説明

ゴルフクラブ

【課題】軽量長尺でありながらスイングがし易く、打点位置のばらつきを抑制し、安定した飛距離の増大を図ることができるゴルフクラブを提供する。
【解決手段】第1慣性モーメントMIは、グリップ16の後端での慣性モーメントである。第2慣性モーメントMI2は、ゴルフクラブ10の重心点Gcでの慣性モーメントである。慣性モーメント比MI1/MI2は、第1慣性モーメントMI1を第2慣性モーメントMI2で割った比である。ゴルフクラブ10の全長Lは46〜48インチ、ゴルフクラブ10の重量Cは210〜270g、第1慣性モーメントMI1は2550〜2850kg・cm、第1慣性モーメントMI1を第2慣性モーメントMI2で割った慣性モーメント比MI1/MI2は4.2〜5.0または6.0〜6.6である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はゴルフクラブに関し、より詳細には軽量長尺ゴルフクラブに関する。
【背景技術】
【0002】
ゴルフクラブにおいて飛距離の増大を図るためにはヘッドスピードを速くすることが重要である。そのため、ゴルフクラブの全長を例えば46インチ以上とした、いわゆる軽量長尺ゴルフクラブが提供されている。
しかしながら、この種の軽量長尺ゴルフクラブは、スイングし易さが損なわれるという欠点がある。そのため、打点位置がばらつきやすく、安定した飛距離の増大は困難である。
そこで、ゴルフクラブのグリップの後端での慣性モーメント、あるいは、グリップエンドからヘッドに10cmの位置を軸とした慣性モーメントを最適化することで、スイングし易さを確保するようにしたゴルフクラブが提案されている(特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4528241号
【特許文献2】特開2000−202070号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来技術では、スイングし易さを改善する効果は十分とはいえず、したがって、打点位置がばらつきやすく、安定した飛距離の増大を図る上で改善の余地がある。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、軽量長尺でありながらスイングがし易く、打点位置のばらつきを抑制し、ヘッドスピード向上を最大限発揮し、安定した飛距離の増大を図ることができるゴルフクラブを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明は、シャフトと、前記シャフトの先端に固定されたヘッドと、前記シャフトの後端部に設けられたグリップとを備えるゴルフクラブであって、前記ゴルフクラブの全長が46〜48インチ、前記ゴルフクラブの重量が210〜270g、前記グリップの後端での慣性モーメントである第1慣性モーメントMI1が2550〜2850kg・cm、前記慣性モーメントMI1を前記ゴルフクラブの重心点での慣性モーメントである第2慣性モーメントMI2で割った慣性モーメント比MI1/MI2が4.2〜5.0または6.0〜6.6であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、ゴルフクラブの全長が46〜48インチ、ゴルフクラブの重量が210〜270gである軽量長尺ゴルフクラブにおいて、慣性モーメント比MI1/MI2を4.2〜5.0または6.0〜6.6の範囲に設定することにより、スイングし易さ、打点位置のばらつきを改善することができ、ヘッドスピードも向上でき、安定して飛距離の増大を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本実施の形態のゴルフクラブ10の構成を示す図である。
【図2】フェース面上重心距離FGLを説明する図である。
【図3】クラブ重量Cと慣性モーメント比MI1/MI2との関係を示す図である。
【図4】ヘッド重量Hと第3慣性モーメントMI3との関係を示す図である。
【図5】実験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
まず、ゴルフクラブの慣性モーメントについて説明する。
右利きのゴルファがゴルフクラブをスイングする場合、バックスイング後半からダウンスイング開始時までの期間、ゴルフクラブは、ゴルファの左手位置を支点として運動する。
従って、ゴルフクラブのスイングし易さを向上させるためには、ゴルファのグリップを握る左手位置を支点とするクラブの操作性を向上させる必要がある。
このような観点から、ゴルフクラブの操作性を定量化するパラメータとして、左手に比較的近い位置であるグリップの後端でのゴルフクラブの慣性モーメントを採用し、かつ、これを限定することを試みた。
しかしながら、グリップの後端での慣性モーメントを限定するだけでは、スイングし易さ、打点位置のばらつきを改善するには限界があることがわかった。
【0009】
発明者らは鋭意研究を重ねた結果、ゴルファはゴルフクラブの重心位置を感じながら、ゴルフクラブをスイングしていることがわかった。すなわち、ゴルフクラブの重心位置の慣性モーメントを感じながらスイングしていることを発見した。
すなわち、ゴルフクラブの操作性に影響を与えるパラメータとして、グリップの後端での慣性モーメントと、ゴルフクラブの重心位置の慣性モーメントとの双方が重要であることがわかった。
そこで、発明者らはグリップの後端での慣性モーメントである第1の慣性モーメントMI1と、ゴルフクラブの重心位置での慣性モーメントである第2の慣性モーメントMI2との比MI1/MI2(以下、慣性モーメント比MI1/MI2という)に着目し、この比を最適化することにより、ゴルフクラブの操作性の改善を図ることができないか、実験と検証を重ねた。
その結果、慣性モーメント比MI1/MI2を特定の範囲に設定すると共に、ゴルフクラブの特性を特定の範囲に設定することにより、スイングし易さ、打点位置のばらつきは改善することができ、ヘッドスピードも向上でき、安定した飛距離の増大を得られることを見いだした。
【0010】
次に、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
図1に示すように、ゴルフクラブ10はドライバーであり、シャフト12と、シャフト12の先端に固定されたヘッド14と、シャフト12の後端部に設けられたグリップ16とを備える。
本実施の形態におけるゴルフクラブ10の特性は、以下のように(1)ゴルフクラブ特性(ゴルフクラブ全体としての特性)と、(2)ヘッド特性(ヘッド部分の特性)との2種類に分けて規定される。
なお、ゴルフクラブ10の慣性モーメントと、慣性モーメント比を以下のように定義する。
第1慣性モーメントMIは、グリップ16の後端での慣性モーメントである。
第2慣性モーメントMI2は、ゴルフクラブ10の重心点Gcでの慣性モーメントである。
第3慣性モーメントMI3は、ヘッド14のトウヒール方向の慣性モーメントである。
慣性モーメント比MI1/MI2は、第1慣性モーメントMI1を第2慣性モーメントMI2で割った比である。
(1)ゴルフクラブ特性:
ゴルフクラブ10の全長L:46〜48インチ
ゴルフクラブ10の重量C:210〜270g
第1慣性モーメントMI1:2550〜2850kg・cm
第1慣性モーメントMI1を第2慣性モーメントMI2で割った慣性モーメント比MI1/MI2:4.2〜5.0または6.0〜6.6
(2)ヘッド特性:
ヘッド14の重量H:160〜180g
第3慣性モーメントMI3:4000〜6000g・cm
第3慣性モーメントMI3は、以下の関係式(1)を満たす。
69H−7800≦MI3≦69H−6000 (1)
フェース面上重心距離FGL:43〜50mm
ただし、フェース面上重心距離FGLは以下のように定義される。
図2に示すように、ヘッド14の重心点をフェース面20に投影した点(すなわち、ヘッド14の重心点を通るフェース面20の法線とフェース面20との交点)をフェース面上重心点Gfとしたとき、フェース面上重心点Gfとシャフト12の中心軸を通る直線22とを通る最短直線24の距離をフェース面上重心距離FGLとする。
【0011】
本実施の形態によれば、ゴルフクラブ10の全長Lが46〜48インチ、ゴルフクラブ10の重量Cが210〜270gである軽量長尺ゴルフクラブにおいて、慣性モーメント比MI1/MI2を4.2〜5.0または6.0〜6.6の範囲に設定することにより、スイングし易さ、打点位置のばらつきを改善することができ、ヘッドスピードも向上でき、安定して飛距離の増大を図ることができる。
また、ゴルフクラブ10が前記の(2)ヘッド特性の規定を満たすことにより、スイングし易さ、打点位置のばらつきをさらに改善することができ、ヘッドスピードをさらに向上でき、さらに安定して飛距離の増大を図ることができる。
【0012】
図3は、クラブ重量Cと慣性モーメント比MI1/MI2との関係を示す図である。
図中記号■は市販されている従来のゴルフクラブを示し、記号◇は本発明のゴルフクラブヘッドを示している。
図3から明らかなように、従来品の慣性モーメント比MI1/MI2は、本発明で規定する4.2〜5.0または6.0〜6.6の範囲外にあり、本発明は、慣性モーメント比MI1/MI2の範囲が従来品と全く異なっていることが明らかである。
【0013】
図4は、ヘッド重量Hと第3慣性モーメントMI3との関係を示す図である。
図中、領域Aが本発明で規定するヘッド14の重量Hおよび第3慣性モーメントMI3の範囲を示し、領域Bが従来のゴルフクラブにおけるヘッド14の重量Hおよび第3慣性モーメントMI3の範囲を示している。
なお、図中、直線PはMI3=69H−6000を示し、直線QはMI3=69H−7800を示す。
図4から明らかなように、従来品のヘッド重量Hおよび第3慣性モーメントMI3は、本発明で規定する範囲外にあり、本発明は、ヘッド重量Hおよび第3慣性モーメントMI3の範囲が従来品と全く異なっていることが明らかである。
【実施例】
【0014】
以下、本発明の実施例について説明する。
図4は本発明に係るゴルフクラブヘッド10の実験結果を示す図である。
なお、実験条件は次のとおりである。
試料となるゴルフクラブ(ドライバー)を各実験例毎に作成し、1本のゴルフクラブについて5人のゴルファがゴルフボールを実際に10打ずつ打撃してヘッドスピードおよび飛距離を測定しその平均値を求めた。
また、スイングのし易さについては10人のゴルファが5点評価(5点が最もよく、1点が最も悪い)した結果を合計しその合計点を求めた。
各実験例のヘッドスピード、飛距離、スイングのし易さの評価は、実験例4の測定結果を100とした指数で示した。指数が大きいほど評価が良いことを示す。
また、ヘッドスピード、飛距離、スイングのし易さの3つの指数の合計を求めた。
指数の基準として実験例4を用いたが、実験例4のゴルフクラブは、全長Lが45.5インチであり、いわゆる軽量長尺ゴルフクラブとは異なる通常のゴルフクラブである。
【0015】
実験例1〜19は条件によって以下の3群に分けられる。
(A群)実験例1、14〜19は、前記のゴルフクラブ特性およびヘッド特性の双方の規定を満足するものである。
(B群)実験例2〜6は、ゴルフクラブ特性の規定を満足しないものである。
(C群)実験例7〜13は、ゴルフクラブ特性の規定を満足するが、ヘッド特性の規定を満足しないものである。
【0016】
ゴルフクラブ特性およびヘッド特性の双方の規定を満足するA群(実験例1、14〜19):
ヘッドスピードは128〜135の範囲であり最も良好である。
飛距離は136〜140の範囲であり最も良好である。
スイングし易さは138〜145の範囲であり最も良好である。
合計点は402〜420の範囲であり最も良好である。
【0017】
ゴルフクラブ特性の規定を満足するが、ヘッド特性の規定を満足しないC群(実験例7〜13):
ヘッドスピードは120〜123の範囲でありA群に比較して劣るものの良好である。
飛距離は120〜134の範囲でありA群に比較して劣るものの良好である。
スイングし易さは121〜135の範囲でありA群に比較して劣るものの良好である。
合計点は361〜392の範囲でありA群に比較して劣るものの良好である。
【0018】
ゴルフクラブ特性の規定を満足しないB群(実験例2〜6):
ヘッドスピードは90〜103の範囲でありC群よりも劣っている。
飛距離は91〜104の範囲でありC群よりも劣っている。
スイングし易さは90〜100の範囲でありC群よりも劣っている。
合計点は271〜302の範囲でありC群よりも劣っている。
また、B群では、以下のような慣性モーメント比MI1/MI2とゴルフクラブの評価との関係があることがわかった。
1)MI1/MI2>6.6の場合(実験例5)
ヘッドが重すぎ、グリップが軽すぎであり、ゴルフクラブのスイングは安定する反面、ヘッドスピードが低下する傾向となる。
2)5.0<MI1/MI2<6.0の場合(実験例2、3、4)
従来から市販されているゴルフクラブと同様の慣性モーメント比MI1/MI2であり、スイングの安定性に欠け、ヘッドスピードの向上も見られない。
3)MI1/MI2<4.2の場合(実験例6)
ヘッドが軽すぎ、グリップが重すぎで、ヘッドスピードは向上する反面、ゴルフクラブのスイングの安定性に欠ける。
【0019】
以上の結果から、C群では、前記ゴルフクラブ特性の規定を満たすことにより、スイングし易さ、打点位置のばらつきを改善することができ、ヘッドスピードも向上でき、安定した飛距離の増大を図ることができる。
また、A群では、前記ゴルフクラブ特性およびヘッド特性の双方の規定を満たすことにより、スイングし易さ、打点位置のばらつきをさらに改善することができ、ヘッドスピードをさらに向上でき、さらに安定した飛距離の増大を図ることができる。
また、B群では、前記ゴルフクラブ特性の規定を満たさないため、スイングし易さ、打点位置のばらつきを改善できず、ヘッドスピードの向上、安定した飛距離の増大を得る上で不利であることがわかった。
【符号の説明】
【0020】
10……ゴルフクラブ、12……シャフト、14……ヘッド、16……グリップ、20……フェース面、L……ゴルフクラブの全長、C……ゴルフクラブの重量、H……ヘッドの重量、Gc……ゴルフクラブの重心点、Gf……フェース面上重心点、MI1……第1慣性モーメント、MI2……第2慣性モーメント、MI3……第3慣性モーメント、MI1/MI2……慣性モーメント比、FGL……フェース面上重心距離。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シャフトと、前記シャフトの先端に固定されたヘッドと、前記シャフトの後端部に設けられたグリップとを備えるゴルフクラブであって、
前記ゴルフクラブの全長が46〜48インチ、
前記ゴルフクラブの重量が210〜270g、
前記グリップの後端での慣性モーメントである第1慣性モーメントMI1が2550〜2850kg・cm
前記慣性モーメントMI1を前記ゴルフクラブの重心点での慣性モーメントである第2慣性モーメントMI2で割った慣性モーメント比MI1/MI2が4.2〜5.0または6.0〜6.6である、
ことを特徴とするゴルフクラブ。
【請求項2】
前記ヘッドのトウヒール方向の慣性モーメントである第3慣性モーメントMI3が4000〜6000g・cm
前記ヘッドの重量Hが160〜180g、
前記第3慣性モーメントMI3が以下の関係式(1)を満たし、
69H−7800≦MI3≦69H−6000 (1)
前記ヘッドの重心点をフェース面に投影した点をフェース面上重心点としたとき、フェース面上重心点と前記シャフトの中心軸を通る直線とを通る最短直線の距離であるフェース面上重心距離FGLが43〜50mmである、
ことを特徴とする請求項1記載のゴルフクラブ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−125485(P2012−125485A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−281317(P2010−281317)
【出願日】平成22年12月17日(2010.12.17)
【特許番号】特許第4924961号(P4924961)
【特許公報発行日】平成24年4月25日(2012.4.25)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】