説明

ゴルフクラブヘッドおよびその製造方法ならびにゴルフクラブ

【課題】ゴルフクラブヘッドへの熱影響を抑制しながら形成された様々な形態や材質の金属層を有するゴルフクラブヘッドおよびその製造方法ならびに該ヘッドを備えたゴルフクラブを提供する。
【解決手段】ゴルフクラブヘッドは、金属製外殻構造のヘッド本体と、該ヘッド本体の一部表面であるフェースパーツ20の内側表面20a上に形成された第1と第2金属層21,22とを備える。第1金属層21は、ヘッド本体との間に熱に起因する変質層を介在することなく、フェースパーツ20の内側表面20aに局所的に食込むように該内側表面20aと密着して形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴルフクラブヘッドおよびその製造方法ならびにゴルフクラブに関し、特にヘッド表面上に形成された金属層を備えたゴルフクラブヘッドおよびその製造方法ならびに該ヘッドを備えたゴルフクラブに関する。
【背景技術】
【0002】
特開平8−52243号公報をはじめとする幾つかの特許文献において、ゴルフクラブヘッドの外表面上に低温溶射により被覆層を形成することが提案されている。
【0003】
上記特開平8−52243号公報には、設計の自由度、強度の向上、製造の容易化のために、摩擦を受ける面を粗面に形成し、該粗面に略40℃〜100℃での低温溶射により表装金属の被覆層を形成することが記載されている。
【0004】
また、特開2002−325869号公報には、フェースの引張り強度を高くして硬度を上げるべく、ゴルフクラブヘッドの打撃面上に、40℃前後での超硬合金の低温溶射により被覆層を形成することが記載されている。
【0005】
さらに、特開2002−360748号公報には、フェースを、穴開き板体と、その少なくとも片面を覆う被覆体とで形成したゴルフクラブヘッドにおいて、被覆体を40℃前後での超硬合金の低温溶射により形成し、フェースのベースとなる穴開き板体の補強や穴の閉鎖を容易に行えるようにすることが記載されている。
【特許文献1】特開平8−52243号公報
【特許文献2】特開2002−325869号公報
【特許文献3】特開2002−360748号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記各特許文献に記載の低温溶射では、一旦金属材料を融点以上に加熱して溶融させた上で上述のような温度で溶射するので、被覆層の形成により母材であるゴルフクラブヘッドに熱影響を及ぼしてしまう。特に、被覆層を厚く形成した場合に、熱影響が顕著となり、当該被覆層を形成した部分が変質する等して特性が劣化することが懸念される。また、このような望ましくない熱影響を軽減すべく、別途熱処理を行なう等の処理が必要となる場合もある。
【0007】
したがって、上記各特許文献に記載の手法では、ゴルフクラブヘッドへの熱影響を抑制しながら、ゴルフクラブヘッドの表面上に様々な形態や材質の金属層を形成することは困難であった。
【0008】
そこで、本発明は、ゴルフクラブヘッドへの熱影響を抑制しながら形成された様々な形態や材質の金属層を有するゴルフクラブヘッドおよびその製造方法ならびに該ヘッドを備えたゴルフクラブを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るゴルフクラブヘッドは、金属製外殻構造のヘッド本体と、該ヘッド本体の一部表面上に形成された金属層とを備える。金属層は、ヘッド本体との間に熱に起因する変質層を介在することなく、ヘッド本体の一部表面に局所的に食込むように該一部表面と密着して形成されている。ここで、上記「金属製外殻構造」とは、本願明細書では、金属を主体とした材質で外殻が形成されていることを意味し、非金属部分が含まれていてもよい。また、上記「変質層」とは、本願明細書では、溶融状態の材料を用いて金属層を形成したことが影響して、金属層とヘッド本体との少なくとも一方が変質もしくは脆弱な化合物が生成することで形成された層のことをいう。
【0010】
上記金属層は、同じ材質の複数の金属層を積層したものであってもよいが、材質の異なる複数の金属層を積層したものであってもよい。たとえばヘッド本体の表面上に形成された第1金属層と、該第1金属層の表面上に形成され第1金属層とは異なる材質の第2金属層とを含むものであってもよい。また、金属層の厚みを局所的あるいは金属層全体にわたって変化させてもよい。
【0011】
ヘッド本体は、たとえば内部空間と、フェース部とを含むものであってもよい。この場合、フェース部において内部空間に向く側の表面である内側表面上に上記金属層を形成することができる。また、ヘッド本体は、内部空間と、ソール部とを含むものであってもよいが、この場合、ソール部において内部空間に向く側の表面である内側表面上に上記金属層を形成することができる。さらに、上記ソール部において外側に向く側の表面である外側表面上に上記金属層を形成してもよい。また、ヘッド本体は、表面に凹部を含むものであってもよい。この場合、該凹部内に上記金属層を形成することができる。
【0012】
本発明に係るゴルフクラブヘッドは、他の局面では、金属製外殻構造のヘッド本体と、ヘッド本体の一部表面上に形成され金属とセラミックの複合材料で形成された複合材料層とを備え、該複合材料層は、ヘッド本体との間に熱に起因する変質層を介在することなく、ヘッド本体の一部表面に局所的に食込むように該一部表面と密着して形成されている。
【0013】
本発明に係るゴルフクラブは、上述のいずれかの構成を有するゴルフクラブヘッドを備える。
【0014】
本発明に係るゴルフクラブヘッドの製造方法は、次の各工程を備える。金属製外殻構造のヘッド本体の少なくとも一部を作製する。金属粉末の融点または軟化温度よりも低い温度でありかつ超音速で流れる作動流体を用いて、固相状態の前記金属粉末を加速して上記ヘッド本体の一部表面に吹き付けることで、上記一部表面上に金属層を形成する。なお、上記ヘッド本体は、1つのパーツで構成してもよく、複数のパーツで構成してもよい。また、上記金属粉末は、ヘッド本体の一部表面に近い位置から吹き付けることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明のゴルフクラブヘッドおよびゴルフクラブでは、ヘッド本体との間に熱に起因する変質層を介在することなく金属層が形成されているので、ゴルフクラブヘッドは、該金属層の形成による熱影響が抑制され、所望の特性を備えたものとなる。また、金属層は、たとえば下記のような手法で形成可能である。したがって、ゴルフクラブヘッドへの熱影響を抑制しながら様々な形態や材質の金属層を形成することが可能となる。
【0016】
本発明に係るゴルフクラブヘッドの製造方法によれば、金属粉末の融点または軟化温度よりも低い温度でありかつ超音速で流れる作動流体を用いて、固相状態の金属粉末を加速して上記ヘッド本体の一部表面に吹付けることで、ヘッド本体の一部表面上に金属層を形成しているので、ゴルフクラブヘッドへの熱影響を抑制しながら様々な形態や材質の金属層を形成することができる。
【0017】
本発明によれば、ゴルフクラブヘッドの表面上に、上記のように様々な形態や材質の金属層を形成できるので、従来では予想もできなかったような各部の構成を採用してゴルフクラブヘッドの特性を改善することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の幾つかの実施の形態について、図1〜図7を用いて説明する。本発明の実施の形態におけるゴルフクラブは、後述するゴルフクラブヘッドと、シャフトと、グリップとを備える。なお、シャフトおよびグリップとしては周知のものを採用可能である。また、本発明は、ウッドゴルフクラブに有用であるが、アイアンゴルフクラブやパターに適用することも可能である。
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1におけるゴルフクラブヘッド1の分解斜視図である。図1に示すように、本実施の形態1におけるゴルフクラブヘッド1は、金属製外殻構造のヘッド本体を備える。該ヘッド本体の材料としては、チタンやチタン合金をはじめとする様々な金属材料を使用可能である。
【0019】
なお、図1の例では、内部空間を維持した中空構造のゴルフクラブヘッド1を例示しているが、内部空間に発泡材等の物質を充填するようにしてもよい。また、金属部材と非金属部材とを組み合せてゴルフクラブヘッド1を作製することも可能である。
【0020】
ヘッド本体は、フェース部2と、ソール部4と、クラウン部5と、ソール部4とクラウン部5とを接続するサイド部6とを備える。図1の例では、ヘッド本体は、複数のパーツを組合せて形成されている。具体的には、ヘッド本体は、該ヘッド本体の主要部を構成するヘッド本体基部と、該ヘッド本体基部に固着されるフェースパーツ20とを備える。
【0021】
図1に示すヘッド本体は、フェース部2の中央部に開口部3を有し、該開口部3にフェース部2の中央部を形成するフェースパーツ20が固着される。なお、開口部3の位置や数を変更したり、ヘッド本体を、ヘッド本体基部と、該ヘッド本体基部に装着される2種以上のパーツとで作製してもよい。たとえば、ヘッド本体基部として、クラウン部5の中央部に開口部を有し、クラウン部5の周縁部と、フェース部2と、サイド部6と、ソール部4とが一体成形されたものや、フェース部2とクラウン部5の中央部にそれぞれ開口部を有し、フェース部2およびクラウン部5の周縁部と、サイド部6と、ソール部4とが一体成形されたもの等が考えられる。なお、フェース部2、ソール部4、クラウン部5およびサイド部6の少なくとも一つに単数または複数の開口部を設けることも考えられる。
【0022】
上記ヘッド本体基部の材質としては、たとえば鋳造成形が可能となる材料であるチタン合金(たとえばαβチタン合金:Ti−6Al−4V等)を挙げることができる。他方、ヘッド本体基部の開口部を閉じるように装着される金属製パーツとしては、チタン合金やマグネシウム合金等からなる金属製板材等を挙げることができる。また、ヘッド本体基部の開口部を閉じるように装着される非金属製パーツとしては、FRP(Fiber Reinforced Plastics)等の非金属製板材等も使用することができる。
【0023】
本実施の形態1では、フェースパーツ20の材質として、αβチタン合金(Ti−6Al−4V)やβ系チタン合金(Ti−22V−4Al,Ti−15Mo−5Zr−4V−4Al等)を使用し、フェースパーツ20を溶接等によりヘッド本体基部に接合することが考えられる。このフェースパーツ20は、鍛造や圧延等により作製することができる。
【0024】
クラウン部5に開口部を設ける場合には、ヘッド本体基部よりも低比重の金属材料からなるクラウンパーツを、ヘッド本体基部に接着等の手法で固着することが考えられる。また、ヘッド本体基部よりも低比重であるFRP等の非金属材料でクラウンパーツを作製することも考えられる。このようにクラウンパーツを低比重の材料で作製することにより、ヘッドの低重心化を図ることができる。なお、ヘッド本体基部と同様の材料からなる板材をクラウンパーツとして使用してもよい。
【0025】
サイド部6やソール部4に開口部を設けた場合も、ヘッド本体基部と比重の異なる材質で構成されるパーツをヘッド本体基部に固着し、ゴルフクラブヘッドの質量分布等を調整するようにしてもよい。
【0026】
図2に、本実施の形態1におけるフェースパーツ20の1つの構造例を示し、図3に、フェースパーツ20の他の構造例を示す。
【0027】
図2や図3に示すように、本実施の形態1では、金属製外殻構造のヘッド本体の一部表面上に金属層を形成している。より詳しくは、ヘッド本体の一部を構成するフェースパーツ20の表面であって、ヘッド本体の内部空間側を向く内側表面20a上に複数の金属層を形成している。
【0028】
図2に示すフェースパーツ20は、圧延されたαβチタン合金(Ti−6Al−4V)の板材にプレス加工を施して所定形状の板材を得た後に、該板材に曲げ加工を施すことで作製することができる。
【0029】
フェースパーツ20の内側表面20a上に、フェースパーツ20の外周に沿う外形を有する第1金属層21を形成する。図2の例では、フェースパーツ20の外周縁と、第1金属層21の外周縁とを離隔させている。この離隔量は、任意に設定可能である。
【0030】
上記の第1金属層21は、フェースパーツ20との間に熱に起因する変質層を介在することなく、内側表面20aに局所的に食込むように該内側表面20aと密着して形成されている。
【0031】
このように、ヘッド本体との間に熱に起因する変質層を介在することなく第1金属層21を形成しているので、フェースパーツ20への熱影響を抑制することができる。また、第1金属層21は、後述のように金属材料を吹付ける等して形成可能であるので、様々な形態や材質のものとすることができる。したがって、ゴルフクラブヘッド1への熱影響を抑制しながら所望の形態や材質の金属層をゴルフクラブヘッド1の表面上に形成することが可能となる。それにより、反発特性や耐久性を思い通りにコントロールすることができる。
【0032】
第1金属層21は、フェースパーツ20の材質とは異なる材質、たとえば純チタンで構成する。第1金属層21の厚みは任意に設定可能であるが、本実施の形態1では、第1金属層21の厚みを0.5mm程度とする。これに対し、フェースパーツ20の厚みは、2mm程度とすればよい。
【0033】
上記の第1金属層21上に第2金属層22を形成する。第2金属層22の外形は、図2の例では略楕円形状であるが、任意の形状とすることができる。この第2金属層22も、第1金属層21と同じ材質である純チタンで0.5mm程度の厚みに形成される。該第2金属層22と第1金属層21との間の界面状態も、フェースパーツ20と第1金属層21との間の界面状態と同様の状態となる。
【0034】
上記のように、フェースパーツ20の内側表面20a上に、第1金属層21と第2金属層22とを形成することにより、フェースパーツ20の厚みをその中央部に向かって段階的に厚くすることができる。つまり、鍛造等によりフェースパーツ20の厚みを段階的に厚くした場合と等価な状態を実現することができる。また、各金属層の厚みを高精度かつ複雑に変化させることもできるので、フェース部2の反発特性を調整することも可能となる。
【0035】
なお、図2の例では、第1金属層21の材質と第2金属層22の材質とを同一としたが、第1金属層21の材質と第2金属層22の材質とを異ならせてもよい。たとえば、第1金属層21の材質を純チタンとし、第2金属層22の材質をアルミニウムとすることも可能である。
【0036】
本実施の形態1では、フェースパーツ20の材質と各金属層の材質をも異ならせているが、このようにフェースパーツ20上に異なる材質の金属層を形成することにより、従来では考えられなかったようなフェース部2の極端な剛性分布を実現することもできる。それにより、フェース部2の反発特性を多様に制御することもできる。
【0037】
また、図2の例では、第1金属層21の厚みと第2金属層22の厚みとを同一としたが、第1金属層21の厚みと第2金属層22の厚みとを異ならせてもよい。たとえば、第1金属層21の厚みを0.2mm〜0.3mm程度と薄くし、第2金属層22の厚みを0.7mm〜0.8mm程度として第1金属層21の厚みよりも厚くすることが考えられる。
【0038】
また、第1金属層21と第2金属層22とを積層することなく、これらが共にフェースパーツ20の内側表面20aと接するように内側表面20a上に形成してもよい。たとえば第1金属層21と第2金属層22とを隣り合う位置に配置してもよく、これらを離隔して形成してもよい。
【0039】
次に、図3を用いて、本実施の形態1の変形例について説明する。図3に示すように、本変形例では、3層の金属層を形成している。より詳しくは、フェースパーツ20の内側表面20aの中央部上に、略円形の外形形状を有する第1〜第3金属層21〜23を形成している。第1〜第3金属層21〜23の外形で囲まれる領域の面積は、第1〜第3金属層21〜23の順に小さくなる。第1〜第3金属層21〜23も、0.5mm程度の厚みの純チタンで構成する。この第1〜第3金属層21〜23の場合も、各層の材質や厚みを異ならせてもよい。たとえば、第1金属層21をチタンで構成し、第2金属層22をアルミニウムで構成し、第3金属層23を銅で構成することも可能である。
【0040】
次に、図2に示す本実施の形態1におけるゴルフクラブヘッドの製造方法について説明する。
【0041】
まず、鋳造等の既知の手法で、αβチタン合金(Ti−6Al−4V)製のヘッド本体を作製する。また、上述のように、圧延されたαβチタン合金(Ti−6Al−4V)の板材にプレス加工を施して所定形状の板材を作製した後に、該板材に曲げ加工を施すことでフェースパーツ20を作製する。なお、複数のパーツを組合せてゴルフクラブヘッドを作製する場合には、各パーツを上記手法や、鍛造等の上記以外の適切な既知の手法で作製すればよい。
【0042】
そして、フェースパーツ20の内側表面20a上に、純チタンで構成された第1と第2金属層21,22を順次0.5mmの厚みに形成する。これらの金属層の形成するには、たとえば図7に示すようなスプレーヘッドを有する装置を使用すればよい。この装置は、図7に示す加熱部(ヒーター)12、金属粉末供給部13およびノズル部14を備える。
【0043】
上記のスプレーヘッドに、図示しない作動ガス供給源からHeやN等の高圧(たとえば0.5〜3.0MPa程度)の作動ガスを供給し、加熱部12で200℃〜300℃程度の温度(融点または軟化温度よりも低い温度)に加熱する。この加熱された高圧の作動ガスが、ノズル部14で超音速に加速される。そして、超音速に加速された作動ガス中に金属粉末供給部13から金属粉末材料である純チタン粉末(たとえば10μm以下程度の粒径)を投入し、この純チタン粉末を加速してターゲットであるフェースパーツ20の内側表面20aに吹き付ける。
【0044】
このとき、純チタン粉末の速度が上記のように非常に速く、また溶融せず固相状態のままなので、純チタン粉末は、熱によって変質することなく、フェースパーツ20の内側表面20aに強く衝突し、当該表面に減り込んだような状態で塑性変形する。
【0045】
それにより、フェースパーツ20の内側表面20a上に緻密な純チタンの層である第1金属層21を形成することができる。また、第1金属層21がフェースパーツ20の表面に局所的に入り込んだような状態で形成される(投錨効果)ので、第1金属層21とフェースパーツ20との接触面積を増大することができ、第1金属層21とフェースパーツ20との密着強度を高くすることもできる。
【0046】
第1金属層21を形成するに際し、フェースパーツ20の内側表面20aに予めブラスト処理を施す等して表面を粗面化しておいてもよい。この場合には、さらに第1金属層21とフェースパーツ20との接触面積を増大することができ、第1金属層21とフェースパーツ20との密着強度を向上させることができる。したがって、上記のような粗面化処理は、フェースパーツ20のようにボールを打撃した際の衝撃や変形量が大きな部分上に金属層を形成する場合に有効である。
【0047】
さらに、純チタン粉末が溶融せず固相状態のままフェースパーツ20の内側表面20aに吹き付けられて第1金属層21が形成されるので、フェースパーツ20との間に熱に起因する変質層や脆弱な化合物が形成されるのを効果的に抑制することもできる。
【0048】
また、材料を吹き付ける速度や時間を制御することで、第1金属層21の厚み制御も容易である。さらに第1金属層21の厚みを極端に変化させることも可能であり、鍛造では不可能であると考えられる程度の厚み分布(偏肉)とすることも可能である。また、たとえばマスク部材の形状を変化させるだけで、第1金属層21の平面形状を任意の形状とすることができる。
【0049】
さらに、フェースパーツ20の材質に関係なく、第1金属層21の材質を選択することも可能である。たとえば、フェースパーツ20と第1金属層21の組合せを、鉄系材料、チタン、アルミニウム、マグネシウム、銅等の中から任意に選択することができる。
【0050】
その上、たとえばフェースパーツ20の一部の厚みが設計値よりも薄くなった場合に、その厚みの薄い箇所に第1金属層21のような金属層を形成することで、フェースパーツ20の厚みを設計値に合わせるようにすることもできる。つまり、ゴルフクラブヘッドの各部の局所的な厚みが設計値よりも薄くなった場合に、それを補完することができる。それにより、量産品の反発係数のばらつきを抑制して不良率を低減することができ、コスト削減を図ることもできる。
【0051】
ここで、第1金属層21の外周形状を図2に示すような形状とするには、環状のマスク部材をフェースパーツ20の内側表面20a上に接着して、フェースパーツ20の内側表面20aを選択的に露出させた状態で、純チタン粉末を吹き付ければよい。
【0052】
また、スプレーヘッドをフェースパーツ20の内側表面20aに近づけた状態で、純チタン粉末の上記吹付けを行なうことが好ましい。たとえば、フェースパーツ20の内側表面20aを、ノズル部14の先端開口部の中心から15mm程度離隔した状態で、純チタン粉末の上記吹付けを行なうことが好ましい。
【0053】
比較的広い範囲にわたって第1金属層21を形成する場合には、スプレーヘッドを移動させながら第1金属層21を形成することとなるが、その際のスプレーヘッドの移動速度は、たとえば100mm/s程度の速度でよい。
【0054】
上記のようにして第1金属層21を形成した後に第2金属層22を形成することとなるが、この第2金属層22の場合も、基本的に第1金属層21の場合と同様の手法で形成することができる。
【0055】
すなわち、第1金属層21の形成後に、第1金属層21形成用のマスクを取り外し、第2金属層22の形成用の環状のマスクをフェースパーツ20の内側表面20a上に接着する。そして、第1金属層21の場合と同様の手法で第2金属層22を形成すればよい。その際のスプレーヘッドの移動速度は、厚みを考慮しながら任意に設定可能である。
【0056】
上記のようにしてフェースパーツ20の表面上に金属層を形成した後、必要に応じてフェースパーツ20に熱処理を施す。その後、ヘッド本体とフェースパーツ20とを接合する。本実施の形態の場合、溶接によってヘッド本体とフェースパーツ20とを接合する。その後、表面処理や、装飾等の様々な工程を経て、ゴルフクラブヘッド1を作製することができる。ゴルフクラブヘッド1を作製した後は、該ゴルフクラブヘッド1とシャフトおよびグリップとを結合し、ゴルフクラブを作製することができる。
(実施の形態2)
次に、本発明の実施の形態2について、図4を用いて説明する。図4は、本実施の形態2におけるゴルフクラブヘッド1の断面図である。
【0057】
本実施の形態2では、ゴルフクラブヘッド1の外表面の少なくとも一部上に、単数または複数の金属層を形成する。この金属層の材質としては、実施の形態1の場合と同様のものを採用可能である。このようにゴルフクラブヘッド1の外表面上に金属層を形成することにより、各部の補強や質量分布の調整を行なえるが、ゴルフクラブヘッド1の形状修正や外観修正をも行なうことができる。
【0058】
図4の例では、ソール部4の底面上に選択的に金属層7を形成し、該金属層7の厚みをフェース部から離れるにつれて増大させている。このような金属層7を形成することにより、ゴルフクラブヘッド1のロフト角やライ角を調整することができる。
【0059】
金属層7は、フェース面上、クラウン部5の外表面上、サイド部6の外表面上に形成することもできる。フェース面に金属層7を形成することにより、見た目のフェース角度を調整することができ、クラウン部5やサイド部6の外表面上に金属層7を形成することにより、様々な外観上の変化を付与することができる。
【0060】
また、ゴルフクラブヘッド1の外表面にピンホールのような不良箇所が存在する場合には、当該箇所を覆うように金属層7を形成し、その後金属層7に研磨等の表面処理を施すことも考えられる。この場合には、ピンホールのような不良箇所を目立たなくすることができ、不良率を低減することができる。また、鋳造でヘッド本体等を作製した場合であって鋳肌の状態が悪い場合にも、当該箇所を覆うように金属層7を形成し、適切な表面処理を施すことで、外観不良を低減することもできる。
【0061】
さらに、たとえばチタンフェースアイアンのフェース部とヘッド本体との間の隙間のようなゴルフクラブヘッド1の各部の間の隙間(凹部)が目立たないようにすべく、当該隙間(凹部)に金属層7を形成した後に、研磨処理を施して隙間(凹部)に金属層7を埋め込むことも考えられる。この場合には、外観不良を低減できることに加え、外観を向上することもできる。
【0062】
さらに、ソール部4の底面上とクラウン部5の外表面上との少なくとも一方の表面上に金属層7を形成した場合には、ソール部4やクラウン部5の剛性を調整することができ、打球音を改善することもできる。たとえば、リブ状または帯状の金属層7を、ソール部4の底面上とクラウン部5の外表面上とに形成することが考えられる。この場合に、金属層7の材質、幅、長さ、高さ等を適切に調整することにより、打球音を微調整することができる。
(実施の形態3)
次に、本発明の実施の形態3について、図5および図6を用いて説明する。図5は、本実施の形態3におけるゴルフクラブヘッド1の部分断面図であり、図6は、本実施の形態3の変形例におけるゴルフクラブヘッド1の部分断面図である。
【0063】
本実施の形態3では、ゴルフクラブヘッド1の外表面と内表面の少なくとも一方の表面上に金属層を形成する。このとき、前述の手法で金属層を形成することにより、高い成形精度で金属層を形成することができる。それにより、上述の各実施の形態の場合と同様に金属層を形成した部分のゴルフクラブヘッド1を補強できることに加えて、ゴルフクラブヘッド1の質量調整を行なうことができる。
【0064】
金属層の厚みは数μm〜5mm程度と薄くすることも、5〜50mm程度に比較的厚い値とすることも、50〜100mm以上程度とかなり厚くすることも理論的には可能である。そして、金属層を比較的厚く形成することで、該金属層を錘部として有効に機能させることができる。この場合には、従来のようにゴルフクラブヘッド1に錘部材を別途装着する必要がなくなり、従来と比較すると格段に容易に錘部を設けることができる。
【0065】
また、ゴルフクラブヘッドの内側表面を含む表面上に金属層を形成するだけでよいので、ソール部4、クラウン部5、サイド部6のいずれにも容易に金属層を形成することができる。つまり、ゴルフクラブヘッド1の質量調整部を、ゴルフクラブヘッド1の表面上の任意の箇所(単数でも複数でもよい)に、必要な量および数(単数でも複数でもよい)だけ容易に形成することができる。
【0066】
図5の例では、ソール部4の表面に凹部8を設け、該凹部8内に金属層10を形成している。金属層10を積層する量により、ゴルフクラブヘッド1の重心高さを制御することができる。また、凹部8をフェース部から離れた側であるバック部側に配置することで、金属層10を積層する量によって重心深度を制御することができ、たとえばボールの弾道を高くすることができる。
【0067】
金属層10の材質としては、ヘッド本体を構成する材質よりも比重の大きな材質を使用することが好ましい。たとえばヘッド本体をαβチタン合金(Ti−6Al−4V)のようなチタン合金で構成した場合には、銅のような比重の比較的大きな材質で金属層10を構成することが考えられる。それにより、ゴルフクラブヘッド1の重心位置を容易に調整することができる。
【0068】
金属層10の材料は、銅以外にも、鉄、ニッケル等様々なものが考えられる。また、各種金属材料を組合せて錘部を形成することもできる。たとえば、鉄とチタン、ニッケルと銅、鉄と銅等の様々な異素材の組合せも考えられる。
【0069】
凹部8には、デザイン性に富んだカバープレート9を装着することも可能で、それにより、デザイン上の外観を向上できることに加えて、凹部8内に異物が入ることをも抑制することができる。カバープレート9を装着するに際し、図5に示すように、凹部8の内壁にカバープレート9を支持可能な段差部(支持部)を設けることが好ましい。それにより、カバープレート9を安定した状態でゴルフクラブヘッド1に装着することができる。
【0070】
図6に示すように、ソール部4においてゴルフクラブヘッド1の内部空間に向く側の表面である内側表面4a上に、ブロック状の金属層11を形成してもよい。この金属層11の厚みは、たとえば10〜20mm程度である。このような厚みにすることで、金属層11を錘部として有効に機能させることができる。
【0071】
なお、ソール部4の内側表面4a上にプレート状やリブ状の金属層11を形成してもよい。この場合には、金属層11を極端に厚くすることなく必要な質量を確保することができる。本実施の形態の金属層11を採用することで、金属層11を任意の質量の錘としてソール面上に配置する場合に、ソール面の段差等の影響を受けず、任意の位置に配置することができる。
【0072】
また、錘部として機能する金属層11をゴルフクラブヘッド1のヒール部側に任意の形態で形成してもよい。それにより、ゴルフクラブヘッド1の重心位置をヒール部側にシフトさせることができ、インパクト時にゴルフクラブヘッドが返り易くなり、ボールの捕まりの良好なゴルフクラブが得られる。
【0073】
また、上記とは反対に、錘部として機能する金属層11をゴルフクラブヘッド1のトウ部側に任意の形態で形成してもよい。この場合には、ゴルフクラブヘッド1の重心位置をトウ部側にシフトさせることができ、インパクト時にゴルフクラブヘッドを返り難くすることができる。それにより、ゴルフクラブヘッドが返り易いプレイヤーに有用なゴルフクラブが得られる。
【0074】
さらに、ソール部4、クラウン部5、サイド部6(バック部、ヒール部、トウ部を含む)の少なくとも2箇所に、錘部として機能する金属層11を任意の形態で形成してもよい。
【0075】
上述の各実施の形態では、金属製外殻構造のヘッド本体の一部表面上に金属層を形成する場合について説明したが、金属と異素材との複合材料で構成された複合材料層を、ヘッド本体の一部表面上に形成することも考えられる。具体的には、たとえば金属とセラミックの複合材料で形成された複合材料層を、ヘッド本体の一部表面上に形成することが考えられる。この場合、上記複合材料層は、ヘッド本体との間に熱に起因する変質層を介在することなく、ヘッド本体の一部表面に局所的に食込むように該一部表面と密着して形成される。なお、複合材料としては、たとえばWC−Co系粉末、Al−SiC系粉末、Cu−SiC系粉末を使用可能である。
【0076】
以上のように本発明の実施の形態について説明を行なったが、上述の各実施の形態の構成を適宜組合わせることも当初から予定している。また、上述の実施の形態中の構成は全てが必須というものでもない。
【0077】
さらに、今回開示した実施の形態はすべての点での例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】本発明の実施の形態1におけるゴルフクラブヘッドの分解斜視図である。
【図2】実施の形態1におけるフェースパーツを示す斜視図である。
【図3】図2に示すフェースパーツの変形例を示す斜視図である。
【図4】本発明の実施の形態2におけるゴルフクラブヘッドの部分断面図である。
【図5】本発明の実施の形態3におけるゴルフクラブヘッドの部分断面図である。
【図6】図5に示す構造の変形例を示す部分断面図である。
【図7】金属層の形成装置の一部を示す断面模式図である。
【符号の説明】
【0079】
1 ゴルフクラブヘッド、2 フェース部、3 開口部、4 ソール部、4a,20a 内側表面、5 クラウン部、6 サイド部、7,10,11 金属層、8 凹部、9 カバープレート、12 加熱部、13 金属粉末供給部、14 ノズル部、20 フェースパーツ、21 第1金属層、22 第2金属層、23 第3金属層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製外殻構造のヘッド本体と、
前記ヘッド本体の一部表面上に形成された金属層(7,10,11,21,22,23)とを備え、
前記金属層(7,10,11,21,22,23)は、前記ヘッド本体との間に熱に起因する変質層を介在することなく、前記ヘッド本体の一部表面に局所的に食込むように該一部表面と密着して形成されている、ゴルフクラブヘッド。
【請求項2】
前記金属層(7,10,11,21,22,23)は、前記ヘッド本体の表面上に形成された第1金属層(21)と、該第1金属層(21)の表面上に形成され前記第1金属層(21)とは異なる材質の第2金属層(22)とを含む、請求項1に記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項3】
前記金属層(7,10,11,21,22,23)の厚みを変化させた、請求項1に記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項4】
前記ヘッド本体は、内部空間と、フェース部(2)とを含み、
前記フェース部(2)において前記内部空間に向く側の表面である内側表面(20a)上に前記金属層(7,10,11,21,22,23)を形成した、請求項1から請求項3のいずれかに記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項5】
前記ヘッド本体は、内部空間と、ソール部(4)とを含み、
前記ソール部(4)において前記内部空間に向く側の表面である内側表面(4a)上に前記金属層(7,10,11,21,22,23)を形成した、請求項1から請求項4のいずれかに記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項6】
前記ヘッド本体は、ソール部(4)を含み、
前記ソール部(4)において外側に向く側の表面である外側表面上に前記金属層(7,10,11,21,22,23)を形成した、請求項1から請求項5のいずれかに記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項7】
前記ヘッド本体は、表面に凹部(8)を含み、
前記凹部(8)内に前記金属層(7,10,11,21,22,23)を形成した、請求項1から請求項6のいずれかに記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項8】
金属製外殻構造のヘッド本体と、
前記ヘッド本体の一部表面上に金属とセラミックの複合材料で形成された複合材料層とを備え、
前記複合材料層は、前記ヘッド本体との間に熱に起因する変質層を介在することなく、前記ヘッド本体の一部表面に局所的に食込むように該一部表面と密着して形成されている、ゴルフクラブヘッド。
【請求項9】
請求項1から請求項8のいずれかに記載のゴルフクラブヘッドを備えた、ゴルフクラブ。
【請求項10】
金属製外殻構造のヘッド本体を少なくとも一部を作製する工程と、
金属粉末の融点または軟化温度よりも低い温度でありかつ超音速で流れる作動流体を用いて、固相状態の前記金属粉末を加速して前記ヘッド本体の一部表面に吹付けることで、該一部表面上に金属層(7,10,11,21,22,23)を形成する工程と、
を備えた、ゴルフクラブヘッドの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2009−119001(P2009−119001A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−295544(P2007−295544)
【出願日】平成19年11月14日(2007.11.14)
【出願人】(000005935)美津濃株式会社 (239)
【Fターム(参考)】