説明

サイジング剤およびこれを用いた炭素繊維ストランドの製造方法

【課題】 良好な集束性と優れた取扱性、加工時の優れた耐擦過性および良好な開繊性を炭素繊維ストランドに対して付与できるサイジング剤と、このサイジング剤を用いた炭素繊維ストランドの製造方法とを提供することにある。
【解決手段】 サイジング剤は、炭素繊維ストランドの製造に用いられるサイジング剤であって、分子量1000以上のポリアルキレングリコールとポリイソシアネート化合物とポリエポキシ化合物を反応して得られる、分子内にオキサゾリドン環を有するエポキシ樹脂を不揮発分全体の10重量%以上含有し、前記ポリアルキレングリコール中のエチレンオキシ構造単位の割合が70重量%以上である。炭素繊維ストランドの製造方法は、上記サイジング剤を原料炭素繊維ストランドに付着させ、得られた付着物を乾燥するサイジング処理工程を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サイジング剤およびこれを用いた炭素繊維ストランドの製造方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、優れた集束性、耐擦過性および開繊性を炭素繊維ストランドに付与することができるサイジング剤およびこれを用いた炭素繊維ストランドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維は各種樹脂材料の補強用繊維として、高い強度・弾性率、優れた寸法安定性、電磁波シールド性等の特徴から、航空・宇宙用途、スポーツ・レジャー用途、一般産業用途等工業的に幅広く使用され、その需要は年々増加してきている。
炭素繊維は通常、フィラメント形状で製造され、その後ホットメルト法やドラムワインディング法によるプリプレグと呼ばれるシート、フィラメントワインディング、織物等各種高次加工工程を経て使用されている。しかし、炭素繊維は直径が約4〜8μmと細く、また、本質的に低伸度・剛直で脆く耐屈曲性や耐擦過性に乏しいため、数多くのガイドローラーや金属バーを通過する製造工程および高次加工工程において毛羽を発生し易く、製品の性能、品位を低下させるという問題がある。
これらの問題を防止するため、炭素繊維ストランドには通常サイジング剤が付与され、炭素繊維束を集束させ、取り扱い性や耐擦過性を向上させる処理がなされている。また、炭素繊維ストランドは、最終的にはマトリックス樹脂との組み合わせにより繊維強化プラスチックに加工される。このため、このサイジング処理は、マトリックス樹脂との濡れ性に乏しい炭素繊維とマトリックスとのバインダーとしての機能も担うものでもある。
【0003】
集束性に優れたサイジング剤として、常温で高粘度のエポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂とポリウレタン樹脂を併用したサイジング剤等が開示されている(特許文献1〜4参照)。
【特許文献1】特開平1−314786号公報
【特許文献2】特開平5−132863号公報
【特許文献3】特開平6−116868号公報
【特許文献4】特開2002−317382号公報
【0004】
上記特許文献1〜4で開示されるサイジング剤で処理された炭素繊維ストランドは、集束性が良好で毛羽伏せ効果が高く、取り扱い性に優れる。しかしながら、サイジング剤皮膜が高粘度で繊維/繊維間の摩擦係数が高く、ストランドの開繊性が劣るとの欠点がある。また、繰り返しの金属バー擦過工程を経た場合、逆に毛羽発生が大きくなることがある。
【0005】
一方、開繊性に優れたサイジング剤として、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物を中心としたポリエーテル樹脂を使用したサイジング剤が開示されている(特許文献5〜8参照)。
【特許文献5】特開平1−272867号公報
【特許文献6】特開平6−212565号公報
【特許文献7】特開平7−9444号公報
【特許文献8】特開2000−234264号公報
【0006】
上記特許文献5〜8で開示されるサイジング剤で処理された炭素繊維ストランドは、開繊性が良好で、且つ繊維/繊維間および繊維/金属間の摩擦係数が低いため、前述の繰り返しの金属バー擦過による耐擦過性に優れる。しかしながら、サイジング皮膜の粘度が低過ぎるため、集束性に乏しく取り扱い性に劣り、また、加工工程によってはストランド割れが生じるという欠点がある。
【0007】
上述のように、サイジング剤処理された炭素繊維ストランドの加工工程において、集束性・耐擦過性および開繊性は相反する特性であり、両特性を満足する炭素繊維ストランドは現状では得られていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
かかる従来の背景技術に鑑み、本発明の目的は、良好な集束性と優れた取扱性、加工時の優れた耐擦過性および良好な開繊性を炭素繊維ストランドに対して付与できるサイジング剤と、このサイジング剤を用いた炭素繊維ストランドの製造方法とを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するべく鋭意検討した結果、炭素繊維ストランドに対して、下記の(1)および/または(2)のサイジング剤を付着させると好適であることを見出し、本発明に到達した。
(1)特定の化合物を含有するサイジング剤
(2)サイジング剤で処理した炭素繊維ストランドのF/F摩擦力およびサイジング剤の不揮発分の30℃における粘度がいずれも特定範囲にあるサイジング剤
すなわち、本発明にかかるサイジング剤は、炭素繊維ストランドの製造に用いられるサイジング剤であって、分子量1000以上のポリアルキレングリコールとポリイソシアネート化合物とポリエポキシ化合物を反応して得られる、分子内にオキサゾリドン環を有するエポキシ樹脂を不揮発分全体の10重量%以上含有し、前記ポリアルキレングリコール中のエチレンオキシ構造単位の割合が70重量%以上である、サイジング剤である。
本発明にかかる別のサイジング剤は、炭素繊維ストランドの製造に用いられるサイジング剤であって、繊度800texでフィラメント数12000本の原料炭素繊維ストランドにサイジング剤付着量1重量%で処理した後に得られる炭素繊維ストランドのF/F摩擦力が250g以下であり、サイジング剤の不揮発分の30℃における粘度が1000mPa・s以上であるサイジング剤である。
本発明にかかる炭素繊維ストランドの製造方法は、上記サイジング剤を原料炭素繊維ストランドに付着させ、得られた付着物を乾燥するサイジング処理工程を含む。
【発明の効果】
【0010】
本発明のサイジング剤で処理して得られる炭素繊維ストランドは、良好な集束性と優れた取扱性、加工時の優れた耐擦過性および良好な開繊性を有する。
本発明の炭素繊維ストランドの製造方法では、良好な集束性と優れた取扱性、加工時の優れた耐擦過性および良好な開繊性を有する炭素繊維ストランドを、効率よく製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
〔サイジング剤〕
本発明のサイジング剤は、炭素繊維ストランドの製造に用いられるサイジング剤である。
このサイジング剤には、良好な集束性と優れた取扱性、加工時の優れた耐擦過性および良好な開繊性を炭素繊維ストランドに付与するために(特に耐擦過性を付与するために)、分子内にオキサゾリドン環を有するエポキシ樹脂(以下、「エポキシ樹脂A」ということがある。)を不揮発分全体の10重量%以上含有する。
エポキシ樹脂Aの含有量は、好ましくはサイジング剤の不揮発分全体の20重量%以上、さらに好ましくは不揮発分全体の30重量%以上、特に好ましくは不揮発分全体の50重量%以上である。
なお、本発明では、不揮発分とは、サイジング剤を105℃で熱処理して溶媒等を除去し、恒量に達した時の絶乾成分を意味する。
【0012】
エポキシ樹脂Aは、分子量1000以上のポリアルキレングリコールとポリイソシアネート化合物とポリエポキシ化合物を反応して得られ、ポリアルキレングリコール中のエチレンオキシ構造単位(−CH−CH−O−)の割合が70重量%以上であるエポキシ樹脂である。
エポキシ樹脂Aの製造方法については、特に限定はないが、たとえば、下記に示す第1および第2段階を経て製造することができる。第1および第2段階の反応については公知の方法で行うことができ、特に限定はない。
【0013】
第1段階:分子量1000以上のポリアルキレングリコールと、そのポリアルキレングリコールの末端水酸基に対してモル比で過剰量のポリイソシアネート化合物を反応させて、ポリアルキレングリコールの末端がイソシアネート基と反応してブロック化された構造を有し、末端にイソシアネート基を有する化合物を製造する段階
第2段階:上記第1段階で得られた末端にイソシアネート基を有する化合物と、そのイソシアネート基に対してモル比で過剰量のポリエポキシ化合物を反応させて、エポキシ樹脂Aを得る段階
【0014】
第1段階で使用するポリアルキレングリコールについて、その分子量は1000以上であり、好ましくは2000以上、さらに好ましくは4000以上である。分子量が1000未満の場合は、摩擦が低減せずに、耐擦過性が十分に得られないことがある。また、ポリエチレングリコールの分子量が低いと、水に対する溶解性も低下し、サイジング剤が水分散体の場合、安定性が低下することがある。
一方、ポリアルキレングリコールの分子量の上限値については特に限定はないが、好ましくは20000、さらに好ましくは15000である。ポリアルキレングリコールの分子量の上限が20000超であると、本発明のサイジング剤を付着させて炭素繊維ストランドの表面に形成される皮膜とマトリックス樹脂との相溶性が悪くなる可能性がある。
【0015】
ポリアルキレングリコールを構成する構造単位については、特に限定はないが、エチレンオキシ構造単位、プロピレンオキシ構造単位、ブチレンオキシ構造単位等のアルキレンオキシ構造単位を挙げることができる。なお、ここで、アルキレンオキシ構造単位とは、アルキレンオキサイドに由来し、これが開環した構造単位を意味する。たとえば、エチレンオキシ構造単位は、エチレンオキサイドに由来し、これが開環した構造単位を意味する。
ポリアルキレングリコール中のエチレンオキシ構造単位の割合は、サイジング剤が水分散体である場合の水に対する溶解性の観点から、70重量%以上であり、好ましくは80重量%以上、さらに好ましくは90重量%以上、最も好ましくは100重量%である。なお、アルキレンオキシ構造単位を2種以上併用する場合は、その結合はランダム状もしくはブロック状のいずれであってもよい。
【0016】
第1段階で使用するポリイソシアネート化合物は、芳香族ポリイソシアネート化合物でも脂肪族ポリイソシアネート化合物でもよい。芳香族ポリイソシアネート化合物としては、たとえば、トリレン−2,4−ジイソシアネート、トリレン−2,6−ジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、ナフチレン−1,5−ジイソシアネート、モノまたはジクロロフェニレン−2,4−ジイソシアネート、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、3,3’−ジメチルジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、3−メチルジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、メタフェニレン−ジイソシアネート、パラフェニレン−ジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート等を挙げることができる。また、脂肪族ポリイソシアネート化合物としては、たとえば、1,6−ヘキサメチレン−ジイソシアネート、プロピルイソシアネート、ブチルイソシアネート等を挙げることができる。ポリイソシアネート化合物として、上記で例示したポリイソシアネート化合物を1種または2種以上を組み合わせて用いてもよい。ポリイソシアネート化合物として、好ましくは、後述する併用成分である4,4’−イソプロピリデンジフェノール(以下、ビスフェノールAと記載することもある。)のアルキレンオキサイド付加物、各種エポキシ樹脂やポリウレタン樹脂、そしてグラファイト結晶で構成される炭素繊維に対する親和性が良好な芳香族ポリイソシアネート化合物を挙げることができる。
【0017】
第2段階で使用するポリエポキシ化合物は、分子内に2個以上のエポキシ基を含有する化合物であれば、どの化合物も使用できる。このようなポリエポキシ化合物としては、芳香族ポリエポキシ化合物としては、たとえば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、アルキルフェノールノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、レゾルシノールジグリシジルエーテルを挙げることができる。脂肪族ポリエポキシ化合物としては、たとえば、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル等を挙げることができる。ポリエポキシ化合物として、上記で例示したポリエポキシ化合物を1種または2種以上を組み合わせて用いてもよい。ポリエポキシ化合物として、好ましくは、上述のポリイソシアネート化合物同様、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物、各種エポキシ樹脂やポリウレタン樹脂、そして炭素繊維に対する親和性が良好な芳香族ポリエポキシ化合物を挙げることができる。
【0018】
エポキシ樹脂Aのエポキシ当量については、特に限定はないが、サイジング剤が水分散体である場合の水に対する溶解性という見地から、好ましくは250〜10000g/eq、さらに好ましくは500〜5000g/eq、特に好ましくは1000〜3000g/eqである。
エポキシ樹脂Aとしては、たとえば、下記化学式(1)で示されるエポキシ樹脂を挙げることができる。
【0019】
【化1】

【0020】
上記化学式(1)において、Rは分子量1000以上のポリアルキレングリコールより両末端の水酸基を除いた残基である。前記ポリアルキレングリコール中のエチレンオキシ構造単位の割合が70重量%以上である。
化学式(1)中のRの説明におけるポリアルキレングリコールとしては、エポキシ樹脂Aの製造方法の第1段階で使用したポリアルキレングリコール等を挙げることができ、好ましい物性範囲等についてもそのまま適用できる。
化学式(1)で示されるエポキシ樹脂Aについて、上記Rの分子量がエポキシ樹脂A全体に占める割合は、好ましくは50〜90%、さらに好ましくは70〜80%である。
【0021】
本発明のサイジング剤では、原料炭素繊維ストランドにサイジング剤付着量1重量%で処理した後に、得られる炭素繊維ストランドのF/F摩擦力が250g以下であり、好ましくは230g以下、さらに好ましくは200g以下、特に好ましくは180g以下である。
上記F/F摩擦力は、繊度800tex、フィラメント数12000本の原料炭素繊維ストランドを用いて測定され、図1に示すF/F摩擦測定機にセッティングし、撚り存在下(撚り回数2回)荷重により30gの初期張力をかけて30cm/分の速度で引っ張った時の張力を、F/F摩擦力と定義する。
【0022】
F/F摩擦力は、得られる炭素繊維ストランドの開繊性および耐擦過性の程度の尺度であり、この値が250g以下であることによって、開繊性および耐擦過性の両方に優れることが示される。
F/F摩擦力と炭素繊維ストランドの開繊性および耐擦過性との関係について詳しく説明すると、炭素繊維ストランドは前述の高次加工工程において金属バー等を通過することにより開繊されるわけであるが、その際、F/F摩擦力が高いと、ストランドが扁平形状を形成するための単糸の移動、すなわち開繊がスムーズに行われず、結果として開繊不足となる。また、F/F摩擦力が高いと、金属バーやガイドローラー通過時の炭素繊維ストランドの形状変化のための単糸の移動がスムーズではないので、単糸切れ・毛羽発生、すなわち耐擦過性不良となる。
【0023】
本発明におけるF/F摩擦力は、この炭素繊維の単糸間のF/F摩擦の指標となるものであり、単糸が非常に細く低伸度・剛直で脆い炭素繊維のF/F摩擦を再現性よく簡便に測定するために適度な太さを有する、繊度800tex、フィラメント数12000本の原料炭素繊維ストランドを使用する。また、測定時のストランド同士の過剰な擦過による単糸切れ、毛羽発生が起こらず、かつ、F/Fの動摩擦領域を十分な有意差をもって測定できる条件として、撚り存在下(撚り回数2回)荷重により30gの初期張力をかけて30cm/分の速度で引っ張った時の張力を選定するものである。
また、本発明のサイジング剤では、サイジング剤の不揮発分の30℃における粘度が1000mPa・s以上であり、好ましくは2000mPa・s以上、さらに好ましくは5000mPa・s以上、特に好ましくは10000mPa・s以上である。
【0024】
上記不揮発分の粘度は次のようにして測定する。まず、サイジング剤を105℃で熱処理して溶媒等を除去し、恒量に達しせしめてサイジング剤の不揮発分を得る。得られた不揮発分の30℃における粘度を、コーンプレート型粘度計Viscometer V88(Malvern Instruments社製)により測定し、得られた数値を不揮発分の粘度と定義する。なお、この粘度計の測定可能範囲は10万mPa・s未満であるので、粘度10万mPa・s以上の不揮発分や、性状が固体状の不揮発分については、不揮発分の粘度が10万mPa・s以上であると定義した。
不揮発分の粘度は、得られる炭素繊維ストランドの集束性の尺度であり、この値が1000mPa・s以上であることによって、集束性に優れることが示される。
【0025】
不揮発分の粘度と炭素繊維ストランドの集束性との関係について詳しく説明すると、本願発明のサイジング剤では後述するように水分散体等の希釈された状態で使用される場面が多く、サイジング剤の粘度は希釈の程度で変化するので意味がある物性値とはいい難い。しかし、不揮発分にはサイジング作用を発揮するエポキシ樹脂等の樹脂が主に含有されており、その粘度が低いと一旦サイジング剤で固められた炭素繊維ストランドが樹脂の流動性のためにばらけてしまうが、不揮発分の粘度が1000mPa・s以上であると、樹脂の流動性が低いために炭素繊維ストランドがばらけることなく、良好な集束性を維持できる。
本発明のサイジング剤では、それを構成するいずれかの成分が、上記F/F摩擦力や集束性のパラメータのいずれかの要件を満足しておれば好ましいが、その成分がエポキシ樹脂Aであるとさらに好ましく、エポキシ樹脂Aが上記F/F摩擦力や集束性のパラメータの両方の要件を満足しているとさらに好ましい。
【0026】
本発明のサイジング剤は、4,4’−イソプロピリデンジフェノール(ビスフェノールA)のアルキレンオキサイド付加物をさらに含有すると、F/F摩擦力の低下により開繊性及び耐擦過性がより良好となるために好ましい。
4,4’−イソプロピリデンジフェノールのアルキレンオキサイド付加物としては、たとえば、4,4’−イソプロピリデンジフェノールの両水酸基にアルキレンオキサイドが付加して得られる生成物であり、ランダム状またはブロックのいずれであっても良い。
水酸基に付加するアルキレンオキサイドとしては、たとえば、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド等を挙げることができ、1種または2種以上を組み合わせて用いてもよい。アルキレンオキサイドがエチレンオキサイドであると、水分散性の観点から好ましい。
【0027】
なお、アルキレンオキサイド付加物の付加モル数については、特に限定されるものではないが、付加モル数が低過ぎると水に対する溶解性に劣るものとなり、また、付加モル数が高過ぎるとマトリックス樹脂との相溶性が悪くなる可能性があるという観点から、3〜200モルが好ましく、5〜100モルがさらに好ましく、10〜50モルが特に好ましい。
本発明のサイジング剤は、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ビニルエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂およびフェノール樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種をさらに含有すると、好ましい。これらの樹脂は、得られる炭素繊維ストランドを原料として製造される繊維強化プラスチックを構成するマトリックス樹脂との親和性を考慮して、適宜選択される。
【0028】
エポキシ樹脂としては、たとえば、上記ポリエポキシ化合物で例示した各化合物のほか;ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル等の親水性ポリグリシジルエーテル型エポキシ樹脂;アルキルグリシジルエーテル、ポリオキシアルキレン付加アルキルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、ポリオキシアルキレン付加フェニルグリシジルエーテル等のモノグリシジルエーテル型エポキシ樹脂;トリグリシジルアミン、テトラグリシジルアミン等の重合体等のアミン型エポキシ樹脂等を挙げることができる。
【0029】
ポリウレタン樹脂としては、公知のポリイソシアネートと公知のポリオールを主成分とした反応生成物であれば特に限定されない。ポリイソシアネートとしては、たとえば、上記ポリイソシアネート化合物で例示した各化合物等を挙げることができる。ポリオールとしては、たとえば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ビスフェノールAのエチレンオキシドおよび/またはプロピレンオキシド付加物等のポリエーテルポリオール、ポリオールとコハク酸、アジピン酸、フタル酸等の多塩基酸の縮合物であるポリエステルポリオール、2,2−ジメチロールプロピオン酸、1,4−ブタンジオール−2−スルホン酸等のカルボキシル基やスルホン酸基を有するポリオール等を挙げることができる。
【0030】
ビニルエステル樹脂としては、樹脂主鎖の末端にビニル基、アクリレート基、メタクリレート基等の高反応性二重結合をもつ樹脂であれば特に限定されず、芳香族系、脂肪族系いずれの樹脂も選択できる。
ポリアミド樹脂としては、酸アミド結合の繰り返しによって主鎖を形成する樹脂であれば特に限定されず、ポリアミド6(ε−カプロラクタムの開環重合による)、ポリアミド66(ヘキサメチレンジアミンとアジピン酸の縮重合による)等を例示でき、その他主鎖に親水基を導入して水溶性としたポリアミド樹脂等も使用できる。
【0031】
ポリオレフィン樹脂としては、たとえば、ポリエチレン、ポリプロピレンや、エチレン、プロピレン、ブテン、酢酸ビニル等のモノマー類数種から選ばれる共重合体や、その酸変性物が例示される。
ポリエステル樹脂としては、多価アルコールと多価カルボン酸の縮合反応生成物であれば特に限定されない。多価アルコールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール等のグリコール類が例示される。また、多価カルボン酸としては、無水マレイン酸、フマル酸等の不飽和二塩基酸;無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、アジピン酸等の飽和二塩基酸等が例示される。
【0032】
フェノール樹脂としては、フェノール類(フェノール、クレゾール、キシレノール等)とアルデヒド(ホルムアルデヒド等)との縮合反応生成物であれば特に限定されず、ノボラック型でもレゾール型でもよい。
本発明のサイジング剤は、その性状が水分散体でなくてもよく、たとえば、アセトン、メチルエチルケトン等の有機溶剤に分散させた状態のものも使用できるが、取扱い時の人体への安全性や、火災等の災害防止、自然環境の汚染防止等の観点から、水分散体が好ましい。
【0033】
また、エポキシ樹脂Aは、分子内に親水性を示すポリエチレングリコールに由来する部分と、それ以外の疎水性を示す部分との両方から構成されているため、自己乳化機能を有するのみでなく、水不溶性または難溶性である上記で示したような各種樹脂を水系乳化する場合の乳化剤としての機能をも有している。
本発明のサイジング剤を水系乳化して製造する方法については、特に限定はなく、公知の手法が採用でき、たとえば、サイジング剤を構成する各成分を攪拌下の温水中に投入して乳化分散する方法や、サイジング剤を構成する各成分を混合し、得られた混合物を軟化点以上に加温後、ホモジナイザー、ホモミキサー、ボールミル等を用いて機械せん断力を加えつつ、水を徐々に投入して転相乳化する方法等が挙げられる。
【0034】
なお、上記水分散体には、製造時の操作性や水分散体の経日安定性を向上させる目的で、上記水分散体の利点を損なわない範囲で、有機溶剤等の水以外の溶媒を含有することができる。
有機溶剤としては、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール等のアルコール類;エチレングリコール、プロピレングリコール、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル等のグリコールまたはグリコールエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類が例示できる。その含有量としては、溶媒の種類にもよるが、水分散体の利点を損なわないために、サイジング剤不揮発分に対して100重量%以下が好ましく、50重量%以下がさらに好ましい。
【0035】
本発明のサイジング剤が水分散体の場合、その不揮発分の濃度については、特に限定はなく、そのサイジング剤の不揮発分組成により、水分散体としての安定性や、製品として取り扱いやすい粘度等を考慮して適宜選択されるものであるが、製品の輸送コスト等を考慮すれば10重量%以上が好ましく、20重量%がさらに好ましく、30重量%が特に好ましく、40重量%が最も好ましい。
本発明のサイジング剤を構成する上記で説明した以外の成分としては、たとえば、各種界面活性剤や、各種平滑剤、酸化防止剤、難燃剤、抗菌剤、結晶核剤、消泡剤等を挙げることができ、1種または2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0036】
特に、界面活性剤は、本発明のサイジング剤中に、水不溶性または難溶性である樹脂成分を有する場合に、エポキシ樹脂Aとともに併用することによって、水系乳化を効率よく実施することができ、よって、サイジング剤を水分散体にすることができる。
界面活性剤としては、特に限定されず、非イオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤および両性界面活性剤から、公知のものを適宜選択して使用することができる。界面活性剤は、1種または2種以上を併用してもよい。
【0037】
非イオン系界面活性剤としては、たとえば、アルキレンオキサイド付加非イオン系界面活性剤(高級アルコール、高級脂肪酸、アルキルフェノール、スチレン化フェノール、ベンジルフェノール、ソルビタン、ソルビタンエステル、ヒマシ油、硬化ヒマシ油等にエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド等のアルキレンオキサイド(2種以上の併用可)を付加させたもの)、ポリアルキレングリコールに高級脂肪酸等を付加させたもの、エチレンオキサイド/プロピレンオキサイド共重合体等を挙げることができる。
アニオン系界面活性剤としては、たとえば、カルボン酸(塩)、高級アルコール・高級アルコールエーテルの硫酸エステル塩、スルホン酸塩、高級アルコール・高級アルコールエーテルの燐酸エステル塩等を挙げることができる。
【0038】
カチオン系界面活性剤としては、たとえば、第4級アンモニウム塩型カチオン系界面活性剤(ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、オレイルメチルエチルアンモニウムエトサルフェート等)、アミン塩型カチオン系界面活性剤(ポリオキシエチレンラウリルアミン乳酸塩等)等を挙げることができる。
両性界面活性剤としては、たとえば、アミノ酸型両性界面活性剤(ラウリルアミノプロピオン酸ナトリウム等)、ベタイン型両性界面活性剤(ステアリルジメチルベタイン、ラウリルジヒドロキシエチルベタイン等)等を挙げることができる。
【0039】
これらの界面活性剤は、通常、上記で説明した各種樹脂成分と比較して耐熱性が低い。そのため、本発明のサイジング剤中の配合比率を高くすると、炭素繊維ストランドとマトリックス樹脂によるコンポジット成型時に界面活性剤の熱分解によって、得られる成型物の特性に悪影響が及ぶ場合がある。それに対して、エポキシ樹脂Aでは、界面活性能(乳化能)を有し、しかも、これらの界面活性剤と比較して耐熱性に優れる。したがって、サイジング剤中のエポキシ樹脂Aの配合比率が高い場合でも、上記悪影響が発生しないという利点がある。
【0040】
〔炭素繊維ストランドの製造方法〕
本発明の炭素繊維ストランドの製造方法は、上記で説明したサイジング剤を原料炭素繊維ストランドに付着させ、得られた付着物を乾燥するサイジング処理工程を含む製造方法である。
サイジング剤を原料炭素繊維ストランドに付着させて付着物を得る方法については、特に限定はないが、サイジング剤をキスローラー法、ローラー浸漬法、スプレー法その他公知の方法で、原料炭素繊維ストランドに付着させる方法であればよい。これらの方法のうちでも、ローラー浸漬法が、サイジング剤を原料炭素繊維ストランドに均一付着できるので好ましい。
【0041】
得られた付着物の乾燥方法については、特に限定はないが、たとえば、加熱ローラー、熱風、熱板等で加熱乾燥することができる。
原料炭素繊維ストランドを構成する炭素繊維については、特に限定されるものではなく、たとえば、ポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、レーヨン系炭素繊維、フェノール系炭素繊維等を挙げることができる。これらのうちでも、PAN系炭素繊維およびピッチ系炭素繊維が、製造工程通過性や繊維特性に優れているので好ましい。
【0042】
PAN系炭素繊維は、アクリル繊維を出発原料(通常プレカーサーと称されることがある)として耐炎化処理工程、炭素化処理工程、表面処理工程を経て製造されるものであり、また、ピッチ系炭素繊維は、タールやピッチを出発原料として酸化不融化処理工程、炭素化処理工程を経て製造されるものである。
原料炭素繊維ストランドは、上記炭素繊維が束状となったものであり、その構成フィラメント数は特に限定されるものではないが、取り扱いの容易さの観点がら1000〜50000本が好ましい。また、そのストランド引張強度についても特に限定はされないが、通常3500MPa以上、好ましくは4000MPa以上のものが使用される。
【0043】
サイジング処理工程におけるサイジング剤の付着量については、特に限定はないが、本発明で得られる効果のバランスを考慮して、以下の実施例で示す計算方法で示される付着量が0.1〜5重量%(好ましくは0.5〜3重量%、さらに好ましくは0.8〜1.5重量%)となるように調整される。サイジング剤の付着量が0.1重量%未満であると、本発明の効果が十分に発揮されないことがある。また、得られた炭素繊維ストランドに使用するマトリックス樹脂の種類によっては、炭素繊維ストランドとマトリックス樹脂の接着性が悪くなる場合がある。一方、サイジング剤の付着量が5重量%超であると、炭素繊維ストランドの集束性が高すぎて、開繊性が低下したり、マトリックス樹脂が炭素繊維ストランド内部に含浸しにくくなる場合がある。
本発明による炭素繊維ストランドは、集束性、耐擦過性が良好で、かつ開繊性が良好であるため、高品位、高目付けの薄物プリプレグ等を製造することができる。
【実施例】
【0044】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、ここに記載した実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例に示されるパーセント(%)は特に限定しない限り、「重量%」を示す。各特性値の測定は、以下に示す方法に基づいて行った。
<付着量>
サイジング処理した炭素繊維ストランドWg(約3g)を450℃の電気炉で20分間処理して付着サイジング剤を完全に熱分解・揮散させる。冷却後、炭素繊維ストランドの重量を測定しWg、次式より付着量を算出する。
付着量(%)=( (W−W)/W)×100
【0045】
<不揮発分粘度>
サイジング剤を105℃で熱処理して溶媒等を除去、恒量に達しせしめサイジング剤の不揮発分を得る。得られた不揮発分の30℃における粘度を、コーンプレート型粘度計Viscometer V88(Malvern Instruments社製)により測定した。なお、この粘度計の測定可能範囲は10万mPa・s未満であるので、粘度10万mPa・s以上の不揮発分や、性状が固体状の不揮発分については、不揮発分の粘度が10万mPa・s以上であると定義した。
【0046】
<集束性>
炭素繊維ストランドをステンレス製のハサミを用いて約5mmの短繊維に裁断した時の集束状態(ばらけ度合い)を下記基準で目視判定した。
○:短繊維が裁断前とほぼ同じ状態
△:短繊維がややばらけたり、ストランド幅が大きくなったりする
×:短繊維が大きくばらけたり、または割れが生じたりする
【0047】
<F/F摩擦力>
炭素繊維ストランドを図1に示すF/F摩擦測定機にセッティングし、撚り存在下(撚り回数2回)荷重により30gの初期張力をかけて30cm/分の速度で引っ張った時の張力をF/F摩擦力とした。
【0048】
<耐擦過性>
TM式摩擦抱合力試験機TM−200(大栄科学精機社製)により、ジグザクに配置した鏡面クロムメッキステンレス針3本を介して50gの張力で炭素繊維ストランドを1000回擦過させ(往復運動速度300回/分)、炭素繊維ストランドの毛羽立ちの状態を下記基準で日視判定した。
◎:擦過前と同じく毛羽発生が全く見られない
○:数本の毛羽が見られるが耐擦過性良好
△:毛羽立ちがやや多く若干耐擦過性に劣る
×:毛羽立ちが多く、著しい単糸切れが見られる 耐擦過性不良
【0049】
<開繊性>
鏡面クロムメッキした直径10mmのステンレス棒5本をそれぞれ50mm間隔で平行且つ炭素繊維ストランドが120°の角度でジグザクに通過するように配置した。このステンレス棒間に炭素繊維ストランドをジグザクにかけ、初期張力1000gを付加しつつ1m/分の速度で通過させた時の、最終5本目のステンレス棒を通過した炭素繊維ストランドの拡がり幅(mm)を測定した。
【0050】
〔分子内にオキサゾリドン環を有するエポキシ樹脂の合成〕
反応機にポリエチレングリコール(分子量4000)500gを仕込み、撹拌、窒素パージ下で120℃まで加熱溶融し、脱水した。次に、約80℃まで冷却して、トリレン−2,4−ジイソシアネート44gを仕込み、80℃で5時間反応させた。次に、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(液状、エポキシ当量:189g/eq)152gを仕込み120℃まで昇温し、触媒としてテトラメチルアンモニウムブロマイド0.7gを添加して150℃で5時間反応させ、分子内にオキサゾリドン環を有するエポキシ樹脂(I)を得た。
【0051】
〔実施例1〕
エポキシ樹脂(I)を水で希釈して濃度3%の水分散体を作成し、サイジング剤未処理炭素繊維ストランド(繊度800tex、フィラメント数12000本)を浸漬・含浸させた後、105℃で15分間熱風乾燥させてサイジング剤処理炭素繊維ストランドを得た。本ストランドについて、前述の方法により付着量、不揮発分粘度、F/F摩擦力、耐擦過性、開繊性、集束性を評価した。その結果を表1に示した。
【0052】
〔実施例2〕
エポキシ樹脂(I)/POE(30)ビスフェノールAエーテル=30/70(重量比)よりなる組成物を水で希釈して濃度3%の水分散体を作成した以外は、実施例1と同様にして各特性値を評価した。その結果を表1に示した。
【0053】
〔実施例3〕
エポキシ樹脂(I)/POE(30)ビスフェノールAエーテル=50/50(重量比)よりなる組成物を水で希釈して濃度3%の水分散体を作成した以外は、実施例1と同様にして各特性値を評価した。その結果を表1に示した。
【0054】
〔実施例4〕
エポキシ樹脂(I)/JER1001(ジャパンエポキシレジン株式会社製、固状ビスフェノールA型エポキシ樹脂、エポキシ当量450〜500)/JER828(ジャパンエポキシレジン株式会社製、液状ビスフェノールA型エポキシ樹脂、エポキシ当量:184〜194)=40/36/24(重量比)よりなる組成物を乳化装置に仕込み、撹拌下水を序々に加え転相乳化させ、均一な白色分散液(I)を得た。白色分散体(I)の不揮発分は20重量%であった。白色分散体(I)を水で希釈して濃度3%の水分散体を作成した以外は、実施例1と同様にして各特性値を評価した。その結果を表1に示した。
【0055】
〔実施例5〕
エポキシ樹脂(I)/JER1001/JER828=60/24/16(重量比)よりなる組成物を使用した以外は、実施例4と同様にして各特性値を評価した。その結果を表1に示した。
【0056】
〔実施例6〕
エポキシ樹脂(I)/スーパーフレックス470(第一工業製薬株式会社製、カーボネート系ウレタン樹脂エマルジョン)を不揮発分比率で50/50(重量比)となるように配合し、水で希釈して濃度3%の水分散体を作成した以外は、実施例1と同様にして各特性値を評価した。その結果を表2に示した。
【0057】
〔実施例7〕
エポキシ樹脂(I)/エポリカR−105(シキボウ株式会社製、ビスフェノールA型ウレタンプレポリマーエマルジョン)を不揮発分比率で30/70(重量比)となるように配合し、水で希釈して濃度3%の水分散体を作成した以外は、実施例1と同様にして各特性値を評価した。その結果を表2に示した。
【0058】
〔実施例8〕
エポキシ樹脂(1)/エポリカR−105を不揮発分比率で30/70(重量比)となるように配合し、水で希釈して濃度3%の水分散体を作成した以外は、実施例1と同様にして各特性値を評価した。その結果を表2に示した。
【0059】
〔実施例9〕
エポキシ樹脂(I)/ウレタンアクリレートUA−306H(共栄社化学株式会社製、ペンタエリスリトールトリアクリレートヘキサメチレンジイソシアネートウレタンプレポリマー)=40/60(重量比)よりなる組成物を乳化装置に仕込み、撹拌下水を序々に加え転相乳化させ、均一な白色分散体(II)を得た。(不揮発分:20重量%) 本分散体を水で希釈して濃度3%の水分散体を作成した以外は、実施例1と同様にして各特性値を評価した。その結果を表2に示した。
【0060】
〔比較例1〕
POE(30)ビスフェノールAエーテルを水で希釈して濃度3%の水分散体を作成した以外は、実施例1と同様にして各特性値を評価した。その結果を表3に示した。
【0061】
〔比較例2〕
JER1001/JER828/POE(150)硬化ヒマシ油エーテル/POE(40)スチレン化フェニルエーテル=48/32/10/10(重量比)よりなる組成物を乳化装置に仕込み、撹拌下水を序々に加え転相乳化させ、均一な白色分散体(II)を得た。白色分散体(II)の不揮発分は20重量%であった。白色分散体(II)を水で希釈して濃度3%の水分散体を作成した以外は、実施例1と同様にして各特性値を評価した。その結果を表3に示した。
【0062】
〔比較例3〕
白色分散体(II)/スーパーフレックス470を不揮発分比率で70/30(重量比)となるように配合し、水で希釈して濃度3%の水分散体を作成した以外は、実施例1と同様にして各特性値を評価した。その結果を表3に示した。
【0063】
〔比較例4〕
スーパーフレックス470を水で希釈して濃度3%の水分散体を作成した以外は、実施例1と同様にして各特性値を評価した。その結果を表3に示した。
【0064】
〔比較例5〕
エポリカR−105を水で希釈して濃度3%の水分散体を作成した以外は、実施例1と同様にして各特性値を評価した。その結果を表4に示した。
【0065】
〔比較例6〕
ウレタンアクリレートUA−306H/POE(150)硬化ヒマシ油エーテル/POE(40)スチレン化フェニルエーテル=60/20/20(重量比)よりなる組成物を乳化装置に仕込み、撹拌下水を序々に加え転相乳化させ、均一な白色分散体(III)を得た。白色分散体(III)の不揮発分は20重量%であった。白色分散体(III)を水で希釈して濃度3%の水分散体を作成した以外は、実施例1と同様にして各特性値を評価した。その結果を表4に示した。
【0066】
〔比較例7〕
エポキシ樹脂(I)/POE(30)ビスフェノールAエーテル=30/70(重量比)よりなる組成物を水で希釈して濃度0.2%の水分散体を作成した以外は、実施例1と同様にして各特性値を評価した。その結果を表4に示した。
【0067】
〔比較例8〕
エポキシ樹脂(I)/POE(30)ビスフェノールAエーテル=30/70(重量比)よりなる組成物を水で希釈して濃度18%の水分散体を作成した以外は、実施例1と同様にして各特性値を評価した。その結果を表4に示した。
上記実施例および比較例で記載した濃度とは、希釈して得られる水分散液サイジング剤成分全体(不揮発分全体)の水分散体(水分散液)中の濃度を意味する。
【0068】
【表1】

【0069】
【表2】

【0070】
【表3】

【0071】
【表4】

【0072】
上記表において、サイジング剤成分で示した数値は、配合した各成分の重量比を示す。なお、これらの成分はいずれも105℃で熱処理しても重量減少は観察されず、絶乾状態の成分である。
上記表で使用したエポキシ樹脂(I)以外の各成分を以下に説明する。
POE(30)B.P.A.:POE(30)ビスフェノールAエーテル(ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物、付加モル数:30)
JER1001:固状ビスフェノールA型エポキシ樹脂
JER828:液状ビスフェノールA型エポキシ樹脂
スーパーフレックス470:カーボネート系ウレタン樹脂
エポリカR−105:ビスフェノールA型ウレタンプレポリマー
UA−306H:ペンタエリスリトールトリアクリレートヘキサメチレンジイソシアネートウレタンプレポリマー
POE(150)C.W.:POE(150)硬化ヒマシ油エーテル(硬化ヒマシ油のエチレンオキサイド付加物、付加モル数:150)
POE(40)S.P.:POE(40)スチレン化フェニルエーテル(スチレン化フェニルのエチレンオキサイド付加物、付加モル数:40)
【0073】
表1〜4から明らかなように、比較例の炭素繊維ストランドでは集束性・耐擦過性および開繊性が両立していないのに対して、実施例の炭素繊維ストランドでは、優れた集束性・耐擦過性を維持しながら良好な開繊性が得られている。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】F/F摩擦力の測定法を説明する模式図である。
【符号の説明】
【0075】
1 張力測定器
2 ガイドローラー
3 荷重
4 炭素繊維ストランド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素繊維ストランドの製造に用いられるサイジング剤であって、
分子量1000以上のポリアルキレングリコールとポリイソシアネート化合物とポリエポキシ化合物を反応して得られる、分子内にオキサゾリドン環を有するエポキシ樹脂を不揮発分全体の10重量%以上含有し、前記ポリアルキレングリコール中のエチレンオキシ構造単位の割合が70重量%以上である、
サイジング剤。
【請求項2】
前記ポリイソシアネート化合物が芳香族ポリイソシアネート化合物である、請求項1に記載のサイジング剤。
【請求項3】
前記ポリエポキシ化合物が芳香族ポリエポキシ化合物である、請求項1または2に記載のサイジング剤。
【請求項4】
前記分子内にオキサゾリドン環を有するエポキシ樹脂が、下記化学式(1)で示されるエポキシ樹脂である、請求項1〜3のいずれかに記載のサイジング剤。
【化1】

(但し、Rは分子量1000以上のポリアルキレングリコールより両末端の水酸基を除いた残基であり、前記ポリアルキレングリコール中のエチレンオキシ構造単位の割合が70重量%以上である。)
【請求項5】
炭素繊維ストランドの製造に用いられるサイジング剤であって、
繊度800texでフィラメント数12000本の原料炭素繊維ストランドにサイジング剤付着量1重量%で処理した後に得られる炭素繊維ストランドのF/F摩擦力が250g以下であり、
サイジング剤の不揮発分の30℃における粘度が1000mPa・s以上である、
サイジング剤。
【請求項6】
4,4’−イソプロピリデンジフェノールのアルキレンオキサイド付加物をさらに含有する、請求項1〜5のいずれかに記載のサイジング剤。
【請求項7】
前記アルキレンオキサイド付加物がエチレンオキサイド付加物である、請求項6に記載のサイジング剤。
【請求項8】
エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ビニルエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂およびフェノール樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種をさらに含有する、請求項1〜7のいずれかに記載のサイジング剤。
【請求項9】
水分散体である、請求項1〜8のいずれかに記載のサイジング剤。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載のサイジング剤を原料炭素繊維ストランドに付着させ、得られた付着物を乾燥するサイジング処理工程を含む、炭素繊維ストランドの製造方法。
【請求項11】
前記サイジング処理工程が、得られた炭素繊維ストランドの重量をW(g)として、これを450℃の電気炉で20分間処理した後の重量をW(g)とした場合、下記計算式で求められる付着量(重量%)が0.1〜5重量%となるように、サイジング剤を原料炭素繊維ストランドに付着させる工程である、請求項10に記載の炭素繊維ストランドの製造方法。
付着量(重量%)=((W−W)/W)×100

【図1】
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【公開番号】特開2008−2046(P2008−2046A)
【公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−200017(P2006−200017)
【出願日】平成18年6月23日(2006.6.23)
【出願人】(000188951)松本油脂製薬株式会社 (137)
【Fターム(参考)】