説明

サイモシンβ4、類似体、アイソフォームおよびその他の誘導体の使用

【課題】心筋障害が発生する前、発生中または直後に発生する炎症、損傷およびその他の変化を治癒または予防するための改良された技術を提供する。
【解決手段】心内皮細胞から間葉細胞へ形質転換させるための薬剤を製造するための、アミノ酸配列LKKTETを含むポリペプチドまたはその保存的変異型の使用。該ポリペプチドは、アミノ酸配列LKKTET、KLKKTET、LKKTETQ、または、サイモシンβ4(Tβ4)、Tβ4のN末端変異型、Tβ4のC末端変異型、Tβ4のアイソフォーム、酸化Tβ4またはTβ4スルホキシドを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本特許出願は、2001年8月29日に出願された米国特許仮出願第60/315,347号の利益を主張する。
(発明の分野)
本発明は、心筋障害(例、心筋梗塞)が発生する直前、発生中または直後に心臓、心臓弁および中隔において発生する炎症、損傷およびその他の変化を治癒または予防する分野に関する。
【背景技術】
【0002】
心筋、心血管および心組織の傷害には、心筋虚血、血液凝固、血管閉塞、感染症、発育上の欠陥もしくは異常およびその他の心筋障害を含むがそれらに限定されない多数の原因がある。心筋梗塞は、心臓内の血管疾患の結果として発生する。心筋梗塞は、心臓の一部への血液供給が(冠動脈の閉塞により惹起されて)減少もしくは停止したときに発生する。血液供給の減少は、心筋細胞への傷害を引き起こし、さらには心筋細胞を死滅させることもある。心臓への血液供給の減少は、しばしばプラークに起因する心外膜血管の狭小化によって惹起される。これらのプラークは、破裂して出血、血栓形成、フィブリンや血小板の蓄積および血管の狭窄を引き起こすことがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
そこで当技術分野においては、心筋障害が発生する前、発生中または直後に発生する炎症、損傷およびその他の変化を治癒または予防するための改良された技術が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、心内皮細胞から間葉細胞へ形質転換させるための薬剤を製造するための、アミノ酸配列LKKTETを含むポリペプチドまたはその保存的変異型の使用に関する。
【0005】
ここにおいて、前記ポリペプチドは、アミノ酸配列LKKTET、KLKKTET、LKKTETQ、または、サイモシンβ4(Tβ4)、Tβ4のN末端変異型、Tβ4のC末端変異型、Tβ4のアイソフォーム、酸化Tβ4またはTβ4スルホキシドを含むことが好ましい。
【0006】
また前記薬剤は全身投与されることが好ましい。
また、前記薬剤は前記冠動脈組織へ直接的に投与されることが好ましい。
【0007】
さらに、前記ポリペプチドは組換えまたは合成であることが好ましい。
本発明はまた、心内皮細胞から間葉細胞へ形質転換させるための組成物であって、Tβ4、Tβ4アイソフォーム、酸化Tβ4、Tβ4スルホキシド、アクチン隔離または束化タンパク質、または、本質的にアミノ酸配列LKKTETもしくは血管新生誘発性かつ抗炎症性活性を有するその保存的変異型を含むかもしくはそれらからなるペプチドフラグメント、または、インスイリン様成長因子(IGF−1)、血小板由来成長因子(PDGF)、表皮成長因子(EGF)、β型トランスフォーミング成長因子(TGF−β)、塩基性線維芽細胞成長因子(BfGF)、サイモシンα1(Tα1)および血管内皮成長因子(VEGF)から選ばれる少なくともいずれかを含む組成物についても提供する。
【0008】
ここにおいて、Tβ4アイソフォームが、Tβ4ala、Tβ9、Tβ10、Tβ11、Tβ12、Tβ13、Tβ14およびTβ15から選ばれる少なくともいずれかであることが好ましい。
【0009】
またアクチン隔離または束化タンパク質が、ゲルソリン、ビタミンD結合タンパク質(DBP)、プロフィリン、コフィリン、アドセベルチン、プロポミオシン、フィンシリン、デパクチン、DnアーゼI、ビリン、フラグミン、セベリン、キャッピングタンパク質、β−アクチンおよびアクメンチンから選ばれる少なくともいずれかであることが好ましい。
【0010】
また本発明の組成物は全身投与されることが好ましい。
また、本発明の組成物は前記冠動脈組織へ直接的に投与されることが好ましい。
【0011】
さらに、前記ポリペプチドは組換えまたは合成であることが好ましい。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(発明の詳細な説明)
本発明は、サイモシンβ4(Tβ4)のようなアクチン隔離ペプチドおよびアミノ酸配列LKKTETもしくはそれらの保存的変異型を含有するその他のアクチン隔離ペプチドまたはペプチドフラグメントが心筋障害に関連する損傷およびその他の変化の治癒または予防を促進するという発見に基づいている。これにはKLKKTETおよびLKKTETQのようなN末端もしくはC末端変異型が含まれる。Tβ4は、齧歯類モデルにおける血管新生の1因子であると示唆されてきた。しかしこれまでのところ、このような特性が心筋梗塞、血管閉塞または心臓弁の欠陥および損傷のような心筋および冠血管の障害を治療する際に有用であるという指摘は知られていない。いかなる特定の理論にも束縛されることなく、これらのペプチドは末端デオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ(鋳型非依存性DNAポリメラーゼ)を誘導すること、1つ以上の炎症性サイトカインもしくはケモカインの濃度を低下および調節すること、そして内皮細胞のための化学走化性および/または血管新生因子として機能すること、したがって心筋障害に罹患した患者における変性変化を治療および予防する能力を有することによって、修復、治療および予防を促進する能力を有する可能性がある。
【0013】
本発明は、間葉上皮細胞分化を増強またはダウンレギュレートして、虚血、感染症、老化、およびその他の発作または傷害による作用に起因する損傷した心筋組織および血管の機能を回復させることができる因子および組成物を提供する。
【0014】
サイモシンβ4は、最初は、インビトロでの内皮細胞の遊走および分化中にアップレギュレートされるタンパク質として同定された。サイモシンβ4は、胸腺から初めて単離された、様々な組織中で同定された4.9kDaの偏在的なポリペプチドである43アミノ酸である。このタンパク質には内皮細胞の分化および遊走、T細胞の分化、アクチン隔離および血管新生における役割を含むいくつかの役割があると報告されている。
【0015】
1つの実施形態によると、本発明は心筋障害に関連する損傷および炎症の治癒および予防を促進するための治療方法であり、そのような治療を必要とする被験者へ、アミノ酸配列LKKTETを含む血管新生誘発性かつ抗炎症性活性ポリペプチドまたは血管新生誘発性かつ抗炎症性活性を有するその保存的変異型、好ましくはサイモシンβ4、サイモシンβ4のアイソフォーム、酸化サイモシンβ4、サイモシンβ4スルホキシド、またはサイモシンβ4のアンタゴニストを含有している有効量の組成物を投与するステップを備える。
【0016】
本発明によって使用できる組成物には、サイモシンβ4(Tβ4)、Tβ4アイソフォーム、酸化Tβ4、サイモシンβ4スルホキシド、アクチン結合ドメインを有するポリペプチドもしくはその他のアクチン隔離もしくは束化タンパク質、または本質的にアミノ酸配列LKKTETもしくはその保存的変異型を含むかもしくはそれらからなる血管新生誘発性かつ抗炎症性活性を有するペプチドフラグメントが含まれる。引用によりこの明細書に援用される国際特許出願第PCT/US99/17282号は、本発明に有用であるTβ4のアイソフォームならびに本発明によると有用である可能性があるアミノ酸配列LKKTETおよび血管新生誘発性かつ抗炎症性活性を有するそれらの保存的変異型を開示している。引用によりこの明細書に援用される国際特許出願第PCT/GB99/00833 (WO 99/49883)号は、本発明によって利用できる酸化サイモシンβ4を開示している。この発明は、主として、Tβ4およびTβ4のアイソフォームに関して以下に記載されるが、以下の説明はアミノ酸配列LKKTET、LKKTETQ、LKKTETもしくはLKKTETQを含むかもしくは本質的にそれらからなるペプチドおよびフラグメント、血管新生誘発性かつ抗炎症性活性を有するそれらの保存的変異型、ならびに酸化サイモシンβ4に同等に適用できることが意図されていると理解されなければならない。
【0017】
1つの実施形態では、本発明は損傷部位を、Tβ4もしくはTβ4アイソフォームを含む有効量の血管新生誘発性かつ抗炎症性活性組成物と接触させるステップにより被験者における炎症および損傷を治癒および予防する方法を提供する。接触は、局所的または全身性であってよい。損傷部位を接触させる実施例には、該部位をTβ4のみを含む組成物と、またはTβ4の浸透を増強するかまたは治療される領域内へのTβ4ペプチドの放出を遅延もしくは緩徐化させる少なくとも1つの物質と組み合わせてTβ4を含む組成物と接触させるステップが含まれる。投与経路には、例えばTβ4もしくはTβ4アイソフォーム等を含有する組成物の静脈内注射、腹腔内注射、筋肉内注射もしくは皮下注射、または吸入、経皮投与もしくは経口投与を挙げることができる。被験者は哺乳動物、好ましくはヒトであってよい。
【0018】
Tβ4、またはその類似体、アイソフォームもしくは誘導体は、あらゆる適切な心筋障害性損傷を阻害もしくは軽減する量で投与することができる。例えば、Tβ4は、Tβ4が約0.1〜50μgの範囲内の用量で、より好ましくは約1〜25μgの範囲内の用量で投与することができる。
【0019】
本発明による組成物は、毎日、1日おき等に、投与日1日につき単回投与もしくは投与日1日につき2、3、4もしくは5回以上の投与のような複数回投与で投与することもできる。
【0020】
Tβ4アイソフォームは、公知のTβ4のアミノ酸配列と約70%、もしくは約75%、もしくは約80%以上の相同性を有することが同定されている。このようなアイソフォームには、例えばTβ4ala、Tβ9、Tβ10、Tβ11、Tβ12、Tβ13、Tβ14およびTβ15が含まれる。Tβ4と同様に、Tβ10およびTβ15アイソフォームはアクチンを隔離することが証明されている。Tβ4、Tβ10およびTβ15、ならびにこれらの他のアイソフォームは、アクチンの隔離または結合を媒介することに関係していると思われるアミノ酸配列LKKTETを共有している。いかなる理論にも束縛されないことを望むが、Tβ4アイソフォームの活性は、一部にはアクチンの重合を調節する能力が原因である可能性がある。β−サイモシンは、遊離のG−アクチンを隔離することによってF−アクチンを脱重合すると思われる。このためTβ4のアクチン重合を調節する能力は、すべてまたはその一部がLKKTET配列を介してアクチンに結合する、またはアクチンを隔離する能力に起因する可能性がある。そこで、Tβ4と同様に、アミノ酸配列LKKTETを有するTβ4アイソフォームを含有する、アクチンに結合する、もし
くはアクチンを隔離する、またはアクチン重合を調節する他のタンパク質は、ここで述べるように単独で、またはTβ4と組み合わせて有効であると思われる。
【0021】
そこで、例えばTβ4ala、Tβ9、Tβ10、Tβ11、Tβ12、Tβ13、Tβ14およびTβ15などの公知のTβ4アイソフォーム、ならびにまだ同定されていないTβ4アイソフォームが本発明の方法において有用であることは具体的に予期されている。Tβ4アイソフォームはそれ自体が、被験者において実施される方法を含む本発明の方法において有用である。このため本方法はさらに、Tβ4、およびTβ4アイソフォームであるTβ4ala、Tβ9、Tβ10、Tβ11、Tβ12、Tβ13、Tβ14およびTβ15、ならびに医薬上許容される担体を含有している医薬組成物を提供する。
【0022】
加えて、アクチン隔離もしくは結合能力を有するか、または、アクチンを可動化し得るかもしくはアクチンの重合を調節し得る他のタンパク質は、適切な隔離、結合、可動化もしくは重合検定において示されるように、または、アクチン結合を媒介する、LKKTET等のアミノ酸配列の存在により同定されるように、本発明の方法において同様に使用できる。このようなタンパク質には、例えばゲルソリン、ビタミンD結合タンパク質(DBP)、プロフィリン、コフィリン、アドセベルチン、プロポミオシン、フィンシリン、デパクチン、DnアーゼI、ビリン、フラグミン、セベリン、キャッピングタンパク質、β−アクチンおよびアクメンチンが含まれる。このような方法には被験者において実施される方法が含まれるが、本発明はさらにここで記載したようにゲルソリン、ビタミンD結合タンパク質(DBP)、プロフィリン、コフィリン、デパクチン、DnアーゼI、ビリン、フラグミン、セベリン、キャッピングタンパク質、β−アクチンおよびアクメンチンを含有している医薬組成物を提供する。そこで、本発明にはアミノ酸配列LKKTET(その一次アミノ酸配列内に存在する可能性がある)およびその保存的変異型を含む血管新生誘発性かつ抗炎症性ポリペプチドの使用が含まれる。
【0023】
ここで使用する用語「保存的変異型」もしくはその文法上の変形は、生物学的に類似の別の残基によるアミノ酸残基の置換を意味する。保存的変形の例には、イソロイシン、バリン、ロイシンもしくはメチオニンのような疎水性残基の他の残基での置換、アルギニンとリジン、グルタミン酸とアスパラギン酸、またはグルタミンとアスパラギン、その他の置換のような極性残基の別の極性残基での置換が含まれる。
【0024】
Tβ4は、多数の組織および細胞タイプに局在しており、したがってTβ4の産生を刺激する物質を添加することができる、あるいは組織および/または細胞からのTβ4産生をもたらす組成物を含むことができる。このような物質には、インスイリン様成長因子(IGF−1)、血小板由来成長因子(PDGF)、表皮成長因子(EGF)、β型トランスフォーミング成長因子(TGF−β)、塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)、サイモシンα1(Tα1)および血管内皮成長因子(VEGF)のような成長因子ファミリーのメンバーが含まれる。より好ましくは、この物質はβ型トランスフォーミング成長因子(TGF−β)またはTGF−βスーパーファミリーの他のメンバーである。本発明のTβ4組成物は、細胞外基質沈着、細胞遊走および皮膚の血管新生を通して結合組織の成長を達成することによって心筋障害の影響を軽減することができる。
【0025】
1つの実施形態によると、被験者は、被験者における上記に定義したような血管新生誘発性かつ抗炎症性ペプチドの産生を刺激する物質を用いて治療される。
【0026】
さらに、心筋障害によって誘発された損傷の治癒を支援もしくは刺激する物質をTβ4もしくはTβ4アイソフォームと一緒に組成物に添加することができる。このような物質には、血管新生物質、成長因子、細胞の分化を指示する物質が含まれる。例えば、そして限定するためではなく、Tβ4もしくはTβ4アイソフォームは単独で、または以下の物
質のいずれか1つ以上を組み合わせて添加することができる。すなわち有効量のVEGF、KGF、FGF、PDGF、TGFβ、IGF−1、IGF−2、IL−1、プロサイモシンαおよびサイモシンα1である。
【0027】
本発明には、さらにまた医薬上許容される担体中に治療有効量のTβ4もしくはTβ4アイソフォームを備える医薬組成物が含まれる。このような担体には、非経口投与に関連して上記に列挙した担体が含まれる。
【0028】
心筋障害と関連する炎症、損傷および変性を治癒または予防する実際の用量、処方もしくは組成は、被験者の身体の大きさおよび健康状態を含む多数の要素に左右されることがある。しかし、当業者であれば使用するための適切な用量を決定するために、上記の国際公開特許第PCT/US99/17282号に開示されているような臨床的用量を決定するための方法および技術を記述した教示、およびその中で言及された参考文献を使用することができる。
【0029】
適切な調製物には、約0.001〜10重量%の範囲内の、より好ましくは約0.01〜0.1重量%の範囲内の、最も好ましくは約0.05重量%の濃度のTβ4もしくはTβ4アイソフォームが含まれる。
【0030】
ここに記載した治療アプローチには、被験者へのあらゆる従来型の投与方法を含む、本発明のTβ4もしくはその他の化合物を含有している試薬もしくは組成物の様々な投与または送達経路が含まれる。本発明のTβ4またはその他の化合物を使用もしくは含有する方法および組成物は、医薬上許容される非毒性賦形剤もしくは担体との混合によって医薬組成物内へ調製することができる。
【0031】
本発明には、Tβ4ペプチドもしくはその機能的フラグメントと相互作用する抗体の使用が含まれる。本質的に様々なエピトープ特異性を備えるプールされたモノクローナル抗体ならびに別個のモノクローナル抗体調製物からなる抗体が提供される。モノクローナル抗体は、上記の国際特許公開第PCT/US99/17282号に開示されているように当業者にはよく知られている方法によってタンパク質のフラグメントを含有する抗原から作られる。本発明で使用する用語の抗体は、モノクローナル抗体およびポリクローナル抗体を含むことを意味する。
【0032】
さらに別の実施形態では、本発明はTβ4遺伝子発現を調節する有効量の製剤を投与するステップによって被験者を治療する方法を提供する。用語「調節する」は、Tβ4が過剰発現しているときはTβ4の発現の抑制または抑圧を、そしてTβ4が十分に発現しない場合の発現の誘導を意味する。用語の「有効量」とは、有効な治療を生じさせるTβ4遺伝子発現を調節することに有効であるTβ4製剤の量を意味する。Tβ4もしくはTβ4アイソフォーム遺伝子発現を調節する製剤は、例えばポリヌクレオチドであってよい。そのポリヌクレオチドは、アンチセンス、三重らせん物質、またはリボザイムであってよい。例えば、Tβ4の構造遺伝子領域またはプロモータ領域に向けられたアンチセンスを利用することができる。
【0033】
別の実施形態では、本発明はTβ4活性を調節する化合物を利用する方法を提供する。Tβ4活性に影響を及ぼす化合物(例、アンタゴニストおよびアゴニスト)としては、ペプチド、ペプチドミメティック、ポリペプチド、化学的化合物、亜鉛のような鉱物、および生物学的製剤が挙げられる。
【0034】
いかなる特定の理論にも束縛されないが、この発明は、ターミナルデオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ(鋳型非依存性DNAポリメラーゼ)を誘導して、1つまたはそ
れ以上の炎症性サイトカインまたはケモカインのレベルを減じ、内皮細胞に対して走化性因子として作用し、これにより、心筋障害またはその他の変性もしくは環境因子によって発生した心血管および組織における変性変化を治癒または予防することを促進することにより、心筋障害に関連する炎症または損傷の治癒および予防を促進することができる。
【0035】
本発明をさらに、限定すると解釈されない以下の実施例により具体的に説明する。
【実施例】
【0036】
合成Tβ4およびTβ4に対する抗体は、RegeneRx Biopharmaceuticals, Inc.社(3Bethesda Metro Center、Suite 700、Bethesda、MD 20814)によって提供され、それらが心内皮細胞から間葉細胞への形質転換に及ぼす作用を決定するためにコラーゲンゲル・アッセイにおいて試験した。心臓弁およびその他の心臓組織の発達は上皮−間葉の形質転換によって形成されること、そしてこのプロセスにおいて血管は発達中および生涯を通しての重篤な心血管形成異常および傷害を引き起こす可能性があることは明確に確認されている。生理的濃度で、Tβ4はコラーゲンゲル・アッセイにおいて内皮細胞から間葉細胞への形質転換を顕著に増強する。さらにその上、Tβ4に対する抗体はこの形質転換を阻害および遮断した。房室心内膜から浸潤性間葉への形質転換は正常心組織の形成および維持ならびに心臓弁の形成において極めて重要である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
心内皮細胞から間葉細胞へ形質転換させるための薬剤を製造するための、アミノ酸配列LKKTETを含むポリペプチドまたはその保存的変異型の使用。
【請求項2】
前記ポリペプチドは、アミノ酸配列LKKTET、KLKKTET、LKKTETQ、または、サイモシンβ4(Tβ4)、Tβ4のN末端変異型、Tβ4のC末端変異型、Tβ4のアイソフォーム、酸化Tβ4またはTβ4スルホキシドを含む、請求項1にl記載の使用。
【請求項3】
前記薬剤は全身投与される、請求項1に記載の使用。
【請求項4】
前記薬剤は前記冠動脈組織へ直接的に投与される、請求項1に記載の使用。
【請求項5】
前記ポリペプチドは組換えまたは合成である、請求項1に記載の使用。
【請求項6】
心内皮細胞から間葉細胞へ形質転換させるための組成物であって、Tβ4、Tβ4アイソフォーム、酸化Tβ4、Tβ4スルホキシド、アクチン隔離または束化タンパク質、または、本質的にアミノ酸配列LKKTETもしくは血管新生誘発性かつ抗炎症性活性を有するその保存的変異型を含むかもしくはそれらからなるペプチドフラグメント、または、インスイリン様成長因子(IGF−1)、血小板由来成長因子(PDGF)、表皮成長因子(EGF)、β型トランスフォーミング成長因子(TGF−β)、塩基性線維芽細胞成長因子(BfGF)、サイモシンα1(Tα1)および血管内皮成長因子(VEGF)から選ばれる少なくともいずれかを含む組成物。
【請求項7】
Tβ4アイソフォームが、Tβ4ala、Tβ9、Tβ10、Tβ11、Tβ12、Tβ13、Tβ14およびTβ15から選ばれる少なくともいずれかである、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
アクチン隔離または束化タンパク質が、ゲルソリン、ビタミンD結合タンパク質(DBP)、プロフィリン、コフィリン、アドセベルチン、プロポミオシン、フィンシリン、デパクチン、DnアーゼI、ビリン、フラグミン、セベリン、キャッピングタンパク質、β−アクチンおよびアクメンチンから選ばれる少なくともいずれかである、請求項6に記載の組成物。
【請求項9】
全身投与される、請求項6に記載の組成物。
【請求項10】
前記冠動脈組織へ直接的に投与される、請求項6に記載の組成物。
【請求項11】
前記ポリペプチドは組換えまたは合成である、請求項6に記載の組成物。

【公開番号】特開2009−221211(P2009−221211A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−123032(P2009−123032)
【出願日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【分割の表示】特願2003−524529(P2003−524529)の分割
【原出願日】平成14年8月29日(2002.8.29)
【出願人】(503334769)リジェナークス・バイオファーマスーティカルズ・インコーポレイテッド (16)
【Fターム(参考)】