サクションロールの製造方法及び光学フィルムの製造方法
【課題】サクションロールにより搬送されるフィルムに、微小すり傷が発生することを防止する。
【解決手段】サクションロールのロール本体38の外周面38aに、多数の吸引孔36を形成する。吸引孔36の外周面側の開口部に略テーパ形状を有するザグリ部55を形成する。ザグリ部55の内壁55aと外周面38aと境界部分56に対して、エッジ60をとるダラシ加工を施す。境界部分56が凸曲面形状に形成される。凸曲面形状の境界部分56がTACフィルムに接触してもTACフィルム11に微小すり傷は発生しないので、ザグリ部55に起因する微小すり傷の発生を防止することができる。
【解決手段】サクションロールのロール本体38の外周面38aに、多数の吸引孔36を形成する。吸引孔36の外周面側の開口部に略テーパ形状を有するザグリ部55を形成する。ザグリ部55の内壁55aと外周面38aと境界部分56に対して、エッジ60をとるダラシ加工を施す。境界部分56が凸曲面形状に形成される。凸曲面形状の境界部分56がTACフィルムに接触してもTACフィルム11に微小すり傷は発生しないので、ザグリ部55に起因する微小すり傷の発生を防止することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外周面に帯状シートを吸着して搬送するサクションロールの製造方法、及びこのサクションロールを用いて光学フィルムを製造する光学フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイには、偏光板の保護や視野角の拡大などの用途に応じて様々な光学フィルムが使用されている。このような光学フィルムの一つとして、液晶ディスプレイの表面の反射を防止する反射防止フィルムが知られている。反射防止フィルムは、支持体となるトリアセチルセルロースフィルム(以下、TACフィルムという)の一面に、ハードコート層やアンチグレア(防眩)ハードコート層を設け、その上に低反射層等からなる反射防止層を設けることで製造される。
【0003】
反射防止フィルムの製造工程には、長尺のTACフィルムを搬送しつつ、その一面にハードコート層となる塗布組成物を塗布する工程、この塗布組成物を乾燥・熱硬化させてハードコート層を形成する工程などのなどの様々な工程が備えられている。これらの各工程内あるいは各工程間には、TACフィルムを搬送するとともに、TACフィルムに付与する張力を工程別に所定の値に調整するサクションロールが配置されている。
【0004】
サクションロールは、その外周面に多数の吸引孔が形成されており、吸引孔から空気を吸引しながら回転することで、吸引孔でTACフィルムを外周面に吸着して搬送する。TACフィルムはサクションロールの外周面に吸着保持されるため、TACフィルムが張力差で張力の大きい方に引っ張られることが防止され、工程間の張力差が保持される。この際に、吸引孔の周縁のエッジとTACフィルムとが接触することで、TACフィルムにすり傷が発生するおそれがある。
【0005】
特許文献1には、金属製の板材にパンチにより多数の吸引孔を形成してなるパンチングメタルを、サクションロール本体の外周面に巻き付けてなるサクションロールが記載されている。特許文献1のサクションロールでは、パンチの打ち込み時に各吸引孔の外周面側の開口部を、外周面側に向かうにつれて開口径が広がる略テーパ形状に形成している。これにより、TACフィルムにすり傷を付き難くすることができる。
【0006】
また、特許文献2に記載のサクションロールでは、各吸引孔の外周面側の開口部に、特許文献1と同じ略テーパ形状のザグリ部を形成している。これにより、特許文献1のサクションロールと同様にTACフィルムにすり傷を付き難くすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−189454号公報
【特許文献2】特開2006−297888号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1のサクションロールでは、サクションロール本体の外周面にパンチングメタルを巻き付けているが、TACフィルムのすり傷やスリップを防止するためには高い円筒精度が必要であり、単にパンチングメタルを巻き付けただけでは必要な円筒精度が得られない。このため、特許文献1では、パンチングメタルの巻き付け後に、その外周面を研磨する必要がある。
【0009】
この際に、図11(A)に示すようにパンチングメタル79の外周面80の表層(網掛け線で表示)を研磨すると、(B)に示すように吸引孔81の開口部と外周面80との境界部分にエッジ82が生じるおそれがある。このため、吸引孔81にTACフィルムが吸着される際に生じる微小スリップにより、TACフィルムとエッジ82とが接触して、TACフィルムに微細なすり傷が発生するおそれが依然してある。
【0010】
また、特許文献2のサクションロールにも、ザグリ部とサクションロールの外周面との境界部分にエッジ(図8参照)が生じているため、特許文献1と同様にTACフィルムに微細なすり傷が発生するおそれが依然してある。
【0011】
近年、液晶ディスプレイの高画質化に伴い、反射防止フィルムのすり傷は微細であってもバックライトから照射される光を散乱させたりするなどの画質に悪影響を及ぼす。このため、従来問題にならなかった長さ50μm、幅15μm、及び深さ0.1μm程度の微小すり傷の発生を防止することが強く求められている。
【0012】
本発明は上記問題を解決するためのものであり、微小すり傷の発生を防止可能なサクションロールを製造する製造方法、及びこのサクションロールを用いた光学フィルムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するため、本発明は、円筒形状に形成されかつ外周面に多数の吸引孔を有し、前記外周面に帯状シートが巻き掛けられるロール本体を備え、前記ロール本体を回転させながら前記外周面の帯状シート巻掛領域内に位置する前記吸引孔から空気を吸引して、当該吸引孔で前記帯状シートを前記外周面に吸着して搬送するサクションロールの製造方法において、前記ロール本体に前記吸引孔をあける第1ステップと、前記吸引孔の前記外周面側の開口部にザグリ部を設ける第2ステップと、前記ザグリ部の内壁と前記外周面との境界部分を凸曲面状に形成する第3ステップと、を有することを特徴とする。
【0014】
前記ザグリ部を、前記外周面側に向かって次第に大径となる略テーパ形状に形成することが好ましい。また、前記ザグリ部の前記外周面上での開口径をL(mm)とし、前記吸引孔の孔径をD(mm)とし、前記ザグリ部の深さをh(mm)としたときに、(式1)0.0625≦(h/D)≦0.2250、(式2)1.15≦(L/D)≦1.55、(式3)1.5≦D<7.0を満たすことが好ましい。
【0015】
前記外周面及び前記ザグリ部の表面粗さRaを1.0μm以下にすることが好ましい。また、前記吸引孔の孔径を7.0mm未満に形成することが好ましい。また、前記帯状シートの厚みが3μm以上300μm以下であることが好ましい。また、前記第1ステップでは、ドリルを用いて前記吸引孔をあけることが好ましい。
【0016】
また、本発明の光学フィルムの製造方法は、請求項1ないし6いずれか記載のサクションロールの製造方法で製造されたサクションロールにより帯状の支持体を搬送しつつ、前記支持体の表面に塗膜(例えばハードコート層)を形成して光学フィルムを製造することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明のサクションロールの製造方法及び光学フィルムの製造方法は、円筒状のロール本体に吸引孔をあけて、この吸引孔のロール外周面側の開口部にザグリ部を設けた後、ザグリ部の内壁と外周面との境界部分を凸曲面状に形成したので、この凸曲面状の境界部分に帯状シートが接触した場合でも帯状シートに微小すり傷がつくことが防止される。その結果、ザグリ部に起因する微小すり傷の発生を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】光学フィルム製造ラインの概略図である。
【図2】サクションロールの断面図である。
【図3】図2中のIII−III線に沿う断面図である。
【図4】吸引孔の断面図である。
【図5】吸引孔の断面を拡大した拡大図である。
【図6】ドリル加工後のロール本体の断面を拡大した拡大図である。
【図7】ザグリ加工後のロール本体の断面を拡大した拡大図である。
【図8】研磨前後のロール本体の断面を拡大した拡大図である。
【図9】ダラシ加工前後のロール本体の断面を拡大した拡大図である。
【図10】めっき層形成後のロール本体の断面を拡大した拡大図である。
【図11】パンチングメタルの吸引孔の断面を拡大した拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1に示すように、光学フィルム製造ライン10は、TACフィルム11の一面にハードコート層12を形成する。光学フィルム製造ライン10は、大別して、フィルム送出装置14と、接合装置15と、熱処理装置16と、除塵装置17と、塗布装置18と、乾燥装置19と、熱硬化装置20と、面検査装置21と、巻付装置22と、フィルム巻取装置23とで構成される。なお、TACフィルム11としては、厚みが3μm〜300μmのものが用いられる。
【0020】
フィルム送出装置14は、ターレットアーム25、ターレットアーム25を回動自在に保持する保持台26等で構成される。ターレットアーム25の両端部には、長尺のTACフィルム11をロール状に巻き取ったフィルムロール27a,27bがセットされる。ターレットアーム25が180°ずつ間欠回転することで、フィルムロール27a,27bの一方がフィルム送出位置にセットされ、他方が待機位置にセットされる。フィルム送出位置にセットされたフィルムロールは、図示しないロール駆動機構により図中時計方向に回転され、TACフィルム11を製造ラインに送り出す。
【0021】
接合装置15は、フィルムロール27a,27bの一方から送出された先行のTACフィルム11の終端部に、他方から送出された後続のTACフィルム11の先端部を接合する。熱処理装置16は、ハードコート層形成前のTACフィルム11の温度を所定の範囲内に調整する。除塵装置17は、TACフィルム11のハードコート層形成面に付着している異物を除去する。
【0022】
塗布装置18は、TACフィルム11のハードコート層形成面に、ハードコート層12となる塗布組成物を塗布する。乾燥装置19及び熱硬化装置20は、それぞれ塗布組成物を乾燥、熱硬化させてハードコート層12を形成する。面検査装置21は、ハードコート層12に傷が発生、あるいは異物等が付着しているか否かを検査する。
【0023】
フィルム巻取装置23は、ターレットアーム29、ターレットアーム29を回動自在に保持する保持台30等で構成される。ターレットアーム29の両端部には巻芯31a,31bが取り付けられている。ターレットアーム29が180°ずつ間欠回転することで、巻芯31a,31bの一方がフィルム巻取位置にセットされ、他方が待機位置にセットされる。フィルム巻取位置にセットされた巻芯は、図示しない巻芯駆動機構により図中反時計方向に回転され、TACフィルム11をロール状に巻き取る。フィルムロールが満巻になると、図示しないカッタ装置によりTACフィルム11が切断された後、ターレットアーム29が180°間欠回転する。切断されたTACフィルム11の先端は、巻付装置22により空の巻芯に巻き付けられる。
【0024】
光学フィルム製造ライン10の所定の装置間には、TACフィルム11の搬送路を決定するとともに搬送安定性を向上させるパスローラ33と、TACフィルム11に駆動を伝達して下流側に搬送するサクションロール34とが配置されている。
【0025】
サクションロール34は、TACフィルム11に付与する張力が異なる装置間に配置されている。サクションロール34は、その外周面に多数の吸引孔36(図2参照)が形成されており、各吸引孔36の一部から空気を吸引しながら回転することにより、TACフィルム11を外周面に吸着して搬送する。TACフィルム11はサクションロール34の外周面に吸着保持されるため、各サクションロール34間で異なる張力でTACフィルム11を搬送することができる。
【0026】
図2及び図3に示すように、サクションロール34は、円筒状のロール本体38と、ロール本体38の両端の開口を閉じる側面カバー39a,39bと、中空の支持軸40とで構成される。なお、図1中の各サクションロール34は全て同じものであり、ここでは接合装置15と熱処理装置16との間に配置されているものを代表として説明する。
【0027】
ロール本体38は、その厚みが10mm以上の金属筒である。このロール本体38には、その内外周面を貫通する多数の吸引孔36が形成されている。吸引孔36の配列は特に限定はされないが、例えば吸引孔36をロール本体38の軸方向に多列に並べて形成した吸引孔領域42が、ロール本体38の周方向に一定のピッチで複数設けられている。
【0028】
側面カバー39a,39bは、ロール本体38の両開口にそれぞれ嵌合した状態でロール本体38に固定され、ロール本体38と一体化されている。側面カバー39aは、ロール本体38の軸方向(以下、ロール軸方向という)に沿う断面が略コ字状に形成されている。側面カバー39aの側面カバー39bに対向する面には、凹み部43が形成されている。この凹み部43には軸受け44の外輪部(図示は省略)が固定されている。
【0029】
また、側面カバー39aの反対側の面には駆動軸45が設けられている。駆動軸45には、例えばモータ及びギヤなどから構成される回転駆動機構46が接続している。側面カバー39bは、略円環状に形成されており、その内周には軸受け47の外輪部(図示せず)が固定されている。
【0030】
支持軸40は、ロール本体38の内側に設けられ、ロール軸方向に長く延びた形状を有している。この支持軸40の側面カバー39a側の端部は、閉塞されており、軸受け44の内輪部(図示せず)に固定されている。支持軸40の側面カバー39b側の端部は、軸受け47の内輪部(図示せず)に固定されている。従って、ロール本体38及び側面カバー39a,39bは、支持軸40により回転自在に支持される。回転駆動機構46は駆動軸45を回転させる。これにより、ロール本体38及び側面カバー39a,39bが支持軸40を中心として一体に回転する。
【0031】
支持軸40には、ロール本体38の内側でロール軸方向に長く延びたスリット状の開口49が形成されている。また、支持軸40の側面カバー39b側の端部は、負圧源50に接続している。
【0032】
また、支持軸40には、ロール本体38の内側の空間を仕切る仕切り壁52a,52bが設けられている(図3参照)。仕切り壁52a,52bは、ロール軸方向に長く延びた板形状を有しており、開口49を間に挟むように支持軸40に設けられている。これにより、ロール本体38の内側に、ロール本体38の内周と支持軸40の外周と仕切り壁52a,52bとにより区画される吸引室53が形成される。この吸引室53は、TACフィルム11の巻き掛け開始位置Aから剥離位置Bの間のフィルム巻き掛け領域の内側に形成される。
【0033】
負圧源50は、例えば真空ポンプなどが用いられ、支持軸40の内部空間54及び開口49を介して吸引室53内の空気を吸引する。これにより、巻き掛け開始位置Aから剥離位置Bの間に位置する吸引孔36から空気が吸引され、これ以外の吸引孔36からは空気が吸引されない。こうしてTACフィルム11は、巻き掛け開始位置Aから剥離位置Bの間でロール本体38の外周面に吸着保持され、さらにこの状態でロール本体38が回転することで下流側に搬送される。
【0034】
吸引孔36の断面を示す図4において、吸引孔36のロール本体38の外周面側(以下、単にロール外周面側という)の開口部にはザグリ部55が形成されている。ザグリ部55は、ロール外周面側に向かって次第に大径となる略テーパ形状を有している。また、ザグリ部55の内壁55aとロール本体38の外周面38aとの境界部分56は、凸曲面形状を有している。
【0035】
ザグリ部55の外周面38a上の開口径をL(mm)、吸引孔36の孔径をD(mm)、ザグリ部55の深さをh(mm)としたときに、これらL、D、hが下記式(1)〜式(3)を満たすように、吸引孔36とザグリ部55(境界部分56を含む)とがそれぞれ形成されている。また、外周面38a及びザグリ部55の各表面の表面粗さ(JISで規定されている算術平均粗さ)Raは1.0μm以下である。
(1)0.0625≦(h/D)≦0.2250
(2)1.15≦(L/D)≦1.55
(3)1.5≦D<7.0
【0036】
また、図5に示すように、外周面38a及びザグリ部55の各表面上には、各種金属からなるめっき層58が形成されている。このめっき層58の厚みは、特に限定されず、例えば30μm〜90μmである。
【0037】
次に上記構成のサクションロール34の製造方法について説明を行う。最初に図6に示すように、周知のドリル加工装置を用いてロール本体38の外周面38aに吸引孔36を1つずつあける。各吸引孔36の孔径Dは、上記式(3)を満たす範囲に調整される。なお、図6〜図10では図面の煩雑化を防止するため、1つの吸引孔36を代表として図示している。
【0038】
ドリル加工後、図7に示すように、周知のザグリ加工装置あるいは切削工具などを用いて吸引孔36のロール外周面側の開口部にザグリ加工を施し、上述の略テーパ形状のザグリ部55を形成する。次いで、図8に示すように、外周面38a及びザグリ部55に周知の各種研磨処理を施して、外周面38aの表層(網掛け線で表示)を切削研磨する。これにより、ドリル加工やザグリ加工時に生じたバリ等が除去される。研磨処理後のザグリ部55の深さhは、上記式(1)を満たす範囲に調整される。
【0039】
研磨処理後、図9(A)に示すように、ザグリ部55の内壁55aと外周面38aとの境界部分56に対して、そのエッジ60(網掛け線で表示)をとる所謂ダラシ加工(曲面加工)を施す。これにより、(B)に示すように、境界部分56のエッジ60が除去され、境界部分56が凸曲面状に形成される。ダラシ加工によりザグリ部55の開口径Lが増加するが、この増加後の開口径Lは、上記式(2)を満たす範囲に調整される。
【0040】
ダラシ加工後、外周面38a及びザグリ部55の各表面上にめっき前処理(例えばバフ掛け)が施される。これにより、各表面の表面粗さRaが1.0μm以下に調整される。
【0041】
次いで、図10に示すように、周知のめっき処理法を用いて、外周面38a及びザグリ部55の各表面上に厚み30〜90μmのめっき層58を形成する。ザグリ部55の開口径Lが広がり、さらに境界部分56が凸曲面状であるため、めっきの密着性が向上する。これにより、従来ではめっき剥がれを防止するためにめっき層58の厚みを20μm〜30μmに調整していたが、本発明ではめっき層58の厚みを100μmにしてもめっき剥がれは生じない。
【0042】
このように境界部分56を凸曲面状に形成することで、サクションロール34によるフィルム搬送中において、上述の微小スリップなどにより境界部分56とTACフィルム11とが接触した場合でも、TACフィルム11に微小すり傷が発生することが防止される。これにより、ザグリ部55に起因するTACフィルム11のすり傷の発生を防止することができる。
【0043】
また、本発明は、ロール本体38として厚みの厚い金属筒を用い、この金属筒にドリル加工、ザグリ加工、ダラシ加工を施すようにしたので、金属筒の外周面にパンチングメタルを巻き付けてなる上記特許文献1記載のサクションロールとは異なり、高い円筒精度を確保することができ、さらに円筒精度を確保するための研磨処理(図11参照)が不要となる。その結果、本発明では、上述の図11を用いて説明した研磨によるエッジの発生といった問題は生じない。
【0044】
さらに本発明は、外周面38a及びザグリ部55の表面粗さRaを1.0μm以下にしたので、TACフィルム11が吸引孔36に吸引される時に発生する微小すり傷を防止できるという効果が得られる。逆にRa>1.0μmの場合には表面が粗いことによりTACフィルム11に傷がつくという問題が生じる。また、本発明の光学フィルム製造ライン10では、TACフィルム11として厚みが3μm〜300μmのものを搬送するが、これは、厚みが300μmを超えると剛性が増してTACフィルム11が凸曲面状の境界部分56に接触しなくなり、逆に厚みが3μm未満となると剛性が低くなり吸引孔36に吸い込まれて傷がつくといった問題が発生するためである。このため、TACフィルム11の厚みに応じて吸引孔36の形状や大きさを変えている。
【0045】
めっき層58の形成後、ロール本体38の外周面38a及び境界部分56等にバフ掛けが行われ、ロール本体38の加工が完了する。次いで、ロール本体38、側面カバー39a,39b、支持軸40等を一体に組み付けてサクションロール34の製造が完了する。
【0046】
上記実施形態では略テーパ形状のザグリ部55を例に挙げて説明を行ったが、ザグリ部の形状は特に限定されず、公知の各種形状に形成されていてもよい。また、上記実施形態では、TACフィルム11にハードコート層12を形成する光学フィルム製造ライン10に配置されたサクションロール34について説明を行ったが、例えばTACフィルム11などの各種支持体上に反射防止層等の各種塗膜を形成する各種光学フィルム製造ラインに配置されるサクションロール及びその製造に本発明を適用することができる。
【実施例】
【0047】
以下、本発明の効果を実証するための実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例及び比較例に限定されるものではない。下記表1及び表2に示すように、実施例1〜14のサクションロール34では上述のダラシ加工を行って境界部分56を凸曲面形状に形成した。また、実施例1〜9のサクションロール34では、ザグリ部55の開口径L(mm)、吸引孔36の孔径D(mm)、及びザグリ部55の深さh(mm)がそれぞれ上記式(1)〜式(3)をそれぞれ満たすように吸引孔36、ザグリ部55、及び境界部分56を形成した。
【0048】
実施例10及び実施例11のサクションロール34ではh/D<0.0625かつL/D<1.15となる以外は、上記式(3)を満たすように吸引孔36、ザグリ部55、及び境界部分56を形成した。実施例12のサクションロール34ではh/D<0.0625かつL/D>1.55となる以外は、上記式(3)を満たすように吸引孔36、ザグリ部55、及び境界部分56を形成した。
【0049】
実施例13のサクションロール34ではh/D>0.2250となる以外は、上記式(2)、(3)を満たすように吸引孔36、ザグリ部55、及び境界部分56を形成した。実施例14のサクションロール34ではD<1.5となる以外は、上記式(1)及び式(2)を満たすように吸引孔36、ザグリ部55、及び境界部分56を形成した。
【0050】
また、下記表3に示すように、比較例1〜3のサクションロールでは、境界部分56にダラシ加工を行わず、境界部分56にエッジ60(図9参照)を残した。また、比較例1のサクションロールでは、L/D<1.15となる以外は、上記式(1)及び式(3)を満たすように吸引孔36、ザグリ部55、及び境界部分56を形成した。比較例2及び比較例3のサクションロールは、ダラシ加工を行わない点を除けば、それぞれ実施例1及び実施例2と同じ条件で形成した。
【0051】
比較例4のサクションロール34では、上記各実施例と同様に境界部分56にダラシ加工を行ったが、h/D<0.0625、L/D<1.15、D=7となるように吸引孔36、ザグリ部55、及び境界部分56を形成した。
【0052】
以上のような実施例1〜14及び比較例1〜4のサクションロールについて、厚み80μmのTACフィルム11の搬送を行ったときの微小すり傷(長さ50μm、幅15μm、及び深さ0.1μm程度)の発生の有無、及びザグリ部55の周縁(境界部分56)の形状がTACフィルム11に転写される所謂「転写」の発生の有無を、顕微鏡を使った目視検査で評価した。そして、微小すり傷及び転写が発生しない場合には「○」と判定し、サクション圧力(吸引力)などの工程条件によって微小すり傷または転写が発生する場合には「△」と判定し、工程条件に関係なく微小すり傷または転写が発生する場合には「×」と判定した。
【0053】
【表1】
【0054】
【表2】
【0055】
【表3】
【0056】
上記表1〜表3に示すように、各実施例1〜13と比較例1〜3を比較した結果、境界部分56を凸曲面状に形成することで、微小すり傷や転写の発生が抑えられることが確認された。ただし、この場合でも実施例14及び比較例4の結果から、孔径Dが1.0mm以下、あるいは7.0mm以上の場合には、工程条件に関係なく微小すり傷または転写が発生するため、孔径Dは式(3)、より好ましくは2.0≦D≦6.0を満たす必要があることが確認された。
【0057】
また、実施例1〜9と実施例10〜14とを比較した結果、上記式(1)〜式(3)を満たすように吸引孔36、ザグリ部55、及び境界部分56を形成することで、微小すり傷や転写の発生がより確実に抑えられることが確認された。
【0058】
さらに、実施例9及び比較例4の結果から、吸引孔36の孔径D及びザグリ部55の開口径Lが大きくなると転写が発生し易くなることが確認された。その結果、TACフィルム11の温度や張力などの条件によって転写の発生が懸念される箇所では、孔径D及び開口径Lを上記式(1)〜式(3)を満たす範囲内で小さくした方が転写の発生を抑えられることが確認された。
【符号の説明】
【0059】
10 光学フィルム製造ライン
11 TACフィルム
12 ハードコート層
34 サクションロール
36 吸引孔
55 ザグリ部
56 境界部分
【技術分野】
【0001】
本発明は、外周面に帯状シートを吸着して搬送するサクションロールの製造方法、及びこのサクションロールを用いて光学フィルムを製造する光学フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイには、偏光板の保護や視野角の拡大などの用途に応じて様々な光学フィルムが使用されている。このような光学フィルムの一つとして、液晶ディスプレイの表面の反射を防止する反射防止フィルムが知られている。反射防止フィルムは、支持体となるトリアセチルセルロースフィルム(以下、TACフィルムという)の一面に、ハードコート層やアンチグレア(防眩)ハードコート層を設け、その上に低反射層等からなる反射防止層を設けることで製造される。
【0003】
反射防止フィルムの製造工程には、長尺のTACフィルムを搬送しつつ、その一面にハードコート層となる塗布組成物を塗布する工程、この塗布組成物を乾燥・熱硬化させてハードコート層を形成する工程などのなどの様々な工程が備えられている。これらの各工程内あるいは各工程間には、TACフィルムを搬送するとともに、TACフィルムに付与する張力を工程別に所定の値に調整するサクションロールが配置されている。
【0004】
サクションロールは、その外周面に多数の吸引孔が形成されており、吸引孔から空気を吸引しながら回転することで、吸引孔でTACフィルムを外周面に吸着して搬送する。TACフィルムはサクションロールの外周面に吸着保持されるため、TACフィルムが張力差で張力の大きい方に引っ張られることが防止され、工程間の張力差が保持される。この際に、吸引孔の周縁のエッジとTACフィルムとが接触することで、TACフィルムにすり傷が発生するおそれがある。
【0005】
特許文献1には、金属製の板材にパンチにより多数の吸引孔を形成してなるパンチングメタルを、サクションロール本体の外周面に巻き付けてなるサクションロールが記載されている。特許文献1のサクションロールでは、パンチの打ち込み時に各吸引孔の外周面側の開口部を、外周面側に向かうにつれて開口径が広がる略テーパ形状に形成している。これにより、TACフィルムにすり傷を付き難くすることができる。
【0006】
また、特許文献2に記載のサクションロールでは、各吸引孔の外周面側の開口部に、特許文献1と同じ略テーパ形状のザグリ部を形成している。これにより、特許文献1のサクションロールと同様にTACフィルムにすり傷を付き難くすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−189454号公報
【特許文献2】特開2006−297888号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1のサクションロールでは、サクションロール本体の外周面にパンチングメタルを巻き付けているが、TACフィルムのすり傷やスリップを防止するためには高い円筒精度が必要であり、単にパンチングメタルを巻き付けただけでは必要な円筒精度が得られない。このため、特許文献1では、パンチングメタルの巻き付け後に、その外周面を研磨する必要がある。
【0009】
この際に、図11(A)に示すようにパンチングメタル79の外周面80の表層(網掛け線で表示)を研磨すると、(B)に示すように吸引孔81の開口部と外周面80との境界部分にエッジ82が生じるおそれがある。このため、吸引孔81にTACフィルムが吸着される際に生じる微小スリップにより、TACフィルムとエッジ82とが接触して、TACフィルムに微細なすり傷が発生するおそれが依然してある。
【0010】
また、特許文献2のサクションロールにも、ザグリ部とサクションロールの外周面との境界部分にエッジ(図8参照)が生じているため、特許文献1と同様にTACフィルムに微細なすり傷が発生するおそれが依然してある。
【0011】
近年、液晶ディスプレイの高画質化に伴い、反射防止フィルムのすり傷は微細であってもバックライトから照射される光を散乱させたりするなどの画質に悪影響を及ぼす。このため、従来問題にならなかった長さ50μm、幅15μm、及び深さ0.1μm程度の微小すり傷の発生を防止することが強く求められている。
【0012】
本発明は上記問題を解決するためのものであり、微小すり傷の発生を防止可能なサクションロールを製造する製造方法、及びこのサクションロールを用いた光学フィルムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するため、本発明は、円筒形状に形成されかつ外周面に多数の吸引孔を有し、前記外周面に帯状シートが巻き掛けられるロール本体を備え、前記ロール本体を回転させながら前記外周面の帯状シート巻掛領域内に位置する前記吸引孔から空気を吸引して、当該吸引孔で前記帯状シートを前記外周面に吸着して搬送するサクションロールの製造方法において、前記ロール本体に前記吸引孔をあける第1ステップと、前記吸引孔の前記外周面側の開口部にザグリ部を設ける第2ステップと、前記ザグリ部の内壁と前記外周面との境界部分を凸曲面状に形成する第3ステップと、を有することを特徴とする。
【0014】
前記ザグリ部を、前記外周面側に向かって次第に大径となる略テーパ形状に形成することが好ましい。また、前記ザグリ部の前記外周面上での開口径をL(mm)とし、前記吸引孔の孔径をD(mm)とし、前記ザグリ部の深さをh(mm)としたときに、(式1)0.0625≦(h/D)≦0.2250、(式2)1.15≦(L/D)≦1.55、(式3)1.5≦D<7.0を満たすことが好ましい。
【0015】
前記外周面及び前記ザグリ部の表面粗さRaを1.0μm以下にすることが好ましい。また、前記吸引孔の孔径を7.0mm未満に形成することが好ましい。また、前記帯状シートの厚みが3μm以上300μm以下であることが好ましい。また、前記第1ステップでは、ドリルを用いて前記吸引孔をあけることが好ましい。
【0016】
また、本発明の光学フィルムの製造方法は、請求項1ないし6いずれか記載のサクションロールの製造方法で製造されたサクションロールにより帯状の支持体を搬送しつつ、前記支持体の表面に塗膜(例えばハードコート層)を形成して光学フィルムを製造することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明のサクションロールの製造方法及び光学フィルムの製造方法は、円筒状のロール本体に吸引孔をあけて、この吸引孔のロール外周面側の開口部にザグリ部を設けた後、ザグリ部の内壁と外周面との境界部分を凸曲面状に形成したので、この凸曲面状の境界部分に帯状シートが接触した場合でも帯状シートに微小すり傷がつくことが防止される。その結果、ザグリ部に起因する微小すり傷の発生を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】光学フィルム製造ラインの概略図である。
【図2】サクションロールの断面図である。
【図3】図2中のIII−III線に沿う断面図である。
【図4】吸引孔の断面図である。
【図5】吸引孔の断面を拡大した拡大図である。
【図6】ドリル加工後のロール本体の断面を拡大した拡大図である。
【図7】ザグリ加工後のロール本体の断面を拡大した拡大図である。
【図8】研磨前後のロール本体の断面を拡大した拡大図である。
【図9】ダラシ加工前後のロール本体の断面を拡大した拡大図である。
【図10】めっき層形成後のロール本体の断面を拡大した拡大図である。
【図11】パンチングメタルの吸引孔の断面を拡大した拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1に示すように、光学フィルム製造ライン10は、TACフィルム11の一面にハードコート層12を形成する。光学フィルム製造ライン10は、大別して、フィルム送出装置14と、接合装置15と、熱処理装置16と、除塵装置17と、塗布装置18と、乾燥装置19と、熱硬化装置20と、面検査装置21と、巻付装置22と、フィルム巻取装置23とで構成される。なお、TACフィルム11としては、厚みが3μm〜300μmのものが用いられる。
【0020】
フィルム送出装置14は、ターレットアーム25、ターレットアーム25を回動自在に保持する保持台26等で構成される。ターレットアーム25の両端部には、長尺のTACフィルム11をロール状に巻き取ったフィルムロール27a,27bがセットされる。ターレットアーム25が180°ずつ間欠回転することで、フィルムロール27a,27bの一方がフィルム送出位置にセットされ、他方が待機位置にセットされる。フィルム送出位置にセットされたフィルムロールは、図示しないロール駆動機構により図中時計方向に回転され、TACフィルム11を製造ラインに送り出す。
【0021】
接合装置15は、フィルムロール27a,27bの一方から送出された先行のTACフィルム11の終端部に、他方から送出された後続のTACフィルム11の先端部を接合する。熱処理装置16は、ハードコート層形成前のTACフィルム11の温度を所定の範囲内に調整する。除塵装置17は、TACフィルム11のハードコート層形成面に付着している異物を除去する。
【0022】
塗布装置18は、TACフィルム11のハードコート層形成面に、ハードコート層12となる塗布組成物を塗布する。乾燥装置19及び熱硬化装置20は、それぞれ塗布組成物を乾燥、熱硬化させてハードコート層12を形成する。面検査装置21は、ハードコート層12に傷が発生、あるいは異物等が付着しているか否かを検査する。
【0023】
フィルム巻取装置23は、ターレットアーム29、ターレットアーム29を回動自在に保持する保持台30等で構成される。ターレットアーム29の両端部には巻芯31a,31bが取り付けられている。ターレットアーム29が180°ずつ間欠回転することで、巻芯31a,31bの一方がフィルム巻取位置にセットされ、他方が待機位置にセットされる。フィルム巻取位置にセットされた巻芯は、図示しない巻芯駆動機構により図中反時計方向に回転され、TACフィルム11をロール状に巻き取る。フィルムロールが満巻になると、図示しないカッタ装置によりTACフィルム11が切断された後、ターレットアーム29が180°間欠回転する。切断されたTACフィルム11の先端は、巻付装置22により空の巻芯に巻き付けられる。
【0024】
光学フィルム製造ライン10の所定の装置間には、TACフィルム11の搬送路を決定するとともに搬送安定性を向上させるパスローラ33と、TACフィルム11に駆動を伝達して下流側に搬送するサクションロール34とが配置されている。
【0025】
サクションロール34は、TACフィルム11に付与する張力が異なる装置間に配置されている。サクションロール34は、その外周面に多数の吸引孔36(図2参照)が形成されており、各吸引孔36の一部から空気を吸引しながら回転することにより、TACフィルム11を外周面に吸着して搬送する。TACフィルム11はサクションロール34の外周面に吸着保持されるため、各サクションロール34間で異なる張力でTACフィルム11を搬送することができる。
【0026】
図2及び図3に示すように、サクションロール34は、円筒状のロール本体38と、ロール本体38の両端の開口を閉じる側面カバー39a,39bと、中空の支持軸40とで構成される。なお、図1中の各サクションロール34は全て同じものであり、ここでは接合装置15と熱処理装置16との間に配置されているものを代表として説明する。
【0027】
ロール本体38は、その厚みが10mm以上の金属筒である。このロール本体38には、その内外周面を貫通する多数の吸引孔36が形成されている。吸引孔36の配列は特に限定はされないが、例えば吸引孔36をロール本体38の軸方向に多列に並べて形成した吸引孔領域42が、ロール本体38の周方向に一定のピッチで複数設けられている。
【0028】
側面カバー39a,39bは、ロール本体38の両開口にそれぞれ嵌合した状態でロール本体38に固定され、ロール本体38と一体化されている。側面カバー39aは、ロール本体38の軸方向(以下、ロール軸方向という)に沿う断面が略コ字状に形成されている。側面カバー39aの側面カバー39bに対向する面には、凹み部43が形成されている。この凹み部43には軸受け44の外輪部(図示は省略)が固定されている。
【0029】
また、側面カバー39aの反対側の面には駆動軸45が設けられている。駆動軸45には、例えばモータ及びギヤなどから構成される回転駆動機構46が接続している。側面カバー39bは、略円環状に形成されており、その内周には軸受け47の外輪部(図示せず)が固定されている。
【0030】
支持軸40は、ロール本体38の内側に設けられ、ロール軸方向に長く延びた形状を有している。この支持軸40の側面カバー39a側の端部は、閉塞されており、軸受け44の内輪部(図示せず)に固定されている。支持軸40の側面カバー39b側の端部は、軸受け47の内輪部(図示せず)に固定されている。従って、ロール本体38及び側面カバー39a,39bは、支持軸40により回転自在に支持される。回転駆動機構46は駆動軸45を回転させる。これにより、ロール本体38及び側面カバー39a,39bが支持軸40を中心として一体に回転する。
【0031】
支持軸40には、ロール本体38の内側でロール軸方向に長く延びたスリット状の開口49が形成されている。また、支持軸40の側面カバー39b側の端部は、負圧源50に接続している。
【0032】
また、支持軸40には、ロール本体38の内側の空間を仕切る仕切り壁52a,52bが設けられている(図3参照)。仕切り壁52a,52bは、ロール軸方向に長く延びた板形状を有しており、開口49を間に挟むように支持軸40に設けられている。これにより、ロール本体38の内側に、ロール本体38の内周と支持軸40の外周と仕切り壁52a,52bとにより区画される吸引室53が形成される。この吸引室53は、TACフィルム11の巻き掛け開始位置Aから剥離位置Bの間のフィルム巻き掛け領域の内側に形成される。
【0033】
負圧源50は、例えば真空ポンプなどが用いられ、支持軸40の内部空間54及び開口49を介して吸引室53内の空気を吸引する。これにより、巻き掛け開始位置Aから剥離位置Bの間に位置する吸引孔36から空気が吸引され、これ以外の吸引孔36からは空気が吸引されない。こうしてTACフィルム11は、巻き掛け開始位置Aから剥離位置Bの間でロール本体38の外周面に吸着保持され、さらにこの状態でロール本体38が回転することで下流側に搬送される。
【0034】
吸引孔36の断面を示す図4において、吸引孔36のロール本体38の外周面側(以下、単にロール外周面側という)の開口部にはザグリ部55が形成されている。ザグリ部55は、ロール外周面側に向かって次第に大径となる略テーパ形状を有している。また、ザグリ部55の内壁55aとロール本体38の外周面38aとの境界部分56は、凸曲面形状を有している。
【0035】
ザグリ部55の外周面38a上の開口径をL(mm)、吸引孔36の孔径をD(mm)、ザグリ部55の深さをh(mm)としたときに、これらL、D、hが下記式(1)〜式(3)を満たすように、吸引孔36とザグリ部55(境界部分56を含む)とがそれぞれ形成されている。また、外周面38a及びザグリ部55の各表面の表面粗さ(JISで規定されている算術平均粗さ)Raは1.0μm以下である。
(1)0.0625≦(h/D)≦0.2250
(2)1.15≦(L/D)≦1.55
(3)1.5≦D<7.0
【0036】
また、図5に示すように、外周面38a及びザグリ部55の各表面上には、各種金属からなるめっき層58が形成されている。このめっき層58の厚みは、特に限定されず、例えば30μm〜90μmである。
【0037】
次に上記構成のサクションロール34の製造方法について説明を行う。最初に図6に示すように、周知のドリル加工装置を用いてロール本体38の外周面38aに吸引孔36を1つずつあける。各吸引孔36の孔径Dは、上記式(3)を満たす範囲に調整される。なお、図6〜図10では図面の煩雑化を防止するため、1つの吸引孔36を代表として図示している。
【0038】
ドリル加工後、図7に示すように、周知のザグリ加工装置あるいは切削工具などを用いて吸引孔36のロール外周面側の開口部にザグリ加工を施し、上述の略テーパ形状のザグリ部55を形成する。次いで、図8に示すように、外周面38a及びザグリ部55に周知の各種研磨処理を施して、外周面38aの表層(網掛け線で表示)を切削研磨する。これにより、ドリル加工やザグリ加工時に生じたバリ等が除去される。研磨処理後のザグリ部55の深さhは、上記式(1)を満たす範囲に調整される。
【0039】
研磨処理後、図9(A)に示すように、ザグリ部55の内壁55aと外周面38aとの境界部分56に対して、そのエッジ60(網掛け線で表示)をとる所謂ダラシ加工(曲面加工)を施す。これにより、(B)に示すように、境界部分56のエッジ60が除去され、境界部分56が凸曲面状に形成される。ダラシ加工によりザグリ部55の開口径Lが増加するが、この増加後の開口径Lは、上記式(2)を満たす範囲に調整される。
【0040】
ダラシ加工後、外周面38a及びザグリ部55の各表面上にめっき前処理(例えばバフ掛け)が施される。これにより、各表面の表面粗さRaが1.0μm以下に調整される。
【0041】
次いで、図10に示すように、周知のめっき処理法を用いて、外周面38a及びザグリ部55の各表面上に厚み30〜90μmのめっき層58を形成する。ザグリ部55の開口径Lが広がり、さらに境界部分56が凸曲面状であるため、めっきの密着性が向上する。これにより、従来ではめっき剥がれを防止するためにめっき層58の厚みを20μm〜30μmに調整していたが、本発明ではめっき層58の厚みを100μmにしてもめっき剥がれは生じない。
【0042】
このように境界部分56を凸曲面状に形成することで、サクションロール34によるフィルム搬送中において、上述の微小スリップなどにより境界部分56とTACフィルム11とが接触した場合でも、TACフィルム11に微小すり傷が発生することが防止される。これにより、ザグリ部55に起因するTACフィルム11のすり傷の発生を防止することができる。
【0043】
また、本発明は、ロール本体38として厚みの厚い金属筒を用い、この金属筒にドリル加工、ザグリ加工、ダラシ加工を施すようにしたので、金属筒の外周面にパンチングメタルを巻き付けてなる上記特許文献1記載のサクションロールとは異なり、高い円筒精度を確保することができ、さらに円筒精度を確保するための研磨処理(図11参照)が不要となる。その結果、本発明では、上述の図11を用いて説明した研磨によるエッジの発生といった問題は生じない。
【0044】
さらに本発明は、外周面38a及びザグリ部55の表面粗さRaを1.0μm以下にしたので、TACフィルム11が吸引孔36に吸引される時に発生する微小すり傷を防止できるという効果が得られる。逆にRa>1.0μmの場合には表面が粗いことによりTACフィルム11に傷がつくという問題が生じる。また、本発明の光学フィルム製造ライン10では、TACフィルム11として厚みが3μm〜300μmのものを搬送するが、これは、厚みが300μmを超えると剛性が増してTACフィルム11が凸曲面状の境界部分56に接触しなくなり、逆に厚みが3μm未満となると剛性が低くなり吸引孔36に吸い込まれて傷がつくといった問題が発生するためである。このため、TACフィルム11の厚みに応じて吸引孔36の形状や大きさを変えている。
【0045】
めっき層58の形成後、ロール本体38の外周面38a及び境界部分56等にバフ掛けが行われ、ロール本体38の加工が完了する。次いで、ロール本体38、側面カバー39a,39b、支持軸40等を一体に組み付けてサクションロール34の製造が完了する。
【0046】
上記実施形態では略テーパ形状のザグリ部55を例に挙げて説明を行ったが、ザグリ部の形状は特に限定されず、公知の各種形状に形成されていてもよい。また、上記実施形態では、TACフィルム11にハードコート層12を形成する光学フィルム製造ライン10に配置されたサクションロール34について説明を行ったが、例えばTACフィルム11などの各種支持体上に反射防止層等の各種塗膜を形成する各種光学フィルム製造ラインに配置されるサクションロール及びその製造に本発明を適用することができる。
【実施例】
【0047】
以下、本発明の効果を実証するための実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例及び比較例に限定されるものではない。下記表1及び表2に示すように、実施例1〜14のサクションロール34では上述のダラシ加工を行って境界部分56を凸曲面形状に形成した。また、実施例1〜9のサクションロール34では、ザグリ部55の開口径L(mm)、吸引孔36の孔径D(mm)、及びザグリ部55の深さh(mm)がそれぞれ上記式(1)〜式(3)をそれぞれ満たすように吸引孔36、ザグリ部55、及び境界部分56を形成した。
【0048】
実施例10及び実施例11のサクションロール34ではh/D<0.0625かつL/D<1.15となる以外は、上記式(3)を満たすように吸引孔36、ザグリ部55、及び境界部分56を形成した。実施例12のサクションロール34ではh/D<0.0625かつL/D>1.55となる以外は、上記式(3)を満たすように吸引孔36、ザグリ部55、及び境界部分56を形成した。
【0049】
実施例13のサクションロール34ではh/D>0.2250となる以外は、上記式(2)、(3)を満たすように吸引孔36、ザグリ部55、及び境界部分56を形成した。実施例14のサクションロール34ではD<1.5となる以外は、上記式(1)及び式(2)を満たすように吸引孔36、ザグリ部55、及び境界部分56を形成した。
【0050】
また、下記表3に示すように、比較例1〜3のサクションロールでは、境界部分56にダラシ加工を行わず、境界部分56にエッジ60(図9参照)を残した。また、比較例1のサクションロールでは、L/D<1.15となる以外は、上記式(1)及び式(3)を満たすように吸引孔36、ザグリ部55、及び境界部分56を形成した。比較例2及び比較例3のサクションロールは、ダラシ加工を行わない点を除けば、それぞれ実施例1及び実施例2と同じ条件で形成した。
【0051】
比較例4のサクションロール34では、上記各実施例と同様に境界部分56にダラシ加工を行ったが、h/D<0.0625、L/D<1.15、D=7となるように吸引孔36、ザグリ部55、及び境界部分56を形成した。
【0052】
以上のような実施例1〜14及び比較例1〜4のサクションロールについて、厚み80μmのTACフィルム11の搬送を行ったときの微小すり傷(長さ50μm、幅15μm、及び深さ0.1μm程度)の発生の有無、及びザグリ部55の周縁(境界部分56)の形状がTACフィルム11に転写される所謂「転写」の発生の有無を、顕微鏡を使った目視検査で評価した。そして、微小すり傷及び転写が発生しない場合には「○」と判定し、サクション圧力(吸引力)などの工程条件によって微小すり傷または転写が発生する場合には「△」と判定し、工程条件に関係なく微小すり傷または転写が発生する場合には「×」と判定した。
【0053】
【表1】
【0054】
【表2】
【0055】
【表3】
【0056】
上記表1〜表3に示すように、各実施例1〜13と比較例1〜3を比較した結果、境界部分56を凸曲面状に形成することで、微小すり傷や転写の発生が抑えられることが確認された。ただし、この場合でも実施例14及び比較例4の結果から、孔径Dが1.0mm以下、あるいは7.0mm以上の場合には、工程条件に関係なく微小すり傷または転写が発生するため、孔径Dは式(3)、より好ましくは2.0≦D≦6.0を満たす必要があることが確認された。
【0057】
また、実施例1〜9と実施例10〜14とを比較した結果、上記式(1)〜式(3)を満たすように吸引孔36、ザグリ部55、及び境界部分56を形成することで、微小すり傷や転写の発生がより確実に抑えられることが確認された。
【0058】
さらに、実施例9及び比較例4の結果から、吸引孔36の孔径D及びザグリ部55の開口径Lが大きくなると転写が発生し易くなることが確認された。その結果、TACフィルム11の温度や張力などの条件によって転写の発生が懸念される箇所では、孔径D及び開口径Lを上記式(1)〜式(3)を満たす範囲内で小さくした方が転写の発生を抑えられることが確認された。
【符号の説明】
【0059】
10 光学フィルム製造ライン
11 TACフィルム
12 ハードコート層
34 サクションロール
36 吸引孔
55 ザグリ部
56 境界部分
【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒形状に形成されかつ外周面に多数の吸引孔を有し、前記外周面に帯状シートが巻き掛けられるロール本体を備え、前記ロール本体を回転させながら前記外周面の帯状シート巻掛領域内に位置する前記吸引孔から空気を吸引して、当該吸引孔で前記帯状シートを前記外周面に吸着して搬送するサクションロールの製造方法において、
前記ロール本体に前記吸引孔をあける第1ステップと、
前記吸引孔の前記外周面側の開口部にザグリ部を設ける第2ステップと、
前記ザグリ部の内壁と前記外周面との境界部分を凸曲面状に形成する第3ステップと、
を有することを特徴とするサクションロールの製造方法。
【請求項2】
前記ザグリ部を、前記外周面側に向かって次第に大径となる略テーパ形状に形成することを特徴とする請求項1記載のサクションロールの製造方法。
【請求項3】
前記吸引孔の孔径を7.0mm未満に形成することを特徴とする請求項1または2記載のサクションロールの製造方法。
【請求項4】
前記ザグリ部の前記外周面上での開口径をL(mm)とし、前記吸引孔の孔径をD(mm)とし、前記ザグリ部の深さをh(mm)としたときに、下記式1、式2、式3を満たすことを特徴とする請求項1ないし3いずれか1項記載のサクションロールの製造方法。
(式1)0.0625≦(h/D)≦0.2250
(式2)1.15≦(L/D)≦1.55
(式3)1.5≦D<7.0
【請求項5】
前記外周面及び前記ザグリ部の表面粗さRaを1.0μm以下にすることを特徴とする請求項1ないし4いずれか1項記載のサクションロールの製造方法。
【請求項6】
前記帯状シートの厚みが3μm以上300μm以下であることを特徴とする請求項1ないし5いずれか1項記載のサクションロールの製造方法。
【請求項7】
前記第1ステップでは、ドリルを用いて前記吸引孔をあけることを特徴とする請求項1ないし6いずれか1項記載のサクションロールの製造方法。
【請求項8】
請求項1ないし7いずれか記載のサクションロールの製造方法で製造されたサクションロールにより帯状の支持体を搬送しつつ、前記支持体の表面に塗膜を形成して光学フィルムを製造することを特徴とする光学フィルムの製造方法。
【請求項1】
円筒形状に形成されかつ外周面に多数の吸引孔を有し、前記外周面に帯状シートが巻き掛けられるロール本体を備え、前記ロール本体を回転させながら前記外周面の帯状シート巻掛領域内に位置する前記吸引孔から空気を吸引して、当該吸引孔で前記帯状シートを前記外周面に吸着して搬送するサクションロールの製造方法において、
前記ロール本体に前記吸引孔をあける第1ステップと、
前記吸引孔の前記外周面側の開口部にザグリ部を設ける第2ステップと、
前記ザグリ部の内壁と前記外周面との境界部分を凸曲面状に形成する第3ステップと、
を有することを特徴とするサクションロールの製造方法。
【請求項2】
前記ザグリ部を、前記外周面側に向かって次第に大径となる略テーパ形状に形成することを特徴とする請求項1記載のサクションロールの製造方法。
【請求項3】
前記吸引孔の孔径を7.0mm未満に形成することを特徴とする請求項1または2記載のサクションロールの製造方法。
【請求項4】
前記ザグリ部の前記外周面上での開口径をL(mm)とし、前記吸引孔の孔径をD(mm)とし、前記ザグリ部の深さをh(mm)としたときに、下記式1、式2、式3を満たすことを特徴とする請求項1ないし3いずれか1項記載のサクションロールの製造方法。
(式1)0.0625≦(h/D)≦0.2250
(式2)1.15≦(L/D)≦1.55
(式3)1.5≦D<7.0
【請求項5】
前記外周面及び前記ザグリ部の表面粗さRaを1.0μm以下にすることを特徴とする請求項1ないし4いずれか1項記載のサクションロールの製造方法。
【請求項6】
前記帯状シートの厚みが3μm以上300μm以下であることを特徴とする請求項1ないし5いずれか1項記載のサクションロールの製造方法。
【請求項7】
前記第1ステップでは、ドリルを用いて前記吸引孔をあけることを特徴とする請求項1ないし6いずれか1項記載のサクションロールの製造方法。
【請求項8】
請求項1ないし7いずれか記載のサクションロールの製造方法で製造されたサクションロールにより帯状の支持体を搬送しつつ、前記支持体の表面に塗膜を形成して光学フィルムを製造することを特徴とする光学フィルムの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−225291(P2011−225291A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−93838(P2010−93838)
【出願日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】
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