説明

ゴム組成物及びそれを用いた空気入りタイヤ

【課題】タイヤのトレッド部の少なくとも接地部分に用いることで、タイヤに優れた氷上性能及びウェット性能を付与することが可能なゴム組成物を提供する。
【解決手段】ゲル浸透クロマトグラフィーで測定したポリスチレン換算重量平均分子量が150,000以上の天然ゴム及び合成ジエン系ゴムの内の少なくとも一種からなるゴム成分(A)に対して、分子中に少なくとも1つの官能基を有し、芳香族ビニル化合物の結合量が5質量%未満の芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体又は共役ジエン化合物重合体であって、ゲル浸透クロマトグラフィーで変性停止なしの状態を測定したポリスチレン換算重量平均分子量が2,000〜50,000の低分子量重合体(B)を配合してなるゴム組成物であって、該ゴム組成物のゴムマトリクス中に気泡を含有させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム組成物及び該ゴム組成物をトレッド部の少なくとも接地部分に用いた空気入りタイヤに関し、特にスタッドレスタイヤに用いることで、タイヤの氷上性能及びウェット性能を向上させることが可能なゴム組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、スタッドレスタイヤのトレッド部に適用するゴム組成物は、低温(ここで、低温とは、氷雪上走行時の温度であり、−20〜0℃程度である)での柔軟性を確保するため、ブタジエンゴム(BR)や天然ゴム(NR)等のガラス転移温度(Tg)が低いポリマーを用いたものが多い。しかしながら、ブタジエンゴムや天然ゴム等のガラス転移温度が低いポリマーを配合したゴム組成物は、通常、tanδが低く、タイヤに十分なグリップ性能を与え難い。加えて、通常走行時の湿潤路面上においては、十分な摩擦係数が得られず、該ゴム組成物を用いたスタッドレスタイヤは、通常走行時の湿潤路面におけるグリップ性能(ウェット性能)を改良することが困難であった。
【0003】
これに対して、これまで、トレッドゴム自体の摩擦力を向上させる種々の技術が開発されてきた。かかる技術として、例えば、ゴム成分に発泡剤を配合したゴム組成物をトレッドゴムに用い、適当な方法で発泡させ、ゴム成分からなるマトリクス中に気泡を生成させる手法が知られている。該手法により得られるトレッドゴムの表面は、多数の気孔で覆われているため、氷雪路面に対する除水効果及びエッジ効果が発現して、摩擦力が向上できる。
【0004】
例えば、特開平9−194640号公報(特許文献1)には、ウェット性能及び氷上でのグリップ性能(氷上性能)を向上させる技術として、ゴム成分に対し、発泡剤及び重量平均分子量が数万の液状ポリマーを配合する手法が開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開平9−194640号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特開平9−194640号公報に記載の液状ポリマーを用いた場合、ウェット性能は向上するものの、ガラス転移温度が比較的高い液状ポリマーを用いると、低温での柔軟性が低下するため、用いる液状ポリマーは、ガラス転移温度が比較的低いものに限定されてしまう。また、本発明者らが検討したところ、特開平9−194640号公報に開示の技術をもってしても、依然としてタイヤの氷上性能には改善の余地があることが分かった。
【0007】
そこで、本発明の目的は、上記従来技術の問題を解決し、タイヤのトレッド部の少なくとも接地部分に用いることで、タイヤに優れた氷上性能及びウェット性能を付与することが可能なゴム組成物を提供することにある。また、本発明の他の目的は、該ゴム組成物をトレッド部の少なくとも接地部分に用いた、氷上性能及びウェット性能に優れた空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、特定の重量平均分子量を有するゴム成分(A)に対して、少なくとも一つの官能基を有し、特定の重量平均分子量及び芳香族ビニル化合物の結合量を有する低分子量重合体(B)を配合し、ゴムマトリクス中に気泡を含有させることで、得られたゴム組成物の−20℃での貯蔵弾性率(E')が低下し、タイヤの氷上性能が大幅に改善できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
即ち、本発明のゴム組成物は、ゲル浸透クロマトグラフィーで測定したポリスチレン換算重量平均分子量が150,000以上の天然ゴム及び合成ジエン系ゴムの内の少なくとも一種からなるゴム成分(A)に対して、分子中に少なくとも1つの官能基を有し、芳香族ビニル化合物の結合量が5質量%未満の芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体又は共役ジエン化合物重合体であって、ゲル浸透クロマトグラフィーで変性停止なしの状態を測定したポリスチレン換算重量平均分子量が2,000〜50,000の低分子量重合体(B)を配合してなるゴム組成物であって、該ゴム組成物がゴムマトリクス中に気泡を含有していることを特徴とする。
【0010】
なお、「変性停止なしの状態を測定」とは、重合反応終了後に変性剤を添加して変性反応、又は分子量ジャンプなどが発生する高分子量体同士をカップリング反応をすることなく、アルコール等の停止剤により活性末端を失活させる事により重合体を得、該重合体を測定することを意味する。このことは、開始剤に窒素等を含む官能基が含まれる場合も同様である。
【0011】
本発明のゴム組成物において、前記低分子量重合体(B)は、ゲル浸透クロマトグラフィーで変性停止なしの状態を測定したポリスチレン換算重量平均分子量が2,000〜30,000であるのが好ましい。
【0012】
本発明のゴム組成物の好適例においては、前記ゴム組成物中の気泡率が5〜35%である。
【0013】
本発明のゴム組成物の他の好適例においては、前記ゴム成分(A)に対して、前記低分子量重合体(B)と共に発泡剤(C)を配合してなる。
【0014】
本発明のゴム組成物の他の好適例においては、前記低分子量重合体(B)の官能基が、窒素含有官能基又はスズ含有官能基である。ここで、前記低分子量重合体(B)が、窒素含有化合物又はスズ含有化合物で変性されたものであることが好ましい。また、前記スズ含有化合物は、下記式(I):
1aSnXb ・・・(I)
[式中、R1は、それぞれ独立して炭素数1〜20のアルキル基、炭素数3〜20のシクロアルキル基、炭素数6〜20のアリール基及び炭素数7〜20のアラルキル基からなる群から選択され;Xは、それぞれ独立して塩素又は臭素であり;aは0〜3で、bは1〜4で、但し、a+b=4である]で表される変性停止剤であることが好ましい。
【0015】
本発明のゴム組成物の他の好適例においては、前記低分子量重合体(B)の官能基が、窒素含有官能基又はスズ含有官能基である場合、前記窒素含有官能基は、下記式(II):
【化1】

[式中、R2は、それぞれ独立して炭素数1〜12のアルキル基、シクロアルキル基又はアラルキル基である]で表される置換アミノ基、及び下記式(III):
【化2】

[式中、R3は、3〜16のメチレン基を有するアルキレン基、置換アルキレン基、オキシアルキレン基又はN-アルキルアミノ-アルキレン基を示す]で表される環状アミノ基からなる群から選択されることが好ましい。
【0016】
本発明のゴム組成物の他の好適例においては、前記低分子量重合体(B)が、ブタジエン単独重合体又は芳香族ビニル化合物−ブタジエン共重合体である。ここで、前記低分子量重合体(B)の芳香族ビニル化合物部分としては、スチレンが好ましい。
【0017】
本発明のゴム組成物は、前記ゴム成分(A)100質量部に対して、前記低分子量重合体(B)を1〜60質量部配合してなることが好ましい。
【0018】
本発明のゴム組成物が、前記ゴム成分(A)に対して、前記低分子量重合体(B)と共に発泡剤(C)を配合してなる場合、前記発泡剤(C)としては、アゾジカルボンアミド、ジニトロソペンタメチレンテトラミン、アゾビスイソブチロニトリル、トルエンスルホニルヒドラジド及びトルエンスルホニルヒドラジド誘導体が好適に挙げられる。この場合において、本発明のゴム組成物は、前記ゴム成分(A)100質量部に対して、前記発泡剤(C)を1〜20質量部配合した後、加硫・発泡させることが好ましい。
【0019】
本発明のゴム組成物の好適例においては、前記ゴム成分(A)100質量部に対して、更に充填剤を20〜100質量部配合してなる。ここで、前記充填剤としては、カーボンブラック及び/又はシリカが好ましい。
【0020】
本発明のゴム組成物の好適例においては、加硫後にクロロホルムで48時間抽出したクロロホルム抽出量が、前記低分子量重合体(B)の配合した全質量に対し60質量%以上である。
【0021】
また、本発明の空気入りタイヤは、上記ゴム組成物をトレッド部の少なくとも接地部分に用いたことを特徴とする。ここで、該空気入りタイヤとしては、スタッドレスタイヤが好ましく、乗用車用スタッドレスタイヤが特に好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、特定の重量平均分子量を有するゴム成分(A)に対して、少なくとも一つの官能基を有し、特定の重量平均分子量及び芳香族ビニル化合物の結合量を有する低分子量重合体(B)を配合してなり、ゴムマトリクス中に気泡を含有し、タイヤのトレッド部の少なくとも接地部分に用いることで、タイヤに優れた氷上性能及びウェット性能を付与することが可能なゴム組成物を提供することができる。また、かかるゴム組成物をトレッド部の少なくとも接地部分に適用した、氷上性能及びウェット性能に優れた空気入りタイヤを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下に、本発明を詳細に説明する。本発明のゴム組成物は、ゲル浸透クロマトグラフィーで測定したポリスチレン換算重量平均分子量が150,000以上の天然ゴム及び合成ジエン系ゴムの内の少なくとも一種からなるゴム成分(A)に対して、分子中に少なくとも1つの官能基を有し、芳香族ビニル化合物の結合量が5質量%未満の芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体又は共役ジエン化合物重合体であって、ゲル浸透クロマトグラフィーで変性停止なしの状態を測定したポリスチレン換算重量平均分子量が2,000〜50,000の低分子量重合体(B)を配合してなるゴム組成物であって、該ゴム組成物がゴムマトリクス中に気泡を含有していることを特徴とする。
【0024】
本発明のゴム組成物は、ゴムマトリクス中に気泡を含有するため、氷雪路面に対する除水効果及びエッジ効果により、ウェット性能及び氷上性能が高い。加えて、本発明のゴム組成物においては、分子中に少なくとも1つの官能基を有し、芳香族ビニル化合物の結合量が5質量%未満の芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体又は共役ジエン化合物重合体であって、ゲル浸透クロマトグラフィーで変性停止なしの状態を測定したポリスチレン換算重量平均分子量が2,000〜50,000の低分子量重合体(B)を適用することで、充填剤の分散性が改良されて、破壊特性が向上し、更に、−20℃での貯蔵弾性率(E')が低下するため、氷上でのグリップ性能(氷上性能)を大幅に向上できる。なお、貯蔵弾性率(E')の温度分散測定の結果から、ウェット性能や氷上性能に影響を与える低温領域での貯蔵弾性率(E')の低減効果が、氷雪上でない通常走行時のハンドリングに影響を及ぼす50℃付近の温度領域に比べて顕著であることが確認できる。また、ゴム成分(A)に低分子量重合体(B)を配合してなるゴム組成物は、液状ポリマーが本来有する効果により、高いウェット性能を有している。従って、本発明のゴム組成物を空気入りタイヤのトレッド部の少なくとも接地部分に用いることにより、氷上性能及びウェット性能の両方を大幅に向上させることができる。
【0025】
本発明のゴム組成物のゴム成分(A)は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で測定したポリスチレン換算重量平均分子量が150,000以上であることを要し、200,000〜2,000,000であることが好ましい。上記ゴム成分(A)の重量平均分子量を上記特定範囲にすれば、低分子量重合体(B)を配合する際にゴム組成物のムーニー粘度の低下や、破壊特性及び耐摩耗性の低下を抑制しつつ、優れた加工性を得ることができる。
【0026】
上記ゴム成分(A)は、天然ゴム(NR)及び合成ジエン系ゴムの内の少なくとも一種からなり、該ゴム成分(A)としては、未変性のゴム及び変性ゴムのいずれを用いてもよい。ここで、合成ジエン系ゴムとしては、乳化重合又は溶液重合で合成されたものが好ましい。また、上記合成ジエン系ゴムとして、具体的には、ポリイソプレンゴム(IR)、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、ポリブタジエンゴム(BR)、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)、クロロプレンゴム(CR)、イソブチレンイソプレンゴム(IIR)、ハロゲン化ブチルゴム、アクリロニリトル−ブタジエンゴム(NBR)等が挙げられる。上記ゴム成分(A)としては、天然ゴム、ポリイソプレンゴム、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム、ポリブタジエンゴム、イソブチレンイソプレンゴムが好ましい。なお、上記ゴム成分(A)は、一種単独で用いてもよいし、二種以上をブレンドして用いてもよい。
【0027】
上記低分子量重合体(B)は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で変性停止なしの状態を測定したポリスチレン換算重量平均分子量が2,000〜50,000であることを要し、2,000〜30,000であることが更に好ましく、2,000〜20,000であることが一層好ましい。ポリスチレン換算重量平均分子量が上記特定範囲内である低分子量重合体(B)を配合したゴム組成物をタイヤのトレッド部の少なくとも接地部分に用いた場合、ウェット性能を向上させることができる。ここで、上記低分子量重合体(B)の変性停止なしの状態でのポリスチレン換算重量平均分子量が2,000未満では、破壊強度が低下してしまい、一方、50,000を超えると、ゴム組成物の加工性が悪化する。なお、上記低分子量重合体(B)が変性剤で変性された重合体である場合、変性後のゲル浸透クロマトグラフィーで測定したポリスチレン換算重量平均分子量は2,000〜300,000程度であることが好ましい。
【0028】
上記低分子量重合体(B)は、分子中に少なくとも一種の官能基を有する。ここで、低分子量重合体(B)は、窒素含有化合物又はスズ含有化合物で変性され、窒素含有官能基又はスズ含有官能基を導入したものが好ましい。分子中に少なくとも一種の官能基を有する低分子量重合体(B)をゴム組成物に配合することで、充填剤の分散性を向上させ、更に、−20℃での貯蔵弾性率(E')を低減することができる。
【0029】
上記低分子量重合体(B)は、単量体である芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物とを共重合、又は単量体である共役ジエン化合物を単独重合して製造される。詳細には、上記低分子量重合体(B)は、(1)該単量体を重合開始剤を用いて(共)重合させ、重合活性部位を有する(共)重合体を生成させた後、該重合活性部位を各種変性剤で変性する方法や、(2)該単量体を官能基を有する重合開始剤を用いて(共)重合させる方法で製造することができる。更に、上記方法を組み合わせてもよい。ここで、重合活性部位を有する(共)重合体は、アニオン重合により製造されたものであっても、配位重合により製造されたものであってもよい。また、芳香族ビニル化合物としては、スチレン、p-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、α-メチルスチレン、クロロメチルスチレン、ビニルトルエン等が挙げられ、これらの中でも、スチレンが好ましい。一方、共役ジエン化合物としては、1,3-ブタジエン、イソプレン、1,3-ペンタジエン、2,3-ジメチルブタジエン等が挙げられ、これらの中でも、1,3-ブタジエンが好ましい。従って、上記低分子量重合体(B)が共役ジエン化合物の単独重合体である場合には、ブタジエン単独重合体であることが好ましく、一方、芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物との共重合体である場合には、スチレン−ブタジエン共重合体が好ましい。
【0030】
上記低分子量重合体(B)が、芳香族ビニル化合物の結合量が5質量%未満であることを要する。芳香族ビニル化合物の結合量が5質量%未満であれば、低温での貯蔵弾性率(E')を低く保つことができ、さらに、低ガラス転移温度(Tg)のポリマーは耐摩耗性を向上させることができる。
【0031】
また、上記低分子量重合体(B)は、共役ジエン化合物部分のビニル結合量が0〜80質量%であることが好ましい。共役ジエン化合物部分のビニル結合量が80質量%を超えると、低温での弾性率が大幅に上昇し、氷上性能を悪化してしまう。
【0032】
アニオン重合で重合活性部位を有する(共)重合体を製造する場合、重合開始剤としては、アルカリ金属化合物ないしはアルカリ金属アミド化合物を用いることが好ましく、リチウム化合物を用いることが更に好ましい。該リチウム化合物としては、ヒドロカルビルリチウム及びリチウムアミド化合物等が挙げられる。重合開始剤としてヒドロカルビルリチウムを用いる場合、重合開始末端にヒドロカルビル基を有し、他方の末端が重合活性部位である(共)重合体が得られる。一方、重合開始剤としてリチウムアミド化合物を用いる場合、重合開始末端に窒素含有官能基を有し、他方の末端が重合活性部位である(共)重合体が得られ、該(共)重合体は、変性剤で変性しなくても、本発明における重合体(B)として用いることができる。なお、重合開始剤としてのアルカリ金属化合物又はアルカリ金属アミド化合物の使用量は、単量体100g当り0.2〜100mmolの範囲が好ましい。
【0033】
上記ヒドロカルビルリチウムとしては、エチルリチウム、n-プロピルリチウム、イソプロピルリチウム、n-ブチルリチウム、sec-ブチルリチウム、tert-オクチルリチウム、n-デシルリチウム、フェニルリチウム、2-ナフチルリチウム、2-ブチル-フェニルリチウム、4-フェニル-ブチルリチウム、シクロヘキシルリチウム、シクロペンチルリチウム、ジイソプロペニルベンゼンとブチルリチウムとの反応生成物等が挙げられ、これらの中でも、エチルリチウム、n-プロピルリチウム、イソプロピルリチウム、n-ブチルリチウム、sec-ブチルリチウム、tert-オクチルリチウム、n-デシルリチウム等のアルキルリチウムが好ましく、n-ブチルリチウムが特に好ましい。
【0034】
一方、上記リチウムアミド化合物としては、リチウムヘキサメチレンイミド、リチウムピロリジド、リチウムピペリジド、リチウムヘプタメチレンイミド、リチウムドデカメチレンイミド、リチウムジメチルアミド、リチウムジエチルアミド、リチウムジプロピルアミド、リチウムジブチルアミド、リチウムジヘキシルアミド、リチウムジヘプチルアミド、リチウムジオクチルアミド、リチムジ-2-エチルヘキシルアミド、リチウムジデシルアミド、リチウム-N-メチルピペラジド、リチウムエチルプロピルアミド、リチウムエチルブチルアミド、リチウムメチルブチルアミド、リチウムエチルベンジルアミド、リチウムメチルフェネチルアミド、N−リチオモルフォリン、N−メチルホモピペラジン、N−エチルホモピペラジン、N−ブチルホモピペラジン、等が挙げられ、これらの中でも、リチウムヘキサメチレンイミド、リチウムピロリジド、リチウムピペリジド、リチウムヘプタメチレンイミド、リチウムドデカメチレンイミド等の環状のリチウムアミド化合物が好ましく、リチウムヘキサメチレンイミド及びリチウムピロリジドが特に好ましい。好ましい実施の態様としては、特許(SOL特許を引用)に開示されているような可溶化成分(SOL)の存在下、あるいは特許(SOLなしアミン構造限定特許を引用)に開示されているように可溶化成分の不存在下でリチウムアミド化合物をあらかじめ生成させた後に、重合開始剤として用いることもできるし、特許(InSitu特許を引用)に開示されているように、事前調整なしに重合系中で(in situで)リチウムアミド化合物を生成させて重合開始剤として用いることもできる。
【0035】
上記リチウムアミド化合物として、下記式(II):
【化3】

[式中、R2は、それぞれ独立して炭素数1〜12のアルキル基、シクロアルキル基又はアラルキル基である]で表される置換アミノ基、又は下記式(III):
【化4】

[式中、R3は、3〜16のメチレン基を有するアルキレン基、置換アルキレン基(置換基はC1-C16の炭化水素基)、オキシアルキレン基又はN-アルキルアミノ-アルキレン基を示し、アルキレン基の炭素原子間は架橋があってもなくてもよい]で表される環状アミノ基で表されるリチウムアミド化合物を用いることで、式(II)で表される置換アミノ基及び式(III)で表される環状アミノ基からなる群から選択される少なくとも一種の窒素含有官能基が導入された低分子量重合体(B)が得られる。また、別の例として、窒素含有官能基は、DMI、NMPなどの尿素化合物、DEABなどのジアルキルアミノ基で置換されたケトン化合物、ジエチルアミノベンズアルデヒドなどのジアルキルアミノ基で置換されたアルデヒド化合物、Schiff塩基化合物などのC=N二重結合を有する化合物、イソシアネート基含有化合物、チオイソシアネート基含有化合物等を用いて導入することができ、更には、窒素含有置換基をもつヒドロカルビルオキシシラン化合物等から選ばれる変性停止剤を重合活性末端を有する状態の重合体(リビングポリマー)と反応させることにより得られる官能基であることが好ましい。また更に、2-ビニルピリジンや4−(N,N-ジメチルアミノ)メチルスチレンなどの窒素含有官能基を有する重合可能なビニル化合物ないしは共役ジエン化合物との反応によっても導入することができる。
【0036】
上記式(II)において、R2は、炭素数1〜12のアルキル基、シクロアルキル基又はアラルキル基であり、具体的には、メチル基、エチル基、ブチル基、オクチル基、シクロヘキシル基、3-フェニル-1-プロピル基及びイソブチル基等が好適に挙げられる。なお、R2は、それぞれ同じでも異なってもよい。
【0037】
上記式(III)において、R3は、3〜16個のメチレン基を有するアルキレン基、置換アルキレン基、オキシアルキレン基又はN-アルキルアミノ-アルキレン基である。各炭素原子の間には架橋があってもなくてもよい。ここで、置換アルキレン基には、一置換から八置換のアルキレン基が含まれ、置換基としては、炭素数1〜12の鎖状若しくは分枝状アルキル基、シクロアルキル基、ビシクロアルキル基、アリール基及びアラルキル基が挙げられる。また、R3として、具体的には、トリメチレン基、テトラメチレン基、ヘキサメチレン基、オキシジエチレン基、N-メチルアザジエチレン基、N-ブチルアザジエチレン基等のN-アルキルアザジエチレン基、ドデカメチレン基及びヘキサデカメチレン基等が好ましい。
【0038】
上記リチウムアミド化合物は、二級アミンとリチウム化合物から予備調製して重合反応に用いてもよいが、重合系中で生成させてもよい。ここで、二級アミンとしては、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジブチルアミン、ジオクチルアミン、ジシクロヘキシルアミン、ジイソブチルアミン等の他、ピロリジン、ピペリジン、アザシクロヘプタン(即ち、ヘキサメチレンイミン)、N−メチルホモピペラジン、N−ブチルホモピペラジン、モルフォリン、ドデカメチレンイミン、2-(2-エチルヘキシル)ピロリジン、3-(2-プロピル)ピロリジン、3,5-ビス(2-エチルヘキシル)ピペリジン、4-フェニルピペリジン、7-デシル-1-アザシクロトリデカン、3,3-ジメチル-1-アザシクロテトラデカン、4-ドデシル-1-アザシクロオクタン、4-(2-フェニルブチル)-1-アザシクロオクタン、3-エチル-5-シクロヘキシル-1-アザシクロヘプタン、4-ヘキシル-1-アザシクロヘプタン、9-イソアミル-1-アザシクロヘプタデカン、2-メチル-1-アザシクロヘプタデセ-9-エン、3-イソブチル-1-アザシクロドデカン、2-メチル-7-t-ブチル-1-アザシクロドデカン、5-ノニル-1-アザシクロドデカン、8-(4'-メチルフェニル)-5-ペンチル-3-アザビシクロ[5.4.0]ウンデカン、1-ブチル-6-アザビシクロ[3.2.1]オクタン、8-エチル-3-アザビシクロ[3.2.1]オクタン、1-プロピル-3-アザビシクロ[3.2.2]ノナン、3-(t-ブチル)-7-アザビシクロ[4.3.0]ノナン、1,5,5-トリメチル-3-アザビシクロ[4.4.0]デカン等の環状アミンが挙げられる。一方、リチウム化合物としては、上記ヒドロカルビルリチウムを用いることができる。
【0039】
上記アルカリ金属化合物等を重合開始剤として、アニオン重合により(共)重合体を製造する方法としては、特に制限はなく、例えば、重合反応に不活性な炭化水素溶媒中で、共役ジエン化合物と芳香族ビニル化合物との混合物を重合させることで共重合体を製造することができる。ここで、重合反応に不活性な炭化水素溶媒としては、プロパン、n-ブタン、イソブタン、n-ペンタン、イソペンタン、n-ヘキサン、シクロヘキサン、プロペン、1-ブテン、イソブテン、トランス-2-ブテン、シス-2-ブテン、1-ペンテン、2-ペンテン、1-ヘキセン、2-ヘキセン、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、二種以上を混合して用いてもよい。
【0040】
上記アニオン重合は、ランダマイザーの存在下で実施してもよい。該ランダマイザーは、重合体の共役ジエン化合物部分のミクロ構造を制御することができ、より具体的には、重合体の共役ジエン化合物部分のビニル結合量を制御したり、重合体中の共役ジエン化合物単位と芳香族ビニル化合物単位とをランダム化する等の作用を有する。上記ランダマイザーとしては、ジメトキシベンゼン、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ビステトラヒドロフリルプロパン、トリエチルアミン、ピリジン、N-メチルモルホリン、N,N,N',N'-テトラメチルエチレンジアミン、1,2-ジピペリジノエタン、カリウム-t-アミレート、カリウム-t-ブトキシド、ナトリウム-t-アミレート等が挙げられる。これらランダマイザーの使用量は、重合開始剤1モル当り0.01〜100モル当量の範囲が好ましい。
【0041】
上記アニオン重合は、溶液重合で実施することが好ましく、重合反応溶液中の上記単量体の濃度は、5〜50質量%の範囲が好ましく、10〜30質量%の範囲が更に好ましい。また、重合形式は特に限定されず、回分式でも連続式でもよい。
【0042】
上記アニオン重合の重合温度は、0〜150℃の範囲が好ましく、20〜130℃の範囲が更に好ましい。また、該重合は、発生圧力下で実施できるが、通常は、使用する単量体を実質的に液相に保つのに十分な圧力下で行うことが好ましい。ここで、重合反応を発生圧力より高い圧力下で実施する場合、反応系を不活性ガスで加圧することが好ましい。また、重合に使用する単量体、重合開始剤、溶媒等の原材料は、水、酸素、二酸化炭素、プロトン性化合物等の反応阻害物質を予め除去したものを用いることが好ましい。
【0043】
上記重合活性部位を有する(共)重合体の重合活性部位を変性剤で変性するにあたって、使用する変性剤としては、窒素含有化合物及びスズ含有化合物が好ましい。この場合、変性反応により、窒素含有官能基又はスズ含有官能基を導入することができる。
【0044】
上記変性剤として用いることができる窒素含有化合物は、置換若しくは非置換のアミノ基、アミド基、イミノ基、イミダゾール基、ニトリル基又はピリジル基を有することが好ましい。該変性剤として好適な窒素含有化合物としては、ジフェニルメタンジイソシアネート、クルードMDI、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート等のイソシアネート化合物,4-(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、4-(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、4-ジメチルアミノベンジリデンアニリン、4-ジメチルアミノベンジリデンブチルアミン、ジメチルイミダゾリジノン、N-メチルピロリドン等が挙げられる。
【0045】
また、上記変性剤としては、下記式(IV):
【化5】

[式中、Aは、(チオ)イソシアネート、イミン、アミド、イソシアヌル酸トリエステル、環状三級アミン、非環状三級アミン、ニトリル及びピリジンの中から選ばれる少なくとも一種の官能基を有する一価の基で;R4は単結合又は二価の不活性炭化水素基で;R5及びR6は、それぞれ独立に炭素数1〜20の一価の脂肪族炭化水素基又は炭素数6〜18の一価の芳香族炭化水素基で;nは0〜2の整数であり;OR6が複数ある場合、複数のOR6はたがいに同一でも異なっていてもよく;また分子中には活性プロトン及びオニウム塩は含まれない]で表される窒素含有ヒドロカルビルオキシシラン化合物及びその部分縮合物も好ましい。
【0046】
式(IV)において、Aにおける官能基の中で、イミンはケチミン、アルジミン、アミジンを包含し、非環状三級アミンは、N,N-二置換アニリン等のN,N-二置換芳香族アミンを包含し、また環状三級アミンは、環の一部として(チオ)エーテルを含むことができる。
【0047】
4のうちの二価の不活性炭化水素基としては、炭素数1〜20のアルキレン基が好ましい。該アルキレン基は直鎖状,枝分かれ状,環状のいずれであってもよいが、特に直鎖状のものが好適である。該直鎖状アルキレン基としては、メチレン基,エチレン基,トリメチレン基,テトラメチレン基,ペンタメチレン基,ヘキサメチレン基,オクタメチレン基,デカメチレン基,ドデカメチレン基等が挙げられる。
【0048】
また、R5及びR6としては、炭素数1〜20のアルキル基,炭素数2〜18のアルケニル基,炭素数6〜18のアリール基,炭素数7〜18のアラルキル基等が挙げられる。ここで、上記アルキル基及びアルケニル基は直鎖状,枝分かれ状,環状のいずれであってもよく、例えば、メチル基,エチル基,n-プロピル基,イソプロピル基,n-ブチル基,イソブチル基,sec-ブチル基,tert-ブチル基,ペンチル基,ヘキシル基,オクチル基,デシル基,ドデシル基,シクロペンチル基,シクロヘキシル基,ビニル基,プロぺニル基,アリル基,ヘキセニル基,オクテニル基,シクロペンテニル基,シクロヘキセニル基等が挙げられる。また、上記アリール基は、芳香環上に低級アルキル基等の置換基を有していてもよく、例えば、フェニル基,トリル基,キシリル基,ナフチル基等が挙げられる。更に、上記アラルキル基は、芳香環上に低級アルキル基等の置換基を有していてもよく、例えば、ベンジル基,フェネチル基,ナフチルメチル基等が挙げられる。
【0049】
式(IV)において、nは0〜2の整数であるが、0が好ましく、また、この分子中には活性プロトン及びオニウム塩を有しないことが必要である。
【0050】
式(IV)で表されるヒドロカルビルオキシシラン化合物としては、例えば、イミン基含有ヒドロカルビルオキシシラン化合物として、N-(1,3-ジメチルブチリデン)-3-(トリエトキシシリル)-1-プロパンアミン,N-(1-メチルエチリデン)-3-(トリエトキシシリル)-1-プロパンアミン,N-エチリデン-3-(トリエトキシシリル)-1-プロパンアミン,N-(1-メチルプロピリデン)-3-(トリエトキシシリル)-1-プロパンアミン,N-(4-N,N-ジメチルアミノベンジリデン)-3-(トリエトキシシリル)-1-プロパンアミン,N-(シクロヘキシリデン)-3-(トリエトキシシリル)-1-プロパンアミン及びこれらのトリエトキシシリル化合物に対応するトリメトキシシリル化合物,メチルジエトキシシリル化合物,エチルジエトキシシリル化合物,メチルジメトキシシリル化合物,エチルジメトキシシリル化合物等を挙げることができるが、これらの中でも、N-(1-メチルプロピリデン)-3-(トリエトキシシリル)-1-プロパンアミン及びN-(1,3-ジメチルブチリデン)-3-(トリエトキシシリル)-1-プロパンアミンが特に好ましい。
【0051】
更に、イミン(アミジン)基含有化合物としては、1-[3-(トリエトキシシリル)プロピル]-4,5-ジヒドロイミダゾール,1-[3-(トリメトキシシリル)プロピル]-4,5-ジヒドロイミダゾール,N-(3-トリエトキシシリルプロピル)-4,5-ジヒドロイミダゾール,N-(3-イソプロポキシシリルプロピル)-4,5-ジヒドロイミダゾール,N-(3-メチルジエトキシシリルプロピル)-4,5-ジヒドロイミダゾール等が挙げられ、これらの中でも、N-(3-トリエトキシシリルプロピル)-4,5-ジヒドロイミダゾールが好ましい。
【0052】
また、イソシアネート基含有化合物としては、3-イソシアナトプロピルトリメトキシシラン、3-イソシアナトプロピルトリエトキシシラン、3-イソシアナトプロピルメチルジエトキシシラン、3-イソシアナトプロピルトリイソプロポキシシランなどが挙げられ、これらの中でも、3-イソシアナトプロピルトリエトキシシランが好ましい。
【0053】
更に、環状三級アミン基含有ヒドロカルビルオキシシラン化合物としては、3-(1-ヘキサメチレンイミノ)プロピル(トリエトキシ)シラン,3-(1-ヘキサメチレンイミノ)プロピル(トリメトキシ)シラン,(1-ヘキサメチレンイミノ)メチル(トリメトキシ)シラン,(1-ヘキサメチレンイミノ)メチル(トリエトキシ)シラン,2-(1-ヘキサメチレンイミノ)エチル(トリエトキシ)シラン,2-(1-ヘキサメチレンイミノ)エチル(トリメトキシ)シラン,3-(1-ピロリジニル)プロピル(トリエトキシ)シラン,3-(1-ピロリジニル)プロピル(トリメトキシ)シラン,3-(1-ヘプタメチレンイミノ)プロピル(トリエトキシ)シラン,3-(1-ドデカメチレンイミノ)プロピル(トリエトキシ)シラン,3-(1-ヘキサメチレンイミノ)プロピル(ジエトキシ)メチルシラン,3-(1-ヘキサメチレンイミノ)プロピル(ジエトキシ)エチルシラン,3-[10-(トリエトキシシリル)デシル]-4-オキサゾリン等が挙げられ、これらの中でも、3-(1-ヘキサメチレンイミノ)プロピル(トリエトキシ)シラン及び(1-ヘキサメチレンイミノ)メチル(トリメトキシ)シランが好ましい。
【0054】
また更に、非環状三級アミン基含有ヒドロカルビルオキシシラン化合物としては、3-ジメチルアミノプロピル(トリエトキシ)シラン,3-ジメチルアミノプロピル(トリメトキシ)シラン,3-ジエチルアミノプロピル(トリエトキシ)シラン,3-ジエチルアミノプロピル(トリメトキシ)シラン,2-ジメチルアミノエチル(トリエトキシ)シラン,2-ジメチルアミノエチル(トリメトキシ)シラン,3-ジメチルアミノプロピル(ジエトキシ)メチルシラン,3-ジブチルアミノプロピル(トリエトキシ)シラン等が挙げられ、これらの中でも、3-ジエチルアミノプロピル(トリエトキシ)シラン及び3-ジメチルアミノプロピル(トリエトキシ)シランが好ましい。
【0055】
また、その他の窒素含有ヒドロカルビルオキシシラン化合物としては、2-(トリメトキシシリルエチル)ピリジン、2-(トリエトキシシリルエチル)ピリジン、2-シアノエチルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0056】
上記式(IV)のヒドロカルビルオキシシラン化合物は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。また、上記ヒドロカルビルオキシシラン化合物の部分縮合物も用いることができる。
【0057】
また、上記変性剤として用いることができるスズ含有化合物は、下記式(I):
1aSnXb ・・・(I)
[式中、R1は、それぞれ独立して炭素数1〜20のアルキル基、炭素数3〜20のシクロアルキル基、炭素数6〜20のアリール基及び炭素数7〜20のアラルキル基からなる群から選択され;Xは、それぞれ独立して塩素又は臭素であり;aは0〜3で、bは1〜4で、但し、a+b=4である]で表される変性停止剤であることが好ましい。なお、式(I)の変性停止剤で変性して得られる低分子量重合体(B)は、スズ−炭素結合を有する。
【0058】
式(I)のR1として、具体的には、メチル基、エチル基、n-ブチル基、ネオフィル基、シクロヘキシル基、n-オクチル基、2-エチルヘキシル基等が挙げられる。また、式(I)の変性停止剤として、具体的には、SnCl4、R1SnCl3、R12SnCl2、R13SnCl等が好ましく、SnCl4が特に好ましい。なお、式(I)の変性停止剤は、一種単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0059】
上記変性剤による重合活性部位の変性反応は、溶液反応で行うことが好ましく、該溶液中には、重合時に使用した単量体が含まれていてもよい。また、変性反応の反応形式は特に制限されず、バッチ式でも連続式でもよい。更に、変性反応の反応温度は、反応が進行する限り特に限定されず、重合反応の反応温度をそのまま採用してもよい。なお、変性剤の使用量は、(共)重合体の製造に使用した重合開始剤1molに対し、0.25〜3.0molの範囲が好ましく、0.5〜1.5molの範囲が更に好ましい。
【0060】
本発明のゴム組成物においては、上記ゴム成分(A)100質量部に対して、上記低分子量重合体(B)を1〜60質量部の割合で配合することが好ましい。重合体(B)の配合量が1質量部未満では、タイヤの氷上性能及びウェット性能を十分に改良することができず、一方、60質量部を超えると、加硫ゴムの破壊特性及び耐摩耗性が低下する傾向がある。
【0061】
本発明のゴム組成物においては、加硫後にクロロホルムで48時間抽出したクロロホルム抽出量が、上記低分子量重合体(B)の配合した全質量に対し60質量%以上であることが好ましい。ここで、クロロホルム抽出量(質量%)とは、ゴム組成物を加硫して得た加硫ゴムをクロロホルムにより48時間抽出することで、重合体(B)の配合した全質量に対する抽出した重合体(B)の割合を求めた値である。
【0062】
本発明のゴム組成物は、ゴムマトリクス中に気泡を含有する。本発明おいて、ゴムマトリクス中に気泡を含有するゴム組成物は、例えば、通常のゴム配合物に予め発泡剤(C)を加えて混練し、得られたゴム組成物を通常の条件で加硫することにより、発泡剤(C)が発泡し、気泡が形成される。ここで、ゴム組成物中の気泡率(Vs)は、5〜35%の範囲であるのが好ましい。気泡率が5%未満であると、氷上性能が低下し、35%を超えると、破壊特性及び耐摩耗性が低下する傾向がある。
【0063】
上記気泡率(Vs)(%)は、下記式(V):
Vs={(ρ0−ρg)/(ρ1−ρg)−1}×100 ・・・(V)
[式中、ρ1はゴム組成物の密度(g/cm3)、ρ0はゴム組成物における固相部の密度(g/cm3)、ρgはゴム組成物における気泡部の密度(g/cm3)である]により算出できる。また、気泡部の密度ρgは無視できる程度に小さいので、上記気泡率(Vs)(%)を、下記式(VI):
Vs=(ρ0/ρ1−1)×100 ・・・(VI)
により算出してもよい。
【0064】
本発明のゴム組成物に用いることができる発泡剤(C)としては、アゾジカルボンアミド、ジニトロソペンタメチレンテトラミン、アゾビスイソブチロニトリル、トルエンスルホニルヒドラジド、トルエンスルホニルヒドラジド誘導体等が好適に挙げられる。また、これら発泡剤(C)は、一種単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、本発明のゴム組成物においては、上記ゴム成分(A)100質量部に対して、上記発泡剤(C)を1〜20質量部の割合で配合することが好ましく、2〜10質量部の割合で配合することが更に好ましい。
【0065】
また、上記発泡剤(C)には、発泡助剤として、尿素、ステアリン酸亜鉛、ベンゼンスルフィン酸亜鉛、亜鉛華等を併用するのが好ましい。これら発砲助剤は、一種単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。発泡助剤を併用することにより、発泡反応を促進して反応の完結度を高め、経時的に不要な劣化を抑制することができる。
【0066】
本発明のゴム組成物においては、更に充填剤を上記ゴム成分(A)100質量部に対して20〜100質量部の割合で配合することが好ましい。充填剤の配合量が20質量部未満では、加硫ゴムの破壊特性及び耐摩耗性が十分でなく、一方、100質量部を超えると、作業性が悪化する傾向がある。ここで、充填剤としては、カーボンブラック及びシリカが好ましい。なお、カーボンブラックとしては、FEF,SRF,HAF,ISAF,SAFグレードのものが好ましく、HAF,ISAF,SAFグレードのものが更に好ましい。一方、シリカとしては、湿式シリカ及び乾式シリカ等が好ましく、湿式シリカが更に好ましい。これら補強性の充填剤は、一種単独で用いてもよいし、二種以上を混合して用いてもよい。
【0067】
本発明のゴム組成物には、上記ゴム成分(A)、低分子量重合体(B)、発泡剤(C)、発泡助剤、充填剤の他に、ゴム工業界で通常使用される配合剤、例えば、軟化剤、老化防止剤、シランカップリング剤、加硫促進剤、加硫促進助剤、加硫剤等を、本発明の目的を害しない範囲内で適宜選択して配合することができる。これら配合剤としては、市販品を好適に使用することができる。上記ゴム組成物は、ゴム成分(A)に、低分子量重合体(B)と、必要に応じて適宜選択した各種配合剤とを配合して、混練り、熱入れ、押出等することにより製造することができる。
【0068】
本発明の空気入りタイヤは、上記ゴム組成物をトレッド部の少なくとも接地部分に用いたことを特徴とする。上記ゴム組成物をトレッド部の少なくとも接地部分に用いたタイヤは、氷上性能及びウェット性能に優れる。従って、本発明の空気入りタイヤを、スタッドレスタイヤ、特に乗用車用スタッドレスタイヤに用いるのが好ましい。なお、本発明の空気入りタイヤは、上述のゴム組成物をトレッド部の少なくとも接地部分に用いる以外特に制限は無く、常法に従って製造することができる。また、該タイヤに充填する気体としては、通常の或いは酸素分圧を調整した空気の他、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガスを用いることができる。
【実施例】
【0069】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0070】
<重合体(B-1)の製造例>
乾燥し、窒素置換した800mLの耐圧ガラス容器に、シクロへキサン300g、1,3-ブタジエン50gを加え、更にn-ブチルリチウム(n-BuLi)5.28mmolを加えた後、50℃で2時間重合反応を行った。この際の重合転化率は、ほぼ100%であった。その後、重合反応系に、2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール(BHT)のイソプロパノール溶液(BHT濃度:5質量%)0.5mLを加えて、重合反応を停止させ、更に常法に従って乾燥して重合体(B-1)を得た。
【0071】
<重合体(B-2)〜(B-4)の製造例>
乾燥し、窒素置換した800mLの耐圧ガラス容器に、シクロへキサン300g、1,3-ブタジエン50gを加え、更にn-ブチルリチウム(n-BuLi)5.28mmolを加えた後、50℃で2時間重合反応を行った。この際の重合転化率は、ほぼ100%であった。次に、重合反応系に、変性剤として表1に示す変性剤を表1に示す量速やかに加え、更に50℃で30分間変性反応を行った。その後、重合反応系に、2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール(BHT)のイソプロパノール溶液(BHT濃度:5質量%)0.5mLを加えて、重合反応を停止させ、更に常法に従って乾燥して重合体(B-2)〜(B-4)を得た。
【0072】
<重合体(B-5)の製造例>
重合開始剤として、n-ブチルリチウム(n-BuLi)に代えて、インサイチューで調製したリチウムヘキサメチレンイミド[HMI−Li;ヘキサメチレンイミン(HMI)/リチウム(Li)モル比=0.9]をリチウム当量で5.28mmol用いる以外は、上記重合体(B-1)と同様にして、重合体(B-5)を得た。
【0073】
<重合体(B-6)の製造例>
重合開始剤として、n-ブチルリチウム(n-BuLi)に代えて、インサイチューで調製したリチウムヘキサメチレンイミド[HMI−Li;ヘキサメチレンイミン(HMI)/リチウム(Li)モル比=0.9]をリチウム当量で5.28mmol用いる以外は、上記重合体(B-2)と同様にして、重合体(B-6)を得た。
【0074】
上記のようにして製造した重合体(B-1)〜(B-6)の重量平均分子量(Mw)、ミクロ構造、結合スチレン量を下記の方法で測定した。結果を表1及び表2に示す。
【0075】
(1)重量平均分子量(Mw)
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー[GPC:東ソー製HLC−8020、カラム:東ソー製GMH−XL(2本直列)、検出器:示差屈折率計(RI)]で単分散ポリスチレンを基準として、各重合体の変性停止なしの状態でのポリスチレン換算重量平均分子量(Mw)を求めた。
【0076】
(2)ミクロ構造及び結合スチレン量
重合体のミクロ構造を赤外法(モレロ法)で求め、重合体の結合スチレン量を1H-NMRスペクトルの積分比より求めた。
【0077】
【表1】

【0078】
*1 クルードMDI,日本ポリウレタン製MR400.
*2 四塩化スズ.
*3 N−(1,3−ジメチルブチリデン)−3−(トリエトキシシリル)−1−プロパンジアミン.
【0079】
次に、上記重合体(B-1)〜(B-6)を用いて、表2に示す配合処方のゴム組成物を調製し、更に、該ゴム組成物を通常の条件で加硫して得た加硫ゴムに関し、気泡率については上述した式(VI)により算出し、クロロホルム抽出量、貯蔵弾性率(E')、tanδ及び引張強度については下記の方法により測定した。結果を表3に示す。
【0080】
(3)引張強度
JIS K6301−1995に準拠して室温で引張試験を行い、引張強度を測定し、比較例1のゴム組成物の引張強度を100として指数表示した。指数値が大きい程、破壊強度が良好であることを示す。
【0081】
(4)貯蔵弾性率(E')
レオメトリックス社製の粘弾性測定装置を用いて、温度−20℃、周波数10Hz、歪0.1%で貯蔵弾性率(E')を測定し、比較例1のゴム組成物の貯蔵弾性率(E')の逆数を100として指数表示した。指数値が大きい程、貯蔵弾性率が低く、氷上性能に優れることを示す。
【0082】
(5)tanδ
レオメトリックス社製の粘弾性測定装置を用い、周波数10Hz、歪0.1%、温度0℃の条件でtanδを測定し、比較例1のゴム組成物のtanδを100として指数表示した。指数値が大きい程、ウェット性能に優れることを示す。
【0083】
(6)クロロホルム抽出量
クロロホルムを溶媒として、加硫ゴムのサンプルをソックスレー抽出器により48時間抽出し、加硫ゴムサンプルの残量より、重合体(B)の配合した全質量に対する抽出した重合体(B)の割合(質量%)を求めた。
【0084】
【表2】

【0085】
*4 分子量200万.
*5 JSR(株)製,「BR01」,高シス1,4-ポリブタジエン,分子量60万.
*6 上記の方法で製造した重合体(B-1)〜(B-6),使用した重合体の種類を表3に示す.
*7 ジニトロソペンタメチレンテトラミン(DPT):尿素=1:1(質量比).
*8 N-(1,3-ジメチルブチル)-N'-フェニル-p-フェニレンジアミン.
*9 ジ-2-ベンゾチアゾリルジスルフィド.
*10 N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド.

【0086】
【表3】

【0087】
表3から、分子中に少なくとも一種の官能基を有する重合体(B-2)〜(B-6)を用いた実施例1〜5のゴム組成物は、重合体(B-1)を用いた比較例1のゴム組成物よりも、−20℃での貯蔵弾性率(E')が大幅に低下しており、氷上性能に優れることが分かる。また、実施例のゴム組成物は、重合体(B-2)〜(B-6)の使用により、充填剤の分散性改良効果から引張強度が向上していることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲル浸透クロマトグラフィーで測定したポリスチレン換算重量平均分子量が150,000以上の天然ゴム及び合成ジエン系ゴムの内の少なくとも一種からなるゴム成分(A)に対して、少なくとも1つの官能基を有し、芳香族ビニル化合物の結合量が5質量%未満の芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体又は共役ジエン化合物重合体であって、ゲル浸透クロマトグラフィーで変性停止なしの状態を測定したポリスチレン換算重量平均分子量が2,000〜50,000の低分子量重合体(B)を配合してなるゴム組成物であって、
該ゴム組成物がゴムマトリクス中に気泡を含有していることを特徴とするゴム組成物。
【請求項2】
前記低分子量重合体(B)が、ゲル浸透クロマトグラフィーで変性停止なしの状態を測定したポリスチレン換算重量平均分子量が2,000〜30,000であることを特徴とする請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項3】
前記ゴム組成物中の気泡率が5〜35%であることを特徴とする請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項4】
前記ゴム成分(A)に対して、前記低分子量重合体(B)と共に発泡剤(C)を配合してなることを特徴とする請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項5】
前記低分子量重合体(B)の官能基が、窒素含有官能基又はスズ含有官能基であることを特徴とする請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項6】
前記低分子量重合体(B)が、窒素含有化合物又はスズ含有化合物で変性されたものであることを特徴とする請求項5に記載のゴム組成物。
【請求項7】
前記スズ含有化合物が、下記式(I):
1aSnXb ・・・(I)
[式中、R1は、それぞれ独立して炭素数1〜20のアルキル基、炭素数3〜20のシクロアルキル基、炭素数6〜20のアリール基及び炭素数7〜20のアラルキル基からなる群から選択され;Xは、それぞれ独立して塩素又は臭素であり;aは0〜3で、bは1〜4で、但し、a+b=4である]で表される変性停止剤であることを特徴とする請求項6に記載のゴム組成物。
【請求項8】
前記窒素含有官能基が、下記式(II):
【化1】

[式中、R2は、それぞれ独立して炭素数1〜12のアルキル基、シクロアルキル基又はアラルキル基である]で表される置換アミノ基、及び下記式(III):
【化2】

[式中、R3は、3〜16のメチレン基を有するアルキレン基、置換アルキレン基、オキシアルキレン基又はN-アルキルアミノ-アルキレン基を示す]で表される環状アミノ基からなる群から選択されることを特徴とする請求項6に記載のゴム組成物。
【請求項9】
前記低分子量重合体(B)が、ブタジエン単独重合体であることを特徴とする請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項10】
前記低分子量重合体(B)が、芳香族ビニル化合物−ブタジエン共重合体であることを特徴とする請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項11】
前記低分子量重合体(B)の芳香族ビニル化合物部分がスチレンであることを特徴とする請求項10に記載のゴム組成物。
【請求項12】
前記ゴム成分(A)100質量部に対して、前記低分子量重合体(B)を1〜60質量部配合してなることを特徴とする請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項13】
前記発泡剤(C)が、アゾジカルボンアミド、ジニトロソペンタメチレンテトラミン、アゾビスイソブチロニトリル、トルエンスルホニルヒドラジド及びトルエンスルホニルヒドラジド誘導体からなる群から選ばれる少なくとも一種からなることを特徴とする請求項4に記載のゴム組成物。
【請求項14】
前記ゴム成分(A)100質量部に対して、前記発泡剤(C)を1〜20質量部配合した後、加硫・発泡させたことを特徴とする請求項4に記載のゴム組成物。
【請求項15】
前記ゴム成分(A)100質量部に対して、更に充填剤を20〜100質量部配合してなることを特徴とする請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項16】
前記充填剤がカーボンブラック及び/又はシリカであることを特徴とする請求項15に記載のゴム組成物。
【請求項17】
加硫後にクロロホルムで48時間抽出したクロロホルム抽出量が、前記低分子量重合体(B)の配合した全質量に対し60質量%以上であることを特徴とする請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項18】
請求項1〜17のいずれかに記載のゴム組成物を、トレッド部の少なくとも接地部分に用いたことを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項19】
スタッドレスタイヤであることを特徴とする請求項18に記載の空気入りタイヤ。
【請求項20】
乗用車用スタッドレスタイヤであることを特徴とする請求項19に記載の空気入りタイヤ。

【公開番号】特開2008−88424(P2008−88424A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−229596(P2007−229596)
【出願日】平成19年9月4日(2007.9.4)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】