説明

ゴムクロ−ラ走行装置

【課題】ゴムクロ−ラ走行装置の安定性を改善し、土砂等の噛み込みも少なく、ゴムクロ−ラに欠けや亀裂が入りにくくなるというゴムクロ−ラ走行装置を提供する。
【解決手段】機体にスプロケット1、アイドラ−2、転輪3を備え、これらにゴムクロ−ラ10を巻き掛けしたゴムクロ−ラ走行装置であって、機体重量の加わらない無負荷時のゴムクロ−ラ10の厚さをT、機体重量が加わった負荷時のゴムクロ−ラ10の厚さをtとする時、スプロケット1及び/又はアイドラ−2の下面位置を、転輪3の下面位置よりも(T−t)だけ上方に変位させたゴムクロ−ラ走行装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はゴムクロ−ラ走行装置に関するものであり、ゴムクロ−ラの内周面に侵入した土砂等の排出を容易にし、かつ、機体前後方向の安定性を向上させた走行装置に係るものである。
【背景技術】
【0002】
機体に装着されたゴムクロ−ラにおいて、その内周面に土砂等が侵入することは避けられず、この土砂等をそのままスプロケットやアイドラ−が噛み込むことによって脱輪やゴムクロ−ラの内周面に亀裂が入ってしまうという現象が見られる。このため、スプロケットやアイドラ−を上方に変位させておき、ゴムクロ−ラの内周面を傾斜させて土砂等の排出を促すことが行われていた(特許文献1)。しかしながら、スプロケットやアイドラ−を上方に変位させて備え付けると、ゴムクロ−ラも又上方に変位することとなり、このため、ゴムクロ−ラの接地面積が少なくなってしまい、作業中に機体が前後に揺動する現象が起こり、機体の不安定性を招くこととなってしまう。
【0003】
【特許文献1】特開平10−044794号公報
【0004】
この点を改良せんとして、油圧シリンダ−等を用いてスプロケットやアイドラ−の位置を調整し、走行時に土砂の排出性を高め、かつ、作業中の機体の安定性を図る技術が提案されている(特許文献2)。かかる技術は、走行中の土砂等の排出性と作業時の機体の安定性の両立を狙ったものであるが、このための装備は複雑かつ高コストとなり、更には、軽量化という大目標に逆行するものでもあり、更なる改良が要請されていた。
【0005】
【特許文献2】特開平07−257445号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記した二つの課題を一挙に解決せんとするものであり、極く簡単な構造によりその目的を達成したものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記の課題を達成せんとするものであり、その要旨は、機体にスプロケット、アイドラ−、転輪を備え、これらにゴムクロ−ラを巻き掛けしたゴムクロ−ラ走行装置であって、機体重量の加わらない無負荷時のゴムクロ−ラの厚さをT、機体重量が加わった負荷時のゴムクロ−ラの厚さをtとする時、スプロケット及び/又はアイドラ−の下面位置を、転輪の下面位置よりも(T−t)だけ上方に変位させたことを特徴とするゴムクロ−ラ走行装置にかかるものである。
【0008】
採用されるゴムクロ−ラにあっては、芯金入りゴムクロ−ラでも芯金レスゴムクロ−ラであってもよく、好ましくは、スプロケットとアイドラ−ラは略同一外径であるゴムクロ−ラ走行装置である。
【発明の効果】
【0009】
本発明のゴムクロ−ラ走行装置によれば、前後方向の安定性が増え、例えば機体の掘削時の揺動が減少する効果がもたらされる。勿論、スプロケット及びアイドラ−への土砂等の噛み込みがなくなるため、ゴムクロ−ラにおけるゴム欠け、亀裂の発生が低減されることとなったものである。
【0010】
具体的には、請求項1の発明によれば、ゴムクロ−ラの内周面傾斜による走行時の土砂等の排出性の確保と、接地面増加による作業時(掘削等)の揺れの現象を同時に達成できると共に、複雑な装備を必要としないので、全体として重量増をなくし、かつ、構造を簡素化としたもので、このためのコストの増加を招くことがなくなったものである。
【0011】
ゴムクロ−ラが芯金レスの場合には特に圧縮による変形量を増すことができるため、適度な接地長さを維持しながら内周面の傾斜角度を増すことが可能となったもので、前記の効果がより増すこととなる。
【0012】
更に、機体上部が回転する建機の如く、スプロケットとアイドラ−が同径かつ上方への変位量が制限される機体にも用いることができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
従来のゴムクロ−ラ走行装置にあっては、装着されたゴムクロ−ラの前後を接地させず、やや上方に上げた状態で装着されており、ゴムクロ−ラの接地面に対して逃げ角度を設けている。これによって走行時のゴムクロ−ラの回転の容易性を維持しており、ゴムクロ−ラの内周面に侵入する土砂等の排出性をもたらしている。しかしながら、一方で、ゴムクロ−ラの接地面が短くなるため、機体が前後に不安定になり、特に掘削作業時には前後に機体が大きく揺動してしまっていた。
【0014】
本発明はゴムクロ−ラの走行性及びその内周側に侵入する土砂等の排出性を低下させず、掘削等の作業時の機体の安定性を確保せんとする提案であり、ゴムクロ−ラを使用する際に、機体重量によって転輪が接触する部位が圧縮されて沈み込む現象を高度に利用してゴムクロ−ラの外周面の接地する面を長く確保し、かつ、内周面に傾斜面を形成したものである。
【0015】
接地している部位のゴムクロ−ラは機体の重量が加わるため弾性変形し、無負荷の際のゴムクロ−ラの厚さTよりもその厚さが薄い状態(厚さt)となって走行に供される。勿論、機体の重量、ゴムクロ−ラの大きさ等によって異なるが、T−tは3〜10mm程度となる。本発明はこの差分T−tを利用して課題を解決したものである。
【0016】
具体的には、転輪の下面位置を基準とし、圧縮して変形する前のゴムクロ−ラの厚さTと圧縮変形後のゴムクロ−ラの厚さtの差分(T−t)だけスプロケット又はアイドラ−の少なくとも一方の下面位置を転輪の下面位置よりも上方に変位させて配置したものである。特に、芯金レスゴムクロ−ラの場合には、ゴムの圧縮による変形で内周面の傾斜面を形成しやすく、かつ、外周面の接地面が広くなるため、効果は大きいものとなる。
【実施例】
【0017】
以下、実施例及び比較例をもって本発明を更に詳細に説明する。図1は従来のゴムクロ−ラ走行装置を示す図であり、1はスプロケット、2はアイドラ−、3、3aは転輪であり、いずれも図示しない機体に備え付けられている。10はゴムクロ−ラであり、外周面にラグ11が形成されている。尚、ゴムクロ−ラ10にはその長手方向に図示しないスチ−ルコ−ドが埋設されている。
【0018】
そして、スプロケット1及びアイドラ−2は転輪3に対して下端を上方に変位させて備えられており、接地面との逃げ角度aを形成してある。従って、走行面に対してゴムクロ−ラ10の前後の部位は接地しない状態となっており、接地長さLは前後に位置する転輪3a、3a間に近い長さとなってしまう。これにより、ゴムクロ−ラの走行の面及びゴムクロ−ラの内周面に侵入する土砂等の排出の面では効果が認められるが、機体の安定性、特に作業中における揺動は抑えることは不可能である。
【0019】
図2は本発明のゴムクロ−ラ走行装置の部分拡大図である。前述したが、ゴムクロ−ラ10は機体の重量の負荷のために転輪3a、3a間では圧縮変形され、無負荷の状態のゴムクロ−ラ10の厚さTが圧縮変形によりその厚さがtとなって走行に供される。そして、ゴムクロ−ラ10が接地(走行)面より立ち上がった後は正常な厚さTとなる。本発明にあっては、スプロケット1及び/又はアイドラ−2に隣接する転輪3aとの間でこの厚さtからTへの開放を行い、これによって接地(走行)面に対してはラグ11が接する状態とし、スプロケット1及びアイドラ−2をT−t分だけ上方に位置させてゴムクロ−ラ10の内周面に傾斜面12を形成するものである。
【0020】
これによって、ゴムクロ−ラの接地長さは長くなって作業中の機体の安定化を図ることができ、走行中における土砂等の排出を容易としたものである。
【0021】
ゴムクロ−ラと接地面との逃げ角度について言えば、逃げ角度aを0度とする。そして、ゴムクロ−ラ内周面における逃げ角度bを設けるものであり、スプロケット1又はアイドラ−2と隣接する転輪3aとの間でT−t分の角度とするものである。例えば、スプロケット1と隣接する転輪3aとの水平方向の間隔L0とすれば、b=tan−1(T−t)/L0としたものである。
【0022】
ゴムクロ−ラ10の内周面の逃げ角度bは、スプロケット又はアイドラ−がゴムクロ−ラの機体重量による弾性変形の範囲内で転輪より上方に変位させたものであり、かかる角度(すなわち、a=0、b=tan−1(T−t)/L0)を設けることでゴムクロ−ラの外周側のラグはスプロケットとアイドラ−との間で常に接地するようになると同時に、ゴムクロ−ラ内周面に侵入した土砂等がかかる傾斜面12を形成したことによって転がり落ちスプロケットやアイドラ−に噛み込まれにくくなる効果をもたらすものである。
【0023】
(実験例)
機体重量3600kg、転輪個数4個、ゴムクロ−ラは芯金レスゴムクロ−ラであり、幅は300mm、スプロケット、アイドラ−と隣接する転輪の水平方向の間隔が460mmの走行装置をもって各実験を行った。実験例1、実験例2は従来のゴムクロ−ラ走行装置の例(比較例1、2)であり、実験例3は本発明のゴムクロ−ラ走行装置、実験例4は比較例3である。結果を表1に示す。
【0024】
【表1】

【0025】
先ず、機体の掘削時の揺れについては表1に示す通り(指数表示)であり、従来例(比較例1、2)におけるゴムクロ−ラ走行装置の場合には前後に大きく揺動することが分かる。これは接地面の逃げ角度aが大きいためである。一方、比較例3にあっては角度a及びbを0度したものであり、この場合にはゴムクロ−ラの有効長さが全て接地しているため揺動は極く小さいものとなる。しかしながら、土砂等の排出がほとんどなく噛み込み量が極めて多いことが分かる。
【0026】
さて、本発明にあっては、角度aは0度としたが、一方でゴムクロ−ラの内周面の逃げ角度bをもたせたものであり、しかもその逃げ角度bをゴムクロ−ラにかかる機体重量によって生ずる圧縮変形量から特定したものである。この例では角度bを0.5度としたものである。具体的数値で言えば、ゴムクロ−ラの圧縮変形量から、スプロケット又はアイドラ−の浮き上がり量を4mmとしたものである。この例にあっては、ゴムクロ−ラの外周面の浮き上がりはなく有効長さを全て接地したものである。従って、掘削時の機体の揺動は著しく低下し、ほぼ比較例3の場合と同様程度にまで改善されたものである。
【0027】
一方、ゴムクロ−ラの内周面に逃げ角度bを付与して傾斜面12を備えたことにより、土砂等の排出減少がもたらされ、スプロケットやアイドラ−による土砂等の噛み込みは改善されることとなったものである。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明のゴムクロ−ラ走行装置にあっては、機体の安定性を改善し、土砂等の噛み込みも少なく、ゴムクロ−ラに欠けや亀裂が入りにくくなるという優れた特徴をもたらすものであり、芯金入りは勿論であるが、特に芯金レスゴムクロ−ラ走行装置に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】図1は従来のゴムクロ−ラ走行装置である。
【図2】図2は本発明のゴムクロ−ラ走行装置の部分図である。
【符号の説明】
【0030】
1‥スプロケット、
2‥アイドラ−、
3、3a‥転輪、
10‥ゴムクロ−ラ、
11‥ラグ、
12‥ゴムクロ−ラ内周傾斜面、
a‥ゴムクロ−ラの接地面側逃げ角度、
b‥ゴムクロ−ラ内周面の逃げ角度、
L‥ゴムクロ−ラの接地長さ、
L0‥スプロケット(アイドラ−)と隣接する転輪との水平方向の間隔、
T‥未負荷時のゴムクロ−ラの厚さ、
t‥圧縮変形時のゴムクロ−ラの厚さ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
機体にスプロケット、アイドラ−、転輪を備え、これらにゴムクロ−ラを巻き掛けしたゴムクロ−ラ走行装置であって、機体重量の加わらない無負荷時のゴムクロ−ラの厚さをT、機体重量が加わった負荷時のゴムクロ−ラの厚さをtとする時、スプロケット及び/又はアイドラ−の下面位置を、転輪の下面位置よりも(T−t)だけ上方に変位させたことを特徴とするゴムクロ−ラ走行装置。
【請求項2】
ゴムクロ−ラが芯金入りゴムクロ−ラである請求項1記載のゴムクロ−ラ走行装置。
【請求項3】
ゴムクロ−ラが芯金レスゴムクロ−ラである請求項1記載のゴムクロ−ラ走行装置。
【請求項4】
スプロケットとアイドラ−ラは略同一外径である請求項1乃至3いずれか1記載のゴムクロ−ラ走行装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−126977(P2008−126977A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−317727(P2006−317727)
【出願日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】