説明

サバイビンmRNAの測定方法

【課題】 サバイビン遺伝子のmRNAを迅速に増幅・検出すること。
【解決手段】 サバイビンmRNA中の一部と相同的な配列を有する第一のプライマー、相補的な配列を有する第二のプライマー(第一または第二のプライマーのいずれか一方はその5’末端にプロモーター配列が付加されている)からなるオリゴヌクレオチドの組み合わせを用い、逆転写酵素により、プロモーター配列を含む2本鎖DNAを生成し、該2本鎖DNAを鋳型としてRNAポリメラーゼによりRNA転写産物を生成し、該RNA転写産物が引き続き前記逆転写酵素によるDNA合成の鋳型となって前記2本鎖DNAを生成する工程からなるRNA増幅工程において、増幅されたRNA産物量を、増幅されたRNAと相補的2本鎖を形成するとシグナル特性が変化するように設計されたオリゴヌクレオチドプローブで経時的に測定することで前記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核酸増幅法を用いた簡便、迅速なサバイビンmRNAの測定方法に関する。より正確には本発明は、一定温度(40から50℃、好ましくは43℃)でのサバイビンmRNAの増幅、検出に適したオリゴヌクレオチドを提供する。本発明は、分子生物学、生化学、医学分野等における研究、診療に有用である。
【背景技術】
【0002】
アポトーシスは細胞が能動的に自己を死に導く現象で、プログラム細胞死とも呼ばれている。人間のような多細胞生物では、その体細胞のウイルスによる感染、癌化など、絶えず生命の維持に不利な細胞が生まれていることが知られている。こういった細胞を除去するシステムがアポトーシスである。他にも発生の過程でアポトーシスは生命に欠かすことのできない役割を果たしている。アポトーシスは昆虫から人間まで共通するメカニズムで働いており、中でもカスパーゼがキー酵素として知られている。このカスパーゼを阻害し、アポトーシスを阻害する物質が、アポトーシス阻害因子(IAP)タンパク質である。
【0003】
典型的なIAPタンパク質は、タンパク質との結合ドメインであるBIRドメインと、Znフィンガードメインの一種であるRINGドメインという構造を有している。近年、サバイビン(survivin)として知られるタンパク質が、アポトーシス阻害因子(IAP)遺伝子ファミリーの一員として同定された。サバイビンは、単一のBIRドメイン、およびRINGフィンガーの代わりにコイルドコイル領域を有しており、既知のIAPファミリーメンバーと比べると構造的に特異である。
【0004】
サバイビンの臨床学的な重要性の一つとして、他のアポトーシス調節因子であるBcl−2や他のIAPファミリーメンバーと異なり、正常ヒト組織においてはほとんどその発現が検出されないが、一般的なヒトの癌組織(肺・膵臓・大腸・膀胱・胸部・前立腺・胃・肝臓など)や非ホジキンリンパ腫、白血病において有意に発現亢進していることが報告されている。このことはサバイビンが非常に優れたマーカー遺伝子となりうることを示している。そのため、サバイビンmRNAの測定は、がん治療等におけるアポトーシス制御のモニタリング、がんの早期診断、がんの転移診断、がんの治療効果モニタリング等に幅広く応用可能であると考えられる。
【0005】
一般的に癌の診断は病理学的に行なわれるが、これには病理医の高い技術が要求され、使用する検体によっては癌細胞の見落としがあることが指摘されている。近年、こういった見落としの軽減、また各病院などで均一な診断が行なえるよう、核酸増幅法を利用した遺伝子検査が提案、あるいは一部実用化がなされている。核酸増幅法を利用した遺伝子検査が高感度であることは知られているが、核酸増幅を行なう上で、その検査の特異度に大きく関わるのが使用する癌マーカー遺伝子の種類である。先に述べたように、サバイビンは広範にわたる癌、リンパ腫、白血病においてその高い発現が認められ、一方正常細胞ではその発現がほとんど認められない。したがって、サバイビンは核酸増幅法における優れた癌マーカーとしての特徴を有している。すなわち、様々な組織におけるサバイビンmRNA発現の有無を調べることで、癌、リンパ腫、白血病等の悪性疾患を見出すことが可能である。
【0006】
癌は原発部位から離れた場所に転移を起こすことが知られている。転移は現在でも癌患者の主たる死亡原因であり、原発部位での診断と同様に転移診断も非常に重要である。癌細胞は原発巣部位から様々な体液、血液、尿、リンパ液中に放出される。特に血液やリンパ液中に放出されると、その流れに乗って全身を回り、多くの部位に転移を起こすことがある。このようにして原発部位から放出される癌細胞は一般的に少数であるため、前記癌細胞を検出するには、高感度な検出法が必要となる。核酸増幅法を用いた検出法は、一般に高感度な検出が可能なため、前記癌細胞の検出に適している。すなわち、核酸増幅法を用いたサバイビンmRNAの検出は、広範囲な癌の転移診断において特に有用な検査方法といえる。
【0007】
一例として、胃癌や大腸癌といった消化器癌では、腹膜転移の診断の為に腹腔を生理食塩水で洗浄し、その洗浄液中の癌細胞の有無を検査する。胃癌などが進行すると癌細胞が腹膜中へ剥離するが、洗浄水中に癌細胞が確認されると洗浄細胞診陽性となり、手術では完全に癌細胞を除去することが不可能であることを示す。この検査は通常顕微鏡を用いて病理学的に行なわれるが、癌細胞を見落とすことなく、全ての細胞を目視で確認することは困難が伴う。また、病理検査による細胞診が陰性であっても腹膜転移となる症例は多数知られており、これはごく少数の転移細胞を見逃した結果であると考えられている。よって、洗浄水中の癌細胞を高感度に検出する方法が望まれている。核酸増幅法を用いたサバイビンmRNAの検出は、胃癌・大腸癌など消化器癌全般における、高感度な腹膜転移診断を可能にすると考えられる。
【0008】
別の例として、膀胱癌では癌細胞が尿中に剥離することが知られている。膀胱癌が疑われる場合、細胞診および膀胱鏡による検査が一般的であるが、前者はすでに述べたように見落としの問題が指摘されており、後者では侵襲的な検査であるため患者負担が大きいことが問題となっている。そのため、尿中の細胞を検体としたサバイビンmRNAの測定は、細胞診と膀胱鏡の欠点を補う検査方法となりえる。また、低侵襲性ということに着目すると血液を検体とした検査も当てはまるが、核酸増幅法を用いたサバイビンmRNAの検出は血液検体であっても幅広い癌において癌細胞を高感度に検出できる。
【0009】
また別の例として、肺癌における胸水中や、肝臓癌における腹水中に癌細胞が剥離することがある。こういった体液中に癌細胞が剥離するときは、一般に癌の進行度を知る目安となる。このような胸水、腹水中の癌細胞の有無も、核酸増幅法を用いたサバイビンmRNAの検出により、高感度な検出が可能となる。
【0010】
さらに別の例として、サバイビンmRNAの測定は術中のリンパ節転移診断にも適用できる。現在では、乳癌においてセンチネルリンパ節の転移診断の重要性は広く認められており、胃癌をはじめとした消化器癌においても適用が検討されている。このように、サバイビンは発現特性から非常に有効な癌マーカー遺伝子であると考えられるため、その適用範囲および有用性が高い。
【0011】
一般に、核酸増幅法を利用した癌マーカー遺伝子mRNAの検出の際、RT−PCR(Reverse Transcription−Polymerase Chain Reaction)法が核酸増幅法として用いられており、サバイビンmRNAに対する適用も報告されている(非特許文献1から3参照)。当該増幅法は、腫瘍組織からRNAを抽出後、
(a)抽出したRNAから逆転写酵素によりcDNAを合成する工程、及び
(b)当該cDNAをPCR法で増幅して検出する工程,
と二段階の工程(場合によってはさらに検出工程を別個に実施する必要がある)が必要であるため、操作の煩雑性や二次汚染の危険性が示唆される。また、前記二段階の工程を実施するのに通常2時間以上が必要であり、複数の工程の実施による再現性不良、多数検体処理や検査コストの低減の点で問題があった。さらに、PCR法による増幅は2本鎖DNAを増幅するため、混入する染色体DNAを増幅する可能性も懸念されるため、厳密にmRNA発現を解析するには、DNase等による消化を行ない染色体DNAを完全に除く必要があった。このため、操作の更なる煩雑化や再現性不良を招いていた。さらに、PCR法は急激に反応温度を昇降させる必要があり、自動化の際の反応装置の省力化や低コスト化のための障壁となっていた。
【0012】
一方、一定温度でRNAのみを増幅する方法として、NASBA法(特許文献1および2参照)、およびTMA法(特許文献3参照)などが報告されている。前記RNA増幅方法は、標的となるRNAに対してプロモーター配列を含むプライマー、逆転写酵素および必要に応じてリボヌクレアーゼH(RNaseH)により、プロモーター配列を含む2本鎖DNAを合成し、この2本鎖DNAを鋳型としRNAポリメラーゼによって標的RNA由来の特定塩基配列を含むRNAを生成し、このRNAが引き続きプロモーター配列を含む2本鎖DNA合成の鋳型となる連鎖反応を行なうものである。そして、RNA増幅後、電気泳動または検出可能な標識を結合させた核酸プローブを用いたハイブリダイゼーション法などにより増幅されたRNAを検出する。
【0013】
前記RNA増幅法は一定温度、一段階でRNAのみを増幅することから簡便なRNA測定に適しているが、ハイブリダイゼーション法などによる検出は煩雑な操作を必要とするため、多数検体処理や自動化に不適であるばかりでなく、結果として再現性不良や増幅核酸の二次汚染を招きやすいという課題がある。また、結果が出るまでに通常、NASBA法、TMA法ともに90分以上必要であり、迅速な結果を得るに至っていない。さらに、増幅工程は一定温度であるものの、通例は増幅工程前に予備加温(例えば、65℃)の必要があり、反応装置の省力化や低コスト化のための課題となっていた。
【0014】
簡便にRNAを増幅・測定する方法としては、Ishiguroらの方法(特許文献4および非特許文献4参照)があげられる。前記方法は、インターカレーター性蛍光色素で標識され、かつ標的核酸と相補的に2本鎖を形成するとインターカレーター性蛍光色素部分が前記2本鎖部分にインターカレートすることによって蛍光特性が変更するように設計されたオリゴヌクレオチドプローブ存在下、RNA増幅方法を実施し、蛍光特性の変化を測定するもので、一定温度、一段階かつ密閉容器内でRNA増幅および測定を、同時かつ迅速・簡便に実施することが可能である。より具体的な一態様としては、任意のRNAに存在し、該RNAを他のRNAから区別し得る特定塩基配列に対して、
(1)当該特定塩基配列の3’末端側に相補的なDNAプライマーとRNA依存性DNAポリメラーゼ(逆転写酵素)を用い、RNAを鋳型として特定塩基配列と相補的なDNAを生成し、
(2)(1)の逆転写反応によって生じるRNA−DNA2本鎖に対して、リボヌクレアーゼH活性を有する酵素を作用させてRNAを分解して、1本鎖DNAを生成させ、
(3)(2)で生成した1本鎖DNAの3’末端に相補的で、かつ、それ自身がその5’末端にRNAポリメラーゼのプロモーター配列を有するDNAプライマーと、DNA依存性DNAポリメラーゼを用い、前記プロモーター配列を含む2本鎖DNAを合成し、
(4)(3)で生成した2本鎖DNAにRNAポリメラーゼを作用させて転写産物(特定塩基配列のRNA)を生成させる方法である。
【0015】
そして、(4)で生成したRNA転写産物は特定塩基配列に由来するRNAであるため、前記(1)の反応における鋳型となり、前記(1)の反応で用いるDNAプライマーと結合し、(1)から(4)の反応が進行することでRNA増幅の連鎖反応が起きる。
【0016】
当該核酸増幅法の特徴は、PCR法のように反応液の温度を昇降させる必要がなく、またRNAの逆転写と、その後のDNA増幅反応とに分けて実施することがない、という点にある。さらに、増幅されたRNA転写産物に対して特異的に結合可能な、インターカレーター性蛍光色素で標識されたオリゴヌクレオチドプローブを反応液に共存させ、特定塩基配列または当該配列に相補的な配列の増幅と同時に、当該増幅の様子を検出(モニタリング)することができる。したがって、通常のRNA増幅法のように、別個にハイブリダイゼーション検出等を行なう必要がないため、結果を得るまでの時間を大幅に短縮可能である。
【0017】
しかしながら、当該核酸増幅法に適したサバイビンmRNA増幅用プライマー配列およびその組み合わせ、さらには検出用のオリゴヌクレオチドプローブ配列については知られていない。これは、反応の開始時に一度反応温度よりも高温にし、標的となるRNAの高次構造を変性させる工程を必要とするPCR法、NASBA法、TMA法等の核酸増幅法と比較し、当該核酸増幅法が一定の比較的低温(40から50℃、好ましくは43℃)条件下でmRNAの増幅、検出を行なうことに由来する。つまり、一般にmRNAのような1本鎖RNAは高次構造を形成しやすいことが知られており、当該核酸増幅法のような反応条件下では、標的となるmRNAが高次構造を形成し、プライマーおよびプローブの結合を阻害すると考えられるため、最適なプライマーおよびプローブは高次構造フリー領域に設計する必要がある。RNA高次構造の指標として、塩基配列から2次構造を2次構造解析ソフトウェアにより計算・推定することは可能だが、計算上の2次構造から実際の高次構造を推定することは極めて困難である。
【0018】
また、当該核酸増幅法のように比較的低温で核酸増幅を実施する場合、高温で実施されるPCR法に比較してプライマーダイマーといった非特異産物が生成しやすく、非特異産物生成を低減させるためにはプライマーの組み合わせも厳密に選定する必要がある。しかしながら一般に用いられるプライマーの設計法は、高温で変性する工程を含む(PCR法)のを前提としているため、既存のプライマー設計技術では、当該核酸増幅法に適したプライマーを設計することは困難である。よって、前記一定温度RNA増幅・測定法による迅速、簡便、かつ高感度なサバイビンmRNAの測定を実現するには、一定の比較的低温(40から50℃、好ましくは43℃)条件下においても結合効率が低下せず、かつサバイビンmRNAの増幅、検出が可能なオリゴヌクレオチドおよびその組み合わせが必要であった。
【0019】
【特許文献1】特許第2650159号公報
【特許文献2】特許第3152927号公報
【特許文献3】特許第3241717号公報
【特許文献4】特開2000−14400号公報
【非特許文献1】Mertines,A.et al.,American journal of Pathology,164,501−510(2004)
【非特許文献2】Zhen−ning,W.et al.,Chinese Medical Journal,117,1210−1217(2004)
【非特許文献3】Weikert,S.et al.,International Journal of Cancer,116,100−104(2005).
【非特許文献4】Ishiguro,T.et al.,Analytical Biochemistry,314,1247−1252(2003).
【非特許文献5】Ishiguro,T et al.,Nucleic Acids Res.,24,4992−4997(1996)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明の目的は、ヒト細胞や組織などから得られた試料に対し、サバイビンmRNAを一定温度、一段階の操作で、迅速に測定する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、サバイビンmRNAを特異的かつ迅速に測定する方法を構築するに至った。
【0022】
第一の発明は、試料中のサバイビンmRNAの測定方法において、
前記測定方法が、サバイビンmRNA中の特定塩基配列の一部と相同的な配列を有する第一のプライマー、および特定塩基配列の一部と相補的な配列を有する第二のプライマー(ここで第一または第二のプライマーのいずれか一方はその5’末端にRNAポリメラーゼのプロモーター配列が付加されたプライマーである)を用いた、
(1)RNAを鋳型とする、RNA依存性DNAポリメラーゼ活性を有する酵素による特定塩基配列に相補的なcDNAを合成する工程、
(2)リボヌクレアーゼH(RNaseH)活性を有する酵素によるRNA−DNA2本鎖のRNAを分解する工程(1本鎖DNAの生成)、
(3)1本鎖DNAを鋳型とする、DNA依存性DNAポリメラーゼ活性を有する酵素による、特定塩基配列、または特定塩基配列に相補的な配列のRNAを転写可能なプロモーター配列を有する2本鎖DNAを生成する工程、
(4)RNAポリメラーゼ活性を有する酵素による前記2本鎖DNAを鋳型とするRNA転写産物を生成する工程、
(5)該RNA転写産物が、前記(1)の反応におけるcDNA合成の鋳型となることで、連鎖的にRNA転写産物を生成する工程、
(6)前記RNA転写産物量を測定する工程、
からなる測定方法であり、かつ、前記第一および第二のプライマーが、以下のいずれかであることを特徴とする、前記測定方法である:
(i)前記第一のプライマーが配列番号1で示された塩基配列中の少なくとも連続した15塩基からなるオリゴヌクレオチドであり、前記第二のプライマーが配列番号3で示された塩基配列中の少なくとも連続した15塩基からなるオリゴヌクレオチド、
(ii)前記第一のプライマーが配列番号2で示された塩基配列中の少なくとも連続した15塩基からなるオリゴヌクレオチドであり、前記第二のプライマーが配列番号4で示された塩基配列中の少なくとも連続した15塩基からなるオリゴヌクレオチド。
【0023】
第二の発明は、第一の発明に記載のサバイビンmRNAの測定方法において、前記第一および第二のプライマーが、以下のいずれかであることを特徴とする、前記測定方法である:
(i)前記第一のプライマーが配列番号12あるいは13で示される塩基配列中の少なくとも連続した15塩基からなるオリゴヌクレオチドであり、前記第二のプライマーが配列番号19から22で示されるいずれかの塩基配列中の少なくとも連続した15塩基からなるオリゴヌクレオチド、
(ii)前記第一のプライマーが配列番号14から18で示されるいずれかの塩基配列中の少なくとも連続した15塩基からなるオリゴヌクレオチドであり、前記第二のプライマーが配列番号20から25で示されるいずれかの塩基配列中の少なくとも連続した15塩基からなるオリゴヌクレオチド。
【0024】
第三の発明は、第一または第二の発明に記載のサバイビンmRNAの測定方法において、前記(6)の工程(RNA転写産物量を測定する工程)が、標的RNAと相補的な2本鎖を形成すると蛍光特性が変化するように設計された蛍光色素標識オリゴヌクレオチドプローブ共存下で前記蛍光特性の変化を測定することによってなされることを特徴とする、測定方法である。
【0025】
第四の発明は、前記蛍光色素標識オリゴヌクレオチドプローブが、インターカレーター性蛍光色素をリンカーを介して結合させたインターカレーター性蛍光色素標識オリゴヌクレオチドプローブであることを特徴とする、第三の発明に記載の測定方法である。
【0026】
第五の発明は、前記インターカレーター性蛍光色素標識オリゴヌクレオチドプローブが配列番号28から31に示されるいずれかの塩基配列中、または当該相補配列中の少なくとも連続した15塩基からなるオリゴヌクレオチドを含むことを特徴とする、第四の発明に記載の測定方法である。
【0027】
第六の発明は、第一から第五の発明に記載のサバイビンmRNAの測定方法において、前記(1)の工程(RNAを鋳型とする、RNA依存性DNAポリメラーゼ活性を有する酵素によって特定塩基配列に相補的なcDNAを合成する工程)の前に、サバイビンmRNA中の特定塩基配列を鋳型とし、
(i)前記特定塩基配列中の、第一のプライマーとの相同領域の5’末端部位と重複した領域、および当該部位から5’側に隣接する領域に対し相補的な配列を有する、切断用オリゴヌクレオチド、
および、
(ii)リボヌクレアーゼH(RNase H)活性を有する酵素
を用いて、前記特定塩基配列の5’末端部位で前記RNAを切断する工程を行なうことを特徴とする、測定方法である。
【0028】
第七の発明は、前記切断用オリゴヌクレオチドが配列番号5から11で示されるいずれかの塩基配列からなるオリゴヌクレオチドであることを特徴とする、第六の発明に記載の測定方法である。
【0029】
第八の発明は、サバイビンmRNAを特異的に増幅または検出するためのオリゴヌクレオチドであって、配列番号1から4、または配列番号28から31で示されるいずれかの塩基配列中又は当該相補配列中の、少なくとも連続する15塩基からなるオリゴヌクレオチドを含むことを特徴とする、前記オリゴヌクレオチドである。
【0030】
第九の発明は、第八の発明に記載のオリゴヌクレオチドを少なくとも一つ含むことを特徴とする、サバイビンmRNAの測定試薬である。
【0031】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0032】
本発明中の試料とは、RNAを含む核酸試料を意味する。本発明は、ヒト細胞、ヒト組織、体液、血液、尿、便、リンパ液、乳管液、あるいは腹腔や胸腔の洗浄液等を材料として、例えば特開平7−59572号等に記載された方法に基づいて調製した試料を使用し、当該試料を直接的に測定することで、当該試料の由来元であるヒト細胞や組織などに含まれるサバイビンmRNAの測定を行なうものである。
【0033】
本発明中の特定塩基配列とは、サバイビンmRNAのうち、第一のプライマーとの相同領域の5’末端から第二のプライマーとの相補領域の3’末端までの塩基配列に相同なRNAまたはDNAの塩基配列を示す。すなわち、サバイビンmRNA上で、第一のプライマーは特定塩基配列の5’末端から3’方向に少なくとも連続する15塩基以上と相同的であり、第二のプライマーは特定塩基配列の3’末端から5’方向に少なくとも連続する15塩基以上と相補的である。よって、本発明では前記特定塩基配列に由来するRNA転写産物が増幅されることになる。本発明中の第一のプライマーとの相同領域の5’末端部位とは、特定塩基配列内で該相同領域の5’末端を含む部分配列からなり、当該部位は切断用オリゴヌクレオチドとの相補領域と第一のプライマーとの相同領域が重複する部位である。
【0034】
本発明中のプロモーターとは、RNAポリメラーゼが結合して転写を開始する部位で種々のRNAポリメラーゼに特異的なプロモーター配列が知られており、本発明の使用において特に限定するものではないが、分子生物学的実験等で通常用いられている、T7プロモーター、SP6プロモーター、T3プロモーターが好ましい。また、前記配列に転写効率に関わる付加配列を含んでいてもよい。
【0035】
本発明中の相補的な配列とは、高ストリンジェントな条件において対象となる塩基配列に対してハイブリダイゼーション可能な配列をいう。高ストリンジェントな条件の一例として、本発明の実施例に記載の核酸増幅反応液組成をあげることができる。また、本発明中の相同的な配列とは、高ストリンジェントな条件において対象となる塩基配列の完全相補配列に対してハイブリダイゼーション可能な配列をいう。したがって、本発明でいう相補的あるいは相同的な配列は、高ストリンジェントな条件においてハイブリダイゼーションの特異性および効率に影響を与えない範囲内であれば長さなどを任意に設定することが可能であることはいうまでもない。さらに、ハイブリダイゼーションの特異性および効率に影響を与えない範囲で、1から数塩基の置換・欠失・挿入がなされた塩基配列を用いてもよい。
【0036】
本発明中のヌクレオチドもしくは核酸とは、天然に存在する塩基、糖および糖間結合からなるヌクレオチドまたはヌクレオシド(RNAおよびDNAの双方を含む)のことをいい、そのオリゴマー(オリゴヌクレオチド、例えば、2から100塩基程度)およびポリマー(ポリヌクレオチド、例えば、100塩基以上)を含む総称である。本発明中のヌクレオチドもしくは核酸は、同様に機能する天然に存在しないモノマー、蛍光分子等や放射性同位体で標識されたモノマー、あるいはこれらを含むオリゴマーまたはポリマーも含む。
【0037】
本発明中のプライマーとは、核酸増幅反応において、鋳型とハイブリダイズし、核酸増幅反応を開始するのに必要なヌクレオチドのことをいい、核酸増幅反応において増幅を所望する鋳型を基に、その鋳型とハイブリダイズし、PCR法、LAMP法、ICAN法、NASBA法、TMA法、3SR法、TRC法(特許文献4および非特許文献4参照)といった核酸増幅反応により、鎖長あるいは配列において特異的な生成物が得られるように、好ましくはプライマー自身がその鋳型に特異的な配列を含むよう設計される。
【0038】
プライマーの長さは、通常15から100塩基、好ましくは15から35塩基の鎖長を有するように設計されるが、当該鎖長に限られるものではない。よって、本発明の第一および第二のプライマーは、本願発明に記載する塩基配列の範囲内で、少なくとも連続する15塩基以上の任意の配列の中から選定することができる。すなわち、本発明におけるサバイビンmRNA検出のための第一および第二のプライマーは、
(i)第一のプライマーがサバイビンmRNAの一部と相同的な配列番号1に記載の配列に対して相同的な配列中の少なくとも連続した15塩基からなるオリゴヌクレオチドであり、第二のプライマーがサバイビンmRNAの一部と相補的な配列番号3に記載の配列に対して相同的な配列中の少なくとも連続した15塩基からなるオリゴヌクレオチド、
または、
(ii)第一のプライマーがサバイビンmRNAの一部と相同的な配列番号2に記載の配列に対して相同的な配列中の少なくとも連続した15塩基からなるオリゴヌクレオチドであり、第二のプライマーがサバイビンmRNAの一部と相補的な配列番号4に記載の配列に対して相同的な配列中の少なくとも連続した15塩基からなるオリゴヌクレオチド、
である。なお、(ii)の場合、配列番号2の3’末端側と配列番号4の3’末端側とが重複しているため、第一のプライマーと第二のプライマーは、少なくとも第一のプライマーの3’末端が、第二のプライマーの3’末端と15塩基以上離れた位置に設計する必要がある。
【0039】
本発明におけるサバイビンmRNA検出のための第一および第二のプライマーのより好ましい態様は、
(i)第一のプライマーがサバイビンmRNAの一部に相同的な配列番号12あるいは13に記載の配列に対して相同的な配列中の少なくとも連続した15塩基からなるオリゴヌクレオチドであり、第二のプライマーがサバイビンmRNAの一部に相補的な配列番号19から22に記載のいずれかの配列に対して相同的な配列中の少なくとも連続した15塩基からなるオリゴヌクレオチド、
または、
(ii)第一のプライマーがサバイビンmRNAの一部に相同的な配列番号14から18に記載のいずれかの配列に対して相同的な配列中の少なくとも連続した15塩基からなるオリゴヌクレオチドであり、第二のプライマーがサバイビンmRNAの一部に相補的な配列番号20から25に記載のいずれかの配列に対して相同的な配列中の少なくとも連続した15塩基からなるオリゴヌクレオチド、
である。
【0040】
本発明におけるサバイビンmRNA検出のための第一および第二のプライマーの好ましい一態様として、
(i)第一のプライマーが配列番号12あるいは13に記載の配列から選ばれる一種のオリゴヌクレオチドであり、第二のプライマーが配列番号19から22に記載の配列から選ばれる一種のオリゴヌクレオチド、
または、
(ii)第一のプライマーが配列番号14から18に記載の配列から選ばれる一種のオリゴヌクレオチドであり、第二のプライマーが配列番号20から25に記載の配列から選ばれる一種のオリゴヌクレオチド、
があげられる。
【0041】
さらに本発明の一態様として、サバイビンmRNAはcDNA合成の鋳型となる前に該RNA内の特定核酸配列の前記5’末端部位で切断される。特定核酸配列の5’末端部位で切断されることで、cDNA合成後に、cDNAにハイブリダイズした第一のプライマーのプロモーター配列に相補的なDNA鎖を、前記cDNAの3’末端を伸長することにより効率的に合成することができ、結果として機能的な2本鎖DNAプロモーター構造を形成する。このような切断方法として、サバイビンmRNA内の特定塩基配列の5’末端部位(該特定塩基配列内の5’末端部位を含む部分配列)に重複し、かつ5’方向に隣接する領域に対して相補的な配列を有するオリゴヌクレオチド(以下、切断用オリゴヌクレオチドとする)を添加することによって形成されたRNA−DNA2本鎖のRNA部分をリボヌクレアーゼH(RNaseH)活性を有する酵素等により切断する方法があげられる。該切断用オリゴヌクレオチドの3’末端にある水酸基は伸長反応を防止するために適当な修飾を施されたもの、例えばアミノ化等されているものを使用することが好ましい。
【0042】
本発明の好ましい一態様では、切断用オリゴヌクレオチドとして、サバイビンmRNAの一部に相補的な配列番号5から11に記載の配列に対して相同的な配列からなるオリゴヌクレオチドがあげられる。
【0043】
本発明中の標的RNAとは、RNA転写産物上の特定塩基配列のうち、前記プライマーとの相同あるいは相補領域以外の配列を示し、インターカレーター性蛍光色素標識オリゴヌクレオチドプローブとの相補的結合が可能である配列を有する。よって、インターカレーター性蛍光色素標識オリゴヌクレオチドプローブは、本発明中の特定塩基配列の一部と相補的、または相同的な配列となる。本発明の一態様として、インターカレーター性蛍光色素標識オリゴヌクレオチドプローブとして、サバイビンmRNAの一部に相補的な配列番号28から31に対して相同的、または相補的な配列中の少なくとも15塩基からなるオリゴヌクレオチドを含むプローブがあげられる。
【0044】
本発明におけるサバイビンmRNA検出のためのオリゴヌクレオチドの組み合わせの一態様として、
(i)切断用オリゴヌクレオチドが配列番号5あるいは6に対してそれぞれ相同的な配列からなるオリゴヌクレオチド、第一のプライマーが配列番号1に記載の配列に対して相同的な配列中の少なくとも連続した15塩基からなるオリゴヌクレオチド(なお、第一のプライマーはその5’末端にプロモーター配列を有し、かつ特定核酸配列中の当該プライマーとの相同領域の5’末端部位は配列番号5あるいは6の相補領域と重複する)、第二のプライマーが配列番号3に対して相同的な配列中の少なくとも連続した15塩基のオリゴヌクレオチド、インターカレーター性蛍光色素標識オリゴヌクレオチドプローブが配列番号28あるいは29に対して相同的な配列中の少なくとも連続した15塩基からなるオリゴヌクレオチドを含むプローブ、
または、
(ii)切断用オリゴヌクレオチドが配列番号7から11に対してそれぞれ相同的な配列からなるオリゴヌクレオチド、第一のプライマーが配列番号2に記載の配列に対して相同的な配列中の少なくとも連続した15塩基からなるオリゴヌクレオチド(なお、第一のプライマーはその5’末端にプロモーター配列を有し、かつ特定核酸配列中の当該プライマーとの相同領域の5’末端部位は配列番号7から11のいずれかの相補領域と重複する)、第二のプライマーが配列番号4に対して相同的な配列中の少なくとも連続した15塩基のオリゴヌクレオチド、インターカレーター性蛍光色素標識オリゴヌクレオチドプローブが配列番号29から31に対して相同的な配列中の少なくとも連続した15塩基からなるオリゴヌクレオチドを含むプローブ、
があげられる。
【0045】
本発明におけるサバイビンmRNA検出のためのオリゴヌクレオチドの組み合わせのより好ましい態様として、
(i)切断用オリゴヌクレオチドが配列番号5からなるオリゴヌクレオチドであり、第一のプライマーが配列番号12からなるオリゴヌクレオチド(なお、第一のプライマーはその5’末端にプロモーター配列を有する)であり、第二のプライマーが配列番号19から22より選ばれる一種のオリゴヌクレオチドであり、インターカレーター性蛍光色素標識オリゴヌクレオチドプローブが配列番号28あるいは29からなるオリゴヌクレオチド、
(ii)切断用オリゴヌクレオチドが配列番号6からなるオリゴヌクレオチドであり、第一のプライマーが配列番号13からなるオリゴヌクレオチド(なお、第一のプライマーはその5’末端にプロモーター配列を有する)であり、第二のプライマーが配列番号19から22より選ばれる一種のオリゴヌクレオチドであり、インターカレーター性蛍光色素標識オリゴヌクレオチドプローブが配列番号28あるいは29からなるオリゴヌクレオチド、
(iii)切断用オリゴヌクレオチドが配列番号7からなるオリゴヌクレオチドであり、第一のプライマーが配列番号14からなるオリゴヌクレオチド(なお、第一のプライマーはその5’末端にプロモーター配列を有する)であり、第二のプライマーが配列番号20から25より選ばれる一種のオリゴヌクレオチドであり、インターカレーター性蛍光色素標識オリゴヌクレオチドプローブが配列番号29から31より選ばれる一種のオリゴヌクレオチド、
(iv)切断用オリゴヌクレオチドが配列番号8からなるオリゴヌクレオチドであり、第一のプライマーが配列番号15からなるオリゴヌクレオチド(なお、第一のプライマーはその5’末端にプロモーター配列を有する)であり、第二のプライマーが配列番号20から25より選ばれる一種のオリゴヌクレオチドであり、インターカレーター性蛍光色素標識オリゴヌクレオチドプローブが配列番号29から31より選ばれる一種のオリゴヌクレオチド、
(v)切断用オリゴヌクレオチドが配列番号9からなるオリゴヌクレオチドであり、第一のプライマーが配列番号16からなるオリゴヌクレオチド(なお、第一のプライマーはその5’末端にプロモーター配列を有する)であり、第二のプライマーが配列番号20から25より選ばれる一種のオリゴヌクレオチドであり、インターカレーター性蛍光色素標識オリゴヌクレオチドプローブが配列番号29から31より選ばれる一種のオリゴヌクレオチド、
(vi)切断用オリゴヌクレオチドが配列番号10からなるオリゴヌクレオチドであり、第一のプライマーが配列番号17からなるオリゴヌクレオチド(なお、第一のプライマーはその5’末端にプロモーター配列を有する)であり、第二のプライマーが配列番号23から25より選ばれる一種のオリゴヌクレオチドであり、インターカレーター性蛍光色素標識オリゴヌクレオチドプローブが配列番号30あるいは31からなるオリゴヌクレオチド、
(vii)切断用オリゴヌクレオチドが配列番号11からなるオリゴヌクレオチドであり、第一のプライマーが配列番号18からなるオリゴヌクレオチド(なお、第一のプライマーはその5’末端にプロモーター配列を有する)であり、第二のプライマーが配列番号23から25より選ばれる一種のオリゴヌクレオチドであり、インターカレーター性蛍光色素標識オリゴヌクレオチドプローブが配列番号30あるいは31からなるオリゴヌクレオチド、
があげられる。
【0046】
本発明のサバイビンmRNAの測定方法では、各酵素(1本鎖RNAを鋳型とするRNA依存DNAポリメラーゼ活性を有する酵素(逆転写酵素)、RNaseH活性を有する酵素、1本鎖DNAを鋳型とするDNA依存DNAポリメラーゼ活性を有する酵素、およびRNAポリメラーゼ活性を有する酵素)が必要となる。各酵素は、いくつかの活性を合わせ持つ酵素を使用してもよいし、それぞれの活性を持つ複数の酵素を使用してもよい。また、1本鎖RNAを鋳型とするRNA依存DNAポリメラーゼ活性、RNaseH活性、および1本鎖DNAを鋳型とするDNA依存DNAポリメラーゼ活性の三つの活性を有する逆転写酵素に、RNAポリメラーゼ活性を有する酵素を添加するのみだけでなく、必要に応じてRNaseH活性を有する酵素をさらに添加してもよい。前記逆転写酵素は、分子生物学的実験等で汎用されているAMV逆転写酵素、MMLV逆転写酵素、HIV逆転写酵素、あるいはこれらの誘導体が好ましく、AMV逆転写酵素とその誘導体が最も好ましい。また、前記RNAポリメラーゼ活性を有する酵素としては、分子生物学的実験等で汎用されているバクテリオファージ由来のT7 RNAポリメラーゼ、T3 RNAポリメラーゼ、SP6 RNAポリメラーゼ、およびこれらの誘導体を例示できる。
【0047】
本発明の一態様では、試料中のサバイビンmRNAに前記切断用オリゴヌクレオチドを添加し、前記逆転写酵素のRNase H活性により前記特定塩基配列の5’末端部位で前記RNAを切断する。切断された前記RNAを鋳型として前記第一および第二のプライマーの存在下で前記逆転写酵素による逆転写反応を実施すると、第二のプライマーがサバイビンmRNA内の特定塩基配列に結合し、前記逆転写酵素のRNA依存DNAポリメラーゼ活性によりcDNA合成が行なわれる。得られたRNA−DNA2本鎖は前記逆転写酵素のRNase H活性によってRNA部分が分解され、解離することによって第一のプライマーが前記cDNAに結合する。引き続いて、前記逆転写酵素のDNA依存DNAポリメラーゼ活性により特定塩基配列由来で、かつ5’末端にプロモーター配列を有する2本鎖DNAが生成される。該2本鎖DNAは、プロモーター配列下流に特定塩基配列を含み、前記RNAポリメラーゼにより特定塩基配列に由来するRNA転写産物を生産する。該RNA転写産物は、前記第一および第二のプライマーによる前記2本鎖DNA合成のための鋳型となって、一連の反応が連鎖的に進行し、前記RNA転写産物が増幅されていく。
【0048】
このような連鎖反応を進行させるために、前記各酵素に必須な既知の要素として、少なくとも、緩衝剤、マグネシウム塩、カリウム塩、ヌクレオシド−三リン酸、リボヌクレオシド−三リン酸を含むことはいうまでもない。また、反応効率を調節するための添加剤として、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジチオスレイトール(DTT)、ウシ血清アルブミン(BSA)、糖などを添加してもよい。
【0049】
たとえば、AMV逆転写酵素およびT7 RNAポリメラーゼを用いる場合は35から65℃の範囲で反応温度を設定することが好ましく、40から50℃の範囲で設定することが特に好ましい。前記RNA増幅工程は一定温度で進行し、逆転写酵素およびRNAポリメラーゼが活性を示す任意の温度に反応温度を設定することが可能である。
【0050】
増幅されたRNA転写産物量は、既知の核酸測定法により測定することが可能である。前記測定法としては、電気泳動や液体クロマトグラフィーを用いた方法、検出可能な標識で標識された核酸プローブによるハイブリダイゼーション法などがあげられる。しかし、これらは操作が多工程であり、また増幅産物を系外に取り出して分析するため二次汚染の原因となる増幅産物の環境への飛散の危険性が大きい。これらの課題を克服するためには標的核酸と相補結合することによって蛍光特性が変化するように設計されたオリゴヌクレオチドプローブを用いることが好ましい。該オリゴヌクレオチドプローブとしてモレキュラービーコンといったFRETを利用した既知のプローブを使用することができるが、プローブ設計の容易性やプローブ合成の容易性から、より好ましい方法として、インターカレーター性蛍光色素で標識され、かつ標的核酸と相補的2本鎖を形成するとインターカレーター性蛍光色素部分が前記相補的2本鎖部分にインターカレートすることによって蛍光特性が変化するように設計されたオリゴヌクレオチドプローブの存在下、前記核酸増幅工程を実施し、蛍光特性の変化を測定する方法があげられる(特許文献4および非特許文献4参照)。
【0051】
前記インターカレーター性蛍光色素としては特に限定されないが汎用されているオキサゾールイエロー、チアゾールオレンジ、エチジウムブロマイド、およびこれらの誘導体などが利用できる。前記蛍光特性の変化としては蛍光強度の変化があげられる。たとえばオキサゾールイエローの場合、2本鎖DNAにインターカレートすることによって510nmの蛍光(励起波長490nm)が顕著に増加することが知られている。前記インターカレーター性蛍光色素標識オリゴヌクレオチドプローブは、前記RNA転写産物上の標的RNAに対して相補的なオリゴヌクレオチドで、末端あるいはリン酸ジエステル部あるいは塩基部分に適当なリンカーを介してインターカレーター性蛍光色素が結合され、さらに、3’末端の水酸基からの伸長を防止する目的で該3’末端の水酸基が適当な修飾をなされている構造を有する(特許文献4および非特許文献4参照)。
【0052】
オリゴヌクレオチドへのインターカレーター性蛍光色素の標識は、既知の方法でオリゴヌクレオチドに官能基を導入し、インターカレーター性蛍光色素を結合させることが可能である(特許文献4および非特許文献4参照)。また、前記官能基の導入方法としては、市販されているLabel−ON Reagents(Clontech社製)等を用いても可能である。
【0053】
本発明の一態様として、試料に少なくとも、5’末端にT7プロモーター配列(配列番号34)を有する第一のプライマー、第二のプライマー、インターカレーター性蛍光色素標識オリゴヌクレオチドプローブ、切断用オリゴヌクレオチド、AMV逆転写酵素、T7RNAポリメラーゼ、緩衝剤、マグネシウム塩、カリウム塩、ヌクレオシド−三リン酸、リボヌクレオシド−三リン酸、ジメチルスルホキシド(DMSO)を含む増幅試薬を添加し、反応温度35から65℃(好ましくは40から50℃)の一定温度で反応させると同時に反応液の蛍光強度を経時的に測定する方法を提供する。
【0054】
前記態様においては、蛍光強度を経時的に測定することから有意な蛍光増加が認められた任意の時間で測定を終了することが可能であり、核酸増幅および測定をあわせて通例20分以内で終了することが可能である。
【0055】
本発明の一態様として、前記試料中のサバイビンmRNAを測定し、得られた蛍光強度比の情報と、既知の濃度のサバイビンRNAを測定した際の蛍光強度比の情報を比較することで、試料中に存在した特定塩基配列の量(対象となったRNAコピー数)を算出することが可能である。特定塩基配列の検出は、例えば一定時間上記反応を行なった反応液に対して、特定塩基配列に対して相補的に結合し得る固定化および標識化プローブを用いるサンドイッチアッセイ法を適用することもできるが、前述したように、特定塩基配列に特異的に結合する、インターカレーター性蛍光色素標識オリゴヌクレオチドプローブを使用する方法が好ましい。またこのプローブは前記RNA増幅反応を阻害しないため、その存在下で前記特定核酸配列の増幅を実施して、特定核酸配列の増幅の様子をモニタリングする方法が特に好ましい。なお、インターカレーター性蛍光色素標識オリゴヌクレオチドプローブ共存下で特定核酸配列の増幅を行なう場合には、そのプローブ部分が伸長反応のプライマーとして機能しないように、例えばその3’末端にグリコール酸やビオチンを付加する等するのが好ましい。そして増幅反応中にこのインターカレーター性蛍光色素標識オリゴヌクレオチドプローブが特定核酸配列と結合して発する蛍光信号を蛍光検出器によって測定し、そのプロファイルから得られる情報(例えば蛍光色素が発する蛍光の強度が一定の強度に達するまでに要した反応時間等)を既知量の標準RNAに関するプロファイルから得られる情報と比較することにより、特定核酸配列の存在の有無の確認、または増幅された特定核酸配列の量(RNAコピー数)から試料中に存在した特定核酸配列の量(対象となったRNAコピー数)を推定することができる。
【0056】
また、前記測定試薬に含まれる全ての試料を単一の容器に封入可能な点は特筆すべきである。即ち、一定量の試料をかかる単一容器に分注するという操作さえ実施すれば、その後は自動的にサバイビンmRNAを測定することができる。この容器は、例えば蛍光色素が発する信号を外部から測定可能なように、少なくともその一部分が透明な材料で構成されてさえいればよく、試料を分注した後に密閉することが可能なものはコンタミネーションを防止する上で特に好ましい。
【0057】
前記態様のRNA増幅・測定方法は、一段階、一定温度で実施可能であるため、RT−PCRに比べて簡便で自動化に適した方法であるといえる。本発明によりサバイビンmRNAの高特異性、高感度、迅速、簡便、一定温度かつ一段階の測定が初めて可能となった。
【発明の効果】
【0058】
本発明によれば、比較的低温かつ一定温度(40から50℃、好ましくは43℃)条件下で、サバイビンRNAを1段階の操作で特異的で、かつ迅速・高感度に測定することができる。
【0059】
本発明では、試料中の標的RNA(サバイビン遺伝子のmRNA)をもとにして、DNA依存性RNAポリメラーゼのプロモーター領域を5’末端にもつ2本鎖DNAが合成され、前記DNAを鋳型に多量の1本鎖RNAが生成され、さらに生成された1本鎖RNA量が飛躍的に増大し、インターカレーター性蛍光色素で標識されたオリゴヌクレオチドプローブが、生成した1本鎖RNAと相補結合することにより蛍光増加を測定する工程において、蛍光強度が増加する過程を解析することにより、簡便、かつ迅速に初期RNA量を決定することが可能である。本発明のサバイビンmRNAの測定方法は、核酸増幅および測定の時間が30分以内であり、これは従来技術であるRT−PCR法(通常2時間以上)、NASBA法(90分以上)、およびTMA法(90分以上)による測定よりも迅速である。
【0060】
さらに、1段階操作でサバイビン遺伝子のmRNAを増幅・検出するためのオリゴヌクレオチドを提供すること、すなわちサバイビンmRNAを増幅するためのオリゴヌクレオチド、およびサバイビンmRNAを検出するためオリゴヌクレオチドを提供することで、それを利用した簡便、迅速かつ高感度なサバイビンmRNA発現細胞の測定方法、ならびに測定試薬を生化学・分子生物学・医療分野に提供することができる。
【実施例】
【0061】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、これらは一例であり、本発明はこれら実施例により限定されるものではない。
【0062】
実施例1 標準RNAの調製
後述の実施例で使用したサバイビンRNA(以降、標準RNAと表記)は(1)から(2)に示す方法で行なった。
(1)GenBankに登録されているサバイビンの塩基配列(GenBank Accession No.NM_001012271、2724塩基)のうち、68から1328番目の塩基(1261塩基)の2本鎖DNAをクローニングした。
(2)(1)で調製した2本鎖DNAを鋳型として、インビトロ転写を実施し、引き続きDNaseI処理によりその2本鎖DNAを完全消化した後、RNAを精製して調製した。当該RNAは、260nmにおける吸光度を測定して定量した。
【0063】
実施例2 インターカレーター性蛍光色素標識オリゴヌクレオチドプローブの調製
インターカレーター性蛍光色素で標識されたオリゴヌクレオチドプローブを作製した。配列番号28に記載の配列の5’末端から11番目のC、配列番号29に記載の配列の5’末端から11番目のG、配列番号30に記載の配列の5’末端から11番目のA、配列番号31に記載の配列の5’末端から11番目のA、配列番号32に記載の配列の5’末端から11番目のC、配列番号33に記載の配列の5’末端から11番目のAの位置に、それぞれLabel−ON Reagents(Clontech社製)を用いてアミノ基を導入し、さらに3’末端をビオチンで修飾した。前記アミノ基にインターカレーター性蛍光色素であるオキサゾールイエローを標識し、オキサゾールイエロー標識オリゴヌクレオチドプローブ(配列番号28から33)を調製した(非特許文献5参照)。
【0064】
実施例3 サバイビンRNAの測定(その1)
表1に示す組み合わせのうち組み合わせ[1]から[37]に示す、第一のプライマー、第二のプライマー、インターカレーター性蛍光色素標識オリゴヌクレオチドプローブ(以降INAFプローブと表記)、切断用オリゴヌクレオチドを用いて、(1)から(4)に示す方法で、標準RNAの測定を行なった。なお表1のうち、配列番号12および13は配列番号1の部分配列、配列番号14から18は配列番号2の部分配列、配列番号19から22は配列番号3の部分配列、配列番号20から25は配列番号4の部分配列である。
【0065】
【表1】

【0066】
(1)実施例1で調製した標準RNAをRNA希釈液(10mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)、0.1mM EDTA、0.5U/μL リボヌクレアーゼインヒビター、5.0mM DTT)を用い、10コピー/5μLになるように希釈し、これをRNA試料として使用した。
(2)以下の組成の反応液20μLを0.5mL容PCR用チューブ(Individual PCR tube with dome cap、SSI社製)に分注し、これに前記RNA試料5μLを添加した。
【0067】
反応液の組成(濃度は酵素溶液添加後(30μL中)の最終濃度)
60mM Tris−塩酸緩衝液(pH8.6)
18mM 塩化マグネシウム
100mM 塩化カリウム
1.0mM DTT
各0.25mM dATP,dCTP,dGTP,dTTP
各3.0mM ATP、CTP、UTP、GTP
3.6mM ITP
1.0μM 第一のプライマー(当該プライマーには、各配列番号記載の塩基配列の5’末端にT7プロモーター配列(配列番号34)が付加されている)
1.0μM 第二のプライマー
0.16μM 切断用オリゴヌクレオチド(当該オリゴヌクレオチドの3’末端の水酸基はアミノ基で修飾されている)
20nM INAFプローブ(当該プローブは実施例2で調製したもの)
6.0U リボヌクレアーゼインヒビター(タカラバイオ社製)
13% DMSO
容量調整用蒸留水
(3)上記の反応液を、43℃で5分間保温後、以下の組成で、予め43℃で2分間保温した酵素液5.0μLを添加した。
【0068】
酵素液の組成(反応時(30μL中)の最終濃度)
2.0% ソルビトール
6.4U AMV逆転写酵素(ライフサイエンス社製)
142U T7 RNAポリメラーゼ(インビトロジェン社製)
3.6μg 牛血清アルブミン(タカラバイオ社製)
容量調整用蒸留水
(4)引き続きPCRチューブを直接測定可能な温調機能付き蛍光分光光度計を用い、43℃で反応させると同時に反応溶液の蛍光強度(励起波長470nm、蛍光波長510nm)を経時的に20分間測定した。
【0069】
酵素添加時の時刻を0分として、反応液の蛍光強度比(所定時刻の蛍光強度値÷バックグランドの蛍光強度値)が1.2を超えた場合を陽性判定とし、そのときの時間を検出時間とした結果を表2に示した。なお、表2においてN.D.とは酵素を添加して20分後の蛍光強度比が1.2未満(陰性判定)であった試料を意味する。
【0070】
【表2】

【0071】
表1の組み合わせのうち、
(i)第一のプライマーが配列番号1の部分配列からなり、第二のプライマーが配列番号3の部分配列からなる組み合わせ(組み合わせ[1]から[10])、
および、
(ii)第一のプライマーが配列番号2の部分配列からなり、第二のプライマーが配列番号4の部分配列からなる組み合わせ(組み合わせ[11]から[28])
では、いずれも10コピー/5μLの標準RNAを20分以内に検出した。一方、(i)、(ii)以外の組み合わせ(組み合わせ[29]から[37])では、いずれも陰性判定となった。なお、コントロール試験区(標準RNAの代わりにRNA希釈液を反応液に添加して測定)では反応開始から30分後においても蛍光強度比1.2を超えることはなかった。
【0072】
当該結果より、
(i)第一のプライマーが配列番号1で示された塩基配列中の少なくとも連続した15塩基からなるオリゴヌクレオチドであり、第二のプライマーが配列番号3で示された塩基配列中の少なくとも連続した15塩基からなるオリゴヌクレオチドである組み合わせ、
または、
(ii)第一のプライマーが配列番号2で示された塩基配列中の少なくとも連続した15塩基からなるオリゴヌクレオチドであり、第二のプライマーが配列番号4で示された塩基配列中の少なくとも連続した15塩基からなるオリゴヌクレオチドである組み合わせ、
を用いてRNA増幅反応を行なうことにより、従来技術(非特許文献1から3)であるRT−PCR法によるサバイビンmRNAの検出方法(通常2時間以上)と比較しサバイビンRNAを迅速に検出することが示された。
【0073】
実施例4 サバイビンRNAの測定(その2)
本発明のオリゴヌクレオチドの組み合わせを用いて、さまざまな濃度の標準RNAを測定し、検出時間と初期標準RNA量との関係を確認した。
【0074】
(1)実験方法
オリゴヌクレオチドの組み合わせ、およびRNA試料を下記内容に変更した他は、実施例3と同様の方法で測定した。
【0075】
オリゴヌクレオチドの組み合わせ:
表1に示す組み合わせのうち、組み合わせ[7]、[15]、[17]及び
[38]を使用
RNA試料:
実施例1で調製した標準RNAを、実施例3(1)で使用のRNA希釈液を用い、
組み合わせ[7]では、3×10コピー/5μL、3×10コピー/5μL、
3×10コピー/5μL、および3×10コピー/5μLに希釈したものを、
その他の組み合わせでは、10コピー/5μL、10コピー/5μL、
10コピー/5μL、および10コピー/5μLに希釈したものを使用
(2)実験結果
酵素添加時の時刻を0分として、反応液の蛍光強度比(所定時刻の蛍光強度値÷バックグランドの蛍光強度値)が1.2を超えた場合を陽性判定とし、そのときの時間を検出時間とした結果を表3および4に、表3および4の結果を基に検量線を作成した結果を図1に示す。
【0076】
【表3】

【0077】
【表4】

【0078】
今回検討した全てのオリゴヌクレオチドの組み合わせにおいて、酵素添加後15分以内に測定した全ての濃度の標準RNAを検出した。また、検出時間を縦軸に、初期の標準RNA量(コピー数をlogで表したもの)を横軸にしてプロットしたところ、今回検討した全ての組み合わせにおいて、3×10コピー以下の低コピー領域から検出時間は初期RNA量依存的であり、検量線は線形一次曲線で近似することができた。すなわち、未知試料について、本発明のサバイビンmRNAの測定を行ない、得られた検出時間を図1に示す検量線に当てはめることで、未知試料中に含まれたサバイビンmRNAの量を推測可能であることが示された。
【0079】
実施例5 サバイビンRNAの測定(その3)
本発明のオリゴヌクレオチドの組み合わせを用いて、市販のヒト膀胱癌抽出物を測定し、抽出物中のサバイビンmRNAの定量を行なった。
【0080】
(1)実験方法
オリゴヌクレオチドの組み合わせ、およびRNA試料を下記内容に変更した他は、実施例3と同様の方法で測定した。
【0081】
オリゴヌクレオチドの組み合わせ:
表1に示す組み合わせのうち、組み合わせ[7]、[15]、[17]及び
[38]を使用
RNA試料:
市販のヒト膀胱癌抽出物(FirstChoice Tumor RNA:
Human Bladder Tumor RNA(Ambion社製))を、
実施例3(1)で使用のRNA希釈液を用い、Total RNAの濃度として
0.005ng/5μLから50ng/5μLになるよう希釈したものを使用
(2)実験結果
酵素添加時の時刻を0分として、反応液の蛍光強度比(所定時刻の蛍光強度値÷バックグランドの蛍光強度値)が1.2を超えた場合を陽性判定とし、そのときの時間を検出時間とした結果を表5に、また表5の検出時間と実施例4で得られた検量線を基に各RNA試料中に含まれるサバイビンmRNA量を計算した結果を表6に示す。なお、表5においてN.D.とは酵素を添加して20分後の蛍光強度比が1.2未満(陰性判定)であった試料を意味する。
【0082】
【表5】

【0083】
【表6】

【0084】
検量線から求められた各RNA試料中のサバイビンmRNA量は、使用したTotal RNA量にほぼ比例しており、本発明のサバイビンRNA測定方法が濃度依存的であることを示している。なお、今回検討したオリゴヌクレオチドの組み合わせのうち、組み合わせ[17]が最も低濃度のRNA試料を検出した。
【0085】
実施例6 サバイビンRNA増幅産物の塩基配列解析
実施例5で得られた核酸増幅反応後の試料に含まれる2本鎖DNAの塩基配列解析を実施した。塩基配列解析の結果、いずれのオリゴヌクレオチドの組み合わせを用いて増幅した試料もサバイビンmRNAの増幅が起きたときに相当する塩基配列を確認した。
【0086】
つまり、本発明において測定されているものはサバイビンRNAであり、他の非特異的なRNAは測定していないことを示している。実施例4で使用した市販の抽出物には、サバイビンRNAの他に雑多なRNAが混入しているが、本発明の測定方法はサバイビンmRNAのみを測定しており、非常に特異性が高いといえる。
【0087】
以上より、本発明のサバイビンmRNAの測定方法は、未知試料中に含まれるサバイビンmRNAを特異的に、かつ迅速・高感度に測定可能であり、さらには、検量線を用いることで、定量を行なうことも可能であることが示された。

【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】サバイビンRNAの検量線。縦軸は蛍光強度比が1.2を超えた時間(検出時間、分)であり、横軸は測定に用いた初期の標準RNA量(コピー数)をlogで表したものである。また、各点から求めた線形一次曲線の式およびRの値を記載している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中のサバイビンmRNAの測定方法において、
前記測定方法が、サバイビンmRNA中の特定塩基配列の一部と相同的な配列を有する第一のプライマー、および特定塩基配列の一部と相補的な配列を有する第二のプライマー(ここで第一または第二のプライマーのいずれか一方はその5’末端にRNAポリメラーゼのプロモーター配列が付加されたプライマーである)を用いた、
(1)RNAを鋳型とする、RNA依存性DNAポリメラーゼ活性を有する酵素による特定塩基配列に相補的なcDNAを合成する工程、
(2)リボヌクレアーゼH(RNaseH)活性を有する酵素によるRNA−DNA2本鎖のRNAを分解する工程(1本鎖DNAの生成)、
(3)1本鎖DNAを鋳型とする、DNA依存性DNAポリメラーゼ活性を有する酵素による、特定塩基配列、または特定塩基配列に相補的な配列のRNAを転写可能なプロモーター配列を有する2本鎖DNAを生成する工程、
(4)RNAポリメラーゼ活性を有する酵素による前記2本鎖DNAを鋳型とするRNA転写産物を生成する工程、
(5)該RNA転写産物が、前記(1)の反応におけるcDNA合成の鋳型となることで、連鎖的にRNA転写産物を生成する工程、
(6)前記RNA転写産物量を測定する工程、
からなる測定方法であり、かつ、前記第一および第二のプライマーが、以下のいずれかであることを特徴とする、前記測定方法:
(i)前記第一のプライマーが配列番号1で示された塩基配列中の少なくとも連続した15塩基からなるオリゴヌクレオチドであり、前記第二のプライマーが配列番号3で示された塩基配列中の少なくとも連続した15塩基からなるオリゴヌクレオチド、
(ii)前記第一のプライマーが配列番号2で示された塩基配列中の少なくとも連続した15塩基からなるオリゴヌクレオチドであり、前記第二のプライマーが配列番号4で示された塩基配列中の少なくとも連続した15塩基からなるオリゴヌクレオチド。
【請求項2】
請求項1に記載のサバイビンmRNAの測定方法において、前記第一および第二のプライマーが、以下のいずれかであることを特徴とする、前記測定方法:
(i)前記第一のプライマーが配列番号12あるいは13で示される塩基配列中の少なくとも連続した15塩基からなるオリゴヌクレオチドであり、前記第二のプライマーが配列番号19から22で示されるいずれかの塩基配列中の少なくとも連続した15塩基からなるオリゴヌクレオチド、
(ii)前記第一のプライマーが配列番号14から18で示されるいずれかの塩基配列中の少なくとも連続した15塩基からなるオリゴヌクレオチドであり、前記第二のプライマーが配列番号20から25で示されるいずれかの塩基配列中の少なくとも連続した15塩基からなるオリゴヌクレオチド。
【請求項3】
請求項1あるいは2に記載のサバイビンmRNAの測定方法において、前記(6)の工程(RNA転写産物量を測定する工程)が、標的RNAと相補的な2本鎖を形成すると蛍光特性が変化するように設計された蛍光色素標識オリゴヌクレオチドプローブ共存下で前記蛍光特性の変化を測定することによってなされることを特徴とする、測定方法。
【請求項4】
前記蛍光色素標識オリゴヌクレオチドプローブが、インターカレーター性蛍光色素をリンカーを介して結合させたインターカレーター性蛍光色素標識オリゴヌクレオチドプローブであることを特徴とする、請求項3に記載の測定方法。
【請求項5】
前記インターカレーター性蛍光色素標識オリゴヌクレオチドプローブが配列番号28から31に示されるいずれかの塩基配列中、または当該相補配列中の少なくとも連続した15塩基からなるオリゴヌクレオチドを含むことを特徴とする、請求項4に記載の測定方法。
【請求項6】
請求項1から5に記載のサバイビンmRNAの測定方法において、前記(1)の工程(RNAを鋳型とする、RNA依存性DNAポリメラーゼ活性を有する酵素によって特定塩基配列に相補的なcDNAを合成する工程)の前に、サバイビンmRNA中の特定塩基配列を鋳型とし、
(i)前記特定塩基配列中の、第一のプライマーとの相同領域の5’末端部位と重複した領域、および当該部位から5’側に隣接する領域に対し相補的な配列を有する、切断用オリゴヌクレオチド、
および、
(ii)リボヌクレアーゼH(RNase H)活性を有する酵素
を用いて、前記特定塩基配列の5’末端部位で前記RNAを切断する工程を行なうことを特徴とする、測定方法。
【請求項7】
前記切断用オリゴヌクレオチドが配列番号5から11で示されるいずれかの塩基配列からなるオリゴヌクレオチドであることを特徴とする、請求項6に記載の測定方法。
【請求項8】
サバイビンmRNAを特異的に増幅または検出するためのオリゴヌクレオチドであって、配列番号1から4、または配列番号28から31で示されるいずれかの塩基配列中又は当該相補配列中の、少なくとも連続する15塩基からなるオリゴヌクレオチドを含むことを特徴とする、前記オリゴヌクレオチド。
【請求項9】
請求項8に記載のオリゴヌクレオチドを少なくとも一つ含むことを特徴とする、サバイビンmRNAの測定試薬。

【図1】
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【公開番号】特開2010−88313(P2010−88313A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−259366(P2008−259366)
【出願日】平成20年10月6日(2008.10.6)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】