説明

ゴム組成物

【課題】気相成長炭素繊維を配合したゴム組成物において、破壊強度等の力学特性を改良することのできる技術を提供する。
【解決手段】ゴム成分と気相成長炭素繊維とを含むゴム組成物において、数平均分子量1,000〜100,000の液状ゴムが配合されてなるゴム組成物である。液状ゴムの配合量は、ゴム成分100重量部に対し1〜20重量部の範囲内とすることが好ましい。また、液状ゴムとしては、ポリイソプレン、ポリブタジエン、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−イソプレン共重合体およびスチレン−ブタジエン−イソプレン共重合体を好適に用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はゴム組成物に関し、詳しくは、気相成長炭素繊維を配合したゴム組成物における力学物性の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
ゴム組成物の性能改良に関しては、これまでに種々検討されてきており、最近では、比較的少量の添加で高い効果を発現できる充填材として、気相成長炭素繊維を配合したゴム組成物も提案されている。
【0003】
気相成長炭素繊維を配合したゴム組成物に関しては、例えば、特許文献1に、基材としてのゴム材料に対し、充填材として平均アスペクト比が10未満である気相成長炭素繊維を配合したことで、40℃以上でのtanδ値および80℃以上でのモジュラスを改良したゴム組成物が開示されている。また、気相成長炭素繊維を配合した加硫ゴムの加工性や耐疲労性などの力学特性を改良するために、軟化剤(オイル)を配合することも行われている。
【特許文献1】特開2003−327753号公報(特許請求の範囲等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のように、気相成長炭素繊維を配合した加硫ゴムにオイルを配合することにより、加工性は改良され、気相成長炭素繊維の配合により高くなったモジュラスについても適正範囲に下げることが可能となる。しかしながら、気相成長炭素繊維配合系のゴム組成物の耐疲労性の改良については十分ではなく、破壊強度や破断寿命、耐摩耗性が低下してしまうという問題があった。
【0005】
そこで本発明の目的は、気相成長炭素繊維を配合したゴム組成物において、破壊強度等の力学特性を改良するための技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意検討した結果、気相成長炭素繊維配合系のゴム組成物に対し、特定の分子量範囲の液状ゴムを配合することにより、上記課題を解決できることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明のゴム組成物は、ゴム成分と気相成長炭素繊維とを含むゴム組成物において、数平均分子量1,000〜100,000の液状ゴムが配合されてなることを特徴とするものである。
【0008】
本発明において好適には、前記液状ゴムを、前記ゴム成分100重量部に対し1〜20重量部にて配合する。また、前記液状ゴムとしては、ポリイソプレン、ポリブタジエン、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−イソプレン共重合体およびスチレン−ブタジエン−イソプレン共重合体からなる群から選択される1種以上を好適に用いることができる。さらに、本発明において、前記気相成長炭素繊維は、前記ゴム成分100重量部に対し2〜30重量部にて混合することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、上記構成としたことにより、破壊強度、耐摩耗性等の力学特性を犠牲にすることなく、加工性、耐疲労性を改良したゴム組成物を実現することが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の好適な実施の形態について、詳細に説明する。
本発明のゴム組成物は、ゴム成分と気相成長炭素繊維とを含むとともに、数平均分子量1,000〜100,000の液状ゴムが配合されてなる点に特徴を有する。気相成長炭素繊維配合系のゴム組成物に対し、一定の分子量範囲を有する液状ゴムを添加することにより、加硫ゴムの力学特性を改良することが可能となる。
【0011】
本発明に用いる液状ゴムは、数平均分子量1,000〜100,000、好ましくは5,000〜70,000、より好ましくは10,000〜50,000のものである。数平均分子量が1,000未満であると、低応力傾向となり、強度低下を招き、一方、100,000を超えると、高応力傾向となり、疲労性の低下を招き、いずれの場合も本発明の所期の効果が得られない。
【0012】
かかる液状ゴムとしては、具体的には、ポリイソプレン、ポリブタジエン、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−イソプレン共重合体、スチレン−ブタジエン−イソプレン共重合体(SIBR)等を挙げることができ、これらは1種または2種以上で用いることができる。
【0013】
本発明のゴム組成物における液状ゴムの配合量は、好適には、ゴム成分100重量部に対し1〜20重量部とする。液状ゴムの配合量が、多すぎても少なすぎても本発明の所期の効果を十分に得ることができない。
【0014】
本発明のゴム組成物におけるゴム成分としては、特に制限されず、天然ゴム(NR)、汎用合成ゴム、例えば、乳化重合スチレン−ブタジエンゴム、溶液重合スチレン−ブタジエンゴム、高シス−1,4ポリブタジエンゴム、低シス−1,4ポリブタジエンゴム、高シス−1,4ポリイソプレンゴム等、ジエン系特殊ゴム、例えば、ニトリルゴム、水添ニトリルゴム、クロロプレンゴム等、オレフィン系特殊ゴム、例えば、エチレン−プロピレンゴム、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴム、アクリルゴム、クロロスルホン化ポリエチレン等、その他特殊ゴム、例えば、ヒドリンゴム、フッ素ゴム、多硫化ゴム、ウレタンゴム等のいずれを用いることもできる。コストと性能とのバランスから、好ましくは、天然ゴムまたは汎用合成ゴムを用いる。
【0015】
また、気相成長炭素繊維は、通常のカーボンファイバー(CF)(平均直径5μm以上、長さ100μm程度)の10−2〜10−1倍程度のオーダーの微細な繊維状構造体であり、本発明においては、この気相成長炭素繊維をゴム組成物の充填材として用いたことにより、少量の添加で優れた諸特性向上効果を得ることができる。
【0016】
本発明においては、いかなる気相成長炭素繊維を用いてもよいが、好適には繊維径0.04〜0.4μm、より好適には0.05〜0.3μm、特には0.07〜0.2μmのものを用いる。また、その繊維長についても特に制限されず、好適には平均繊維長0.5〜50μm、より好適には1〜40μm、特には1.5〜25μmの範囲のものを用いることができる。さらに、比表面積としては、5〜50m/g、特には8〜30m/gの範囲内であることが好ましい。かかる気相成長炭素繊維は市場で容易に入手可能であり、例えば、昭和電工(株)製の気相法炭素繊維VGCF(登録商標)を用いることができる。
【0017】
また、気相成長炭素繊維は、酸化処理されたものを用いてもよい。この酸化処理の方法としては、硝酸、硫酸、過塩素酸またはこれらの酸の混合物で処理する化学的処理や、コロナ放電処理、プラズマ処理、オゾン処理等の物理的処理などが挙げられる。さらに、酸化処理に加えて、カップリング剤で処理した気相成長炭素繊維を用いることもでき、かかるカップリング剤としては、チタネート系、アルミニウム系、シラン系のカップリング剤を挙げることができ、これらカップリング剤を溶剤に溶解して、気相成長炭素繊維に含浸する等の方法で処理することができる。
【0018】
気相成長炭素繊維の配合量は、好適には、ゴム成分100重量部に対し、2〜30重量部、特には2〜20重量部とする。気相成長炭素繊維の配合量が少なすぎると、熱伝導性の向上が十分ではなく、一方、多すぎると、疲労性等、一部力学特性の低下を招き、好ましくない。
【0019】
本発明のゴム組成物には、上記気相成長炭素繊維および液状ゴムに加えて、カーボンブラックやシリカ等の充填剤を配合することができる。カーボンブラックとしては、HAF級のものなど公知のものを使用することができ、その配合量としては、ゴム成分100重量部に対し1〜90重量部の範囲内とすることができる。また、その他ゴム業界で一般に使用されている添加剤、例えば、加硫剤、加硫促進剤、補強材、老化防止剤、軟化剤等を適宜配合することができ、これら配合剤としては、市販品を好適に使用することができる。
【0020】
本発明のゴム組成物は、ゴム成分に対し気相成長炭素繊維および液状ゴムと、所望に応じその他の配合成分とを混合、混練りすることにより得ることができる。混合方法としては、通常のゴムの混合に使用される公知の手法を用いることができ、特に制限はない。また、本発明のゴム組成物は加硫して使用することが好ましく、架橋方法としては、イオウ、過酸化物、金属酸化物等を添加して加熱により架橋させる方法や、光重合開始剤を添加して光照射により架橋させる方法、電子線や放射線を照射して架橋させる方法等が挙げられる。
【0021】
本発明のゴム組成物は、気相成長炭素繊維とともに液状ゴムを配合したことにより、破断寿命や破壊強度等を損なうことなく加工性や耐疲労性を向上することが可能となったものであり、電気電子部品、タイヤ、ベルト、その他各種製品に幅広く使用することが可能である。
【実施例】
【0022】
以下、本発明を、実施例を用いてより詳細に説明する。
下記の表1中に示す配合にて、実施例および比較例のゴム組成物をそれぞれ調製した。まず、ラボプラストミル(東洋精機(株)製)を用いて、NRを70℃にて60rpmで30秒間素練りした後、下記表1に示す加硫促進剤および硫黄を除く各添加剤を投入して、70℃にて60rpmで更に混合した(ノンプロ配合)。次いで、得られた混合物を取り出して、冷却、秤量した後、練生地に加硫促進剤および硫黄を投入し、ラボプラストミルを用いて、70℃にて50rpmで再度混合した(プロ配合)。
【0023】
混練りした混合物を、高温プレスを用いて150℃×15分にて加硫して、2mm厚の加硫ゴムシートを作製した。得られた加硫ゴムシートの破断寿命および引っ張り破断強度を、下記に従い評価した。これらの結果を、下記の表1中に併せて示す。
【0024】
<破断寿命>
繰り返し疲労試験を行って破断回数を測定した。
【0025】
<引っ張り破断強度>
引っ張り試験を行って破断強度(TB)を測定した。
【0026】
【表1】

*1)昭和電工(株)製 気相法炭素繊維VGCF(登録商標),繊維径0.15μm、繊維長10〜20μm
*2)液状ポリイソプレンゴム(LIR),実施例1:LIR50(数平均分子量50,000),実施例2:LIR30(数平均分子量30,000)(いずれも(株)クラレ製)
*3)N−(1,3−ジメチルブチル)−N’−フェニル−P−フェニレンジアミン
*4)N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアジル・スルフェンアミド
【0027】
上記表1に示すように、気相成長炭素繊維配合系のゴム組成物に対し所定分子量の液状ゴムを配合することで、従来の気相成長炭素繊維配合系の欠点である、破断寿命等の力学特性の低下を抑制できることが確かめられた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム成分と気相成長炭素繊維とを含むゴム組成物において、数平均分子量1,000〜100,000の液状ゴムが配合されてなることを特徴とするゴム組成物。
【請求項2】
前記液状ゴムが、前記ゴム成分100重量部に対し1〜20重量部配合されてなる請求項1記載のゴム組成物。
【請求項3】
前記液状ゴムが、ポリイソプレン、ポリブタジエン、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−イソプレン共重合体およびスチレン−ブタジエン−イソプレン共重合体からなる群から選択される1種以上である請求項1または2記載のゴム組成物。
【請求項4】
前記気相成長炭素繊維が、前記ゴム成分100重量部に対し2〜30重量部混合されてなる請求項1〜3のうちいずれか一項記載のゴム組成物。

【公開番号】特開2008−201829(P2008−201829A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−36009(P2007−36009)
【出願日】平成19年2月16日(2007.2.16)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】