説明

サイトメガロウイルス感染の処置におけるシクロスポリン類の使用

【課題】本発明はシクロスポリン、その医薬組成物およびCMV感染の処置における使用を指向する。
【解決手段】非免疫抑制性シクロスフィリン結合シクロスポリン、例えば式(1)で示される化合物


を含む医薬組成物を単独で、または他の抗CMV特性を有する薬剤との組み合わせにおいて、CMV感染またはCMV誘発障害の防御、処置または予防のために提供する。または、これら医薬組成物を投与することによって、CMV感染またはCMV誘発障害を防御、処置または予防するための方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は非免疫抑制性シクロスポリン類の新たな使用に関する。
【0002】
シクロスポリン類は、共通して薬理学的、特に免疫抑制性または抗炎症性活性を有している、構造的に特徴のある環状、ポリ−N−メチル化アンデカペプチドのクラスを含む。シクロスポリン類のうち最初に単離されたものは、シクロスポリンAとしても公知である天然に存在する真菌代謝物シクロスポリン(ciclosporin)またはシクロスポリン(cyclosporine)であった。
【0003】
シクロスポリンAがIL−2の転写開始を遮断することによるT細胞活性化の過程を干渉することにより作用することは十分に確立されている。シクロスポリンAは多くの細胞型で生じ、そしてタンパク質フォールディングに関与する酵素であるペプチジル−プロリルシス−トランスイソメラーゼと同一であることが示されているシクロフィリンと称される17kDaのサイトゾルタンパク質と複合体を形成することが示されている。
【0004】
シクロフィリンと強力に結合するが、免疫抑制性でないシクロスポリン類が同定されている。混合リンパ球反応(MLR)でシクロスポリンAの活性の5%を超えない、好ましくは2%を超えない活性を有している場合、シクロスポリンは非免疫抑制性であると考えられる。MLRはT. Meo, "Immunological Methods", Lefkovits and Peris, Eds., Academic Press, NY, pp. 227-239 (1979)に記載されている。Balb/cマウス(雌、8−10週齢)に由来する脾臓細胞(0.5×10)を放射線照射した(2000ラド)またはマイトマイシンC処理したCBAマウス(雌、8−10週齢)に由来する脾臓細胞0.5×10と5日間同時インキュベートする。放射線照射した同種異系細胞はBalb/c脾臓細胞において増殖応答を誘発し、これはDNAへの標識された前駆体の組込みにより測定することができる。刺激細胞は放射線照射される(またはマイトマイシンC処理される)ので、これらはBalb/c細胞に対して増殖で応答することはないが、その抗原性は保持している。MLRにおいて被験化合物に関して見出されたIC50を並行実験でシクロスポリンAに関して見出されたIC50と比較する。加えて、非免疫抑制性シクロスポリン類はCNおよび下流NF−AT経路を阻止する能力を欠如する。
【0005】
欧州特許第0484281A1号はAIDSまたはAIDS関連障害の処置における非免疫抑制性シクロスポリン類の使用を開示している。WO2005/0212028はC型肝炎ウイルス(HCV)の処置における非免疫抑制性シクロスポリン類の使用を開示している。本発明により、驚くべきことにシクロフィリンに結合する非免疫抑制性シクロスポリン類がサイトメガロウイルス感染(CMV)に阻止効果を有することが見出された。
【0006】
図面の簡単な説明
図2:(J)は対照およびCSA処理したIE1陽性細胞の比較を示すグラフを表す。(K)は対照およびCSA処理したIE1陽性細胞の間の感染細胞の力価を示すグラフを表す。
【0007】
図4:(A)はCSA処理により引き起こされたIE1細胞の抑制に及ぼす影響を示すグラフを表す。矢印はCsAが放出される時点を示している。
【0008】
図5:(A)はCSAまたはNIM811(B)のいずれかで処理した感染または対照培養において測定されるIE1陽性細胞パーセントを比較するグラフを表す。(D)はIE1陽性細胞に及ぼすCsAの種々の濃度の影響を測定するグラフを表す。
【0009】
発明の開示
CMVは体内に休止状態でとどまる特徴的な能力を共通して有しているヘルペスウイルス群のメンバーである。最初のCMV感染はあまり症状がないことがあるが、常に長期の感染が続き、その間、検出可能な損傷または臨床疾患を引き起こさずにウイルスが細胞に存在する。薬物治療または疾患による体の免疫系の重篤な機能障害は一貫してウイルスを潜伏または休止状態から再活性化する。
【0010】
感染性CMVは以前に感染したいずれのヒトの体液にも放出され、そしてしたがって、尿、唾液、血液、涙液、精液および母乳で見出され得る。検出可能な兆候なしに、かつ症状を引き起こすことなく、ウイルスの放出は断続的に行われ得る。
【0011】
米国および世界中でCMVは、先天性ウイルス感染のような中枢神経系(CNS)に影響する先天異常の最も重要な感染原因である。CMVに感染したとき、ほとんどの女性に症状はなく、そして極稀に単核球症に類似する疾患を有する。彼女らの発達中の胎児が、先天性CMV疾患のリスクを有し得ることになる。CMVはまた臓器移植の移植者、血液透析を行っている患者、癌の患者、免疫抑制剤を投与されている患者およびHIV感染患者を含む免疫不全の個体において脳損傷を引き起こす。肺炎、網膜炎(眼の感染)および胃腸疾患はかかる疾患の共通した徴候である。このウイルスにより脳損傷に至る正確なメカニズムは十分には解明されていない。免疫不全の、または生命を脅かす疾病を有する患者におけるCMV感染を処置するために、現在抗ウイルス治療が処方されているが、多くの抗ウイルス治療が高毒性である。
【0012】
したがって、本発明はCMV感染またはCMV誘発障害の防御または処置における非免疫抑制性シクロフィリン結合シクロスポリン類の使用を提供する。
【0013】
CMV感染またはCMV誘発障害には網膜炎、肺炎、胃腸疾患、乳幼児の神経成長および発達の問題が挙げられる。また非免疫抑制性シクロフィリン結合シクロスポリン類を、例えばCMV感染の母から生まれた新生児、またはウイルスに暴露されたヘルスケアもしくは保育に携わる者、または移植者、HIVもしくはAIDS患者の予防的処置として用いることもできる。
【0014】
Quesniaux, Eur J Immunol, Vol. 17, pp. 1359-1365 (1987)に記載される競合ELISA試験において、シクロスポリンがシクロスポリンAの結合の少なくとも5分の1でヒト組換えシクロフィリンに結合するとき、シクロスポリンはシクロフィリンに結合すると考えられている。この試験では、シクロフィリンをBSAコートしたシクロスポリンAと共にインキュベートする間に試験すべきシクロスポリンを加え、そして競合物質なしで対照反応の50%阻止を得るのに必要とされる濃度を算出する(IC50)。結果を結合比率(BR)として表現し、これは被験化合物のIC50およびシクロスポリンA自体の同時試験におけるIC50の比率の10を基数とする対数である。したがって、1.0のBRは被験化合物がシクロスポリンAの結合よりも10倍少なくヒトシクロフィリンに結合することを示しており、そして負の値はシクロスポリンAの結合よりも強力に結合することを示している。CMVに対して活性であるシクロスポリン類は0.7よりも低いBRを有し、好ましくはゼロに等しいかまたはそれよりも低い。
【0015】
非免疫抑制性シクロフィリン結合シクロスポリン類の実例には、例えば式(I):
【化1】

(式中、
WはMeBmt、ジヒドロ−MeBmtまたは8'−ヒドロキシ−MeBmtであり;
XはαAbu、Val、Thr、NvaまたはO−メチルスレオニン(MeOThr)であり;
RはSar、(D)−MeSer、(D)−MeAlaまたは(D)−MeSer(Oアセチル)であり;
YはMeLeu、γ−ヒドロキシ−MeLeu、MeIle、MeVal、MeThr、MeAla、MeaIleまたはMeaThr;N−エチルVal、N−エチルIle、N−エチルThr、N−エチルPhe、N−エチルTyrまたはN−エチルThr(Oアセチル)であり;
ZはVal、Leu、MeValまたはMeLeuであり;そして
QはMeLeu、γ−ヒドロキシ−MeLeuまたはMeAlaである)
の化合物が挙げられる。
【0016】
基W、X、Y、Z、QおよびRは独立して以下の好ましい意味を有する:
Wは好ましくはW’であり、ここでW’はMeBmtまたはジヒドロ−MeBmtであり;
Xは好ましくはX’であり、ここでX’はαAbuまたはNvaであり、さらに好ましくはX”であり、ここでX”はαAbuであり;
Rは好ましくはR’であり、ここでR’はSarであり;
Yは好ましくはY’であり、ここでY’はγ−ヒドロキシ−MeLeu、MeVal、MeThr、MeIle、N−エチルIleまたはN−エチルValであり;
Zは好ましくはZ’であり、ここでZ’はValまたはMeValであり;そして
Qは好ましくはQ’であり、ここでQ’はMeLeuである。
【0017】
式(I)の化合物の好ましい群は、WがW’であり、XがX’であり、YがY’であり、ZがZ’であり、QがQ’であり、そしてRがR’であるものである。
【0018】
式(I)の好ましい化合物の実例は、例えば:
a)[ジヒドロ−MeBmt]−[γ−ヒドロキシ−MeLeu]−シクロスポリン;BR=0.1;IR<1%
b)[MeVal]−シクロスポリン;BR=0.1;IR<1%
c)[MeIle]−シクロスポリン;BR=−0.2;IR<1%
d)[MeThr]−シクロスポリン;
e)[γ−ヒドロキシ−MeLeu]−シクロスポリン;BR=0.4;IR<1%
f)[エチルIle]−シクロスポリン;BR=0.1;IR<2%
g)[エチルVal]−シクロスポリン;BR=0;IR<2%
h)[Nva]−[γ−ヒドロキシ−MeLeu]−シクロスポリン;
i)[γ−ヒドロキシ−MeLeu]−[γ−ヒドロキシ−MeLeu]−シクロスポリン;
j)[MeVal]−シクロスポリン;BR=0.4;IR=5.3%
k)[MeOThr]−[(D)MeAla]−[MeVal]−シクロスポリン;
j)[8’−ヒドロキシ−MeBmt]−シクロスポリン;BR=0.35;IR=1.8%
k)[MeAla]−シクロスポリン;BR=−0.4;IR=3.2
l)[γ−ヒドロキシ−MeLeu]−シクロスポリン;BR=0.15;IR=2.9
IR=免疫抑制性比率(シクロスポリンAに相対した活性のパーセンテージとして表現する)
【0019】
式(I)の化合物は種々の方法で得られ、これは欧州特許第号0484281A1またはWO00/01715(その内容は出典明示により本明細書の一部とする)に開示されるように:
1)発酵
2)生体内変換
3)誘導体化
4)部分合成
5)全合成
として分類され得る。
【0020】
一連のさらに具体的なまたは代替の実施態様では、本発明はまた:
1.1 治療的有効量の非免疫抑制性シクロフィリン結合シクロスポリン、例えば式(I)の化合物を対象に投与することを含む、それを必要とする対象においてCMV感染またはCMV誘発障害を予防または処置する方法;
1.2 この培地に有効量の非免疫抑制性シクロフィリン結合シクロスポリン、例えば式(I)の化合物を適用することを含む、培地におけるCMV複製を阻止する方法;
1.3 治療的有効量の非免疫抑制性シクロフィリン結合シクロスポリン、例えば式(I)の化合物を対象に投与することを含む、それを必要とする患者においてCMV複製を阻止する方法;
1.4 治療的有効量の非免疫抑制性シクロフィリン結合シクロスポリン、例えば式(I)の化合物を移植者に投与することを含む、それを必要とする移植者においてCMV感染の再発を防止する方法;
2. 前記した任意の方法において使用するための医薬組成物の調製における非免疫抑制性シクロフィリン結合シクロスポリン、例えば式(I)の化合物の使用;
3. 1つまたはそれより多い薬学的に許容される希釈剤またはその担体と一緒に非免疫抑制性シクロフィリン結合シクロスポリン、例えば式(I)の化合物を含む、前記した任意の方法において使用するための医薬組成物;
4. 治療的有効量の非免疫抑制性シクロフィリン結合シクロスポリン、例えば式(I)の化合物を対象に投与することを含む、それを必要とする免疫障害を有する該対象においてCMV感染またはCMV誘発障害を防御または処置する方法;
をも提供する。
【0021】
ヒト対象の研究には明らかな限界があり、そしてCMVは厳密な種特異性を有するので、モデル系はマウスCMV(MCMV)でのマウス胎仔の感染により誘発された脳異常ついて利用可能である(Tsutsui, Y., Kashiwai, A., Kawamura, N. & Kadota C. (1993) Am J Pathol 143, 804-13; Tsutsui, Y., (1995) Pathol Int 45, 91-102)。マウス神経幹細胞はMCMVに感受性が高く(Kosugi, I., Sjinmura, Y., Kawasaki, H., Arai, Y., Li, R. Y., Baba, S. & Tsutsui, Y. (2000) Lab Invest 80, 1373-83)、神経幹/前駆細胞(NSPC)調製物を含む未成熟グリア細胞の量が脳切片におけるMCMVに対する感受性を決定し(Kawasaki, H., Kosugi, I., Arai, Y. & Tsutsui, Y. (2002) Lab Invest 82, 1347-58)、そして神経幹細胞におけるMCMVの潜伏の可能性が示唆されている(Tsutsui, Y., Kawasaki, H. & Kosugi, I. (2002) J Virol 76, 7247-54)。この証拠によりCNS神経幹/前駆細胞の感染がヒトのCNS疾患に寄与し得ることが示される。
【0022】
神経幹細胞(NSC)は長期の自己再生能を有する未成熟細胞であり、そしてニューロン、グリアおよび乏突起膠細胞のような神経細胞表現型に分化する能力を有している(Reynolds, B. A., Tetzlaff, W. Weiss, S. (1992) J Neurosci 12, 4565-74)。
【0023】
NSCの脳への移植はパーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、卒中、ハンチントン病(Lindvall, O., Kokaia, Z. & Martinez-Serrano, A. (2004) Nat Med 10 Suppl, s 42-50)およびさらにはウイルス特異的脳損傷のような多くの脳疾患の処置になり得る。しかしながら、拒絶応答のような重大な課題は、かかる拒絶の1つの結果がCMVの再活性化であり得るので重要である(Li, R. Y., Kosugi, I. & Tsutsui, Y. (2004) Acta Neuropathol (Berl) 107, 406-12)。NSC移植治療では免疫抑制処置が必要かもしれない(Barker, R. A. & Widner, H. (2004) Neurorx 1, 472-481)。同種異系の胎仔移植片での結果により、有効な免疫抑制が、移植後少なくとも1年間、パーキンソン病の機能的結果を最適化するのに必要であること示唆される(Olanow, C. W., Goetz, C. G., Kordower, J. H., Stoessl, A. J., Sossi, V., Brin, M. F., Shannon, K. M., Nauert, G. M., Perl, D. P., Godbold, J. & Freeman, T. B. (2003) Ann Neurol 54, 403-14)。
【0024】
驚くべきことに、非免疫抑制性シクロフィリン結合シクロスポリンはNSPCにおいてMCMVのレベルを有意に低下させた。幹/前駆細胞におけるMCMVの複製が非免疫抑制性シクロフィリン結合シクロスポリンにより抑制された場合、細胞は数週間ウイルスゲノムを保持した。非免疫抑制性シクロフィリン結合シクロスポリンを培養から抜いた場合、これらの細胞において活発なウイルス複製が再開され、これは阻止用量の非免疫抑制性シクロフィリン結合シクロスポリンの存在下でマウスNSPCが潜伏性/持続性感染を支持したことを示唆している。具体的には、我々はNSPCにおけるMCMV複製に及ぼす免疫モジュレーター、シクロスポリンA(CsA)の影響に取り組んでいる。CsAはこれらの細胞において用量依存的な様式でMCMV複製を抑制するが、関連化合物FK506は抑制しない。
【0025】
したがって1つの態様では、前記で特定したCMV感染に関連する疾患および症状の処置における非免疫抑制性シクロフィリン結合シクロスポリン類(以後「本発明のシクロスポリン類」)の有用性を、例えば後記する方法にしたがって標準的な動物または臨床試験で実証することができる。
【実施例】
【0026】
NSPC培養
ネズミEGF−、FGF−応答性CNS NSPCを7、21日齢のBALB/cマウスおよび胎仔BALB/cマウス(SLC Japan)の脳室下帯から調製する。成体のSVZを刻み、次いでトリプシン1.33mg、0.67mg/mlヒアルロニダーゼおよび0.2mg/mlキヌレン酸(全てSigma(Missouri, USA)より)を含有する標準培養培地中37℃で30分間解離させる。組織を0.7mg/mlトリプシン阻害剤(Roche Diagnostics)を含有する標準培養培地に移す。これらの切片をマイクロピペットで機械的に解離させる。胎仔マウス(E15)および7日齢マウスに由来する大脳半球もまた機械的に解離させる。双方の細胞懸濁液を5%B27サプリメント(Gibco)を含有する、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)ならびに5mM Hepesバッファー、0.6%グルコース、3mM炭酸水素ナトリウムおよび2mMグルタミンを含有するF−12培地(Gibco BRL)の1:1混合物中で成長させる。前記の培地に20ng/ml EGF(マウス顎下腺から精製;Becton Dicinson(Bedford, MA))およびbFGF(組換えヒトFGFは大腸菌により発現される;Sigma)を20ng/mlで、ならびにヘパリンを加える。懸濁液中7−14日後に培養単細胞は細胞塊(sphere)になる。これらの細胞塊を神経上皮細胞マーカー、アンチネスチンに対するウサギポリクローナル抗体(Dr. H. Kitani, 動物衛生研究所(つくば市、日本)により提供される)、マウスMusashi1に特異的なラットモノクローナル抗体(mAb)(Dr. Okano, 慶應義塾大学医学部(日本)により提供される)およびモノクローナルマウス抗ブタビメンチン抗体(DAKO(日本))で免疫染色することによりNSPCとして確認する。細胞塊を形成することができる細胞のクローン性を試験するために、Kosugi et al., Lab Invest, Vol. 80, pp. 1373-1383 (2000)に記載されるように、球形からの細胞を96ウェルプレートにプレートする。培養の7日後、細胞塊の存在または不在に関してウェルを検査する。
【0027】
CNS NSPCの分化の誘導
Reynolds and Weiss, Dev Biol, Vol. 175, pp. 1-13 (1996)に記載されるようにCNS幹細胞の分化の誘導を行う。継代後4日間培養した細胞塊のNSPCを100mg/mlポリ−D−リジン(Sigma(St. Louis, MO))でコーティングしたガラスカバースリップにプレートする。細胞塊をEGF、FGFを欠如するが、1%熱不活性化ウマ血清(Gibco)を補充した培地で分化誘導させる。分化後5日に、カバースリップ上で培養した細胞を4%パラホルムアルデヒド(PFA)で固定し、そしてウシグリア細胞繊維性酸性タンパク質(GFAP)(Dako)に対するウサギポリクローナル抗体、マウスモノクローナル抗βチューブリンIII(神経マーカー)(Sigma)およびAnti-Human Olig2 Rabbit IgG Affinity(IBL)を用いることにより免疫細胞化学により分析する。
【0028】
CsA、FK506、NIM811、PSC833
CsA(Sigma)を最初にエタノールに溶解し、ストック溶液を−30℃で保存した。FK506(タクロリマス)は藤沢薬品工業(日本)による恵与である。CsA誘導体、NIM811およびPSC833はNovartis Pharma AG(Basel, Switzerland)からの恵与であり、エタノールに溶解されている。培養に添加する直前にDMEM/F12培地を用いて化合物を望ましい濃度に希釈する。
【0029】
細胞生存性の分析
NSPCは未処理であるか、またはCsA、NIM811、PSC833、FK506で処理し、そしてヨウ化プロピジウム(PI)(5μg/ml)を与えられる。フローサイトメトリー分析を実施して、PIの取り込み(LFL−3チャネル)および細胞サイズ(前方散乱光)を同時にモニタリングする。正常な細胞サイズ集団内では、Mangan, Welch and Wahl, J Immunol, Vol. 146, pp. 1541-1546 (1991)に定義されるように、PIに対して低い透過性を表示する細胞は生存細胞であると理解される。生存細胞を示すために、7日培養の後にPI陰性比率を確認し、そして細胞を計数する。
【0030】
ウイルス調製
GFP(EGFP)増強RM4503を発現することができるMCMVのK181株から誘導した組換えウイルスをこれらの試験において使用する(van Den Pol et al., J Neurosci, Vol. 19, pp. 10948-10965 (1999)参照)。RM4503は、MCMVゲノムのMCMVエンハンサーに近接して挿入されたHCMVプロモーター−エンハンサーフラグメント(転写開始部位に相対して242から+7)から構成されるキメラプロモーター−エンハンサーの制御下でマーカー遺伝子インサートを発現するように構築される。発現カセットをMCMV IE2遺伝子に挿入するが、これは細胞培養におけるウイルス成長に関して、ならびにBALB/cマウスにおける成長、潜伏性および病原性に関して完全に可欠であることが示されている。腹腔内接種の後、RM4503は唾液腺において野生型に類似する力価に到達する。
【0031】
ウイルス感染
懸濁液中に解離したNSPCまたはマウス胎仔線維芽細胞(MEF)を種々の感染多重度(MOI)でMCMVで、および新鮮培養培地で感染させる。MEFを用いるプラークアッセイにより細胞のアリコートでウイルス力価を測定する。その他の細胞のアリコートを免疫蛍光およびフローサイトメトリーによるMCMV抗原の検出のために加工する。
【0032】
フローサイトメトリー
フローサイトメトリーのために、細胞塊のCNS NSPCを機械的解離で処理し、そして次に4%パラホルムアルデヒドで固定し、そして70%エタノール中で保存する。T−PBS(0.2%Triton−X−100および5%FBSを含有するPBS)で洗浄した後、細胞を懸濁液中で、Shinmura et al., Am J Pathol, Vol. 151, pp.1331-1340 (1997)に記載される最初期(IE)−89K抗原に特異的なN2モノクローナル抗体(mAb)およびウサギ抗シクロフィリンA抗血清と反応させる。2次標識のために、FITC抱合ウサギ抗ラット免疫グロブリン(DAKO(日本))を用いてMCMV抗原を検出する。FITC抱合ブタポリクローナル抗ウサギ免疫グロブリン(DAKO)またはフィコエリトリン抱合アフィニティー精製ヤギ抗ウサギIgG(Rockland Immunochemicals Inc(Gilbertsville, PA, USA))をシクロフィリンA抗原に用いる。各分析に関して1×10個のゲートをかけられた細胞で、EPICSプロファイル分析器(Coulter(Miami, FL))を用いるフローサイトメトリーにより染色された細胞を分析する。次いで全ての2次抗体の交差反応性の不在を確認する。
【0033】
トランスフェクションおよびレポーターアッセイ
ヌクレオフェクターエレクトロポレーター(Amaxa Biosystems(ドイツ))を用いて、製造者の推奨するプロトコールに従って、マウスNSPCおよびEL−4細胞(マウス:Tリンパ球;リンパ腫)へのトランスフェクションを行う。デュアル−ルシフェラーゼレポーターアッセイ系(Promega(Madison, WI))を用いてレポーターアッセイを行う。エレクトロポレーションの後、EL−4をホルボール12−ミリスタート13−アセタート(PMA)(10nM)(Sigma)およびイオノマイシン(1mM)(Sigma)によりCsAまたはFK506と共に24時間刺激する。実験的レポーター遺伝子(組換えホタルルシフェラーゼ)を内部対照(組換えウミシイタケルシフェラーゼ)の活性に標準化することにより細胞生存性およびトランスフェクション効率における差異により引き起こされる変動が最小化される。レポータープラスミドはpNF−AT−Luc、pAP−1−Luc、pNF− B−Luc(PathDetectレポーター系;stratagene(La Jolla, CA))およびpRL−TK(デュアル−ルシフェラーゼレポーターアッセイ系;Promega)である。インビトロおよびインビボでの発現分析のためのMCMV IE遺伝子プロモーターLacZレポーター遺伝子をAiba-Masago et al., Am J Pathol, Vol. 154, pp. 735-743 (1999)に従って構築する。ヌクレオチド−1343から−6(1388bp)を含有するMCMV−IEプロモーター領域をSV40に由来する核局在シグナル、大腸菌βガラクトシダーゼ(β−Gal)コード化配列、ならびにマウスプロタミン由来のポリ(A)およびイントロンに関する配列を含有するpnlacFベクターに挿入する。CsAまたはNIM811と共にβ−Gal酵素アッセイ系(Promega)を用いてβ−Gal酵素アッセイを行う。β−Gal活性の活性を標準化するために、各実験で組換えウミシイタケルシフェラーゼ活性を確認する。
【0034】
組換えシクロフィリンAでの逆転実験
組換えMCMVを感染させたNSPCをCsAまたはNIM811(0.5μM)の存在下で培養し、次いで1−100ng/mlヒト組換えシクロフィリンA(CyPA)(BioMol(Plymouth Meeting, PA))を培地に加える。フローサイトメトリーにより感染後10日にIE1陽性NSPCのパーセンテージを確認する。
【0035】
実施例1
神経幹/前駆細胞の単離およびその生存性に及ぼす薬物の効果
成体NSPCを21日齢のBALB/cマウスの脳室下帯から収集し、そして前記したようにEGFおよびFGFと一緒に血清不含培地条件下で培養する。EGFおよびFGFに応答して、単一の神経幹細胞が増殖してニューロスフェアーを作成する。これらの細胞の継代培養により、これらの細胞の自己再生能力が延長されていることが示される。自己再生は幹細胞の定義に極めて重要であり、そしてクローンアッセイにより試験される(Reynolds, B. A. & Weiss, S, (1996) Dev Biol 175, 1-13)。解離され、希釈された幹細胞のプレーティングの7日後に、幹細胞の4.77%が細胞塊として再生される。より関係づけられた細胞であると考えられるその他の細胞は神経前駆細胞と称される。免疫細胞化学的染色により、未分化の細胞塊はネスチン、初期の神経外胚葉細胞マーカー、その他の神経幹/前駆マーカー、Musashi-1およびビメンチンを発現することが実証される。ニューロスフェアーが前記したようなニューロン、星状細胞および乏突起膠細胞に分化し得ることが確認されている。被験化合物により非特異的毒性を引き起こし得る可能性を排除するために、種々濃度の化合物で7日間処理した後、PI取り込みの測定および細胞計数を用いることにより細胞生存性を試験する。1μMもの全薬物(CsA、FK506、NIM811、PSC833)で処理した後、毒性はほとんど観察されない。0.5μMCsA処理下でNSPCはニューロン、星状細胞および乏突起膠細胞に分化することができる。
【0036】
実施例2
NSPCにおいてCsAはMCMV増殖を抑制する
単離および解離の直後に、NSPCをMCMV(RM4503)で細胞あたり1プラーク形成単位(PFU)のMOIで感染させる。感染した細胞は感染後3日からGFP媒介の緑色蛍光を示し、そしてGFP発現細胞の数はインキュベーション時間の経過とともに増加する。CsA処理下の細胞はその他の全培養期間に対照培養よりも少ししかGFP陽性細胞を示さない。細胞における感染性を評価するために、MCMV IE1抗原に特異的なN2 mAbを用いて免疫細胞染色を行う(Shinmura, Y., Aiba-Masago, S., Kosugi, I., Li, R. Y., Baba, S. & Tsutsui, Y. (1997) Am J Pathol 151, 1331-40.)。MOIが1で感染した後、対照およびCsA処理培養でIE1陽性細胞のパーセンテージを決定する。MCMV感染後5、7および10日に、CsA処理培養では対照培養よりもIE1陽性細胞が有意に少ない。種々の培養期間からのアリコートのウイルス力価をプラークアッセイ法により試験する。MCMV感染後5、7および10日に、CsA処理培養は対照培養よりも有意に低いウイルス力価を示す。ウイルス複製の阻止を示すことにおいて、IE1陽性細胞のパーセンテージ(図2J)は感染ウイルスの力価(図2K)とよく相関した。NSPCにおけるCsA処理に及ぼすウイルス負荷の影響を知るために、0.5μMCsA処理下、種々のMCMVウイルス力価(MOIは0.1、1、10)でCsA培養と対照培養との間でIE1陽性細胞のパーセンテージを比較する。CsAは全てのウイルス用量でMCMV感染を抑制するが、低MOIでより有効である。
【0037】
MOIが1で感染したNSPCの感染性におけるCsAの用量依存性をも調査する。CsA濃度が上昇するにつれて、MCMVの感染性は比例して低下する。これらの結果により、CsAが用量依存的な様式でMCMVを阻止することが示される。CsAによるMCMVの阻止がNSPCの全発達段階で共通した現象であることを確認するために、BALB/cマウスに由来する胎仔NSPCを妊娠15日で、ならびに7および21日齢のマウスから単離する。7dpiでのMCMV(MOIは1)に対する感受性を発達途上のNSPCの間で比較する。データは、CsAは全ての発達中のNSPCでMCMVを阻止するが、胎仔および7日齢NSPCは21日齢マウスのものよりも約3倍感受性が高いことを示している。
【0038】
MCMVに対して最も感受性の高い細胞であるマウス胎仔線維芽細胞(MEF)におけるMCMV増殖に及ぼすCsAの影響もまた試験する。CsAにより非特異的毒性が引き起こされる可能性を排除するために、CsAで7日間処理した後、PI取り込みの測定および細胞計数を用いることにより細胞生存性を試験する。0.5μMものCsAで処理した後にも毒性はほとんど観察されない。MOI1でMEFをMCMV(RM4503)で感染させる。感染後3日(dpi)でほとんどのMEFがGFPを発現し、そして細胞変性効果(CPE)を示す。0.5μMCsAで処理したMEFは対照培養と比較してGFP陽性細胞およびCPEに関してMCMV感染性にほとんど影響を示さない。IE1陽性細胞のパーセンテージおよび種々の培養期間からのアリコートのウイルス力価は対照培養とCsA処理培養の間でほとんど差異を示さない。
【0039】
実施例3
MCMV増殖に及ぼすCsA阻止の免疫抑制効果
CsAおよびFK506はT細胞で免疫抑制効果を示すために共通の標的、カルシニューリン(CN)を有する。FK506はCsAよりもおよそ100倍大きい免疫抑制活性を有することが報告されている(Sawada, S., Suzuki, G., Kawase, Y. & Takaku, F. (1987) J Immunol 139, 1797-803.)。我々の研究では、FK506は、GFP陽性細胞に関して0.5μM FK506でMCMV感染を阻止しない。IE1陽性細胞のパーセンテージにより、FK506は薬物用量(0.1、0.5、1.0μM)でCsAの効果と比較した場合、MCMV感染に抑制効果をほとんど呈さないことが示される。プラークアッセイにより、FK506は0.5μMでMCMV増殖を抑制しないことが示される。これらの結果により、CsAによるMCMVの阻止効果はCN経路に関係しないことが示唆される。CsAは細胞標的分子、シクロフィリン(CyP)に結合し、そしてそのペプチジル−プロリルシス/トランスイソメラーゼ機能を不活性化することが解っている(Matsuda, S. & Koyasu, S. (2000) Immunopharmacology 47, 119-25)。しかしながら、この不活性化は免疫抑制のメカニズムに関与しない。NIM811はシクロフィリンに結合できるが、CNおよびその下流のNF−AT経路の阻止能力を欠如する非免疫抑制性CsA類似体である(Billich, A., Hammerschmid, F., Peichl, P., Wenger, R., Zenke, G., Quesniaux, V. & Rosenwirth, B. (1995) J Virol 69, 2451-61)。NIM811は対照培養と比較して、0.5μMでMCMV感染を抑制する。IE1陽性細胞のパーセンテージにより、NIM811は用量依存的な様式でMCMV増殖を阻止することが示される。プラークアッセイデータにより、対照培養と比較して、0.5μMの濃度でMCMV増殖を約1/400に抑制することが示される。PSC833はシクロフィリンともCN/NF−AT経路とも結合する能力を有さないp−糖タンパク質阻害剤として知られているCsA誘導体である(Keller, R. P, et al. (1992) Int J. Cancer 50, 593-7)。PSC833はNIM811と比較して、MCMV IE1発現および増殖のレベルに影響しない。これらの結果により、シクロフィリンはNSPCにおいてCsAによるMCMV阻止の主要な標的であることが示唆される。CsA/CyP複合体はカルシニューリンに直接結合し、そしてホスファターゼ活性を阻止し、その結果、転写因子NF−ATのサイレンシングに至る。CN/NF−AT経路の阻止はT細胞におけるCsA媒介の免疫抑制に必須のメカニズムである(Matsuda, S. & Koyasu, S. (2000) Immunopharmacology 47, 119-25)。
【0040】
CsAによるMCMV増殖の阻止効果のメカニズムがCN/NF−AT阻止能力に関係するかどうかを明らかにするために、レポーターアッセイによりCsAで処理したNSPCにおけるNF−ATの転写活性を試験する。Tリンパ球細胞系(EL−4)においてNF−ATの活性は0.1μMの濃度でCsAにより抑制されるが、高濃度のCsAでさえ、CsAはNSPCにおけるNF−AT活性に影響を及ぼさない。FK506もまたTリンパ球において0.01μMの濃度でさえNF−AT活性を阻止する。CsAはNF−ATに加えてAP−1およびNF−κBの活性に影響することが報告されており、これはCN/NF−AT経路以外の別の標的の存在を意味している(Mattila, P. S., Ullman, K. S., Fiering, S., Emmel, E. A., McCutcheon, M., Crabtree, G. R. & Herzenberg, L. A. (1990) Embo J 13, 4370-81; Rincon, M & Flavell, R. A. (1994) Embo J 13, 4370-81)。AP−1およびNF−κBファミリーメンバーもまたMCMVおよびHCMV主要最初期プロモーター/エンハンサーの双方の調節に重要である(Thomsen, D. R., Stenberg, R. M., Goins, W. F. & Stinski, M. F. (1984) Proc Natl Acad Sci USA 81, 659-63; Hummel, M., Zhang, Z., Yan, S., DePlaen, I., Golia, P., Varghese, T., Thomas, G. & Abecassis, M. I. (2001) J Virol 75, 4814-22)。我々のレポーターアッセイにより、CsAがNSPCのAP−1およびNF−κBシグナリング経路に影響しないことが示唆される。前記の結果より、NF−AT経路、AP−1およびNF−κBシグナル経路はNSPCにおけるCsAの抗MCMV活性に関係しないことが示唆される。AP−1およびNF−κB結合部位を有するMCMV−IEプロモーター/エンハンサーの活性はNSPCにおいてCsAにも、NIM811にも抑制されない。
【0041】
実施例4
NSPCにおける持続感染に及ぼすNIM811の影響
MOI1でMCMVに感染したNSPCをCsA(0.5μM)処理下で培養し、次いで細胞をCsA不含培地に移す。MCMV−IE1陽性細胞は、CsA処理した細胞と比較してCsA処理していない培地において有意に増加する(図4A)。したがって、阻害剤はMCMV阻止に関して可逆的である。このMCMV持続感染/再活性化現象がシクロフィリンに関係するメカニズムにより引き起こされることを確認するために、NSPCをNIM811(1μM)の存在下、MOIが0.1でMCMVに感染させる。14dpiにGFP陽性細胞は未処理細胞において有意に増加するが、一方NIM811で処理した細胞では陽性細胞はほとんど観察されない。これをフローサイトメトリーによりIE1陽性細胞のパーセンテージとして確認する。NIM811処理下で持続的に感染したNSPCを2週毎にNIM811処理培養およびNIM811不含培養に分けた。GFP陽性細胞は感染後少なくとも6週にはNIM811処理培養においてほとんど観察されない。NIM811を培養培地から除去したときに、GFP陽性細胞は明らかにNIM811によりMCMV抑制された培養から現れる。この結果はフローサイトメトリーによりIE1陽性細胞のパーセンテージとして確認される。このNIM811によりMCMV抑制された細胞からの再活性化は8週まで観察される。8週後はNSPCにおいて持続感染したMCMVは再活性化できなくなる。
【0042】
実施例5
NSPCにおけるシクロフィリンAのMCMV感染との関連性
シクロフィリンは器官中に豊富にあり、そして広範に分布しているタンパク質である。主要なシクロフィリンアイソフォームはシクロフィリンA(CyPA)と称される細胞質内の18kDaタンパク質である(シクロフィリンのPPlase活性の80%以上)(Price, E. R., Zydowsky, L. D., Jin, M. J., Baker, C. H., McKeon, F. D. & Walsh, C. T. (1991) Proc Natl Acad Sci USA 88, 1903-7)。本明細書ではCsAおよびNIM811によるMCMVの阻止に及ぼすCyPAの逆転効果を試験する。CsAまたはNIM811(0.5μM)の存在下、MOI1でNSPCをMCMVで感染させた後、ヒト組換えCyPAを用量依存的な様式で培養に加える。10dpiにIE1抗原陽性細胞のパーセンテージをフローサイトメトリーにより各々異なる培養で試験する。100ng/mlの濃度でCyPAを伴うNSPCはCsA(図5A)またはNIM811により引き起こされるMCMVの阻止を逆転させる。CyPAは1ng/mlCyPAの用量からCsAにより引き起こされるMCMV阻止を逆転させる。CyPAは、CsAよりもシクロフィリンに対してより強力な親和性を有しているNIM811により引き起こされるMCMVの阻止を用量依存的な様式で逆転させる(Billich, A., Hammerschmid, F., Peichl, P., Wenger, R., Zenke, G., Quesniaux, V. & Rosenwirth, B. (1995) J Virol 69, 2451-61)(図5D)。
【0043】
次いでフローサイトメトリーにより、成体NSPCおよび線維芽細胞におけるCyPAの発現を比較する。フローサイトメトリー分析により成体NSPCにおいてCyPA発現の2つのピークがあることが示される。左のピークはCyPAの発現が低い細胞を表し、そして右のピークはCyPAの発現が高い細胞を表す。しかし線維芽細胞におけるCyPAの発現はCyPAの高発現を有する単極性である(図5E)。感染の5日後にMCMV―IE1抗原/CyPAの二重染色を行い、そして2色のフローサイトメトリーによりMCMV陽性細胞を発現するCyPA陽性細胞はNSPCの23.8%に相当することが実証される。CyPA陰性細胞およびMCMV陽性細胞の組成はNSPCの6.3%である。MCMV陽性細胞の約80%はCyPA抗原を発現する。これらの結果により高レベルのCyPAを有する細胞はMCMVを増殖する傾向にあることが示される。
【0044】
本研究では、CsAはNSPCにおいてMCMV増殖を阻止することが示される。強力な免疫抑制剤として公知のCsAは一般にCMV感染の誘因であると考えられている。我々の結果は先行の一般的な考えに矛盾するようである。再活性化は主に免疫不全の宿主においてMCMVを除去するための宿主免疫応答の失敗によるという見解がある(Polic, B., Hengel, H., Krmpotic, A., Trgovcich, J., Pavic, I., Luccaronin, P., Jonjic, S. & Koszinowski, U. H. (1998) J Exp Med 188, 1047-54)。一方で、MCMV増殖の誘導が細胞刺激因子の状態と関係するという可能性がある。この実験で用いた細胞培養系は後天性免疫系を含まないので、CsAの抗MCMV効果はTリンパ球を介するその免疫抑制効果とは無関係であると考えることができる。
【0045】
本研究では、CsAはNSPCにおいてMCMV増殖を阻止するが、FK506はMCMV増殖を阻止しない。これらのイムノフィリンの結合標的、シクロフィリンに対するCsA、およびFKBP12に対するFK506の差異は、シクロフィリンがMCMV増殖の阻止に関与していることを示している。特異的なシクロフィリン阻害剤であるNIM811もまたNSPCにおいてMCMV増殖を強力に阻止する。この証拠により、シクロフィリンがMCMV増殖の過程において重大な役割を果たすことが示唆される。CyPA以外のアイソフォームがこのMCMV阻止に関与しているかもしれないという可能性があることは示されているが(Price, E. R., Zydowsky, L. D., Jin, M. J., Baker, C. H., McKeon, F. D. & Walsh, C. T. (1991) Proc Natl Acad Sci USA 88, 1903-7)、MCMV抗原陽性細胞はNSPCでCyPAで二重染色され、そして組換えCyPAはCsAおよびNIM811により引き起こされるMCMV阻止を逆転させるという証拠は、少なくともCyPAがMCMV増殖に関与しているという示唆を支持している。
【0046】
ウイルス形成では、シクロフィリンはHIV(Franke, E. K., Yuan, H. E. & Luban, J. (1994) Natire 372, 359-62; Luban, J., Bossolt, K. L., Franke, E. K., Kalpana, G. V. & Goff, S. P. (1993) Cell 73, 1067-78)、ワクシニアウイルス(Castro, A. P., Carvalho, T. M., Moussatche, N. & Damasco, C. R. (2003) J Virol 77, 9052-68)およびHCV(Watashi, K., Hijikata, M., Hosaka, M., Yamaji, M. & Shimotohna, K. (2003) Hepathologu 38, 1282-8)のようないくつかのウイルスに関連している。シクロフィリンのHCVおよびワクシニアウイルスに対する正確な標的は依然として明らかにされていない。MCMVがゆっくりと増殖した成体NSPCを用いることで、前記の研究により、ヘルペスウイルス科におけるシクロフィリンとウイルス複製との間の関係が実証される。1μM NIM811の存在下でNSPCのMCMVでの感染が8週まで抑制され得るということは留意するに値する。培養からのNIM811の剥奪はMCMV持続培養からのMCMV再活性化の誘因となる。シクロフィリンを介する感染の過程において、どのチェックポイントに関してCsAおよびNIM811がMCMV増殖を停止することができるかは依然疑問のままである。IE1−IE3転写ユニットからの転写を推進する主要最初期プロモーター(MIEP)の活性化はMCMV増殖感染に重要であることは以前に報告されている(Aiba-Masago, S., Baba, S., Li, R. Y., Shinmura, Y., Kosugi, I., Arai, Y., Nishimura, M. & Tsutsui, Y. (1999) Am J Pathol 154, 735-43; Li, R. Y., Baba, S., Kosugi, I., Arai, Y., Kawasaki, H., Shinmura, Y., Sakakibara, S. I., Okano, H. & Tsutsui, Y. (2001) Glia 35, 41-52)。本トランスフェクション研究では、CsAおよびNIM811はMIEP転写因子(NSPCにおけるAP−1およびNF−κB活性もMIEプロモーター活性も)を阻止しない。これらの結果により、CsAはシクロフィリンを介してMIEP活性の上流または下流のレベルでMCMV増殖を抑制することが示唆される。
【0047】
興味深いことに、前記の成体NSPC研究では、フローサイトメトリー分析によりCyPA発現パターンは二極性である。インビトロで形成されるニューロスフェアーは幹細胞および前駆細胞を含むさらに分化した細胞の異質な混合物からなることに留意することは重要である(Reynolds, B. A. & Weiss, S. (1996) Dev Biol 175, 1-13)。このCyPAの二極性発現はニューロスフェアーの独特な特性の結果であり得る。
【0048】
MCMV陽性細胞はフローサイトメトリーによりCyPAの高発現を伴う細胞である傾向を有している。CyPAの高発現はMCMV増殖のための条件を提供することが示唆される。CsAまたはNIM811によるCyPの阻止が用量依存的な様式でMCMV増殖の抑制に至るという事実はこの仮説に合致する。
【0049】
NSPCのヒト脳への移植は神経変性障害のための有望な処置である。同種異系間移植によりMIEプロモーターの活性化のためのNF−κBおよびAP−1を含む転写因子の発現が誘発され(Soderberg-Naucler, C., Fish, K.N. & Nelson, J. A. (1997) Cell 91, 119-26)、結果的にCMVが再活性化が引き起こされる。最近、免疫刺激下でCyPAがその発現を上方調節することが報告されている。インビボではCyPA発現は正常マウス頚動脈の管腔内皮細胞において検出できないが、全身LPS注射の後には急速に誘導される(Kim, S. H., Lessner, S. M., Sakurai, Y. & Galis, Z. S. (2004) Am J Pathol 164, 1567-74)。CyPAはLPS活性化マクロファージの炎症誘発性分泌生成物として同定されており(Sherry, B., Yarlett, N., Strupp, A. & Cerami, A. (1992) Proc Natl Acad Sci USA 89, 3511-5)、そして敗血症患者の血清において検出される(Tegeder, I., Schumacher, A., John, S., Geiger, H., Geisslinger, G., Bang, H. & Brune, K. (1997) J Clin Immunol 17, 380-6)。一方、それにより炎症刺激がCMV複製を引き起こす多くの刺激がある。同種異系または炎症刺激はCyPAを上方調節してCMV増殖を増強するということが示唆されている。神経幹移植治療における炎症刺激はCMV潜伏感染した細胞におけるCyPレベルを上昇させ、そしてCMV増殖のための条件を提供し得る。
【0050】
神経保護のためのCsAの正確なメカニズムが重点的に研究されている(Kaminska, B., Gaweda-Walerych, K. & Zawadzka, M. (2004) J Cell Mol Med 8, 45-58)。NIM811のような非免疫抑制性イムノフィリンリガンドもまた神経保護効果を有している(Kaminska, B., Gaweda-Walerych, K. & Zawadzka, M. (2004) J Cell Mol Med 8, 45-58; Steiner, J. P., Connolly, M. A., Valentine, H. L., Hamilton, G. S., Dawson, T. M., Hester, L. & Snyder, S. H. (1997) Nat Med 3, 421-8)。CsAまたはシクロフィリン阻害剤の投与は脳において移植されたNSPCの生存を促進するのを補助するであろう。
【0051】
実施例6
臨床試験
慢性CMV感染を有する全部で80−100人の妊娠した女性が6−9か月の研究に登録される。各患者は式(I)の化合物、例えば[Melle]−シクロスポリンを200−400mgの用量で投与される。CMV抗原の血清レベルを各女性患者で隔週に決定する。その後、これらの女性患者から生まれた乳幼児を2週毎に8週間、次いでその後月1回、CMV抗原の血清レベルに関して試験する。
【0052】
処置および予防に必要な1日用量は例えば用いた非免疫抑制性シクロフィリン結合シクロスポリン、宿主、投与様式、処置すべき状態の重篤度に依存して異なる。好ましい1日用量範囲は、1回用量または分割用量として1日あたり約1−50mg/kgである。患者に適当な1日用量は例えば1−20mg/kg p.o.またはi.v.のオーダーである。経口投与に適当な単位投与形態は約0.25−10mg/kgの活性成分、例えば[Melle]−シクロスポリンを1個またはそれ以上の薬学的に許容される希釈剤またはその担体と一緒に含む。
【0053】
本発明のシクロスポリン類を任意の従来の経路、特に経腸的に、例えば経口的に、例えば飲用の溶液、錠剤もしくはカプセル、または非経口的に、例えば注射用溶液もしくは懸濁液の形態で投与することができる。好ましい医薬組成物は例えば英国特許第2222770A号に記載されるようなマイクロエマルジョンに基づくものでよい。
【0054】
本発明のシクロスポリン類を単一の成分として、またはその他の薬物、例えば抗CMV活性を有する薬物、例えばインターフェロン、例えばα−2−インターフェロンもしくはペグ化インターフェロン、または抗ウイルス剤、例えばリバビリン、ラミブジン、NV08もしくはNM283と一緒に投与することができる。
【0055】
用いた併用薬に関する1日用量は例えば用いる化合物、宿主、投与様式、処置すべき状態の重篤度に依存して異なる。例えばラミブジンを1日用量100mgで投与することができる。
【0056】
前記にしたがって、本発明はさらに別の態様を提供する:
5. a)非免疫抑制性シクロフィリン結合シクロスポリン、例えば式(I)の化合物である第1の薬剤;および
b)併用薬、例えば前記で定義したような第2の薬剤;
を含む医薬的組合せ。
6. 治療上有効量の非免疫抑制性シクロフィリン結合シクロスポリン、例えば式(I)の化合物、および併用薬、例えば前記で定義したような第2の薬剤の、例えば同時にまたは逐次的に併用することを含む前記で定義したような方法。
【0057】
本明細書にて用いる「同時投与」もしくは「組合せ投与」なる用語または同様の用語は単一の患者への選択された治療薬の投与を包含することを意味し、そして薬剤を同一の投与経路により、または同時に投与する必要がない処置計画を含むことを意図する。
【0058】
本発明の医薬的な組合せの投与の結果、その医薬的に活性な成分を1つだけ適用する単一治療に比較して、有益な効果、例えば相乗治療効果に至る。好ましい相乗的な組合せは、非免疫抑制性シクロフィリン結合シクロスポリンと∝−IFNとの組合せである。
【0059】
[Melle]−シクロスポリンは本発明による使用のための好ましい非免疫抑制性シクロフィリン結合シクロスポリンである。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図2】(J)は対照およびCSA処理したIE1陽性細胞の比較を示すグラフを表す。(K)は対照およびCSA処理したIE1陽性細胞の間の感染細胞の力価を示すグラフを表す。
【図4】(A)はCSA処理により引き起こされたIE1細胞の抑制に及ぼす影響を示すグラフを表す。矢印はCsAが放出される時点を示している。
【図5】(A)はCSAまたはNIM811(B)のいずれかで処理した感染または対照培養において測定されるIE1陽性細胞パーセントを比較するグラフを表す。(D)はIE1陽性細胞に及ぼすCsAの種々の濃度の影響を測定するグラフを表す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療上有効量の非免疫抑制性シクロフィリン結合シクロスポリンを対象に投与することを含む、それを必要とする対象においてサイトメガロウイルス(CMV)感染またはCMV誘発障害を防御、処置または予防するための方法。
【請求項2】
培地に有効量の非免疫抑制性シクロフィリン結合シクロスポリンを適用することを含む、この培地においてCMV複製を阻止するための方法。
【請求項3】
治療上有効量の非免疫抑制性シクロフィリン結合シクロスポリンを対象に投与することを含む、それを必要とする患者においてCMV複製を阻止するための方法。
【請求項4】
治療上有効量の非免疫抑制性シクロフィリン結合シクロスポリンを移植者に投与することを含む、それを必要とする移植者においてCMV感染の再発を防御するための方法。
【請求項5】
CMV感染またはCMV誘発障害の防御または処置における非免疫抑制性シクロフィリン結合シクロスポリンの使用。
【請求項6】
請求項1から4のいずれか1項に記載の方法において使用するための医薬組成物の調製における、非免疫抑制性シクロフィリン結合シクロスポリンの使用。
【請求項7】
1個またはそれ以上の薬学的に許容される希釈剤またはその担体と一緒に非免疫抑制性シクロフィリン結合シクロスポリンを含む、請求項1から4のいずれか1項に記載の方法において使用するための医薬組成物。
【請求項8】
a)非免疫抑制性シクロフィリン結合シクロスポリンである第1の薬剤;および
b)抗CMV特性を有する併用薬;
を含む医薬的組合せ。
【請求項9】
治療上有効量の非免疫抑制性シクロフィリン結合シクロスポリンおよび抗CMV特性を有する併用薬を同時にまたは逐次的に併用することを含む、請求項1から4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
シクロスポリンが0.7未満の結合比率(BR)でヒトシクロフィリンに結合し、BRは競合ELISA試験で測定されるようなシクロスポリンAのIC50に対するシクロスポリンのIC50の比率の10を基数とする対数であり;そして混合リンパ球反応においてシクロスポリンAの活性の5%を超えない活性を有する請求項1から9のいずれか1項に記載の方法、使用、組成物または組合せ。
【請求項11】
シクロスポリンが式(I):
【化1】

(式中、
WはMeBmt、ジヒドロ−MeBmtまたは8'−ヒドロキシ−MeBmtであり;
XはαAbu、Val、Thr、NvaまたはO−メチルスレオニン(MeOThr)であり;
RはSar、(D)−MeSer、(D)−MeAlaまたは(D)−MeSer(Oアセチル)であり;
YはMeLeu、γ−ヒドロキシ−MeLeu、MeIle、MeVal、MeThr、MeAla、MeaIleまたはMeaThr;N−エチルVal、N−エチルIle、N−エチルThr、N−エチルPhe、N−エチルTyrまたはN−エチルThr(Oアセチル)であり;
ZはVal、Leu、MeValまたはMeLeuであり;そして
QはMeLeu、γ−ヒドロキシ−MeLeuまたはMeAlaである)
の化合物である請求項1から10のいずれか1項に記載の方法、使用、組成物または組合せ。
【請求項12】
実質的に本明細書で定義されそして記載されるような方法、使用、組成物または組合せ。
【請求項13】
治療上有効量の非免疫抑制性シクロフィリン結合シクロスポリンを対象に投与することを含む、それを必要とする免疫不全の対象においてサイトメガロウイルス(CMV)感染またはCMV誘発障害を防御、処置または予防するための方法。


【図2】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−112775(P2007−112775A)
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2005−308740(P2005−308740)
【出願日】平成17年10月24日(2005.10.24)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 
【出願人】(504300181)国立大学法人浜松医科大学 (96)
【出願人】(597011463)ノバルティス アクチエンゲゼルシャフト (942)
【Fターム(参考)】