説明

ゴム組成物およびそれを用いた空気入りタイヤ

【課題】自動車の燃費を向上させるため、タイヤには低発熱性であることが求められている。この要求を解決するために、例えばタイヤにシリカを配合する手法が知られている。しかしながらシリカは、その粒子表面に存在するシラノール基による水素結合の形成のために凝集する傾向を有し、混練時にゴム組成物のムーニー粘度が高くなり、加工性を悪化させるという問題点があった。このため、ゴム組成物にシリカを十分な量で配合することができず、所望の低発熱性を得ることが困難であった。
【解決手段】少なくともゴム成分と充填剤とを配合してなるゴム組成物において、前記充填剤の少なくとも1種が、構造の一部を糖質類で置換した変性フェノール樹脂によりその表面を被覆したレジンコーテッド充填剤であるゴム組成物と、該ゴム組成物を用いてなる空気入りタイヤにより上記課題を解決した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム組成物およびそれを用いた空気入りタイヤに関するものであり、詳しくは、優れた加工性および低発熱性を有するゴム組成物およびそれを用いた空気入りタイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車の燃費を向上させるため、タイヤには低発熱性であることが求められている。この要求を解決するために、例えばタイヤにシリカを配合する手法が知られている。しかしながらシリカは、その粒子表面に存在するシラノール基による水素結合の形成のために凝集する傾向を有し、混練時にゴム組成物のムーニー粘度が高くなり、加工性を悪化させるという問題点があった。このため、ゴム組成物にシリカを十分な量で配合することができず、所望の低発熱性を得ることが困難であった。
【0003】
なお、下記特許文献1には、糖質類とフェノール類との反応によって得られた変性フェノール樹脂が開示されている。しかしながら特許文献1には、該樹脂で充填剤を被覆し、これをゴム組成物に使用し、加工性を向上し、かつ低発熱性を図るという技術思想は何ら開示または示唆されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−90297号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、優れた加工性および低発熱性を有するゴム組成物およびそれを用いた空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、ゴム成分に特定の変性フェノール樹脂を特定量配合してゴム組成物とし、これに金属製補強コードを埋設させることにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成することができた。
すなわち本発明は以下の通りである。
1.少なくともゴム成分と充填剤とを配合してなるゴム組成物において、
前記充填剤の少なくとも1種が、構造の一部を糖質類で置換した変性フェノール樹脂によりその表面を被覆したレジンコーテッド充填剤であることを特徴とするゴム組成物。
2.前記変性フェノール樹脂中、前記糖質類の置換比率が0.1〜20質量%であることを特徴とする前記1に記載のゴム組成物。
3.前記レジンコーテッド充填剤が、シリカの表面を前記変性フェノール樹脂により被覆したレジンコーテッド充填剤であることを特徴とする前記1または2に記載のゴム組成物。
4.前記1〜3のいずれかに記載のゴム組成物を用いてなる空気入りタイヤ。
【発明の効果】
【0007】
本発明のゴム組成物は、ゴム成分と特定のレジンコーテッド充填剤とを配合したので、優れた加工性を有し、これにより、シリカを多量配合することができ、タイヤに優れた低発熱性を提供できる。またシリカの多量配合により、コストダウンも図れる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】空気入りタイヤの一例の部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
【0010】
図1は、本発明における空気入りタイヤの一例の部分断面図である。
図1において、空気入りタイヤは左右一対のビード部1およびサイドウォール2と、両サイドウォール2に連なるトレッド3からなり、ビード部1、1間に繊維コードが埋設されたカーカス層4が装架され、カーカス層4の端部がビードコア5およびビードフィラー6の廻りにタイヤ内側から外側に折り返されて巻き上げられている。トレッド3においては、カーカス層4の外側に、ベルト層7がタイヤ1周に亘って配置されている。また、ビード部1においてはリムに接する部分にリムクッション8が配置されている。
以下に説明する本発明のゴム組成物は、とくにトレッド部材に有用である。
【0011】
(ゴム成分)
本発明で使用されるゴム成分は、ゴム組成物に配合することができる任意のゴム成分が挙げられ、具体的には、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体ゴム(NBR)等のジエン系ゴムが挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、その分子量やミクロ構造はとくに制限されず、アミン、アミド、シリル、アルコキシシリル、カルボキシル、ヒドロキシル基等で末端変性されていても、エポキシ化されていてもよい。
これらのゴム成分の中でも、本発明の効果の点からSBRおよびBRが好ましい。
【0012】
(レジンコーテッド充填剤)
本発明で使用されるレジンコーテッド充填剤とは、構造の一部を糖質類で置換した変性フェノール樹脂によりその表面が被覆された充填剤である。充填剤としては、シリカ、カーボンブラック、他の無機充填剤等が挙げられる。他の無機充填剤としては、例えばクレー、タルク、炭酸カルシウム等が挙げられる。本発明では、とくに加工性を向上し、かつ低発熱性を図るという観点から、シリカおよび/またはカーボンブラック、とくにシリカを用いてレジンコーテッド充填剤を調製するのが好ましい。
【0013】
(変性フェノール樹脂)
本発明で使用される変性フェノール樹脂は、その構造の一部が糖質類で置換された樹脂である。
本発明で使用される変性フェノール樹脂は、酸性触媒存在下、糖質類と、フェノール類および必要に応じてホルムアルデヒドとの反応によって製造することができる。
糖質類としては、単糖類、2糖類、3糖類、少糖類、多糖類が挙げられる。具体的には、グルコース、フルクトース、マンノース、ガラクトース、アラビノース、キシロース、マルトース、イソマルソース、ラクトース、スクロース、トレハロース、ラフィノース、異性化糖、デキストリン、オリゴ糖、フラクタン、フラクオリゴ糖、澱粉、粗澱粉、アミロース、アミロペクチン、廃棄糖蜜(澱粉かす)などが挙げられる。これらは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
フェノール類としては、例えば、フェノール、クレゾール、キシレノール、プロピルフェノール、ブチルフェノール、ブチルクレゾール、フェニルフェノール、クミルフェノール、メトキシフェノール、ブロモフェノール、ビスフェノールAなどが挙げられる。
酸性触媒としては、例えば、鉱酸類(例えば、塩酸、硫酸等)、有機酸類(例えば、パラトルエンスルホン酸、シュウ酸等)などが挙げられる。
本発明においては、変性フェノール樹脂中、糖質類の置換比率が0.1〜20質量%となるのが本発明の効果の観点から好ましい。この置換比率は、糖質類とフェノール類との反応系において、両者の仕込み比率を適宜変更することにより調整可能である。
この糖質類とフェノール類との反応温度は20〜200℃であることが好ましく、120〜160℃であることがより好ましい。反応温度が20℃以上であれば、充分に反応させることができ、200℃以下であれば、分解を抑制できる。
反応時間は0.5〜20時間であることが好ましく、1〜3時間であることがより好ましい。反応時間が0.5時間以上であれば、高い収率で変性フェノール樹脂を得ることができ、20時間以下であれば、生産性の低下を抑制できる。
なお、該変性フェノール樹脂は、前記特許文献1にも記載され公知である。また市販されているものを利用することができ、例えば群栄化学工業(株)から商品名S−4320 5%、S−4320 10%、S−4320 15%等が挙げられる。
充填剤に被覆する変性フェノール樹脂の量としては、被覆前の充填剤に対して、0.01〜20質量%、さらには、0.05〜10質量%とするのが好ましい。
【0014】
また本発明において、レジンコーテッド充填剤は、ゴム成分100質量部に対して、例えば5〜120質量部、好ましくは5〜90質量部の割合で存在するのが本発明の効果の観点から好ましい。また、レジンコーテッド充填剤以外の充填剤を配合してもよく、レジンコーテッド充填剤およびそれ以外の充填剤の合計配合量を、ゴム成分100質量部に対して、例えば30〜120質量部、好ましくは50〜90質量部のとするのが好ましい。
【0015】
(その他成分)
本発明で使用されるゴム組成物には、前記した成分に加えて、加硫又は架橋剤;加硫又は架橋促進剤;レジンコーテッド充填剤以外の公知の各種充填剤;各種オイル;老化防止剤;可塑剤などのゴム組成物に一般的に配合されている各種添加剤を配合することができ、かかる添加剤は一般的な方法で混練して組成物とし、加硫又は架橋するのに使用することができる。これらの添加剤の配合量も、本発明の目的に反しない限り、従来の一般的な配合量とすることができる。
【0016】
また本発明のゴム組成物は従来の空気入りタイヤの製造方法に従って空気入りタイヤを製造するのに使用することができる。
【実施例】
【0017】
以下、本発明を実施例および比較例によりさらに説明するが、本発明は下記例に制限されるものではない。
【0018】
実施例1〜3および比較例1
サンプルの調製
表1に示す配合(質量部)において、加硫系(加硫促進剤、硫黄)を除く成分を1.7リットルの密閉式バンバリーミキサーで3分間混練した後、ミキサー外に放出させて室温冷却した。続いて、該組成物を同バンバリーミキサーに再度入れ、加硫系を加えて170℃、20分混練し、ゴム組成物を得た。次に得られたゴム組成物を用い、以下に示す試験法で物性を測定した。
【0019】
tanδ(60℃):岩本製作所製、粘弾性スペクトロメーターを用いて、伸長変形歪率10±2%、振動数20Hz、温度60℃で測定した。比較例1の値を100として指数で示した。指数が小さいほど低発熱性であることを示す。
加工性(ムーニー粘度):加硫前のゴム組成物について、JIS K6300に基づき、100℃にて測定した。比較例1の値を100として指数で示した。指数が小さいほど低粘度であり、加工性が良好であることを示す。
結果を表1に併せて示す。
【0020】
【表1】

【0021】
*1:SBR(日本ゼオン(株)製Nipol 1702、油展量=SBR100質量部に対し37.5質量部、スチレン含量23.5%、ビニル含量15%)
*2:BR(日本ゼオン(株)製Nipol 1220)
*3:カーボンブラック(キャボットジャパン(株)製ショウブラックN330T、HAF)
*4:シリカ(日本アエロジル(株)製アエロジルR202)
*5:レジンコーテッド充填剤−1(上記シリカに対し、変性フェノール樹脂(群栄化学工業(株)製S‐4320 5%、糖質類の置換比率=約20質量%)を5質量%の割合で、上記シリカの表面を被覆したもの)
*6:レジンコーテッド充填剤−2(上記シリカに対し、変性フェノール樹脂(群栄化学工業(株)製S‐4320 10%、糖質類の置換比率=約20質量%)を10質量%の割合で、上記シリカの表面を被覆したもの)
*7:レジンコーテッド充填剤−3(上記シリカに対し、変性フェノール樹脂(群栄化学工業(株)製S‐4320 15%、糖質類の置換比率=約20質量%)を15質量%の割合で、上記シリカの表面を被覆したもの)
なお、各実施例は樹脂の量が比較例1と同じになるように、レジンコーテッド充填剤の量を調整した。
*8:フェノール樹脂(群栄化学工業(株)製BPC−20)
*9:酸化亜鉛(正同化学工業(株)製、酸化亜鉛3種)
*10:ステアリン酸(花王(株)製Lunac YA)
*11:老化防止剤(フレキシス社製サントフレックス6PPD)
*12:シランカップリング剤(デグッサ社製Si69、ビス−[3−(トリエトキシシリル)−プロピル]テトラスルフィド)
*13:アロマオイル(出光興産(株)製ダイアナプロセスオイルAH−20)
*14:加硫促進剤−1(三新化学工業(株)製サンセラーCM−G、N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド)
*15:硫黄(5%油展処理硫黄)
*16:加硫促進剤−2(住友化学(株)製ソクシノールDG、1,3−ジフェニルグアニジン)
*17:樹脂硬化剤(BARA CHEMICAL CO., LTD.製スミカノール507A)
【0022】
上記の表1から明らかなように、実施例1〜3で調製されたゴム組成物は、ゴム成分と特定のレジンコーテッド充填剤とを配合したので、レジンコーテッド充填剤を配合していない比較例1に比べ、加工性が向上し、かつ低発熱性である。
【符号の説明】
【0023】
1 ビード部
2 サイドウォール
3 トレッド
4 カーカス層
5 ビードコア
6 ビードフィラー
7 ベルト層
8 リムクッション

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともゴム成分と充填剤とを配合してなるゴム組成物において、
前記充填剤の少なくとも1種が、構造の一部を糖質類で置換した変性フェノール樹脂によりその表面を被覆したレジンコーテッド充填剤であることを特徴とするゴム組成物。
【請求項2】
前記変性フェノール樹脂中、前記糖質類の置換比率が0.1〜20質量%であることを特徴とする請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項3】
前記レジンコーテッド充填剤が、シリカの表面を前記変性フェノール樹脂により被覆したレジンコーテッド充填剤であることを特徴とする請求項1または2に記載のゴム組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のゴム組成物を用いてなる空気入りタイヤ。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2012−224704(P2012−224704A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−92006(P2011−92006)
【出願日】平成23年4月18日(2011.4.18)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】