説明

サイクリン依存性キナーゼモデュレーションのバイオマーカー

1またはそれ以上のcdkモデュレート剤による処置に対する細胞の応答と相関関係のある発現パターンを有するバイオマーカー、およびその使用。cdk活性をモデュレートする薬剤を投与することを含む癌の治療方法に対して哺乳動物が治療的に応答するか否かを試験または予測する方法もまた提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般にファーマコゲノミクスの分野に関し、さらに詳細には、その発現パターンが1またはそれ以上のcdkモデュレート剤(modulating agents)で処理した細胞の応答と相関関係を有する薬力学的バイオマーカーに関する。
【背景技術】
【0002】
制御不能の増殖が癌細胞の顕著な特徴である。過去20年間の間に、細胞周期の進行を直接制御する分子が腫瘍形成の際の欠陥を蓄積させることがますます明らかになってきた。これら欠陥は、チェックポイント制御の喪失および/または細胞周期進行の駆動体であるサイクリン依存性キナーゼ(「cdk」または「CDK」と称する)の不適切な活性化という結果となりうる。cdk機能の誤制御は主要な固形腫瘍タイプ(乳癌、結腸癌、卵巣癌、前立腺癌、およびNSCL癌腫を含む)では高頻度で起こる。それゆえ、cdkおよび細胞周期進行のインヒビターは、大きな治療的用途を満たす可能性を有する。
【0003】
cdkは、細胞周期および細胞増殖の背後の駆動力であるセリン/トレオニンプロテインキナーゼである。cdkは、少なくとも触媒サブユニットと調節(サイクリン)サブユニットとからなるマルチサブユニット酵素である。Morgan, D. O., Nature 1995; 374:131-134。今日、9つのcdk(cdk1〜cdk9)と11のサイクリンサブユニットが同定されており、これらは13以上の活性なキナーゼ複合体を形成することができる。Gould, K. L. (1994)、Protein Kinases (Woodgett, J. R.編)中, pp. 149-166, オックスフォードユニバーシティープレス、オックスフォード。正常な細胞では、これら酵素の多くは、細胞周期進行において別個の役割を果たしているG1、S、またはG2/M相の酵素として分類することができる。van den Heuvel, S.およびHarlow, E., Science 1993; 262: 2050-2054。cdkは、腫瘍サプレッサー(たとえば、RB、p53)、転写因子(たとえば、E2F-DP1、RNA pol II)、複製因子(たとえば、DNA pol α、複製タンパク質A)、および細胞やクロマチンの構造に影響を及ぼす組織化因子(organizational factors)を含む様々な細胞タンパク質をリン酸化し、その活性をモデュレートしている。Nigg, E. A., Trends in Cell Biology 1993; 3:296-301; Rickert, P.ら、Oncogene 1996; 12:2631-2640; Dynlacht, B. D.ら、Mol. Cell. Biol. 1997; 17:3867-3875; Ookata, K.ら、Biochemistry 1997; 36:15873-15883。
【0004】
cdk活性は様々な整合された(co-ordinated)機構によって制御されており、かかる機構には細胞周期依存性の転写および翻訳、細胞周期依存性のタンパク質加水分解、細胞レベル下の局在、翻訳後修飾、およびcdkインヒビタータンパク質(「CKI」と称する)との相互作用が含まれる。Pines, J.およびHunter, T., Cell 1989; 58:833-846; King, R. W.ら、Science 1996; 274:1652-1659; Li, J.ら、Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 1997; 94:502-507; Draetta, G.およびBeach, D., Cell 1988; 54:17-26; Harper, J. W., Cancer Surv. 1997; 29:91-107。細胞周期チェックポイントが構築されるのはこれら機構を通じてである。このチェックポイントの調節がcdk機能の制御により行われるとの理解は、cdkおよびその制御経路を化学療法剤の開発のためのやむにやまれぬ標的とした。p27/cdk2/サイクリンE/RBチェックポイント経路が、明らかに腫瘍形成に関与している。
【0005】
多数の報告は、cdk2のコアクチベーターであるサイクリンEおよびインヒビターであるp27の両者が固形腫瘍で過剰発現されるかまたは過小発現されることを示している。Porter, P. L.ら、Nat. Med. 1997; 3:222-225; Kitahara, K.ら、Int. J. Cancer 1995; 62:25-28; Wang, A.ら、J. Cancer Res. Clin. Oncol. 1996; 122:122-126; Keyomarsi, K.ら、Cancer Res. 1994; 54:380-385; Courjal, F.ら、Int. J. Cancer 1996; 69:247-253; Akama, Y.ら、Jpn. J. Cancer Res. 1995; 86:617-621; Tan, P.ら、Cancer Res. 1997; 57:1259-1263; Catzavelos, C.ら、Nat. Med. 1997; 3:227-230; Fredersdorf, S.ら、Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 1997; 94:6380-6385。これらの変化した発現は、増大したcdk2活性レベルおよび悪い予後と相関関係を有することが示されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
抗癌剤の初期の臨床開発においては、臨床試験は典型的に、安全性、許容性(tolerability)、および薬物動力学を評価すべく、並びに適当な投与量やさらなる臨床評価のためのスケジュールを同定すべくデザインされている。初期の臨床試験において、とりわけ最大の許容できる投与量まで服用することが適切でない場合に、新規な薬剤の薬理効果をも評価することの必要性がますます高まっている。その結果、腫瘍標的の薬理学的モデュレーションと相関関係を有する薬力学的(PD)バイオマーカーを同定することに相当の関心が存在している。これらPDバイオマーカーは、腫瘍特異的であってよいが、理想的には皮膚や末梢血細胞などの利用可能な代理組織で発現されるべきである。これらPDバイオマーカーの同定は、目的因子によってターゲティングされる分子に関連する既知の生物学によって予想されるように、特定のポリペプチドまたはmRNAにおける変化を分析することにより行うことができる。あるいは、PDバイオマーカーは、該因子の有効投与量に暴露した細胞または組織でのポリペプチドまたはmRNAにおける全体的な変化を分析することにより同定することができる。これらPDバイオマーカーは、同定されたら、患者の適当なレベルの因子が達成されたときの腫瘍標的の所望の薬理学的モデュレーション(たとえば、抑制)を示すのに用いることができる。
【0007】
その発現パターンが、1またはそれ以上のcdkモデュレート剤による処理に対する細胞の応答と相関関係を有するバイオマーカーを同定することに対する必要性がなお存在する。
【0008】
mRNA発現パターンの大スケールの特徴付けのためのマイクロアレイ技術の開発は、その発現が医薬処理によりモデュレートされる分子バイオマーカーの体系的な探索を可能にした。そのような技術および分子ツールは、細胞集団内でのあらゆる時点の多数の転写物の発現レベルのモニターを可能にした(たとえば、Schenaら、1995, Science, 270:467-470; Lockhartら、1996, Nature Biotechnology, 14:1675-1680; Blanchardら、1996, Nature Biotechnology, 14:1649; 米国特許第5,569,588号を参照)。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、サイクリン依存性キナーゼ(cdk)活性をモデュレートする1またはそれ以上の薬剤に対する患者の感受性を決定するための方法および手順を提供する。本発明はまた、癌などの疾患状態または障害の治療を必要とする個体が、処置の投与に先立って該処置に応答するか否かを決定または予期する方法であって、該処置がcdk活性をモデュレートする1またはそれ以上の薬剤からなるものである方法をも提供する。該cdk活性をモデュレートする1またはそれ以上の薬剤は、小分子または生物学的分子であってよい。一つの側面において、該薬剤は、サイクリン依存性キナーゼ2(cdk2)/サイクリンEを抑制する小分子である。
【0010】
本発明はまた、cdk活性をモデュレートする薬剤を投与することを含む癌の治療方法に対して哺乳動物が治療的に応答するか否かを試験または予測する方法をも提供し、該方法は、(a)表1に示すバイオマーカーから選択した少なくとも1のバイオマーカーのレベルを哺乳動物で測定し、(b)該哺乳動物を、cdk活性をモデュレートする薬剤に暴露し、(c)工程(b)の暴露後、該少なくとも1のバイオマーカーのレベルを該哺乳動物で測定することを含み、その際、工程(a)で測定した該少なくとも1のバイオマーカーのレベルと比較した工程(c)で測定した該少なくとも1のバイオマーカーのレベルの差異が、該哺乳動物が癌の該治療方法に治療的に応答するであろうことを示す。
【0011】
本発明はまた、cdk活性をモデュレートする薬剤に対して哺乳動物が応答するか否かを決定する方法であって、(a)該哺乳動物を該薬剤に暴露し、ついで(b)工程(a)の暴露後、表1に示すバイオマーカーから選択した少なくとも1のバイオマーカーのレベルを該哺乳動物で測定することを含み、その際、該薬剤に暴露されていない哺乳動物における該少なくとも1のバイオマーカーのレベルと比較した工程(b)で測定した該少なくとも1のバイオマーカーのレベルの差異が、該哺乳動物がcdk活性をモデュレートする該薬剤に応答することを示すものである方法をも提供する。
【0012】
本明細書において応答とは、たとえば、哺乳動物における生物学的応答(たとえば、細胞の応答)または臨床的応答(たとえば、改善された症状、治療効果、または副作用)を含む。
【0013】
本発明はまた、cdk活性をモデュレートする薬剤に対して哺乳動物が応答するか否かを決定する方法であって、(a)哺乳動物から生物学的試料を得、(b)該生物学的試料で表1に示すバイオマーカーから選択した少なくとも1のバイオマーカーのレベルを測定し、(c)少なくとも1のバイオマーカーの該レベルをベースラインレベルと相関させ、ついで(d)該相関に基づいて該哺乳動物がcdk活性をモデュレートする薬剤に応答するか否かを決定することを含む方法をも提供する。
【0014】
本明細書において、相関のために使用するベースラインレベルは、当業者により決定することができる。一つの側面において、ベースラインレベルは、表1に示すバイオマーカーから選択した少なくとも1のバイオマーカーの該薬剤に暴露されていない哺乳動物におけるレベルである。他の側面において、ベースラインレベルは、表1に示すバイオマーカーから選択した少なくとも1のバイオマーカーの、cdkモデュレート剤でこれから処置するが未だ該薬剤に暴露されていない哺乳動物におけるレベルである。さらに他の側面において、ベースラインは、表1に示すバイオマーカーから選択した少なくとも1のバイオマーカーのcdkモデュレート剤で処置した哺乳動物におけるレベルであり、その際、ベースラインは、cdkモデュレート剤による処置の所定の時点で選択される。この時点は、たとえば、処置の開始前に設定した基準(たとえば、生物学的応答または臨床的応答)の測定のための確立した期間であってよい。
【0015】
哺乳動物からの少なくとも1のバイオマーカーのレベルとベースラインレベルとの統計的に有意の差異は、本発明の方法に用いることができる。哺乳動物からの少なくとも1のバイオマーカーのレベルとベースラインレベルとの統計的に有意の差異は当業者によって容易に決定することができ、たとえば、少なくとも1のバイオマーカーのレベルにおける少なくとも2倍の差異、少なくとも3倍の差異、または少なくとも4倍の差異であってよい。
【0016】
本発明はまた、cdk活性をモデュレートする薬剤を投与することを含む癌の治療方法に対して治療的に応答する哺乳動物を同定する方法をも提供し、該方法は、(a)表1に示すバイオマーカーから選択した少なくとも1のバイオマーカーのレベルを哺乳動物で測定し、(b)該哺乳動物からの生物学的試料を該薬剤に暴露し、(c)工程(b)の暴露後、該少なくとも1のバイオマーカーのレベルを該生物学的試料で測定することを含み、その際、工程(a)で測定した該少なくとも1のバイオマーカーのレベルと比較した工程(c)で測定した該少なくとも1のバイオマーカーのレベルの差異が、該哺乳動物が癌の該治療方法に治療的に応答するであろうことを示す。
【0017】
本明細書において治療的応答とは、癌の緩和(alleviation)または廃棄(abrogation)をいう。これは、癌を罹患した個人の平均余命が長くなること、または癌の徴候の1またはそれ以上が低減または改善することを意味する。この語は、癌様の細胞増殖または腫瘍容積の低減を包含する。哺乳動物が治療的に応答するか否かは、PET造影法などの当該技術分野でよく知られた多くの方法により測定することができる。
【0018】
本発明はまた、cdk活性をモデュレートする薬剤を投与することを含む癌の治療方法に対して治療的に応答する哺乳動物を同定する方法をも提供し、該方法は、(a)該哺乳動物からの生物学的試料をcdk活性をモデュレートする該薬剤に暴露し、(b)工程(a)の暴露後、表1に示すバイオマーカーから選択した少なくとも1のバイオマーカーのレベルを該生物学的試料で測定することを含み、その際、cdk活性をモデュレートする該薬剤に暴露していない哺乳動物における該少なくとも1のバイオマーカーのレベルと比較した工程(b)で測定した該少なくとも1のバイオマーカーのレベルの差異が、該哺乳動物が癌の該治療方法に治療的に応答するであろうことを示す。
【0019】
本発明はまた、ある薬剤が哺乳動物においてcdk活性をモデュレートするか否かを決定する方法であって、(a)該哺乳動物を該薬剤に暴露し、ついで(b)工程(a)の暴露後、表1に示すバイオマーカーから選択した少なくとも1のバイオマーカーのレベルを該哺乳動物で測定することを含み、その際、該薬剤に暴露していない哺乳動物における該バイオマーカーのレベルと比較した工程(b)で測定した該バイオマーカーのレベルの差異が、該薬剤が哺乳動物においてcdk活性をモデュレートすることを示すものである方法をも提供する。
【0020】
本発明はまた、哺乳動物がcdk活性をモデュレートする薬剤に暴露されたか否かを決定する方法であって、(a)該哺乳動物からの生物学的試料を該薬剤に暴露し、ついで(b)工程(a)の暴露後、表1に示すバイオマーカーから選択した少なくとも1のバイオマーカーのレベルを該生物学的試料で測定することを含み、その際、該薬剤に暴露していない哺乳動物における該バイオマーカーのレベルと比較した工程(b)で測定した該バイオマーカーのレベルの差異が、該哺乳動物がcdk活性をモデュレートする薬剤に暴露されたことを示すものである方法をも提供する。
【0021】
哺乳動物は、たとえば、ヒト、ラット、マウス、イヌ、ウサギ、ブタ、ヒツジ、ウシ、ウマ、ネコ、霊長類、またはサルであってよい。
【0022】
本発明の方法は、インビボまたはインビトロの方法であってよい。一つの側面において、少なくとも1のバイオマーカーのレベルを哺乳動物で測定する工程はインビトロであり、該哺乳動物から生物学的試料を採取し、ついで該生物学的試料中の該少なくとも1のバイオマーカーのレベルを測定することを含む。生物学的試料としては、たとえば、新鮮な全血、末梢血単核細胞、凍結した全血、新鮮な血漿、凍結した血漿、尿、唾液、皮膚、毛包、骨髄、または腫瘍組織の少なくとも1つが挙げられる。
【0023】
本発明の一つの側面において、本発明の方法は、バイオマーカーW28729(配列番号1246)の使用を含む。
【0024】
該少なくとも1のバイオマーカーのレベルは、たとえば、該少なくとも1のバイオマーカーのタンパク質および/またはmRNA転写物のレベルであってよい。
【0025】
本発明はまた、表1に示すバイオマーカーから選択される単離されたバイオマーカーをも提供する。本発明のバイオマーカーは、表1および配列表にて提供されるヌクレオチド配列およびアミノ酸配列から選択される配列、並びにその断片および変異体を含む。
【0026】
本発明はまた、疾患処置の治療の開発のための標的として機能しうる1またはそれ以上のバイオマーカーをも提供する。そのような標的は、癌または腫瘍の治療に特に応用できるものである。
【0027】
本発明はまた、表1に示すバイオマーカーから選択される2またはそれ以上のバイオマーカーを含むバイオマーカーセットをも提供する。
【0028】
本発明はまた、cdk活性をモデュレートする1またはそれ以上の薬剤を含む治療に対して患者が感受性であるかまたは耐性であるかを決定または予測するためのキットをも提供する。一つの側面において、患者は、癌を罹患していてよい。
【0029】
一つの側面において、本発明のキットは、本発明の1またはそれ以上の特別のマイクロアレイを入れた適当な容器、患者の組織生検または患者の試料からの細胞を試験するのに用いるcdk活性をモデュレートする1またはそれ以上の薬剤、および使用の指示書を含む。キットはさらに、バイオマーカーセットの発現をmRNAまたはタンパク質レベルでモニターするための試薬または材料を含んでいてよい。
【0030】
本発明はまた、表1に示すバイオマーカーから選択される2またはそれ以上のバイオマーカーを含むキットをも提供する。
【0031】
本発明はまた、表1に示すバイオマーカーから選択される少なくとも1のバイオマーカーの存在を検出するための抗体および核酸の少なくとも一つを含むキットをも提供する。一つの側面において、該キットはさらに、cdk活性をモデュレートする薬剤の投与を含む癌の治療法に対して哺乳動物が治療的に応答するか否かを決定するための指示を含む。他の側面において、該指示は、(a)表1に示すバイオマーカーから選択される少なくとも1のバイオマーカーのレベルを該哺乳動物において測定し、(b)該哺乳動物を該薬剤に暴露し、(c)工程(b)の暴露後、該少なくとも1のバイオマーカーのレベルを該哺乳動物において測定する工程を含み、その際、工程(a)で測定した該少なくとも1のバイオマーカーのレベルと比較した工程(c)で測定した該少なくとも1のバイオマーカーのレベルの差異が、該哺乳動物が癌の該治療法に治療的に応答するであろうことを示すものである。
【0032】
本発明はまた、cdk活性をモデュレートする1またはそれ以上の薬剤による治療に対して患者が感受性または耐性であるか否かを決定するためのスクリーニングアッセイをも提供する。
【0033】
本発明はまた、疾患を罹患した患者の治療をモニターする方法であって、該疾患がcdk活性をモデュレートする1またはそれ以上の薬剤を投与することを含む方法により治療されるものである方法をも提供する。
【0034】
本発明はまた、分子レベルでの患者の応答に基づいて疾患および障害を治療するのに必要な個性化された遺伝子プロファイルをも提供する。
【0035】
本発明はまた、cdk活性をモデュレートする1またはそれ以上の薬剤に対する感受性かまたは耐性のいずれかと相関関係のある発現プロファイルを有する1またはそれ以上のバイオマーカーを含む、特別なマイクロアレイ、たとえば、オリゴヌクレオチドマイクロアレイまたはcDNAマイクロアレイをも提供する。
【0036】
本発明はまた、本発明の1またはそれ以上のバイオマーカーに対して向けられたポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体を含む抗体をも提供する。そのような抗体は、様々な仕方で用いることができ、たとえば、インビトロおよびインビボの両者の診断法、検出法、スクリーニング法、および/または治療法を含む、本発明のバイオマーカーポリペプチドを精製、検出、およびターゲティングするのに用いることができる。
【0037】
本発明はまた、その発現がcdkモデュレーションと相関関係を有するバイオマーカーを同定するための細胞培養モデルをも提供する。
【0038】
本発明は、添付の図面と関連して考察しながら発明の詳細な説明を読むとより理解されるであろう。
【0039】
本明細書において、「cdk活性をモデュレートする薬剤」なる語は、本明細書において「cdkモデュレート剤」とも称するが、cdk活性に、および/またはcdkが関与する1またはそれ以上の経路に直接または間接に関与する生物学的分子または小分子である物質、およびその調合物を意味する。cdkモデュレート剤は、cdkアンタゴニストまたはインヒビターであってよい。cdkモデュレート剤はまた、cdkアゴニストまたはアクチベーターであってもよい。
【0040】
一つの側面において、cdkモデュレート剤は、cdk2活性に、および/またはcdk2が関与する1またはそれ以上の経路に直接または間接に関与する。他の側面において、cdkモデュレート剤は、cdk1活性に、および/またはcdk1が関与する1またはそれ以上の経路に直接または間接に関与する。さらに他の側面において、cdkモデュレート剤は、cdk4活性に、および/またはcdk4が関与する1またはそれ以上の経路に直接または間接に関与する。
【0041】
生物学的分子としては、全ての脂質および単糖のポリマー、アミノ酸、および分子量が450を超えるヌクレオチドが挙げられる。それゆえ、生物学的分子としては、たとえば、オリゴ糖および多糖;オリゴペプチド、ポリペプチド、ペプチド、およびタンパク質;およびオリゴヌクレオチドおよびポリヌクレオチドが挙げられる。オリゴヌクレオチドおよびポリヌクレオチドとしては、たとえば、DNAおよびRNAが挙げられる。生物学的分子はさらに、上記分子のいずれかの誘導体を含む。たとえば、生物学的分子の誘導体としては、オリゴペプチド、ポリペプチド、ペプチド、およびタンパク質の脂質およびグリコシル化誘導体が挙げられる。
【0042】
上記で検討した生物学的分子に加えて、cdkモデュレート剤はまた小分子であってもよい。生物学的分子でないあらゆる分子は、本明細書では小分子として扱われる。小分子の幾つかの例としては、有機化合物、有機金属化合物、有機化合物および有機金属化合物の塩、糖、アミノ酸、およびヌクレオチドが挙げられる。小分子としては、さらに、分子量が450を超えないこと以外は生物学的分子と考えられる分子が挙げられる。それゆえ、小分子は、分子量が450またはそれ以下の脂質、オリゴ糖、オリゴペプチド、およびオリゴヌクレオチドおよびその誘導体であってよい。
【0043】
小分子はいかなる分子量であってもよいことが強調される。小分子は、それが典型的に450未満の分子量を有するゆえに小分子と呼ばれるにすぎない。小分子は天然に見出される化合物並びに合成化合物を含む。一つの態様において、cdkモデュレート剤は、cdkまたはcdkが関与する経路を抑制する小分子である。
【0044】
たとえば、フラボピリドール(flavopiridol)(Aventis Pharmaceuticals Inc.、ブリッジウォーター、ニュージャージー、米国)およびCYC202(Cyclacel Limited、ダンディー、英国)を含む多数の小分子がcdkを抑制するのに有用であると記載されている。cdkインヒビターはまた、たとえば、米国特許6,040,321号、同第6,214,852号、同第6,262,096号、同第6,515,004号、および同第6,521,759号に開示された小分子を含む。
【0045】
一つの側面において、cdkモデュレート剤は小分子のcdkインヒビターである。他の側面において、cdkモデュレート剤は小分子のcdk2インヒビターである。他の側面において、cdkモデュレート剤は小分子のcdk1インヒビターである。さらに他の側面において、cdkモデュレート剤は小分子のcdk4インヒビターである。さらなる側面において、cdkモデュレート剤は、N−5−[[5−(1,1−ジメチルエチル)−2−オキサゾリル]メチル]チオ]−2−チアゾリル−4−ピペリジンカルボキサミド,0.5−L−酒石酸塩である。
【0046】
本発明は、cdkモデュレート剤による処置に対する患者の応答をモニターする方法を提供する。これら方法は、(i)cdkモデュレート剤による処置の経過にわたって患者の応答を追跡するうえで;(ii)処置のために選択した特定のcdkモデュレート剤が患者に適しているか否かを決定するうえで;(iii)投与したcdkモデュレート剤の投与量が患者に適しているか否かを決定するうえで;(iv)投与したcdkモデュレート剤のタイプおよび/または量を処置期間にわたって変える必要があるか否かを決定するうえで;(v)いつ処置が完了したかを決定するうえで;および(vi)終了した処置を再開する必要があるか否かを決定するうえで有用である。これら方法はまた、患者がcdkモデュレート剤により処置から利益を得るか否かを同定するのにも有用である。
【0047】
一つの側面において、本発明は、cdkモデュレート剤を含む処置を受けた患者が該患者の腫瘍においてcdkを抑制するのに充分な処置を受けたか否かを決定する方法を提供する。本発明によれば、腫瘍生検または代理生検をcdkモデュレート剤で処置する前および処置後に患者から得る。代理生検は、たとえば、皮膚または末梢血であってよい。ついで、細胞をアッセイしてcdkモデュレート剤による処置後に本発明の1またはそれ以上のバイオマーカーの発現パターンの変化を決定して、cdk抑制が該処置によって達成されたか否かを決定する。処置の成功または失敗は、被験組織、たとえば、腫瘍生検または癌生検からの被験細胞の発現パターンが、1またはそれ以上のバイオマーカーの発現パターンと相対的に同じかまたは異なるかに基づいて決定することができる。もしも被験細胞がバイオマーカーまたはバイオマーカーのセットの発現プロファイルに対応する発現プロファイルを示すなら、その個人の癌または腫瘍が、一つの側面ではcdkを抑制するのに充分な濃度のモデュレート剤に暴露されたことが予測される。対照的に、もしも被験細胞がバイオマーカーまたはバイオマーカーのセットに対応しない遺伝子発現プロファイルを示すなら、モデュレート剤の暴露がcdkを抑制するのに充分でなかったことが予測される。
【0048】
他の側面において、本発明は、処置後の患者の組織試料、たとえば、腫瘍生検または癌生検からの細胞の発現プロファイルをバイオマーカーまたはバイオマーカーのセットと比較することによる、cdkモデュレート剤で治療しうる疾患を罹患した患者の処置をモニターする方法を提供する。患者から単離した細胞は、アッセイしてその発現パターンを決定し、異なるcdkモデュレート剤などの異なる処置を正当化すべく、あるいは現在の処置を中断すべく、発現プロファイルの変化が生じたか否かを決定する。cdkモデュレート剤で処置後に得られた細胞の発現プロファイルをバイオマーカーまたはバイオマーカーのセットの発現プロファイルと比較する。
【0049】
そのようなモニタリングプロセスは、患者の試料から単離した細胞の発現パターンが、バイオマーカーまたはバイオマーカーのセットの発現パターンと相対的に同じかまたは異なるかに基づいてcdkモデュレート剤による患者の処置の成功または失敗を示すことができる。それゆえ、もしもcdkモデュレート剤で処理した後に被験細胞がバイオマーカーまたはバイオマーカーのセットからの発現プロファイルにおいて変化を示すなら、それは、現在の処置を改変、変更、あるいは中断さえもすべきとの指標として役立つ。そのようなモニタリングプロセスは、必要により、または所望により、繰り返すことができる。所定の処置に対する患者の応答のモニタリングは、cdkモデュレート剤により処置の前と処置後よりも、むしろcdkモデュレート剤により処置の後にのみ上記アッセイにおける患者の細胞を試験することを包含していてよい。
【0050】
本発明は、cdkモデュレーションの特異的な薬力学的バイオマーカーの同定に基づく。本発明に従い、cdkモデュレート剤に対する感受性を決定した処理細胞株のパネルにおいて、オリゴヌクレオチドマイクロアレイを用いて多数の遺伝子の発現レベルを測定した。処理細胞における遺伝子発現プロファイルの決定は、その発現レベルがcdkのモデュレーションまたはcdkが関与する経路のモデュレーションと高度の相関関係を有するバイオマーカーの同定を可能とした。それゆえ、これらバイオマーカーは患者においてcdkモデュレーションのレベルを推測するのに有用である。
【0051】
本発明のバイオマーカーは、ポリヌクレオチドを含み、これには完全長遺伝子、オープンリーディングフレーム(ORF)、および発現配列タグ(EST)や構造RNAなどの部分配列が含まれる。一つの側面において、本発明は、たとえば配列番号1264のヌクレオチド配列を含む単離したポリヌクレオチドなどの表1に示すヌクレオチド配列から選択したヌクレオチド配列を含む単離したポリヌクレオチドに関する。バイオマーカーはさらに、これらポリヌクレオチドによってコードされるアミノ酸配列を含むポリペプチドを含む。本発明のバイオマーカーは、以下に表1で提供されるものを含む。一つの側面において、これらポリヌクレオチドおよびポリペプチドは単離された形態にある。
【0052】
表1
【表1】

【表2】

【表3】

【表4】

【表5】

【表6】

【表7】

【表8】

【表9】

【表10】

【表11】

【表12】

【表13】

【表14】

【表15】

【表16】

【表17】

【表18】

【表19】

【表20】

【表21】

【表22】

【表23】

【表24】

【表25】

【表26】

【表27】

【表28】

【表29】

【表30】

【表31】

【表32】

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【表35】

【表36】

【表37】

【表38】

【表39】

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【表41】

【表42】

【表43】

【表44】

【表45】

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【表49】

【表50】

【表51】

【表52】

【表53】

【表54】

【表55】

【表56】

【表57】

【表58】

【表59】

【表60】

【表61】

【表62】

【表63】

【表64】

【表65】

【表66】

【表67】

【表68】

【表69】

【表70】

【表71】

【表72】

【表73】

【表74】

【表75】

【表76】

【表77】

【表78】

【表79】

【表80】

【表81】

【表82】

【表83】

【表84】

【表85】

【表86】

【表87】

【表88】

【表89】

【表90】

【表91】

【表92】

【表93】

【表94】

【表95】

【表96】

【表97】

【表98】

【表99】

【表100】

【表101】

【表102】

【表103】

【表104】

【表105】

【表106】

【表107】

【表108】

【表109】

【表110】

【表111】

【0053】
表1で提供されるバイオマーカーのアナログもまた本発明の範囲に包含される。アナログは、天然に存在するバイオマーカーとはヌクレオチド配列またはアミノ酸配列または配列が関与しない仕方において、またはその両者において異なっていてよい。非配列的な修飾は、インビボまたはインビトロでの化学的誘導体化を含む。非配列的な修飾はまた、アセチル化、メチル化、リン酸化、カルボキシル化、またはグリコシル化における変化をも含む。
【0054】
表1で提供するバイオマーカーの好ましいアナログ(または生物学的に活性なその断片)は、その配列が野生型の配列とは1またはそれ以上の保存的アミノ酸置換により異なる、または生物学的活性を損なわない1またはそれ以上の非保存的なアミノ酸置換、欠失、または挿入により異なるものを包含する。保存的な置換は、典型的に、1のアミノ酸を同様の特性を有する他のアミノ酸で置換すること、たとえば、以下の群内での置換を含む:バリン、グリシン;グリシン、アラニン;バリン、イソロイシン、ロイシン;アスパラギン酸、グルタミン酸;アスパラギン、グルタミン;セリン、トレオニン;リシン、アルギニン;およびフェニルアラニン、チロシン。
【0055】
本発明のバイオマーカーは、標準生化学的アッセイ法を用いて生物学的試料中で検出および定量できる生物学的分子であって、生物学的試料中の該バイオマーカーの存在および/または量が、(i)適当な処理を選択するのに用いることができるか、または(ii)cdkモデュレート剤による処理の有効性および進行をモニターするのに用いることができるものであればいかなる生物学的分子をも包含する。
【0056】
一つの側面において、本発明は、配列番号1246で提供され、ジーンバンクアクセッション番号W28729を付与されたバイオマーカーを含む。このバイオマーカーは、cdkモデュレート剤で処理したときに細胞におけるcdkの抑制と相関関係を有する発現パターンを有することが見出された。配列番号1246のバイオマーカーは、cdk抑制に応答して最も一貫しかつ強壮な制御を示すことが見出された。
【0057】
本発明はまた、1またはそれ以上のバイオマーカーを含む、特別のマイクロアレイ、たとえば、オリゴヌクレオチドマイクロアレイまたはcDNAマイクロアレイをも包含する。
【0058】
本発明はまた、以下のものを入れた適当な容器を含むキットをも包含する:1またはそれ以上のバイオマーカーを含む1またはそれ以上のマイクロアレイ;患者の組織生検または患者の試料からの細胞を試験するのに使用する1またはそれ以上のcdkモデュレート剤;および使用の指示書。さらに、本発明によって包含されるキットは、本明細書においてさらに記載するように、当該技術分野で実施されている他の技術および系、たとえば、RT−PCRアッセイ(本明細書に記載する1またはそれ以上のバイオマーカーに基づいてデザインしたプライマーを使用する)、酵素結合抗体免疫吸着アッセイ(ELISA)などのイムノアッセイ、イムノブロッティング、たとえば、ウエスタンブロッティング、またはインシトゥハイブリダイゼーションなどを用い、たとえば、本発明のバイオマーカーの発現をmRNAまたはタンパク質のレベルでモニターするための試薬または材料をさらに含んでいてよい。
【0059】
本発明はまた、1またはそれ以上のバイオマーカーポリペプチドに対して向けられたポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体を含む抗体をも包含する。そのような抗体は様々な仕方で用いることができ、たとえばインビトロおよびインビボ両者での診断法、検出法、スクリーニング法、および/または治療法を含めて、本発明のバイオマーカーポリペプチドを精製、検出、およびターゲティングするのに用いることができる。
【0060】
本発明の方法のいずれかを実施するに際して、単一のバイオマーカーかまたは2またはそれ以上のバイオマーカーのセットのいずれかのレベルをアッセイすることができる。1を超えるバイオマーカーのアッセイは、cdk抑制の程度などのcdkモデュレート剤による処置に対する患者の応答をモニタリングすることの正確さを増大させることができる。複数のバイオマーカーの測定は、同じ患者から採取した同じ生物学的試料かまたは異なる生物学的試料のいずれかで異なるバイオマーカーをアッセイすることにより行うことができる。
【0061】
一つの側面において、本発明は、cdkモデュレート剤の投与による処置に対する、疾患について処置した患者の応答をモニターする方法であって、(a)該剤で最初に処置する前に患者から採取した第一の生物学的試料中の少なくとも1のバイオマーカーの量を決定し、(b)該剤で最初に処置した後に患者から採取した少なくとも第二の生物学的試料中の該バイオマーカーの量を決定し、ついで(c)該第二の生物学的試料中に存在する該バイオマーカーの量を該第一の生物学的試料中に存在する該バイオマーカーの量と比較することを含み、その際、該第一の生物学的試料中に存在するバイオマーカーの量と比較した場合の該第二の生物学的試料および/またはその後の生物学的試料中のバイオマーカーの量の検出しうる変化が、患者が該剤により処置に対して肯定的に応答していることを示すものである方法を提供する。検出しうる変化は、第二の生物学的試料および/またはその後の生物学的試料中のバイオマーカーの量の低減または増大であってよい。
【0062】
この方法は、患者から少なくとも2の生物学的試料を異なる時点で採取することを必要とする。第一の試料は、典型的にcdkモデュレート剤で最初に処置する前に得る。ついで、cdkモデュレート剤による処置を開始した後に第二の試料を得、ついでその後の試料をも得る。この方法では、バイオマーカーは、(i)バイオマーカーの量が低減しているか否か、(ii)バイオマーカーの量の低減の割合が増大しているか否か、(iii)バイオマーカーの量が増大しているか否か、(iv)バイオマーカーの量の増大の割合が増大しているか否か、または(v)バイオマーカーの量が安定化しているか否か、を決定するためにモニターされ、これらのいずれも患者が特別の状況に応じて該処置に対して肯定的に応答していることを示すものである。
【0063】
本明細書に記載するバイオマーカーは、1またはそれ以上のcdkモデュレート剤による処理後にアップレギュレーションされるかまたはダウンレギュレーションされてよい。
【0064】
バイオマーカーがアップレギュレーションされるバイオマーカーである場合は、バイオマーカーの量がcdkモデュレート剤による処理後に増大するであろうこと、すなわち、第一の生物学的試料(cdkモデュレート剤の投与前)中のバイオマーカーの量と比較して第二の生物学的試料(cdkモデュレート剤の投与後)中のバイオマーカーの量の検出しうる増大があるであろうことが予測される。バイオマーカーがアップレギュレーションされるバイオマーカーであり、かつバイオマーカーのレベルが前もって決定したまたは検出しうる量を増大させない場合、またはバイオマーカーレベルの増大の割合が充分に高くない場合には、処置の投与量または回数を増やすことにより、または投与しているcdkモデュレート剤をさらに有効なcdkモデュレート剤に変えることにより、または処置に使用しているcdkモデュレート剤を1またはそれ以上の他のcdkモデュレート剤または療法と併用することにより、またはこれらを組み合わせることによるなどして、処置を改変することができる。
【0065】
バイオマーカーがダウンレギュレーションされるバイオマーカーである場合は、バイオマーカーの量がcdkモデュレート剤による処理後に低減するであろうこと、すなわち、第一の生物学的試料(cdkモデュレート剤の投与前)中のバイオマーカーの量と比較して第二の生物学的試料(cdkモデュレート剤の投与後)中のバイオマーカーの量の検出しうる低減があるであろうことが予測される。バイオマーカーがダウンレギュレーションされるバイオマーカーであり、かつバイオマーカーのレベルが前もって決定したまたは検出しうる量を低減させない場合、またはバイオマーカーレベルの低減の割合が充分に高くない場合には、処置の投与量または回数を増やすことにより、または投与しているcdkモデュレート剤をさらに有効なcdkモデュレート剤に変えることにより、または処置に使用しているcdkモデュレート剤を1またはそれ以上の他のcdkモデュレート剤または療法と併用することにより、またはこれらを組み合わせることによるなどして、処置を改変することができる。
【0066】
本発明はさらに、cdkモデュレート剤の投与による疾患を罹患している患者の治療方法に対する改善を提供し、該改善は、該剤で処置する間の1またはそれ以上の時点で患者から採取した生物学的試料中の少なくとも1のバイオマーカーのレベルをモニターして、有効量の該剤が患者に投与されているか否かを決定することを含む。該剤の投与に応答して、ダウンレギュレーションされるバイオマーカーの生物学的試料中でのレベルが検出可能に低減する場合、またはバイオマーカーレベルの以前に観察した低減の割合が増大する場合は、有効量のcdkモデュレート剤が患者に投与されている。さらに、該剤の投与に応答して、アップレギュレーションされるバイオマーカーの生物学的試料中でのレベルが検出可能に増大する場合、またはバイオマーカーレベルの以前に観察した増大の割合が増大する場合は、有効量のcdkモデュレート剤が患者に投与されている。
【0067】
本発明はさらに、cdkモデュレート剤の投与による疾患を罹患している患者の治療方法に対する改善を提供し、該改善は、該剤で処置する間の1またはそれ以上の時点で患者から採取した生物学的試料中の少なくとも1のバイオマーカーのレベルをモニターして、該剤による処置の充分な時間経過がいつ完了したかを決定することを含む。一つの態様において、ダウンレギュレーションされるバイオマーカーのレベルが前もって決定したレベル未満に検出可能に低減したときに、該剤による処置の充分な時間経過が完了している。他の態様において、アップレギュレーションされるバイオマーカーのレベルが前もって決定したレベルを超えて検出可能に増大したときに、該剤による処置の充分な時間経過が完了している。
【0068】
バイオマーカーの量を決定する生物学的試料の種類は、特定のバイオマーカー、バイオマーカーがどこでおよびいつ合成されるか、バイオマーカーが組織中のどこで貯蔵されるか、およびバイオマーカーがどの生物学的組織または液に放出されるかあるいは蓄積されるかなどの種々の要因に依存するであろう。一般に、生物学的試料は、血液、血清や血漿などの血液成分、脳脊髄液(CSF)、唾液、および尿よりなる群から選ばれるであろう。一つの側面において、生物学的試料は、血液、血清、血漿、またはCSFであり、最も好ましくは血液、血清、または血漿であろう。1を超えるバイオマーカーを分析する場合は、分析は患者から得た同じかまたは異なる生物学的試料で行うことができる。
【0069】
生物学的試料中のバイオマーカーの量は、当該技術分野で知られた標準技術を用いて決定することができる。たとえば、各バイオマーカーは、バイオマーカー特異的な抗体および当該技術分野で知られた免疫学的方法を用いてアッセイすることができる。ラジオイムノアッセイ、サンドイッチ酵素結合イムノアッセイ、競合結合アッセイ、均一アッセイ、および不均一アッセイを含むあらゆる適当なイムノアッセイ法を用いることができる。あるいは、バイオマーカーの量は、磁気共鳴分光分析、HPLC、または質量分光法などの他の技術を用いて決定することができる。いずれの場合も、選択したアッセイ法は、健常な患者で見出される正常値から神経学的な障害を示す上昇レベルまでの濃度範囲で特定のバイオマーカーを測定することができるに充分な感度を有していなければならない。アッセイは、当該技術分野で知られた自動イムノアッセイ分析機を用い、たとえばマイクロタイタープレート形態を含む種々の形態で行うことができる。
【0070】
本明細書において生物学的試料中のバイオマーカーの前もって決定したレベルとは、生物学的試料中の特定のバイオマーカーの量または濃度であって、該バイオマーカーの該量が、cdkモデュレート剤で処置していない患者から得た生物学的試料中に存在すると決定される量よりも統計的に高い(アップレギュレーションされるバイオマーカー)かまたは低い(ダウンレギュレーションされるバイオマーカー)ものをいう。前もって決定したレベルは、特定のバイオマーカーに依存する。
【0071】
バイオマーカーの発現レベルは、cdkモデュレート剤による処置に対する患者の応答しやすさについての情報を提供する。この目的のため、アッセイしたRNAの量の差異と使用したRNAの質の変動性との両者について補正(正規化)することがしばしば望ましい。それゆえ、アッセイは、典型的にGAPDHやCYPLなどのよく知られたハウスキーピング遺伝子を含むある種の正規化遺伝子の発現を測定および導入する。別の態様として、またはさらに、正規化はアッセイした遺伝子のすべてまたはその大きなサブセットの平均のまたは中間値のシグナル(RT−PCRの場合のCt)に基づくことができる(包括的正規化アプローチ(global normalization approach))。遺伝子−遺伝子ベースで、患者の腫瘍mRNAの測定した正規化量を同じタイプの癌組織の参照セットで見出される量と比較する。この参照セット中の癌組織の数(N)は、異なる参照セットが(全体として)本質的に同じ仕方で挙動することを確実にすべく、充分に高いものでなければならない。この条件が適合すれば、特定のセットに存在する個々の癌組織の同一性は、アッセイした遺伝子の相対的な量に対して有意の影響を及ぼさないであろう。癌組織の参照セットは、一つの側面において、少なくとも約30の異なる癌組織生検からなっていてよい。
【0072】
本明細書に記載するデータは、癌療法に潜在的な有用性を有する化合物をスクリーニングおよび同定するのに日常的に用いられる細胞株で得られたものであるが、バイオマーカーは、cdkまたはcdkが関与する経路が重要な他の疾患領域、たとえば、免疫学において、または細胞のシグナル伝達および/または増殖の制御が異常となった癌や腫瘍においても診断および予後の両価値を有する。
【0073】
関連する技術分野の当業者であれば、cdkおよびcdkが関与する経路が卵巣癌腫細胞および末梢血単核細胞の細胞株以外の細胞型においても使用でき機能することを評価するであろう。それゆえ、本発明のバイオマーカーおよびバイオマーカーセットは、疾患状態と関連する他の組織または器官からの細胞において、または他の組織型に由来する癌または腫瘍において、有用性を示す。そのような細胞、組織および器官の非制限的な例としては、乳房、結腸、肺、前立腺、精巣、卵巣、子宮頸、食道、膵臓、脾臓、肝臓、腎臓、胃、リンパ球細胞および脳が挙げられ、かくして本明細書に記載するバイオマーカーの広範で有利な適用可能性が提供される。分析のための細胞は、当該技術分野で知られた通常の方法、たとえば、組織生検、吸引、脱落細胞(sloughed cells)、結腸細胞(colonocytes)、臨床的または医学的な組織もしくは細胞のサンプリング法により得ることができる。
【0074】
実施例
以下に記載するように、転写プロファイリングを用いて上記表1に示したバイオマーカーを同定した。詳細には、末梢血単核細胞(PBMC)に対するある種のcdk2インヒビターの作用の転写プロファイリングを最初に行った。つぎに、複数の投与量および時点でのcdk2インヒビター処理した腫瘍細胞株A2780のプロファイリングを行って腫瘍部位応答と末梢血バイオマーカーとの相関関係を確立した。潜在的なバイオマーカーの分子標的−特異性を確立するため、抗cdk2オリゴヌクレオチドで処理した腫瘍細胞株A2780もプロファイリングした。cdk2インヒビターで処理したヒト卵巣癌腫異種移植A2780でさらに評価するため(実施例2)、図1に示すように重複する遺伝子発現変化を選択した。観察された変化を遺伝子チップ分析から確認するため、選択したバイオマーカーをリアルタイムPCR分析に供した。これらバイオマーカーは上記表1に示してある。
【0075】
以下の実施例では下記条件を用いた。
cdk2インヒビター:実施例のcdk2インヒビターは、式:
【化1】

で示されるN−5−[[5−(1,1−ジメチルエチル)−2−オキサゾリル]メチル]チオ]−2−チアゾリル−4−ピペリジンカルボキサミド,0.5−L−酒石酸塩である。このcdk2インヒビターは、10mMの濃度で100%DMSOに可溶化された。化合物の希釈液を各増殖培地に調製した。
【0076】
細胞培養:細胞株をRPMI−1640プラス10%ウシ胎仔血清中で維持した。
クローン的増殖アッセイ(Clonogenic Growth Assay):標準クローン的アッセイを用い、コロニー増殖抑制をA2780卵巣癌腫細胞について測定した。このアッセイでは200細胞/ウエルを6−ウエル組織培養プレート(FalconTM)(Becton, Dickinson and Company、フランクリン・レークス、ニュージャージー、米国)に播種し、18時間付着させた。アッセイ培地はRPMI−1640プラス10%ウシ胎仔血清からなっていた。ついで、細胞を6濃度用量−応答曲線で2回処理した。DMSOの最大濃度は0.25%を超えなかった。細胞をcdk2インヒビターに4、8または24時間暴露した。ついで、cdk2インヒビターを除去し、細胞を2容量のPBSで洗浄した。ついで、通常の増殖培地で置換した。コロニーに3日ごとに新鮮な培地を与えた。Optimax imaging stationを用い、コロニー数を10〜14日目に記録した。コロニー生成の50%または90%を抑制するのに必要なcdk2インヒビターの濃度(それぞれ、IC50またはIC90)を非線形回帰分析により決定した。分散(標準偏差/平均、n=3)の係数=30%。
【0077】
リアルタイム定量PCR分析:TaqmanRリアルタイムPCR蛍光アッセイ(Applied Biosystems、フォスター・シティー、カリフォルニア、米国)特定のmRNAのレベルを定量した。cdk2インヒビター処理したA2780細胞を約70%のコンフルエンスにて回収し、全RNAをQiagen RNeasy 96キットを用いて調製した。
【0078】
TaqmanR反応液は以下のようにして調製した:100ngの全RNA;25nM〜750nMのフォアウォードプライマー;25nM〜750nMのリバースプライマー;200nM〜400nMのTaqmanRプローブ(蛍光染料標識オリゴヌクレオチドプライマー);1×緩衝液A(Applied Biosystems、フォスター・シティー、カリフォルニア、米国);5.5mMのMgCl2;300μMのdATP、dGTP、dTTP、dCTP;1UのAmplitaq Gold;20UのSuperscript 2;1UのRNaseインヒビター。
リアルタイムPCRはApplied Biosystems 7700 Sequence Detection Systemを用いて行った。条件は以下の通りであった:48℃で20分(逆転写)、95℃で10分(変性およびAmplitaq Goldの活性化)、40サイクルのPCR(95℃で15秒、60℃で1分)。
【0079】
Sequence Detection Systemは、Ct(閾値サイクル)を生成し、これを各入力メッセンジャーRNA鋳型の濃度の計算に用いた。目的とする各遺伝子またはその断片のメッセンジャーRNAレベルは、GAPDHメッセージレベルに正規化して入力試料中の全RNA量の変動について補償した。このことは、各細胞株についてGAPDH Ct値を生成することにより行った。目的とする遺伝子またはその断片のCt値およびGAPDHを、正規化相対メッセージレベルを計算するのに用いる下記δδCt式に挿入した:
核酸の鋳型の相対量=2δδCt=2(δCta−δCtb)
(δCta=Ct標的−Ct GAPDH、δCtb=Ct参照−Ct GAPDH)。
【0080】
遺伝子チップ分析:Affymetrixヒト遺伝子チップHG-U95A, BおよびC(Affymetrix, Inc.、サンタ・クララ、カリフォルニア、米国)を用い、遺伝子チップを用いて遺伝子発現のレベルを大スケールで定量した。遺伝子チップハイブリダイゼーションは、ハイブリダイゼーションオーブン、洗浄ステーション、スキャナー、およびコンピューターワークステーションを含むAffymetrix遺伝子チップシステムを用いて行った。製造業者の標準プロトコールに従った。生データをAffymetrix Microarray Suite 4.0ソフトウエアを用いて得た。20単位の閾値を発現レベルが20未満と計算された遺伝子に割り当てた、なぜならこのレベル未満の発現の識別は信頼性をもって行うことができなかったからである。
【0081】
PBMCのインビトロ処理:PBMCを単離し、cdk2インヒビターとともにインビトロでインキュベートした。詳細には、約40mlの血液を予備的研究のために回収し、ついで10人の有志者から回収した。ついで、40mlの血液を、ヘパリンナトリウム抗凝固剤60/csを入れた5本のVacutainerTM CPTTM Mononuclear Cell Preparation Tubes(Product Number: 362753)(Becton, Dickinson and Company、フランクリン・レイクス、ニュージャージー、米国)に入れた。ついで、リンパ球を5本のVacutainerTMプールから除き、20mlの培地(RPMI、10%血清、およびglu/Pen/strep)に再懸濁した。細胞をこの工程でカウントし、ついで穏やかに遠心分離し、ついで4.0mlの培地に懸濁した。ついで、細胞を6ウエルプレート(0.5ml/ウエル)にプレーティングした。ついで、cdk2インヒビターまたはビヒクルを含む培地(3.5ml)を各ウエルに加えて、実験ウエルでは100nM cdk2インヒビターの最終濃度、10人の被験者について実験ウエルで1000nM cdk2インヒビターの最終濃度とした。
【0082】
cdk2インヒビターの添加4時間および24時間後にRNA試料およびタンパク質試料を回収した。RNeasy-mini RNAキットを製造業者の指示(Qiagen、バレンシア、カリフォルニア、米国)に従って用いてRNAを調製した。タンパク質試料については、0.5〜1.0mlの改変RIPA緩衝液[50mM Tris(pH8)、150mM NaCl、1%NP-40、0.5%Na-デオキシコール酸、0.1%SDS、0.1%Na3VO4、0.1mM NaF、10mMβ-グリセロリン酸、プラスCompleteRプロテアーゼインヒビター(Boehringer Mannhiem GmbH、ドイツ)]で抽出する前に、細胞をPBSで洗浄した。溶解液を−80℃で凍結した。cdk2インヒビター処理後の異なる時点での細胞の生存をトリパンブルー排除により決定した。
【0083】
ウエスタンブロット分析:cdk2インヒビター処理したA2780細胞を約70%のコンフルエンスで回収し、細胞をRIPA[50mM Tris(pH8)、150mM NaCl、1%NP-40、0.5%Na-デオキシコール酸、0.1%SDS、0.1%Na3VO4、0.1mM NaF、10mMβ-グリセロリン酸、プラスCompleteR プロテアーゼインヒビター(Boehringer Mannhiem GmbH、ドイツ)]緩衝液中で溶解することにより全タンパク質を調製した。細胞ペレットを<2×107細胞/mlの密度で再懸濁し、氷上で20分間インキュベートし、ついで高速の14,000rpm遠心分離を行った。ついで、タンパク質上澄み液を細胞破砕物から除去し、タンパク質含量をMicro-BCAアッセイ(Pierce Biotechnology, Inc.、ロックフォード、イリノイ、米国)を用いて定量した。ついで、処理した抽出物(25μg/レーン)を10%SDS-ポリアクリルアミドゲル(10.5×14cm)を用いて分離した。ついで、半乾燥ブロッティング装置(Hoefer Scientific Instruments、サンフランシスコ、カリフォルニア、米国)中で0.8Amp/cm2に暴露することによりゲルからPVDF-メンブレン(Millipore Corporation、ビレリカ、マサチューセッツ、米国)に移した。ついで、PVDFタンパク質ブロットをTTBS(Tris-緩衝食塩水中の0.1%Tween20)中の5%脱脂粉乳でブロッキングした。ついで、ブロットをTTBS中の5%脱脂粉乳中の一次抗体(マウス抗cdk2クローンD−12、Santa Cruz Biotechnology、サンタクルス、カリフォルニア、米国)で1〜2時間プローブし、ついでTTBSで3回洗浄した。ついで、HRP-コンジュゲート二次抗体(HRPコンジュゲートしたヤギ抗マウスIgG、Promega Corp.、マジソン、ウイスコンシン、米国)をTTBS中で30分間ブロットとともにインキュベートした。ついで、ブロットをTTBSで3回洗浄し、ECL-プラスウエスタンブロッティング検出システム(Amersham Biosciences、ピスカタウエイ、ニュージャージー、米国)で発色させた。
【0084】
cdk2アンチセンス処理:以下の配列を有するcdk2 mRNAに対してターゲティングした5つのアンチセンスオリゴヌクレオチドの混合物を用いた:
GCAGUAUACCUCUCGCUCUUGUCAA(配列番号:2775);
UUUGGAAGUUCUCCAUGAAGCGCCA(配列番号:2776);
GUCCAAAGUCUGCUAGCUUGAUGGC(配列番号:2777);
CCCAGGAGGAUUUCAGGAGCUCGGU(配列番号:2778);
UAGAAGUAACUCCUGGCCACACCAC(配列番号:2779)。
すべての遺伝子モデュレーションは、アンチセンス処理細胞と逆対照オリゴヌクレオチド処理細胞とでのRNAの相対レベルに基づいていた。
【0085】
A2780細胞を6−ウエル組織培養プレートに1〜2×10細胞/ウエルの密度でプレーティングした。一夜インキュベートした後、Lipofectamine 2000(Invitrogen Life Technologies、カールスバード、カリフォルニア、米国)を用いて細胞をアンチセンスオリゴヌクレオチド混合物でトランスフェクションした。簡単に説明すると、10×脂質溶液(OptiMEM中に10μg/ml)および10×オリゴヌクレオチド混合物(OptiMEM中に0.5μM)を調製した。ついで、等容量の10×脂質溶液と10×オリゴヌクレオチド混合物を混合することにより、脂質/オリゴヌクレオチド複合体の5×溶液を調製した。この脂質/オリゴヌクレオチド複合体の5×溶液を室温で15分間インキュベートして複合体を生成させた。インキュベート後、5×脂質/オリゴヌクレオチド複合体を10%ウシ胎仔血清を含むRPMIで希釈してI×トランスフェクション試薬を生成した。一夜増殖培地を1×トランスフェクション試薬で置換することにより、6−ウエル培養プレート中の細胞をトランスフェクションした。ついで、TaqmanRリアルタイムPCR蛍光アッセイによる分析のためにRNAを回収する前に、細胞を種々の時間(0、12、16、20、および24時間)インキュベートした。各実験において、余分のウエルをフルオレセイン処理したランダムオリゴヌクレオチドでトランスフェクションし、フローサイトメトリーを用いてトランスフェクションの有効性を決定した。すべての実験で85%〜95%のA2780細胞がトランスフェクションされた。
【0086】
実施例1:cdk2インヒビターで処理後の末梢血単核細胞(PBMC)、およびcdk2インヒビターまたは抗cdk2アンチセンスオリゴヌクレオチドで処理後のA2780卵巣癌腫細胞の転写プロファイリング
バイオマーカーを同定するため、転写プロファイリングを、(i)cdk2インヒビターで処理後のPBMC、(ii)cdk2インヒビターで処理後のA2780卵巣癌腫細胞、および(iii)抗cdk2アンチセンスオリゴヌクレオチドで処理後のA2780卵巣癌腫細胞について得た。
【0087】
表2は、A2780およびPBMC細胞型の処理に用いた用量および時間経過を列挙する。
表2:実験デザイン
【表112】

【0088】
A2780およびPBMCの処理は上記と同様にして行った。cdk2インヒビターの用量は、増殖およびクローン的アッセイにより評価されるように(表3)cdk2インヒビターによる腫瘍細胞の増殖抑制の動力学の理解から得られた。この研究は、cdk2インヒビターによる増殖抑制が時間に依存していることを明らかに示していた。コロニー形成の有効な抑制には最小8時間の暴露が必要であった。24時間のクローン的アッセイから得られた値は72時間の増殖アッセイとよく一致していた。
【0089】
表3:cdk2インヒビターによるコロニー形成の抑制
【表113】

【0090】
1人の健常な有志者からのPBMCのcdk2インヒビターによるイクスビボ処理の予備的実験を最初に行った。その後、10人の健常なヒト被験者からPBMCを回収し、cdk2インヒビターでイクスビボ処理した。全RNAを単離し、遺伝子チップにハイブリダイズさせた。
【0091】
cdk2発現のアンチセンス抑制をA2780細胞について最適化し、上記と同様にして行った。これら条件下、cdk2タンパク質レベルは24時間の暴露後に90%低下した。図2Aに示すように、対照ウエル(C)と比べてアンチセンス処理した3つの全てのウエル(AS)でcdk2タンパク質の一貫した低減が観察された。これは、細胞周期の進行の阻止およびcdk2インヒビター処理A2780細胞と同様のアポトーシスという結果となった。暴露時間との関連でのcdk2タンパク質の低減も決定した。図2Bに示すように、cdk2レベルは12時間で最大に抑制され、タンパク質レベルは24時間後も低減したままであった。
【0092】
実施例2:バイオマーカーの選択
PBMCにおいて代理終点として用いることができ分子標的特異的応答を有するcdk2インヒビターについてのバイオマーカーを同定するため、実施例1の3つの実験セットの発現プロファイルを比較した。重複する遺伝子発現変化を図1に示すようにして選択した。
【0093】
遺伝子発現レベルでのcdk2特異的な応答並びに化合物特異的な変化の同定を可能とするため、統計的な方法を用いてcdk2インヒビター処理したA2780試料セットにおける用量および処理時間と関連した遺伝子発現変化を有する遺伝子を選択した。データの分析は、各遺伝子に対する化合物の用量効果および時間効果を調べる分散分析(ANOVA)モデルを用いて行った。まず、データを再スケールしてチップ効果を線形回帰法により除いた。ついで、ANOVAモデルを2つの因子、用量および時間に基づいて各遺伝子に適合させた。F検定を用い、特定の遺伝子の発現レベルの変化に関して有意の用量または時間効果があるか否かを決定した。用量効果試験および時間効果試験の両者においてp値が0.05未満の遺伝子を同定した。用量効果および時間効果の両者においてp値が0.05未満と同定された遺伝子を表1に示してある。
【0094】
実施例1の3つのセットからの重複する遺伝子発現変化を、cdk2インヒビターで処理したヒト卵巣癌腫異種移植A2780でさらに評価すべく選択した。
【0095】
ヒト卵巣癌腫異種移植A2780をBalb/c nu/nuヌードマウスで維持した。ドナーマウスから得た腫瘍断片を用い、腫瘍を皮下(sc)移植として増殖させた。cdk2インヒビター処理については、腫瘍を約100〜200mgの前もって決定したサイズウインドウまで増殖させ(この範囲外の腫瘍は排除した)、動物を種々の処理群および対照群(n=6)に均等に分散させた。各動物の処理は個々の体重に基づいた。
【0096】
cdk2インヒビターをまずCremophorR/エタノール(50:50)の混合物に溶解した。投与の1時間前に、投与する溶液が特定の賦形剤組成、すなわち、CremophorR/エタノール/水(1:1:8、v/v)を含むようにcdk2インヒビターを水で希釈した。注射した全ての化合物の容量は0.01ml/mgマウスであった。cdk2インヒビターの投与は、36および18mg/kgの投与量にて腹腔内のボーラス注射として行った。処理の4、7、および24時間後の時点で腫瘍および血漿をサンプリングした。血漿試料は薬動動態分析のために直ちに−80℃で凍結乾燥させ、腫瘍試料は薬理ゲノミクス分析のためにRNAase不含の緩衝液中で保存した。
【0097】
ある遺伝子が潜在的なバイオマーカーとして選択されたら、蛍光MGB Taq-manプローブを用いたリアルタイムPCRアッセイを上記のようにして開発した。選択した遺伝子は、遺伝子チップ分析からの観察された変化を確認するために上記のようにリアルタイムPCR分析に供した。
【0098】
バイオマーカーW28729(配列番号1246)を好ましいマーカーとして選択した。Taq-man MGBプローブを用い、正規化対照であるハウスキーピング遺伝子GAPDHとともにこのバイオマーカーで同一ウエル(same-well)多重リアルタイム定量PCRアッセイを開発した。W28729についての遺伝子発現変化の測定は、以下の試料セットでリアルタイム定量PCRアッセイを用いて行った:20nMのcdk2インヒビターで異なる期間処理したA2780ヒト腫瘍細胞(図3A)、100nMのcdk2インヒビターで4時間処理したPBMC(図3B)、および36および18mg/kgの用量にてcdk2インヒビターで異なる期間処理したヒト卵巣癌腫異種移植A2780(図3C)。培養したA2780腫瘍細胞では、W28729の誘発は20nMのcdk2インヒビターで処理したときに起こり、処理の1時間後に検出された。W28729発現のアップレギュレーションはまた、ヒトPBMCをインビトロでcdk2インヒビターで処理したときにも観察された。A2780異種移植を有するヌードマウスの有効投与量のcdk2インヒビターでの処理もまたW28729の誘発という結果となり、遺伝子誘発の期間の用量依存的な長期化が認められた。
【0099】
実施例3:W28729のアップレギュレーション
以下の実験法を用いてW28729のアップレギュレーションをさらに調べた。
患者の適用基準:患者の適用基準には以下のものが含まれていた:現在の治療では抗療性の一次固形悪性腫瘍、および適切な骨髄、肝、および腎機能。
【0100】
処置:2つの異なる処置を行った:(i)174-001試験:BMS-387032 q 3週間(1時間注入)(ii)174-002試験:BMS-387032 q 3週間(24時間注入)。サンプリング時間は、投与前、および投与2時間、6時間、24時間後であった。
【0101】
W28729の発現分析:RT−PCR。
患者の血液試料をPAXgeneTM Blood Collection Tubes(Qiagen、カタログ#762155)で回収した。全RNAをPAXgeneTM blood RNA Kit(Qiagen、カタログ#762134)を用いて製造業者の指示に従って単離した。ABI PRISM 7900 HT Sequence Detection Systemを用い、W28729およびGAPDH(ハウスキーピング遺伝子)RNAの存在量をTaqmanアッセイにより測定した。W28729の存在量をGAPDHに対して正規化した。プライマーおよびプローブの配列は以下のとおりである。
W28729:(5+)AGTACCGTGAGGTTCCTGATGTG(配列番号:2780)
(3+)TGCCAAGCTGAGATCCTAAGG(配列番号:2781)
プローブTTATGCGGCACGCTT(配列番号:2782)
GAPDH: (5+)CGACAGTCAGCCGCATCTT(配列番号:2783)
(3+)AAATCCGTTGACTCCGACCTT(配列番号:2784)
プローブCATCGCTCAGACACCA(配列番号:2785)
【0102】
結果
前臨床異種移植:BMS-387032でボーラスに腹腔内処置により与えたA2780異種移植では、腫瘍でのW28729の誘発は一過性で用量依存的な仕方で起こった(図4A)。18mg/kg/日の最小有効投与量(MED)で誘発は6時間以上維持された。40mg/kgの最小有効投与量を用いた注入投与法では、遺伝子誘発は少なくとも16時間維持された。腫瘍における遺伝子誘発は、腫瘍マウスから単離したPBMCで検出されるように、マウスのオーソログ配列(配列番号:2786;マウスゲノムDNA配列遺伝子座AL590994の断片)の誘発と著しく近似したパターンを伴っていた(図4B)。有効な投与法により処置は、6時間またはそれ以上にわたって該配列の>2倍の誘発という結果となった。これらデータは、腫瘍におけるW28729遺伝子の誘発の薬動力学的なバイオマーカーとしての使用を支持している。さらに、これら観察は、遺伝子発現の変化(cdk2インヒビターによる処置の結果として生じる)をモニターするための代理組織としてのPBMCの使用を支持している。
【0103】
臨床試験:CA174−001試験(1時間の注入)では、W28729の一過性の誘発がPBMCにおいて2時間で検出され、6時間でベースラインレベルに戻った(図5A)。CA174−002試験(24時間の注入)では、W28729発現の適度の誘発が認められ、これが注入の終了後6時間持続した(図5B)。図5Aおよび5Bの各線は、投与後の特定の時点での個々の患者についての遺伝子誘発の程度を示している。CA174−001試験では、ベースライン発現と最大遺伝子誘発のレベルとの間に逆の相関関係が認められた(図6A)。CA174−002試験では、ベースライン発現と誘発の大きさとの間に明確な相関関係は認められなかった(図6B)。24時間注入試験からのデータの解釈は困難である、なぜなら発現データは投与開始の24時間以上後に回収されたからである。
【0104】
図7Aおよび7Bは、CA174−001からの投与量(図7A)およびAUC(図7B)の関数としてのW28729の誘発を示す。図7Aおよび7Bに示すように、W28729遺伝子の誘発とcdk2インヒビターの投与量または暴露との間に線形の相関関係が認められた。図8は、CA174−001試験におけるW28729のベースライン発現およびcdkインヒビター暴露によるW28729の変化の予測を提供する。W28729遺伝子の発現変化は下記式により予測することができる:Δ(W28729発現)=AAUC(ベースライン発現)(式中、A=0.000619、B=−0.537)。W28729遺伝子の誘発は、薬剤暴露およびベースラインのW28729発現から信頼性をもって予測することができる。
【0105】
前臨床データがW28729遺伝子誘発の程度および期間が抗腫瘍剤の有効性と相関関係を有することを示唆しているので、CA174−001試験において異なるW28729誘発を示した患者の疾患結果を調べた。興味深いことに、高い誘発を示した患者は最も良好な結果が得られるように思われた(図9)。これら結果は、W28729の誘発がcdkをモデュレートする薬剤の臨床結果の予測の代理マーカーであることを示唆している。
【図面の簡単な説明】
【0106】
【図1】cdkバイオマーカー同定戦略を示す。
【0107】
【図2A】cdk2アンチセンスオリゴヌクレオチドによるcdk2タンパク質レベルの低減を示す。
【0108】
【図2B】cdk2アンチセンスオリゴヌクレオチドによるcdk2タンパク質レベルの低減を示す。
【0109】
【図3A】cdkインヒビターで処理後のA2780、PBMC、および異種移植A2780腫瘍におけるバイオマーカーW28729(配列番号1246)の発現変化を示す。
【0110】
【図3B】cdkインヒビターで処理後のA2780、PBMC、および異種移植A2780腫瘍におけるバイオマーカーW28729(配列番号1246)の発現変化を示す。
【0111】
【図3C】cdkインヒビターで処理後のA2780、PBMC、および異種移植A2780腫瘍におけるバイオマーカーW28729(配列番号1246)の発現変化を示す。
【0112】
【図4A】A2780異種移植におけるW28729発現の制御を示す。
【0113】
【図4B】マウスPBMCにおけるW28729のマウスオーソログの制御を示す。
【0114】
【図5A】N−5−[[5−(1,1−ジメチルエチル)−2−オキサゾリル]メチル]チオ]−2−チアゾリル−4−ピペリジンカルボキサミド,0.5−L−酒石酸塩で処理した患者におけるW28729遺伝子の発現を示す。
【0115】
【図5B】N−5−[[5−(1,1−ジメチルエチル)−2−オキサゾリル]メチル]チオ]−2−チアゾリル−4−ピペリジンカルボキサミド,0.5−L−酒石酸塩で処理した患者におけるW28729遺伝子の発現を示す。
【0116】
【図6A】W28729の誘発およびベースライン発現とのその相関を示す。
【0117】
【図6B】W28729の誘発およびベースライン発現とのその相関を示す。
【0118】
【図7A】投与量の関数としてのW28729の誘発を示す。
【0119】
【図7B】AUCの関数としてのW28729の誘発を示す。
【0120】
【図8】W28729のベースライン発現およびcdk2インヒビター暴露によるW28729変化の予測を示す。
【0121】
【図9】疾患の結果、対腫瘍進行時間(time to tumor progression)およびW28729変化を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
cdk活性をモデュレートする薬剤を投与することを含む癌の治療方法に対して哺乳動物が治療的に応答するか否かを試験または予測する方法であって、
(a)配列番号:1246のヌクレオチド配列のレベルを哺乳動物で測定し、
(b)該哺乳動物を、cdk活性をモデュレートする薬剤に暴露し、ついで
(c)工程(b)の暴露後、配列番号:1246の該ヌクレオチド配列のレベルを該哺乳動物で測定する
ことを含み、その際、工程(a)で測定した配列番号:1246の該ヌクレオチド配列のレベルと比較した工程(c)で測定した配列番号:1246の該ヌクレオチド配列のレベルの差異が、該哺乳動物が癌の該治療方法に治療的に応答するであろうことを示すことを特徴とする方法。
【請求項2】
該薬剤が、N−5−[[5−(1,1−ジメチルエチル)−2−オキサゾリル]メチル]チオ]−2−チアゾリル−4−ピペリジンカルボキサミド,0.5−L−酒石酸塩である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
cdk活性をモデュレートする薬剤に対して哺乳動物が応答するか否かを決定する方法であって、
(a)哺乳動物から生物学的試料を得、
(b)該生物学的試料で配列番号:1246のヌクレオチド配列のレベルを測定し、
(c)配列番号:1246の該ヌクレオチド配列の該レベルをベースラインレベルと相関させ、ついで
(d)該相関に基づいて該哺乳動物がcdk活性をモデュレートする薬剤に応答するか否かを決定する
ことを含む方法。
【請求項4】
該薬剤が、N−5−[[5−(1,1−ジメチルエチル)−2−オキサゾリル]メチル]チオ]−2−チアゾリル−4−ピペリジンカルボキサミド,0.5−L−酒石酸塩である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
cdk活性をモデュレートする薬剤を投与することを含む癌の治療方法に対して哺乳動物が治療的に応答するか否かを試験または予測する方法であって、
(a)表1に示すバイオマーカーから選択した少なくとも1のバイオマーカーのレベルを哺乳動物で測定し、
(b)該哺乳動物を、cdk活性をモデュレートする薬剤に暴露し、
(c)工程(b)の暴露後、該少なくとも1のバイオマーカーのレベルを該哺乳動物で測定する
ことを含み、その際、工程(a)で測定した該少なくとも1のバイオマーカーのレベルと比較した工程(c)で測定した該少なくとも1のバイオマーカーのレベルの差異が、該哺乳動物が癌の該治療方法に治療的に応答するであろうことを示すことを特徴とする方法。
【請求項6】
該薬剤が、N−5−[[5−(1,1−ジメチルエチル)−2−オキサゾリル]メチル]チオ]−2−チアゾリル−4−ピペリジンカルボキサミド,0.5−L−酒石酸塩である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
該少なくとも1のバイオマーカーがタンパク質である、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
該少なくとも1のバイオマーカーがmRNA転写物である、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
cdk活性をモデュレートする薬剤に対して哺乳動物が応答するか否かを決定する方法であって、
(a)哺乳動物から生物学的試料を得、
(b)該生物学的試料で表1に示すバイオマーカーから選択した少なくとも1のバイオマーカーのレベルを測定し、
(c)少なくとも1のバイオマーカーの該レベルをベースラインレベルと相関させ、ついで
(d)該相関に基づいて該哺乳動物がcdk活性をモデュレートする薬剤に応答するか否かを決定する
ことを含む方法。
【請求項10】
cdk活性をモデュレートする薬剤に対して哺乳動物が応答するか否かを決定する方法であって、
(a)該哺乳動物を該薬剤に暴露し、ついで
(b)工程(a)の暴露後、表1に示すバイオマーカーから選択した少なくとも1のバイオマーカーのレベルを該哺乳動物で測定する
ことを含み、その際、該薬剤に暴露されていない哺乳動物における該少なくとも1のバイオマーカーのレベルと比較した工程(b)で測定した該少なくとも1のバイオマーカーのレベルの差異が、該哺乳動物がcdk活性をモデュレートする該薬剤に応答することを示すことを特徴とする方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7A】
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【図7B】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2007−507204(P2007−507204A)
【公表日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−522045(P2006−522045)
【出願日】平成16年7月29日(2004.7.29)
【国際出願番号】PCT/US2004/024424
【国際公開番号】WO2005/012875
【国際公開日】平成17年2月10日(2005.2.10)
【出願人】(391015708)ブリストル−マイヤーズ スクイブ カンパニー (494)
【氏名又は名称原語表記】BRISTOL−MYERS SQUIBB COMPANY
【Fターム(参考)】