説明

ゴム材料及びそれを用いた歪みセンサー

【課題】
歪みゲージ、ワイヤ電極、歪みセンサー等の測定装置を用いなくても歪みを測定することができるゴム材料、及びゴム材料のような大きな歪みを正確に測定することができる歪みセンサーを提供する。
【解決手段】
ゴム材料は、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバーから選ばれる少なくとも1種類の炭素材料をゴム素材に添加したゴム材料であって、歪みの変化と電気特性の変化とが相関関係を有するものである。歪みセンサー3は、ゴム材料2を挟んで、電極1が連結されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歪みゲージやワイヤ電極のような測定装置を用いなくても歪みを測定することができるゴム材料、及びそのゴム材料を利用した歪みセンサーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属やゴムなどを材料として利用する際、それらの歪みを確認する必要がある。材料の歪みを確認する方法としては、歪みゲージによる検体物質の歪み測定、検体物質に埋め込んだワイヤ電極の電気容量変化による検体物質の歪み測定などがある。しかし、これらの方法でゴム材料の歪みを測定した場合、ゴムの歪みに歪みゲージが対応できない、ワイヤ電極を埋め込むことでゴム材料の力学特性が大幅に変化してしまう、といった問題がある。
【0003】
また、材料の歪みを確認する方法として、歪みセンサーが提案されている。特許文献1には、導電性粒子を分散させた高分子による歪みセンサーが示されている。これは、導電性粒子によって導電性を付与した高分子に歪みが与えられると電気抵抗が変化する性質を利用したものである。しかし、このような導電性粒子を含むセンサーでは、ゴムのような検体の大歪みに伴いセンサーが大きく引っ張られると、センサー内の導電性粒子どうしの距離が大きくなりすぎて、電気抵抗を正確に測定できないおそれがある。さらに、センサーを貼付している表面の歪みは検知できるが、検体内部の歪みは検知できないという問題があった。
【0004】
【特許文献1】特開2003−247802号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、歪みゲージ、ワイヤ電極、歪みセンサー等の測定装置を用いなくても歪みを測定することができるゴム材料、及びゴム材料のような大きな歪みを正確に測定することができる歪みセンサーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記の目的を達成するためになされた、特許請求の範囲の請求項1に記載されたゴム材料は、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバーから選ばれる少なくとも1種類の炭素材料をゴム素材に添加したゴム材料であって、歪みの変化と電気特性の変化とが相関関係を有することを特徴とするゴム材料である。
【0007】
請求項2に記載のゴム材料は、請求項1に記載されたもので、前記電気特性が電気抵抗であることを特徴とする。
【0008】
請求項3に記載のゴム材料は、請求項1に記載されたもので、前記電気特性が電気容量であることを特徴とする。
【0009】
請求項4に記載のゴム材料は、請求項1に記載されたもので、前記炭素材料がカーボンナノファイバーであって、その添加量が10〜60重量%であることを特徴とする。
【0010】
請求項5に記載の歪みセンサーは、請求項1から4のいずれかに記載のゴム材料を挟んで、電極が連結されていることを特徴とする。
【0011】
請求項6に記載のゴム材料の歪み測定方法は、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバーから選ばれる少なくとも1種類の炭素材料をゴム素材に添加したゴム材料を検体物質に貼付け、該ゴム材料の電気特性の変化を測定することにより、該検体物質の歪みを測定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明のゴム材料は、それ自体の電気特性変化を測定することで、それの歪みを容易に検知することができる。また、表面の歪みだけでなく、内部歪みも検知することが可能である。
【0013】
このゴム材料を用いた歪みセンサーは、ゴムのように大変形する材料の大きな歪みを感度よく検出できる。そのため、自動車タイヤ等のゴムの歪みやゴムの疲労破壊を観察するセンサーとして有用である。また、この歪みセンサーは、建築免振ゴム、機械防振ゴム、ゴム継ぎ手、ゴムドーム、救命ゴムボート、圧力測定用のエラストマーシート、コンベヤベルト、産業用空気ばね、自己診断スマート材料のひずみの測定にも利用できる。
【0014】
本発明の歪み測定方法によれば、ゴム素材の200%以上の大きな歪みでも簡便かつ正確に測定することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のゴム材料は、ゴム素材にカーボンナノファイバー(CNF)のような炭素材料を添加したものである。
【0016】
添加する炭素材料はCNFが好ましいが、カーボンナノチューブ(CNT)やカーボンブラック(CB)を用いてもよい。また、これらの炭素材料は単独で用いてもよく、複数同時に用いてもよい。CNFとしては、気相成長炭素繊維であって、平均繊維径80〜150nmで平均繊維長10〜20μmであるVGCF(昭和電工株式会社製;VGCFは同社の登録商標)が好ましい。CNFは微細であるので、ゴム素材に添加してもゴムの力学特性を維持することができ、ゴム本来の歪みを示す。また、CNFを使用することでコストの削減も可能である。
【0017】
前記炭素材料の添加量は10〜60重量%であると好ましいが、50〜60重量%であるとより好ましい。炭素材料を添加したゴム材料は、材料中に分散した炭素材料同士の接触とトンネル効果とにより、一定の導電率を有する導電性材料となる。
【0018】
本発明で用いられるゴム素材は特に限定されることはなく、例えばスチレン−ブタジエンゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、ニトリルゴム、アクリルゴム、エラストマー、フッ素ゴムなどのゴム材料、ポリエチレン、ポリプロピレン、熱可塑性エラストマー、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS)、アクリル、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリアセタールなどの樹脂材料を用いることができる。
【0019】
前記ゴム材料は前記炭素材料を含有しているが、その力学特性は従来のゴム素材と同様であるため、様々な成型品に加工することが可能である。得られたゴム成型品は導電性を有している。従ってそのゴム成型品の歪みを測定したい場合、歪みゲージや歪みセンサーやワイヤ電極といった測定装置を用いなくても、ゴム成型品に電極を付してそれ自体の電気特性変化を測定することで、容易にその歪みを検知することができる。
【0020】
CNFやCNTのヤング率はゴムのそれに比べてはるかに大きい。そのため、炭素材料を添加したゴム材料が伸長して歪みが生じると、材料中の炭素材料同士の間の距離が大きくなったり、伸長前は接触していた炭素材料同士が離れたりする部分が生じ、ゴム材料の導電率が低下する。これに伴いゴム材料の電気抵抗が大きくなり、ゴム材料の電気容量は小さくなる。このように、ゴム材料の歪みの変化と、ゴム材料の電気特性の変化とは相関関係を示すため、炭素材料を添加したゴム材料の電気特性を測定することで、ゴムの歪み量を求めることができる。
【0021】
炭素材料を添加したゴム材料の電気抵抗は、4端子法により測定するのがよい。ゴムの表面抵抗の影響を最大限に低減するために、測定部分近傍に電極を作製するのが好ましい。電極材料としては金、白金、銀が好ましい。電極材料を真空蒸着によりゴム材料の表面に蒸着して電極が作製される。また、電極は、エポキシ樹脂のような導電性接着剤を用いて前記ゴム材料の表面に固定してもよい。
【0022】
図2に一例を示すように、本発明の歪みセンサー3は、本発明のゴム材料2と電極1との電気的接続を保ちつつシリーズに接着したものである。この歪みセンサー3の歪み出力は電流計あるいは電圧計で測定できる。
【0023】
図4には、本発明の歪みセンサー3の別な実施例が示されている。歪みセンサー3は、棒状のゴム材料2の側部両端近傍に対の電極1aおよび1bを電気的接続してある。このセンサー3は検体物質4の表面に接着され、歪みセンサー3の歪み出力を測定することで検体物質の歪みを測定することができる。
【実施例】
【0024】
以下、本発明の実施例を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0025】
本発明のゴム材料の歪み測定方法を実施するためのサンプルを作製した例を実施例1〜4に示す。
【0026】
(実施例1)
ゴム素材としてスチレン−ブタジエンゴム(SBR1502;ゼオン社製の商品名;スチレン含量23.5wt%)の100重量部に、炭素材料としてカーボンブラック(N660 black;東海カーボン社製の商品名)の50重量部を加えて混練し、密度1.131の炭素材料含有ゴム材料を得た。このゴム材料から、長さ53mm、幅8mm、厚さ2mmを切り出し、その表面に電極として、図2に示すように、長さ3mm、幅8mmの電極の帯が3mm間隔で4本できるように白金を真空蒸着し、サンプル1を作製した。
【0027】
(実施例2)
炭素材料として、N660 blackの45重量部と、カーボンナノファイバー(VGCF;登録商標;昭和電工株式会社製)の5重量部とを用いたこと以外は実施例1と同様にして、密度1.134の炭素材料含有ゴム材料を得た。このゴム材料から、実施例1と同様にしてサンプルを作製し、サンプル2とした。
【0028】
(実施例3)
炭素材料として、N660 blackの40重量部と、VGCFの10重量部とを用いたこと以外は実施例1と同様にして、密度1.138の炭素材料含有ゴム材料を得た。このゴム材料から、実施例1と同様にしてサンプルを作製し、サンプル3とした。
【0029】
(実施例4)
炭素材料として、N660 blackの30重量部と、VGCFの20重量部とを用いたこと以外は実施例1と同様にして、密度1.144の炭素材料含有ゴム材料を得た。このゴム材料から、実施例1と同様にしてサンプルを作製し、サンプル4とした。
【0030】
(引張試験)
実施例1〜4で得られたゴム材料を用いて引張試験を行った。JIS K 6251−1993準拠して、試料形状はダンベル7号形を用い、試験温度25℃、引張速度100mm/minにおける引張強度を測定した。測定にはAG−20kND(SIMADZU社製)を使用した。結果を図1に示す。
【0031】
図1はVGCFの各添加量における引張強度を示している。図1から明らかなように、VGCFの添加量と引張強度との間に相関関係は認められなかった。このことから、VGCFをゴム材料に添加しても、ゴム本来の特性に影響を及ぼさないことが確認された。
【0032】
(電気抵抗測定)
実施例4で得られたサンプルを伸長させた際の電気抵抗を測定した。0.5%、1.0%、1.5%と伸長させた各サンプルを図2に示す回路にセットし、4端子法により電気抵抗を求め、体積抵抗率を算出した。図3にサンプルの歪みとその体積抵抗率との関係を示す。
図3から明らかなように、サンプルの歪みが増すにつれて体積抵抗率が増加した。このことから、本発明の方法によってゴムの大きな歪みが測定できることが確認された。
【0033】
以上の実施例から、本発明のゴム材料はその歪みを正確に測定できることが明らかとなった。例えば上記の実施例で得たサンプルを歪みセンサーとして、歪みを測定したい検体物質に貼付する。検体物質に歪みが生じるとそれに伴い歪みセンサーも同様の歪みを生じるので、実施例のようにしてその歪みセンサーの歪みを測定すれば、それを検体物質の歪みとして検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の実施例におけるカーボンナノファイバー含有ゴムの引張強度とカーボンナノファイバー添加量との関係を示したグラフである。
【0035】
【図2】本発明の実施例における電気抵抗測定回路図である。
【0036】
【図3】本発明の実施例におけるサンプルの歪みとその体積抵抗率との関係を示すグラフである。
【0037】
【図4】本発明の歪みセンサーの使用途中の断面図である。
【符号の説明】
【0038】
1は電極、2はゴム材料、3は歪みセンサー、4は検体物質である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバーから選ばれる少なくとも1種類の炭素材料をゴム素材に添加したゴム材料であって、歪みの変化と電気特性の変化とが相関関係を有することを特徴とするゴム材料。
【請求項2】
前記電気特性が電気抵抗であることを特徴とする請求項1に記載のゴム材料。
【請求項3】
前記電気特性が電気容量であることを特徴とする請求項1に記載のゴム材料。
【請求項4】
前記炭素材料がカーボンナノファイバーであって、その添加量が10〜60重量%であることを特徴とする請求項1に記載のゴム材料。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載のゴム材料を挟んで、電極が連結されていることを特徴とする歪みセンサー。
【請求項6】
カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバーから選ばれる少なくとも1種類の炭素材料をゴム素材に添加したゴム材料を検体物質に貼付け、該ゴム材料の電気特性の変化を測定することにより、該検体物質の歪みを測定することを特徴とするゴム材料の歪み測定方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−37906(P2008−37906A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−210492(P2006−210492)
【出願日】平成18年8月2日(2006.8.2)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成18年6月1日 社団法人 日本繊維機械学会主催の「日本繊維機械学会 第59回年次大会」において文書をもって発表
【出願人】(504180239)国立大学法人信州大学 (759)
【Fターム(参考)】