説明

ゴム組成物

【課題】加硫ゴムの物性低下や、ブルーミングなどの好ましくない事態を招来するおそれがある加硫遅延剤を使用することなく、従来使用されている加硫促進剤のN,N−ジシクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミドを含むゴム組成物と同等以上の金属との接着性に優れるゴム組成物を提供する。
【解決手段】(A)ゴム成分と、その100質量部に対し、(B)硫黄1〜10質量部、及び(C)下記一般式(1)


で表されるスルフェンアミド系加硫促進剤0.5〜10質量部を含むことを特徴とするゴム組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はゴム組成物に関し、さらに詳しくは、加硫ゴムの物性低下や、ブルーミングなどの好ましくない事態を招来するおそれがある加硫遅延剤を使用することなく、従来使用されている加硫促進剤のN,N−ジシクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(以下、DCBSと略記することがある。)を含むゴム組成物と同等以上の金属との接着性に優れるゴム組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車用タイヤ、コンベアベルト、ホースなど、特に強度が要求されるゴム物品においては、ゴムを補強して、強度や耐久性を向上させる目的で、スチールコードなどの金属補強材をゴム組成物で被覆してなる複合材料が用いられている。このゴム−金属複合材料が高い補強効果を発揮し、信頼性を得るには、ゴム−金属補強材間に経時変化の少ない安定した接着が必要となる。
また、ゴムと金属とを接着する場合、ゴムと金属との結合を同時に行う方法、すなわち直接加硫接着法があるが、この場合、ゴムの加硫と、ゴムと金属との接着を同時に行う上で、加硫反応に遅効性を与えるスルフェンアミド系加硫促進剤を用いることが有効であるとされている。
【0003】
現在、市販されているスルフェンアミド系促進剤の中で、最も加硫反応に遅効性を与える加硫促進剤として、DCBSが挙げられる。
このDCBSの加硫反応遅効性よりも、さらに遅効性が必要である場合には、スルフェンアミド系加硫促進剤とは別に、加硫遅延剤が併用されている。
なお、市販されている代表的な加硫遅延剤としては、N−(シクロヘキシルチオ)フタルイミド(以下、CTPと略記することがある。)が挙げられるが、該CTPをゴムに多量に配合すると、加硫ゴムの物理的特性に悪影響を及ぼすと共に、加硫ゴムの外観悪化や、接着性に悪影響を及ぼすブルーミングの原因になることは知られている。
また、前記DCBS以外のスルフェンアミド系促進剤としては、特許文献1及び特許文献2に開示されているスルフェンアミド系化合物が知られているが、前記特許文献には、ゴム物性は記載されているものの、金属との接着性能については、なんら言及されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−139082号公報
【特許文献2】特開2005−139239号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような状況下になされたもので、加硫ゴムの物性低下や、ブルーミングなどの好ましくない事態を招来するおそれがある加硫遅延剤を使用することなく、従来使用されている加硫促進剤のN,N−ジシクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミドを含むゴム組成物と同等以上の金属との接着性に優れるゴム組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、ゴム成分と、硫黄と、特定の構造を有するスルフェンアミド系加硫促進剤とを、それぞれ所定の割合で含むゴム組成物により、その目的を達成し得ることを見出した。
本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
【0007】
すなわち、本発明は、
[1](A)ゴム成分と、その100質量部に対し、(B)硫黄1〜10質量部、及び(C)下記一般式(1)
【0008】
【化1】

【0009】
(式中、R1及びR2は、それぞれ独立に炭素数1〜18のヒドロカルビル基を示す。R3〜R6は、水素原子、炭素数1〜4の直鎖のアルキル基又はアルコキシ基、炭素数3〜4の分岐のアルキル基又はアルコキシ基であり、これらは同一であっても異なっていてもよい。)で表されるスルフェンアミド系加硫促進剤0.5〜10質量部を含むことを特徴とするゴム組成物である。
【0010】
[2]前記一般式(1)におけるR1及びR2が、シクロアルキル基及びアラルキル基のいずれかであり、かつ共に同一構造である上記[1]に記載のゴム組成物である。
【0011】
[3](C)成分のスルフェンアミド系加硫促進剤が、2−(ジシクロヘキシルアミノジチオ)ベンゾチアゾール及び/又は2−(ジベンジルアミノジチオ)ベンゾチアゾールである上記[1]または[2]に記載のゴム組成物である。
【0012】
[4](A)ゴム成分100質量部に対し、さらに(D)有機酸のコバルト塩を、コバルト量として0.03〜1質量部含む、上記[1]〜[3]のいずれかに記載のゴム組成物である。
【0013】
[5](A)ゴム成分が、天然ゴム及び/又はポリイソプレンゴムを含有する上記[1]〜[4]のいずれかに記載のゴム組成物である。
【0014】
[6](A)ゴム成分が、50質量%以上の天然ゴム及び50質量%以下の合成ゴムからなる上記[5]に記載のゴム組成物である。
【0015】
[7]ゴム物品における金属補強材のコーティング用である上記[1]〜[6]のいずれかに記載のゴム組成物である。
【0016】
[8]前記ゴム物品における金属補強材がスチールコードである上記[7]に記載のゴム組成物である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、加硫ゴムの物性低下や、ブルーミングなどの好ましくない事態を招来するおそれがある加硫遅延剤を使用することなく、従来使用されている加硫促進剤のN,N−ジシクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミドを含むゴム組成物と同等以上の金属との接着性に優れるゴム組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、実施形態により本発明を説明する。
本実施形態のゴム組成物は、(A)ゴム成分と、その100質量部に対し、(B)硫黄1〜10質量部、及び(C)後で詳述する特定構造を有するスルフェンアミド系加硫促進剤0.5〜10質量部を含むことを特徴とする。
【0019】
[(A)ゴム成分]
本実施形態のゴム組成物において、(A)成分として用いられるゴム成分としては、硫黄架橋可能なもの、すなわち主鎖に二重結合を有するものであればよく、特に制限はないが、後述の(C)成分のスルフェンアミド系加硫促進剤の機能が充分に発揮され、金属に対して安定した高い接着力を発現し得る組成物が得られる観点から、天然ゴム及び/又はポリイソプレンゴムを含有するものが好ましく、より好ましくは50質量%以上の天然ゴム及び50質量%以下の合成ゴムからなるゴム成分、さらに好ましくは70質量%以上の天然ゴム及び30質量%以下の合成ゴムからなるゴム成分、特に好ましくは天然ゴムのみからなるゴム成分である。
前記合成ゴムとしては、例えばポリイソプレンゴム、ポリブタジエンゴム、スチレン−ブタジエン共重合体、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体、クロロプレンゴム、ハロゲン化ブチルゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴムなどが挙げられる。これらの合成ゴムは、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0020】
[(B)硫黄]
本実施形態のゴム組成物において、前述した(A)ゴム成分の加硫に用いられる(B)成分の硫黄としては特に制限はなく、従来、主鎖に二重結合を有するゴムの硫黄架橋に使用されているものの中から、任意のものを適宜選択して用いることができる。該硫黄としては、例えば粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、表面処理硫黄、不溶性硫黄などを挙げることができる。
本実施形態のゴム組成物においては、当該硫黄の含有量は、前記(A)ゴム成分100質量部に対して、1〜10質量部の範囲で選定される。この含有量が1質量部未満では加硫が充分に進行せず、金属と加硫ゴムとの接着強度に劣り、一方10質量部を超えると、加硫ゴムの耐老化性能が低下すると共に、スチールコードなど、通常黄銅メッキが施されている金属との接着強度が低下する。好ましい硫黄の含有量は3〜9質量部の範囲であり、より好ましくは4〜7質量部の範囲である。
【0021】
[(C)スルフェンアミド系加硫促進剤]
本実施形態のゴム組成物において、(C)成分として用いられるスルフェンアミド系加硫促進剤は、下記一般式(1)
【0022】
【化2】

【0023】
(式中、R1及びR2は、それぞれ独立に炭素数1〜18のヒドロカルビル基を示す。R3〜R6は、水素原子、炭素数1〜4の直鎖のアルキル基又はアルコキシ基、炭素数3〜4の分岐のアルキル基又はアルコキシ基であり、これらは同一であっても異なっていてもよい。)で表される構造を有する化合物である。
前記一般式(1)において、R1及びR2で表される炭素数1〜18のヒドロカルビル基としては、炭素数1〜18の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基、炭素数3〜18のシクロアルキル基、炭素数6〜18のアリール基又は炭素数7〜18のアラルキル基を挙げることができる。
【0024】
前記炭素数1〜18の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、さらには各種ペンチル基、各種ヘキシル基、各種オクチル基、各種デシル基、各種ドデシル基、各種テトラデシル基、各種ヘキサデシル基、各種オクタデシル基などの各種アルキル基を挙げることができる。なお、各種アルキル基とは、同一炭素数における異性体全てを含むアルキル基を指す。以下、同類語も同様である。
また、炭素数3〜18のシクロアルキル基としては、例えばシクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロオクチル基、シクロデシル基、シクロドデシル基、デカリニル基、アダマンチル基などが挙げられる。なお、これらのシクロアルキル基は、総炭素数が18までの範囲で、シクロ環上に一つ以上のアルキル基を有していてもよい。
炭素数6〜18のアリール基としては、例えばフェニル基、ナフチル基、アントリル基などが挙げられ、炭素数7〜18のアラルキル基としては、例えばベンジル基、フェネチル基、3−フェニルプロピル基、各種ナフチルメチル基、各種ナフチルエチル基、各種ナフチルプロピル基などが挙げられる。なお、前記のアリール基及びアラルキル基は、総炭素数が18までの範囲で、芳香環上に一つ以上のアルキル基を有していてもよい。
【0025】
前記一般式(1)において、R3〜R6は水素原子、炭素数1〜4の直鎖アルキル基又はアルコキシ基、炭素数3〜4の分岐のアルキル基又はアルコキシ基であり、これらは同一であっても異なっていてもよく、なかでも、R3とR5が、炭素数1〜4の直鎖アルキル基又はアルコキシ基であることが好ましい。また、R3〜R6が、炭素数1〜4のアルキル基又はアルコキシ基の場合、炭素数は1であることが好ましく、水素原子であることが特に好ましい。好ましいいずれの場合も、化合物の合成のし易さ及び加硫速度が遅くならないためである。薬品の合成及び製造上、R3の位置に置換基を有することが好ましい。
【0026】
前記一般式(1)におけるR3〜R6の具体例としては、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、メトキシ基、エトキシ基,n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基,sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基が挙げられる。
【0027】
当該(C)成分のスルフェンアミド系加硫促進剤としては、本実施形態の効果を良好に発揮し得る観点から、前記一般式(1)におけるR1及びR2は、シクロアルキル基及びアラルキル基が好ましく、より好ましくはシクロヘキシル基及びベンジル基である。R1及びR2は、互いに同じであっても異なっていてもよいが、当該スルフェンアミド系加硫促進剤の製造性の容易さの観点から、共に同一構造であるものが特に好ましい。またこのとき、R3〜R6は水素原子であることが、接着性と加硫促進効果の点で最も好ましい。
【0028】
当該スルフェンアミド系加硫促進剤の具体例としては、2−(ジシクロペンチルアミノジチオ)ベンゾチアゾール、2−(ジシクロヘキシルアミノジチオ)ベンゾチアゾール、2−(ジシクロオクチルアミノジチオ)ベンゾチアゾール、2−(ジシクロドデシルアミノジチオ)ベンゾチアゾール、2−(ジベンジルアミノジチオ)ベンゾチアゾール、2−(ジフェネチルアミノジチオ)ベンゾチアゾール、2−(ジーtert−ブチルアミノジチオ)ベンゾチアゾール、2−(ジ−2−エチルヘキシルアミノジチオ)ベンゾチアゾール、2−(N−tert−ブチル−N−シクロペンチルアミノジチオ)ベンゾチアゾール、2−(N−tert−ブチル−N−シクロヘキシルアミノジチオ)ベンゾチアゾール、2−(N−tert−ブチル−N−シクロオクチルアミノジチオ)ベンゾチアゾール、2−(N−tert−ブチル−N−ベンジルアミノジチオ)ベンゾチアゾール、2−(N−tert−ブチル−N−フェネチルアミノジチオ)ベンゾチアゾール、2−(N−2−エチルヘキシル−N−シクロペンチルアミノジチオ)ベンゾチアゾール、2−(N−2−エチルヘキシル−N−シクロヘキシルアミノジチオ)ベンゾチアゾール、2−(N−2−エチルヘキシル−N−シクロオクチルアミノジチオ)ベンゾチアゾール、2−(N−2−エチルヘキシル−N−ベンジルアミノジチオ)ベンゾチアゾール、2−(N−2−エチルヘキシル−N−フェネチルアミノジチオ)ベンゾチアゾール、2−(N−シクロペンチル−N−シクロヘキシルアミノジチオ)ベンゾチアゾール、2−(N−シクロペンチル−N−シクロオクチルアミノジチオ)ベンゾチアゾール、2−(N−シクロペンチル−N−ベンジルアミノジチオ)ベンゾチアゾール、2−(N−シクロペンチル−N−フェネチルアミノジチオ)ベンゾチアゾール、2−(N−シクロヘキシル−N−シクロオクチルアミノジチオ)ベンゾチアゾール、2−(N−シクロヘキシル−N−ベンジルアミノジチオ)ベンゾチアゾール、2−(N−シクロヘキシル−N−フェネチルアミノジチオ)ベンゾチアゾール、2−(N−シクロオクチル−N−ベンジルアミノジチオ)ベンゾチアゾール、2−(N−シクロオクチル−N−フェネチルアミノジチオ)ベンゾチアゾール、2−(N−ベンジル−N−フェネチルアミノジチオ)ベンゾチアゾールなどを挙げることができる。
これらの中で、性能及び製造性の観点から、2−(ジシクロヘキシルアミノジチオ)ベンゾチアゾール及び2−(ジベンジルアミノジチオ)ベンゾチアゾールが、特に好適である。前記スルフェンアミド系加硫促進剤は一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0029】
前記一般式(1)で表される構造を有するスルフェンアミド系加硫促進剤を含む本実施形態のゴム組成物は、加硫ゴムの物性低下や、ブルーミングなどの好ましくない事態を招来するおそれがある加硫遅延剤を使用することなく、従来使用されている加硫促進剤のN,N−ジシクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミドを含むゴム組成物と同等以上の金属との接着性に優れる。
本実施形態のゴム組成物における、当該(C)成分のスルフェンアミド系加硫促進剤の含有量は、前述した(A)ゴム成分100質量部に対して、0.5〜10質量部の範囲で選定される。この含有量が0.5質量部未満では、加硫が十分に進行せず、金属と加硫ゴムとの接着が不十分となり、一方10質量部を超えるとブルーミングを生じるようになる。好ましい含有量は0.5〜5質量部の範囲であり、より好ましくは0.5〜3質量部の範囲である。
【0030】
[(D)有機酸のコバルト塩]
本実施形態のゴム組成物には、金属補強材に対する初期接着性能及び耐劣化接着性能を向上させる観点から、接着促進剤として、(D)有機酸のコバルト塩を含有させることができる。
この有機酸のコバルト塩としては、例えば、ナフテン酸コバルト、ステアリン酸コバルト、ネオデカン酸コバルト、ロジン酸コバルト、バーサチック酸コバルト、トール油酸コバルト、オレイン酸コバルト、リノール酸コバルト、リノレン酸コバルトなどを挙げることができる。なお、上記有機酸のコバルト塩は、有機酸の一部をホウ酸で置き換えた複合塩であってもよい。
本実施形態のゴム組成物においては、前記有機酸のコバルト塩は、一種を単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよく、その含有量は、前述した(A)ゴム成分100質量部に対して、コバルト量として0.03〜1質量部の範囲であることが好ましい。コバルト量の含有量が0.03質量部以上であると接着促進剤としての効果が発揮され、一方1質量部以下であると耐老化性の低下を抑制することができる。より好ましいコバルト量の含有量は0.1〜1質量部の範囲である。
【0031】
[その他の配合剤]
本実施形態のゴム組成物においては、前記(A)〜(D)成分と共に、ゴム業界で通常使用される配合剤、例えばカーボンブラックやシリカなどの充填材、前記(C)成分以外の加硫促進剤、加硫遅延剤、プロセスオイル、亜鉛華、ステアリン酸、老化防止剤などを、本発明の効果が損なわれない範囲で含有させることができる。
これらのうち、カーボンブラックやシリカなどの充填材は加硫ゴムの引張り強さ、破断強度、モジュラス、硬さなどの増加、及び耐摩耗性、引張り抵抗性の向上などの補強材として知られており、亜鉛華は脂肪酸と錯化合物を形成し、加硫促進効果を高める加硫促進助剤として知られている。
老化防止剤としては、例えば3C(N−イソプロピル−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン、6C[N−(1,3−ジメチルブチル)−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン]、AW(6−エトキシ−2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリン)、ジフェニルアミンとアセトンの高温縮合物等を挙げることができる。
【0032】
[ゴム組成物の調製及び用途]
本実施形態のゴム組成物は、前述した(A)成分、(B)成分、(C)成分及び(D)成分と共に、前記配合剤の少なくとも一種を、バンバリーミキサー、ロール、インターナルミキサー等の混練り機を用いて混練りすることによって、調製することができる。
このようにして得られた本実施形態のゴム組成物は、自動車タイヤ、コンベアベルト、ホースなど、特に強度が要求されるゴム物品に用いられる金属補強材、特にスチールコードのコーティング用として、好適に用いられる。
本実施形態のゴム組成物が適用されるスチールコードは、ゴムとの接着層を良好にするために黄銅、亜鉛、あるいはこれにニッケルやコバルトを含有する合金でメッキ処理されていることが好ましく、特に黄銅メッキ処理が施されているものが好適である。スチールコードの黄銅メッキ中のCu含有率は、通常75質量%以下、好ましくは55〜70質量%で、良好で安定な接着が得られる。
なお、スチールコードの撚り構造については特に制限はない。
【0033】
スチールコードのコーティング法としては、例えば以下に示す方法を用いることができる。
好ましくは黄銅メッキされた所定の本数のスチールコードを所定の間隔で平行に並べ、このスチールコードを上下両側から、当該組成物からなる厚さ0.5mm程度の未架橋ゴムシートでコーティングして、これを160℃程度の温度で、20分間程度加硫処理する。このようにして得られたゴム−スチールコード複合体は、優れた耐熱接着性を有している。
本実施形態のゴム組成物は、加硫促進剤として、2−(ジヒドロカルビルアミノジチオ)ベンゾチアゾールを含有していることから、物性低下や、ブルーミングなどの好ましくない事態を招来するおそれがある加硫遅延剤を使用することなく、従来使用されている加硫促進剤のN,N−ジシクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミドを含むゴム組成物と同等以上の金属補強材との接着性に優れており、前記のような耐熱接着性に優れるゴム−スチールコード複合体を与えることができる。
【実施例】
【0034】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によって、なんら限定されるものではない。
なお、各例で得られたゴム組成物について、下記の方法により諸特性を求めた。
<ムーニー粘度、ムーニースコーチタイム、加硫特性>
未加硫ゴム組成物の作業性を評価するために、ムーニー粘度及びムーニースコーチタイムを測定すると共に、加硫特性を評価するために、T0.1及びT0.9を測定した。
試験は、JIS K 6300−94に準拠して行い、評価は比較例1の値を100とした指数により表した。ムーニー粘度は、値が小さいほど、ムーニースコーチタイムは、値が大きいほど良好である。
【0035】
<接着性試験>
黄銅メッキ(Cu:63質量%、Zn:37質量%)したスチールコード(1×3構造、素線径0.30mm)30本を2.54cm間隔で平行に並べ、このスチールコードを上下両側から、ゴム組成物からなる厚さ0.5mmの未架橋ゴムシートでコーティングして、これを160℃、20分間の条件で加硫処理してサンプルを作製した。
このサンプルについて、ASTM−D−2229に準拠して、下記のようにして耐熱接着試験を実施した。
サンプルを100℃のギヤオーブンに15日間及び30日間放置した後に、上記試験法にて、スチールコードを引き抜き、ゴムの被覆状態を目視観察し、0〜100%で表示して耐熱接着性の指標とした。数値が大きいほど、耐熱接着性に優れていることを示す。
【0036】
<実施例1、2及び比較例1、2>
2200mLのバンバリーミキサーを使用して、表1に示す各成分を表1に示す配合組成で混練りして未加硫ゴム組成物を調製し、諸特性を求めた。その結果を表1に示す。
【0037】
【表1】

【0038】
[注]
1)N−フェニル−N’−1,3−ジメチルブチル−p−フェニレンジアミン
(大内新興化学工業社製、商品名:ノクセラー6C)
2)N,N−ジシクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド
(大内新興化学工業社製、商品名:ノクセラーDZ)
3)N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド
(大内新興化学工業社製、商品名:ノクセラーCZ)
4)2−(ジシクロヘキシルアミノジチオ)ベンゾチアゾール
(川口化学工業株式会社製)
5)2−(ジベンジルアミノジチオ)ベンゾチアゾール
(川口化学工業株式会社製)
6)OMG社製、商品名「マノボンドC22.5」コバルト含有量22.5質量%
【0039】
表1に示す結果から分かるように、本発明のゴム組成物(実施例1、2)は、比較例1、2のゴム組成物に比べて、加硫特性はあまり変わらないが、ムーニー粘度の評価から、作業性に優れると共に、耐熱接着性が、15日劣化、30日劣化共に優れている。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明のゴム組成物は、物性低下や、ブルーミングなどの好ましくない事態を将来するおそれがある加硫遅延剤を使用することなく、従来使用されている加硫促進剤のN,N−ジシクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミドを含むゴム組成物と同等以上の金属との接着性に優れており、自動車用タイヤ、コンベアベルト、ホースなど、特に強度が要求されるゴム物品に用いられるスチールコードなどの金属補強材のコーティング剤として好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ゴム成分と、その100質量部に対し、(B)硫黄1〜10質量部、及び(C)下記一般式(1)
【化1】

(式中、R1及びR2は、それぞれ独立に炭素数1〜18のヒドロカルビル基を示す。R3〜R6は、水素原子、炭素数1〜4の直鎖のアルキル基又はアルコキシ基、炭素数3〜4の分岐のアルキル基又はアルコキシ基であり、これらは同一であっても異なっていてもよい。)で表されるスルフェンアミド系加硫促進剤0.5〜10質量部を含むことを特徴とするゴム組成物。
【請求項2】
前記一般式(1)におけるR1及びR2が、シクロアルキル基及びアラルキル基のいずれかであり、かつ共に同一構造である請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項3】
(C)成分のスルフェンアミド系加硫促進剤が、2−(ジシクロヘキシルアミノジチオ)ベンゾチアゾール及び/又は2−(ジベンジルアミノジチオ)ベンゾチアゾールである、請求項1又は2に記載のゴム組成物。
【請求項4】
(A)ゴム成分100質量部に対し、さらに(D)有機酸のコバルト塩を、コバルト量として0.03〜1質量部含む請求項1〜3のいずれかに記載のゴム組成物。
【請求項5】
(A)ゴム成分が、天然ゴム及び/又はポリイソプレンゴムを含有する請求項1〜4のいずれかに記載のゴム組成物。
【請求項6】
(A)ゴム成分が、50質量%以上の天然ゴム及び50質量%以下の合成ゴムからなる請求項5に記載のゴム組成物。
【請求項7】
ゴム物品における金属補強材のコーティング用である請求項1〜6のいずれかに記載のゴム組成物。
【請求項8】
前記ゴム物品における金属補強材がスチールコードである請求項7に記載のゴム組成物。

【公開番号】特開2011−16895(P2011−16895A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−161764(P2009−161764)
【出願日】平成21年7月8日(2009.7.8)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】