説明

ゴム製品の製造方法

【課題】ゴム成形体1を成形後、冷却して脆化させ、これにショット材を投射することによってバリ12を破壊分離して製品を仕上げるゴム製品の製造方法において、ショット材の投射量を増大させることなくバリ除去の作業効率を向上させる。
【解決手段】製品部11と、この製品部11に沿って延びる板状バリ部121と、製品部11と板状バリ部121との境界の境界バリ部122とを備え板状バリ部121が境界バリ部122より厚肉であるゴム成形体1を成形し、このゴム成形体1を脆化温度以下の温度に冷却した後、前記板状バリ部121にショット材を投射することによって板状バリ部121を境界バリ部122と共に製品部11から分離させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム製品を加硫成形した後、成形過程で生じたバリを除去するゴム製品の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、金型によって加硫成形したゴム成形体からバリを除去して製品を仕上げる技術として、例えば下記の特許文献に記載されたような方法あるいは装置が知られている。すなわち、この方法では、ゴムの脆化温度以下に保たれた冷凍庫内のバレルに、製品部とバリからなるゴム成形体を入れて攪拌することによってゴム成形体を冷却して脆化させ、これにポリカーボネート等からなるショット材(メディアとも呼ばれる)を、バリは破壊可能だが厚肉の製品部は破壊しない程度の速度で投射することによって、バリを破壊分離して製品部を取り出す。
【特許文献1】特開平7−68466号公報
【特許文献2】実開平5−53912号公報
【0003】
図8は、従来の技術を説明するための図で、参照符号100は、製品部101とその成形過程で金型のパーティング面に沿って製品部101から薄膜状に形成されたバリ102とからなるゴム成形体、参照符号Sはバリ除去のために不図示のノズルから投射されたショット材である。なお、製品部101及びバリ102は脆化冷凍されている。
【0004】
ここで、投射されたショット材Sは、バリ102を打ち抜く形で破壊するため、ショット材Sが当たった周辺だけしかバリ102が除去されない。すなわち、図8(A)に示されるように、製品部101から離れた位置に当たったショット材Sはその位置のバリ102を打ち抜くだけで、製品部101の周囲を仕上げる仕事をしておらず、図8(B)に示されるように、偶然に製品部101とバリ102との境界付近に当たったショット材Sだけしか仕上げに有効に作用しない。
【0005】
したがって、ショット材Sが製品部101とバリ102との境界付近に当たる確率が低いので、投射されるショット材Sが少ないと、バリ除去工程に時間がかかってしまう。また、バリ除去時間を短縮するために、ショット材Sの投射量を多くした場合は、投射機構やショット材Sの循環機構の大型化を来たし、それに伴う冷凍装置の増大や、設置スペースの増大などによってコスト高となる問題を有していた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は以上の問題点に鑑みてなされたものであって、その技術的課題は、ショット材の投射量を増大させることなくバリ除去の作業効率を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した技術的課題を有効に解決するための手段として、本発明に係るゴム製品の製造方法は、製品部と、この製品部に沿って延びる板状バリ部と、前記製品部と板状バリ部との境界の境界バリ部とを備え前記板状バリ部が前記境界バリ部より厚肉であるゴム成形体を成形し、このゴム成形体を脆化温度以下の温度に冷却した後、前記板状バリ部にショット材を投射することによって前記板状バリ部を前記境界バリ部と共に前記製品部から分離させるものである。
【0008】
また、本発明に係るゴム製品の製造方法において一層好ましくは、境界バリ部からの板状バリ部の立ち上がり角度を、前記境界バリ部からの製品部の立ち上がり角度より大きくしたものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係るゴム製品の製造方法によれば、投射されたショット材が板状バリ部のどこに当たっても、その衝撃により板状バリ部に与えられる厚さ方向の荷重によって製品部と板状バリ部の間の境界バリ部に応力が集中して境界バリ部が折れ、板状バリ部と共に製品部から除去されるので、ショット材の投射量がたとえ従来と同じであってもバリ除去に有効に作用するショット材の割合が増加し、バリ除去作業に要する時間を短縮することができる。
【0010】
また、境界バリ部からの板状バリ部の立ち上がり角度を、前記境界バリ部からの製品部の立ち上がり角度より大きくすれば、板状バリ部にその厚さ方向への荷重が加わった時に境界バリ部が製品部側の端部で折れるので、製品のパーティングライン部にバリが残らない滑らかな仕上がり状態にすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明に係るゴム製品の製造方法の好ましい実施の形態について、図面を参照しながら説明する。まず図1は、本発明に係るゴム製品の製造方法において成形される環状のゴム成形体1を、その軸心Oと平行な方向から見た部分正面図、図2は、図1におけるO−II線で切断して示す断面図、図3は、図2の要部を拡大して示す断面図、図4は、図2のゴム成形体1からバリ12を除去する工程で用いられるショットブラスト装置を概略的に示す説明図、図5は、本発明に係るゴム製品の製造方法によるバリの除去の様子を図1におけるO−II線と対応する部分で切断して示す断面図である。
【0012】
まず図1及び図2に示されるゴム成形体1は、軸心Oを中心とする円周方向へ連続して延びる製品部11と、この製品部11の内周側に形成されたバリ12とからなる。製品部11は、例えばシールリングとして用いられるものであり、バリ12は不図示の金型内で製品部11を加硫成形する過程で成形用ゴム材料の一部が金型のパーティング面に流出することにより形成されたもので、製品部11の内周に沿って円周方向へ連続して延びる板状バリ部121と、製品部11と板状バリ部121との境界の境界バリ部122とを有する。
【0013】
バリ12における板状バリ部121は、境界バリ部122より厚肉であり、製品部11と板状バリ部121との距離、言い換えれば境界バリ部122の径方向長さLは、仕上げ後の製品部11のバリ残り許容値よりも短い長さとする。板状バリ部121の肉厚tは、脆化されたときに後述のショット材の衝突によって容易に破壊されない強度を維持し得る大きさであれば良く、また、境界バリ部122の径方向長さLは、例えばバリ残り長さの許容値が0.1mmであれば、0.08mm程度の長さに設定すれば良い。
【0014】
また、図3に拡大して示されるように、境界バリ部122に対して板状バリ部121の立ち上がり面121aがなす角度αは、前記境界バリ部122に対して製品部11の立ち上がり面11a(立ち上がり面11aに対する接線)がなす角度βより大きく形成されている。
【0015】
なお、板状バリ部121の肉厚tや長さ、幅によって決まる体積が大きくなると、慣性が増大して、ショット材の衝突により与えられる板状バリ部121の加速度が小さくなってしまうため、これらの寸法は、ショット材の質量や投射速度、境界バリ部122の強度などを考慮して適切に設定される。
【0016】
以上のように成形されたゴム成形体1は、図4に示されるようなショットブラスト装置2によって、バリ除去作業が行われる。このショットブラスト装置2は、冷却室21と、投射室22と、ワーク冷凍装置23と、ショット材投射装置24と、バリ・ショット材分離回収装置25と、投射室22内にあってワークを設置するバレル26とを備える。
【0017】
詳しくは、ワーク冷凍装置23は、例えば液化窒素又は液化炭酸ガスなどの冷媒を用いて冷却室21及び投射室22内をゴム成形体1の脆化温度以下に冷却するもので、冷媒供給源231と、この冷媒供給源231からの冷媒を冷却室21及び投射室22内に噴射する噴射ノズル232と、噴射ノズル232を開閉するバルブ233と、冷却室21内の温度を検出する温度センサ234と、この温度センサ234による検出温度データに基づいてバルブ233の開閉を制御する制御装置235とを備える。
【0018】
ショット材投射装置24は、高速回転するインペラ241によって、ポリカーボネート等からなるショット材Sを投射室22内(バレル26)へ遠心投射するものである。
【0019】
バリ・ショット材分離回収装置25は、振動篩からなるものであって、所定の大きさ以上の粗大バリを捕捉する第一スクリーン251と、それより粒径の小さいショット材Sを捕捉する第二スクリーン252と、これら第一スクリーン251及び第二スクリーン252を加振するバイブレータ253と、第一スクリーン251で捕捉された粗大バリを回収する粗大バリ回収部254と、第一スクリーン251を通過して第二スクリーン252で捕捉されたショット材Sを回収すると共にショット材投射装置24へ送り出すチャンバ255と、第二スクリーン252を通過した微小バリを回収する微小バリ回収部256とを備える。
【0020】
以上のように構成されたショットブラスト装置2によるバリ除去作業においては、バリ除去対象のワークW(ゴム成形体1)を、投射室22内のバレル26に設置し、ワーク冷凍装置23で冷却室21及び投射室22内を冷却することによってゴム成形体1を脆化させ、このゴム成形体1に、ショット材投射装置24によってショット材Sを投射する。
【0021】
冷凍により脆化したゴム成形体1のバリ12は、投射されたショット材Sの衝突によって破壊され(折られ)、製品部11から分離される。そして、分離されたバリ12は、投射されたショット材Sと共に冷却室21の下部へ落下して、バリ・ショット材分離回収装置25により、粗大バリ、ショット材S及び微小バリに篩い分けられて回収される。また、回収されたショット材Sはチャンバ255からショット材投射装置24へ送られて循環使用される。
【0022】
ここで図5に示されるように、ゴム成形体1のバリ12に向かって飛来するショット材Sのうちいくつかは、製品部11から離れた位置、すなわち板状バリ部121に衝突することになる。板状バリ部121はバリ12における他の部分より厚肉で強度が高いため破壊されにくく、このため、ショット材Sの運動エネルギにより板状バリ部121にその厚さ方向へ与えられる荷重によって、製品部11と板状バリ部121の間の境界バリ部122に応力が集中して境界バリ部122で折れ、板状バリ部121と共に製品部11から脱落して除去される。すなわち板状バリ部121は、不要部分としてのバリ12を大きく脱落させる機能を有する。
【0023】
また、境界バリ部122に対して板状バリ部121の立ち上がり面121aがなす角度αは、境界バリ部122に対して製品部11の立ち上がり面11aがなす角度βより大きいため、板状バリ部121に厚さ方向への荷重が加わった時の境界バリ部122への応力集中が、製品部11の立ち上がり側に生じ、すなわち境界バリ部122が製品部11側の端部で折れることになる。したがって、板状バリ部121と共に境界バリ部122が製品部11から確実に除去され、製品のパーティングライン部にバリが残らない滑らかな仕上がり状態にすることができる。
【0024】
また、もし境界バリ部122が板状バリ部121側の端部で折れたとしても、境界バリ部122の径方向長さLは、製品部11のバリ残り許容値よりも短く設定されているので問題ない。
【0025】
すなわち本発明によれば、投射されたショット材Sがバリ12における板状バリ部121のどこかに衝突すれば、バリ12は、製品部11との境界部分から破壊される。言い換えれば製品部11から離れた位置に衝突したショット材Sも、バリ除去仕上げに寄与することになるので、ショット材Sを従来技術と同じ条件で投射しても、本考案の方が仕上げに有効に作用するショット材Sの量が多くなる。したがって、ショット材Sの投射量を多くしなくても、短時間(製品の大きさやバリ部の寸法設定にもよるが、概ね従来の1/3程度の時間)で仕上げを行うことができ、ひいては、ショット材投射装置24やショット材Sの循環機構の大型化、それに伴うワーク冷凍装置23の冷凍力の増大や、ショットブラスト装置2全体の設置スペースの増大などが不要となる。
【0026】
図6及び図7は、それぞれ本発明に係るゴム製品の製造方法において成形されるゴム成形体1の他の例を、その軸心Oと平行な方向から見た部分正面図である。すなわち、バリ12における板状バリ部121は図1の例のように製品部11に沿って連続しているものであることが好ましいが、図6あるいは図7の例のように、断続したものであっても良い。
【0027】
なお、図示の各例では、内周に生じるバリ12の除去について説明したが、外周側に発生するバリの除去についても、同様に実施することができる。
【0028】
また本発明は、製品部11がシールリングのような環状体であることには限定されず、成形工程でバリが発生し、バリの処理が必要なゴム製品であれば適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明に係るゴム製品の製造方法において成形される環状のゴム成形体を、その軸心Oと平行な方向から見た部分正面図である。
【図2】図1におけるO−II線で切断して示す断面図である。
【図3】図2の要部を拡大して示す断面図である。
【図4】図2のゴム成形体1からバリ12を除去する工程で用いられるショットブラスト装置を概略的に示す説明図である。
【図5】本発明に係るゴム製品の製造方法によるバリの除去の様子を図1におけるO−II線と対応する部分で切断して示す断面図である。
【図6】本発明に係るゴム製品の製造方法において成形される環状のゴム成形体の他の例を、その軸心Oと平行な方向から見た部分正面図である。
【図7】本発明に係るゴム製品の製造方法において成形される環状のゴム成形体の他の例を、その軸心Oと平行な方向から見た部分正面図である。
【図8】従来の技術を説明するための図である。
【符号の説明】
【0030】
1 ゴム成形体
11 製品部
12 バリ
121 板状バリ部
122 境界バリ部
2 ショットブラスト装置
S ショット材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
製品部と、この製品部に沿って延びる板状バリ部と、前記製品部と板状バリ部との境界の境界バリ部とを備え前記板状バリ部が前記境界バリ部より厚肉であるゴム成形体を成形し、このゴム成形体を脆化温度以下の温度に冷却した後、前記板状バリ部にショット材を投射することによって前記板状バリ部を前記境界バリ部と共に前記製品部から分離させることを特徴とするゴム製品の製造方法。
【請求項2】
境界バリ部からの板状バリ部の立ち上がり角度を、前記境界バリ部からの製品部の立ち上がり角度より大きくしたことを特徴とする請求項1に記載のゴム製品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−12569(P2010−12569A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−175749(P2008−175749)
【出願日】平成20年7月4日(2008.7.4)
【出願人】(000004385)NOK株式会社 (1,527)
【Fターム(参考)】