説明

ゴム組成物および架橋物

【課題】層状化合物が均一に分散し、ガス透過性の低いゴム組成物を提供する。
【解決手段】アミノ基またはピリジニウム基を有する単量体単位を0.1〜20重量%有するニトリルゴム(A)100重量部に対し、イオン交換性層状化合物を1〜30重量部含有してなるゴム組成物であって、前記イオン交換性層状化合物が、前記ニトリルゴム組成物中に均一に分散しているゴム組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、層状化合物を含有するゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
クレイなどの層状化合物を劈開させ、各種ポリマー中に分散させた組成物が、そのポリマーの機械強度を向上させたり、ガス透過性を低下させたりすることが知られている。このような組成物を得る方法として、有機オニウム化合物で有機化したクレイとポリマーとを、(i)溶媒に分散、溶解した後に溶媒を除去するか、(ii)混合後にポリマーの軟化点以上に加熱する方法が開示されている。そして、この方法によりクレイの各種ポリマーへの分散性を向上できること、および得られる組成物では、ポリマーの機械強度が向上し、ガス透過性が低下することが開示されている(特許文献1参照)。しかし、この方法では、有機化剤によるイオン交換工程が複雑で手間がかかり、また、有機化剤によりポリマーが低分子量化して特性が低下するという問題があった。
【0003】
さらにこの技術では、クレイの劈開と得られる組成物中のクレイの分散がまだ不十分であった。この結果、たとえば、得られる組成物を低ガソリン透過性が要求される自動車用燃料ホースに使用した場合に、有機化剤のアルキル鎖がガソリンなどの燃料との親和性を高め、燃料ホースにガソリンが浸透しやすくなるため、ガソリン透過性の低下効果が十分で無く、さらに使用環境の温度が高い場合や、ガソリン中の添加剤が作用することで、ガソリンにより有機化剤として用いたオニウム塩が抽出され、燃料ホースが変性、劣化するという問題があった。
【0004】
また、クレイに代えてハイドロタルサイトなどのアニオン交換性層状化合物を用い、これを有機酸などで有機化し、得られた有機化層状化合物と熱可塑性樹脂とを、溶媒に分散または溶解させた後に溶媒を除去する方法も提案されている(特許文献2参照)。この方法によればポリマーの低分子量化は抑制できるが、有機化剤によるイオン交換工程はやはり煩雑であった。
【0005】
さらに、クレイを有機化せずにゴムに分散させる方法として、クレイおよび正電荷を有する液状ゴムを水性溶媒中で攪拌混合して複合体を得、次いで該複合体と固体状ゴムとを混練してゴム組成物を得る方法も提案されている(特許文献3参照)。しかしながらこの方法では、複合体の形成と、この複合体とゴムを混練りする二段階の工程が必要である。しかも、クレイと液状ゴムとからなる複合体が凝集するため、固体状ゴム中に均一に分散させるのが困難であった。
【0006】
【特許文献1】特開2000−273318号公報
【特許文献2】特開2003−171568号公報
【特許文献3】特公平6−84456号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、上記従来技術の問題点に鑑み、層状化合物が均一に分散し、ガス透過性の低いゴム組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は鋭意検討の結果、下記のゴム組成物により、上記の目的を達成できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
本発明によれば、アミノ基またはピリジニウム基を有する単量体単位を0.1〜20重量%有するニトリルゴム(A)100重量部に対し、イオン交換性層状化合物を1〜30重量部含有してなるニトリルゴム組成物であって、前記イオン交換性層状化合物が、前記ニトリルゴム組成物中に均一に分散しているニトリルゴム組成物が提供される。
【0010】
あるいは、本発明によれば、アミノ基またはピリジニウム基を有する単量体単位を0.1〜20重量%有するニトリルゴム(A)100重量部に対し、イオン交換性層状化合物を1〜30重量部含有してなるニトリルゴム組成物であって、160℃、20分の条件で架橋させ、容量比でイソオクタン:トルエン=50:50である燃料油を用いて測定したガソリン透過係数が、8.5×10−3g・mm/cm・day以下であるニトリルゴム組成物が提供される。
【0011】
また、本発明によれば、上記いずれかのニトリルゴム組成物を架橋してなる架橋物が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、層状化合物が均一に分散し、ガス透過性の低いゴム組成物を、提供することができる。また、本発明のゴム組成物および該ゴム組成物を架橋してなる架橋物は、ガス透過性、特にガソリン透過性に優れることから、燃料ホースやエンジンルーム内の材料をはじめとした自動車部品など広い分野での利用が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明のゴム組成物の製造方法は、少なくとも、イオン性官能基を含有するゴム(A)と、前記イオン性官能基とイオン結合を形成し得るイオン交換性層状化合物をゴム(A)100重量部に対し1〜30重量部とを、前記イオン交換性層状化合物に対して10〜400重量%の水の存在下に、混練することを特徴とする。
本発明者は鋭意検討の結果、カチオン性官能基を含有するニトリルゴムとクレイとを少量の水の存在下に混練することにより、層状化合物が均一に分散し、ガス透過性の低いゴム組成物を、簡略化された工程で工業的有利に製造する方法を提供できること見出し、この知見に基づき本発明のゴム組成物の製造方法を完成させるに至った。
【0014】
ゴム(A)が含有するイオン性官能基としては、アミノ基、ピリジニウム基、イミダゾール基、アミジノ基などのカチオン性官能基;カルボキシル基、ホスホン酸基、ホスフィン酸基、スルホン酸基などのアニオン性官能基;が挙げられる。イオン性官能基はカチオン性官能基であり、かつイオン交換性層状化合物が水膨潤性を有する層状ケイ酸塩であることが好ましい。カチオン性官能基としては、アミノ基およびピリジニウム基が好ましく、アミノ基が特に好ましい。
【0015】
本発明で用いるゴム(A)は、イオン性官能基を含有する限り、その種類は特に限定されない。具体的には、ブタジエンゴム、イソプレンゴム、スチレン・ブタジエンゴム、ニトリルゴム、エピクロルヒドリンゴムおよびアクリルゴムなどが挙げられ、耐油性、耐摩耗性および耐老化性に優れることからニトリルゴムが好ましい。また、ニトリルゴムは水素化物であってもよい。
【0016】
これらのゴムにイオン性官能基を含有させる方法は、常法に従えばよい。例えば、前記のゴムの原料となる単量体と、イオン性官能基またはその前駆体を有する単量体とを共重合させ、必要に応じ変性させる方法が挙げられる。また、前記のゴムに高分子反応によりイオン性官能基を導入してもよい。さらに、ゴム(A)は、イオン性官能基を含有するゴムとイオン性官能基を含有しないゴムとの混合物であってもよい。本発明で用いるゴム(A)において、イオン性官能基を含有する単量体単位の割合は、ゴム(A)全量に対し通常0.1〜20重量%、好ましくは0.5〜10重量%である。
【0017】
本発明で用いるゴム(A)は、ムーニー粘度(ML1+4,100℃)が、好ましくは5〜200、より好ましくは20〜100である。
【0018】
本発明では、前記のイオン性官能基とイオン結合を形成し得るイオン交換性層状化合物を用いる。イオン交換性層状化合物は、イオン結合等によって構成される面が互いに弱い結合力で平行に積み重なった結晶構造をとる化合物であり、含有するイオンが交換可能なものである。
ここで、「イオン性官能基とイオン結合を形成し得るイオン交換性層状化合物」とは、イオン性官能基がカチオン性官能基である場合はカチオン交換性層状化合物を表し、イオン性官能基がアニオン性官能基である場合はアニオン交換性層状化合物を表す。
【0019】
カチオン交換性層状化合物としては、カオリナイトやハロサイトなどのカオリナイト類;モンモリロナイト、バイデライト、サポナイト、ヘクトライト、マイカなどのスメクタイト類;バーミキュライト類;緑泥石類などが挙げられる。中でも、カオリナイト類、スメクタイト類およびバーミキュライト類などの水膨潤性を有する層状ケイ酸塩が好ましく、スメクタイト類がより好ましく、そのなかでもモンモリロナイトが特に好ましい。得られる組成物が機械強度に優れ、ガソリン透過性の低下効果が優れるからである。水膨潤性を有する層状ケイ酸塩は天然物由来のものであっても、天然物に精製などの処理を加えたものであっても、合成品であってもよい。
アニオン交換性層状化合物としては、ハイドロタルサイトなどが挙げられる。
【0020】
イオン交換性層状化合物の使用量は、ゴム(A)100重量部に対し0.1〜30重量部、好ましくは1〜20重量部である。
【0021】
本発明の製造方法では、前記のイオン性官能基を含有するゴム(A)と、イオン交換性層状化合物とを、該イオン交換性層状化合物に対して10〜400重量%、好ましくは50〜300重量%の水の存在下に混練する。本発明において、「水の存在下に混練する」とは、被混練物であるゴム(A)とイオン交換性層状化合物との混合物(以下、単に「混合物」とも言う。)に水が含まれた状態で混練することを表す。すなわち、ゴム(A)および/またはイオン交換性層状化合物として水分を含んだものを混練に用いてもよいし、混練装置にゴム(A)およびイオン交換性層状化合物と共に水を仕込んで混練してもよい。ただし、混練開始時には水が少ない方が混合物に高い剪断力を付与しやすいので、まず乾燥したゴム(A)およびイオン交換性層状化合物を混合し、次いでこの混合物に必要に応じて水を添加して混練を行うのが好ましい。この場合の乾燥したゴム(A)が含有する水分量は好ましくは30重量%以下、より好ましくは15重量%以下であり、イオン交換性層状化合物が含有する水分量は好ましくは20重量%以下、より好ましくは10重量%以下である。また、混練時の発熱等により混合物から水が蒸発する場合は、混練の途中で混練装置内に水を添加して水の量が上記の範囲内となる条件で混練を行うことが好ましい。
【0022】
イオン交換性層状化合物に対して10〜400重量%の水の存在下に混練を行うことにより、イオン交換性層状化合物が劈開し、ゴム(A)中に均一に分散したゴム組成物が得られる。水の量が少なすぎるとイオン交換性層状化合物の劈開が進行し難いために均一な分散が得られない。一方、水の量が多すぎるとイオン交換性層状化合物が膨潤しすぎて混合系の粘性が低下する。このため、混合物に十分な剪断力を付与することが困難になり、やはりイオン交換性層状化合物の分散が不均一になる。
【0023】
水は、酸または塩基を含有していてもよい。酸または塩基としては、有機酸または有機塩基が好ましく、揮発性を有するものがより好ましい。具体的には、揮発性を有する有機酸としてはギ酸および酢酸などが挙げられる。また、揮発性を有する有機塩基としてはアンモニア、水溶性アミノ基含有化合物、水溶性ホスホニウム基含有化合物などが挙げられる。水が酸または塩基を含有することによりゴム組成物中のイオン濃度を調整することができる。イオン濃度は、得られるゴム組成物を架橋する条件などに応じて適宜選択される。
【0024】
混練条件は、混合物に十分な剪断力を付与できる限り、特に限定されない。混練機としては、一軸押出機、二軸押出機などの押出機;ニーダー、バンバリーミキサー、インターナルミキサーなどの密閉型混練機;ロール混練機;などを用いることができる。混練温度は通常30〜200℃、好ましくは50〜150℃であり、混練時間は通常0.5〜8時間である。
【0025】
本発明のゴム組成物は、上記本発明の製造方法により得られるものである。本発明のゴム組成物には、ゴムの分野で一般的な、その他の添加剤を任意成分として添加してもよい。そのような任意の添加剤としては、架橋剤;架橋助剤;架橋促進剤;ヒンダードフェノール系老化防止剤などの各種の老化防止剤;炭酸カルシウム、タルク、ケイ酸カルシウム、カーボンブラック、シリカなどの充填剤;ガラス繊維などの補強材;α,β−エチレン性不飽和カルボン酸金属塩;可塑剤;顔料;などを挙げることができる。
【0026】
本発明のゴム組成物に配合される架橋剤としては、硫黄系架橋剤、有機過酸化物系架橋剤などが例示される。硫黄系架橋剤としては、粉末硫黄、沈降硫黄などの硫黄;4,4’−ジチオモルホリンやテトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、高分子多硫化物など有機硫黄化合物;などが挙げられる。
【0027】
有機過酸化物としては、ジアルキルパーオキサイド類、ジアシルパーオキサイド類、パーオキシエステル類などが挙げられる。ジアルキルパーオキサイド類としては、ジクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)−3−ヘキシン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、1,3−ビス(t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼンなどが挙げられる。ジアシルパーオキサイドとして、ベンゾイルパーオキサイド、イソブチリルパーオキサイドなどが挙げられる。パーオキシエステルとして、2,5−ジメチル−2,5−ビス(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネートなど)などが挙げられる。中でも、ジアルキルパーオキサイド類が好ましい。
【0028】
架橋剤の使用量は、架橋剤の種類により異なるが、ゴム(A)100重量部に対して、好ましくは0.1〜10重量部、より好ましくは0.3〜8重量部、特に好ましくは0.5〜6重量部である。架橋剤の使用量が少なすぎるとゴム弾性に劣る場合があり、多すぎると破断伸びが低下する場合がある。
【0029】
硫黄系架橋剤を用いる場合は、通常、架橋促進剤を併用する。架橋促進剤としては、亜鉛華、グアニジン系架橋促進剤、チアゾール系架橋促進剤、チウラム系架橋促進剤、ジチオ酸塩系架橋促進剤などが挙げられる。これらは、単独または複数種類を併用して使用できる。架橋促進剤の使用量は特に限定されず、架橋物の用途、要求性能、硫黄架橋剤の種類、架橋促進剤の種類などに応じて決めればよい。
【0030】
また、有機過酸化物を用いる場合は、通常、架橋助剤を併用する。架橋助剤としては、トリアリルシアヌレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、N,N’−m−フェニレンビスマレイミドなどが挙げられる。これらは単独で使用しても、複数種を併用してもよく、クレイ、炭酸カルシウム、シリカなどに分散させ、ゴム組成物の加工性を改良したものを使用してもよい。
【0031】
架橋促進剤や架橋助剤の使用量は特に限定されず、架橋物の用途、要求性能、架橋剤の種類、架橋促進剤や架橋助剤の種類などに応じて決めればよい。
【0032】
上記の添加剤の混合方法は特に限定されない。その混合方法は、一般的な添加剤の混合方法でよく、その好ましい例としては、密閉式混合機やオープンロールなどを用いて混練する方法が挙げられる。添加剤の混合は、上記ゴム(A)とイオン交換性層状化合物との混練後に行ってもよいし、本発明の効果を損なわない限り、ゴム(A)とイオン交換性層状化合物との混練の際に添加剤を添加して一括で混合してもよい。
【0033】
本発明の架橋物は、上記の架橋剤等を含有する本発明のゴム組成物を架橋したものである。ゴム組成物を架橋する方法は、特に限定されないが、通常は加熱により架橋する。架橋時の温度は、好ましくは100〜200℃、より好ましくは130〜190℃、特に好ましくは140〜180℃である。温度が低すぎると架橋時間が長くなったり、架橋密度が小さくなったりする場合がある。温度が高すぎる場合は、成形不良になる場合がある。また、架橋時間は、架橋方法、架橋温度、形状などにより異なるが、1分以上、5時間以下の範囲が架橋密度と生産効率の観点から好ましい。
【実施例】
【0034】
以下に実施例により、本発明の具体例を説明する。なお、特に断りのない限り、実施例、比較例における部および%は重量基準である。
実施例および比較例中の試験および評価は以下の方法で行った。
【0035】
(1)組成比
ゴムの単量体組成比は、熱分解ガス・クロマトグラフィーにより測定した。まず既知の組成の水素化ニトリルゴムを用いて作成した検量線よりアクリロニトリル単位および水素化ブタジエン単位の割合を求め、その他の単量体単位の割合は全量(100%)との差として求めた。
【0036】
(2)ムーニー粘度
ゴムのムーニー粘度(ML1+4,100℃)は、JIS K6300に準じて測定した。
【0037】
(3)水分量
混練途中のゴム(A)とイオン交換性層状化合物との混合物の水分量は、加熱減量の測定により測定した。すなわち、混練途中の混合物を少量採取してすぐにその重量を測定する。次いで、採取したサンプルを105℃で4時間乾燥し、乾燥後の重量を測定し、乾燥による重量減を混合物中の水分量とした。測定は水の添加開始から10分後、30分後、60分後、120分後および180分後の5回行い、各実施例および比較例について水分量の最大値および最小値を、用いた層状化合物の量に対する割合(%)として示した。
【0038】
(4)層状化合物の分散性
イオン交換性層状化合物の分散性は、実施例および比較例で得た厚さ1mmのシート状架橋物を目視し、下記の基準により判定した。
○:均一な半透明のシートであり、層状化合物の凝集が認められない。
×:半透明のシート中に点状の不透明部分が見られ、層状化合物の凝集が明確に判別できる。
【0039】
(5)ガス透過性
ガス透過性は、アルミカップ法によるガソリン透過性試験により測定した。容量100mLのアルミカップ中に、一定量の燃料油C(イソオクタン/トルエン=50/50、容積比)を入れ、これに、実施例および比較例で得た厚さ1mmのシート状架橋物で作成した蓋をとりつけ、締め具で固定した。蓋の有効面積は25.5cmであった。蓋をしたアルミカップを40℃の恒温槽内に設置し、1日(24時間)毎の重量の経時変化を10日間にわたり測定した。計10回の測定において、前日からの重量減が最大である日についての、蓋の単位面積・厚さあたりのガソリン透過量としてガソリン透過係数を求めた。ガソリン透過係数が小さいほど、シート状架橋物のガス透過性が小さいことを示す。
【0040】
製造例1
攪拌機付きのオートクレーブにイオン交換水180部、アクリロニトリル37部、アクリル酸2−(ジメチルアミノ)エチル2部、乳化剤としてオレイン酸カリウム2部および分子量調節剤としてt−ドデシルメルカプタン0.5部を仕込んだ。反応器内部を窒素で置換した後、ブタジエン63部を封入した。反応器を5℃に冷却して、重合開始剤としてクメンハイドロパーオキサイド0.1部を添加して重合を開始した。次に反応器を5℃に保ったまま約16時間攪拌して重合反応を行った。その後、反応器内へハイドロキノンの10%水溶液を添加して重合を停止した。重合転化率は90%であった。重合反応液を取り出し、ロータリーエバポレーターで減圧濃縮して重合体を得た。
【0041】
次いで、得られた重合体をアセトンに溶解して濃度15%の溶液とした。オートクレーブに該溶液60部を仕込み、ケイ酸マグネシウムに2%のパラジウムを担持した水素化触媒0.45部を加えた。反応器内を窒素置換し、さらに水素で2回置換した後、水素圧5MPa、50℃で6時間反応させた。水素化反応終了後、ロータリーエバポレーターを用いて減圧下で反応液を濃縮、乾燥して水素化ニトリルゴム(重合体a)を得た。重合体aのムーニー粘度は88、組成比はアクリロニトリル単位36%、水素化ブタジエン単位62%、アクリル酸2−(ジメチルアミノ)エチル単位2%であった。
【0042】
製造例2
アクリル酸2−(ジメチルアミノ)エチル2部に代えて2−ビニルピリジン1.5部を用い、ブタジエンの量を63.5部とした他は、製造例1と同様にして水素化ニトリルゴム(重合体b)を得た。重合体bののムーニー粘度は87、組成比はアクリロニトリル単位37%、水素化ブタジエン単位61%、2−ビニルピリジン単位2%であった。
【0043】
製造例3
アクリル酸2−(ジメチルアミノ)エチルを使用せず、ブタジエンの量を65部とした他は、製造例1と同様にして水素化ニトリルゴム(重合体c)を得た。重合体cのムーニー粘度は85、組成比はアクリロニトリル単位38%、水素化ブタジエン単位62%であった。
【0044】
実施例1
製造例1で得た重合体a100部に、精製モンモリロナイト(クニピアF:クニミネ工業社製)を5部加え、混練機(ラボプラストミル20C200型:東洋精機社製)により105℃で10分間混練した。次いで、混練を継続しながら蒸留水500部を4時間かけて連続的に添加した。添加速度は2〜4部/分の範囲で、蒸発する水分を補いつつ回転トルクが0にならないように調整した。蒸留水の添加終了後に120℃に昇温して30分混練を継続することで乾燥し、ゴム組成物を得た。
【0045】
得られたゴム組成物105部に、架橋剤としてα,α'−ビス(t−ブチルパーオキシ)−p−ジイソプロピルベンゼン(バルカップ40KE:ハーキュレス社製)2.5部および老化防止剤(ナウガード445:白石カルシウム社製)1部を混合し、ロールで混練して架橋性ゴム組成物とした。得られた架橋性ゴム組成物を、6インチロールを用いて、厚さ1mmの未架橋シートにした。未架橋シートを、160℃で20分の間熱プレスで加熱することにより架橋し、厚さ1mmのシート状架橋物を得た。得られた架橋物中の層状化合物の分散状態を判断したところ、良好(○)であった。また、燃料透過係数は6.9×10−3g・mm/cm・日であった。結果を表1に示す。
【0046】
【表1】

【0047】
実施例2
重合体a100部に代えて、製造例2で得た重合体b100部を用いた他は、実施例1と同様にしてゴム組成物およびシート状架橋物を得た。得られた架橋物中の層状化合物の分散状態および燃料透過係数を測定した結果を表1に示す。
【0048】
実施例3
重合体a90部と、末端にアミノ基を有する液状ニトリルゴム(HYCAR ATBN1300×16:宇部興産社製)10部とをメチルイソブチルケトンに溶解し、ロータリーエバポレーターを用いて減圧下で濃縮、乾燥してゴム混合物を得た。重合体a100部に代えて、上記で得たゴム混合物100部を用いた他は、実施例1と同様にしてゴム組成物およびシート状架橋物を得た。得られた架橋物中の層状化合物の分散状態および燃料透過係数を測定した結果を表1に示す。
【0049】
比較例1
精製モンモリロナイトおよび蒸留水を用いない他は、実施例1と同様にしてゴム組成物およびシート状架橋物を得た。得られた架橋物中の層状化合物の分散状態および燃料透過係数を測定した結果を表1に示す。
【0050】
比較例2
蒸留水を添加しない他は、実施例1と同様にしてゴム組成物およびシート状架橋物を得た。得られた架橋物中の層状化合物の分散状態および燃料透過係数を測定した結果を表1に示す。
【0051】
比較例3
重合体a100部に代えて、製造例3で得た重合体c100部を用いた他は、実施例1と同様にしてゴム組成物およびシート状架橋物を得た。得られた架橋物中の層状化合物の分散状態および燃料透過係数を測定した結果を表1に示す。
【0052】
以上の結果より、本発明の方法で製造したゴム組成物を用いると、層状化合物が均一に分散し、ガス透過性の小さい架橋シートを得ることができる(実施例1〜3)。一方、層状化合物を添加せずに作成した架橋シートはガス透過性が大きい(比較例1)。また、混練時に水を添加せずに製造したゴム組成物を用いると、得られる架橋シートは層状化合物の分散が不均一で、ガス透過性も低減できない(比較例2)。さらに、イオン性官能基を含有しないゴムを用いてゴム組成物を製造すると、該ゴム組成物を用いて作成した架橋シートは層状化合物の分散は良好だが、ガス透過性は依然高いものであった(比較例3)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミノ基またはピリジニウム基を有する単量体単位を0.1〜20重量%有するニトリルゴム(A)100重量部に対し、イオン交換性層状化合物を1〜30重量部含有してなるゴム組成物であって、
前記イオン交換性層状化合物が、前記ニトリルゴム組成物中に均一に分散しているゴム組成物。
【請求項2】
アミノ基またはピリジニウム基を有する単量体単位を0.1〜20重量%有するニトリルゴム(A)100重量部に対し、イオン交換性層状化合物を1〜30重量部含有してなるゴム組成物であって、
160℃、20分の条件で架橋させ、容量比でイソオクタン:トルエン=50:50である燃料油を用いて測定したガソリン透過係数が、8.5×10−3g・mm/cm・day以下であるゴム組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載のゴム組成物を架橋してなる架橋物。

【公開番号】特開2008−115402(P2008−115402A)
【公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−15140(P2008−15140)
【出願日】平成20年1月25日(2008.1.25)
【分割の表示】特願2004−12385(P2004−12385)の分割
【原出願日】平成16年1月20日(2004.1.20)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】