説明

ゴルフクラブヘッド

【課題】 高価な材料を使用することなく飛距離増加に効果のあるゴルフクラブヘッドを提供する。
【解決手段】 クラブヘッド1のフェース部12の裏側に錘23を着脱自在にしてフェース部12の持つ固有振動数を変える振動数調整機構20を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はゴルフクラブヘッドに関し、特にゴルフボール(以下、ボールと略称する)の飛距離増加に効果のあるゴルフクラブヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
ゴルフプレーに際し、ボールの飛距離を伸ばすことはゴルフプレーヤーに共通の願望である。特に、年齢を重ねるにつれて飛距離が低下することは避けられず、高年齢世代のゴルフプレーヤーにとっては飛距離を維持することも重要な課題となっている。
【0003】
これまで、ゴルフクラブヘッド(以下、クラブヘッドと略称することがある)には飛距離増加のために様々な改良がなされているが、これまでの改良の対象は、主にクラブヘッドにおけるフェース部の高弾性化と高反発力化である(特許文献1−3)。このため、例えばクラブヘッドのフェース部には高価なチタン合金等が使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−114127号公報
【特許文献2】特開平7−231957号公報
【特許文献3】特開平9−24125号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、高価な材料を使用することなく飛距離増加に効果のあるゴルフクラブヘッドを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の態様によれば、ゴルフクラブヘッドのフェース部の裏側に錘を着脱自在にしてフェース部の持つ固有振動数を変える振動数調整機構を備えたことを特徴とするゴルフクラブヘッドが提供される。振動数調整機構は、例えば、フェース部の裏側に設けた雄ネジ又は雌ネジと、該雄ネジ又は雌ネジに螺合可能な雌ネジ又は雄ネジを持つ錘とで構成することができる。
【発明の効果】
【0007】
本発明によるゴルフクラブヘッドは、フェース部の裏側に、フェース部の固有振動数をボールの固有振動数に合わせることができるような固有振動数の調整機構を備えることにより、ボールのヒット時にクラブヘッド本体の力に加えフェース部の固有振動数に起因する力をボールに与えることができ、ボールの飛距離増加に有効なゴルフクラブヘッドを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の原理を説明するためのゴルフクラブヘッドの断面図である。
【図2】ゴルフクラブヘッドの振動伝達率Trと固有振動数比Uの関係を示した図である。
【図3】本発明の第1の実施形態によるゴルフクラブヘッドの断面構造を示す。
【図4】本発明の第2の実施形態によるゴルフクラブヘッドの断面構造を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の実施形態について説明する前に、本発明の原理を説明する。
【0010】
図1において、クラブヘッド1は中空構造のヘッド本体10とヘッド本体10のヒール端に形成されたネック部11を有する。これらはステンレス鋼やその他の合金、繊維強化樹脂、繊維強化金属等で作られるが、ヘッド本体10において打撃面となるフェース部12は、チタン等の高反発材を別部材として組み込んで構成する場合がある。
【0011】
いずれにしても、このようなクラブヘッド1でショットを行なうと、フェース部12でボールをヒットすることになる。
【0012】
フェース部12からボールに与えられる力をFm、ボールが飛ぶ力をFbとすると、ヒット時の振動伝達率Trは次式(1)で与えられる。
【0013】
Tr=Fm/Fb=|1/(1−U)| (1)
但し、U=f/f
【0014】
式(1)において、Uは固有振動数比で、fはフェース部12の固有振動数、fはボールの固有振動数である。
【0015】
振動伝達率Trと固有振動数比Uの関係を図示すると、図2のようになる。図2から分かるように、固有振動数比Uが1、つまりf=fの前後で振動伝達率Trは最大となる。但し、それぞれの材料には減衰効果があるので、仮にU=1、つまりf=fとしてもTr>20になるようなことはほとんど無く、通常はTr<10である。
【0016】
力の増幅効果を得るためのフェース部12の固有振動数fは、フェース部12をばね体とみなした時のばね定数Kmにより以下の式(2)で決定される。
【0017】
=(1/2π){(Km×980)/Mm’}1/2 (2)
【0018】
ばね定数Kmは、フェース部12に一定の負荷を加えた時のフェース部12の変形量で算出することができる。Mm’はばね定数kmに対応するフェース部12の重量である。フェース部の重量というのは、ヘッド本体の前面においてボールの打撃面となる領域を形成しているヘッド本体の壁部材の重量である。フェース部を構成する壁部材は、ヘッド本体10を形成している単一の金属材料から成る場合や、この単一の金属部材と他の金属部材、例えばチタン等の高反発部材との複合(積層)材、合金材から成る場合等、様々である。いずれにしても、フェース部の重量は、その材質、面積、厚さを知ることでクラブヘッドの設計段階で知ることができる。
【0019】
ボール自体にも固有振動数fが存在し、これは以下の式(3)で決定される。
【0020】
=(1/2π){(Kb×980)/Mb’}1/2 (3)
【0021】
但し、Kbはボールのばね定数で、ボールに一定の負荷を加えた時のボールの変形量で算出することができる。Mb’はばね定数Kbに対応するボールの重量である。
【0022】
振動伝達率Trは図2に示すf=fの前後を含む領域で2〜10程度あれば十分である。
【0023】
重量Mのフェース部12による打撃力FはM×αで表すことができる。αはフェース部12がボールに当たる時の加速度である。但し、この時フェース部12とボールの固有振動数が大幅に異なるとすると、振動伝達率Trは式(1)から分かるように、非常に小さい。またボールに与えられる打撃力Fは固有振動数比Uが√2以上になると急激に小さくなる。
【0024】
フェース部12は、打撃力によってボールとの間に共振現象を起こす。この時の振動数はフェース部12がばね材として作用することによるばね材の固有振動数であると言え、固有振動数fは上記式(2)で表されることは既に説明した。
【0025】
ボールは、フェース部12から力を受けて飛び出すことになるが、このボール自体も固有振動数fを持つことも既に説明した。
【0026】
フェース部12があらかじめボールの固有振動数と同じ固有振動数を持つように作られれば、フェース部12からの力がボールに伝わり、その上、フェース部12とボールの固有振動数が同じであることからf/f=1が満足され、ボールの飛距離が増加することになる。
【0027】
しかしながら、実際には、比較的高い固有振動数を持つボールにあっては、固有振動数の範囲が狭いこともあって、f/fを1に近づけるのは非常に難しい。
【0028】
本発明は、このような問題点を簡単な機構の追加で解消したものであり、以下にその実施形態について説明する。
【0029】
[第1の実施形態]
図3は、本発明の第1の実施形態によるゴルフクラブヘッドの断面構造を示し、いわゆるウッドと呼ばれるゴルフクラブヘッド(以下、クラブヘッドと呼ぶ)に適用した例を示す。
【0030】
図3において、第1の実施形態によるクラブヘッドは、フェース部12の裏側、すなわち中空構造のヘッド本体10の内壁に振動数調整機構20を備える。
【0031】
振動数調整機構20は、雄ネジ21を持つ基礎部22と雄ネジ21に着脱自在となるように雌ネジを持つ錘23を含み、中空構造のヘッド本体10を作るときに雄ネジ21を持つ基礎部22が一体的に形成される。ヘッド本体10の後部には開口10−1が形成され、この開口10−1を通して治具(図示せず)により錘23の取り付け、取り外しを行なうことができるようにされている。なお、開口10−1は、ゴム材等によるキャップ25で塞ぐようにしても良い。
【0032】
重量mの錘23を持つフェース部12の固有振動数f’は以下の式(4)で表すことができる。
【0033】
’=(1/2π){(Km×980)/(Mm’±m)}1/2 (4)
【0034】
式(4)において−mというのは、はじめから重量mの錘23を持つクラブヘッドとして作られた場合に錘23を取り外した場合を想定している。
【0035】
錘23を持つフェース部12の固有振動数f’は、錘23を持たないフェース部12の固有振動数よりも小さくなる。言い換えれば、錘23の重量を変えることにより、f’/fを1に近づける(すなわちf’=f)ことができる。その結果、ボールのヒット時にフェース部12からの力に加え、フェース部12の固有振動数f’の共振に起因する力をボールに与えることができ、ボールの飛距離増加に有効なゴルフクラブヘッドを提供することができる。
【0036】
なお、ボールの固有振動数fはボールの種類により変化する場合があるので、あらかじめボールの種類毎に固有振動数を計測しておくと共に、ボールの固有振動数別にf’=fとするための錘23の適切な重量を算出しておいて、ユーザに提供できるようにしておくことが好ましい。ユーザは、プレーの前に、使用するボールに応じてそれに適した重量の錘23を選択し、雄ネジ21に装着しておく。錘23は、等重量のものを複数個用意しておいて装着数の増減により重量を変える場合や、重量が段階的に異なるものを複数種類用意しておいて1個の錘で所望の重量を実現する場合、あるいはこれらの組み合わせ等、様々な提供形態が考えられる。
【0037】
[第2の実施形態]
図4は、本発明の第2の実施形態によるクラブヘッドの断面構造を示し、いわゆるアイアンと呼ばれるクラブヘッドに適用した例を示す。
【0038】
図4において、第2の実施形態によるクラブヘッド3は、ヘッド本体30におけるフェース部32の裏側、すなわちキャビティと呼ばれるくぼみの内壁に、第1の実施形態で説明した振動数調整機構20と同様の振動数調整機構40を備える。
【0039】
すなわち、振動数調整機構40は、雄ネジ41を持つ基礎部42と雄ネジ41に着脱自在の雌ネジを持つ錘43を含み、キャビティ構造のヘッド本体30を作るときに雄ネジ41を持つ基礎部42が一体的に形成される。キャビティは蓋部材(図示省略)で塞ぐようにしても良い。いずれにしても、図示しない治具により錘43の取り付け、取り外しを行なうことができる。なお、31はネック部である。
【0040】
第1の実施形態と同様、錘43の重量を変えることにより、フェース部32の固有振動数f’を調整することができ、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0041】
なお、第1、第2の実施形態のいずれにおいても、振動数調整機構は基礎部に雄ネジを設けた構造を有するが、基礎部に雌ネジを設けるようにし、錘側にこの雌ネジに螺合する雄ネジを設けるようにしたものでも良い。いずれにしても、フェース部の裏面側において錘を着脱自在にした構造であれば良い。また、ヘッド本体、特にフェース部の構造はどのようなものであっても良く、例えばウッドやアイアンのみに限らず、ユーティリティと呼ばれるクラブヘッドにも適用可能である。更に、図4に示したアイアンと呼ばれるヘッド本体の場合、フェース部の上下に横方向に延びる貫通スリットを入れることでフェース部のばね定数を変えたようなものにも適用可能である。
【符号の説明】
【0042】
1、3 クラブヘッド
10、30 ヘッド本体
10−1 開口
11、31 ネック部
12、32 フェース部
20、40 振動数調整機構
21、41 雄ネジ
22、42 基礎部
23、43 錘

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴルフクラブヘッドのフェース部の裏側に錘を着脱自在にしてフェース部の持つ固有振動数を変える振動数調整機構を備えたことを特徴とするゴルフクラブヘッド。
【請求項2】
前記振動数調整機構は、フェース部の裏側に設けた雄ネジ又は雌ネジと、該雄ネジ又は雌ネジに螺合可能な雌ネジ又は雄ネジを持つ錘とから成ることを特徴とする請求項1に記載のゴルフクラブヘッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−244944(P2011−244944A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−119662(P2010−119662)
【出願日】平成22年5月25日(2010.5.25)
【出願人】(592207175)
【出願人】(591213519)ビイック株式会社 (11)
【Fターム(参考)】