説明

ゴム質重合体の製造方法ならびにゴム質重合体、グラフト共重合体及び熱可塑性樹脂組成物

【課題】耐候性及び耐衝撃性を向上させつつ加工性を容易に調整できるグラフト共重合体を得るためのゴム質重合体を製造できる、ゴム質重合体の製造方法を提供する。
【解決手段】第1の原料単量体を乳化重合してアクリルゴム(A1)を製造し、該アクリルゴム(A1)の存在下で第2の原料単量体を5分〜10時間の範囲で供給し、その供給と同時に乳化重合を開始してアクリルゴム(A2)を製造するゴム質重合体の製造方法であって、第1の原料単量体及び第2の原料単量体の一方が特定の(メタ)アクリレートを含み、他方がn−ブチルアクリレートを含むものとし、特定の(メタ)アクリレートを含む原料単量体を乳化重合して得るアクリルゴムのガラス転移温度が、n−ブチルアクリレートを含む原料単量体を乳化重合して得るアクリルゴムのガラス転移温度より低くなるようにするゴム質重合体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラフト共重合体を構成するゴム質重合体及びその製造方法に関する。また、ゴム質重合体を含む耐衝撃性改質剤であるグラフト共重合体に関する。さらには、グラフト共重合体と熱可塑性樹脂とを含む熱可塑性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
スチレン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂及びポリエステル系樹脂等の熱可塑性樹脂においては、ゴム質重合体にビニル系単量体を重合してなるグラフト共重合体を配合して、耐衝撃性を向上させることが広く知られている。
グラフト共重合体としては、例えば、ブタジエン系ゴム質重合体にメチルメタクリレート、スチレン、アクリロニトリル等をグラフト重合させたMBS共重合体を用いることがある。しかし、ブタジエン系ゴム質重合体は紫外線が照射されると劣化するため、MBS共重合体を含む熱可塑性樹脂組成物の成形品を屋外で使用すると耐衝撃性が低下する、即ち耐候性が低いという問題があった。
その対策として、特許文献1では、ブタジエン系ゴム質重合体の代わりに、ガラス転移温度の異なる2種類のポリアルキル(メタ)アクリレートゴムが複合化され、特定の粒子径分布を有するアクリルゴム系グラフト共重合体を用いることが提案されている。
【0003】
しかし、特許文献1に記載のグラフト共重合体等を熱可塑性樹脂に配合した場合には、得られる熱可塑性樹脂組成物の溶融粘度が高くなる傾向がある。溶融粘度が高くなると混合時のシェアー等の影響を受けて成形加工時の樹脂温度が上昇し、熱可塑性樹脂が熱分解することがあった。
また、溶融粘度を低くするために成形温度を高くした場合にも、熱可塑性樹脂が熱分解しやすくなる。従って、グラフト共重合体を配合した場合には、成形加工の温度幅が狭く、加工性が低くなった。
このような問題は、各種熱可塑性樹脂において見られるが、ポリ塩化ビニル系樹脂は脱塩酸による熱分解を起こしやすい性質を有するため、上記問題が顕著に現れる。特に、近年、重金属の排出抑制の観点からポリ塩化ビニル系樹脂に添加される熱安定剤が、これまで広く使用されてきた鉛系熱安定剤からカルシウム−亜鉛系熱安定剤に代替されつつあるが、カルシウム−亜鉛系熱安定剤を用いた場合には、ことさら上記問題が顕著になった。即ち、カルシウム−亜鉛系熱安定剤は外部滑性が低いため、滑剤を別途添加しなければならないが、滑剤を添加した場合には混練性を高めるために成形温度を高くする必要があり、ポリ塩化ビニル系樹脂が分解しやすい条件となる。一方、滑剤を添加しないと、溶融粘度が高くなり、混合時のシェアー等の影響を受けて樹脂温度が上昇するため、やはり熱分解を促進させる。
【特許文献1】特開2005−89604号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、前記事情を鑑みてなされたものであり、耐候性及び耐衝撃性を向上させつつ加工性を容易に調整できるグラフト共重合体を得るためのゴム質重合体を提供することを目的とする。また、そのようなゴム質重合体を高い生産性で製造できるゴム質重合体の製造方法を提供することを目的とする。また、熱可塑性樹脂に配合した際に耐候性及び耐衝撃性を向上させつつ加工性を容易に調整できるグラフト共重合体を提供することを目的とする。さらには、耐候性及び耐衝撃性が高く、加工性を容易に調整できる熱可塑性樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するための発明は、第1の原料単量体を乳化重合してアクリルゴム(A1)を製造し、該アクリルゴム(A1)の存在下で第2の原料単量体を5分〜10時間の範囲で供給し、その供給と同時に乳化重合を開始してアクリルゴム(A2)を製造するゴム質重合体の製造方法であって、
第1の原料単量体が下記化学式(I)で表される(メタ)アクリレートを含み、第2の原料単量体がn−ブチルアクリレートを含むものとし、又は、第1の原料単量体がn−ブチルアクリレートを含み、第2の原料単量体が下記化学式(I)で表される(メタ)アクリレートを含むものとし、
下記化学式(I)で表される(メタ)アクリレートを含む原料単量体を乳化重合して得るアクリルゴムのガラス転移温度が、n−ブチルアクリレートを含む原料単量体を乳化重合して得るアクリルゴムのガラス転移温度より低くなるようにすることを特徴とするゴム質重合体の製造方法である。
また、前記製造方法により製造されたゴム質重合体、前記ゴム質重合体にグラフト用原料単量体をグラフト重合してなるグラフト共重合体、及び、前記グラフト共重合体と熱可塑性樹脂とを含有する熱可塑性樹脂組成物である。
【0006】
【化1】

【0007】
(化学式(I)において、Rは、水素原子又はメチル基であり、Rは、分岐鎖を有する置換基、末端に水酸基あるいはアルコキシル基を有するアルキレン基、炭素数12以上のアルキル基よりなる群から選ばれる少なくとも1種の置換基である。)
【0008】
なお、本発明において、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレートとメタクリレートの総称である。
【発明の効果】
【0009】
本発明のゴム質重合体の製造方法によれば、耐候性及び耐衝撃性を向上させつつ加工性を容易に調整できるグラフト共重合体を得るためのゴム質重合体を製造できる。
本発明のゴム質重合体は、耐候性及び耐衝撃性を向上させつつ加工性を容易に調整できるグラフト共重合体を製造できるものである。
本発明のグラフト共重合体は、耐候性及び耐衝撃性を向上させつつ加工性を容易に調整できるものである。
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、耐候性及び耐衝撃性が高く、加工性を容易に調整できるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明のゴム質重合体の一実施形態例について説明する。
本実施形態例のゴム質重合体の製造方法は、第1の原料単量体を乳化重合してアクリルゴム(A1)を製造する工程(以下、第1の工程という)と、第1の工程により得たアクリルゴム(A1)のラテックスが仕込まれた反応容器に、第2の原料単量体を5分〜10時間の範囲で供給し、その供給と同時に乳化重合を開始してアクリルゴム(A2)を製造する工程(以下、第2の工程という)とを有する方法である。
【0011】
第1の工程における第1の原料単量体は、上記化学式(I)で表される(メタ)アクリレートを含むもの、又は、n−ブチルアクリレートを含むものである。
【0012】
第1の原料単量体が上記化学式(I)で表される(メタ)アクリレートを含むものである場合、化学式(I)におけるRは分岐鎖を有する置換基、末端に水酸基あるいはアルコキシル基を有するアルキレン基、炭素数12以上のアルキル基よりなる群から選ばれる少なくとも1種の置換基である。これらの中でも、本発明の効果がより発揮されることから、分岐鎖を有する置換基及び/又は炭素数12以上のアルキル基が好ましい。
【0013】
化学式(I)のRが分岐鎖を有する置換基である(メタ)アクリレートの具体例としては、2−エチルヘキシルアクリレート、メトキシトリプロピレングリコールアクリレート等が挙げられる。化学式(I)のRが末端に水酸基あるいはアルコキシル基を有するアルキレン基である(メタ)アクリレートの具体例としては、エトキシエチルアクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレート等が挙げられる。ここで、メトキシトリプロピレングリコールアクリレートは、化学式(I)のRが末端にアルコキシル基を有するアルキレン基である(メタ)アクリレートの例でもある。化学式(I)のRが炭素数12以上のアルキル基である(メタ)アクリレートの具体例としては、トリデシルメタクリレート、ステアリルメタクリレート等が挙げられる。
これらの(メタ)アクリレート中では、該ゴム質重合体を用いた熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性がより向上することから、2−エチルヘキシルアクリレートを用いることが好ましい。また、これらの(メタ)アクリレートは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0014】
第1の原料単量体中の上記(メタ)アクリレートの含有量は、該ゴム質重合体を用いた熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性がより向上することから、70質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましい。
【0015】
第1の原料単量体がn−ブチルアクリレートを含むものである場合、第1の原料単量体中のn−ブチルアクリレート含有量は、該ゴム質重合体を用いた熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性がより向上することから、70質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましい。
【0016】
第1の原料単量体には、分子中に2個以上の不飽和結合を有する単量体(以下、多官能単量体という。)が含まれてもよい。多官能単量体は、架橋剤又はグラフト交叉剤として機能する。
架橋剤として機能する多官能単量体としては、例えば、エチレングリコールジメタクリレート、プロピレングリコールジメタクリレート、1,3−ブチレングリコールジメタクリレート、1,4−ブチレングリコールジメタクリレート、ジビニルベンゼン、多官能メタクリル基変性シリコーン等が挙げられる。
グラフト交叉剤として機能する多官能単量体としては、例えば、アリルメタクリレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート等が挙げられる。ただし、アリルメタクリレートは、架橋剤として用いることもできる。
多官能単量体は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
第1の原料単量体中に含まれる多官能単量体の含有量は、該ゴム質重合体を用いた熱可塑性樹脂組成物の物性のバランスが良好になることから、2質量%以下が好ましく、1.5質量%以下がより好ましい。
【0017】
第1の原料単量体には、上記化学式(I)で表される(メタ)アクリレート又はn−ブチルアクリレート、及び上記多官能単量体以外の単量体(以下、他の単量体という)が含まれてもよい。他の単量体としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等の芳香族アルケニル化合物、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル化合物、メタクリル酸変性シリコーン、フッ素含有ビニル化合物等の各種のビニル系単量体等が挙げられる。
第1の原料単量体中に含まれる他の単量体の含有量は、該ゴム質重合体を用いた熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性の点から、30質量%以下であることが好ましい。
【0018】
第1の原料単量体は、あらかじめ乳化処理しておくことが好ましい。第1の原料単量体をあらかじめ乳化処理すれば、乳化重合時のスケール付着を防止でき、重合速度を速めることができる。
乳化処理の方法としては、例えば、まず、インラインミキサ等の混合装置を用いて第1の原料単量体を予備分散した後、5MPa以上の圧力をかけることのできるホモジナイザ等の強制乳化機を用いて本乳化をおこなう方法等が挙げられる。これにより得られた第1の原料単量体のエマルジョンの平均粒子径は0.1〜10μm程度である。
また、乳化処理の方法としては、第1の原料単量体を乳化剤の存在下で攪拌する方法が挙げられる。
【0019】
第1の工程において第1の原料単量体を乳化する乳化剤としては、アニオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤等を使用でき、必要に応じて、2種以上の界面活性剤を併用してもよい。
乳化剤の具体例としては、ラウリル硫酸ナトリウム等の硫酸塩系乳化剤、アルキルベンゼンゼンスルフォン酸ナトリウム、アルキルジフェニルエーテルスルフォン酸ナトリウム等のスルフォン酸系乳化剤、その他スルフォコハク酸系乳化剤、アミノ基含有乳化剤、モノ脂肪酸やコハク酸を含有する脂肪酸系乳化剤等が挙げられる。
重合の際に使用する重合開始剤としては、例えば、t−ブチルハイドロパーオキサイドやベンゾイルパーオキサイド等の有機過酸化物、過硫酸ナトリウムや過硫酸カリウム等の無機過酸化物、アゾイソブチロニトリル等のアゾ化合物等を用いることができる。また、有機過酸化物、無機過酸化物、アゾ化合物には、硫酸第1鉄とエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩とロンガリットとの混合物等からなる還元剤が添加されてもよい。
第1の原料単量体の重合は一段でおこなってもよいし、多段でおこなってもよい。
このような第1の工程における乳化重合によってアクリルゴム(A1)のラテックスが得られる。
【0020】
第1の工程にて得たアクリルゴム(A1)のラテックスに供給する第2の原料単量体は、n−ブチルアクリレートを含むもの、又は、上記化学式(I)で表される(メタ)アクリレートを含むものである。
ただし、第1の原料単量体が、上記化学式(I)で表される(メタ)アクリレートを含むものである場合には、第2の原料単量体は、n−ブチルアクリレートを含むものであり、第1の原料単量体が、n−ブチルアクリレートを含むものである場合には、第2の原料単量体は、上記化学式(I)で表される(メタ)アクリレートを含むものである。
【0021】
第2の原料単量体には、第1の原料単量体と同様の多官能単量体が含まれてもよいし、他の単量体が含まれてもよい。第1の原料単量体及び第2の原料単量体の両方に多官能単量体が含まれる場合には、該ゴム質重合体を用いた熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性の点から、第1の原料単量体中に含まれる多官能単量体の質量割合より、第2の原料単量体中の多官能単量体に含まれる質量割合が大きいことが好ましい。
【0022】
第2の工程では、アクリルゴム(A1)のラテックスが仕込まれた反応容器に、第2の原料単量体を5分〜10時間の範囲で供給し、その供給と同時に乳化重合を開始してアクリルゴム(A2)を製造する。第2の原料単量体の供給時間は好ましくは10分〜9時間の範囲であり、より好ましくは15分〜8時間の範囲である。第2の原料単量体の供給時間が5分未満では、該ゴム質重合体を用いた場合の熱可塑性樹脂組成物の加工性が低下する上に、重合時にカレットの発生が多くなる傾向にある。供給時間が10時間を超えると、該ゴム質重合体の生産性が低下する。
第2の原料単量体の乳化重合は、アクリルゴム(A1)のラテックスが仕込まれた反応容器に第2の原料単量体が供給されたと同時に開始される。第2の原料単量体の乳化重合は、5分〜10時間の供給時間中に完了する必要はなく、その後の保持時間中に完了すればよい。
第2の原料単量体の供給方法としては、滴下が好ましい。
上記乳化重合を開始させる方法としては、例えば、還元剤が存在するところに、第2の原料単量体及び過酸化物の混合物を添加して重合開始剤を活性化させ、活性化した重合開始剤により重合を開始する方法などが挙げられる。
【0023】
第2の原料単量体を重合する際の乳化剤、重合開始剤としては、第1の工程にて使用するものと同様のものを使用できる。また、第2の工程では乳化剤を新たに添加せず、アクリルゴム(A1)のラテックスに含まれる乳化剤をそのまま使用してもよい。
第2の原料単量体の重合は一段でおこなってもよいし、多段でおこなってもよい。
【0024】
第2の工程では、該ゴム質重合体を用いた熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性が充分に発現することから、アクリルゴム(A1)とアクリルゴム(A2)の比率が、アクリルゴム(A1)5〜95質量%、アクリルゴム(A2)95〜5質量%となるように、アクリルゴム(A1)の仕込み量及び第2の原料単量体の添加量を選択することが好ましい。
アクリルゴム(A1)10〜90質量%、アクリルゴム(A2)90〜10質量%となるようにすることがより好ましく、さらには、アクリルゴム(A1)10〜85質量%、アクリルゴム(A2)90〜15質量%となるようにすることが特に好ましい。
【0025】
アクリルゴム(A1)のガラス転移温度(Tg)及びアクリルゴム(A2)のガラス転移温度(Tg)は、該ゴム質重合体を含むグラフト共重合体を用いた熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性が高くなることから、共に10℃以下であることが好ましい。
【0026】
また、このゴム質重合体の製造方法では、上記化学式(I)で表される(メタ)アクリレートを含む原料単量体を乳化重合して得たアクリルゴムのガラス転移温度が、n−ブチルアクリレートを含む原料単量体を乳化重合して得たアクリルゴムのガラス転移温度より低くなるようにする。
上記化学式(I)で表される(メタ)アクリレートを含む原料単量体を乳化重合して得たアクリルゴムのガラス転移温度が、n−ブチルアクリレートを含む原料単量体を乳化重合して得たアクリルゴムのガラス転移温度より低くなるようにするためには、例えば、上記化学式(I)で表される(メタ)アクリレートを含む原料単量体の主成分を2−エチルヘキシルアクリレートとすればよい。
【0027】
ここで、ガラス転移温度は、動的粘弾性測定装置(以下、DMSという)により貯蔵弾性率及び損失弾性率を測定し、損失弾性率/貯蔵弾性率であるtanδをプロットした際のピークに対応する温度である。一般に、重合体は、固有のガラス転移温度を有しており、複数の成分が複合された場合には、各成分のガラス転移温度が観測される。本発明のように、重合体が2成分からなる場合には、2つのガラス転移温度が観測される。なお、各成分の割合に偏りがある場合や互いのガラス転移温度が近い場合には、各々ピークが接近することもあるが、DMSでは容易に判別できる。
【0028】
本発明者らが鋭意検討した結果、上述したゴム質重合体の製造方法により得たゴム質重合体を用いた熱可塑性樹脂組成物では、耐候性及び耐衝撃性を向上させつつ加工性を容易に調整できることが判明した。
【0029】
本発明のゴム質重合体は、上述したゴム質重合体の製造方法により製造されたものである。
ゴム質重合体の平均粒子径は80〜1500nmであることが好ましく、一般的な耐衝撃性の観点からは、100〜700nmであることがより好ましい。ただし、ポリカーボネート系樹脂又はポリ塩化ビニル系樹脂の耐衝撃性を向上させる場合には、100〜300nmであることが特に好ましく、ポリスチレン等の脆性ポリマーの耐衝撃性を向上させる場合には、300〜1200nmであることが特に好ましい。
ゴム質重合体の平均粒子径は、キャピラリー・ハイドロ・ダイナミック・フロー・フラクショネーション(以下、CHDFと表記することもある。)により測定された値である。
ゴム質重合体の平均粒子径を上記範囲に調整するためには、例えば、第1の工程及び第2の工程で使用する乳化剤の量、重合開始剤の量、重合時間等の条件を適宜変更すればよい。例えば、乳化剤の量を多くする程、平均粒子径は小さくなる。
【0030】
本発明のグラフト共重合体は、上述したゴム質重合体にグラフト用原料単量体をグラフト重合してなるものである。なお、本明細書では、ゴム質重合体にグラフト重合したグラフト用原料単量体の重合体のことをグラフト部という。
【0031】
グラフト用原料単量体の具体例としては、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等の芳香族アルケニル化合物;メチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−ブチルアクリレート、グリシジルメタクリレート等の(メタ)アクリレート;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル化合物等が挙げられる。これらグラフト用原料単量体は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0032】
グラフト用原料単量体には、ゴム質重合体の製造で用いた多官能単量体が含まれてもよい。グラフト用原料単量体に多官能単量体が含まれる場合には、該グラフト重合体を用いた場合に、熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性がより高くなる上に、耐熱性も向上する。
ただし、グラフト用原料単量体中の多官能単量体の含有量は、熱可塑性樹脂組成物の物性バランスの点から、20質量%以下であることが好ましい。
【0033】
グラフト共重合体におけるゴム質重合体とグラフト部の割合は、両者の合計を100質量%とした際のゴム質重合体の割合が70〜99質量%であることが好ましく、80〜95質量%であることがより好ましく、80〜90質量%であることが特に好ましい。ゴム質重合体の割合が70質量%以上であれば、該グラフト共重合体の耐衝撃性向上効果がより高くなり、ゴム質重合体の割合が99質量%以下であれば、該グラフト共重合体の熱可塑性樹脂中での分散性が高くなり、熱可塑性樹脂組成物の加工性がより高くなる。
【0034】
グラフト共重合体には、無機系フィラーが含まれてもよい。無機フィラーが含まれていれば、該グラフト共重合体を用いた場合に、熱可塑性樹脂組成物の熱変形を防止できる。
無機フィラーとしては、例えば、重質炭酸カルシウム、沈降性炭酸カルシウム、膠質炭酸カルシウム等の炭酸塩、酸化チタン、クレー、タルク、マイカ、シリカ、カーボンブラック、グラファイト、ガラスビーズ、ガラス繊維、カーボン繊維、金属繊維等が挙げられる。
グラフト共重合体に無機フィラーを含有させる場合には、水溶性あるいは懸濁状態にあるフィラーをグラフト共重合体ラテックスに直接添加してもよいし、もしくは粉体回収時、さらにはペレット化する際に添加してもよい。
グラフト共重合体中の無機フィラーの含有量は、グラフト共重合体100質量部に対して0.01〜30質量部であることが好ましく、0.01〜20質量部であることがより好ましく、0.01〜10質量部であることが特に好ましく、0.01〜5質量部であることが最も好ましい。無機フィラーの含有量が0.01質量部以上であれば、熱可塑性樹脂組成物の耐熱性が高くなり、30質量部以下であれば、耐衝撃性の低下を防止できる。
【0035】
さらに、グラフト共重合体には、カルシウム成分を含んでもよい。グラフト共重合体がカルシウム成分を含む場合には、特にエンジニアリングプラスチックの耐衝撃性の向上、耐候性、耐湿熱性の向上には有効である。カルシウム成分の含有量は、グラフト共重合体100質量部に対して0.0001〜10質量部の範囲であることが好ましい。カルシウム源については特に限定されない。
【0036】
グラフト共重合体を得るためのグラフト重合は、一段であってもよいし、多段であってもよいが、耐衝撃性を向上させるためには、多段であることが好ましい。
また、グラフト用原料単量体が、グリシジルメタクリレート等のような反応性単量体を含む場合には、グリシジルメタクリレートのエポキシ基を残しつつ、分散性等を良好にできることから、多段にすることが好ましい。
ただし、多段化することは製造工程数が増加して生産性が低下するので、必要以上に増やすことは好ましくない。そのため、5段以下であることが好ましく、3段以下であることがより好ましい。
【0037】
グラフト重合の際に使用する乳化剤及び重合開始剤としては、ゴム質重合体の製造で使用するものと同様のものが使用される。
【0038】
グラフト重合によってゴム質重合体とグラフト部とからなるグラフト共重合体を含むラテックスが得られる。
グラフト共重合体を含むラテックスからグラフト共重合体を回収する方法としては、噴霧乾燥、酸や塩による湿式凝固等が挙げられる。ただし、グラフト共重合体が反応性の高い官能基を有する場合には、酸による湿式凝固は好ましくない。酸を用いた場合には、官能基を失活させるおそれがあるからである。
【0039】
塩を用いた湿式凝固をおこなう場合には、塩として、酢酸カルシウム、塩化カルシウム、硫酸マグネシウム等のアルカリ土類金属塩を用いることが好ましい。アルカリ土類金属塩を用いれば、耐湿熱性、即ち、水分及び熱による熱可塑性樹脂の分解等の劣化を抑制できる。
湿式凝固に用いられる酸としては、例えば、塩酸、硫酸、酢酸等が挙げられる。
【0040】
噴霧乾燥は、真空容器内にラテックスを噴霧して乾燥する方法であり、酸や塩の添加を省略できる利点を有する。
噴霧乾燥の際には、グラフト共重合体のラテックスと同時に、上述した無機フィラー類、カルシウム成分、グラフト共重合体以外の重合体(硬質ビニル系共重合体)を含む液を共噴霧してもよい。共噴霧した場合には、グラフト共重合体のラテックスと、無機フィラー類、カルシウム成分、グラフト共重合体以外の重合体とが混合した状態で回収でき、グラフト共重合体の粉体性状を調整できる。
【0041】
グラフト共重合体の形状は、粉体、顆粒、ペレットのいずれにしてもよい。
特に、熱可塑性樹脂組成物を製造する際に配合する熱可塑性樹脂がペレットである場合には、グラフト共重合体を顆粒あるいはペレットとすることが好ましい。
ペレットは、押出機とペレタイザとを備えた装置により、グラフト共重合体を溶融させてストランドを作製し、所定の間隔で切断することにより得られる。また、プレス成形によっても得られる。
【0042】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、上述したグラフト共重合体と、熱可塑性樹脂とを含有するものである。
熱可塑性樹脂の具体例としては、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)等のオレフィン系樹脂;ポリスチレン(PS)、ハイインパクトポリスチレン(HIPS)、(メタ)アクリレート・スチレン共重合体(MS)、スチレン・アクリロニトリル共重合体(SAN)、スチレン・無水マレイン酸共重合体(SMA)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体(ABS)、アクリロニトリル・スチレン・アクリレート共重合体(ASA)、アクリロニトリル・EPDM・スチレン共重合体(AES)等のスチレン系樹脂(St系樹脂);ポリメタクリル酸メチル(PMMA)等のアクリル系樹脂(Ac系樹脂);ポリカーボネート系樹脂(PC系樹脂);ポリアミド系樹脂(PA系樹脂);ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等のポリエステル系樹脂(PEs系樹脂);(変性)ポリフェニレンエーテル系樹脂(PPE系樹脂)、ポリオキシメチレン系樹脂(POM系樹脂)、ポリスルフォン系樹脂(PSO系樹脂)、ポリアリレート系樹脂(PAr系樹脂)、ポリフェニレン系樹脂(PPS系樹脂)、熱可塑性ポリウレタン系樹脂(PU系樹脂)等のエンジニアリングプラスチック;スチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー、塩化ビニル系エラストマー、ウレタン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、フッ素系エラストマー、1,2−ポリブタジエン、トランス1,4−ポリイソプレン等の熱可塑性エラストマー(TPE);PC/ABS等のPC系樹脂/St系樹脂アロイ、PVC/ABS等のPVC系樹脂/St系樹脂アロイ、PA/ABS等のPA系樹脂/St系樹脂アロイ、PA系樹脂/TPEアロイ、PA/PP等のPA系樹脂/ポリオレフィン系樹脂アロイ、PBT系樹脂/TPE、PC/PBT等のPC系樹脂/PEs系樹脂アロイ、ポリオレフィン系樹脂/TPE、PP/PE等のオレフィン系樹脂同士のアロイ、PPE/HIPS、PPE/PBT、PPE/PA等のPPE系樹脂アロイ、ポリアセタール樹脂(POM)、PVC/PMMA等のPVC系樹脂/Ac系樹脂アロイ等のポリマーアロイ;硬質、半硬質、軟質塩化ビニル樹脂;等が挙げられる。
上記熱可塑性樹脂の中でも、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアセタール樹脂、塩化ビニル樹脂を用いた場合に、本発明の効果がより発揮される。さらには、スチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂、塩化ビニル樹脂を用いた場合に、本発明の効果が特に発揮され、塩化ビニル樹脂を用いた場合に本発明の効果が最も発揮される。
【0043】
熱可塑性樹脂組成物中のグラフト共重合体の含有量は、熱可塑性樹脂100質量部に対して1〜40質量部であることが好ましく、1〜20質量部であることがより好ましい。グラフト共重合体の含有量が1質量部以上であれば、耐衝撃性を確実に向上させることができ、40質量部以下であれば、加工性をより容易に調整できる。
【0044】
熱可塑性樹脂組成物には、安定剤が含まれてもよい。安定剤としては、金属系安定剤、非金属系安定剤に分けられる。
金属系安定剤の具体例としては、三塩基性硫酸鉛、二塩基性亜リン酸鉛、塩基性亜硫酸鉛、ケイ酸鉛等の鉛系安定剤;カリウム、マグネシウム、バリウム、亜鉛、カドミウム、鉛等の金属と、2−エチルヘキサン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、ヒドロキシステアリン酸、オレイン酸、リシノール酸、リノール酸、ベヘン酸等の脂肪酸から誘導される金属石けん系安定剤;アルキル基、エステル基等と、脂肪酸塩、マレイン酸塩、含硫化物等から誘導される有機スズ系安定剤;Ba−Zn系、Ca−Zn系、Ba−Ca−Sn系、Ca−Mg−Sn系、Ca−Zn−Sn系、Pb−Sn系、Pb−Ba−Ca系等の複合金属石けん系安定剤;バリウム、亜鉛等の金属と、2−エチルヘキサン酸、イソデカン酸、トリアルキル酢酸等の分岐脂肪酸、オレイン酸、リシノール酸、リノール酸等の不飽和脂肪酸、ナフテン酸等の脂肪環族酸、石炭酸、安息香酸、サリチル酸、それらの置換誘導体等の芳香族酸といった通常2種以上の有機酸から誘導される金属塩系安定剤等が挙げられる。
安定剤の形態は、石油系炭化水素、アルコール、グリセリン誘導体等の有機溶剤に溶解された液状の形態であってもよい。
【0045】
非金属系安定剤の具体例としては、エポキシ樹脂、エポキシ化大豆油、エポキシ化植物油、エポキシ化脂肪酸アルキルエステル等のエポキシ化合物;リン酸にプロピレングリコール等の2価アルコール、ヒドロキノン、ビスフェノールA等の芳香族化合物が結合され、分子内にアルキル基、アリール基、シクロアルキル基、アルコキシル基等の置換基を有する有機亜リン酸エステル;2,4−ジ−t−ブチル−3−ヒドロキシトルエン(BHT)や硫黄やメチレン基等で二量体化したビスフェノール等のヒンダードフェノール、サリチル酸エステル、ベンゾフェノン、ベンゾトリアゾール等の紫外線吸収剤;ヒンダードアミン又はニッケル錯塩の光安定剤;カーボンブラック、ルチル型酸化チタン等の紫外線遮蔽剤;トリメロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトール、マンニトール等の多価アルコール;β−アミノクロトン酸エステル、2−フェニルインドール、ジフェニルチオ尿素、ジシアンジアミド等の含窒素化合物;ジアルキルチオジプロピオン酸エステル等の含硫黄化合物;アセト酢酸エステル、デヒドロ酢酸、β−ジケトン等のケト化合物;有機珪素化合物;硼酸エステル;等が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0046】
熱可塑性樹脂組成物には充填剤が含まれてもよい。充填剤の具体例としては、重質炭酸カルシウム、沈降性炭酸カルシウム、膠質炭酸カルシウム等の炭酸塩;酸化チタン、クレー、タルク、マイカ、シリカ、カーボンブラック、グラファイト、ガラスビーズ、ガラス繊維、カーボン繊維、金属繊維等の無機質系の充填剤;ポリアミド等の有機繊維、シリコーン等の有機質系の充填剤;木粉等の天然有機物;等が挙げられる。
【0047】
また、熱可塑性樹脂組成物には、必要に応じて、上記グラフト共重合体以外の耐衝撃性改質剤、可塑剤、滑剤、難燃剤、耐熱向上剤が含まれてもよい。
【0048】
耐衝撃改質剤の具体例としては、MBS共重合体、NBR(アクリロニトリル・ブタジエン共重合ゴム)、EVA(エチレン・酢酸ビニル共重合体)、塩素化ポリエチレン、アクリルゴム、ポリアルキル(メタ)アクリレートゴム系グラフト共重合体、熱可塑性エラストマーが挙げられる。
【0049】
可塑剤の具体例としては、ジブチルフタレート、ジオクチルフタレート、ジイソデシルフタレート、ジイソノニルフタレート、ジウンデシルフタレート、トリオクチルトリメリテート、トリイソオクチルトリメリテート等の芳香族多塩基酸のアルキルエステル;ジブチルアジペート、ジオクチルアジペート、ジシオノニルアジぺート、ジブチルアゼレート、ジオクチルアゼレート、ジイソノニルアゼレート等の脂肪酸多塩基酸のアルキルエステル;トリクレジルフォスフェート等のリン酸エステル、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、フタル酸等の多価カルボン酸と、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,2−ブチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、1,4−ブチレングリコール等の多価アルコールとの分子量600〜8,000程度の重縮合体の末端を一価アルコール又は一価カルボン酸で封止した化合物等のポリエステル系可塑剤;エポキシ化大豆油、エポキシ化アマニ油、エポキシ化トール油、脂肪酸−2−エチルヘキシル等のエポキシ系可塑剤;塩素化パラフィン等が挙げられる。
【0050】
滑剤の具体例としては、流動パラフィン、低分子量ポリエチレン等の純炭化水素、ハロゲン化炭化水素、高級脂肪酸、オキシ脂肪酸等の脂肪酸、脂肪酸アミド、グリセリド等の脂肪酸の多価アルコールエステル、脂肪酸の脂肪アルコールエステル(エステルワックス)、金属石けん、脂肪アルコール、多価アルコール、ポリグリコール、ポリグリセロール、脂肪酸と多価アルコールの部分エステル、脂肪酸とポリグリコール、ポリグリセロールの部分エステル等のエステル、(メタ)アクリレート系共重合体等が挙げられる。
【0051】
難燃剤の具体例としては、リン酸エステル化合物、亜リン酸エステル化合物、縮合リン酸エステル化合物、水酸化アルミニウム、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン等の酸アンチモン系化合物、含ハロゲンリン酸エステル化合物、含ハロゲン縮合リン酸エステル化合物、塩素化パラフィン、臭素化芳香族トリアジン、臭素化フェニルアルキルエーテル等の臭素化芳香族化合物等ハロゲン含有化合物、スルフォンあるいは硫酸塩系化合物、さらにはエポキシ系反応型難燃剤等が挙げられる。
【0052】
耐熱向上剤の具体例としては、(メタ)アクリレート系共重合体、イミド系共重合体、スチレン・アクリロニトリル系共重合体等が挙げられる。
【0053】
さらには、熱可塑性樹脂組成物には、(メタ)アクリレート系共重合体等の加工助剤、離型剤、結晶核剤、流動性改良剤、着色剤、帯電防止剤、導電性付与剤、界面活性剤、防曇剤、発泡剤、抗菌剤;等が挙げられる。
【0054】
熱可塑性樹脂組成物を製造する方法としては特に制限されないが、溶融混合法が好ましい。溶融混合法にて使用する溶融混合装置としては、例えば、押出機、バンバリーミキサー、ローラー、ニーダー等が挙げられる。溶融混合装置は、通常、連続的に運転するが、回分的であっても構わない。
熱可塑性樹脂組成物を構成する各成分の混合順は特に限定されない。また、溶融混合法において、必要に応じて少量の溶剤を使用してもよい。
【0055】
上述した熱可塑性樹脂組成物では、グラフト共重合体を構成するゴム質重合体がアクリルゴムであるから、不飽和二重結合をほとんど有しておらず、耐候性に優れている。
また、本発明者らが鋭意検討した結果、このようにして得たゴム質重合体を用いたグラフト共重合体と熱可塑性樹脂とを配合した熱可塑性樹脂組成物では、耐衝撃性を向上させつつ、加工性を容易に調整できることが判明した。このような特性を有することにより、例えば、熱可塑性樹脂として塩化ビニル樹脂を用いた場合には、耐衝撃性を向上させつつ、可塑化時間の指標となるゲル化時間を成形条件や成形機の仕様に合わせて変更することができる。
従って、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、耐候性及び耐衝撃性が高く、加工性を容易に調整できるものである。
【0056】
熱可塑性樹脂が塩化ビニル樹脂であり、熱安定剤としてCa−Zn系安定剤を使用した場合には、ゲル化時間が200秒以上400秒未満であることが好ましく、200秒以上350秒未満であることがより好ましい。
ゲル化時間が200秒未満であると、溶融粘度が急激に上昇し、熱可塑性樹脂組成物を溶融混合法により製造する際のシェアー等の影響を受けて成形加工時の樹脂温度が上昇し、塩化ビニル樹脂の熱分解を引き起こすことがある。ゲル化時間が400秒以上であると、熱可塑性樹脂組成物の加工時の生産性が低下する傾向にある。
ここでいうゲル化時間とは、熱可塑性樹脂組成物をブラベンダープラスチコーダーにより混練した際の、混練開始から、混練トルクがピークに達するまでの時間のことである。このゲル化時間は可塑化時間の指標である。
【0057】
このような熱可塑性樹脂組成物は、例えば、硬質建材(窓枠、サイジング材、パイプ、継手)、自動車の内装又は外装部品、玩具、文房具等の雑貨、OA機器、家電機器等の成形用材料として好適に使用される。
【実施例】
【0058】
以下、実施例により本発明を更に詳しく説明する。
なお、以下の例において、ゴム質重合体の平均粒子径とガラス転移温度を、以下の方法により測定した。
【0059】
<ゴム質重合体の平均粒子径測定>
得られたゴム質重合体のラテックスを脱イオン水で希釈し、これを試料として、CHDF方式による粒度分布計である、米国MATEC社製CHDF2000型粒度分布計を用いて、平均粒子径を測定した。測定条件は、MATEC社が推奨する標準条件でおこなった。
具体的には、専用の粒子分離用キャピラリー式カートリッジ及びキャリア液を用い、液性はほぼ中性、流速1.4ml/分、圧力約4000psi、温度35℃に保った状態で、濃度約3%の希釈ラテックス試料0.1mlを用いて測定した。また、標準粒子径物質として米国DUKE社製、粒子径0.02μmから0.8μmの範囲内で粒子径既知の単分散ポリスチレンを、合計8点用いて検量線を作成した。
【0060】
<ゴム質重合体のガラス転移温度の測定>
ゴム質重合体を含むグラフト共重合体を、温度を150℃に設定したプレス機を用いて3mm厚の板に成形した。その板から、幅10mm、長さ50mm程度の大きさの試験片を切り出し、その試験片を用いて、セイコー電子製のDMS(動的粘弾性測定装置)により昇温速度2℃/分の条件で貯蔵弾性率及び損失弾性率を測定し、損失弾性率/貯蔵弾性率であるtanδをプロットした。そのtanδプロットのピークに対応した温度を読み取った。その温度はガラス転移温度を示している。
【0061】
(実施例1)
2−エチルヘキシルアクリレート41質量部、2−エチルヘキシルアクリレートを100質量%とした際の0.5質量%に相当する量のアリルメタクリレートと、アルキルジフェニルエーテルスルフォン酸ジナトリウム0.01質量部、水64質量部を特殊機化製のTKホモミキサで、12000rpm、5分間予備分散した後、ゴウリン製ホモジナイザLB−40型を用いて圧力20MPaで強制乳化して、プレエマルジョンを得た。
次いで、コンデンサ及び撹拌翼を備えた第1のセパラブルフラスコに、上記プレエマルジョンを仕込み、プレエマルジョン中の2−エチルヘキシルアクリレートを100質量%とした際の0.5質量%に相当する量のt−ブチルハイドロパーオキサイドを該セパラブルフラスコ内に仕込んだ。
次いで、室温にて窒素を200ml/分で第1のセパラブルフラスコ内に35分間流して窒素置換した後、第1のセパラブルフラスコ内の温度を50℃まで昇温した。50℃に達した後、硫酸第1鉄0.0004質量部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩0.0012質量部、ロンガリット0.10質量部及び蒸留水5質量部の混合液を第1のセパラブルフラスコ内に投入し、重合を開始し、その後90分間保持して、アクリルゴム(A1)のラテックスを得た。
次いで、上記セパラブルフラスコとは別の、コンデンサ及び撹拌翼を備えた第2のセパラブルフラスコに、アクリルゴム(A1)のラテックスを固形分換算で20質量部、アルキルジフェニルエーテルスルフォン酸ジナトリウム0.7質量部、硫酸第1鉄0.001質量部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩0.003質量部、ロンガリット0.24質量部及び蒸留水10部の混合液を投入した。次いで、室温にて窒素を200ml/分で第2のセパラブルフラスコ内に35分間流して窒素置換した後、第2のセパラブルフラスコ内の温度を45℃に昇温した。
n−ブチルアクリレート68質量部、n−ブチルアクリレートを100質量%とした際の2質量%に相当する量のアリルメタクリレート、及び、n−ブチルアクリレートを100質量%とした際の0.4質量%に相当する量のt−ブチルパーオキサイドを混合して第2の原料単量体を調製した。
第2の原料単量体を第2のセパラブルフラスコ内に5分間かけて滴下し、滴下と同時に重合を開始した。その後、第2のセパラブルフラスコ内を65℃で60分間保持してアクリルゴム(A2)の重合を完了させて、ゴム質重合体(G−1)のラテックスを得た。このゴム質重合体(G−1)の重合率は99.9質量%であった。このゴム質重合体(G−1)の平均粒子径を表1に示す。
【0062】
【表1】

【0063】
次いで、メチルメタクリレート11部とメチルメタクリレートを100質量%とした際の0.5質量%に相当する量のt−ブチルパーオキサイドとを混合してグラフト用原料単量体を調製した。
上記ゴム質重合体(G−1)のラテックスの全量(100質量部)を温度65℃に昇温し、その中に上記グラフト用原料単量体を25分間かけて滴下した。その後、温度を60分間保持して重合を完了して、ゴム質重合体とグラフト部とからなるアクリルゴム系のグラフト共重合体のラテックスを得た。
次いで、このグラフト共重合体のラテックスを、酢酸カルシウム5.0質量%を含む熱水200質量部中に滴下して、グラフト共重合体を凝固、分離し、洗浄した。得られたウェット状のグラフト共重合体を75℃で12時間乾燥して、粉末状のグラフト共重合体1を得た。
得られたグラフト共重合体1と塩化ビニル樹脂と添加剤とを、表2の割合で配合して、熱可塑性樹脂組成物を得た。
【0064】
【表2】

【0065】
得られた熱可塑性樹脂組成物について、以下の物性評価をおこなった。評価結果を表3に示す。
<機械的強度> アイゾット衝撃強度 ASTM D256
熱可塑性樹脂組成物を190℃で4分間混練した後、100cm角、厚み3mmの形状になるようにプレス成形してロールシートを得た。このロールシートから、ASTM D256に準拠した試験片を切り出し、その試験片を使用してアイゾット衝撃強度を23℃で測定した。
<熱分解及び生産性> ブラベンダープラスチコーダーによるゲル化時間測定
ブラベンダー社製ブラベンダーPL2000型にプラストミルとしてミキサー型ヘッド:W−50E3ゾーンを装着し、容器温度140℃、充填量50g、保持時間4分、ミキサー回転数30rpmの条件にて、熱可塑性樹脂組成物のゲル化時間を測定した。ゲル化時間は、4分間の保持の後、11分(660秒)間測定した。
測定されたゲル化時間が短い(具体的には200秒未満である)ということは、短時間で溶融粘度が急激に上昇するため、溶融混合時のシェアー等の影響を受けて成形加工時の樹脂温度が上昇して塩化ビニル樹脂が熱分解しやすい(熱分解性の評価:×)ことを示し、ゲル化時間が長い(具体的には400秒以上)ということは熱可塑性樹脂組成物の加工時の生産性が低くなる(加工時生産性の評価:×)ことを示す。
【0066】
【表3】

【0067】
(実施例2)
第2の原料単量体を3時間かけて第2のセパラブルフラスコ内に滴下したこと以外は実施例1と同様にしてゴム質重合体(G−2)を得た。
ゴム質重合体(G−2)を用いたこと以外は実施例1と同様にしてグラフト共重合体2を得た。また、実施例1と同様にして熱可塑性樹脂組成物を得て、実施例1と同様に評価した。評価結果を表3に示す。
【0068】
(比較例1)
実施例1と同様にしてアクリルゴム(A1)を得た。アクリルゴム(A1)を合成した際に使用したセパラブルフラスコとは別の、コンデンサ及び撹拌翼を備えた第2のセパラブルフラスコに、アクリルゴム(A1)のラテックスを固形分換算で20質量部、アルキルジフェニルエーテルスルフォン酸ジナトリウム0.7質量部を仕込んだ。
n−ブチルアクリレート68質量部、n−ブチルアクリレートを100質量%とした際の2質量%に相当する量のアリルメタクリレート、及び、n−ブチルアクリレートを100質量%とした際の0.4質量%に相当する量のt−ブチルパーオキサイドを混合して第2の原料単量体を調製した。
次いで、第2の原料単量体を第2のセパラブルフラスコ内に一括して仕込み、35分間保持した後、硫酸第1鉄0.001質量部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩0.003質量部、ロンガリット0.24質量部及び蒸留水10部の混合液を投入して重合を開始した。その後、65℃で60分間保持してアクリルゴム(A2’)の重合を完了させて、ゴム質重合体(G−3)のラテックスを得た。このゴム質重合体(G−3)の重合率は99.9質量%であった。
このゴム質重合体(G−3)のラテックスを用いたこと以外は実施例1と同様にしてグラフト共重合体3を得た。そして、グラフト共重合体3を用いたこと以外は実施例1と同様にして熱可塑性樹脂組成物を得て、実施例1と同様にして評価した。評価結果を表3に示す。
【0069】
(比較例2)
グラフト共重合体を配合しなかったこと以外は実施例1と同様にして熱可塑性樹脂組成物を得て、実施例1と同様に評価した。評価結果を表3に示す。
【0070】
[アイゾット衝撃強度の測定結果について]
本発明のグラフト共重合体を含有する実施例1,2の熱可塑性樹脂組成物は、従来技術によるグラフト共重合体を含有する比較例1の熱可塑性樹脂組成物の衝撃強度と略同等であり、耐衝撃性が確保されていた。
【0071】
[ゲル化時間の測定結果について]
本発明のグラフト共重合体を含有する実施例1,2の熱可塑性樹脂組成物は、ゲル化時間が200秒以上400秒未満の範囲内にあった。このことは、溶融粘度の急激な上昇に起因する塩化ビニル樹脂の熱分解が抑制され、かつ、熱可塑性樹脂組成物の加工時の生産性に優れることを示している。特に、第2の原料単量体の供給時間を長くした実施例2では、ゲル化時間がより長く、熱可塑性樹脂組成物の加工性に特に優れていることを示していた。
これに対し、アクリルゴム(A1)が仕込まれた反応容器内に第2の原料単量体を一括で添加した後に重合を開始して得たゴム質重合体を用いた比較例1の熱可塑性樹脂組成物では、ゲル化時間が200秒未満であり、過度に短かった。このことは、熱可塑性樹脂組成物を製造する際に溶融粘度が急激に上昇し、成形加工時の樹脂温度が上昇して塩化ビニル樹脂の熱分解が生じやすいことを示している。
グラフト共重合体を含まない比較例2の熱可塑性樹脂組成物は、測定時間内にゲル化せず、また、衝撃強度が低かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の原料単量体を乳化重合してアクリルゴム(A1)を製造し、該アクリルゴム(A1)の存在下で第2の原料単量体を5分〜10時間の範囲で供給し、その供給と同時に乳化重合を開始してアクリルゴム(A2)を製造するゴム質重合体の製造方法であって、
第1の原料単量体が下記化学式(I)で表される(メタ)アクリレートを含み、第2の原料単量体がn−ブチルアクリレートを含むものとし、又は、第1の原料単量体がn−ブチルアクリレートを含み、第2の原料単量体が下記化学式(I)で表される(メタ)アクリレートを含むものとし、
下記化学式(I)で表される(メタ)アクリレートを含む原料単量体を乳化重合して得るアクリルゴムのガラス転移温度が、n−ブチルアクリレートを含む原料単量体を乳化重合して得るアクリルゴムのガラス転移温度より低くなるようにすることを特徴とするゴム質重合体の製造方法。
【化1】

(化学式(I)において、Rは、水素原子又はメチル基であり、Rは、分岐鎖を有する置換基、末端に水酸基あるいはアルコキシル基を有するアルキレン基、炭素数12以上のアルキル基よりなる群から選ばれる少なくとも1種の置換基である。)
【請求項2】
請求項1に記載のゴム質重合体の製造方法により製造されたことを特徴とするゴム質重合体。
【請求項3】
請求項2に記載のゴム質重合体にグラフト用原料単量体をグラフト重合してなることを特徴とするグラフト共重合体。
【請求項4】
請求項3に記載のグラフト共重合体と、熱可塑性樹脂とを含有することを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。

【公開番号】特開2007−326997(P2007−326997A)
【公開日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−160930(P2006−160930)
【出願日】平成18年6月9日(2006.6.9)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】