていることが確認された。
【0056】
[実施例3]
1.修飾物製造工程
(1)ヘテロポリ酸塩の欠損部位への加水分解物の導入、イオン交換
Si(OEt)4 0.14g(0.6mmol)を純水/エタノール=12/6mLの混合溶媒に溶解させた。5分間攪拌後、実施例1と同様の文献に従い合成した一欠損Keggin型タングストポリ酸塩K7[PW1139]・12H2Oを1.0g(0.3mmol)加えてしばらく攪拌した。次いで、1M塩酸を用いて溶液のpHを1.5に調整し30分間攪拌した。次に、実施例1と同様のイオン交換樹脂20gを加えてゆっくりと攪拌した。次いで、イオン交換樹脂をろ別した後、ナスフラスコに移しロータリーエバポレーターを使用してエタノールを取り除き、残った水を凍結乾燥により除去し黄色粉体の化合物cを得た。化合物cの収量は0.64gであった。
【0057】
(2)構造解析
得られた化合物cについてFT−IRおよびNMRの測定を行った。結果を以下に示す。
<FT−IR(ATR法)>
1077m,970m,883m,707s cm-1
31P NMR>
(18.9℃、D2O):δ−13.7ppm
【0058】
以上の分析結果から、化合物cは、骨格構成原子の一部を欠損させたヘテロポリ酸塩であるK7[PW1139]・12H2Oの欠損部位に、金属アルコキシドであるSi(OEt)4 の加水分解物が導入されてなる修飾フリーアシッド型へテロポリ酸H3[PW1139(SiOH)2O]の水和物であること、およびこの修飾フリーアシッド型ヘテロポリ酸の構造を保つ単一種として得られていることが確認された。
【0059】
[実施例4]
1.修飾物製造工程
(1)ヘテロポリ酸塩の欠損部位への加水分解物の導入、イオン交換
Al(OEt)20.05g(0.3mmol)を純水/エタノール=12/6mLの混合溶媒に分散させた。5分間攪拌後、実施例3と同様の一欠損Keggin型タングストポリ酸塩K7[PW1139]・12H2Oを1.0g(0.3mmol)加えてしばらく攪拌した。次いで、1M塩酸を用いて溶液のpHを1.5に調整し30分間攪拌した。次に、実施例1と同様のイオン交換樹脂20gを加えてゆっくりと攪拌した。次いで、イオン交換樹脂をろ別した後、ナスフラスコに移しロータリーエバポレーターを使用してエタノールを取り除き、残った水を凍結乾燥により除去し黄色粉体の化合物dを得た。化合物dの収量は0.65gであった。
【0060】
(2)構造解析
得られた化合物dについてFT−IRおよびNMRの測定を行った。結果を以下に示す。
<FT−IR(ATR法)>
1079m,1034w,978m,887m,720s cm-1
31P NMR>
(18.6℃、D2O):δ−13.7ppm
【0061】
以上の分析結果から、化合物dは、骨格構成原子の一部を欠損させたヘテロポリ酸塩であるK7[PW1139]・12H2Oの欠損部位に、金属アルコキシドであるAl(OEt)2 の加水分解物が導入されてなる修飾フリーアシッド型へテロポリ酸H5[PW1139(AlOH)]の水和物であること、およびこの修飾フリーアシッド型ヘテロポリ酸の構造を保つ単一種として得られていることが確認された。
【0062】
<実施例2〜4、比較例1、2のコーティング組成物、および透明導電膜の形成>
化合物aの代わりに化合物b、c、d(実施例2〜4)、およびH3[PW1240](比較例1)、1M塩酸(比較例2)を用いて、表1の処方とした以外は実施例1と同様にして、母液B〜Fを作製した。なお、実施例1の母液Aの処方も合わせて表1に示す。また、表1中のH+/テトラエトキシシラン(mol)の値については、すべて8.8×10-2である。
【0063】
次いで、母液Aの代わりに母液B〜Fを用いて、表2の処方とした以外は実施例1と同様にして、希釈液B’〜F’(コーティング組成物)を作製し透明導電膜を形成して、実施例2〜4、および比較例1、2の透明導電性シートを作製した。なお、実施例1の希釈液A’の処方も合わせて表2に示す。
【0064】
【表1】

【0065】
【表2】

【0066】
[実施例5]
1.修飾物製造工程、コーティング組成物、および透明導電膜の形成
Si(OEt)4 0.42g(2mmol)を純水/エタノール=50/50mLに分散させ、実施例1と同様の一欠損Dawson型タングストポリ酸塩K10[P21761]・19H2Oを5.0g(1mmol)加えた。1M塩酸を用いて溶液のpHを1.5に調整し、1時間攪拌した。この溶液に実施例1と同様のイオン交換樹脂50gを加え、ゆっくりと攪拌した。イオン交換樹脂をろ別した後、Si(OEt)4 14.2gを加えて25℃で一晩ゾルゲル反応を進行させ、コーティング組成物Gが得られた。
【0067】
コーティング組成物Gを希釈液A’の代わりに用いた以外は実施例1と同様にして、透明導電膜を形成して、実施例5の透明導電性シートを作製した。
【0068】
[実施例6]
1.修飾物製造工程、コーティング組成物、および透明導電膜の形成
Al(OEt)3 0.162g(1mmol)を純水40mLに分散させて、1M塩酸を用いて溶液のpHを1.5に調整した。得られた無色透明溶液に、実施例1と同様の一欠損Dawson型タングストポリ酸塩K10[P21761]・19H2Oを5.0g(1mmol)加えて1時間攪拌した。この溶液に実施例1と同様のイオン交換樹脂50gを加え、ゆっくりと攪拌した。イオン交換樹脂をろ別した後、Si(OEt)4 18.5gを加えて25℃で一晩ゾルゲル反応を進行させ、コーティング組成物Hが得られた。
【0069】
コーティング組成物Hを希釈液A’の代わりに用いた以外は実施例1と同様にして、透明導電膜を形成して、実施例6の透明導電性シートを作製した。
【0070】
<表面抵抗率の算出>
実施例2〜6、および比較例1、2で得られた透明導電性シートを用い、実施例1と同様にして表面抵抗を測定し表面抵抗率を算出した。測定は、透明導電性シートの作製直後(水に浸漬していないもの)について行なった。また、比較例1の透明導電性シートについては、水に15時間浸漬後の測定も行なった。結果を表3に示す。また実施例1の結果についても合わせて表3に示す。なお、表3中の単位は、Ω/□である。
【0071】
【表3】

【0072】
<ブリードアウト試験>
透明導電膜からのブリードアウトを調べるため、モデル実験として被表面積を増やすため粉体を用いて以下のようなブリードアウト試験を行なった。
【0073】
まず、実施例1〜6、および比較例1、2で得られた加水分解溶液(母液A〜F、コーティング組成物G、H)の溶媒を、70℃、3時間加熱した後、160℃、5時間加熱して粉体(加水分解物)を取り出した。得られた粉体(加水分解物)が純水に溶出しないか確認する為、得られた粉体を20mLの純水に3日間浸して、上澄み溶液のpHをpH試験紙を用いて調べた。結果を表4に示す。
【0074】
【表4】

【0075】
表3より、実施例1〜6のものは、水に浸漬前の状態で帯電防止性を有しており、実施例1のものは水に15時間浸漬後、帯電防止性が殆ど低下しないものであった。また、表4より、実施例1〜6のものは、水に浸漬後、上澄み溶液のPHが中性付近を示している。これらの結果は、実施例のものは、修飾フリーアシッド型ヘテロポリ酸がテトラエトキシシランの加水分解物と縮合反応を起こし固定化されていることから、水に浸漬しても修飾フリーアシッド型ヘテロポリ酸がシリカ担体から殆どブリードアウトしていないこと、すなわち透明導電膜から殆どブリードアウトしていないことを示している。特に、実施例1のものは、修飾フリーアシッド型ヘテロポリ酸の加水分解物が導入された部分として(SiOH)2Oを用いていることから、テトラエトキシシランの加水分解物との間で縮合反応を起こす際に架橋構造をとることができ、透明導電膜の耐擦傷性や耐溶剤性に極めて優れるものであった。
【0076】
一方、比較例1のものは、表3より、水に浸漬前の状態で帯電防止性を有しているが、水に15時間浸漬後は帯電防止性が著しく低下したものとなった。また表4より、水に浸漬後、PHが酸性を示している。この結果は、比較例1のものは、無置換のフリーアシッド型ヘテロポリ酸がテトラエトキシシランの加水分解物と縮合反応をしていないため、担体に固定化されていないことから、水に浸漬すると無置換のフリーアシッド型ヘテロポリ酸がシリカ担体からブリードアウトしてしまうこと、すなわち透明導電膜からブリードアウトしてしまうことを示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属アルコキシドを触媒の作用により加水分解してなるゾルを含むコーティング組成物であって、前記触媒として、骨格構成原子の一部を欠損させたヘテロポリ酸塩の欠損部位に、金属アルコキシドの加水分解物を導入してなる修飾フリーアシッド型ヘテロポリ酸を用いてなることを特徴とするコーティング組成物。
【請求項2】
前記修飾フリーアシッド型ヘテロポリ酸として一般式(1)で示される修飾フリーアシッド型ヘテロポリ酸を用いてなることを特徴とする請求項1記載のコーティング組成物。
m[X(YOH)ab]・nH2O ・・・(1)
[式中、Xは骨格構成原子の一部を欠損させたヘテロポリアニオンであり、YはSi、Ti、Al、Zrから選ばれる何れか1種の原子であり、mは1以上の整数であって一般式(1)中の[X(YOH)ab]から決定される負電荷の絶対値であり、nは1以上の整数である。また、aは1又は2であり、bはaが1のとき0、aが2のとき1である。]
【請求項3】
請求項1又は2記載のコーティング組成物から形成されてなることを特徴とする透明導電膜。

【公開番号】特開2007−231259(P2007−231259A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−21928(P2007−21928)
【出願日】平成19年1月31日(2007.1.31)
【出願人】(000125978)株式会社きもと (167)
【Fターム(参考)】