説明

ゴム含有グラフト共重合体混合樹脂粉末およびその製造方法

ゴム含有グラフト共重合体ラテックスとガラス転移温度が60℃〜150℃である硬質非弾性共重合体ラテックスとをそれぞれ独立して噴霧乾燥することにより得られ、ゴム含有グラフト共重合体/硬質非弾性共重合体の質量比が90〜99.9/10〜0.1であるゴム含有グラフト共重合体混合樹脂粉末が開示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本願は、2003年5月14日に出願された特願2003−136086号に対し優先権を主張し、その内容をここに援用する。
本発明は、ゴム含有グラフト共重合体混合樹脂粉末およびその製造方法に関する。より詳細には、本発明は、衝撃強度改質性能を低下させることなく、ゴム含有グラフト共重合体の粉体特性を改良したゴム含有グラフト共重合体混合樹脂粉末およびその製造方法に関する。
【背景技術】
ポリ塩化ビニル等の硬質プラスチックにおける衝撃強度改質剤として、ゴム含有グラフト共重合体粉末が使用される。このようなゴム含有グラフト共重合体粉末は、乳化重合により得たゴム含有グラフト共重合体ラテックスからゴム含有グラフト共重合体を乾燥粉末として回収することにより得られるものであり、硬質プラスチックと溶融混錬することにより衝撃強度改質剤として使用される。
ゴム含有グラフト共重合体を粉末として回収する方法のひとつに、乳化重合により製造されたゴム含有グラフト共重合体ラテックスを熱風中に噴霧して、ゴム含有グラフト共重合体を乾燥粒子として回収する噴霧乾燥法がある。
噴霧乾燥法においては、乾燥途中において粒子同士が接触した際に付着、凝集しやすく、その結果、粗粉が多く発生する問題がある。また、貯蔵中に粉体同士が固まるブロッキングや、粉体流動性の低下を起こしやすく、したがって輸送ラインの閉塞等の問題を起こしやすかった。特に、衝撃強度改質性能を大きくするためにゴム含有グラフト共重合体中のゴム状重合体の含量を増加させた場合には、ブロッキングや輸送ラインの閉塞が生じる傾向が高くなる。
また、ゴム含有グラフト共重合体粉末は粒子表面に粘着性を有するため、噴霧乾燥を含む各製造工程において、製造設備内の様々な場所に粉末が付着、堆積する問題を生じる。
そこで、ゴム含有グラフト共重合体粉末の耐ブロッキング性、流動性、嵩比重などの、粉体特性を改良する試みが行われている。
例えば、ゴム含有グラフト共重合体に加工助剤を混合する方法があり、ゴム含有グラフト共重合体と加工助剤(硬質非弾性共重合体)を、別々に乳化重合した後にラテックスブレンドと成して噴霧乾燥する、または共凝集させた後に最終シェルにより被包し、噴霧乾燥する方法がある(例えば、特開平8−176385号公報、および特開平5−247313号公報参照)。
また、噴霧乾燥後に、無機微粉末として炭酸カルシウムと二酸化珪素を添加する方法がある(例えば、特開平8−113692号公報参照)。さらに、硬質非弾性共重合体の配合に加えて、滑剤を添加する方法もある(例えば、特開平4−335052号公報参照)。
しかしながら、特開平8−176385号公報および特開平5−247313号公報に記載の方法では、硬質非弾性共重合体がゴム含有グラフト共重合体粉末の内部に取り込まれてしまい、粘着性のあるゴム含有グラフト共重合体粉末の表面改質を効率よく行うことができない。このため、ゴム含有グラフト共重合体の粉体特性改良、および乾燥機内への付着防止を達成する効果はほとんど期待できない。
また、特開平8−113692号公報に記載の方法で製造したゴム含有グラフト共重合体粉末は、この粉末を添加した樹脂において炭酸カルシウム、二酸化珪素が樹脂中に溶融することなく分散するため、最終的な成形品の物性が影響を受ける。したがって炭酸カルシウムやシリカなどを添加できる量が限られ、これらの添加だけでは、製品レベルでの粉体特性改良効果が不十分になることがある。また、炭酸カルシウム、二酸化珪素を添加する時点がゴム含有グラフト共重合体を噴霧乾燥した後であるため、噴霧乾燥機内への付着防止、および乾燥途中に発生する粗粉を削減することはできない。
特開平4−335052号公報に記載の方法では、滑剤として、高級脂肪酸およびそのエステル類、高級アルコール類、脂肪酸エステル類、シリコーンオイル等を挙げているが、これらの滑剤を乾燥機内に連続投入してゴム含有グラフト共重合体を噴霧乾燥して得られたゴム含有グラフト共重合体混合樹脂粉末は、粉体特性が十分に改良されていない。
【発明の開示】
本発明は前記課題を解決するためになされたもので、成形品の物性に影響を与えることなく、噴霧乾燥で回収するゴム含有グラフト共重合体粉末の粉体特性を改良するとともに、粉体乾燥時の乾燥機内、配管内への付着を防止することのできるゴム含有グラフト共重合体混合樹脂粉末およびその製造方法を提供することを狙いとする。
本発明者は前記課題を解決するべく検討を行った結果、本発明のゴム含有グラフト共重合体混合樹脂粉末およびその製造方法を発明するに到った。
本発明の一態様は、ゴム含有グラフト共重合体ラテックスとガラス転移温度が60℃〜150℃である硬質非弾性共重合体ラテックスとをそれぞれ独立して噴霧乾燥することにより得られ、ゴム含有グラフト共重合体/硬質非弾性共重合体の質量比が90〜99.9/10〜0.1であるゴム含有グラフト共重合体混合樹脂粉末にある。
また、本発明の一態様は、ゴム含有グラフト共重合体ラテックスを乾燥機中で噴霧し、乾燥用加熱ガスにより乾燥することによって得られるゴム含有グラフト共重合体混合樹脂粉末の製造方法であって、
ゴム含有グラフト共重合体ラテックスと、ガラス転移温度が60℃〜150℃の硬質非弾性共重合体ラテックスとを、ゴム含有グラフト共重合体/硬質非弾性共重合体の質量比が90〜99.9/10〜0.1となるように、それぞれ独立した噴霧装置で噴霧するゴム含有グラフト共重合体混合樹脂粉末の製造方法にある。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、図面を参照しつつ、本発明の好適な実施例について説明する。ただし、本発明は以下の各実施例に限定されるものではなく、例えばこれら実施例の構成要素同士を適宜組み合わせてもよい。
本発明のゴム含有グラフト共重合体混合樹脂粉末は、ゴム含有グラフト共重合体と、ガラス転移温度が60℃〜150℃の硬質非弾性共重合体とを含有する。
本発明に用いられるゴム含有グラフト共重合体とは、ガラス転移温度(以下Tg)が20℃以下のゴム状重合体を幹ポリマーとし、これに重合可能な単量体をグラフト重合したものである。このようなものであれば特に制限されないが、ゴム含有グラフト共重合体中のゴム状重合体の含有率は、好ましくは40質量%以上であり、更に好ましくは50質量%以上である。
ゴム状重合体としては、例えば、n−ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレートなどを主成分としたアクリル系ゴム状重合体、ブタジエン、イソプレン、クロロプレンなどを主成分としたジエン系ゴム状重合体、オルガノシロキサンなどを主成分としたシリコーン系ゴム状重合体、シリコーン系ゴム状重合体の存在下でアクリレートを重合させることにより得られるシリコーンアクリル複合ゴム状重合体などが挙げられる。また、これらゴム状重合体を2種類以上組み合わせてもよい。さらには、ガラス状重合体を芯に含有したゴム状重合体であってもよい。
ゴム含有グラフト共重合体の重合方法は特に制限されないが、ゴム状重合体の重合とグラフト重合とを、2つ以上の攪拌装置を使用して行っても良いし、連続して同一攪拌装置で行ってもよい。
本発明に用いられる硬質非弾性共重合体は、Tgが60〜150℃である。このことにより、ゴム含有グラフト共重合体の粉体特性を改良できる。硬質非弾性共重合体のTgが60℃未満では、粉体特性改良効果が低く好ましくない。硬質非弾性共重合体のTgが150℃より高いと、乾燥機および配管内等の剪断により硬質非弾性共重合体粉体が破壊され、微粉が増加する可能性があるため好ましくない。
なお、本発明における硬質非弾性共重合体のTgは、乳化重合に使用される各単量体の重合体のTgと各単量体との仕込み比からFoxの式などの計算式により算出してもよいし、各種測定装置を使用して測定しても良い。
本発明で使用される硬質非弾性共重合体の噴霧乾燥後の粉体粒子径は45μm以下であることが好ましい。噴霧乾燥後の粉体粒子径が45μmより大きいと、硬質非弾性共重合体ラテックスのゴム含有グラフト共重合体ラテックスへの被覆率が小さくなり、粉体特性改良効果が小さくなる傾向にある。
また、本発明で使用される硬質非弾性共重合体の分子量は好ましくは50万〜500万であり、更に好ましくは、80万〜300万である。
また、本発明で使用される硬質非弾性共重合体は、乳化重合により、硬質非弾性共重合体を含む硬質非弾性共重合体ラテックスとして製造される。硬質非弾性共重合体ラテックス中の固形分は、好ましくは20%以下であり、更に好ましくは10%以下である。これにより、硬質非弾性共重合体ラテックスを噴霧装置から噴霧する際の噴霧装置内での詰まりを抑制でき、更には乾燥後に得られる硬質非弾性共重合体の粒子径を小さくすることが容易となる。
本発明で使用される硬質非弾性共重合体は、特に制限しないが通常乳化重合で製造され、重合時における単量体、重合開始剤、乳化剤の添加は、一括添加、連続添加、分割添加、多段階添加等で行うことができる。また、これらを組み合わせて行ってもよい。
本発明において、ゴム状重合体にグラフト重合する成分、および硬質非弾性共重合体の成分としては、乳化重合に通常使用される単量体を使用できる。例えば、芳香族ビニル系単量体、シアン化ビニル系単量体、エチレン系不飽和カルボン酸系単量体、不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体、ハロゲン化ビニル系単量体、マレイミド系単量体等が挙げられる。
芳香族ビニル系単量体としては、特に制限はないが、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、メチル−α−メチルスチレン、ビニルトルエン、ジビニルベンゼン等が挙げられる。これらの中でも、特にスチレンが好ましい。また、これら芳香族ビニル系単量体は、1種類のみを使用しても、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
シアン化ビニル系単量体としては、特に制限はないが、例えば、アクリロニトリル、メタアクリロニトリル、α−クロルアクリロニトリル、α−エチルアクリロニトリル等が挙げられる。これらの中でも、特にアクリロニトリルが好ましい。また、これらシアン化ビニル系単量体は、1種類のみを使用しても、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
エチレン系不飽和カルボン酸系単量体としては、特に制限はないが、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸などのモノ、ジカルボン酸が挙げられる。これらエチレン系不飽和カルボン酸単量体は、1種類のみを使用しても、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体としては、特に制限はないが、例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、プロピルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、アリルアクリレート、グリシジルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、アリルメタクリレート、グリシジルメタクリレートが挙げられる。これら不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体は、1種類のみを使用しても、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
ハロゲン化ビニル系単量体としては、特に制限はないが、例えば、塩化ビニル、塩化ビニリデン等が挙げられる。これらハロゲン化ビニル系単量体は、1種類のみを使用しても、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
マレイミド系単量体としては、特に制限はないが、例えば、マレイミド、N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−メチルマレイミド等が挙げられる。これらマレイミド系単量体は、1種類のみを使用しても、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
さらに、前記単量体以外に、エチレン、プロピレン、酢酸ビニル、ビニルピリジン等の乳化重合可能な単量体を使用することもできる。
本発明のゴム含有グラフト共重合体の製造においては、ゴム状重合体の重合時、もしくはその後のグラフト重合時に、必要に応じて、ジビニルベンゼン、1−3ブチレンジメタクリレート、アリルメタクリレート、グリシジルメタクリレートなどの架橋剤、メルカプタン類といった連鎖移動剤を併用してもよい。
本発明のゴム含有グラフト共重合体、および硬質非弾性共重合体の製造において用いられる重合開始剤については、特に限定はないが、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウムなどの水溶性過硫酸、ジイソピロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、p−メンタンハイドロパーオキサイド、キュメンハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、メチルシクロヘキシルハイドロパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシ−3,5,5−トリ−メチルヘキサノエートなどの有機過酸化物を一成分としたレドックス系開始剤を使用できる。
乳化剤については、特に制限がないが、例えば、不均化ロジン酸、オレイン酸、ステアリン酸などの高級脂肪酸のアルカリ金属塩、ドデシルベンゼンスルホン酸などのスルホン酸のアルカリ金属塩を1種類のみ使用しても、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
また、乳化重合したラテックスに、それぞれ適当な酸化防止剤や添加剤等を加えた後に噴霧乾燥させてもよい。
本発明のゴム含有グラフト共重合体混合樹脂粉末における、ゴム含有グラフト共重合体と硬質非弾性共重合体の質量比は、90〜99.9対10〜0.1である。硬質非弾性共重合体が10質量%を超えると、成形品の耐衝撃性の低下などの物性低下や、発生する微粉の増加を起こすため好ましくない。硬質非弾性共重合体の量が0.1%より少ないと粉体特性改良効果が十分得られず好ましくない。より好ましくは、ゴム含有グラフト共重合体と硬質非弾性共重合体との質量比は95〜99.5対5〜0.5である。
本発明のゴム含有グラフト共重合体混合樹脂粉末においては無機微粉末を更に添加することが好ましい。その添加量は、ゴム含有グラフト共重合体/硬質非弾性共重合体を噴霧乾燥した混合粉末100質量部に対し無機微粉末が0.01〜5.0質量部である。これにより、ゴム含有グラフト共重合体混合樹脂粉体における耐ブロッキング性などの粉体特性を更に向上させることができる。無機微粉末の添加量が0.01質量部未満の場合は粉体特性の改良効果が低下しやすく、5.0質量部を超えると成形品の透明性が低下しやすい。
前記無機微粉末は、1種類のみを使用しても、2種類以上を混合して使用してもよい。
本発明において用いられる無機微粉末は、二酸化珪素微粉末および/または炭酸カルシウム微粉末であることが好ましい。
二酸化珪素微粉末としては、疎水性シリカ、親水性シリカなどいかなる種類の二酸化珪素微粉末でも使用できる。
本発明における噴霧乾燥とは、乾燥ガス(熱風)中に重合体を含有するラテックスを噴霧(微粒化)して乾燥粉末として回収する方法であり、乾燥機形状、噴霧装置などは公知の噴霧乾燥機、噴霧装置を使用することができる。また、噴霧乾燥機の容量も特に制限がなく、実験室で使用するような小規模なスケールから、工業的に使用するような大規模なスケールまでいずれの容量の乾燥機も使用することができる。
本発明の製造方法は、ゴム含有グラフト共重合体を含有するゴム含有グラフト共重合体ラテックスと、硬質非弾性共重合体を含有する硬質非弾性共重合体ラテックスを、同時に、それぞれ独立した噴霧装置により噴霧乾燥して混合樹脂粉末を得るものである。この時、更に無機微粉末を乾燥機内に連続投入することが好ましい。
本発明においては、ゴム含有グラフト共重合体ラテックスと硬質非弾性共重合体ラテックスとを、同時に、それぞれ独立した噴霧装置により噴霧乾燥して混合樹脂粉末を得ることにより、粘着性を有するゴム含有グラフト共重合体粉末の表面に、硬質成分である硬質非弾性共重合体粉末が固着し、ゴム含有グラフト共重合体粉末の表面改質が可能となる。その結果、効率よく粉体特性の向上、付着防止を達成できる。
ゴム含有グラフト共重合体ラテックスを噴霧する噴霧装置は、乾燥機上部に1個以上設置され、噴霧方式は回転円盤式、圧力ノズル式、2流体ノズル式、加圧2流体ノズル式などいずれの方法でもよい。硬質非弾性共重合体を噴霧する装置は、乾燥機上部または側壁に1個以上設置され、噴霧方式は、圧力ノズル式、2流体ノズル式、加圧2流体ノズル式などノズル方式が好ましい。
本発明においては、各ラテックスを噴霧する乾燥機内に無機微粉末を連続的に投入することが好ましい。乾燥機内で無機微粉末を更に混合することで、乾燥機下部のコーン部、分離装置までの配管、分離装置内などの各工程で粉末の付着をより効果的に防止でき、粉体特性も更に向上できる。無機微粉末を乾燥機内に連続的に投入させる方法としては、乾燥機天井部、側面部から各種のパウダーフィーダにより乾燥機内に直接に流入させてもよいし、乾燥機内を負圧にして吸い込ませてもよい。さらには、乾燥ガス、2流体ノズルまたは加圧2流体ノズルなどのノズルから噴霧されるラテックスを微粒化するためのガス、または、ディスクアトマイザを冷却するためのガスに無機微粉末を混合して乾燥機内に連続投入してもよい。
本発明においては、噴霧乾燥して得られたゴム含有グラフト共重合体混合微粉末を乾燥ガスから分離、回収する装置を有していることが好ましい。乾燥ガスから乾燥粉末を回収する方法は特に制限しないが、遠心方式によるサイクロンや濾過方式によるバグフィルターなどが好ましい。
以上説明したように本発明によれば、成形品の物性に影響を与えず、ゴム含有グラフト共重合体粉末の粉体特性を改良することができる。さらに、本発明のゴム含有グラフト共重合体混合樹脂粉体は、粉体製造工程における製造装置内への付着が抑制される。従って、製造装置を介した汚染(コンタミ)を減少させることができ、品質を向上させることができる。また、歩留まりが向上し、頻繁な洗浄の必要もなくなるため、生産性を向上させることができる。
本発明の製造方法によれば、コストアップを抑え、粉体輸送時の閉塞、貯蔵中あるいは自動計量時のブロッキングを回避し、製造装置を大型化することができる。
【実施例】
以下、実施例に基づき本発明を説明する。なお、実施例、比較例中の「部」および「%」は特にことわりがない限り、それぞれ「質量部」および「質量%」を表す。
実施例および比較例において、粉体平均粒子径、耐ブロッキング性、嵩比重、乾燥機内粉体付着状況を評価した。なお、各評価は以下に示す方法で行った。
(1)粉体平均粒子径
レーザー回折式粒度分布測定装置LA−910(堀場製作所(株)製)を使用し測定した。
(2)耐ブロッキング性
円筒の容器にゴム含有グラフト共重合体粉末を20g入れ、50℃で17.5KPaの圧力を6時間かけた。得られたブロックにミクロ型電磁振動ふるい器(筒井理化製)で振動を与え、ブロックが60%破砕する時間(sec)を測定した。この時間が短いほど、耐ブロッキング性が良好である。
(3)嵩比重
JIS−K−6721に記載されている嵩比重測定器を用い測定した。(単位:g/cm
(4)乾燥機内粉体付着状況
噴霧乾燥終了後の乾燥機内を目視により観察し、付着状況を以下のように表した。
A:極めて付着が少ない。
B:付着が少ない。
C:ところどころに付着が見られる。
D:全体に付着が見られる。
(5)その他物性
塩化ビニル樹脂と下記実施例のゴム含有グラフト共重合体混合樹脂粉末を溶融混練後、射出成形し、得られた成形板の透明性を目視により評価し、A、Bで表した。Aは透明性良好を、Bは透明性不良を示す。
(製造例1)ゴム状重合体(A−1)ラテックスの製造
攪拌装置付き反応装置(耐圧3.0MPa)に、脱イオン水190部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム1.5部、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物のナトリウム塩0.15部、無水ピロリン酸ナトリウム0.12部、ジイソプロピルベンゼンヒドロペルオキシド(商品名「パークミル(登録商標)P」、日本油脂(株)製)0.5部、1,3−ブタジエン76部、スチレン24部、ジビニルベンゼン1部を仕込み、攪拌を開始し、70℃に昇温した。
次いで、昇温途中に脱イオン水10部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム0.0009部、硫酸第一鉄七水塩0.0003部、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.17部の混合物を反応装置内に添加し、重合を開始させた。5時間保持した後、ジイソプロピルベンゼンヒドロペルオキシド0.1部を追加添加し、さらに4時間保持した後、反応装置より、ブタジエン系ゴム状重合体(A−1)ラテックスを取出した。
(製造例2)ゴム含有グラフト共重合体(A−2)ラテックスの製造
攪拌装置付き反応装置に、ゴム状重合体(A−1)ラテックス699部(固形分として233部)、水85部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム1.0部を反応器に仕込み、窒素置換した後、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート二水和物0.3部を添加し、内温を70℃に昇温した。次いで、メチルメタクリレート28部、エチルアクリレート7部、t−ブチルヒドロペルオキシド(商品名パーブチル(登録商標)H−69、日本油脂(株)製)0.15部の混合物を30分かけて連続添加し、100分間保持した。次いで、スチレン55部、t−ブチルヒドロペルオキシド0.20部の混合物を100分かけて連続添加し、120分間保持した。次いで、メチルメタクリレート10部、t−ブチルヒドロペルオキシド0.05部の混合物を30分かけて連続添加し、120分間保持して重合を終了した。
このようにして得られたグラフト共重合体(ゴム含量70%)ラテックスに、乳化分散させたトリエチレングリコール−ビス[3−(3−tert−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]をグラフト共重合体100部に対して0.21部、および乳化分散させたジラウリル−3,3’−チオジプロピオネートをグラフト共重合体100部に対して0.63部添加して、ゴム含有グラフト共重合体(A−2)ラテックスを得た。
(製造例3)硬質非弾性共重合体(B−1)ラテックスの製造
攪拌装置付き反応装置に、脱イオン水300部、ラウリル硫酸ナトリクム1.2部、メチルメタクリレート69部、ブチルメタクリレート24部、ブチルアクリレート7部、n−オクチルメルカプタン0.005部を仕込み、攪拌を開始し50℃に昇温した。
次いで、脱イオン水30部、過硫酸カリウム0.15部の混合物を反応装置内に添加して重合をさせた。5時間保持した後、反応装置より硬質非弾性共重合体(B−1)ラテックスを取出した。得られた重合体の質量平均分子量は240万で、Tgは、64℃であった。
(製造例4)ゴム含有グラフト共重合体(C−1)ラテックスの製造
テトラエトキシシラン2部、γ−メタクリロイルオキシプロピルジメトキシメチルシラン0.5部およびオクタメチルシクロテトラシロキサン97.5部を混合し、シロキサン混合物100部を得た。ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムおよびドデシルベンゼンスルホン酸をそれぞれ1部溶解した蒸留水200部に前記混合シロキサン100部を加え、ホモミキサーにて10,000rpmで予備撹拌した後、ホモジナイザーにより30MPaの圧力で乳化、分散させ、オルガノシロキサンラテックスを得た。この混合液をコンデンサーおよび撹拌翼を備えたセパラブルフラスコに移し、混合撹拌しながら80℃で5時間加熱した後20℃で放置し、48時間後に水酸化ナトリウム水溶液でこのラテックスのpHを7.4に中和して重合を完結し,ポリオルガノシロキサンラテックスを得た。得られたポリオルガノシロキサンの重合率は89.5質量%であり、ポリオルガノシロキサンの平均粒子径は0.17μmであった。また、このラテックスをイソプロパノールで凝固乾燥し固形物を得て、トルエンで90℃、12時間抽出し、ゲル含量を測定したところ90.6質量%であった。
前記ポリオルガノシロキサンラテックスを28.3部(固形分換算で10部)採取し、撹拌機を備えたセパラブルフラスコにいれ、蒸留水275部を加え、窒素置換をしてから50℃に昇温し、n−ブチルアクリレート77.5部、アリルメタクリレート1.6部およびtert−ブチルヒドロペルオキシド0.32部の混合液を仕込み30分間撹拌し、この混合液をポリオルガノシロキサン粒子に浸透させた。次いで、硫酸第1鉄0.001部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩0.003部、ロンガリット0.30部および蒸留水5部の混合液を仕込み、ラジカル重合を開始させ、その後内温70℃で1時間保持し重合を完了して複合ゴムラテックスを得た。このラテックスを一部採取し、複合ゴムの平均粒子径を測定したところ0.23μmであった。このシリコーンアクリル複合ゴム状重合体ラテックスに、tert−ブチルヒドロペルオキシド0.06部とメチルメタクリレート11部との混合液を65℃にて20分間にわたり滴下し、その後70℃で1時間保持し、複合ゴムへのグラフト重合を完了し、ゴム含有グラフト共重合体(C−1)ラテックスを得た。
(実施例1)ゴム含有グラフト共重合体混合樹脂粉末の製造(噴霧乾燥)
直胴部直径3500mm、直胴部高さ4800mmの噴霧乾燥機(大川原化工機製)を用い、乾燥ガス量30Nm/min、および乾燥ガス出口温度70℃になるよう乾燥ガス入口温度を調整した条件下に、ゴム含有グラフト共重合体(A−2)ラテックスを流量90kg/hr(固形分として36kg/hr)の処理速度で加圧2流体ノズルにより噴霧乾燥を行った。同時に、固形分を10%に調製した硬質非弾性共重合体(B−1)ラテックスを7.2kg/hrの処理速度で2流体ノズルにより噴霧乾燥を行った。それぞれのノズルは、乾燥機天井部より、乾燥機下方に向けて噴霧できるよう設置した。また、日本アエロジル(株)製のシリカ微粉末アエロジル(登録商標)#50を、ゴム含有グラフト共重合体ラテックス、硬質非弾性共重合体ラテックスを噴霧乾燥すると同時に、108g/hrの速度で側壁より乾燥機内に連続投入させた。
なお、乾燥粉末は、サイクロンにより乾燥ガスと分離し取出した。回収粉末の各種評価を行った結果を表1に示す。
【実施例2】
硬質非弾性共重合体(B−1)ラテックスを固形分が5%になるように希釈し、噴霧量を14.4kg/hrとした以外は、実施例1と同様に行った。
【実施例3】
硬質非弾性共重合体(B−1)ラテックスの噴霧量を14.4kg/hrにした以外は実施例1と同様に行った。
(比較例1)
硬質非弾性共重合体(B−1)の噴霧を行わなかったこと以外は、実施例1と同様に行った。

【実施例4〜6】
ゴム含有グラフト共重合体(C−1)ラテックスを使用したこと、ゴム含有グラフト共重合体と硬質非弾性共重合体(B−1)との重量比がそれぞれ実施例1〜3と同じ値になるようにB−1の噴霧量を調整したこと、およびアエロジル#50の添加量を75g/hrとしたこと以外は、実施例1〜3とそれぞれ同様の方法で行った。結果を表2に示す。
(比較例2)
ゴム含有グラフト共重合体(C−1)ラテックスを使用したこと、およびアエロジル#50の添加量を75g/hrとしたこと以外は、比較例1と同様に行った。結果を表2に示す。

表1、2より明らかなように、本発明のゴム含有グラフト共重合体の製造方法を用いて行った実施例では、乾燥機のコーン部への粉体の付着が少量見られたが、連続運転に全く問題のない程度であった。
また、得られたゴム含有グラフト共重合体混合樹脂粉末の耐ブロッキング性の評価を行った結果、粉体ブロックが60%破砕する時間は36〜47秒と短く、耐ブロッキング性に優れ、粉体特性が十分に改良されていることが判明した。
これに対して、硬質非弾性共重合体を含有しない比較例1、2により得られたゴム含有グラフト共重合体混合樹脂粉末は、実施例に比較して乾燥機のコーン部への粉体の付着が著しく、連続運転が困難であった。また、耐ブロッキング性の評価を行った結果、粉体ブロックが60%破砕する時間は350〜400秒と長く、耐ブロッキング性が極めて悪く、得られた粉体は粉体特性が十分に改良されていないことが判明した。
以上説明したように、本発明によれば、成形品の物性に影響を与えることなく、噴霧乾燥で回収するゴム含有グラフト共重合体粉末の粉体特性を改良するとともに、粉体乾燥時の乾燥機内、配管内への付着を防止することのできるゴム含有グラフト共重合体混合樹脂粉末およびゴム含有グラフト共重合体混合樹脂粉末の製造方法を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム含有グラフト共重合体ラテックスとガラス転移温度が60℃〜150℃である硬質非弾性共重合体ラテックスとをそれぞれ独立して噴霧乾燥することにより得られ、ゴム含有グラフト共重合体/硬質非弾性共重合体の質量比が90〜99.9/10〜0.1であるゴム含有グラフト共重合体混合樹脂粉末。
【請求項2】
更に無機微粉末を含有し、無機微粉末がゴム含有グラフト共重合体および硬質非弾性共重合体の混合粉末100質量部に対して0.01〜5.0質量部であることを特徴とする請求項1記載のゴム含有グラフト共重合体混合樹脂粉末。
【請求項3】
硬質非弾性共重合体の噴霧乾燥後の粉体粒子径が45μm以下であることを特徴とする請求項1記載のゴム含有グラフト共重合体混合樹脂粉末。
【請求項4】
前記無機微粉末は、二酸化珪素微粉末および/または炭酸カルシウム微粉末であることを特徴とする請求項2に記載のゴム含有グラフト共重合体混合樹脂粉末。
【請求項5】
ゴム含有グラフト共重合体ラテックスを乾燥機中で噴霧し、乾燥用加熱ガスにより乾燥することによって得られるゴム含有グラフト共重合体混合樹脂粉末の製造方法であって、
ゴム含有グラフト共重合体ラテックスと、ガラス転移温度が60℃〜150℃の硬質非弾性共重合体ラテックスとを、ゴム含有グラフト共重合体/硬質非弾性共重合体の質量比が90〜99.9/10〜0.1となるように、それぞれ独立した噴霧装置で噴霧するゴム含有グラフト共重合体混合樹脂粉末の製造方法。
【請求項6】
無機微粉末を、ゴム含有グラフト共重合体および硬質非弾性共重合体の混合粉末100質量部に対して0.01〜5.0質量部となるよう乾燥機内に連続投入することを特徴とする請求項5記載のゴム含有グラフト共重合体混合樹脂粉末の製造方法。
【請求項7】
硬質非弾性共重合体ラテックスを、乾燥後の硬質非弾性共重合体の粉体粒子径が45μm以下となるよう噴霧することを特徴とする請求項5記載のゴム含有グラフト共重合体混合樹脂粉末の製造方法。

【国際公開番号】WO2004/101658
【国際公開日】平成16年11月25日(2004.11.25)
【発行日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−570940(P2004−570940)
【国際出願番号】PCT/JP2004/006858
【国際出願日】平成16年5月14日(2004.5.14)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】