説明

ゴーヤー麹組成物

【課題】本発明の課題は、経済的に安価で容易に入手し得るゴーヤーを、麹菌により発酵前に比して抗酸化活性及びACE阻害活性が増強され、また、乳酸菌による発酵に比べても、高い作用効果を奏し、苦味を緩和した副作用のないゴーヤー麹組成物、及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】ゴーヤーの乾燥・粉砕物に炭素源を添加し、加水処理して、麹菌のアスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)(IFO4079)又はアスペルギルス・アワモリ(Aspergillus awamori)(IFO6082)により発酵させ、発酵後の処理物を乾燥させて、抗酸化活性及びACE阻害活性が増強したゴーヤー麹組成物を得る。この麹組成物は、ゴーヤーの乳酸発酵処理物に比べて有意に抗酸化活性及びACE阻害活性が増強していた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴーヤー麹組成物に関し、より詳しくは、ゴーヤー又はゴーヤーの前処理物に、麹菌を使用して発酵し、抗酸化活性及びACE阻害活性が増加したゴーヤー麹組成物やその製法、ゴーヤー麹組成物を有効成分とする抗酸化剤やACE阻害剤に関する。
【背景技術】
【0002】
抗酸化剤の作用は体内に生成する活性酸素を取り除くことであり、この活性酸素は酸素と体内の各種物質との反応により生成し、そして、一連の連鎖反応を起こし体内の組織に障害を起こすといわれている。運動等した時は通常より多くの酸素を吸い込むため、更に多くの活性酸素を生むことになり、そして体内の組織に大きな被害を及ぼす。しかしながら、生体は様々な環境に適応できる能力を持っており修復していくが、修復しきれない場合は、癌(ガン)や老化、動脈硬化、心筋梗塞、脳卒中を招くとされている。抗酸化活性を有する成分含有物を食品や医薬により補うことである程度予防や治療を行うことができるといわれている。
【0003】
また、高血圧症の一つの原因として、昇圧系であるレニン−アンジオテンシン系を司るアンジオテンシンI変換酵素(Angiotensin I Converting Enzyme 、以下ACEという)が深く関与することが知られている。ACEの作用により、アンジオテンシンIのC末端ジペプチドHis−Leuがはずれて、活性を有するアンジオテンシンIIを生成する。アンジオテンシンIに生理活性がないのに対して、アンジオテンシンIIには強力な血管収縮作用、すなわち昇圧作用がある。また、ACEはキナーゼIIとも呼ばれ、強力な血管拡張作用のあるブラジキニン(bradykinin)を分解して昇圧に働く。したがって、これらの作用を有するACEを阻害することにより高血圧を予防ないし治療することが可能である。
【0004】
近年、食生活の欧米化、ライフスタイルが変わったことに伴う運動不足等により、糖尿病、高脂血症、高血圧症をはじめとする所謂生活習慣病の患者数が増加し、大きな社会問題となっており、このような状況下、生活習慣病の予防や治療が急務となっていることから、これらを改善するために日常的に食する効果的な食品が求められている。
【0005】
ゴーヤーは、和名「ツルレイシ」と称され、一般的には、「ニガウリ」とも呼ばれる。学名Momordica charantia L.var.pavel Crantzであり、ビタミンCを豊富に含み、その他カロテン、ビタミンB、ビタミンK,カリウム、マグネシウム、鉄、リン、食物繊維などを含んでおり、沖縄地方では日常的に食されている植物であるが、近年、健康志向ブームと栽培しやすい植物とあって、沖縄以外のところでも広く栽培され、シーズン中は日常的な食材となっている。
【0006】
従来より、自然に生育する植物を生でそのまま食しても医薬効果を奏するものや、植物を乾燥してお茶のようにして飲み、含まれている有効成分を摂取することは数多く知られており、最近では、植物原料に微生物を作用させることによって、より飲みやすくしている。例えば、ゴーヤーに関しては、苦瓜(ゴーヤー)を切断し、乳酸菌を加えて発酵させ、その後乾燥させる苦瓜茶の製造方法(例えば、特許文献1参照)や、ゴーヤーに乳酸発酵、クエン酸発酵、アルコール発酵、酢酸発酵等の微生物発酵を行って得られる発酵物(例えば、特許文献2参照)が知られている。
【0007】
一方、ゴーヤー又はその前処理物に麹菌を使用して発酵させ、抗酸化活性及びACE阻害活性が増強したゴーヤー麹組成物やその製造方法は知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−169621号公報
【特許文献2】特開2006−75083号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、経済的に安価で容易に入手し得るゴーヤーを、麹菌により発酵前に比して抗酸化活性及びACE阻害活性が増強され、また、乳酸菌による発酵に比べても、高い作用効果を奏し、苦味を緩和した副作用のないゴーヤー麹組成物、及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
沖縄に生育する植物には、その多くに病気の予防や治療に効果のあることが知られており、該植物を乾燥し、煎じて飲用し、或いは日常的に料理等に用いられてきたが、本発明者らは、さらに他の植物にも広げて研究し、また、生理学的に有用な成分を含むことが知られている植物に種々の加工処理を試み、含有される有効成分を最大限に利用できるよう鋭意努力してきた。ゴーヤーについても、より生理活性効果を高めるため、乳酸菌による発酵ばかりでなく、他の種々の微生物を作用させた結果、麹菌処理が抗酸化活性及びACE阻害活性を増加することを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち本発明は(1)ゴーヤー又はゴーヤーの前処理物の麹菌による発酵処理により得られる、以下の(a)80℃の熱水抽出物が、麹菌による発酵処理により増強された抗酸化活性を有する;及び(b)80%エタノール抽出物が、麹菌による発酵処理により増強されたACE阻害活性を有する;の物性を備えたゴーヤー麹組成物や、(2)麹菌が、アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)又はアスペルギルス・アワモリ(Aspergillus awamori)であることを特徴とする前記(1)記載のゴーヤー麹組成物や、(3)麹菌が、アスペルギルス・オリゼ(IFO4079)又はアスペルギルス・アワモリ(IFO6082)であることを特徴とする前記(2)記載のゴーヤー麹組成物や、(4)前記(1)〜(3)のいずれか記載のゴーヤー麹組成物を、抗酸化剤又はACE阻害剤の調製のために使用する方法や、(5)前記(1)〜(3)のいずれか記載のゴーヤー麹組成物を有効成分とする抗酸化剤や、(6)前記(1)〜(3)のいずれか記載のゴーヤー麹組成物を有効成分とするACE阻害剤や、(7)ゴーヤーの乾燥・粉砕物に炭素源を添加し、加水処理して、麹菌を使用して発酵させ、抗酸化活性及びACE阻害活性を増加させる発酵工程と、発酵後の処理物を乾燥させる乾燥工程とを含むことを特徴とするゴーヤー麹組成物の製造方法や、(8)炭素源が、糖蜜であることを特徴とする前記(7)記載の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、ゴーヤーの乳酸菌による発酵処理物に比べて抗酸化活性及びACE阻害活性が高められ、苦味が緩和され、安全性の高い、かつ経済的に安価に入手し得るゴーヤーの麹菌の発酵処理物であるゴーヤー麹組成物が得られ、このゴーヤー麹組成物を配合したサプリメント、食品、食品素材は抗酸化剤組成物やACE阻害剤組成物として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】DPPHラジカル消去活性法を用いて算出した、本発明の麹菌4079、6082によるゴーヤー発酵処理物の熱水抽出物のラジカル残存率を、発酵前及びコントロールとともに示す。
【図2】ACE阻害活性を、本発明の麹菌4079、6082によるゴーヤー発酵処理物のエタノール抽出物において発酵後の増加を、発酵前のものとともに示す。
【図3】DPPHラジカル消去活性法を用いて算出した、本発明の麹菌4079、6082によるゴーヤー発酵処理物の熱水抽出物のラジカル残存率を、乳酸発酵処理物、麹菌発酵前及びコントロールとともに示す。
【図4】本発明の麹菌4079、6082によるゴーヤー発酵処理物のエタノール抽出物において発酵後のACE阻害活性の増加を、発酵前及び乳酸発酵処理物とともに示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のゴーヤー麹組成物としては、ゴーヤー又はゴーヤーの前処理物の麹菌による発酵処理により得られる、(a)80℃の熱水抽出物が、麹菌による発酵処理により増強された抗酸化活性を有する物性;すなわち、80℃の熱水抽出物が、未発酵処理物の相当物に比して、増強された抗酸化活性を有する物性;及び(b)80%エタノール抽出物が、麹菌による発酵処理により増強されたACE阻害活性を有する物性;すなわち、80%エタノール抽出物が、未発酵処理物の相当物に比して、増強されたACE阻害活性を有する物性;を備えたゴーヤーに由来する組成物であれば特に制限されず、ここで、ゴーヤーの前処理としては、ゴーヤーの粉砕処理、細断処理、乾燥処理、超音波ホモゲナイズ処理、凍結処理等を挙げることができ、これら処理を二以上組み合わせることもできる。好ましくはゴーヤーそのままを細断後乾燥する方法や、予め乾燥処理、凍結処理等を施した処理物に細断又は粉砕処理をする方法が挙げられる。また、本発明のゴーヤー麹組成物の製造方法としては、ゴーヤーの乾燥・粉砕物に炭素源を添加し、加水処理して、麹菌を使用して発酵させ、抗酸化活性及びACE阻害活性を増加させる発酵工程と、発酵後の処理物を乾燥させる乾燥工程とを含む方法であれば特に制限されず、上記乾燥・粉砕物として具体的には、ゴーヤーを40℃〜100℃前後に設定した乾燥室内で加熱乾燥処理又は戸外における天日乾燥処理等の乾燥処理後、0.05〜1mmに細断又は粉砕した処理物を例示することができる。
【0015】
本発明で用いる麹菌は、特に限定されるものではないが、例えばアスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)、アスペルギルス フラバス(Aspergillus flavus)、アスペルギルス ポリオキソジェネス(Aspergillus polyoxogenes)、アスペルギルス ソーヤ(Aspergillus sojae)などの黄麹菌、アスペルギルス・アワモリ(Aspergillus awamori)、アスペルギルス カワウチ(Aspergillus kawauchii)、アスペルギルス ウサミ(Aspergillus usami)、アスペルギルス ニガー(Aspergillus niger)などの黒麹菌、モナスカス アンカ(Monascus anka)、モナスカス ピロサス(Monascus pilosus)、モナスカス パーパレウス(Monascus purpureus)などの紅麹菌が挙げられる。特に、本発明では、アスペルギルス・オリゼとアスペルギルス・アワモリが好ましく、アスペルギルス・オリゼIFO4079又はアスペルギルス・アワモリIFO6082がより好ましい。
【0016】
本発明の発酵条件としては、原料の処理、麹菌が生育するのに適した発酵温度、発酵時間、pH、水分量を調節し、発酵基質の種類を選択することにより効率的に発酵し得るが、発酵の進行状況や、嗜好により適宜変更し、選択することができる。例えば、ゴーヤーの処理としては、前記で述べた例えばゴーヤーの乾燥粉末を用いることができ、発酵温度は28〜32℃、特に30℃で72〜168時間が適切であり、pH4〜7、水分は、原料粉末の2.5〜5倍(重量)、特に3倍前後が好ましい。ゴーヤーの乾燥・粉砕物等の発酵基質には、炭素源や窒素源を添加することが好ましく、炭素源としては、糖蜜、ブドウ糖、蔗糖等の糖が好ましく、これらの炭素源や窒素源は1種を単独で、又は2種以上を混合して用いてもよい。糖類の添加量としては培地(水分を除く)当たり1〜5重量%が好ましい。また、前記窒素源としては、米糠、ふすま等が好ましく、添加量としては培地(水分を除く)当たり1〜10重量%が好ましく、特に3重量%前後が適当である。麹菌は、胞子懸濁液(10〜10/ml)として5〜50ml/発酵基質100g植菌することが、発酵において好ましい。発酵後、発酵停止処理を実施することが、過発酵防止の点で好ましく、かかる発酵停止処理としては、80〜100℃の蒸気に30分間暴露する方法を具体的に例示することができる。
【0017】
発酵停止処理の後、乾燥機により水分値が10重量%以下となるように乾燥することが好ましく、乾燥方法としては、加熱乾燥や凍結乾燥により行うことができ、加熱乾燥の場合は、品温が100℃以下で行われることが、生理活性成分の失活を防止することができるため好ましい。
【0018】
乾燥後、必要に応じて加熱等公知の方法により滅菌処理を行なって本発明のゴーヤー麹組成物を得る。該ゴーヤー麹組成物は、そのまま食品素材として、或いは食品に添加して使用され得る配合剤として利用される。また、発酵処理物を溶媒により有効成分を抽出してもよい。
【0019】
上記溶媒抽出処理に使用する溶媒としては、例えば、水性媒体、有機溶媒等いずれでもよく、また、溶媒は単独で用いてもよいし、複数を組み合わせた混合溶媒として用いてもよい。水性媒体としては、例えば、水、精製水、脱イオン水、蒸留水、又はこれらの加温水や熱水等を挙げることができる。有機溶媒としては、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、イソブチルアルコール 、t−ブチルアルコール等の低級アルコールやその含水物、グリセリン、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール等の液状多価アルコールやその含水物、酢酸メチル、酢酸エチル等の酢酸アルキル、アセトン、エチルメチルケトン等の脂肪族ケトン、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル等の脂肪族エーテル、ヘキサン、ヘプタン、石油エーテル等の脂肪族炭化水素、シクロヘキサン等の脂環式炭化水素、トルエン、ベンゼン等の芳香族炭化水素、クロロホルム、ジクロロメタン、1,1,1,2−テトラフルオロエタン、1,1,2−トリクロロエテン等のハロゲン化脂肪族炭化水素、ゴマ油、トウモロコシ油、オリーブ油、綿実油等の食用油脂、メタン、エタン、プロパン、プロピレン、ブタン、ブチレン等の液化脂肪族炭化水素、ジメチルスルフォキシド等を挙げることができる。好ましい抽出方法としては、例えば、80〜100℃の熱水を用い、30分〜24時間抽出する方法、アルコール抽出の場合は、エタノール濃度が60〜80容量%のエタノールを用いることが好ましく、この場合、0〜80℃で30分〜5日間抽出する方法等を例示することができ、抽出した後濾過する方法等を挙げることができる。
【0020】
本発明のゴーヤー又はゴーヤーの前処理物の麹菌による発酵処理物であるゴーヤー麹組成物は、抗酸化活性及びACE阻害活性の改善作用を有するものである。したがって本発明は、本発明のゴーヤー麹組成物を抗酸化剤又はACE阻害剤の調製のために使用する方法や、本発明のゴーヤー麹組成物を有効成分とする抗酸化剤や、本発明のゴーヤー麹組成物を有効成分とするACE阻害剤にも関する。また、本発明のゴーヤー麹組成物を含有する食品には、抗酸化活性及びACE阻害活性改善のために用いられる旨の表示を付した機能性食品又は食品素材として流通、販売に供され得る。
【0021】
本発明の、ゴーヤー麹組成物は、その麹発酵前のもの、及び乳酸発酵のものに比べて、抗酸化活性及びACE阻害活性効果が高く、また、ゴーヤー独特の苦味を緩和し、美味しく感じる麹組成物であり、例えば、本発明のゴーヤー麹組成物を熱水で抽出して、飲み物としたり、或いは、添加される飲食品の味を損なうことがないことより、種々の飲食品に添加し、抗酸化活性改善用及びACE阻害活性改善用の食品又は食品素材を製造することができる。添加される飲食品としては、例えば、麺類、飴、クッキー、シリアル類、菓子類(スナック類)、ふりかけ類、畜産加工品類、魚肉加工品類、缶詰類、ジュース類、清涼飲料、栄養ドリンク剤等を挙げることができる。
【0022】
また、本発明のゴーヤー麹組成物を有効成分とする抗酸化剤やACE阻害剤は、サプリメントや食品のほか、医薬品として用いることもでき、その場合は、薬学的に許容される通常の担体、結合剤、安定化剤、賦形剤、希釈剤、pH緩衝剤、崩壊剤、可溶化剤、溶解補助剤、等張剤などの各種調剤用配合成分を添加することができる。かかる医薬品としての投与形態は通常用いられる投与形態、例えば粉末、顆粒、カプセル剤、シロップ剤、懸濁液等の剤型で経口的な投与形態や、あるいは、例えば溶液、乳剤、懸濁液等の剤型にしたものとすることもできる。また、摂取量は、ヒトの体重、年齢、性別、症状等により異なり、特に症状に応じて1日当たりの投与量を決定するが、長期に服用することもできる。
【0023】
本発明は、ゴーヤー麹組成物を、抗酸化剤として、或いはACE阻害剤として、日常的に用いる場合、それから抽出したエキスや粉末をティーバック、ペットボトル、缶、ドリンク剤用に用いることができる。また、顆粒状のふりかけ等とすることもできる。さらに、本発明のゴーヤー麹組成物から抽出したエキスや顆粒を飲用水や、ジュース等に溶解した飲料や、パン、ケーキ、煎餅などの焼き菓子、羊羹などの和菓子、冷菓、チューインガム、ゼリー等のパン・菓子類や、うどん、そば等の麺類や、かまぼこ、ハム、魚肉ソーセージ等の魚肉練り製品や、みそ、しょう油、ドレッシング、マヨネーズ、甘味料等の調味類や、チーズ、バター、ヨーグルト、アイスクリーム、プディング等の乳製品や、豆腐、こんにゃく、その他佃煮等の各種総菜に配合することができる。
【0024】
本発明のゴーヤー麹組成物は、抗酸化活性が発酵前より強化されることが重要である。抗酸化活性の強度はβカロチン法、DPPH法、ロダン鉄法等により測定することができる。ここで、βカロチン法とは、容易に酸化されることにより黄色が退色して透明になるβカロチンを利用した測定法であって、βカロチンとリノール酸及びサンプルの混合液を自動酸化させ、その退色の度合いを測定することにより抗酸化活性の強度を測定する方法であり、βカロチンの黄色が退色しなければそのサンプルには抗酸化活性があると判断できる。また、DPPH法とは、2,2−ジフェニル−1−ピクリルヒドラジルを利用したラジカル消去能の測定による方法であり、ロダン鉄法とは、リノール酸の自動酸化の度合いを分光光度計(500nm)で測定する方法である。
本発明のゴーヤー麹組成物については、熱水抽出法で測定した抗酸化活性が発酵処理前と比較して30%以上、特に40%以上強化されたものであることが好ましい。
【0025】
また、本発明のゴーヤー麹組成物は、未発酵処理物と比較してACE阻害活性が向上される。これは、本発明により得られる発酵処理物について、ACE(Angiotensin I Converting enzyme)阻害活性が未発酵処理物より増加することに起因する。ACEは、アンジオテンシンIをアンジオテンシンIIへ変換するのに係わるアンジオテンシンI変換酵素であり、アンジオテンシンIIは血圧を上昇させるホルモンであるところから、ACEの活性を阻害することにより、血圧上昇を予防することが可能となる。ゴーヤー発酵処理物は、発酵前より20%以上、特に30%以上増大されたものが好ましい。尚、ACE阻害活性の測定は80%エタノール抽出物において測定した値であり、前記抽出物をACEに添加し、これに塩化ナトリウムを含むホウ酸緩衝液に溶解した馬尿酸誘導体であるHippuryl L-histidyl L-leucineを添加して遊離する馬尿酸量を測定し、コントロールとして水を用いた場合の生成比として求める方法である。
【0026】
更に重要なことは、本発明の発酵処理物は、従来の乳酸菌によるゴーヤーの発酵処理物に比して、より高い抗酸化作用及びACE阻害活性を有する。
【0027】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明は、下記実施例により制限されるものではない。
【実施例1】
【0028】
生のゴーヤーを1〜5mmの厚さにスライスし、スライスしたゴーヤーを乾燥室内で40〜60℃で、水分10%以下に乾燥し、粉砕機(Oster社製「オスターブレンダー」)により直径0.5mm以下の粉砕物を得た。乾燥ゴーヤー粉末30gと糖蜜0.9g及び水90mlを混合した懸濁液とし、pH5に調整し、アスペルギルス・オリゼ(IFO4079)の胞子を上記懸濁液1mlあたり10個となるように添加し、30℃で168時間発酵した。その後90℃の蒸気に暴露して発酵停止処理し、さらに水分10重量%以下となるまで乾燥し、滅菌処理(130℃蒸気、5〜15秒)を行い、ゴーヤー発酵粉末31gを得た。
【実施例2】
【0029】
実施例1において、アスペルギルス・オリゼ(IFO4079)に代えてアスペルギルス・アワモリ(IFO6082)を用いた以外は、実施例1と同様に実施し、ゴーヤー発酵粉末31gを得た。
【0030】
実施例1及び2の発酵工程における麹の生育状況を観察するため、また、一般生菌数を調べるため、発酵基質1mlを標準平板寒天培地(栄研化学株式会社製「標準寒天培地」pH7〜7.2)に撒いた。麹の形成についてはその外観等で確認し、一般生菌についてはその菌数を調べた。表1に、発酵前、発酵3日目、発酵7日目、発酵9日目毎の一般生菌数の結果を示す。
【0031】
【表1】

【0032】
また、麹菌の生育を見ると、アスペルギルス・オリゼ(IFO4079)では、2日目より麹の形成を全体的に確認でき、アスペルギルス・アワモリ(IFO6082)では1日目より麹を確認でき、2日目では全体的に麹の形成を確認できた。表1に示すように、一般生菌数は、アスペルギルス・オリゼ(IFO4079)及びアスペルギルス・アワモリ(IFO6082)を用いた場合、発酵時間の経過と共に増えていることがわかった。
【0033】
[DPPH法による抗酸化活性の測定]
実施例1及び2で得られたゴーヤー発酵処理物の乾燥粉末と発酵前のゴーヤー乾燥粉末をそれぞれ1gとり、80℃の熱水で50mlに定溶し、その液を原液とした。また、ポジティブコントロールとしてのアスコルビン酸は、濃度1mg/mlに濃度調整した溶液を測定対象の原液とした。これらの原液を、次のDPPH法に従い、測定した。0.05Mトリス−塩酸緩衝液(pH7.4)(WAKO(株)社製)0.95mLと、0.1mMDPPH−エタノール溶液(WAKO(株)社製)1.0mLと、100%エタノール1.0mLとを混合し、撹拌した。このようにして得た試薬に先の原液0.05mlを添加した。試薬添加前と、添加30秒後の吸光度(517nm)を測定した。コントロールとして蒸留水を用い、コントロールの試薬添加前後の吸光度の差を100としたときの、サンプルの試薬添加前後の吸光度の差の値をDPPHラジカル消費率(%)として求め、このラジカル消費率(%)を100から引いた値をDPPHラジカル残存率(%)とした。結果を図1に示す。
【0034】
図1から明らかなように、実施例1(「4079」と略称する場合がある)及び実施例2(「6082」と略称する場合がある)で得られたゴーヤーの発酵処理物は、DPPH法により測定した抗酸化活性(DPPHラジカル残存率)が、発酵前のゴーヤー乾燥粉末と比べて15%以上強化されていた。
【0035】
(ACE阻害活性の測定)
実施例1及び2で得られたゴーヤー発酵粉末の80%エタノール抽出物を50%ジメチルスルホキシド(DMSO)にそれぞれ濃度が20mg/mLになるように溶解し、試験に供した。各サンプル15μLとACE50μLを混合後、37℃で5分間プレインキュベートし、その後塩化ナトリウムを含むホウ酸緩衝液に溶解した基質(Hippuryl-L-histidyl-L-leucine)125μLを添加して37℃、30分間反応させた。反応後、10%TFAを20μL加え反応を停止させた。反応停止後、HPLCにより生成した各馬尿酸量(Hippuric-acid)を測定し、コントロールとして水を用いたACE活性100%とした。その割合を算出し、100からそれぞれ引いた数値を、ACE阻害活性(%)として図2に示す。
【0036】
図2から明らかなとおり、ゴーヤーの発酵処理物は、発酵前に比べて、ACE阻害活性(%)が顕著に高いことが分かり、発酵前のものに比して、約40%高いことを示している。
【0037】
[比較例1]
実施例1において、アスペルギルス・オリゼ(IFO4079)に代えてストレプトコッカス・フェカリス(Streptococcus faecalis)(IFO3128)、ラクトバチルス・プランタリム(Lactobacillus plantarum)(IFO14713)及びラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)(IFO15883)の混合菌を合計して菌数10/ml用いた以外は、実施例1と同様に実施し、発酵粉末31gを得た。
【0038】
[抗酸化活性における比較試験]
比較例1で得られたゴーヤーの乳酸発酵処理粉末を前記のDPPH法による抗酸化活性測定試験と同様に測定を行った。その結果を、コントロール、本発明の実施例1(6082)、実施例2(4079)で得られた麹発酵粉末とともに図3に示す。
【0039】
図3から明らかなとおり、ゴーヤーの乳酸菌発酵より本発明の麹菌発酵により得られたものの方が熱水抽出物において活性の増加が確認できた。
【0040】
[ACE阻害活性における比較試験]
比較例1で得られたゴーヤーの乳酸発酵処理粉末を前記ACE阻害活性の測定試験と同様に測定を行った。その結果を、コントロール、本発明の実施例1(6082)、実施例2(4079)で得られた麹発酵処理粉末とともに図4に示す。
【0041】
図4から明らかなとおり、ゴーヤーの乳酸菌発酵より麹菌発酵により得られたものの方がエタノール抽出物においてACE阻害活性の増加が確認できた。
【0042】
[官能試験]
麹菌によるゴーヤーの発酵処理物について、官能試験を行った。実施例1(4079)で得られた発酵粉末及び発酵前のゴーヤー粉末、実施例2(6082)で得られた発酵粉末及び発酵前のゴーヤー粉末の各5gを取り、500mlの熱水で5分間、煮出ししてお茶を作成した。これらのお茶を10人のパネラーが試飲した。10人のうち美味しいと答えた人の人数を表2に示す。
【0043】
【表2】

【0044】
表2に示すとおり、麹菌によるゴーヤーの発酵後に嗜好性の改善が確認できた。特に、実施例1のアスペルギルス・オリゼ(IFO4079)を用いたゴーヤーの発酵処理物を含有するお茶を飲んだパネラーの10人すべてが美味しいと答えており、発酵前のものは0人であり、ゴーヤーの麹菌による発酵が、苦味を減じ、むしろ美味しさに効果的に関わっていることが分かった。また、実施例2のアスペルギルス・アワモリ(IFO6082)を用いたものでも、発酵後のゴーヤー茶では、8人が美味しいと答えており、実施例1とほぼ同様に飲料として利用可能なことを示している。
【実施例3】
【0045】
実施例1で得られた麹菌によるゴーヤー発酵粉末2gをティーバッグに収納し、インスタント用のティーバッグを得た。該ティーバッグを熱湯200cc中に入れて3〜5分、熱湯に抽出し、飲用に供する。
【実施例4】
【0046】
適宜の配合比の鰹節、白ゴマ及び刻海苔からなるふりかけ原料100gに、実施例2で得られた麹菌によるゴーヤー発酵粉末10gを混合し、砂糖、醤油、食塩、鰹節エキスで調味し、ふりかけ粉を得た。ご飯に振り掛けたり、ネギのみじん切りとともに入れてインスタントスープとすることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴーヤー又はゴーヤーの前処理物の麹菌による発酵処理により得られる、以下の(a)及び(b)の物性を備えたゴーヤー麹組成物。
(a)80℃の熱水抽出物が、麹菌による発酵処理により増強された抗酸化活性を有する;
(b)80%エタノール抽出物が、麹菌による発酵処理により増強されたACE阻害活性を有する;
【請求項2】
麹菌が、アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)又はアスペルギルス・アワモリ(Aspergillus awamori)であることを特徴とする請求項1記載のゴーヤー麹組成物。
【請求項3】
麹菌が、アスペルギルス・オリゼ(IFO4079)又はアスペルギルス・アワモリ(IFO6082)であることを特徴とする請求項2記載のゴーヤー麹組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか記載のゴーヤー麹組成物を、抗酸化剤又はACE阻害剤の調製のために使用する方法。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか記載のゴーヤー麹組成物を有効成分とする抗酸化剤。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれか記載のゴーヤー麹組成物を有効成分とするACE阻害剤。
【請求項7】
ゴーヤーの乾燥・粉砕物に炭素源を添加し、加水処理して、麹菌を使用して発酵させ、抗酸化活性及びACE阻害活性を増加させる発酵工程と、発酵後の処理物を乾燥させる乾燥工程とを含むことを特徴とするゴーヤー麹組成物の製造方法。
【請求項8】
炭素源が、糖蜜であることを特徴とする請求項7記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−236771(P2012−236771A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−213770(P2009−213770)
【出願日】平成21年9月15日(2009.9.15)
【出願人】(397031784)株式会社琉球バイオリソース開発 (21)
【出願人】(592250296)有限会社水耕八重岳 (2)
【Fターム(参考)】