説明

ゴム組成物及びその製造方法

【課題】セルロース系繊維からなる補強充填材のゴム成分への分散性及び補強性を高めて十分な耐久性及び剛性を発揮するゴム組成物及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】ゴム成分中に、セルロースナノ繊維を含むゴム組成物において、該セルロース繊維の−OH基の水素結合を阻害するために、該−OH基の一部又は全部をマスク剤でマスクしてあること、またセルロースナノ繊維は、平均繊維径が1〜1000nmの範囲にあり、平均繊維長さが0.1〜100μmの範囲にある等の特徴を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム組成物及びその製造方法に関するものであり、より詳細には、補強充填材である繊維のゴム成分中での分散性を高め、耐久性及び剛性に優れた補強ゴム及びそれを用いたタイヤ等のゴム製品を提供することのできるゴム組成物及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
タイヤ製品等のゴムは一般に、カーボンブラック、シリカ等の粒状無機補強材を添加して、その強度及び剛性を高めている。しかし、このような粒状無機補強材はその形状に起因する理由でその補強性能に限界が見られる。そこで、ゴムの補強材として短繊維を選択して硬度やモジュラスなどを向上させる技術が提案されている(例えば、特許文献1を参照)。また、0.5〜1000μmのアラミド短繊維を含むマスターバッチをタイヤゴムに利用することが提案されている(例えば、特許文献2を参照)。更に、ゴムにセルロース繊維を複合化させたゴム組成物が提案されている(例えば、特許文献3を参照)。
【特許文献1】特開平10−7811号公報
【特許文献2】特開2001−164052号公報
【特許文献3】特開2006−206864号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、繊維、例えばセルロース系繊維をゴム補強材とした場合、親水性のセルロースと疎水性のゴムを複合化させたものでは、補強材のゴムへの分散性が悪く十分な耐久性及び剛性を発揮できない。また繊維/ゴム界面の補強性も十分ではない。このため、ゴムが機械的応力を受けた場合に、繊維の離脱、或いは剥離が起こり、十分な強度及び耐久性が得られない。
従って、本発明は、セルロース系繊維からなる補強充填材のゴム成分への分散性及び補強性を高めて十分な耐久性及び剛性を発揮するゴム組成物及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討したところ、セルロース系繊維として、平均繊維径がナノオーダのセルロースナノ繊維をゴムの補強材とすると共に、かかる補強材において、その分散性を高めるために補強材であるセルロースナノ繊維中の−OH基(フリーの水酸基)をマスク剤でマスキングしてなることにより、ゴム成分への分散性を高め、特に、マスク化にアセチル化等のエステル結合を適用することにより、ゴム成分との界面での分散性を一層高め、その結果、補強性を高めることが期待できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0005】
即ち、本発明に係るゴム組成物及びその製造方法は、以下の(1)乃至(8)に記載される構成或いは手段を特徴とするものである。
【0006】
(1).ゴム成分中に、セルロースナノ繊維を含むゴム組成物において、該セルロース繊維の−OH基の水素結合を阻害するために、該−OH基の一部又は全部をマスク剤でマスクしてあることを特徴とするゴム組成物。
【0007】
(2).上記セルロースナノ繊維は、平均繊維径が1〜1000nmの範囲にあり、平均繊維長さが0.1〜100μmの範囲にある上記(1)記載のゴム組成物。
(3).上記セルロースナノ繊維はゴム成分100質量部に対して、1〜50の範囲で含まれる上記(1)又は(2)記載のゴム組成物。
(4).上記マスク剤によるマスクが、脂肪酸のエステル結合によるものである上記(1)〜(3)に記載のゴム組成物。
(5).上記脂肪酸の炭素数が1〜17の範囲にある上記(4)に記載のゴム組成物。
(6).上記繊維は、繊維中の総−OH基の67%以上がマスク剤でマスクされている上記(1)〜(5)に記載のゴム組成物。
【0008】
(7).上記(1)〜(6)に記載のゴム組成物の製造方法において、ゴムラテックスと、水に分散させた上記繊維のスラリーとを混合した後、混合液を乾燥して水を除去して得ることを特徴とするゴム組成物の製造方法。
(8).上記スラリー中のセルロースナノ繊維は、予め繊維の−OH基の水素結合を阻害するために、該−OH基の一部又は全部をマスク剤でマスクしてあること特徴とする上記(7)記載のゴム組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明のゴム組成物は、親水性であるセルロースナノ繊維と疎水性であるゴム成分との分散性を良好にすることが可能となる。即ち、セルロースナノ繊維の−OH基部分をアセチル化物又はアルキル化物でマスク、即ち−OH基の水素結合能を阻害させることにより、繊維同士の凝集を防止し、ゴム成分との相溶性を高め、繊維とゴムの補強性を向上させ、強度を増大させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明に係る好ましい実施をするための最良形態を詳述する。尚、本発明は以下の実施形態及び実施例に限るものではない。
本発明に係るゴム組成物は、ゴム成分に、平均繊維径がナノオーダのセルロースナノ繊維及び分散剤を含む。
【0011】
本発明に係るゴム組成物のゴム成分は特に限定されないが、タイヤ製品等に使用することができるものとしては、例えば、以下のゴム成分を挙げることができる。
ゴム成分は大別して、天然ゴム、及び合成ゴムから選択され、両者を混合使用しても良い。合成ゴムは、特に制限はなく、公知のものの中から目的に応じて適宜選択することができ、ジエン系ゴムが好ましく、スチレン−ブタジエン共重合体(SBR)、ポリイソプレン(IR)、ポリブタジエン(BR)、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、及びブチルゴム等がある。
【0012】
本発明に係るゴム組成物に配合されるセルロースナノ繊維は、平均繊維径が1〜1000nmの範囲で、平均繊維長さが0.1〜100μmの範囲であることが好ましい。特に、セルロースナノ繊維の平均繊維径が1〜500nmの範囲で、平均繊維長さが5〜50μmの範囲であることが更に好ましい。平均繊維粒径及び平均繊維長さが上記範囲未満の場合はその分散性が低下し、また上記範囲を超えると補強性能が低下する。
ここで、平均繊維径及び平均繊維長さは、繊維をエチレングリコール溶液中に分散させ、細孔電気抵抗法(コールター原理法)により計測する。
また、上記セルロースナノ繊維はゴム成分100質量部に対して、1〜50質量部の範囲、特に、3〜20質量部の範囲で含まれることが好ましい。繊維の量が少ないと補強効果が十分でなく、逆に多いとゴムの加工性が悪くなってくる。
【0013】
本発明のゴム組成物に配合されるセルロースナノ繊維は−OH基部分がマスク化されている。マスク剤としてはとしては無水酢酸によるOH基の水素原子をアセチル基置換する反応をはじめとした脂肪酸化合物や塩化アセチル等のアセチル化剤が挙げられる。反応溶媒としては、水、アルコール、アセトニトリル、DMF、THF、エーテル等の溶媒が用いられる。特に、脂肪酸化合物を用いたマスク法では、硫酸等の酸性触媒を用いることができる。
【0014】
上記脂肪酸化合物の炭素数は、1〜17個の範囲、特に、1〜6個の範囲であるもとが好ましい。炭素数が上記範囲を超えると、−OH基との反応率が悪くなる。
また、−OH基の水素結合能を阻害する限り、その炭素鎖中に、酸素、窒素、硫黄等の原子、その他のハロゲン原子が含まれていて良い。但し、これらはゴム成分との相溶性から酸素など水素結合能を有する原子を含まないことが好ましい。
【0015】
本発明にあっては、上記セルロースナノ繊維は、繊維中の総−OH基の67%以上がマスク剤でマスクされていることが好ましい。上記セルロースナノ繊維を構成するグルコース単位が持つ3個の−OH基のうち2〜3項がマスク剤でマスクされていることが好ましい。即ち、マスク化度(アセチル化においてはアセチル化度)が2.0以上であることが好ましい。上記範囲未満では、セルロースナノ繊維が可溶化するため、ナノ繊維の形態を保持することができない。
ここでマスク化度、特にアセチル化度の評価については、’H−NMRスペクトルにおけるδ値が2ppm付近にアセチル基のメチル基の水素に帰属可能なシグナル、および3〜5ppm付近に、セルロースの構造単位であるグルコースが持つ5つの炭素と1つの炭素による6員環を構成する炭水化物(ピラノース骨格)に帰属可能なシグナルから算定して同定することができる。
【0016】
このような処理により、図1で示すセルロース構造分子の−OHが図2に示すように、セルロースナノ繊維同士の水素結合の凝集をマスク剤が防止するため、繊維とゴムの補強性、密着性が向上し、強度を増大させることができる。
【0017】
次に、本発明においてゴム組成物を製造するには、先ず、ナノセルロース繊維を上記方法に従ってアセチル化等して繊維中の−OH基をマスクする。次に、上記繊維を水に分散させた後に、叩解させ、オリフィスを通過させ、適宜機械的せん断を加えて、高圧ホモジナイザーなどで分散させてスラリー化する。実際には各種繊維径の繊維が市販されており、本発明ではこれらを水中にスラリー化して用いる。かかる場合のスラリーにおける上記繊維の濃度は製造操作上、水100質量部に対して、0.1〜3質量部の範囲であることが好ましい。
【0018】
本発明に従ってゴムラテックス及び繊維のスラリーを混合する方法には特に限定はなく、例えばホモジナイザー、ロータリー撹拌装置、電磁撹拌装置、プロペラ式撹拌装置等の一般的方法によることができる。
本発明において、混合液から水を除去するのには、例えば、オーブン乾燥、凍結乾燥、噴露乾燥などの一般的方法によることができる。
本発明における上記混合液の固形分濃度には特に限定はないが、40質量%以下であるのが好ましく、更に5〜15質量部の範囲にあるのが好ましい。この固形分濃度が40質量%を超えると、混合液の粘度が高くなり過ぎ、繊維の分散性が低下する。
【0019】
本発明のゴム組成物は、上記の配合成分の他に、ゴム工業で通常使用されている種々の成分を含むことができる。例えば、種々の成分として、充填剤(例えば、シリカ等の補強性充填剤;並びに炭酸カルシウム及び炭酸カルシウムなどの無機充填剤);加硫促進剤;老化防止剤;酸化亜鉛;ステアリン酸;軟化剤;及びオゾン劣化防止剤等の添加剤を挙げることができる。なお、加硫促進剤として、M(2−メルカプトベンゾチアゾール)、DM(ジベンゾチアジルジスルフィド)及びCZ(N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド)等のチアゾール系加硫促進剤;TT(テトラメチルチウラムスルフィド)等のチウラム系加硫促進剤;並びにDPG(ジフェニルグアニジン)等のグアニジン系の加硫促進剤等を挙げることができる。
【0020】
具体的には、ゴム組成物はゴム成分100質量部に対して硫黄を7.0質量部以下に配合することができる。特に、3.0〜7.0質量部の範囲、更に好ましくは4.0〜6.0質量部の範囲である。ゴム組成物はゴム成分100質量部に対して有機酸コバルト塩を1.0質量部以下に配合することができる。特に、0.05〜1.0質量部の範囲、更に好ましくは0.3〜〜0.8質量部の範囲である。上記コバルト有機酸塩としては、ナフテン酸コバルト、ロジン酸コバルト、或いは炭素数が5乃至20程度の直鎖状或いは分岐鎖のモノカルボン酸コバルト塩等を挙げることができる。
またゴム組成物に、上記ゴム成分100質量部に対してカーボンブラックが40質量部以上、更には40乃至100質量部、特に、50乃至100質量部配合させることが好ましい。カーボンブラックは、通常ゴム業界で用いられるものから適宜選択することができ、例えば、SRF、GPF、FER、HAF、ISAF等を挙げることができるが、中でもGPF、HAFが物性とコストのバランスの面から好ましい。
【0021】
以上の如く構成されるゴム組成物にあっては、セルロースナノ繊維の配合により、スラリーでの分散性が均一となり、ゴムへの分散性が高まる。特に水素結合能構造が十分に阻止され、また、マスク剤自体が疎水性である場合は分散性及びゴムへの親和性、補強性が高まり、補強性が一層向上することができる。
【実施例】
【0022】
次に、実施例、比較例により、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに制約されるものではない。
【0023】
天然ゴムラテックス(固形分濃度:60質量%)200g、セルロース繊維スラリー(ダイセル化学社製「セリッシュ」:平均繊維径100nm、平均繊維長45μm、固形分濃度:5質量%)を以下のマスク剤を用いてマスクし、かかる繊維300g、水1000gを、高速混合ホモジナイザー中で毎秒3000回転で5分間混合し、セルロース・天然ゴム混合溶液を得た。
これをバットに展開し、温度100℃オーブン中にて乾燥固化させ、セルロース繊維複合天然ゴムを得た(繊維複合ゴム)。
繊維複合ゴムのゴム成分100質量部に対して、下記の表1に示す構成により、ラボ混練機により通常の混練を行い、得られた混合物を加圧プレス加硫し、厚さ2mmのゴムシートを得た。
<評価試験>
ゴムシートを所定のダンベルにて打ち抜いてサンプル片を作成し、サンプル片についてASTM D412に準じた加硫ゴムの引張り試験を行い、破断応力と破断歪みを測定した。測定値は、比較例1の値を100として、それぞれの実施例の値をそのインデックス表示としたものである。
<マスク剤によるマスク方法>
上記セルロース繊維スラリー300gと、150gの無水酢酸、150gの酢酸及び1gの硫酸を加え、この混合物を70℃の温水で15分間、攪拌混合の後、中和させることで得られる。
【0024】
【表1】

【0025】
表中の注1;旭カーボン社製のファーネスブラックHAF、注2;大内新興化学社製のノクセラーDM、注3;大内新興化学社製のノクセラーNS。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明のゴム組成物は、セルロース系繊維からなる補強材のゴム成分への分散性及び補強性を高めて十分な耐久性及び剛性を発揮できる産業上の利用可能性の高いものである。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】図1は、一般的なセルロース分子構造を示す図である。
【図2】図2は、セルロースナノ繊維及びそのマスク剤の結合関係図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム成分中に、セルロースナノ繊維を含むゴム組成物において、
該セルロース繊維の−OH基の水素結合を阻害するために、該−OH基の一部又は全部をマスク剤でマスクしてあることを特徴とするゴム組成物。
【請求項2】
上記セルロースナノ繊維は、平均繊維径が1〜1000nmの範囲にあり、平均繊維長さが0.1〜100μmの範囲にある請求項1記載のゴム組成物。
【請求項3】
上記セルロースナノ繊維はゴム成分100質量部に対して、1〜50の範囲で含まれる請求項1又は2記載のゴム組成物。
【請求項4】
上記マスク剤によるマスクが、脂肪酸のエステル結合によるものである請求項1〜3の何れかの項に記載のゴム組成物。
【請求項5】
上記脂肪酸の炭素数が1〜17の範囲にある請求項4に記載のゴム組成物。
【請求項6】
上記繊維は、繊維中の総−OH基の67%以上がマスク剤でマスクされている請求項1〜5の何れかの項に記載のゴム組成物。
【請求項7】
上記請求項1〜6の何れかの項に記載のゴム組成物の製造方法において、ゴムラテックスと、水に分散させた上記繊維のスラリーとを混合した後、混合液を乾燥して水を除去して得ることを特徴とするゴム組成物の製造方法。
【請求項8】
上記スラリー中のセルロースナノ繊維は、予め繊維の−OH基の水素結合を阻害するために、該−OH基の一部又は全部をマスク剤でマスクしてあること特徴とする請求項7記載のゴム組成物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−249449(P2009−249449A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−97070(P2008−97070)
【出願日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】