説明

ゴム構造体

【課題】広い周波数領域で吸音性能が高いゴム構造体を提供する。
【解決手段】ゴムチップ1と、カット糸2と、カット糸凝集体3が、これらの間に空隙4が形成された状態で、接着剤によって結合されている。ゴムチップ1とその間の空隙4の作用、さらに空隙4に露出するカット糸2やカット糸凝集体3の作用で、広い周波数領域で高い吸音特性を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸音材等として用いられるゴム構造体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ゴム構造体からなる吸音材として、ゴムチップに接着剤を混合し、これを成形することによって、ゴムチップを接着剤で結合すると共にゴムチップ間に空隙を形成したものが提案されている(特許文献1、非特許文献1参照)。
【0003】
またゴムチップの他に繊維を混合して用い、同様に作製したゴム構造体も提案されている(特許文献2参照)。
【特許文献1】特開平11−65571号公報
【非特許文献1】K.V.Horoshenkov.M.J.Swift“The effect of consolidation on the acoustic properties of looserubber granulates”Applied Acoustic,62,(2001)P665-690)
【特許文献2】特許第3860676号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記のようなゴム構造体からなる吸音材にあっては、ゴムチップ間に形成される空隙によって一定の吸音効果はあるが、吸音する周波数領域が狭く、特に5000Hz程度以上の高音周波数領域での吸音率が低いという問題を有するものであった。
【0005】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、広い周波数領域で高い吸音性能を有するゴム構造体を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るゴム構造体は、ゴムチップと、カット糸と、カット糸凝集体が、これらの間に空隙が形成された状態で、接着剤によって結合されていることを特徴とするものである。
【0007】
この発明によれば、ゴムチップとその間の空隙の作用、さらに空隙に露出するカット糸やカット糸凝集体の作用が総合して、広い周波数領域で吸音する吸音特性を示すものであり、特に高音領域において高い吸音率を達成することができるものである。
【0008】
また本発明は、上記の空隙は、体積分率で30〜65%の範囲になるように形成されていることを特徴とするものであり、この構成により、上記の吸音性能をより高く得ることができるものである。
【0009】
また本発明は、上記のゴムチップとして、粒径が異なる2種類以上のものを用いることを特徴とするものであり、この構成により、上記の吸音性能をより高く得ることができるものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ゴムチップとその間の空隙の作用、さらに空隙に露出するカット糸やカット糸凝集体の作用が総合して、広い周波数領域で吸音する吸音特性を有するものであり、特に高音領域において高い吸音率を達成することができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【0012】
本発明においてゴムチップ、カット糸、カット糸凝集体としては、ゴム製品の廃材を粉砕して得られるものを用いることができる。例えば、伝動用や搬送用に用いられるVベルトやVリブドベルトなどにおいては、V型にカットする際にカット屑が廃材として多量に発生し、この廃材にはゴムの他に補強用の繊維が含有されている。従って、このような繊維が含有されているゴムの廃材を粉砕することによって、ゴムチップ、カット糸、カット糸凝集体を得ることができるものであり、廃材を有効再利用することができるうえで、有用である。
【0013】
そしてまず、繊維が含有されているゴムを粉砕する。ここで、ゴムの種類としては、クロロプレンゴムなど任意である。またゴムに補強用に含有されている繊維は、繊維長1〜12mm、繊維径1〜10μm程度の短繊維が一般的であり、綿、ポリアミド繊維、アラミド繊維、ポリエステル繊維など繊維の種類は任意である。さらにベルトに帆布がカバーされている場合には、この帆布の繊維も含むものである。このように繊維が含有されているゴムを粉砕することによって、ゴム粒子であるゴムチップと、繊維が切断されたカット糸が得られる。
【0014】
次にこのようにして得られたゴムチップとカット糸からなる粉砕物をメッシュに通して粒径が大きいゴムチップを除く。ゴムチップの粒径が大きいと、得られたゴム構造体においてゴムチップ間に形成される空隙が大きくなり、吸音特性が低下する。このために本発明では、メッシュとして目開きが6mmのものを用い、メッシュを通過した粒径が6mm以下のゴムチップとカット糸を用いるのが好ましい。目開きが6mmのメッシュを通過したゴムチップは粒径が6mm以下であるが、2〜6mmの粒径のものが大半であり、2〜6mmの粒径のゴムチップは粒径が大きいためにカット糸が埋入されていることが多い。
【0015】
このように目開きが6mmのメッシュを通過させることによって、粒径が6mm以下のゴムチップとカット糸の混合物を得ることができるが、さらにこれを目開きが0.5mmのメッシュに通過させ、粒径が0.5mm以下のゴムチップと、微細なカット糸を除く。このようにして、目開き6mmパス且つ目開き0.5mmオンの、粒径が0.5mmを超え6mm以下のゴムチップとカット糸との混合物を得ることができる。この混合物においてゴムチップとカット糸の質量比率は、特に限定されるものではないが、40:60〜60:40(合計100)の範囲であることが好ましい。
【0016】
一方、このように目開き0.5mmのメッシュに通過させることによって、粒径0.5mm以下のゴムチップと、微細なカット糸が得られるが、この微細なカット糸は静電気等によって集合して絡み合って凝集し、カット糸凝集体となる。例えば、目開き0.5mmのメッシュを通過したものを容器に受ける際に、微細なカット糸は、静電気等の作用で容器の壁面に付着して凝集し、またこれを自然落下や吸引によって収納箱に集める際に、微細なカット糸同士の擦れ合いによる静電気等の作用で凝集するものであり、このようにしてカット糸凝集体が生成されるものである。このようにして得られるカット糸凝集体は直径が1〜5mm程度である。また粒径0.5mm以下のゴムチップは粒径が小さいために一般にカット糸は埋入していない。この目開き0.5mmパスで得られる、粒径0.5mm以下のゴムチップとカット糸凝集体の混合物において、ゴムチップとカット糸凝集体の質量比率は、特に限定されるものではないが、40〜60:60〜40(合計100)の範囲であることが好ましい。
【0017】
そして、上記のように目開き6mmパス且つ目開き0.5mmオンの、粒径が0.5mmを超え6mm以下のゴムチップとカット糸との混合物と、目開き0.5mmパスの、粒径0.5mm以下のゴムチップとカット糸凝集体との混合物を、混合して成形用混合材料を得る。
【0018】
ここで、上記のように繊維が含有されているゴムを粉砕したものを目開き6mmと0.5mmのメッシュに通すことによって、目開き6mmパス且つ目開き0.5mmオンとして得られる混合物(これを材料Aとする)と、目開き0.5mmパスとして得られる混合物(これを材料Bとする)との質量比率は、材料A:材料B=85〜95:15〜5(合計100)程度であり、材料Aの比率が圧倒的に多いが、本発明ではこの比率よりも材料Bの比率が大きくなるように、材料Aと材料Bとを混合するものであり、従って材料Aと材料Bを混合して得られる成形用混合材料には、繊維が含有されているゴムを粉砕したものを目開き6mmのメッシュに通して得られる材料Aと材料Bの比率よりも、材料Bが大きな比率で含有されているものである。材料Aと材料Bの混合比率は、質量比率で50〜80:50〜20(合計100)の範囲が好ましい。
【0019】
この材料Aと材料Bからなる成形用混合材料に、さらに接着剤を混合する。接着剤としては特に限定されるものではなく任意のものを用いることができるが、クロロプレン系接着剤(例えばコニシ株式会社「G17」)、アクリル樹脂系エマルジョン接着剤(例えばコニシ株式会社「ネダボンド」等)、ウレタン樹脂系接着剤(例えばコニシ株式会社「ボンド床職人」等)、酢酸ビニル樹脂系エマルジョン接着剤(例えばコニシ株式会社「ボンド木工用速乾」等)などを使用することができる。接着剤の混合量は特に限定されるものではないが、材料Aと材料Bの混合物に対して、接着剤の固形分が5〜12質量%程度の範囲になるように設定するのが好ましい。材料Aと材料Bと接着剤(固形分)の3成分で配合の質量比率を規定する場合には、46〜76:20〜46:4〜10(合計100)の範囲が好ましい。
【0020】
上記のように材料Aと材料Bと接着剤とを混合した後、これを金型内に充填して成形することによって、ゴムチップと、カット糸と、カット糸凝集体が接着剤によって結合されたゴム構造体を得ることができるものであり、このゴム構造体には、ゴムチップ、カット糸、カット糸凝集体の間において、ゴム構造体の表面で開口する微小な空隙が形成されているものである。図1にこのようにして得られるゴム構造体を模式的に図示する。図1において1はゴムチップ、2はカット糸、3はカット糸凝集体であり、1aは粒径が0.5mmを超え6mm以下のゴムチップ、1bは粒径が0.5mm以下のゴムチップである。そしてこれらの間に空隙4が形成されている。
【0021】
この空隙は、ゴム構造体の見掛けの体積(空隙を含む体積)に対する空隙の体積分率、すなわち空隙率が、30〜65%となるように形成されているのが好ましい。空隙の空隙率は、材料Aと材料Bの混合比率や量、接着剤の配合量、ゴム構造体を成形する際の加圧圧力などで、調整することができる。
【0022】
本発明に係るゴム構造体は、ゴムチップとその間の空隙の作用、さらに空隙に露出するカット糸やカット糸凝集体の作用によって、広い周波数領域で吸音することができるものであり、特に高温領域においても高い吸音率を示すものである。そして空隙の占める割合が30〜65%の範囲であることによって、このような吸音特性を高く得ることができるものである。
【0023】
尚、本発明のゴム構造体は、上記のように吸音材として用いる他に、制振材や断熱材などとして用いることもできるものである。
【実施例】
【0024】
次に、本発明を実施例によって具体的に説明する。
【0025】
(実施例1)
クロロプレンゴムに、繊維長0.1〜6mm、繊維径0.5〜10μmの綿短繊維が5〜10質量%程度含有されている、繊維含有ゴムを粉砕した。
【0026】
そしてこの粉砕物と目開き6mmの開口を有するメッシュに通過させ、さらに目開き0.5mmの開口を有するメッシュに通過させた。このようにして、目開き0.5mmのメッシュの上に残った、粒径が0.5mmを超え6mm以下のゴムチップとカット糸との混合物からなる材料Aと、目開き0.5mmのメッシュを通過した、粒径0.5mm以下のゴムチップとカット糸凝集体との混合物からなる材料Bを得た。この材料Aにおいて、粒径が0.5mmを超え6mm以下のゴムチップとカット糸との質量比率は1:1であり、また材料Bにおいて、粒径0.5mm以下のゴムチップとカット糸凝集体との質量比率は1:1であった。
【0027】
一方、接着剤としてクロロプレンゴム接着剤(コニシ株式会社「G17」:溶剤アセトンとn−ヘキサン、不揮発分30質量%)を用い、アセトンとn−ヘキサンの混合溶媒で希釈した。
【0028】
そして、材料Aと、材料Bと、接着剤(固形分換算)を、質量%の比率で74%:20%:6%となるように配合して、これらを混合した。
【0029】
次にこの成形用混合材料を、135mm×195mm×厚み20mmのキャビティを有する金型に充填し、離型紙を介して金属板を重ねて、5〜74MPa範囲で圧力を調整して油圧プレス機で加圧した状態で5時間維持し、脱型した後に2時間乾燥することによって、板状のゴム構造体を得た。
【0030】
(実施例2〜6)
材料Aと材料Bと接着剤の比率を、表1のように変えるようにした他は、実施例1と同様にして板状のゴム構造体を得た。
【0031】
(実施例7,8)
材料Bをメッシュに通してゴムチップを除去し、カット糸凝集体のみを取り出して用いるようにした。そして材料Aと材料B中のカット糸凝集体と接着剤を表1の量で混合し、後は実施例1と同様にして板状のゴム構造体を得た。
【0032】
(比較例1)
材料Bを用いないようにした他は、実施例1と同様にして板状のゴム構造体を得た。
【0033】
【表1】

【0034】
上記のようして得たゴム構造体について、密度(見掛け密度)と空隙の空隙率を測定した。空隙率の測定は、ゴムチップの密度=1.1g/cm(試料数10個について測定した値の平均値)とゴム構造体の密度との差から近似して算出した。結果を表2に示す。
【0035】
【表2】

【0036】
また上記のようして得たゴム構造体について、垂直入射吸音率を測定した。垂直入射吸音率の測定は、音響管を用いた2マイクロホン法により行ない、音響管はBruel Kjaer Type 4206の大型管及び小型管を使用した。測定範囲は大型管で100〜500Hz、小型管で500〜6400Hzであり、上記のように作製したゴム構造体を大型管用に直径100mmの円板に、小型管用に直径20mmの円板に打ち抜き加工して、音響管にセットした。結果を図2〜図3に示した。
【0037】
表1のように比較例1ではカット糸凝集体が含有されていないので、図3(e)にみられるように、4200〜6000Hzの高音領域で吸音率が0.6を下回るものであり、良好な吸音特性を得ることができないものであった。
【0038】
一方、ゴムチップと、カット糸と、カット糸凝集体を含有する各実施例のものでは、図2(a)〜(d)及び図3(a)〜(d)にみられるように、高音領域を含む広い周波数範囲で吸音率が0.6を超えるものであり、良好な吸音特性を有するものであった。
【0039】
特にゴムチップとして粒径が異なる2種類のものを用いた実施例1〜6においては、実施例1では図2(a)のように1886〜6400Hzの高音領域で吸収率が0.7以上の値を示し、実施例2では図2(b)のように1744〜6400Hzの高音領域で吸収率が0.7以上の値を示し、実施例3では図2(c)のように1848〜6400Hzの高音領域で吸収率が0.7以上の値を示し、実施例4では図2(d)のように1538〜6400Hzの高音領域で吸収率が0.65以上の値を示し、実施例5では図3(a)のように1746〜6400Hzの高音領域で吸収率が0.7以上の値を示し、実施例6では図3(b)のように1868〜6400Hzの高音領域で吸収率が0.7以上の値を示すものであり、いずれも高音領域において高い吸収率を有するものであった。
【0040】
尚、ゴムチップとして直径0.5〜6mmのものだけを用いた実施例7,8では、これらの実施例1〜6と比較して、高音領域での吸音率が劣るものであった。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】ゴム構造体を拡大して示す模式図である。
【図2】吸音率と周波数の関係を示すグラフであり、(a)は実施例1、(b)は実施例2、(c)は実施例3、(d)は実施例4である。
【図3】吸音率と周波数の関係を示すグラフであり、(a)は実施例5、(b)は実施例6、(c)は実施例7、(d)は実施例8、(e)は比較例1である。
【符号の説明】
【0042】
1 ゴムチップ
1a 粒径が0.5mmを超え6mm以下のゴムチップ
1b 粒径が0.5mm以下のゴムチップ
2 カット糸
3 カット糸凝集体
4 空隙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴムチップと、カット糸と、カット糸凝集体が、これらの間に空隙が形成された状態で、接着剤によって結合されていることを特徴とするゴム構造体。
【請求項2】
空隙は、体積分率で30〜65%の範囲になるように形成されていることを特徴とする請求項1に記載のゴム構造体。
【請求項3】
ゴムチップとして、粒径が異なる2種類以上のものを用いることを特徴とする請求項1又は2に記載のゴム構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−265156(P2009−265156A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−111332(P2008−111332)
【出願日】平成20年4月22日(2008.4.22)
【出願人】(000006068)三ツ星ベルト株式会社 (730)
【Fターム(参考)】