説明

ゴルフクラブヘッド用鉄合金及び鉄合金製ゴルフクラブヘッド

【要約書】
【課題】 基本的な材料として軟鉄を基本成分とし打球感を柔らかくすると共に、耐蝕性を著しく向上させたゴルフクラブヘッドを得ることを課題とする。
【解決手段】 C:0.001〜0.05%、Si:0.01〜0.5%、Mn:0.01〜0.30%、Cu:0.01〜0.50%、Ni:0.01〜0.50%、N:0.001〜0.02%、Cr:8.00〜10.50%、残部が不可避的不純物及びFeからなることを特徴とする鉄合金製ゴルフクラブヘッド。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、打球感が柔らかく、耐蝕性に優れた金属性ゴルフクラブヘッド用鉄合金及び鉄合金製ゴルフクラブヘッドに関する。なお、本願発明で使用する%の表示は、全てmass%を意味する。
【背景技術】
【0002】
従来、ゴルフクラブヘッドは、主として木製(ウッド)、金属、カーボン、これらの複合材から製作されており、特に金属製ヘッドは、多種多様な材料が使用されている。
これらの中でも、特にS20Cなどの低炭素鋼、いわゆる軟鉄(軟鋼)が好まれている。軟鉄を鍛造法により製作すると、打球感が柔らかいので、根強い人気があり、プロや上級者が好んで使用している材料である。
【0003】
この軟鉄の一番の問題は、耐蝕性がないということである。この軟鉄から製作したゴルフヘッドに耐蝕性を付与するために、通常クロムめっき、ニッケルめっき又はニッケル合金めっき等が施されている。
しかし、このようなめっき被膜は、高級感はあるが、一般に硬質なので、打球感が硬くなるという問題があった。因みに、硬質クロムめっきはビッカース硬度(Hv)900、ニッケルめっきビッカース硬度(Hv)480、ニッケルボロンめっきビッカース硬度(Hv)800であり、硬度が極めて高い。
下地が軟鉄であることから、ある程度打球の硬質感を緩和できるが、めっき被膜が薄い場合には、耐蝕性が劣り、また厚めっきを行った場合には、極端なめっき硬質皮膜の影響が強く出て、違和感(硬質感)を防止できないという問題があった。
【0004】
このようなことから、金属製(特に軟鉄)のゴルフクラブヘッドの表面に、銀めっき等の軟質のめっき層を形成する提案を行った(特許文献1参照)。
この銀めっき層はビッカース硬度(Hv)200以下と柔らかく、また銀の表面は独特の光沢を有するので、高級感があるゴルフクラブヘッドである。しかし、これにも問題はあり、めっき被膜が弱く、摩耗し易いという問題がある。
【0005】
このため、ゴルフクラブヘッドにめっき層を形成せず、酸化被膜を形成して硬度を下げる工夫がなされた。またこの場合は、酸化被膜自体が暗色を呈するという独特の色彩を有するので、より好ましいとされた。
しかし、この酸化被膜でも硬度がまだ十分に低下せず、また暗色は必ずしも一般的は色彩ではないため、違和感をもつ人が多く、問題は残っている。
また、ステンレスを用い、耐蝕性を高めたゴルフクラブも存在するが、硬度が著しく高いため、打球感が悪いという問題がある。
【特許文献1】特願2002−95777号公報
【特許文献2】特願2002−779号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以上から、本発明は基本的な材料として軟鉄を基本成分とし打球感を柔らかくすると共に、耐蝕性を著しく向上させたゴルフクラブヘッド用鉄合金及びゴルフクラブヘッドを得ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、種々検討の結果、硬度を上昇させる元素を極力排除するために、純鉄(軟鉄)を主成分とし、耐蝕性を確保するためにCrを、硬度が上昇しない程度に適量添加させた合金とすることにより、打球感を柔らかくすると共に、耐蝕性を向上させることができるとの知見を得た。なお、本願明細書で使用する%は、全てmass%である。
【0008】
本発明は、このような知見に基づき
1)C:0.001〜0.05%、Si:0.01〜0.5%、Mn:0.01〜0.30%、Cu:0.01〜0.50%、Ni:0.01〜0.50%、N:0.001〜0.02%、Cr:8.00〜10.50%、残部が不可避的不純物及びFeからなることを特徴とするゴルフクラブヘッド用鉄合金及び鉄合金製ゴルフクラブヘッド
2)C:0.001〜0.02%、Si:0.01〜0.05%、Mn:0.01〜0.05%、Cu:0.01〜0.05%、Ni:0.01〜0.05%、N:0.001〜0.02%、Cr:8.00〜10.50%、残部が不可避的不純物及びFeからなることを特徴とするゴルフクラブヘッド用鉄合金及び鉄合金製ゴルフクラブヘッド
3)不純物であるP:0.01%以下、S:0.01%以下であることを特徴とする上記1又は2記載のゴルフクラブヘッド用鉄合金及び鉄合金製ゴルフヘッドヘッド
4)ビッカース硬度(Hv)80〜160であることを特徴とする上記1〜3のいずれかに記載のゴルフクラブヘッド用鉄合金及び鉄合金製ゴルフクラブヘッド
5)ビッカース硬度(Hv)100〜140であることを特徴とする上記1〜3のいずれかに記載のゴルフクラブヘッド用鉄合金及び鉄合金製ゴルフクラブヘッド
を、提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、硬度を上昇させる元素を極力排除するために、純鉄(軟鉄)を主成分とし、耐蝕性を確保するためにCrを硬度が上昇しない程度に適量添加させた合金をゴルフクラブヘッドとしたものであり、これによって、打球感が柔らかく、表面処理をしなくても耐蝕性に優れている。特に、ウェッジなどのアプローチに用いるショートアイアンは、タッチが出しやすいために、特に好ましいと言える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明のゴルフクラブヘッド用鉄合金に含有される主な元素(不純物を含む)について説明する。
Cは本願合金中で耐食性を著しく劣化させると共に、ゴルフヘッド鍛造時での硬度を著しく上昇させ、かつ打感を著しく阻害させる元素であり、0.02%以下が好ましいが、最大0.05%までは許容できる。
Cは本願合金の製造過程でやむを得なく混入するものであるが、ゴルフヘッドの最低強度を維持するためには、0.001%以上必要であるので、下限を0.001%とした。
Siは本願合金を製造する際に脱酸材として有用であり、Siが含有されることにより耐食性も向上する。したがって、0.01〜0.5%の範囲で含有させる事が出来る。しかし、本願合金中で過剰のSi元素の含有は、硬度を著しく上昇させ、打感を著しく阻害させるので、0.05%以下が好ましいが、最大0.5%までは許容できる。
【0011】
Mnは、合金製造の際の脱酸元素として有用であり、0.01〜0.30%含有させるが、多量に含有すると硬度が上昇するので、上記の範囲とする。
Cuは、耐蝕性を向上させるので0.01〜0.50%含有させるが、多量に含有すると硬度を上昇させるので、上記の範囲とする。好ましくは、Cu:0.01〜0.05%とする。Niは、銅と同様に、耐蝕性を向上させるので0.01〜0.50%含有させるが、多量に含有すると硬度を上昇させるので、上記の範囲とする。好ましくは、Ni:0.01〜0.05%とする。
【0012】
Nは硬度を上昇させるが0.001〜0.02%含有するのは許容させる。これ以上の含有は、打感が硬く違和感を与える。したがって、上記の範囲とする。
Crは、本発明において、Feに添加する主要成分であり、硬度を著しく増加させずに、耐蝕性を大幅に向上させることができる。しかし、8.00%未満では、その効果が十分でなく、また10.50%を超えると耐蝕性が増加するが、ゴルフヘッド鍛造時に炭窒化物が析出し硬度が著しく増加するので、打感が悪くなる。したがって、上記の範囲とする。残部は、不可避的不純物とFeである。
【0013】
不純物であるPは、0.01%以下、Sは0.01%以下であることが望ましい。いずれも多く含有されると耐蝕性を阻害するだけでなく、硬度を上昇させ、打感が悪くなるという問題がある。したがって、上記の範囲とする。
本発明の鉄合金製ゴルフクラブヘッドは、ビッカース硬度(Hv)80〜160となり、打感が好適となる。特に、上級者又はプロゴルファーが好む打感が得られる。さらに、ビッカース硬度(Hv)100〜140の範囲にあることが、より好ましい。
【0014】
本発明の鉄合金製ゴルフクラブヘッドの製造に際しては、従来の方法を用いることができる。以下に、その具体例を示す。
まず、本発明の合金成分を持つ鉄合金を溶解鋳造後950°C〜1050°Cでφ28に鍛伸し、この素材を適宜の寸法、例えばφ28×140mmに切断し、990〜1000°Cに加熱して1回目の荒打鍛造を行う。
続けて、その時発生したバリをトリミングする。一旦これを冷却した後、再度780〜790°Cに加熱して2回目の上打鍛造を行う。その後、ショットブラストによりスケールを除去する。
【0015】
次に、ホーゼル部(シャフト接続部)を旋盤にて加工し、フェース面を平らに加工した後、金型を用いて冷間プレスによりスコアラインを設ける。このスコアラインは、切削加工により形成しても良い。
エンドレスペーパー、バフなどにより、面取、研磨を行い、形状を整える。さらに、フェースの打球面部にサンドブラスト、ロゴにペイントを施す等の処置をしてゴルフクラブヘッドを完成させる。
【実施例】
【0016】
次に、本発明を実施例および比較例に基づいて説明する。なお、本実施例は理解を容易にするためのものであり、本発明は以下の実施例に制限されるものではない。すなわち、本発明の技術思想の基づく他の実施例、態様又は変形を含むものである。
【0017】
(実施例1〜13)
表1に示す成分の供試鋼材をAr気流中で溶解し、80mmφのインゴットを作製した。次に、このインゴットを1050°Cで熱間鍛造し、30mmφの丸棒とした。これをφ28×140mmに切削及び切断した後、995°Cに加熱して1回目の荒打鍛造を行った。
続いて、その時発生したバリをトリミングした。これを冷却した後、再度785°Cに加熱して2回目の上打鍛造を行い、ショットブラストによりスケールを除去した。
次に、ホーゼル部(シャフト接続部)を旋盤にて加工し、フェース面を平らに加工した後、金型を用いて冷間プレスによりスコアラインを設けた。エンドレスペーパー、バフなどにより、面取、研磨を行い、形状を整えた。さらに、フェースの打球面部にサンドブラストしゴルフクラブヘッドを作製した。
【0018】
【表1】

【0019】
このようにして得た試料について、ビッカース硬度(Hv)、打感(実際にゴルフクラブを作製)、耐蝕性を調べ、さらに塩水噴霧試験(16時間実施)を実施した。硬さは、クラブヘッドを中央から切断し、断面の硬さを測定した。
耐蝕性は、13mm×13mm×2mmtの試験片を作製し、800番までペーパー研磨後、10mm×10mmの露出面で、3.5%NaCl水溶液中で孔食電位(mV)を測定した。
以上の結果を、同様に表1に示す。
【0020】
実施例1〜13については、鉄合金の組成がいずれも本願発明の範囲に入るものであるが、全てビッカース硬度(Hv)80〜160の範囲内にあり、軟質で打感が極めて良好であった。また、耐蝕性にも優れていた。
【0021】
(比較例1〜5)
実施例と同様の方法にて、比較例1〜5のゴルフクラブヘッドを作製した。比較例1〜5の成分組成と試験結果を表1に示す。材料の試験方法も、実施例と同様の方法で行った。
比較例1は、軟鋼材であり、鍛造後のクラブヘッドは非常に柔らかく、打感が非常に良いが、Crを含まないため、耐蝕性が劣る。したがって、実用上はめっき等の表面処理が必要となり、上記従来技術で示した問題を有している。
比較例2は、軟鋼材がベースであり、Crが含まれているが、その量が不十分(5.08%)であるため、耐蝕性が悪いという問題があった。
【0022】
比較例3は、Crが過剰に添加され、Cu、Ni、Siに含まれているため、耐蝕性が良好であるが、ビッカース硬度(Hv)が300を超えており、クラブでボールをヒットした時、打感が硬く、微妙なアレンジが出し難いという問題を有していた。
比較例4は、ステンレス(SUS403)であり、C、Crが過剰に含まれ、またSi、Mn等の脱酸材も過剰に含まれる。耐蝕性は極めて高いが、ビッカース硬度(Hv)が450を超えており、打感が著しく劣る結果となった。
比較例5は、ステンレス(SUS304)であり、C、Ni、Cr、Si、Mn、Nが高く、耐蝕性は非常に良好であるが、ビッカース硬度(Hv)が300を超えており、打感が著しく劣る結果となった。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明は、硬度を上昇させる元素を極力排除するために、純鉄(軟鉄)を主成分とし、耐蝕性を確保するためにCrを硬度が上昇しない程度に適量添加させた合金をゴルフクラブヘッドとしたものであり、これによって、打球感が柔らかく、表面処理をしなくても耐蝕性に優れているという優れた効果を有し、ゴルフクラブヘッドとして実用的価値がある。特に、ウェッジなどのアプローチに用いるショートアイアンは、タッチが出しやすいために、特に有用である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
C:0.001〜0.05%、Si:0.01〜0.5%、Mn:0.01〜0.30%、Cu:0.01〜0.50%、Ni:0.01〜0.50%、N:0.001〜0.02%、Cr:8.00〜10.50%、残部が不可避的不純物及びFeからなることを特徴とするゴルフクラブヘッド用鉄合金及び鉄合金製ゴルフクラブヘッド。
【請求項2】
C:0.001〜0.02%、Si:0.01〜0.05%、Mn:0.01〜0.05%、Cu:0.01〜0.05%、Ni:0.01〜0.05%、N:0.001〜0.02%、Cr:8.00〜10.50%、残部が不可避的不純物及びFeからなることを特徴とするゴルフクラブヘッド用鉄合金及び鉄合金製ゴルフクラブヘッド。
【請求項3】
不純物であるP:0.01%以下、S:0.01%以下であることを特徴とする請求項1又は2記載のゴルフクラブヘッド用鉄合金及び鉄合金製ゴルフヘッドヘッド。
【請求項4】
ビッカース硬度(Hv)80〜160であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のゴルフクラブヘッド用鉄合金及び鉄合金製ゴルフクラブヘッド。
【請求項5】
ビッカース硬度(Hv)100〜140であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のゴルフクラブヘッド用鉄合金及び鉄合金製ゴルフクラブヘッド。