説明

コーヒー飲料の製造法

【課題】コーヒー飲料の加熱保存中における耐熱性細菌胞子の発芽、増殖を抑制し、しかも長期にわたって乳化安定性の良いコーヒー飲料の製造法の提供を課題とした。
【解決手段】 本発明者らは鋭意研究を行った結果、ポリグリセリンパルミチン酸エステルを配合することによりコーヒー飲料の加熱保存中における耐熱性細菌胞子の発芽、増殖を抑制し、しかも長期にわたって乳化安定性の良いコーヒー飲料を製造することができることを見出し本発明を完成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高温保存中の耐熱性細菌胞子の発芽、増殖を抑制し、しかも長期にわたって乳化安定性の良いコーヒー飲料の製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
コーヒー飲料には乳成分を含有するものとしないものがあるが、市場では乳成分を含有するものが大半をしめている。乳成分を含有するコーヒー飲料はコーヒー水性抽出物と、砂糖、ブドウ糖などの糖類、脱脂粉乳、全脂粉乳、牛乳などの乳成分からなり、缶などの容器に入れた形態で広く市販されている。しかし、乳成分を含むコーヒー飲料は長期保存によって、乳成分の凝集による油の分離や固形物の発生、さらには浮遊物を生成してネックリングを形成するなどの問題がある。
【0003】
また、コーヒー飲料は通常レトルト加熱滅菌が施されるが、乳成分を含有する製品においては、通常の滅菌条件では耐熱性芽胞菌の胞子が残存する場合がある。耐熱性芽胞菌は常温保存時の生育性は無く品質上の問題は生じないが、冬季の飲食のために自動販売機で45〜65℃に加温状態で保存される場合には、耐熱性芽胞菌が発芽し腐敗を生じることがある。このような耐熱性芽胞菌を完全に死滅させるには、滅菌温度をさらに高くして行う方法もあるが、食品の物理的、化学的性質に悪影響を与えてしまい、風味的にも嗜好性を満足しないものとなり、食品としての価値が低下してしまうために、滅菌温度を一定温度以上に上げることは好ましくない。
【0004】
このような安定性の向上のためにショ糖脂肪酸エステルを使用する方法やショ糖脂肪酸エステルとポリグリセリン脂肪酸エステルを併用する方法があるが(特許文献1、2参照)、多量のショ糖脂肪酸エステルを添加することによって耐熱性細菌胞子の発芽、増殖による品質の劣化は防止できるが、エステルのエグ味等の味が表に出てきて飲料の風味を損なうという問題がある。
【0005】
脂肪酸がラウリン酸またはミリスチン酸からなるポリグリセリン脂肪酸エステルとクエン酸モノグリセライドを併用する方法(特許文献3参照)やジグリセリン脂肪酸モノエステルを用いる方法(特許文献4参照)が提案されているが、これらの方法では耐熱性細菌胞子の発芽、増殖防止には効果が見られるが、乳成分の凝集による油の分離や固形物の発生を防ぐ効果に欠けるという問題点を有している。
【特許文献1】特公昭62−33860号公報
【特許文献2】特公昭62−215345号公報
【特許文献3】特許 第2538496号公報
【特許文献4】特許 第2965484号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、コーヒー飲料の加熱保存中における耐熱性細菌胞子の発芽、増殖を抑制し、しかも長期にわたって乳化安定性の良いコーヒー飲料の製造法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、ポリグリセリンパルミチン酸エステルを配合することによりコーヒー飲料の加熱保存中における耐熱性細菌胞子の発芽、増殖を抑制し、しかも長期にわたって乳化安定性の良いコーヒー飲料を製造することができることを見出し、本発明を完成した。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、加熱保存中における耐熱性細菌胞子の発芽、増殖を抑制し、それらの菌に由来するフラットサワー変敗を防止し、しかも長期にわたって乳化安定性の良いコーヒー飲料が得られる。特に、コーヒー飲料を自動販売機により加温販売しても、耐熱性菌の発芽増殖による製品の変敗を防止することができ、しかも内容液の分離などの品質の劣化を生じることが無い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明について詳述する。
本発明に用いるポリグリセリンパルミチン酸エステルはグリセリンの重合度が2以上のポリグリセリンのパルミチン酸のエステルであり、エステル化度が異なるものの混合物であり、その脂肪酸の85質量%以上がパルミチン酸であることが好ましい。またポリグリセリンの重合度は4以上のポリグリセリンであることが好ましく、さらに好ましくは、グリセリン、ジグリセリンおよびトリグリセリンの合計含量が5%以下のデカグリセリン以上の重合度のポリグリセリンであることがより好ましい。
本発明に用いるポリグリセリンパルミチン酸エステルはHLBが14以上であり、HLBが15以上であるものが好ましい。
本発明のポリグリセリンパルミチン酸エステルは通常の方法で作ることができるが、原料として用いるデカグリセリンやそれ以上の重合度のポリグリセリンを分子蒸留や短工程蒸留を用いたり、膜によって低重合度のグリセリン、ジグリセリンおよびトリグリセリンを除いたものを構成脂肪酸の85%以上がパルミチン酸である脂肪酸を用いてエステル化を行うことによって作ることが出来る。エステル化を行うときに脂肪酸を少しずつ加えてジエステル以上のエステル化度が高いものの生成をおさえ、反応終了後に未反応のポリグリセリンを除去することによって作ることができる。
本発明のポリグリセリンパルミチン酸エステルの添加方法はコーヒー飲料に直接添加するか、水あるいは乳成分中に配合して添加してもよい。
本発明のポリグリセリンパルミチン酸エステルの添加量はコーヒー飲料に対し0.01〜1.0質量%、好ましくは0.01〜0.5質量%である。0.01%以下では本発明の効果が不十分であり、1.0%以上では風味に悪影響を与える恐れがある。
本発明のポリグリセリンパルミチン酸エステルにはソルビタン脂肪酸エステルやレシチンなどの可食性の乳化剤を併用することもできる。
【0010】
以下に実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【実施例1】
【0011】
HLB 15.5、脂肪酸の87%がパルミチン酸であり、グリセリン、ジグリセリンおよびトリグリセリンの合計含量が5%以下であるデカグリセリンを用いて作ったデカグリセリンモノパルミチン酸エステルを使用して次のようにコーヒー飲料を作った。
【0012】
コーヒー水抽出液 40g、水 320g、砂糖 40g、全脂粉乳 8g、デカグリセリンモノパルミチン酸エステル 0.4gをホモミキサーで70℃、7分間乳化して均一な乳化液を得た。
【0013】
120℃、20分間滅菌してガラス製飲料ビンにつめ50℃、30日放置後に外観観察したところ、粉乳の分離や凝集は認められなかった。また、耐熱性細菌の検出を標準培地で培養して行ったが菌の検出は見られなかった。
【実施例2】
【0014】
実施例1と同様な方法でコーヒー飲料を作成し、130℃、20分間の滅菌処理を行ったところ、外観の変化は認められず、耐熱性細菌の検出も見られなかった。
【実施例3】
【0015】
表1記載のポリグリセリン脂肪酸エステル 1g、牛乳 300g、脱脂粉乳 100g、砂糖 80g、コーヒーエキス 20g、水 500gを撹拌混合後、高圧ホモジナイザーで均質処理をした。これを気密性のある50g缶に充填した。120℃で30分間滅菌処理を行い、40℃に30日間保存した。この結果を表1に示す。
【0016】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0017】
本発明はポリグリセリンパルミチン酸エステルを配合することによりコーヒー飲料の加熱保存中における耐熱性細菌胞子の発芽、増殖を抑制し、しかも長期にわたって乳化安定性の良いコーヒー飲料を製造することができ、コーヒー飲料を自動販売機により加温販売しても、耐熱性菌の発芽増殖による製品の変敗を防止することができ、しかも内容液の分離などの品質の劣化を生じることが無いものを作ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コーヒー水性抽出液、乳成分、甘味料からなるコーヒー飲料にHLBが14以上であるポリグリセリンパルミチン酸エステルを配合することを特徴とする安定なコーヒー飲料の製造法。
【請求項2】
ポリグリセリンパルミチン酸エステルのパルミチン酸の全脂肪酸に占める含量が85質量%以上であるポリグリセリンパルミチン酸エステルであることを特徴とする請求項第1項記載のコーヒー飲料の製造法。
【請求項3】
ポリグリセリンパルミチン酸エステルのポリグリセリンがグリセリン、ジグリセリンおよびトリグリセリンの合計含量が5%以下であるポリグリセリンであることを特徴とする請求項1または2に記載のコーヒー飲料の製造法。

【公開番号】特開2007−252264(P2007−252264A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−79879(P2006−79879)
【出願日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【出願人】(000226437)日光ケミカルズ株式会社 (60)
【出願人】(000228729)日本サーファクタント工業株式会社 (44)
【出願人】(301068114)株式会社コスモステクニカルセンター (57)
【Fターム(参考)】