説明

サトウキビでのCry抵抗性のシュガーケーンボーラーの防除および昆虫抵抗性管理のためのCRY1FaおよびCRY1Abタンパク質の併用

本発明は、シュガーケーンボーラー(SCB)昆虫を防除するための方法およびサトウキビ植物を含み、前記サトウキビ植物は、SCBによる抵抗性の発達を遅らせるか阻止するための、Cry1FaおよびCry1Abコア毒素含有タンパク質を組合せで含む。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
害虫を防除するために毎年何10億ドルも費やされ、害虫が与える損傷に対してさらに数10億ドルが失われる。合成有機化学殺虫剤は、害虫を防除するために用いられる主な手段であったが、バチルス・チューリンゲンシス(Bacillus thuringiensis)(Bt)に由来する殺虫性タンパク質などの生物殺虫剤が一部の領域である重要な役割を演じてきた。Bt殺虫性タンパク質遺伝子による形質転換を通して昆虫抵抗性植物を作出できたことにより、現代農業が革新し、殺虫性タンパク質およびその遺伝子の重要性および価値が高まっている。
【0002】
今日までに登録され商品化に至った昆虫抵抗性のトランスジェニック植物を作製するために、数種のBtタンパク質が用いられてきた。このBtタンパク質としては、トウモロコシのCry1Ab、Cry1Ac、Cry1FおよびCry3Bb、ワタのCry1AcおよびCry2Ab、ならびにジャガイモのCry3Aが挙げられる。
【0003】
これらのタンパク質を発現する市販製品は、2種のタンパク質の組合せ殺虫スペクトルが所望である場合(例えば、それぞれ鱗翅目害虫およびルートワームへの抵抗性を付与するために組み合わされた、トウモロコシのCry1AbおよびCry3Bb)、または2種のタンパク質のそれぞれ独立した作用により、これらのタンパク質が感受性昆虫集団での抵抗性の発達を遅らせるための手段として有用となる場合(例えば、オオタバコガのための抵抗性管理を付与するために組み合わされた、ワタのCry1AcおよびCry2Ab)を除いて、単一のタンパク質しか発現しない。
【0004】
すなわち、この技術の急速で広範囲な採用をもたらした昆虫抵抗性トランスジェニック植物の特質のいくつかは、これらの植物によって生成される殺虫性タンパク質に対する抵抗性を有害生物集団が発達させるという懸念も生む。高用量のタンパク質を、緩衝帯と組み合わせて、異なる毒素と交互にまたは同時利用で利用することを含め、Btに基づく昆虫抵抗性形質の有用性を保存するためのいくつかの戦略が提案されている(McGaughey et al. (1998), "B.t. Resistance Management," Nature Biotechnol. 16:144-146)。
【0005】
あるタンパク質に対して発達した抵抗性が別のタンパク質に対する抵抗性を付与しない(すなわち、タンパク質に対する交差抵抗性がない)ようにIRMスタックで用いるために選択されるタンパク質は、それらの殺虫効果を独立して発揮する必要がある。例えば、「タンパク質A」に対する抵抗性について選択される有害生物集団が「タンパク質B」に感受性である場合、そこには交差抵抗性がなく、タンパク質Aおよびタンパク質Bの組合せがタンパク質A単独に対する抵抗性を遅らせるのに有効であろうと結論付けられるであろう。
【0006】
抵抗性の昆虫集団が存在しない場合、作用機構および交差抵抗性能力に関連すると推測される他の特性に基づいて評価を行うことができる。交差抵抗性を示す可能性のない殺虫性タンパク質を同定することにおける受容体媒介結合の有用性が示唆されている(van Mellaert et al. 1999)。この手法に特有の交差抵抗性の欠如の重要な予測因子は、殺虫性タンパク質が感受性昆虫種の受容体をめぐって競合しないことである。
【0007】
2つのB.t.Cry毒素が同じ受容体をめぐって競合する場合には、毒素の1つがその受容体にもはや結合せず、したがって昆虫に対してもはや殺虫性でないようにその受容体がその昆虫で突然変異するならば、昆虫は別の毒素(同じ受容体に競合的に結合する)にも抵抗性になる場合もある。しかし、2つの毒素が2つの異なる受容体に結合する場合には、これは昆虫がそれら2つの毒素に同時に抵抗性にならないことを示す指標であろう。
【0008】
Cry1Faは、ユーロピアンコーンボーラー(ECB;オストリニア・ヌビラリス(Ostrinia nubilalis)(Hubner))およびフォールアーミーワーム(FAW;スポドプテラ・フルギペルダ(Spodoptera frugiperda))を含む多くの鱗翅目害虫の種の防除で有用であり、シュガーケーンボーラー(SCB;ジアトラエア・サッカラリス(Diatraea saccharalis))に対する活性を有する。
【0009】
事象TC1507を含むトウモロコシ植物で生成されるようなCry1Faタンパク質は、FAW防除のための業界をリードする昆虫抵抗性形質を担う。Cry1Faは、Herculex(登録商標)、SmartStax(商標)およびWideStrike(商標)製品でさらに利用されている。
【0010】
受容体結合性アッセイでの検出のためのタンパク質を標識するのに利用できる一般的な技術がCry1Faタンパク質の殺虫活性を不活性化する傾向があるので、Cry1Faタンパク質を用いる(競合的または相同的)受容体結合性試験を行う能力は制限されてきた。
【0011】
Cry1AbおよびCry1Faは、植物を様々な害虫から保護するためにトランスジェニックトウモロコシで現在(別々に)用いられている殺虫性タンパク質である。これらのタンパク質が保護を提供するトウモロコシの重要な有害生物は、ユーロピアンコーンボーラー(ECB)である。US2008/0311096は、Cry1F抵抗性のECB集団を防除するためのCry1Abの使用に一部関する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は一部、Cry1Abに抵抗性であるシュガーケーンボーラー(SCB)集団に対してCry1Faが非常に活性であるという意外な発見に関する。当業者であれば本開示に鑑みて認識するであろうが、Cry1FaおよびCry1Ab(その殺虫性部分を含む)を生成するサトウキビ植物は、これらの殺虫性タンパク質のいずれか単独に対するSCBによる抵抗性の発達を遅らせるか阻止することにおいて有益となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】接種から7日後の、バチルス・チューリンゲンシス(Bacillus thuringiensis)Cry1Abタンパク質で処理された食餌に曝露させたジアトラエア・サッカラリス(Diatraea saccharalis)のBt感受性およびBt抵抗性の系統の死滅率(平均%±SEM)を示す図である。
【図2】接種から7日後の、バチルス・チューリンゲンシス(Bacillus thuringiensis)Cry1Faタンパク質で処理された食餌に曝露させたジアトラエア・サッカラリス(Diatraea saccharalis)のBt感受性およびBt抵抗性の系統の死滅率(平均%±SEM)を示す図である。
【図3】接種から7日後の、バチルス・チューリンゲンシス(Bacillus thuringiensis)Cry1Abタンパク質で処理された食餌に曝露させたジアトラエア・サッカラリス(Diatraea saccharalis)のBt感受性およびBt抵抗性の系統の幼虫発育阻害(平均%±SEM)を示す図である。
【図4】接種から7日後の、バチルス・チューリンゲンシス(Bacillus thuringiensis)Cry1Faタンパク質で処理された食餌に曝露させたジアトラエア・サッカラリス(Diatraea saccharalis)のBt感受性およびBt抵抗性の系統の幼虫発育阻害(平均%±SEM)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は一部、Cry1Abに抵抗性であるシュガーケーンボーラー(SCB;ジアトラエア・サッカラリス(Diatraea saccharalis))集団に対してCry1Faが非常に活性であるという意外な発見に関する。したがって、本発明は一部、これらの殺虫性タンパク質のいずれか単独に対するSCBによる抵抗性の発達と闘うために、サトウキビにおいてCry1FaをCry1Abと一緒に用いることができるか、「スタックする」ことができるという意外な発見に関する。換言すると、本発明は一部、Cry1Abへの抵抗性のために選択されるシュガーケーンボーラー集団はCry1Faに抵抗性でなく、Cry1Ab毒素に抵抗性であるシュガーケーンボーラーはCry1Faに感受性である(すなわち、交差抵抗性でない)という意外な発見に関する。したがって、本発明は、Cry1Abに抵抗性であるシュガーケーンボーラーの集団を防除するための、サトウキビでのCry1Fa毒素の使用を含む。
【0015】
当業者であれば本開示に鑑みて認識するであろうが、cry1Faおよびcry1Ab(その殺虫性部分を含む)を発現するサトウキビ植物は、これらの殺虫性タンパク質のいずれか単独に対する抵抗性の発達を遅らせるか阻止することにおいて有益となる。
【0016】
本発明は、Cry1Abへの抵抗性を発達させたシュガーケーンボーラーまたはシュガーケーンボーラー集団によって引き起こされる損傷および収量減からサトウキビを保護するための、Cry1FaおよびCry1Abの使用を含む。
【0017】
したがって、本発明は、シュガーケーンボーラーによるCry1Abおよび/またはCry1Faへの抵抗性の発達を軽減するためのIRMスタックを教示する。
【0018】
本明細書に記載されるデータに一部基づき、サトウキビでcry1Faおよびcry1Ab遺伝子を同時発現させることは、SCBを防除するための高用量IRMスタックを生成することができる。スペクトルを拡張するために、他のタンパク質をこの組合せに加えることができる。
【0019】
Cry1Abへの抵抗性を発達させたSCB集団を防除することにおいて、Cry1Faが効果的になるであろうことをこれらのデータは示唆する。1つの利用選択肢は、Cry1Abが抵抗性の発達によりSCBの防除で効果がなくなった地域でこれらのCryタンパク質を用いることであろう。別の利用選択肢は、SCBでのCry1Abへの抵抗性の発達を軽減するために、Cry1Abと合わせてこれらのCryタンパク質の一方または両方を用いることであろう。
【0020】
本発明のキメラ毒素は、B.t.毒素の完全なコアN末端毒素部分を含み、毒素部分の末端を過ぎたある場所で、タンパク質は異種プロトキシン配列への移行を有する。B.t.毒素のN末端毒素部分は、本明細書において「コア」毒素と呼ばれる。異種プロトキシンセグメントへの移行は、ほぼ毒素/プロトキシン接合部で起こることができるか、代わりに、元のプロトキシンの部分(コア毒素部分を過ぎて伸長する)を保持することができ、異種プロトキシンへの移行は下流で起こる。
【0021】
例えば、本発明の1つのキメラ毒素は、Cry1Daの完全なコア毒素部分(アミノ酸1〜601)および異種プロトキシン(アミノ酸602からC末端)を有する。好ましい一実施形態では、プロトキシンを含むキメラ毒素の部分は、Cry1Abタンパク質毒素に由来する。第二の例として、本発明の第二のキメラ毒素は、Cry1Caの完全なコア毒素部分(アミノ酸1〜619)および非相同プロトキシン(アミノ酸620からC末端)を有する。好ましい実施形態では、プロトキシンを含むキメラ毒素の部分は、Cry1Abタンパク質毒素に由来する。(上記はCry1Fa殺虫性タンパク質に適用することもできる。)特に明記しない限り、US2008/0311096に記載のように、配列を得ることができる。
【0022】
B.t.毒素は、cry1FaまたはCry1Abなどの特定のクラス内でさえ、長さおよび毒素部分からプロトキシン部分への移行の正確な位置が多少異なることを、当分野の技術者は認識する。一般的に、cryIFa毒素は、長さが約1150から約1200アミノ酸である。毒素部分からプロトキシン部分への移行は、完全長毒素の約50%から約60%の間で一般的に起こる。本発明のキメラ毒素は、このコアN末端毒素部分の全長を含む。したがって、キメラ毒素は、cry1FaまたはCry1Ab B.t.毒素の完全長の少なくとも約50%を構成する。これは、一般的に少なくとも約590アミノ酸である。プロトキシン部分に関して、Cry1A(b)プロトキシン部分の全長は、毒素部分の末端から分子のC末端まで伸びる。本発明のキメラ毒素に含めるのに最も重要であるのは、この部分の最後の約100から150アミノ酸である。
【0023】
遺伝子および毒素。本発明による有用な遺伝子および毒素には、開示される完全長配列だけでなく、本明細書で具体的に例示される毒素の特徴的な殺虫活性を保持するこれらの配列の断片、変異体、突然変異体、および融合タンパク質も含まれる。本明細書で用いるように、遺伝子の「変異体」または「変形形態」という用語は、同じ毒素をコードするか、殺虫活性を有する同等毒素をコードするヌクレオチド配列を指す。本明細書で用いるように、用語「同等毒素」は、標的有害生物に対して請求されている毒素と同じか事実上同じである生物的活性を有する毒素を指す。
【0024】
本明細書で用いるように、「Revision of the Nomenclature for the Bacillus thuringiensis Pesticidal Crystal Proteins」、N. Crickmore, D.R. Zeigler, J. Feitelson, E. Schnepf, J. Van Rie, D. Lereclus, J. Baum, and D.H. Dean. Microbiology and Molecular Biology Reviews (1998) Vol 62: 807-813、により、境界は約95%(Cry1AbおよびCry1Fa)、78%(Cry1AおよびCry1F)および45%(Cry1)の配列同一性を表す。これらのカットオフは、(Cry1AbおよびCry1Fa毒素の場合)コア毒素だけに適用することもできる。
【0025】
活性毒素をコードする遺伝子は、いくつかの手段を通して同定し、得ることができることは、当分野の技術者に明らかとなるはずである。上記に記載したように、本明細書で例示される具体的な遺伝子または遺伝子部分は、培養株保管所に寄託されている分離株から得ることができる。これらの遺伝子、またはその部分もしくは変異体は、合成的に、例えば遺伝子合成装置を用いて構築することもできる。遺伝子の変形形態は、点突然変異を作製する標準技術を用いて、容易に構築することができる。また、これらの遺伝子の断片は、市販のエキソヌクレアーゼまたはエンドヌクレアーゼを標準手順に従って用いることによって作製することができる。例えば、これらの遺伝子の末端からヌクレオチドを体系的に切断するために、Bal31などの酵素または部位特異的突然変異誘発を用いることができる。また、活性断片をコードする遺伝子は、様々な制限酵素を用いて得ることができる。これらの毒素の活性断片を直接的に得るために、プロテアーゼを用いることができる。
【0026】
例示される毒素の殺虫活性を保持する断片および同等物は、本発明の範囲内である。また、遺伝子コードの冗長性のため、様々な異なるDNA配列が本明細書で開示されるアミノ酸配列をコードすることができる。同じか事実上同じである毒素をコードするこれらの代替DNA配列を作製することは、当業者の技術の範囲内である。これらの変異体DNA配列は、本発明の範囲内である。本明細書で用いるように、「事実上同じ」配列への言及は、殺虫活性に実質的な影響を及ぼさないアミノ酸の置換、欠失、付加または挿入を有する配列を指す。殺虫活性を保持する断片も、この定義に含まれる。
【0027】
本発明により有用な遺伝子コード毒素および遺伝子部分を同定するためのさらなる方法は、オリゴヌクレオチドプローブを用いることによるものである。これらのプローブは、検出可能なヌクレオチド配列である。これらの配列は、適当な標識によって検出可能になることができるか、国際出願公開第93/16094号に記載されているように本来的に蛍光性にすることができる。当技術分野で周知であるように、プローブ分子および核酸試料が2つの分子間で強力な結合を形成することによってハイブリダイズする場合、プローブおよび試料は実質的な相同性を有すると合理的に仮定することができる。好ましくは、ハイブリダイゼーションは、例えばKeller, G. H., M. M. Manak (1987) DNA Probes, StocktonPress, New York, N.Y., pp. 169- 170に記載されているような、当分野で周知の技術によってストリンジェント条件の下で行われる。塩濃度および温度の組合せの一部の例は、以下の通りである(ストリンジェンシーの低い順序で):室温で2×SSPEまたはSSC;42℃で1×SSPEまたはSSC;42℃で0.1×SSPEまたはSSC;65℃で0.1×SSPEまたはSSC。プローブの検出は、ハイブリダイゼーションが起こったかどうかを既知の方法で判定するための手段を提供する。そのようなプローブ分析は、本発明の毒素コード遺伝子を同定するための迅速な方法を提供する。本発明によるプローブとして用いられるヌクレオチドセグメントは、DNA合成装置および標準手順を用いて合成することができる。本発明の遺伝子を増幅するPCRプライマーとして、これらのヌクレオチド配列を用いることもできる。
【0028】
本発明の特定の毒素が、本明細書で具体的に例示された。これらの毒素は本発明の毒素の例示にすぎないので、本発明が例示毒素と同じか類似した殺虫活性を有する変異体または同等毒素(および同等毒素をコードするヌクレオチド配列)を含むことは容易に明らかなはずである。同等毒素は、例示される毒素とのアミノ酸相同性を有する。このアミノ酸相同性は、一般的に75%を超え、好ましくは90%を超え、最も好ましくは95%を超える。アミノ酸相同性は、生物的活性を担うか、最終的に生物的活性を担う3次元構造の決定に関与する毒素の重要な領域で最も高くなる。この点に関しては、それらの置換が活性に重要でない領域にあるか、分子の3次元構造に影響を及ぼさない保存的アミノ酸置換であるならば、特定のアミノ酸置換が許容され、予想することができる。例えば、アミノ酸は以下のクラスに入れることができる:無極性、無電荷極性、塩基性および酸性。1つのクラスのアミノ酸が同じ種類の別のアミノ酸で置換される保存的置換は、その置換が化合物の生物的活性を実質的に変更しない限り本発明の範囲内である。表1は、各クラスに属するアミノ酸の例のリストを提供する。
【0029】
【表1】

【0030】
場合によっては、非保存的置換を加えることもできる。重要な因子は、これらの置換が毒素の生物的活性をあまり損なってはならないということである。
【0031】
組換え体宿主。本発明の毒素をコードする遺伝子は、多種類の微生物または植物宿主に導入することができる。毒素遺伝子の発現は、直接または間接的に、殺虫剤の細胞内での生成および維持をもたらす。本発明の両毒素を発現するBt株を作製するために、接合転移および組換え転移を用いることができる。他の宿主生物体を毒素遺伝子の一方または両方で形質転換し、次に相乗効果を達成するために用いることもできる。適する微生物宿主、例えばシュードモナス(Pseudomonas)で、微生物を有害生物の位置へ施用することができ、そこでそれらは増殖して摂取される。結果は、有害生物の防除である。あるいは、毒素遺伝子を受け入れる微生物は、毒素の活性を長引かせ、細胞を安定させる条件の下で処理することができる。毒性活性を保持する処理細胞は、次に標的有害生物の環境に施用することができる。
【0032】
B.t.毒素遺伝子が適するベクターを通して微生物宿主に導入され、前記宿主が生きた状態で環境へ施用される場合、特定の宿主微生物が用いられることが必須である。対象の1つまたは複数の作物の「植物圏」(葉面、葉圏、根圏および/または根面)を占めることが知られている微生物宿主が選択される。これらの微生物は、特定の環境(作物および他の昆虫生息地)で野生型微生物とよく競合することが可能であるように、ポリペプチド殺虫剤を発現する遺伝子の安定した維持および発現を提供するように、および、望ましくは環境中での分解および不活性化からの殺虫剤の向上した保護を提供するように選択される。
【0033】
多数の微生物が、多種類の重要作物の葉面(植物葉の表面)および/または根圏(植物根を囲む土)に生息することが知られている。これらの微生物には、細菌、藻および真菌類が含まれる。特に興味があるものは、細菌、例えばシュードモナス属(Pseudomonas)、エルウィニア属(Erwinia)、セラチア属(Serratia)、クレブシェラ属(Klebsiella)、キサントモナス属(Xanthomonas)、ストレプトマイセス属(Streptomyces)、根粒菌属(Rhizobium)、ロドシュードモナス属(Rhodopseudomonas)、メチロフィリウス(Methylophilius)、アグロバクテナム属(Agrobactenum)、アセトバクター属(Acetobacter)、ラクトバシラス属(Lactobacillus)、アルトロバクター属(Arthrobacter)、アゾトバクター属(Azotobacter)、ロイコノストック属(Leuconostoc)およびアルカリゲネス属(Alcaligenes);真菌類、特に酵母、例えばサッカロミセス属(Saccharomyces)、クリプトコックス属(Cryptococcus)、クルイベロミセス属(Kluyveromyces)、スポロボロミセス属(Sporobolomyces)、ロドトルラ属(Rhodotorula)およびオーレオバシジウム属(Aureobasidium)などの微生物である。特に興味があるものは、シュードモナス・シリンゲ(Pseudomonas syringae)、蛍光菌(Pseudomonas fluorescens)、セラチア・マルセッセンス(Serratia marcescens)、アセトバクター・キシリナム(Acetobacter xylinum)、アグロバクテニウム・ツメファシエンス(Agrobactenium tumefaciens)、ロドシュードモナス・スフェロイデス(Rhodopseudomonas spheroides)、キサントモナス・カンペストリス(Xanthomonas campestris)、リゾビウム・メリオチ(Rhizobium melioti)、アルカリゲネス・エントロファス(Alcaligenes entrophus)およびアゾトバクター・ビンランジ(Azotobacter vinlandii)のような植物圏細菌種;ならびにロドトルラ・ルブラ(Rhodotorula rubra)、R.グルチニス(R. glutinis)、R.マリーナ(R. marina)、R.オーランチアカ(R. aurantiaca)、クリプトコックス・アルビダス(Cryptococcus albidus)、C.ジフルエンス(C. diffluens)、C.ローレンチ(C. laurentii)、サッカロミセス・ロゼイ(Saccharomyces rosei)、S.プレトリエンシス(S. pretoriensis)、S.セレビシエ(S. cerevisiae)、スポロボロミセス・ロゼウス(Sporobolomyces roseus)、S.オドルス(S. odorus)、クルイベロミセス・ベロネ(Kluyveromyces veronae)およびオーレオバシジウム・ポルランス(Aureobasidium pollulans)などの植物圏酵母種である。色の着いた微生物が、特に興味がある。
【0034】
遺伝子の安定した維持および発現を可能にする条件の下で、毒素をコードするB.t.遺伝子を微生物宿主に導入するために、多種類の方法を利用できる。これらの方法は当業者に周知であり、例えば、参照により本明細書に組み込まれる米国特許第5,135,867号に記載されている。
【0035】
細胞の処理。B.t.毒素を発現するバチルス・チューリンゲンシス(Bacillus thuringiensis)または組換え体の細胞は、毒素活性を長引かせ、細胞を安定させるために処理することができる。形成される殺虫剤マイクロカプセルは、安定化され、マイクロカプセルが標的有害生物の環境へ施用されるときに毒素を保護する細胞構造の中にB.t.毒素(複数可)を含む。適する宿主細胞には、原核生物または真核生物のいずれかが含まれてよく、通常、哺乳動物などの高等生物体に有毒である物質を生成しない細胞に限定される。しかし、毒性物質が不安定であるか、哺乳動物宿主への毒性のいかなる可能性も避けるために施用量が十分に低い場合、高等生物体にとって有毒である物質を生成する生物体が用いられるかもしれない。宿主としては、原核生物および真菌類などの下等真核生物が特に興味がある。
【0036】
処理時、細胞は通常そのままの状態であり、胞子の形態ではなく実質的に増殖形であるが、一部の例では胞子を利用してもよい。
【0037】
微生物細胞、例えばB.t.毒素遺伝子(複数可)を含む微生物の処理は、その技術が毒素の特性に悪い影響を及ぼさず、毒素を保護する細胞の能力も低下させない限り、化学的または物理的な手段に、または化学的および/または物理的な手段の組合せによることができる。化学試薬の例は、ハロゲン化剤、特に原子番号17〜80のハロゲン原子である。より詳しくは、温和条件の下で、および所望の結果を達成するのに十分な時間、ヨウ素を用いることができる。他の適する技術には、グルタルアルデヒドなどのアルデヒド;塩化ゼフィランおよび塩化セチルピリジニウムなどの消毒剤;イソプロピルおよびエタノールなどのアルコール;ルゴールヨウ素、ブアン固定液、様々な酸およびヘリー固定液などの様々な組織固定剤(Humason, Gretchen L., Animal Tissue Techniques, W. H. Freeman and Company, 1967を参照);または細胞が宿主環境に投与されるときに細胞で生成される毒素の活性を保存し、長引かせる物理的(熱)および化学的作用因子の組合せによる処理が含まれる。物理的手段の例は、ガンマ線放射およびX線放射などの短波長放射、凍結、UV照射、凍結乾燥である。微生物細胞の処理のための方法は、米国特許第4,695,455号および4,695,462号で開示され、それらは参照により本明細書に組み込まれる。
【0038】
細胞は、環境条件への抵抗性を増強する強化された構造安定性を一般に有する。殺虫剤がプロ型である場合、細胞処理の方法は、標的有害生物の病原体による殺虫剤のプロ型から成熟型への加工を妨げないように選択されるべきである。例えば、ホルムアルデヒドはタンパク質を架橋し、ポリペプチド殺虫剤のプロ型の加工を妨げることができる。処理の方法は、毒素の生物学的利用能または生物活性の少なくとも実質的な部分を保持するべきである。
【0039】
生成のための宿主細胞の選択で特に興味がある特性には、B.t.遺伝子(複数可)を宿主に導入することの容易さ、発現系の入手可能性、発現効率、宿主での殺虫剤の安定性および補助的遺伝子能力の存在が含まれる。殺虫剤マイクロカプセルとして用いるための興味がある特性には、厚い細胞壁、着色および細胞内パッケージングまたは封入体形成などの殺虫剤保護特性;水性環境での生存;人畜毒性の欠如;摂取のための有害生物への誘引効果;殺滅の容易さおよび毒素を害さずに固着させること;などが含まれる。他の考慮事項には、製剤および取扱いの容易さ、経済性、貯蔵安定性などが含まれる。
【0040】
細胞の増殖。B.t.殺虫性遺伝子(複数可)を含む細胞宿主は、DNA構築物が選択有利性を提供し、細胞の実質的に全てまたは全てがB.t.遺伝子を保持するように選択培地を提供する、任意の便利な栄養培地で増殖させることができる。これらの細胞は、従来の方法に従って次に収穫することができる。あるいは、収穫する前に細胞を処理することができる。
【0041】
本発明の毒素を生成するB.t.細胞は、標準技術の培地および発酵技術を用いて培養することができる。発酵サイクルの終了後、最初に当技術分野で周知である手段によってB.t.胞子および結晶を発酵培養液から分離することによって細菌を収穫することができる。取扱いおよび特定の標的有害生物への施用を容易にするために、界面活性剤、分散剤、不活性担体および他の構成成分の添加によって、回収されたB.t.胞子および結晶を水和剤、濃厚液剤、粒剤または他の製剤に製剤化することができる。これらの製剤および施用手法は、全て当技術分野で周知である。
【0042】
製剤。誘引剤ならびにB.t.分離株の胞子、結晶および毒素、または本明細書で開示されるB.t.分離株から入手できる遺伝子を含む組換え体微生物を含む製剤化された餌粒剤は、土に施用することができる。製剤化された製品は、種子コーティングまたは作物サイクルの後期段階で根部処理もしくは植物全体処理として施用することもできる。B.t.細胞の植物および土壌処理は、様々な不活性の材料、例えば無機鉱物(フィロシリケート、炭酸塩、硫酸塩、リン酸塩など)または植物材料(粉末状の穂軸、籾殻、クルミ殻など)と混合することによって、水和剤、粒剤または粉剤として使用することができる。製剤は、展着助剤、安定化剤、他の殺虫性添加剤または界面活性剤を含むことができる。液体製剤は水性または非水性であってよく、フォーム、ゲル、懸濁液、乳剤などとして使用することができる。成分には、流体力学的剤、界面活性剤、乳化剤、分散剤またはポリマーが含まれてよい。
【0043】
当分野の技術者によって認識されるように、特定の製剤の性質、特にそれが濃厚剤であるか直接的に用いられるものであるかによって、殺虫剤濃度は広く変動する。殺虫剤は少なくとも1重量%で存在し、100重量%であってもよい。乾燥製剤は約1〜95重量%の殺虫剤を有するが、液体製剤は一般に液相中に約1〜60重量%の固形分である。製剤は、1mgにつき約10から約10細胞を一般に有する。これらの製剤は、1ヘクタールにつき約50mg(液体または乾燥)から1kg以上で投与される。
【0044】
製剤は、噴霧、散粉、散水その他によって、鱗翅目害虫の環境、例えば葉または土へ施用することができる。
【0045】
植物の形質転換。本発明の殺虫性タンパク質の生成のための好ましい組換え体宿主は、形質転換された植物である。本明細書で開示されるようなBt毒素タンパク質をコードする遺伝子は、当技術分野で周知である様々な技術を用いて植物細胞に挿入することができる。例えば、大腸菌(Escherichia coli)の複製系および形質転換細胞の選択を可能にするマーカーを含む多数のクローニングベクターが、高等植物への外来遺伝子の挿入のための調製のために利用できる。ベクターは、例えば、とりわけpBR322、pUCシリーズ、M13mpシリーズ、pACYC184を含む。したがって、Bt毒素タンパク質をコードする配列を有するDNA断片は、適する制限部位でベクターに挿入することができる。生じたプラスミドは、大腸菌(E. coli)への形質転換のために用いられる。大腸菌(E. coli)細胞は適する栄養培地で培養され、次に収穫され、溶解される。プラスミドを回収する。配列分析、制限酵素解析、電気泳動および他の生化学的分子生物学的方法が、分析方法として一般に実行される。各操作の後、用いたDNA配列を切断して次のDNA配列に連結することができる。各プラスミド配列は、同じか他のプラスミドにクローニングすることができる。植物への所望の遺伝子の挿入の方法に従い、他のDNA配列が必要なこともある。例えば、植物細胞の形質転換のためにTiまたはRiプラスミドが用いられるならば、TiまたはRiプラスミドT−DNAの少なくとも右の境界、しかし多くの場合右および左の境界が、挿入される遺伝子の隣接領域として連結されなければならない。植物細胞の形質転換のためのT−DNAの使用は集中的に研究されており、EP120516、Lee and Gelvin (2008)、Hoekema (1985)、Fraley et al., (1986)およびAn et al., (1985)で十分に記載され、当技術分野でよく確立されている。
【0046】
挿入されたDNAが植物ゲノムに組み込まれると、それは比較的安定である。形質転換ベクターは、形質転換された植物細胞に、とりわけビアラホス、カナマイシン、G418、ブレオマイシンまたはハイグロマイシンなどの生物致死剤または抗生物質への抵抗性を付与する選択マーカーを通常含む。したがって、個々に使用されるマーカーは、挿入されたDNAを含まない細胞ではなく形質転換された細胞の選択を可能にするはずである。
【0047】
DNAを植物宿主細胞に挿入するために、多数の技術を利用できる。それらの技術には、形質転換因子としてアグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)もしくはアグロバクテリウム・リゾゲネス(Agrobacterium rhizogenes)を用いるT−DNAによる形質転換、融合、注射、微粒子銃(微小粒子衝撃)、またはエレクトロポレーションならびに他の可能な方法が含まれる。アグロバクテリウム菌が形質転換のために用いられる場合、挿入されるDNAは特別なプラスミド、すなわち中間型ベクターまたはバイナリーベクターのいずれかにクローニングされなければならない。中間型ベクターは、T−DNAの配列に相同的である配列のために、相同組み換えによってTiまたはRiプラスミドに組み込むことができる。TiまたはRiプラスミドは、T−DNAの転移のために必要なvir領域も含む。中間型ベクターは、アグロバクテリウム菌ではそれ自身を複製することができない。中間型ベクターは、ヘルパープラスミド(コンジュゲーション)によってアグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)に移動させることができる。バイナリーベクターは、大腸菌(E. coli)およびアグロバクテリウム菌の両方でそれ自身を複製することができる。それらは、左右のT−DNA境界領域によって組まれる選択マーカー遺伝子およびリンカーまたはポリリンカーを含む。それらは、アグロバクテリウム菌に直接に形質転換させることができる(Holsters et al., 1978)。宿主細胞として用いられるアグロバクテリウム菌は、vir領域を運ぶプラスミドを含むものとする。vir領域は、植物細胞へのT−DNAの転移のために必要である。さらなるT−DNAが含まれてもよい。そのように形質転換される細菌は、植物細胞の形質転換のために用いられる。植物外植片は、植物細胞へのDNAの転移のために、アグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)またはアグロバクテリウム・リゾゲネス(Agrobacterium rhizogenes)と都合よく培養することができる。選択のための抗生物質または生物致死剤を含んでもよい適する培地で、感染植物材料(例えば、葉片、茎、根の断片だけでなく、プロトプラストまたは懸濁培養細胞も)から完全体植物を次に再生させることができる。そのように得られる植物は、挿入されたDNAの存在について次に試験することができる。注射およびエレクトロポレーションの場合、プラスミドに特別に要求されるものはない。通常のプラスミド、例えばpUC派生体を用いることができる。
【0048】
形質転換細胞は、植物内で通常の方法で増殖する。それらは胚細胞を形成することができ、後代植物へ形質転換形質(複数可)を伝えることができる。そのような植物は通常の方法で増殖させること、および同じ形質転換遺伝因子または他の遺伝因子を有する植物と交配することができる。生じる雑種個体は、対応する表現型特性を有する。
【0049】
本発明の好ましい実施形態では、植物は遺伝子で形質転換され、そこではコドン使用頻度が植物のために最適化されている。例えば、参照により本明細書に組み込まれる米国特許第5380831号を参照。一部のトランケーションされた毒素が本明細書で例示されるが、130kDa型(完全長)毒素がコア毒素であるN末端半分およびプロトキシン「尾部」であるC末端半分を有することは、Bt技術の分野では周知である。したがって、適当な「尾部」を、本発明のトランケーションされた/コア毒素と用いることができる。例えば米国特許第6218188号および米国特許第6673990号を参照。さらに、植物で使用するための合成Bt遺伝子の作製方法が当技術分野で公知である(Stewart and Burgin, 2007)。好ましい形質転換植物の1つの非限定例は、Cry1Faタンパク質をコードする植物で発現可能な遺伝子を含み、さらにCry1Abタンパク質をコードする第二の植物で発現可能な遺伝子を含む稔性のメイズ植物である。
【0050】
近交系メイズ系統へのCry1AbおよびCry1Fa形質(複数可)の転移(または遺伝子移入)は、回帰性の選抜育種、例えば戻し交配によって達成することができる。この場合には、所望の反復親が、Cry1AbおよびCry1Fa形質のための適当な遺伝子(複数可)を運ぶドナーの近交系(一回親)と先ず交配される。この交配の後代は、次に反復親と戻し交配され、続いて生じる後代において、一回親から移される所望の形質(複数可)について選択される。所望の形質(複数可)の選択を伴う反復親との3世代、好ましくは4世代、より好ましくは5世代以上の戻し交配の後、後代は移される形質(複数可)を支配する遺伝子座が異型接合的になるが、ほとんどまたはほとんど全ての他の遺伝子については反復親と同様である(例えば、Poehlman & Sleper (1995) Breeding Field Crops, 4th Ed., 172-175、Fehr (1987) Principles of Cultivar Development, Vol. 1 : Theory and Technique, 360-376を参照)。
【0051】
昆虫抵抗性管理(IRM)戦略。例えばRoush et al.は、「ピラミッド化」または「スタッキング」とも呼ばれる、殺虫性トランスジェニック作物の管理のための2毒素戦略を概説している。(The Royal Society. Phil. Trans. R. Soc. Lond. B. (1998) 353, 1777-1786)。彼らのウェブサイトで、米国環境保護庁は、トランスジェニック作物で用いるための非トランスジェニック緩衝帯(非Bt作物/トウモロコシのブロック)を提供するための以下の指針を提供する。
(epa.gov/oppbppdl/biopesticides/pips bt_corn_refuge_2006.htm)
コーンボーラー保護Bt(Cry1AbおよびCry1F)トウモロコシ製品の特定の構造化要件は、以下の通りである:
構造化緩衝帯:コーンベルトで20%の非鱗翅目Btトウモロコシ緩衝帯;コットンベルトで50%の非鱗翅目Bt緩衝帯
ブロック
1.内部(すなわち、Bt圃場内)
2.外部(すなわち、任意交配を最大にするためにBt圃場から1/2マイル(可能であれば1/4マイル)以内に別個の圃場)
圃場内の帯状地
幼虫の移動の影響を低減するために、帯状地は少なくとも4条(好ましくは6条)の幅でなければならない
National Corn Growers Associationも、彼らのウェブサイト(ncga.com/insect-resistance-management-fact-sheet-bt-corn)で、要件に関して類似した指針を提供する。例えば:
コーンボーラーIRMの要件:
・トウモロコシ畑地の少なくとも20%に緩衝帯雑種を植える
・綿花生産地では、緩衝帯は50%でなければならない
・緩衝帯雑種の1/2マイル以内に植えなければならない
・緩衝帯は、Bt圃場内に帯状地として植えることができる;緩衝帯の帯状地は少なくとも4条の幅でなければならない
・標的昆虫の経済的許容限界に到達する場合だけ、緩衝帯を従来の殺虫剤で処理することができる
・Btベースの噴霧可能な殺虫剤を緩衝帯トウモロコシで用いることはできない
・Btトウモロコシのあらゆる農場に適当な緩衝帯を設けなければならない
Roush et al.(例えば、1780頁および1784頁の右欄)によって述べられるように、スタッキングまたはピラミッド化は、より小さな緩衝帯の使用を可能にすることができる。Roushは、良好なスタックのために、約30〜40%と比較して(およびそれより少ない)約10%の緩衝帯を提案している。
【0052】
上記の百分率(例えば1F/1Abのもの)のいずれかまたは類似した緩衝帯比率は、サトウキビで対象の二重または三重のスタックまたはピラミッドのために用いることができる。
【0053】
Roush et al.(前掲)および米国特許第6,551,962号によってさらに論じられているように、圃場での様々な幾何学的栽植様式(上記のような)および袋入種子混合物を含む、緩衝帯を提供する様々な方法がある。
【0054】
本明細書で参照または引用される全ての特許、特許出願、仮出願および刊行物は、それらがこの明細書の明白な教示と矛盾しない範囲で、参照により全体が組み込まれる。
【0055】
以下の実施例は、本発明を例示する。実施例は、限定するものと解釈されるべきでない。
【実施例】
【0056】
〔実施例1〕
要約−Cry1Faバチルス・チューリンゲンシス(Bacillus thuringiensis)Cryタンパク質に対するCry1Ab感受性および抵抗性のシュガーケーンボーラーの応答
Cry1Faタンパク質は、シュガーケーンボーラー、ジアトラエア・サッカラリス(Diatraea saccharalis)のBt感受性(Bt−SS)およびBt抵抗性(Bt−RR)の両系統に対して殺虫活性を実証した。D.サッカラリス(D. saccharalis)のBt−RR系統は、トリプシン活性化Cry1Abタンパク質への142倍の抵抗性を実証した。D.サッカラリス(D. saccharalis)のこのBt抵抗性系統はCry1Faへの多少の交差抵抗性を示したが、抵抗比はかなり低減された(4倍)。D.サッカラリス(D. saccharalis)および他のコーンボーラー種でCry1Ab抵抗性を管理するために、Cry1Faが効果的である可能性をこの結果は示唆する。
【0057】
〔実施例2〕
材料および方法
バチルス・チューリンゲンシス(Bacillus thuringiensis)Cryタンパク質
精製されたトリプシン活性化バチルス・チューリンゲンシス(Bacillus thuringiensis)(Bt)Cry1Abタンパク質は、Marianne Puztai−Carey博士、Department of Biochemistry、Case Western Reserve University、Cleveland、Ohioから得た。Cry1Faは、緩衝溶液に入れられて、Dow AgroSciences Company(Indianapolis、IN)によって提供された。Cry1Abは、99.9%の純度レベルで凍結乾燥された。
【0058】
昆虫源
2004年に北東ルイジアナ州のWinnsboroの近くのトウモロコシ圃場から収集された幼虫を用いて、D.サッカラリス(D. saccharalis)のBt感受性系統(Bt−SS)を確立した。F↓2スクリーニングを用いて、単一のアイソラインファミリーからD.サッカラリス(D. saccharalis)のBt抵抗性系統(Bt−RR)を開発した。これらのBt抵抗性の昆虫は、市販のCry1Abトウモロコシハイブリッドの上で幼生発生を完了し、精製されたトリプシン活性化Cry1Ab毒素へのかなりの抵抗性レベルを実証した。Bt抵抗性の確認の間、Bt抵抗性系統の個体をBt感受性系統のものと戻し交配し、戻し交配のF↓2世代においてCry1Abトウモロコシ葉組織で抵抗性について再選択した。
【0059】
昆虫バイオアッセイ
Cry1AbおよびCry1FaへのD.サッカラリス(D. saccharalis)のBt−SSおよびBt−RR系統の幼虫感受性は、食餌混合手法を用いて判定した。各バイオアッセイで、6つまたは7つのCryタンパク質濃度を用いた。Bt濃度の範囲は、Cry1Abタンパク質の試験については0.03125から32μg/g、Cry1Faの評価については0.03125から128μg/gであった。Btタンパク質をCry1Abの試験のためには蒸留水の、またはCry1Faの検討のためには緩衝液の適当な量と混合することによって、Cryタンパク質溶液を調製した。次に、128セルトレイ(Bio−Ba−128、C−D International、Pitman、NJ)の個々のセルに食餌を分配する直前に、Bt溶液を明らかな成分をある程度含む食餌と混合した。バイオアッセイでは、10ml注射器(Becton、Dickinson and Company、Franklin Lakes、NJ)を用いて、各セルに約0.7mlの処理食餌を入れた。蒸留水(ブランク対照)または緩衝液だけで処理した食餌を対照処理として用いた。D.サッカラリス(D. saccharalis)の1新生子(<24時間)を、各セルの食餌表面に放した。幼虫を接種した後、セルをベント付のふた(C−D International、Pitman、NJ)でカバーした。バイオアッセイトレイは、28℃、50%RHおよび16:8(L:D)時間の光周期に維持された人工気候室に置いた。幼虫の死滅率、幼虫の重量、および重量増加を示さなかった(1幼虫につき<0.1mg)生存幼虫の数を、接種から7日目に記録した。Cryタンパク質濃度別の昆虫系統の各組合せを4反復にし、各反復には16〜32匹の幼虫が含まれた。
【0060】
データ分析
幼虫の死滅率基準は、「実際の」死滅率として測定され、それは、実際の死滅幼虫および有意な体重増加を示さなかった(1幼虫につき<0.1mg)生存幼虫を病的であるか非摂食昆虫と見なした。処理でのD.サッカラリス(D. saccharalis)の実際の死滅率は、以下の方程式を用いて計算された:実際の死滅率(%)=100×[死幼虫数+有意な体重増加を示さなかった(1幼虫につき<0.1mg)生存幼虫数]/試験昆虫の総数。各D.サッカラリス(D. saccharalis)系統の「実際の」死滅率(以降、死滅率と単純化する)は、Cry1Abを分析するための無処理対照食餌またはCry1Faを評価するための緩衝液だけで処理した食餌を与えた幼虫の死滅率で補正した。次に、50%(LC↓5↓0)死滅率値を引き起こしたCryタンパク質濃度および対応する95%信頼区間(CI)を決定するために、補正された用量/死滅率データをプロビット解析にかけた。プロビット解析で用いられた処理には、0死滅率をもたらした最高濃度、100%死滅率をもたらした最低濃度およびそれらの両極端の間の全ての結果が含まれた。抵抗性の比率は、Bt−RR系統のLC↓5↓0値をBt−SS昆虫のそれによって割ることによって計算された。抵抗性比率がα=0.05のレベルで有意であるかどうか判定するために、致死用量比判定法を用いた。死滅率データを分析するために二元配置ANOVAも用い、続いて処理差を判定するためにα=0.05レベルでのLSMEANS検定を用いた。
【0061】
Cry1Abタンパク質食餌を与えられたD.サッカラリス(D. saccharalis)の幼虫発育阻害は、下記式を用いて計算され:幼虫発育阻害(%)=100×(無処理対照食餌を摂食した幼虫の体重−Bt食餌を摂食した幼虫の体重)/(無処理対照食餌を摂食した幼虫の体重)、一方、Cry1Faを分析するために、幼虫発育阻害は下記式を用いて計算された:幼虫発育阻害(%)=100×(緩衝液だけで処理した対照食餌を摂食した幼虫の体重−Bt食餌を摂食した幼虫の体重)/(緩衝液だけで処理した対照食餌を摂食した幼虫の体重)。有意な重量増加を有した幼虫がいない場合(<0.1mg/幼虫)、100%の幼虫発育阻害が反復に割り当てられた。発育阻害データは、2つの主因子として昆虫系統およびCryタンパク質濃度による二元配置ANOVAを用いて分析した。α=0.05レベルでの処理差を判定するために、LSMEANS検定を用いた。非変換データを図および表に示す。
【0062】
〔実施例3〕
結果
Cryタンパク質処理食餌を与えたD.サッカラリス(D. saccharalis)のBt−SSおよびBt−RR系統の幼虫の死滅率。
Cry1Abタンパク質(図1):Cry1Abタンパク質濃度は、Bt−SSおよびBt−RRの両系統についてD.サッカラリス(D. saccharalis)の幼虫死滅率に有意な影響を及ぼした(F=90.67;df=6、42;P<0.0001)(図1)。Cry1Ab濃度の増加にともない、幼虫死滅率が増加した。Bt−SS系統の幼虫死滅率の有意なレベルが0.031μg/g以上で観察され、死滅率は32μg/gで100%近くに到達した。Bt−RR系統については、有意な死滅率が2μg/gで起こり、32μg/gで61%に到達した。幼虫死滅率におけるかなりの差が、2つの昆虫系統の間で観察された(F=346.73、df=1、42、P<0.0001)。Bt−RR系統の幼虫死滅率は、検討された全てのCry1Ab濃度でBt−SS昆虫のそれより有意に低かった(P<0.05)。昆虫系統および濃度の相互作用も、有意であった(F=18.82;df=6、42;P<0.0001)。Cry1Ab濃度の増加にともない、Bt−RR系統の幼虫死滅率は、Bt−SS系統のそれよりもゆっくりと増加した。
【0063】
Bt−SSおよびBt−RR系統の幼虫死滅率に基づくLC↓5↓0計算値は、それぞれ0.13および18.46μg/gであった(表1)。2つの系統間のLC↓5↓0の142倍の差は、致死用量比判定法に基づき有意であった(P<0.05)。
【0064】
Cry1Faタンパク質(図2):Cry1Faタンパク質は、殺虫活性およびわずかな交差抵抗性を実証した。Cryタンパク質濃度は、Bt−SSおよびBt−RRの両系統についてD.サッカラリス(D. saccharalis)の幼虫死滅率に有意な影響を及ぼした(F=251.78;df=8、54;P<0.0001)。Bt−SS系統については0.125μg/gで、Bt−RR系統については0.5μg/gで幼虫死滅率の有意なレベルが観察され、両系統について8μg/gで100%に到達した。幼虫死滅率の差は、2つの昆虫系統の間でも有意であった(F=11.82、df=1、54、P=0.0011)。Bt−RR系統は、0.125、0.5および2μg/gでBt−SS系統より有意に(P<0.05)低い死滅率を有した。昆虫系統および濃度の相互作用も、有意であった(F=8.61;df=8、54;P<0.0001)。一般に、<8μg/gのCryタンパク質濃度でのBt−RR系統の幼虫死滅率は、Bt−SS系統のそれよりゆっくりと増加した。
【0065】
Bt−SSおよびBt−RR系統の幼虫死滅率に基づくLC↓5↓0計算値は、それぞれ0.29および1.15μg/gであった(表1)。2つの系統間のLC↓5↓0の4倍の差は、致死用量比判定法に基づき統計的に有意であった(P<0.05)。
【0066】
Cryタンパク質処理食餌を与えられたD.サッカラリス(D. saccharalis)の幼虫発育阻害
Cry1Abタンパク質(図3):Cry1Ab処理食餌を与えられたD.サッカラリス(D. saccharalis)のBt−SSおよびBt−RR系統の幼虫発育阻害は、濃度間で有意差があった(F=175.07;df=5、36;P<0.0001)。Bt−SSおよびBt−RR幼虫の発育は、Cry1Ab濃度の増加にともない低下した。昆虫系統の発育阻害に及ぼす影響は、Bt−SSとBt−RR系統の間で有意差があった(F=1182.51;df=1、36;P<0.0001)。Bt−SS系統の幼虫発育阻害は、試験した全てのBt濃度にわたってBt−RR系統のそれより有意に大きかった。試験した最低濃度である0.031μg/gの濃度では、Bt−RRはいかなる発育阻害も示さなかったが、Bt−SS幼虫は対照と比較して90%を超える発育阻害を有した。0.5μg/gでは、Bt−RRは27%の発育阻害を実証したが、Bt−SS幼虫の発育はほとんど完全に停止された。昆虫系統およびBt濃度の相互作用も、有意であった(F=110.72;df=5、36;P<0.0001)。Cry1Ab濃度の増加にともない、Bt−RR系統の幼虫発育阻害はBt−SS系統のそれより遅く増加した。
【0067】
Cry1Faタンパク質(図4):Cry1Faタンパク質処理食餌を与えられたD.サッカラリス(D. saccharalis)のBt−SSおよびBt−RR系統の幼虫発育阻害は、濃度間で有意差があった(F=301.69;df=7、48;P<0.0001)。0.125、0.5および2μg/gの濃度で、Bt−SSの発育阻害はBt−RR幼虫のそれより有意に大きかった(P<0.05)。昆虫系統の発育阻害に及ぼす影響は、2つの昆虫系統の間で有意差があり(F=45.88;df=1、48;P<0.0001)、昆虫系統およびBt濃度の相互作用も、有意であった(F=18.38;df=7、48;P<0.0001)。Bt−SS系統の発育阻害は、Bt−RR系統のそれより速く増加した。両昆虫系統の有意な幼虫発育阻害が、0.03125μg/gで観察された。Bt−SS系統の発育は2μg/gで完全に阻害されたが、Bt−RR系統についてはそれは8μg/gで起こった。
【0068】
(参考文献)
【数1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
Cry1Fa殺虫性タンパク質をコードするDNAおよびCry1Ab殺虫性タンパク質をコードするDNAを含むサトウキビ植物。
【請求項2】
Cry1Faコア毒素含有タンパク質をコードするDNAおよびCry1Abコア毒素含有タンパク質をコードするDNAが遺伝子移入されている、請求項1に記載のサトウキビ植物。
【請求項3】
請求項1に記載の植物の部分。
【請求項4】
請求項1に記載の植物の挿し木繁殖体またはクローン繁殖体。
【請求項5】
非Bt緩衝帯植物および請求項1に記載の複数のサトウキビ植物を含む植物の圃場であって、前記緩衝帯植物は前記圃場の全ての植物の40%未満を構成する、圃場。
【請求項6】
前記緩衝帯植物が前記圃場の全ての作物植物の30%未満を構成する、請求項5に記載の植物の圃場。
【請求項7】
前記緩衝帯植物が前記圃場の全ての作物植物の20%未満を構成する、請求項5に記載の植物の圃場。
【請求項8】
前記緩衝帯植物が前記圃場の全ての作物植物の10%未満を構成する、請求項5に記載の植物の圃場。
【請求項9】
前記緩衝帯植物が前記圃場の全ての作物植物の5%未満を構成する、請求項5に記載の植物の圃場。
【請求項10】
前記緩衝帯植物がブロックまたは帯状地にある、請求項5に記載の植物の圃場。
【請求項11】
前記サトウキビ植物が10エーカーよりも多くを占める、請求項5に記載の植物の圃場。
【請求項12】
前記Cry1Faタンパク質が配列番号1と少なくとも99%同一であり、前記Cry1Abタンパク質が配列番号2と少なくとも99%同一である、請求項1に記載のサトウキビ植物。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公表番号】特表2013−514771(P2013−514771A)
【公表日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−544842(P2012−544842)
【出願日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際出願番号】PCT/US2010/060825
【国際公開番号】WO2011/084626
【国際公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【出願人】(501035309)ダウ アグロサイエンシィズ エルエルシー (197)
【Fターム(参考)】