説明

ゴルフクラブヘッド

【課題】
フェース部の軽量化を維持しつつ、各打点におけるCT値のバラツキを抑えて、スイートスポット以外の打点におけるCT値がスイートスポットにおけるCT値とほぼ等しいゴルフクラブヘッドを提供する。
【解決手段】
フェース部10は、該フェース部の中央に位置する厚肉部16と、該厚肉部の外周に位置する外周部12とを有している。前記厚肉部16は、最も大きな肉厚を有する前記フェース部10の中心部17と、前記中心部17を取り囲んでおり、前記中心部17よりも小さな肉厚を有する第1の尾根18と、前記中心部17と前記第1の尾根18との間の第1の谷19であって、前記第1の尾根18よりも小さな肉厚を有する第1の谷19とを有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴルフクラブヘッドに関し、具体的には、位置によって肉厚の異なる厚肉部をフェース部材の裏面に設けたゴルフクラブヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
最近のウッドクラブのヘッドは、金属材料で少なくともフェース部分を形成したものが大半を占める。フェース部分の肉厚は、ボールとの衝撃に耐え得る強度を保つために肉厚を厚くする必要がある。ヘッドの大型化が進んでいるが、ルール上460cm+許容誤差10cmの体積より小さくしなければならないとされることから、ドライバーのヘッドは上限にきわめて近い460cmの大型ヘッドが大半を占めるに至っている。ヘッドサイズを大きくすると、スイートエリアが拡大し、周辺重量配分が強調され、左右、上下の慣性モーメントが大きくなるので、オフセンターヒット時のミスを軽減させることができる。しかしながら、ヘッドサイズを大きくし、ヘッド重量も増大させてしまうと、スイングバランスが大きくなり、ヘッドスピードが落ちて飛距離ダウンになりかねない。そこで、比重が軽く、強度も大きなチタン又はその合金(特に言及しない限り、併せて以下「チタン」という)でヘッド全体を形成するか、カーボンとチタンのコンポジットヘッドにするなどの手段が採用されている。
【0003】
また、ヘッドサイズを大きくするのみならず、ヘッドの反発性能を高めた高反発ヘッドも数多く開発されるに至った。高反発ヘッドについては、2008年から反発係数が0.830以上のものは、競技では使用できないことになった。今までは、ヘッドの大型化と平行して反発係数が上がる肉厚フェース材を積極的に用いるものが多かった。しかし、高反発ヘッドでもスイートエリア以外のフェース部分でのヒット、すなわちオフセンターヒットではスプリング効果は期待できず、飛距離が極端に低下してしまう問題があった。
【0004】
このような問題を解決すべく、フェース部材の裏面の中心を取り囲むように厚肉部を設けて、該フェースの中心の肉厚を小さくすることにより、スイートスポットを外してボールを打った場合でもボールに高い初速を与えられるゴルフクラブヘッドが開発されている(特許文献1参照)。
【0005】
また、フェース裏面の中央に突起ブロックを設け、この突起ブロックを取り囲むように環状リブを2つ設けたことにより、ゴルフクラブヘッドの強度を高めるとともに、安定した打撃を可能とするゴルフクラブヘッドが開発されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第6824475号明細書(Fig.5A)
【特許文献2】米国特許第7448961号明細書(Fig.1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1及び2に記載されているゴルフクラブヘッドにおいては、フェースの裏面を肉厚としたことにより、肉厚としない場合と比較してヘッド全体の重量が増加してしまうという問題がある。また、ボールの打点によって、CT値(Contact Time Value)と呼ばれるボールの反発性能を表す値が大きく異なるという問題がある。
【0008】
そこで、本発明は、上記の問題に鑑み、フェース部材の軽量化を維持しつつ、各打点におけるフェース部材のCT値のバラツキを抑えて、スイートスポット以外の打点におけるCT値がスイートスポットにおけるCT値とほぼ等しいゴルフクラブヘッドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明に係るゴルフクラブヘッドは、金属材料で形成されたフェース部を備えており、前記フェース部は、該フェース部の中央に位置する厚肉部と、該厚肉部の外周に位置する外周部とを有しており、前記厚肉部は、最も大きな肉厚を有する前記フェース部の中心部と、前記中心部を取り囲んでおり、前記中心部よりも小さな肉厚を有する第1の尾根と、前記中心部と前記第1の尾根との間の第1の谷であって、前記第1の尾根よりも小さな肉厚を有する第1の谷とを有している。
【0010】
ゴルフクラブヘッドの別の形態によれば、前記厚肉部が、略楕円形状または略円形状を、互いに対向する2つの側において、前記フェース部の中心方向に略円弧状に窪ませた形状を有している。
【0011】
ゴルフクラブヘッドの別の形態によれば、前記略円弧状の窪みのうち、トウ側の窪みはソール方向斜めを向いており、ヒール側の窪みはクラウン方向斜めを向いている。
【0012】
ゴルフクラブヘッドの別の形態によれば、前記フェース部の中心を通る該フェース部の高さに対して、前記第1の谷の上側から下側の長さが30〜50%である。
【0013】
ゴルフクラブヘッドの別の形態によれば、前記フェース部の中心を通る該フェース部の高さに対して、前記第1の尾根の上側から下側の長さが40〜60%である。
【0014】
ゴルフクラブヘッドの別の形態によれば、前記中心部の肉厚と前記第1の尾根の肉厚との差が0.05〜0.5mmであり、前記第1の尾根の肉厚と前記第1の谷の肉厚との差が0.05〜0.3mmである。
【0015】
ゴルフクラブヘッドの別の形態によれば、前記厚肉部が、前記第1の尾根を取り囲んでおり、該第1の尾根よりも小さな肉厚を有する第2の尾根と、前記第1の尾根と前記第2の尾根との間の第2の谷であって、前記第2の尾根よりも小さな肉厚を有する第2の谷とをさらに有している。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係るゴルフクラブヘッドは、金属材料で形成されたフェース部を備えており、前記フェース部は、該フェース部の中央に位置する厚肉部と、該厚肉部の外周に位置する外周部とを有しており、前記厚肉部は、略楕円形状または略円形状を、互いに対向する2つの側において、前記フェース部の中心方向に略円弧状に窪ませた形状を有しており、前記厚肉部は、最も大きな肉厚を有する前記フェース部の中心部と、前記中心部を取り囲んでおり、前記中心部よりも小さな肉厚を有する第1の尾根と、前記中心部と前記第1の尾根との間の第1の谷であって、前記第1の尾根よりも小さな肉厚を有する第1の谷とを有している。これにより、フェース部の軽量化を維持しつつ、各打点におけるCT値のバラツキが抑えられて、スイートスポット以外の打点におけるCT値がスイートスポットにおけるCT値とほぼ等しくなる。そのため、スイートスポットを外してボールを打った場合でもボールの飛距離を大きくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係るゴルフクラブヘッドの一実施形態を示す正面図である。
【図2】図1のII−II線におけるゴルフクラブヘッドの模式的な断面図である。
【図3】図1に示すゴルフクラブヘッドを構成するフェース部を示す裏面図である。
【図4】図3のIII−III線におけるフェース部の模式的な断面図である。
【図5】図3のフェース部について、該フェース部の高さ、第1の谷、第1の尾根の高さを示す裏面図である。
【図6】図3のフェース部において楕円の角度を示す裏面図である。
【図7】第2の実施形態におけるフェース部の裏面図である。
【図8】第3の実施形態におけるフェース部の模式的な断面図である。
【図9】第4の実施形態におけるフェース部の模式的な断面図である。
【図10】第5の実施形態におけるフェース部を示す裏面図である。
【図11】実施例のシミュレーションにおける打点の位置を示す裏面図である。
【図12】比較例としたフェース部材の模式的な断面図である。
【図13】実施例及び比較例のCT値のシミュレーション結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付図面を参照して、本発明に係るゴルフクラブヘッドの実施の形態について説明する。図1は、本発明に係るゴルフクラブヘッドの一実施の形態を示す正面図であり、図2は、図1のII−II線におけるゴルフクラブヘッドの模式的な断面図である。
【0019】
図1及び図2に示すように、ゴルフクラブヘッド1は、フェース部を備えたフェース部材10と本体部材30とから構成されている。本体部材30は、クラウン部4とソール部5とホゼル部6とサイド部7とを備えており、これらは一体的に形成されている。このフェース部材10と本体部分30は溶接により接合され、これによってゴルフクラブヘッド1の内部が中空構造になっている。なお、フェース部材10の中空構造側の表面、すなわち裏面に表われる構成を破線で示した。フェース部材10の裏面には、フェース部材10の厚みを変化させるための凹凸が形成されている。フェース部材10の裏面について説明する。
【0020】
図3は、図1に示したゴルフクラブヘッド1を構成するフェース部材10の裏面を示している。図4は、図3のIII−III線における模式的な断面図である。なお、図4の断面図は、本発明の構成を容易に理解できるように意図したものであって、縮尺通りに描いたものではない。
【0021】
図3に示すように、フェース部材10の裏面には、平らな表面を有する外周部12上において、ライン13で示される楕円内に厚肉部16が形成されている。但し、楕円の長軸の両端部分には、それぞれ、厚肉部16を中心方向に向かって円弧状に窪ませた窪み15a、15bが形成されている。すなわち、厚肉部16は、この窪み15と、楕円の短軸の両側部分の楕円ライン13とにより囲まれている。
【0022】
図3及び図4に示すように、厚肉部16の中心には、フェース部材10において最も大きな肉厚Tを有し、表面が平らで略台形状の中心部17が形成されている。この中心部17から楕円ライン13に向かうにつれて肉厚が徐々に小さくなった後、徐々に大きくなる。すなわち、中心部17を取り囲むように第1の谷19が形成されている。
【0023】
前記第1の谷19から楕円ライン13に向かうにつれて肉厚が再び徐々に大きくなった後、再び徐々に小さくなる。すなわち、第1の谷19を取り囲むように第1の尾根18が形成されている。
【0024】
さらに、前記第1の尾根18から楕円ライン13または窪み15に向かうにつれて、肉厚は徐々に小さくなる。図4に示しているように、楕円ライン13または窪み15からフェース部材10の外縁までの領域の肉厚、すなわち前記外周部12の肉厚は一定である。
【0025】
中心部17の肉厚Tは2.0〜3.8mmが好ましい。第1の尾根18の肉厚Tは、中心部17の肉厚Tよりも小さく、2.0〜3.6mmが好ましい。TとTの差は0.05mm以上が好ましく、0.1mm以上がより好ましい。また、この差は0.5mm以下が好ましく、0.4mm以下がより好ましい。
【0026】
第1の谷19の肉厚Tは、第1の尾根18の肉厚Tよりも小さく、0.03〜0.3mmが好ましい。TとTとの差は0.05mm以上が好ましく、0.2mm以上がより好ましい。また、この差は0.3mm以下が好ましく、0.2mm以下がより好ましい。
【0027】
外周部12の肉厚Tは、第1の谷19の肉厚Tよりも小さく、1.5〜2.5mmが好ましい。TとTとの差は0.1mm以上が好ましく、0.3mm以上がより好ましい。また、この差は1.5mm以下が好ましく、1.0mm以下がより好ましい。外周部12の肉厚をこの範囲にすることで、フェース部を軽量化することができる。
【0028】
このように、厚肉部16は、前記中心部17の縁から第1の谷19にかけて肉厚がTからTへと徐々に小さくなるように、第1の谷19から第1の尾根18にかけては肉厚がTからTへと徐々に大きくなるように、第1の尾根18から窪み15にかけては肉厚がTからTへと再び徐々に小さくなるように構成されている。窪み15の外側の領域、すなわち外周部12の肉厚はTで一定である。
【0029】
中心部17は、ゴルフクラブヘッド1のスイートスポットを含む。また、この中心部17は、ライン13で示される楕円の長軸と短軸との交点、すなわち楕円の中心をも含む。この交点とスイートスポットとは、同一であってもよいし、異なってもよい。
【0030】
図5において、フェース部材10の中心を通るフェース部材10の高さはHである。このフェース部材10の高さ方向において、第1の尾根18の上側から下側の長さはHである。同様に、第1の谷19の上側から下側の長さはHであり、中心部17の縁の上側から下側の長さはHである。HはHの40〜60%であることが好ましい。また、HはHの30〜50%であることが好ましい。HはHの10〜40%であることが好ましい。
【0031】
図6に示すように、ライン13で示される楕円の長軸は、トウ3側がクラウン方向に、ヒール2側がソール方向に傾いている。これは、一般に、ゴルファーの打点のばらつきが、トウ3側ではクラウン側に、ヒール2側ではソール側に片寄っていることから、このように傾けた。具体的には、ゴルフクラブヘッドを通常のアドレスポジションに置いたときの水平線40に対して、楕円の長軸42の傾きθが、約5°以上となるように配置することが好ましく、約10°以上となるように配置することがより好ましい。また、楕円の長軸42の傾きθは、約40°以下が好ましく、約30°以下がより好ましい。
【0032】
ライン13で示される楕円の長軸と短軸の長さの比率は、100:50〜50:50の範囲内が好ましく、95:50〜70:50の範囲内がより好ましい(長軸と短軸が同じ比率の場合は、楕円でなく、円となることは言うまでもない)。また、厚肉部16の楕円長軸における長さ(すなわち、窪み15a、15b間の長さ)と楕円短軸における長さの比率は、5:4〜5:6の範囲内が好ましい。ソール側の窪み15aの曲率半径は、約12mm以上が好ましく、約13mm以上がより好ましい。ソール側の窪み15aの曲率半径は、約25mm以下が好ましく、約20mm以下がより好ましい。
【0033】
フェース部材10は、鍛造、鋳造いずれの方法でも形成可能である。また、フェース部材10の材料としては、チタンまたはチタン合金やステンレス鋼などを用いることができる。ゴルフクラブヘッド1の体積は、約160cc以上が好ましく、約350cc以上と大型にすることがより好ましい。一方、ゴルフクラブヘッド1の体積は、約500cc以下が好ましく、約480cc以下がより好ましい。また、ゴルフクラブヘッド1の重量は、約150g以上が好ましく、約160g以上がより好ましい。一方、ゴルフクラブヘッド1の重量は、約250g以下が好ましく、約200g以下と軽量なものがより好ましい。
【0034】
なお、図4では、本発明の構成を容易に理解できるように、フェース部材10の打球側の表面を平らに示したが、フェース部材10の打球面には、曲率半径250mm〜800mmのバルジを形成することができる。また、同様に、フェース部材の打球面には、曲率半径250mm〜800mmのロールを形成することができる。
【0035】
また、図1に示すように、本実施の形態では、ゴルフクラブヘッド1のフェース部全体がフェース部材10となる場合について説明してきたが、本発明はこれに限定されず、例えば、フェース部の中央の部分をフェース部材とし、フェース部の両端の残りの部分をヘッド本体と一体的に形成するようにしてもよい。
【0036】
図7は、フェース部材10の第2の実施形態を示している。図3とは異なり、厚肉部16は楕円ライン13で囲まれた楕円形状である。中心部17も楕円形状であり、この中心部17の中心は、楕円ライン13の中心と同一である。そして、この中心部17を取り囲むように、第1の谷19及び第1の尾根18が順に形成されている。すなわち、中心部17と、第1の谷19と、第1の尾根18と、楕円ライン13とが同心楕円を形成している。
【0037】
図8は、フェース部10の第3の実施形態における模式的な断面図である。図4とは異なり、肉厚がTである第1の谷19は、ある一定の面積を有している。また、肉厚がTである第1の尾根18も、ある一定の面積を有している。
【0038】
図9は、フェース部10の第4の実施形態における模式的な断面図である。図4とは異なり、中心部17の縁から第1の谷19にかけて肉厚が徐々に小さくならず、すなわち、第1の谷19は中心部17の縁の直下に位置している。また、第1の尾根18から窪み15にかけては肉厚が徐々に小さくならず、すなわち、第1の尾根18は窪み15の真上に位置している。
【0039】
図10は、フェース部10の第5の実施形態における裏面図である。本実施形態において、フェース部10には、第1の尾根18を取り囲むように第2の谷22と第2の尾根21とが順に形成されている。
【0040】
第2の谷22の肉厚は、第1の谷19の肉厚Tよりも小さく、かつ外周部12の肉厚Tよりも大きいかまたは等しい。第2の谷22の肉厚と第1の谷19の肉厚Tとの差は、0.1mm以上が好ましく、0.3mm以上がより好ましい。また、この差は1.0mm以下が好ましく、0.8mm以下がより好ましい。
【0041】
第2の尾根21の肉厚は、第1の尾根18の肉厚Tよりも小さく、かつ第2の谷22の肉厚よりも大きい。第2の尾根21の肉厚と第1の尾根18の肉厚Tとの差は0.1mm以上が好ましく、0.3mm以上がより好ましい。また、この差は1.5mm以下が好ましく、1.0mm以下がより好ましい。
【0042】
図10に示すように、楕円の長軸の両端部分における楕円ライン13と窪み15a、15bとにより囲まれた部分には、外周部12よりも肉厚の小さな薄肉部14a、14bをそれぞれ設けてもよい。薄肉部14と外周部12との肉厚の差は、約0.1mm以上が好ましく、約0.2mm以上がより好ましい。また、薄肉部14の肉厚は約1.8mm以上が好ましく、約1.9mm以上がより好ましい。一方で、薄肉部14の肉厚は約2.2mm以下が好ましく、約2.1mm以下がより好ましい。薄肉部14の肉厚をこの範囲にすることで、反発性能が通常は低いトウ側およびヒール側において、反発性能を向上することができる。
【実施例】
【0043】
本発明のフェース部材についてのCT値(Contact Time Value)を、コンピュータを用いたシミュレーションによって算出した(実施例1)。フェース部材の構成は、図3及び図4に示したものを採用した。フェース部材の設計条件としては、中心部17の肉厚Tを3.7mmとし、第1の尾根18の肉厚Tを3.5mmとし、第1の谷19の肉厚Tを3.0mmとし、外周部12の肉厚Tを2.4mmとした。フェース部材10の高さHを50mmとし、第1の尾根18の上側から下側の長さHを30mmとし、第1の谷19の上側から下側の長さHを20mmとし、中心部17の縁の上側から下側の長さHを14mmとした。また、楕円の長軸の長さを64mm、短軸の長さを40mm、楕円の角度θを15°とした。トウ3側の窪み15bの曲率半径を32mmとし、ヒール2側の窪み15aの曲率半径を12mmとした。フェース部全体に占める外周部12、厚肉部16の面積の割合は、7:5とした。なお、この割合は、中心部17を厚肉部16に含めて計算したが、中心部17は、フェース部全体の約3%となった。
【0044】
フェース部材10の材料はチタン合金を想定し、ヤング率は108GPa、ポアソン比は0.30とした。
【0045】
ボールの打点は、図11に示すように、水平方向に異なる5つの打点について調べた。中央の打点50cは、スイートスポットでの打球を想定しており、フェース部材の中心部17内とした。それ以外の4つの打点は、スイートスポットを外した打点を想定しており、中央の打点50cからトウ3側およびヒール2側にそれぞれ10mm離れた厚肉部16内の位置を、打点50b、50dとし、さらに打点50cからトウ3側およびヒール2側にそれぞれ20mm離れた厚肉部16内の打点を打点50a、50eとした。
【0046】
打点50a及び打点50eは、ほぼ、第1の尾根18と窪み15との間に位置している。また、打点50b及び打点50dは、ほぼ、中心部17の縁と第1の谷19との間に位置している。
【0047】
また、比較のために、実施例1の厚肉部が図12に示す断面を持つフェース部材について、上記と同様のシミュレーションを行った(比較例1)。中心部の肉厚T11はフェース部において最大の3.7mmであり、中心部から厚肉部の縁にかけて徐々に肉厚が小さくなるように構成されている。厚肉部の縁の肉厚T12は2.4mmである。
【0048】
以上のような実施例1と比較例1のシミュレーション結果を図13及び表1に示す。なお、図13のグラフでは、中央の打点50cの位置を0mmとし、ヒール側に向かう距離をプラスで、トウ側に向かう距離をマイナスで表した。
【0049】
【表1】

【0050】
図13及び表1に示したように、中心部から厚肉部の周囲にかけてT11からT12へと徐々に肉厚が小さくなる比較例1の場合、打点50a(トウ側20mm)におけるCT値は234μsecであり、打点50e(ヒール側20mm)におけるCT値は246μsecであった。つまり、打点によってCT値に大きなばらつきがあった。
【0051】
これに対し、本発明のフェース部を用いた実施例1の場合、打点50a(トウ側20mm)におけるCT値は239μsecであり、打点50e(ヒール側20mm)におけるCT値は241μsecである。つまり、比較例1と比べて、各打点におけるCT値のばらつきが少なくなり、ほぼ均一なものとなった。この結果から、スイートスポットをはずしてボールを打った場合でも、スイートスポットでボールを打った場合に近い反発性が発揮できることがわかる。
【0052】
また、比較例1のフェース部材の重量は32.8gであったのに対し、実施例1のフェース部材10の重量は32.0gであった。つまり、0.8gの軽量化を達成することができた。
【符号の説明】
【0053】
1 ゴルフクラブヘッド
2 ヒール
3 トウ
4 クラウン部
5 ソール部
6 ホゼル部
7 サイド部
10 フェース部材
12 外周部
13 楕円ライン
14 薄肉部
15 窪み
16 厚肉部
17 中心部
18 第1の尾根
19 第1の谷
21 第2の尾根
22 第2の谷
30 ヘッド本体
40 水平線
42 楕円の長軸
50 打点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属材料で形成されたフェース部を備えたゴルフクラブヘッドであって、前記フェース部は、該フェース部の中央に位置する厚肉部と、該厚肉部の外周に位置する外周部とを有しており、
前記厚肉部は、最も大きな肉厚を有する前記フェース部の中心部と、前記中心部を取り囲んでおり、前記中心部よりも小さな肉厚を有する第1の尾根と、前記中心部と前記第1の尾根との間の第1の谷であって、前記第1の尾根よりも小さな肉厚を有する第1の谷とを有している、ゴルフクラブヘッド。
【請求項2】
前記厚肉部が、略楕円形状または略円形状を、互いに対向する2つの側において、前記フェース部の中心方向に略円弧状に窪ませた形状を有している、請求項1に記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項3】
前記略円弧状の窪みのうち、トウ側の窪みはソール方向斜めを向いており、ヒール側の窪みはクラウン方向斜めを向いている、請求項2に記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項4】
前記フェース部の中心を通る該フェース部の高さに対して、前記第1の谷の上側から下側の長さが30〜50%である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項5】
前記フェース部の中心を通る該フェース部の高さに対して、前記第1の尾根の上側から下側の長さが40〜60%である、請求項1〜4のいずれか一項に記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項6】
前記中心部の肉厚と前記第1の尾根の肉厚との差が0.05〜0.5mmであり、前記第1の尾根の肉厚と前記第1の谷の肉厚との差が0.05〜0.3mmである、請求項1〜5のいずれか一項に記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項7】
前記厚肉部が、前記第1の尾根を取り囲んでおり、該第1の尾根よりも小さな肉厚を有する第2の尾根と、前記第1の尾根と前記第2の尾根との間の第2の谷であって、前記第2の尾根よりも小さな肉厚を有する第2の谷とをさらに有している、請求項1〜6のいずれか一項に記載のゴルフクラブヘッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−5679(P2012−5679A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−144655(P2010−144655)
【出願日】平成22年6月25日(2010.6.25)
【出願人】(592014104)ブリヂストンスポーツ株式会社 (652)
【Fターム(参考)】