説明

サイドウォール補強層用ゴム組成物及びサイド補強型ランフラットタイヤ

【課題】耐破壊強度、低燃費性を高い次元でバランスよく向上でき、さらにゴムの硬度も向上できるサイドウォール補強層用ゴム組成物、及び該サイドウォール補強層用ゴム組成物をタイヤのサイドウォール部の補強層に用いたサイド補強型ランフラットタイヤを提供する。
【解決手段】シリカと、シランカップリング剤と、脂肪族カルボン酸の亜鉛塩と芳香族カルボン酸の亜鉛塩との混合物とを含み、前記シランカップリング剤が硫黄を含む2種の特定構造単位を特定の割合で含むものであるサイドウォール補強層用ゴム組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サイドウォール補強層用ゴム組成物、及びこれを用いたサイド補強型ランフラットタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
ランフラットタイヤのサイドウォール補強層(インサート)用ゴムは、パンク走行時に車輌の荷重を支えながら破壊されることなくできるだけ長い距離を走行する必要があるため、ゴムの硬さ(高硬度)、耐破壊強度、低発熱性(低燃費性)が重要な要素になる。また、高硬度ゴム組成物を用いるため、未加硫状態での加工性に優れていることも要求されている。
【0003】
高硬度と低燃費性を両立させるために、カーボンブラックを減量し、硫黄を多量に配合する方法が考えられるが、引張強度が大幅に低下してしまい、耐破壊強度が大幅に低下するという問題がある。その他の方法として、FEF、GPFなどの低級カーボンブラックを使用する方法も考えられるが、高硬度と低燃費性の両立ができず、さらには引張強度も低下してしまうという問題がある。
【0004】
一方、サイドウォール補強層用ゴムにはゴム成分として通常、天然ゴムを一部又は全量に使用することが多い。しかし、天然ゴムは加硫工程時の加硫戻りと呼ばれる現象が起こり易く、つまり、硬度の低下を招くことが懸念される。特許文献1では、特定の亜鉛塩がゴム成分としてブタジエンゴムを含むゴム組成物の加硫戻りに効果があることが記載されている。しかし、ランフラットタイヤの耐破壊強度、低燃費性などの改善については、検討されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−59251号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記課題を解決し、耐破壊強度、低燃費性を高い次元でバランスよく向上でき、さらにゴムの硬度も向上できるサイドウォール補強層用ゴム組成物、及び該サイドウォール補強層用ゴム組成物をタイヤのサイドウォール部の補強層に用いたサイド補強型ランフラットタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、シリカと、シランカップリング剤と、脂肪族カルボン酸の亜鉛塩と芳香族カルボン酸の亜鉛塩との混合物とを含み、
上記シランカップリング剤が下記一般式(1)で示される結合単位Aと下記一般式(2)で示される結合単位Bとの合計量に対して、結合単位Bを1〜70モル%の割合で共重合したものであるサイドウォール補強層用ゴム組成物に関する。
【化1】

【化2】

(式中、x、yはそれぞれ1以上の整数である。Rは水素、ハロゲン、分岐若しくは非分岐の炭素数1〜30のアルキル基若しくはアルキレン基、分岐若しくは非分岐の炭素数2〜30のアルケニル基若しくはアルケニレン基、分岐若しくは非分岐の炭素数2〜30のアルキニル基若しくはアルキニレン基、又は該アルキル基若しくは該アルケニル基の末端の水素が水酸基若しくはカルボキシル基で置換されたものを示す。Rは水素、分岐若しくは非分岐の炭素数1〜30のアルキレン基若しくはアルキル基、分岐若しくは非分岐の炭素数2〜30のアルケニレン基若しくはアルケニル基、又は分岐若しくは非分岐の炭素数2〜30のアルキニレン基若しくはアルキニル基を示す。RとRとで環構造を形成してもよい。)
【0008】
上記サイドウォール補強層用ゴム組成物は、イソプレン系ゴムを含むことが好ましい。
【0009】
上記サイドウォール補強層用ゴム組成物は、ゴム成分100質量%中のイソプレン系ゴムの含有量が100質量%であることが好ましい。
【0010】
本発明はまた、上記サイドウォール補強層用ゴム組成物を用いて作製したサイドウォール部の補強層を有するサイド補強型ランフラットタイヤに関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、シリカと、上記一般式(1)で示される結合単位Aと上記一般式(2)で示される結合単位Bとの合計量に対して、結合単位Bを1〜70モル%の割合で共重合したシランカップリング剤と、脂肪族カルボン酸の亜鉛塩と芳香族カルボン酸の亜鉛塩との混合物とを含むサイドウォール補強層用ゴム組成物であるので、耐破壊強度、低燃費性を高い次元でバランスよく向上でき、さらにゴムの硬度も向上できる。また、未加硫状態での加工性にも優れている。よって、該ゴム組成物をタイヤのサイドウォール部の補強層に使用することにより、低燃費性、耐久性(ランフラット耐久性)のバランスに優れたサイド補強型ランフラットタイヤを提供することができる。なお、ランフラット耐久性が優れているとは、パンク走行時に車輌の荷重を支えながら破壊されることなくより長い距離を走行できることを示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のサイドウォール補強層用ゴム組成物は、シリカと、上記一般式(1)で示される結合単位Aと上記一般式(2)で示される結合単位Bとの合計量に対して、結合単位Bを1〜70モル%の割合で共重合したシランカップリング剤(特定のシランカップリング剤)と、脂肪族カルボン酸の亜鉛塩と芳香族カルボン酸の亜鉛塩との混合物とを含む。
【0013】
本発明では、シリカを配合することにより、低燃費性を向上できる。さらに、特定のシランカップリング剤をシリカと共に配合することにより、シリカによる低燃費性向上の効果をより引き出すことができる。また、特定のシランカップリング剤をシリカと共に配合することにより、耐破壊強度を向上でき、ランフラット耐久性を向上できる。
さらに、脂肪族カルボン酸の亜鉛塩と芳香族カルボン酸の亜鉛塩との混合物を配合することにより、加硫戻り現象による、硬度の低下と低燃費性の低下を抑えることができ、硬度、低燃費性、耐破壊強度、ランフラット耐久性を向上できる。
このように、シリカ、特定のシランカップリング剤、及び脂肪族カルボン酸の亜鉛塩と芳香族カルボン酸の亜鉛塩との混合物の組み合わせによって、低燃費性と耐破壊強度を高い次元でバランスよく向上できると共に、硬度を向上できるため、サイド補強型ランフラットタイヤの低燃費性、耐久性(ランフラット耐久性)を向上できる。また、未加硫状態での加工性にも優れている。
【0014】
本発明に使用されるゴム成分としては、例えば、イソプレン系ゴム、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、スチレンイソプレンブタジエンゴム(SIBR)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)等のジエン系ゴムが挙げられる。ゴム成分は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、耐破壊強度、低燃費性、硬度を向上できるという理由から、イソプレン系ゴムが好ましい。
【0015】
イソプレン系ゴムとしては、イソプレンゴム(IR)、天然ゴム(NR)、改質天然ゴム等が挙げられる。NRには、脱タンパク質天然ゴム(DPNR)、高純度天然ゴム(HPNR)も含まれ、改質天然ゴムとしては、エポキシ化天然ゴム(ENR)、水素添加天然ゴム(HNR)、グラフト化天然ゴム等が挙げられる。また、NRとしては、例えば、SIR20、RSS♯3、TSR20等、タイヤ工業において一般的なものを使用できる。イソプレン系ゴムのなかでも、耐破壊強度、低燃費性、硬度をバランスよく向上できることから、NRが好ましい。
【0016】
ゴム成分として、NRを含む場合に、特に、脂肪族カルボン酸の亜鉛塩と芳香族カルボン酸の亜鉛塩との混合物を配合することにより、加硫戻り現象による、硬度の低下と低燃費性の低下を効果的に抑えることができ、硬度、低燃費性、耐破壊強度、ランフラット耐久性を向上できる。
【0017】
ゴム成分100質量%中のイソプレン系ゴムの含有量は、好ましくは50質量%以上、より好ましくは75質量%以上、更に好ましくは100質量%である。50質量%未満であると、望ましい低燃費性と引張強度(耐破壊強度)が確保できず、その結果、ランフラット耐久性が悪化するおそれがある。
【0018】
本発明では、シリカが使用される。シリカとしては特に限定されず、例えば、乾式法シリカ(無水ケイ酸)、湿式法シリカ(含水ケイ酸)等が挙げられるが、シラノール基が多いという理由から、湿式法シリカが好ましい。
【0019】
シリカの窒素吸着比表面積(NSA)は、50m/g以上が好ましく、100m/g以上がより好ましく、150m/g以上が更に好ましい。50m/g未満では、加硫後の耐破壊強度が低下する傾向がある。また、シリカのNSAは、250m/g以下が好ましく、200m/g以下がより好ましい。250m/gを超えると、低発熱性、未加硫状態での加工性が低下する傾向がある。
なお、シリカの窒素吸着比表面積は、ASTM D3037−81に準じてBET法で測定される値である。
【0020】
シリカの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは10質量部以上、より好ましくは20質量部以上である。10質量部未満であると、シリカ配合による充分な効果が得られない傾向がある。上記シリカの含有量は、好ましくは60質量部以下、より好ましくは40質量部以下である。60質量部を超えると、シリカのゴムへの分散が困難になり、ゴムの未加硫状態での加工性が悪化する傾向がある。
【0021】
本発明では、下記一般式(1)で示される結合単位Aと下記一般式(2)で示される結合単位Bとの合計量に対して、結合単位Bを1〜70モル%の割合で共重合したシランカップリング剤が使用される。
【化3】

【化4】

(式中、x、yはそれぞれ1以上の整数である。Rは水素、ハロゲン、分岐若しくは非分岐の炭素数1〜30のアルキル基若しくはアルキレン基、分岐若しくは非分岐の炭素数2〜30のアルケニル基若しくはアルケニレン基、分岐若しくは非分岐の炭素数2〜30のアルキニル基若しくはアルキニレン基、又は該アルキル基若しくは該アルケニル基の末端の水素が水酸基若しくはカルボキシル基で置換されたものを示す。Rは水素、分岐若しくは非分岐の炭素数1〜30のアルキレン基若しくはアルキル基、分岐若しくは非分岐の炭素数2〜30のアルケニレン基若しくはアルケニル基、又は分岐若しくは非分岐の炭素数2〜30のアルキニレン基若しくはアルキニル基を示す。RとRとで環構造を形成してもよい。)
【0022】
上記構造のシランカップリング剤は、結合単位Aと結合単位Bのモル比が上記条件を満たすため、ビス−(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィドなどのポリスルフィドシランに比べ、加工中の粘度上昇が抑制される。これは結合単位Aのスルフィド部分がC−S−C結合であるため、テトラスルフィドやジスルフィドに比べ熱的に安定であることから、ムーニー粘度の上昇が少ないためと考えられる。
【0023】
また、結合単位Aと結合単位Bのモル比が前記条件を満たす場合、3−メルカプトプロピルトリメトキシシランなどのメルカプトシランに比べ、スコーチタイムの短縮が抑制される。これは、結合単位Bはメルカプトシランの構造を持っているが、結合単位Aの−C15部分が結合単位Bの−SH基を覆うため、ポリマーと反応しにくくなるためである。これにより、スコーチタイムが短くなりにくく、また、粘度が上昇しにくい。
【0024】
のハロゲンとしては、塩素、臭素、フッ素などが挙げられる。
【0025】
、Rの分岐若しくは非分岐の炭素数1〜30のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、へキシル基、へプチル基、2−エチルヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等が挙げられる。該アルキル基の炭素数は、好ましくは1〜12である。
【0026】
、Rの分岐若しくは非分岐の炭素数1〜30のアルキレン基としては、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、へプチレン基、オクチレン基、ノニレン基、デシレン基、ウンデシレン基、ドデシレン基、トリデシレン基、テトラデシレン基、ペンタデシレン基、ヘキサデシレン基、ヘプタデシレン基、オクタデシレン基等が挙げられる。該アルキレン基の炭素数は、好ましくは1〜12である。
【0027】
、Rの分岐若しくは非分岐の炭素数2〜30のアルケニル基としては、ビニル基、1−プロペニル基、2−プロペニル基、1−ブテニル基、2−ブテニル基、1−ペンテニル基、2−ペンテニル基、1−ヘキセニル基、2−ヘキセニル基、1−オクテニル基等が挙げられる。該アルケニル基の炭素数は、好ましくは2〜12である。
【0028】
、Rの分岐若しくは非分岐の炭素数2〜30のアルケニレン基としては、ビニレン基、1−プロペニレン基、2−プロペニレン基、1−ブテニレン基、2−ブテニレン基、1−ペンテニレン基、2−ペンテニレン基、1−ヘキセニレン基、2−ヘキセニレン基、1−オクテニレン基等が挙げられる。該アルケニレン基の炭素数は、好ましくは2〜12である。
【0029】
、Rの分岐若しくは非分岐の炭素数2〜30のアルキニル基としては、エチニル基、プロピニル基、ブチニル基、ペンチニル基、ヘキシニル基、へプチニル基、オクチニル基、ノニニル基、デシニル基、ウンデシニル基、ドデシニル基等が挙げられる。該アルキニル基の炭素数は、好ましくは2〜12である。
【0030】
、Rの分岐若しくは非分岐の炭素数2〜30のアルキニレン基としては、エチニレン基、プロピニレン基、ブチニレン基、ペンチニレン基、ヘキシニレン基、へプチニレン基、オクチニレン基、ノニニレン基、デシニレン基、ウンデシニレン基、ドデシニレン基等が挙げられる。該アルキニレン基の炭素数は、好ましくは2〜12である。
【0031】
上記構造のシランカップリング剤において、結合単位Aの繰り返し数(x)と結合単位Bの繰り返し数(y)の合計の繰り返し数(x+y)は、3〜300の範囲が好ましい。この範囲内であると、結合単位Bのメルカプトシランを、結合単位Aの−C15が覆うため、スコーチタイムが短くなることを抑制できるとともに、シリカやゴム成分との良好な反応性を確保することができる。
【0032】
上記構造のシランカップリング剤としては、例えば、Momentive社製のNXT−Z30、NXT−Z45、NXT−Z60等を使用することができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0033】
上記構造のシランカップリング剤の含有量は、シリカ100質量部に対して、好ましくは2質量部以上、より好ましくは5質量部以上である。2質量部未満であると、低燃費性、耐破壊強度、ランフラット耐久性を充分に向上できない傾向がある。また、該含有量は、好ましくは12質量部以下、より好ましくは8質量部以下である。12質量部を超えると、コストの増加に見合った効果が得られない傾向がある。
【0034】
本発明では、脂肪族カルボン酸の亜鉛塩と芳香族カルボン酸の亜鉛塩との混合物が使用される。
【0035】
脂肪族カルボン酸の亜鉛塩における脂肪族カルボン酸としては、やし油、パーム核油、ツバキ油、オリーブ油、アーモンド油、カノーラ油、落花生油、米糖油、カカオ脂、パーム油、大豆油、綿実油、胡麻油、亜麻仁油、ひまし油、菜種油などの植物油由来の脂肪族カルボン酸、牛脂などの動物油由来の脂肪族カルボン酸、石油等から化学合成された脂肪族カルボン酸などが挙げられるが、環境に配慮することも、将来の石油の供給量の減少に備えることもでき、更に、加硫戻りを充分に抑制できることから、植物油由来の脂肪族カルボン酸が好ましく、やし油、パーム核油又はパーム油由来の脂肪族カルボン酸がより好ましい。
【0036】
脂肪族カルボン酸の炭素数は4以上が好ましく、6以上がより好ましい。脂肪族カルボン酸の炭素数が4未満では、分散性が悪化する傾向がある。脂肪族カルボン酸の炭素数は16以下が好ましく、14以下がより好ましく、12以下が更に好ましい。脂肪族カルボン酸の炭素数が16を超えると、加硫戻りを充分に抑制できない傾向がある。
【0037】
なお、脂肪族カルボン酸中の脂肪族としては、アルキル基などの鎖状構造でも、シクロアルキル基などの環状構造でもよい。
【0038】
芳香族カルボン酸の亜鉛塩における芳香族カルボン酸としては、例えば、安息香酸、フタル酸、メリト酸、ヘミメリト酸、トリメリト酸、ジフェン酸、トルイル酸、ナフトエ酸などが挙げられる。なかでも、加硫戻りを充分に抑制できることから、安息香酸、フタル酸又はナフトエ酸が好ましい。
【0039】
混合物中の脂肪族カルボン酸の亜鉛塩と芳香族カルボン酸の亜鉛塩との含有比率(モル比率、脂肪族カルボン酸の亜鉛塩/芳香族カルボン酸の亜鉛塩、以下、含有比率とする)は1/20以上が好ましく、1/15以上がより好ましく、1/10以上が更に好ましい。含有比率が1/20未満では、環境に配慮することも、将来の石油の供給量の減少に備えることもできないうえに、混合物の分散性及び安定性が悪化する傾向がある。また、含有比率は20/1以下が好ましく、15/1以下がより好ましく、10/1以下が更に好ましい。含有比率が20/1を超えると、加硫戻りを充分に抑制できない傾向がある。
【0040】
混合物中の亜鉛含有率は3質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましい。混合物中の亜鉛含有率が3質量%未満では、加硫戻りを充分に抑制できない傾向がある。また、混合物中の亜鉛含有率は30質量%以下が好ましく、25質量%以下がより好ましい。混合物中の亜鉛含有率が30質量%を超えると、加工性が低下する傾向がある。
【0041】
混合物の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、1質量部以上、好ましくは1.5質量部以上である。1質量部未満では、硬度の低下と低燃費性の低下を充分に抑えることができず、硬度、低燃費性、耐破壊強度、ランフラット耐久性を充分に向上できないおそれがある。該混合物の含有量は、好ましくは5質量部以下、より好ましくは3質量部以下である。5質量部を超えても、増量による効果は得られない傾向がある。
【0042】
本発明では、カーボンブラックを使用することが好ましい。使用できるカーボンブラックとしては、GPF、FEF、HAF、ISAF、SAFなどが挙げられるが、特に限定されない。カーボンブラックを配合することにより、補強性を高めることができ、耐破壊強度を向上できる。
【0043】
カーボンブラックの窒素吸着比表面積(NSA)は、充分な補強性が得られる点から、70m/g以上が好ましく、100m/g以上がより好ましい。また、カーボンブラックの窒素吸着比表面積は、低発熱性(低燃費性)に優れる点から、200m/g以下が好ましく、125m/g以下がより好ましい。
なお、カーボンブラックの窒素吸着比表面積は、JIS K6217のA法によって求められる。
【0044】
カーボンブラックのジブチルフタレート吸油量(DBP)は、充分な補強性が得られる点から、50ml/100g以上が好ましく、100ml/100g以上がより好ましい。また、カーボンブラックのDBPは、耐破壊強度に優れる点から、200ml/100g以下が好ましく、125ml/100g以下がより好ましい。なお、カーボンブラックのDBPは、JIS K6217−4の測定方法によって求められる。
【0045】
本発明のゴム組成物がカーボンブラックを含有する場合、カーボンブラックの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは5質量部以上、より好ましくは10質量部以上である。5質量部未満であると、望ましい硬度を確保できないおそれがある。又は、シリカの配合量を増やして硬度を確保しようとすると加工性が悪化するおそれがある。また、該カーボンブラックの含有量は、好ましくは50質量部以下、より好ましくは30質量部以下である。50質量部を超えると、低燃費性と加工性が共に悪化するおそれがある。
【0046】
本発明では、硫黄を使用することが好ましい。硫黄としては、粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄などが挙げられ、例えば、オイル処理した不溶性硫黄が好適に用いられる。
【0047】
硫黄の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは3質量部以上、より好ましくは4質量部以上である。3質量部未満であると、充分に加硫できず、所望の性能を得られない傾向がある。硫黄の含有量は、好ましくは7質量部以下、より好ましくは6質量部以下である。7質量部を超えると、耐破壊強度、ランフラット耐久性が低下する傾向がある。
【0048】
本発明では、シリカ、特定のシランカップリング剤、及び脂肪族カルボン酸の亜鉛塩と芳香族カルボン酸の亜鉛塩との混合物の組み合わせによって、(ア)NSAが小さいFEF、GPFなどの低級カーボンブラックを使用することなく、(イ)カーボンブラックを減量することなく(カーボンブラックの含有量が上記量で)、又は(ウ)硫黄を増量することなく(硫黄の含有量が上記量で)、低燃費性と耐破壊強度を高い次元でバランスよく向上できると共に、硬度を向上できる。そのため、サイド補強型ランフラットタイヤの低燃費性、耐久性(ランフラット耐久性)を充分に向上できる。
【0049】
本発明のゴム組成物には、前記成分以外にも、ゴム組成物の製造に一般に使用される配合剤、例えば、クレー等の補強用充填剤、酸化亜鉛、ステアリン酸、各種老化防止剤、オイル等の軟化剤、ワックス、加硫促進剤などを適宜配合することができる。
【0050】
酸化亜鉛の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは2.5質量部以上、より好ましくは3.5質量部以上である。2.5質量部未満であると、充分に加硫できず、所望の性能を得られない傾向がある。酸化亜鉛の含有量は、好ましくは8質量部以下、より好ましくは6質量部以下である。8質量部を超えると、耐破壊強度が低下する傾向がある。
【0051】
加硫促進剤としては、N−tert−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(TBBS)、N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(CBS)、N,N’−ジシクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(DZ)、メルカプトベンゾチアゾール(MBT)、ジベンゾチアゾリルジスルフィド(MBTS)、ジフェニルグアニジン(DPG)などが挙げられる。なかでも、加硫特性に優れ、加硫後のゴムの物性において、低発熱性に優れ、耐破壊強度向上の効果も大きいという理由から、TBBS、CBS、DZなどのスルフェンアミド系加硫促進剤が好ましく、CBSがより好ましい。
【0052】
本発明のゴム組成物の製造方法としては、公知の方法を用いることができ、例えば、前記各成分をオープンロール、バンバリーミキサーなどのゴム混練装置を用いて混練し、その後加硫する方法等により製造できる。
【0053】
本発明のゴム組成物(加硫後)の25℃における硬度は、好ましくは80以下、より好ましくは75以下である。80を超えると、タイヤの乗心地性能とノイズ性能が悪化するおそれがある。また、25℃における硬度は、好ましくは65以上、より好ましくは69以上である。65未満であると、ランフラット走行時にゴムの変形量が大きくなることで、ゴムが破壊されやすくなる(耐破壊強度が低下する)おそれがある。その結果、ランフラット耐久性が悪化するおそれがある。
シリカの種類、シリカの配合量、特定のシランカップリング剤の配合量、カーボンブラックの種類、カーボンブラックの配合量等を調整することによって25℃における硬度を上記範囲に調節することができる。なお、25℃における硬度は、後述する実施例に記載の測定方法により得られる値である。
【0054】
本発明では、シリカ、特定のシランカップリング剤、及び脂肪族カルボン酸の亜鉛塩と芳香族カルボン酸の亜鉛塩との混合物を組み合わせることによって、上記硬度範囲(高硬度)であっても、未加硫状態での加工性が向上(ムーニー粘度が低下)するため、混練り工程や押出し加工工程の加工性を改善することができる。
【0055】
また本発明のゴム組成物は、サイド補強型ランフラットタイヤのサイドウォール部の補強層に使用される。当該補強層とは、ランフラットタイヤのサイドウォール部の内側に配置されたライニングストリップ層のことをいう。補強ゴム層の配置形態としては、具体的には、カーカスプライの内側に接してビード部からショルダー部にわたって配置され、両端方向に厚さを漸減する三日月状の補強ゴム層が挙げられる。また、カーカスプライ本体部分とその折返し部の間にビード部からトレッド部端にわたって配置される補強ゴム層、複数のカーカスプライ又は補強プライの間に配置される2層の補強ゴム層等も挙げられる。具体的には、当該補強層は、特開2007−326559号公報の図1、特開2004−330822号公報の図1などに示される部材である。
【0056】
本発明のサイド補強型ランフラットタイヤは、上記ゴム組成物を用いて通常の方法によって製造される。すなわち、必要に応じて各種添加剤とゴム組成物を、未加硫の段階でサイドウォール部の補強層の形状に合わせて押し出し加工し、タイヤ成型機上にて通常の方法にて成形し、他のタイヤ部材とともに貼り合わせ、未加硫タイヤを形成した後、加硫機中で加熱加圧してサイド補強型ランフラットタイヤを製造することができる。得られたサイド補強型ランフラットタイヤは、低燃費性、耐久性(ランフラット耐久性)のバランスに優れている。
【実施例】
【0057】
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0058】
以下、実施例及び比較例で使用した各種薬品について、まとめて説明する。
NR:RSS#3
カーボンブラック(1):キャボットジャパン(株)製のショウブラックN220(NSA:111m/g、DBP:115ml/100g)
カーボンブラック(2):キャボットジャパン(株)製のショウブラックN550(NSA:42m/g、DBP:115ml/100g)
シリカ:デグッサ社製のウルトラジルVN3(窒素吸着比表面積(NSA):175m/g)
シランカップリング剤(1):デグッサ社製のSi69(ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド)
シランカップリング剤(2):Momentive社製のNXT−Z15(結合単位Aと結合単位Bとの共重合体(結合単位A:85モル%、結合単位B:15モル%))
シランカップリング剤(3):Momentive社製のNXT−Z30(結合単位Aと結合単位Bとの共重合体(結合単位A:70モル%、結合単位B:30モル%))
シランカップリング剤(4):Momentive社製のNXT−Z65(結合単位Aと結合単位Bとの共重合体(結合単位A:35モル%、結合単位B:65モル%))
老化防止剤:大内新興化学工業(株)製のノクラック6C(N−(1,3−ジメチルブチル)−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン)
ステアリン酸:日油(株)製のステアリン酸
酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製の亜鉛華1号
リバージョン防止剤(脂肪族カルボン酸の亜鉛塩及び芳香族カルボン酸の亜鉛塩の混合物):ストラクトール社製のアクチベーター73A((i)脂肪族カルボン酸亜鉛塩:やし油由来の脂肪酸(炭素数:8〜12)の亜鉛塩、(ii)芳香族カルボン酸亜鉛塩:安息香酸亜鉛、含有モル比率:1/1、亜鉛含有率:17質量%)
硫黄:四国化成工業(株)製のミュークロンOT(不溶性硫黄)
加硫促進剤:大内新興化学工業(株)製のノクセラーCZ(N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド)
【0059】
実施例1〜6及び比較例1〜9
表1に示す配合処方にしたがい、1.7Lバンバリーミキサーを用いて、硫黄及び加硫促進剤以外の材料を150℃の条件下で3分間混練りし、混練り物を得た。次に、得られた混練り物に硫黄及び加硫促進剤を添加し、オープンロールを用いて、50℃の条件下で5分間練り込み、未加硫ゴム組成物を得た。得られた未加硫ゴム組成物を150℃で30分間加硫し、加硫ゴム組成物を得た。
また、得られた未加硫ゴム組成物をサイドウォール部の補強層の形状に成形した後、他のタイヤ部材と貼り合わせて加硫することにより、試験用タイヤ(サイド補強型ランフラットタイヤ)(タイヤサイズ:215/45R17)を製造した。
【0060】
得られた未加硫ゴム組成物、加硫ゴム組成物、試験用タイヤについて下記の評価を行った。結果を表1に示す。
【0061】
(ムーニー粘度)
JIS K6300に準じて、130℃で所定の未加硫ゴム組成物のムーニー粘度を測定した。測定結果を、比較例1を100として、下記計算式により指数表示した。指数が大きいほど粘度が低く、加工が容易であることを示す。
(ムーニー粘度指数)=(比較例1のムーニー粘度)/(各配合のムーニー粘度)×100
【0062】
(リバージョン率)
キュラストメーターを用いて、160℃における未加硫ゴム組成物の加硫曲線を測定した。最大トルク上昇値(MH−ML)値を100として、加硫開始時点から20分後のトルク上昇値(M(20分)−ML)を相対値で示し、相対値を100から引いた値の逆数をリバージョン率とした。リバージョン率の数値が大きいほど、リバージョンが抑制され、良好であることを示す。
【0063】
(転がり抵抗(低燃費性))
粘弾性スペクトロメーターVES((株)岩本製作所製)を用いて、温度70℃、初期歪み10%、動歪み2%の条件下で、各配合の加硫ゴム組成物のtanδを測定し、比較例1のtanδを100として、下記計算式により指数表示した。指数が大きいほど、転がり抵抗特性(低燃費性)が優れている。
(低燃費性指数)=(比較例1のtanδ)/(各配合のtanδ)×100
【0064】
(耐破壊強度)
加硫ゴム組成物について、JIS K6251に準じて3号ダンベルを用いて引張り試験を実施し、破断強度(TB)、破断時伸び(EB)(%)を測定した。TB×EB/2の数値を耐破壊強度とした。比較例1の耐破壊強度を100として、下記計算式により指数表示した。指数が大きいほど耐破壊強度に優れる。
(耐破壊強度指数)=(各配合の耐破壊強度)/(比較例1の耐破壊強度)×100
【0065】
(硬度)
JIS K6253の「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム−硬さの求め方」に準じて、タイプAデュロメーターにより、25℃における各加硫ゴム組成物の硬度を測定した。
【0066】
(ランフラット走行距離(ランフラット耐久性))
試験用タイヤを空気内圧0kPaにてドラム上を80km/hの速度で走行し、タイヤが破壊するまでの走行距離を比較した。比較例1の走行距離を100とした指数で示した。数字が大きいほどランフラット耐久性に優れることを示す。
【0067】
【表1】

【0068】
シリカと、上記一般式(1)で示される結合単位Aと上記一般式(2)で示される結合単位Bとの合計量に対して、結合単位Bを1〜70モル%の割合で共重合したシランカップリング剤と、脂肪族カルボン酸の亜鉛塩と芳香族カルボン酸の亜鉛塩との混合物とを含む実施例は、リバージョンが抑制され、耐破壊強度、低燃費性を高い次元でバランスよく向上でき、さらにゴムの硬度も向上でき、ランフラット耐久性にも優れていた。また、未加硫状態での加工性にも優れていた。
【0069】
一方、これらの成分を組み合わせなかった比較例では、実施例に比べて、性能が劣っていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカと、シランカップリング剤と、脂肪族カルボン酸の亜鉛塩と芳香族カルボン酸の亜鉛塩との混合物とを含み、
前記シランカップリング剤が下記一般式(1)で示される結合単位Aと下記一般式(2)で示される結合単位Bとの合計量に対して、結合単位Bを1〜70モル%の割合で共重合したものであるサイドウォール補強層用ゴム組成物。
【化1】

【化2】

(式中、x、yはそれぞれ1以上の整数である。Rは水素、ハロゲン、分岐若しくは非分岐の炭素数1〜30のアルキル基若しくはアルキレン基、分岐若しくは非分岐の炭素数2〜30のアルケニル基若しくはアルケニレン基、分岐若しくは非分岐の炭素数2〜30のアルキニル基若しくはアルキニレン基、又は該アルキル基若しくは該アルケニル基の末端の水素が水酸基若しくはカルボキシル基で置換されたものを示す。Rは水素、分岐若しくは非分岐の炭素数1〜30のアルキレン基若しくはアルキル基、分岐若しくは非分岐の炭素数2〜30のアルケニレン基若しくはアルケニル基、又は分岐若しくは非分岐の炭素数2〜30のアルキニレン基若しくはアルキニル基を示す。RとRとで環構造を形成してもよい。)
【請求項2】
イソプレン系ゴムを含む請求項1記載のサイドウォール補強層用ゴム組成物。
【請求項3】
ゴム成分100質量%中のイソプレン系ゴムの含有量が100質量%である請求項1又は2記載のサイドウォール補強層用ゴム組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のサイドウォール補強層用ゴム組成物を用いて作製したサイドウォール部の補強層を有するサイド補強型ランフラットタイヤ。

【公開番号】特開2012−17388(P2012−17388A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−154922(P2010−154922)
【出願日】平成22年7月7日(2010.7.7)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】