説明

サルカルディン及びその塩の緩速点滴

組成物は、活性薬剤を含む。前記活性薬剤は、4−メトキシ−N−(3、5−ビス−(1−ピロリジニル)−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼンスルホンアミド又はその薬学的に受容可能な塩である。前記活性薬剤を、対象に対して約15分を越える期間にわたって実質的に均一に静脈内投与する。前記静脈内投与により、前記活性薬剤の高速静脈内又はさらには短期点滴投与で起こり得る全身拡張及び収縮血圧低下を含む不利な血行力学的効果が回避される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連特許出願への相互参照
本出願は、米国仮出願番号第61/261,927号(出願日:2009年11月17日)に対する優先権を主張し、本明細書中、同文献の内容全体を参考のため援用する。
【0002】
本発明は、心不整脈治療の文脈における、4−メトキシ−N−(3、5−ビス−(1−ピロリジニル)−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼンスルホンアミド(サルカルディン;sulcardine)及びその薬学的に受容可能な塩を投与する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
本開示を通じて、多様な公開文献、特許及び公開特許明細書について引用及び言及する。本発明が関連する技術分野を説明するために、これらの公開文献、特許及び公開特許明細書の開示内容全体を参考のため援用する。
【0004】
心不整脈(「不整脈」としても知られる)は、心臓の異常電気活動によって特徴付けられる一連の状態を示す項目である。不整脈の例を挙げると、心室性期外収縮、心室頻拍、心室細動及び上室性頻脈性不整脈(例えば心房細動)がある。例えば、心房細動(AF)は上室性頻脈性不整脈であり、心房興奮の非協調に起因する心房機械機能の劣化によって特徴付けられる。持続性AF及び/又は慢性AFを有する場合、MIを含む血栓塞栓症及び脳卒中及び心不全の危険性が増す。AFが進行する仕組みにおいては、以下の2つの主なプロセスが発生する:すなわち、1つ又はいくつかの高速脱分極焦点における自動能の向上、及び1つ以上の回路を通じたリエントリーである。
【0005】
AFは、医療的ケアを必要とする最も一般的な不整脈であり、米国成人人口に占める有病率は1%に近い(米国における2006年における予測では600万人、米国における2020年までの予測では900万人)。AFの有病率は年齢と共に上昇し、80歳を越えた人口の有病率は8%となっている。米国及び欧州の人口動態の高齢化と共に、AFも、さらに一般的な心疾患となる。患者におけるAFの再発性発作は、平均で50%/年となっている。そのため、AFはヘルスケアシステムにおいて大きな負担となっており、米国における1件あたりの平均コストは$3600/年となっている。
【0006】
AFを有する場合、例えば、息切れ、胸部不快感又は胸部の痛み、及び運動不耐性を含む、生活の質へ悪影響を与える症状が発生する。患者のAF罹病歴が長くなるほど、心房中の血栓形成リスクも高まり、その結果、血栓塞栓性脳卒中リスクも高まり、その結果、長期抗凝固療法が必要となる。米国における全ての脳卒中症例のうち大部分が、持続性AF又は慢性AFに続発していると考えられている。AF患者においてかなりの高確率で発生する他の深刻な心血管事故を挙げると、心不全及び心筋梗塞(MI)がある。
【0007】
AF治療では、持続性AF及び慢性AFにおいて、主に電気的除細動及び抗凝固剤が用いられている。急性症候性AF又は発作性AFの患者の電気的除細動は、抗不整脈薬(AAD)又は電気的除細動の利用によって達成することができ、これにより洞律動(SR)が回復する。あるいは、医師が房室結節伝導を遅延させる薬剤を用いて拍動数を制御して、AF患者の心室拍動数を制御する場合もある。
【0008】
調律制御は患者拍動数制御よりも優れているのかについて、現在も大きな議論が行われているが、多くのオピニオンリーダーの意見によれば、患者がSRで、抗凝固が不要な方が好ましいとされている。いずれかのアプローチを用いた場合による重篤な心臓血管(CV)の結果又は死亡についての調査研究は、現時点では結論が出ていない。除細動(defibrillation)による電気的除細動は大がかりな作業であり、また、先ず麻酔専門医の下で患者を鎮静させる必要もあり、また、筋肉痛及び皮膚火傷も高確率で発生する。抗不整脈薬は、作用機序に基づいて複数のクラスの薬理学的分類に分類される。以下のような5種類のAADクラスが認識されている。
クラスI:ナトリウムチャネルブロッカー
クラスII:ベータブロッカー
クラスIII:カリウムチャネルブロッカー
クラスIV:カルシウムチャネルブロッカー
クラスV:その他(アデノシン、ジゴキシンなど)
【0009】
現時点においては、新規抗AF剤が開発されいるものの、薬理学的除細動は一般的になっていない。なぜならば、薬理学的除細動の場合、有効率が低く、薬剤に起因する心室性不整脈(TdeP)、心室頻拍、又は現在利用可能な薬剤と関連する他の重篤な不整脈の危険性があるからである。また、薬理学的除細動は電気的除細動よりも有効性が低いため、除細動は、不応性急性心房細動の治療において主に用いられている。
【0010】
プロポフェノン(propofenone)、フレカイニド(flecanide)及びイブタリド(ibutalide)などの最も普及している薬剤の場合、TdePを誘発する危険性があるため、これらの薬剤のうちほとんどは、虚血性心疾患、心筋梗塞の既往、及びQT延長症候群のいずれかに罹患している、及びそのいずれかの病歴がある患者には推奨されない。これらの薬剤のうち複数のもの、例えば、ソルタロル(sotalol)、フレカイニド、プロポフェノン及びドロナダロン(dronadarone)は、心臓収縮性に悪影響も与えるため、心臓収縮に起因する心不全の原因となる。最も一般的な重度有害事象として、催不整脈作用がある。催不整脈作用は一般的にはヒト遅延整流性カリウムイオンチャネル遺伝子(hERG)符号化カリウムチャネルIKrの封鎖と関連し、その結果、QT間隔延長が発生し、これに相応して致死的心室不整脈TdePが発生する。特に、IKrに対する阻害活性を持たないナトリウムチャネルブロッカーも、活動電位持続時間を長期化させることが可能であるため、催不整脈性が高い場合があり(フレカイニド)、その場合、Caオーバーロードが顕著となり、リエントリー調律が誘発される。
【0011】
ナトリウムチャネルブロッカー(クラスI)、カルシウムチャネルブロッカー(クラスIV)、及びベータブロッカー(クラスII)、並びにジゴキシン及びアデノシン(クラスV)などの抗不整脈剤は、全て一定の抗AF特性を有しているものの、クラスIIIの抗不整脈剤は全てカリウムチャネル阻害剤であり、医療専門家による最近の合意によれば、混合チャネルブロッカーが安全性において有利であり且つ心房不整脈において有効であることが認識されているため、抗AF用途として混合チャネルブロッカーが好ましい。急性AF、持続性AF及び発作性AFが再発した場合、最終的には慢性AFに繋がり、心房組織において電気的リモデリングが発生する。これは、適応反応であり、異なる心房からの相対的貢献により、イオンチャネルが変化する。このようなチャネルトラフィッキングの変化は、活動電位(AP)持続時間の短縮によって示され、このような活動電位(AP)持続時間の短縮は、超高速カリウム電流IKur、一過性外向きカリウム電流Ito、及びムスカリン性アセチルコリンカリウム電流IKAchからの比較的高い貢献によって発生し、また、遅延整流カリウム電流及びカルシウム電流による影響の低下によっても発生する。遅延整流カリウム電流は、2つの構成成分からなる:すなわち、高速[IKr]及び低速[IKs]である。慢性AFは、医学的介入による治療が困難であり、これらの患者におけるSRの維持は極めて困難であり、そのため、AFからまたAFが発生する状態となっている。
【0012】
カリウムチャネルを標的とする現在利用可能なAADの場合、後期フェーズ3再分極電流IKr及びIKsをブロックする傾向があるため、慢性AFによってフェーズ3が短くなるため、AF時における有効性が低い場合がある。しかし、この仮説はまだ確証されていない。心室中の同じイオンチャネルを標的とする現在利用可能なAADの場合、QT間隔が長くなることがあり、その結果、TdePの危険性が高まる。心房特有のチャネル(IKur、Ito、IKAch)に対して選択性のあるAADの場合、AF電気的リモデリングの後により高い活性を示し、これらの心房選択性チャネルのうち少なくとも1つ(IKAch)のダウンレギュレーションが持続性/慢性AFに関して報告されているが、心室催不整脈性の危険性を最小限に抑えつつ有効な調律制御が得られ得る。
【0013】
サルカルディン、4−メトキシ−N−(3、5−ビス−(1−ピロリジニル)−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼンスルホンアミド、及びその塩(例えば、サルカルディン硫酸エステル)は、有効な抗不整脈活性を有する新規の化学物質の一群を構成する。サルカルディンは、マルチイオン(高速及び低速Na、L−Ca、及びKIto)のチャネルブロッカーであり、置換スルホンアミドクラスの抗不整脈のおそらく唯一の例である。サルカルディン塩は、上室性頻脈性不整脈、心室性期外収縮、心室頻拍及び心室細動を含む不整脈の治療のために静脈注射又は経口投与を介して用いることができる。
【0014】
加えて、今日までの証拠により、サルカルディン及び塩の1つの利点として、MI後突然死覚醒イヌモデル及び有効ウサギ心室ウェッジモデルを含む厳密な前臨床安全性モデルにおいて実証されているような、顕著な催不整脈性活性が無い点があることが分かっている。さらに、サルカルディン及び塩の場合、MI後イヌモデルにおいて、フレカイニドにおいて見られたような除細動閾値の上昇がみられず、除細動失敗の危険性も高くならないことも分かっている。これらのデータに基づけば、サルカルディン及び塩は、明らかに催不整脈性が極めて低いため、器質的心疾患、長期QR症候群、及び心室不整脈(例えば、心室性期外収縮(PVC)、心室頻拍(VT)、及び心室細動(VF))の存在における急性心房細動及び再発性心房細動の治療に用いることができ、また、静脈内投与及び経口投与に適した製剤設計にすることが可能であるため、急性投与設定又は慢性投与設定のいずれかにおいて用いることが可能である。
【発明の概要】
【0015】
サルカルディン硫酸エステルの高速静脈内投与又はさらに短期点滴投与を行った場合、全身の心臓拡張及び収縮による血圧低下が発生し、代償性頻脈がみられ、当該薬剤を経口投与した前臨床モデル又はヒトにみられない血行力学的効果がみられ、イヌにおけるこの血圧低下効果は、全体的にではなくとも部分的にヒスタミン放出に起因する。これは実験によって示されており、この実験において、サルカルディン硫酸エステルのIV投与前に抗ヒスタミン、ジフェンヒドラミンの投与を行った場合、ヒスタミン放出による皮膚症状(顔面紅潮及び顔面及び耳部の浮腫)の一定鈍化が可能であったが、投与時における血圧低下の逆転は部分的にしかみられなかった。他の動物モデル(霊長類、ミニ豚)においても、サルカルディン硫酸エステルの静脈内投与時において血圧低下がみられた(データは図示せず)が、血流中へのヒスタミン放出は検出されず、これにより、サルカルディン硫酸エステルの高速IV投与に起因する血圧低下はアレルギー反応無しで発生し、血管平滑筋中のCaイオンチャネルを遮断する当該薬剤による効果と関連する可能性が高いことがさらに支持された。
【0016】
心筋梗塞によって突然死したイヌのモデルにより、薬剤点滴速度はこの血圧低下反応に反比例し、また、15分間を越える範囲において点滴速度を遅くした場合、イヌへのIV投与後の血圧低下が回避できることが分かった。これらのデータは、これらの副作用が、投与期間直後にみられるサルカルディン硫酸エステルの高血漿濃度に関連することを示す。
【0017】
AF治療における薬理学的治療の目的は、高速電気的除細動を正常洞律動に誘導するために治療しているのは急性AF又は発作性AFか、又は薬剤の長期投与によるAF再発の回避が目的かによって異なる。頻繁な再発歴が無い急性AF又は発作性AFの患者における目的は、典型的には薬剤を単一投与又は限定された投与回数で投与することで、現在AFエピソードを示している患者の薬理学的電気的除細動を迅速に誘導することである。あるいは、再発性AFエピソードの回避には長期予防治療が必要になる。
【0018】
急性AF又は発作性AFの治療において電気的除細動を迅速に誘導するために、サルカルディン及びその薬学的に受容可能な塩の有効性はピーク血漿濃度の関数であるため、電気的除細動によって正常洞律動を得るための時間を得るために、高血漿レベルを、例えば数分間〜1時間未満の最短期間にわたって維持する必要があり、この期間後は、患者は、薬剤による血漿レベル治療の必要無く、正常洞律動状態にあるはずである(ただし、他に引き金となる事象に起因して将来において不整脈が再発した場合を除く)。AFエピソードの既往症が無い又はほとんど無い患者の場合、再発リスクは低く、そのため、電気的除細動後の継続的薬剤治療は適応されない。急性AF又は発作性AF適応の場合、数日間から数ヶ月間から数年間にわたってAF再発を一度に防ぐために、薬剤の血中濃度(血漿−時間曲線下における一定薬剤濃度領域)を長期間一定に保つ必要は無い。このような臨床的状況における薬剤の使用は、心臓を正常洞律動に迅速に戻すための電気的除細動の利用と類似している。
【0019】
また、持続性AF又は頻発性再発AFの患者の治療におけるサルカルディン及びその薬学的に受容可能な塩の有効性は、ピーク血漿濃度曲線ではなく、血漿−時間曲線下の領域の関数であることも分かっている。AF既往及び頻繁なAF再発のある患者の場合、上述した急性コホートの再発リスクがずっと高い。頻発性又は長期(慢性)のAFエピソードを経た後の心房は、リモデルするようであり、その結果、患者において将来の事象が発生する危険性が増す。すなわち、臨床医が言うように、AFによって次のAFが発生する。
【0020】
このような慢性AF患者における再発性AFを防ぐためには、高血漿濃度に関連する有害事象の危険性を最小化しつつ最小限に薬理学的に活性な濃度を上回るレベルで血中濃度を維持できる範囲内において、薬剤濃度ピーク及びトラフ濃度を投与期間にわたって維持する必要がある。そのため、急性/発作性AF及び再発性AF双方の治療において、例えば放出製剤設計の制御又はゆっくりとした静脈内点滴による長期間にわたる活性薬剤投与を行う必要がある。急性AF/発作性AFのための医療設定における目的は、数分間〜1又は2時間にわたって高い血中濃度を達成することで、心臓が薬剤治療に反応して正常洞律動へと戻ることが可能なだけの十分な時間をとることである。高速IV押圧による薬剤投与の代わりにこのように薬剤投与を連続的な短期間の点滴で行うことで、電気的除細動が得られるだけの十分な期間にわたって高い血中濃度を達成しつつ、血漿濃度ピークが鈍化し、血圧低下の危険性が最小になる。
【0021】
よって、本発明の一局面によれば、活性薬剤を含んだ組成物を投与する方法が提供される。前記活性薬剤は、4−メトキシ−N−(3、5−ビス−(1−ピロリジニル)−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼンスルホンアミド(サルカルディン)又はその薬学的に受容可能な塩である。本発明による方法は、前記組成物を対象に対して実質的に均一に且つ約15分を越える期間にわたって静脈内投与する工程を含む。前記期間は、約30分〜約180分、約30分〜約120分、約30分〜約60分、又は約45分であり得る。
【0022】
本発明はまた、対象に対し、活性薬剤を含む組成物を実質的に均一に投与することを企図する。前記活性薬剤は、4−メトキシ−N−(3、5−ビス−(1−ピロリジニル)−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼンスルホンアミド(サルカルディン)又はその薬学的に受容可能な塩である。このようにして、本発明によれば、約0.1mg/kg未満、約0.2mg/kg未満、約0.3mg/kg未満、約0.4mg/kg未満、約0.5mg/kg未満、約0.6mg/kg未満、約0.7mg/kg未満、約0.8mg/kg未満、約0.9mg/kg未満、又は約1mg/kg未満の前記活性薬剤を毎分毎に前記対象へと投与する。
【0023】
また、これらの投与方法によって不整脈を治療する方法も提供される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1は、突然死モデルの麻酔犬にサルカルディン硫酸エステルを45分間静脈内点滴投与した場合の血行力学的効果を示す。X軸上の時間は、45分間の薬剤点滴完了後の時間を示す。[発明の詳細な説明]
【0025】
本出願全体において、本発明による化合物、組成物及び方法の多様な実施形態について以下の記載で説明する。記載される多様な実施形態は、ひとえに例示的なものであり、代替的種類を記載しているものとして解釈されるべきではない。すなわち、本明細書中の記載は、範囲が重複している場合がある。以下に記載される実施形態は、ひとえに例示的なものであり、本発明の範囲を制限することを意図していない。
【0026】
I.定義
他に明記されていない限り、本記載において用いられる用語及び表現の定義は以下の通りである。
【0027】
本記載において、「治療」とは、予防目的及び/又は治療目的のための薬学組成物又は薬剤の投与を指す。「治療法」とは、不整脈などの病態に罹患している患者への治療付与を指す。よって、好適な実施形態において、治療とは、治療的に有効な量の抗不整脈剤の哺乳類への投与を指す。
【0028】
治療「対象」とは、原核細胞又は真核細胞、組織培養物、組織又は動物(例えば、ヒトを含む哺乳類)を指す。ヒト以外の動物の治療対象を挙げると、例えば、サル、ネズミ、イヌ、ウサギ科(例えばウサギ)、家畜、競技用動物及びペットがある。
【0029】
本明細書中で用いられる「抗不整脈剤」という用語は、対象内における不整脈の治療又は関連症状の軽減の治療効果を有する分子を指す。不整脈の非限定的例を挙げると、上室性頻脈性不整脈、心室性期外収縮、心室頻拍、及び心室細動がある。一局面において、抗不整脈剤は、4−メトキシ−N−(3、5−ビス−(1−ピロリジニル)−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼンスルホンアミド(サルカルディン)又はその薬学的に受容可能な塩である。別の局面において、抗不整脈剤は、サルカルディン硫酸エステルである。
【0030】
本発明によれば、サルカルディン、4−メトキシ−N−(3、5−ビス−(1−ピロリジニル)−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼンスルホンアミドの薬学的に受容可能な塩は、不整脈の治療において有用な製剤設計における活性薬剤であり得る。このようなサルカルディン塩の例を以下に挙げる:(A)無機酸塩(例えば、酢酸、ホウ酸塩、重炭酸塩、硫酸エステル、塩酸塩、臭化物、塩化物、ヨウ化物、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、硝酸エステル、リン酸塩、二リン酸塩、及びフルオロリン酸塩)、(B)有機酸塩(例えば、アムソナート(4、4−ジアミノスチルベン−2、2−二硫酸塩)、酸性酒石酸塩、酪酸塩、クエン酸塩、エデト酸カルシウム、カンシル酸、エジシル酸塩、エストレート、エシレート、グルタマート、グルコネート、グルセプテート、乳酸塩、ラクトビオン酸、ラウリン酸塩、リンゴ酸塩、マレイン酸エステル、マンデル酸、臭化メチル、硝酸メチル、硫酸メチル、ムチン酸、オレイン酸塩、シュウ酸塩、パルミチン酸塩、パモ酸(1、1−メテン−ビス−2−ヒドロキシ−3−ナフトエ酸、エインボネート)、パモ酸、パントテン酸塩、サリチル酸塩、ステアリン酸塩、塩基性酢酸塩、コハク酸エステル、硫酸エステル、スルホサリチル酸、スラマート、プロピオン酸塩、吉草酸塩、フマル酸塩、フマル酸エステル、及び酒石酸塩、並びに(C)アルカリ金属塩及びアルカリ土類塩(例えば、サルカルディンのナトリウム、カリウム、リチウム及びカルシウム塩)。この文脈において、薬学的に受容可能な塩は、1つよりも多くの荷電原子、よって1つ以上の対イオンをその構造内に有し得る。
【0031】
「有効な量」、「治療的に有効な量」、及び「薬学的に有効な量」という表現は、治療効果をもたらす活性薬剤(本開示中の抗不整脈剤)の量を示す。治療において有用な活性薬剤の投与量が、治療的に有効な量である。よって、治療的に有効な量とは、臨床試験結果及び/又はモデル動物研究によって判明した所望の治療効果が得られる活性薬剤量である。特定の実施形態において、前記活性薬剤は、所定の投与量だけ投与される。よって、治療的に有効な量とは、投与された量である。この量及び抗不整脈剤量は、規定通りに従来の方法によって決定することができ、異なる要素(例えば、関連する特定の不整脈事象)の関数として変化する。この量は、患者の身長、体重、性別、年齢及び病歴に応じても異なり得る。
【0032】
「キャリア」又は「賦形剤」とは、例えば化合物の投与を促進するために(例えば、化合物の放出及び/又はバイオアベイラビリティを制御するために)用いられる化合物又は材料である。固形キャリアを挙げると、例えば、でんぷん、乳糖、第二リン酸カルシウム、スクロース、及びカオリンがある。液体キャリアを挙げると、例えば、滅菌水、生理食塩水、緩衝液、非イオン界面活性剤、及び食用油(例えば、油、ピーナツ油及びごま油)がある。加えて、当該分野において一般的に用いられている多様なアジュバントも用いることが可能である。上記及び他のこのような化合物について、例えば、以下の文献に記載がある:Merck
Index,Merck&Company,Rahway,N.J。薬学組成物中の多様な構成要素の含有についての検討について、例えば以下の文献に記載がある:Gilman et al.(Eds.)(1990);Goodman and Gilman’s:The Pharmacological Basis of THERAPEUTICS,8thEd.,Pergamon Press。
【0033】
「薬学的に受容可能なキャリア」及び「薬学的に受容可能な賦形剤」という表現は、任意且つ全ての溶媒、分散媒、コーティング、等張剤及び吸収遅延剤などを指す。薬学的に活性の物質に対するこのような媒体及び薬剤の使用は、当該分野において周知である。任意の従来の媒体又は薬剤が当該活性成分と適合しない場合を除いて、当該媒体又は薬剤の治療組成物中での使用が企図される。補助活性成分を組成物中に含めてもよい。適切な薬学的に受容可能な賦形剤を非限定的に挙げると、緩衝液、希釈剤、等張化剤、安定剤、抗酸化剤、防腐剤及びこれらの混合物がある。
【0034】
「緩衝液」という用語は、薬学的に受容可能な賦形剤を指し、薬学調製物のpHを安定させる。適切な緩衝液は当該分野において周知であり、文献にも記載されている。薬学的に受容可能な緩衝液の内容物を非限定的に挙げると、グリシン緩衝液、ヒスチジン緩衝液、クエン酸塩緩衝液、コハク酸エステル緩衝液及びリン酸塩緩衝液がある。用いられる緩衝液から独立したpHの調製範囲として、約2〜約9の範囲あるいは約2.5〜約7の範囲、あるいは約3〜約4の範囲あるいは約3の当該分野において公知の酸又は塩基(例えば、コハク酸、塩酸、酢酸、リン酸、硫酸及びクエン酸、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウム)がある。適切な緩衝液を非限定的に挙げると、グリシン緩衝液、ヒスチジン緩衝液、2モルホリノエタンスルホン酸(MES)、カコジル酸塩、リン酸塩、酢酸、コハク酸エステル、及びクエン酸塩がある。一局面において、前記緩衝液はグリシン緩衝液である。別の局面において、前記緩衝液はヒスチン緩衝液である。前記緩衝液の濃度は、約1mM〜約100mM、あるいは約2mM〜約40mM、あるいは約5mM〜約20mMであり得る。
【0035】
「希釈剤」、「フィラー」、「賦形剤」及び「薄め液」とは、活性薬剤と共に錠剤又はカプセルに付加される不活性成分である。希釈剤は、結合剤、(消化器系内における錠剤の崩壊を支援する)崩壊剤、又は調味料として用いられ得る。一局面において、希釈剤は固体である(例えば、でんぷん、セルロース誘導体、及びステアリン酸マグネシウム)。別の局面において、希釈剤は、液体(例えば、水、生理食塩水、及びブドウ糖液(例えば5%))である。
【0036】
「等張化剤」という表現は、製剤設計の等張性を調整するために用いられる、薬学的に受容可能な薬剤のカテゴリを指す。等張性とは、一般的には、溶液に対する(通常はヒト血清に対する)浸透圧を指す。製剤設計は、低張、等張又は高張であり得る。一局面において、製剤設計は等張である。等張製剤設計は、液体又は固体形態(例えば、凍結乾燥形態)から再構築された液体であり、比較相手としての他の溶液(例えば、生理食塩水及び血清)と同じ等張性を有する溶液を指す。適切な等張剤を非限定的に挙げると、塩化ナトリウム、塩化カリウム、マンニトール、スクロース、グリセリン及び本明細書中に定義されるようなアミノ酸、糖類の群からの任意の構成要素、並びにこれらの組み合わせがある。いくつかの実施形態において、マンニトールの濃度は約1%〜約20%(w/v%)であるか、あるいは約2%〜約10%であるか、あるいは約2.5%〜約5%である。一局面において、マンニトールの濃度は約3%である。
【0037】
「安定剤」という用語は、薬学的に受容可能な賦形剤であり、製造時、保管時及び使用時における活性薬学成分及び/又は製剤設計の化学的劣化及び/又は物理的劣化を保護する。安定剤を非限定的に挙げると、糖類、アミノ酸、ポリオール、界面活性剤、抗酸化剤、防腐剤、シクロデキストリン(例えば、ヒドロキシプロピルβシクロデキストリン、スルホブチルエチルβシクロデキストリン、βシクロデキストリン)、ポリエチレングリコール(例えば、PEG3000、3350、4000、6000)、アルブミン(例えば、ヒト血清アルブミン(HSA)、ウシ血清アルブミン(BSA)、塩(例えば、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、キレート剤(例えば、EDTA))がある。一局面において、安定剤は、亜硫酸ナトリウム、重硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、アスコルビン酸、塩化ナトリウム、EDTA、ブドウ糖、ソルビトール、ポリエチレングリコール(PEG)、グリセロール及びこれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0038】
本文脈において、「界面活性剤」という用語は、両親媒性構造を有する、薬学的に受容可能な有機物質を指す。すなわち、「界面活性剤」は、複数の対照的な溶解度傾向(典型的には、油溶性の炭化水素鎖及び水溶性のイオン基)を含む。界面活性剤は、表面活性部分の荷電に応じて、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤及び非イオン界面活性剤に分類することができる。界面活性剤は、多様な薬学組成物及び生体物質の調製湿潤剤、乳化剤、可溶化剤及び分散剤として用いられることが多い。本明細書中に記載の薬学製剤設計のいくつかの実施形態において、界面活性剤の量は、重量/体積パーセント(w/v%)によって表される。適切な薬学的に受容可能な界面活性剤を非限定的に挙げると、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(Tween)のグループ、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(Brij)、アルキルフェニルポリオキシエチレンエーテル(Triton-X)、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン共重合体(Poloxamer、Pluronic)、又はドデシル硫酸ナトリウム(SDS)がある。ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルは、ポリソルベート20、(Tween20(登録商標)の名称で販売)及びポリソルベート80(Tween80(登録商標)の名称で販売)を含む。ポリエチレンポリプロピレン共重合体を挙げると、Pluronic(コピーライト)F68又はPoloxamer188(登録商標)の名称で販売されているものがある。ポリオキシエチレンアルキルエーテルを挙げると、Brij(登録商標)の名称で販売されているものがある。アルキルフェノールポリオキシエチレンエーテルを挙げると、Triton−X(登録商標)の名称で販売されているものがある。ポリソルベート20(Tween20(登録商標))及びポリソルベート80(Tween80(登録商標))。
【0039】
「抗酸化剤」とは、他の分子の酸化を遅延又は回避することが可能な分子を指す。酸化とは、物質からの電子を酸化剤へと移動させる化学反応である。酸化反応により発生した遊離基により開始した連鎖反応により、製品治療が不安定化し、最終的には製品活性に影響する。抗酸化剤は、遊離基中間体を除去することによりこれらの連鎖反応を終了させ、自身を酸化させることにより、他の酸化反応を抑制する。その結果、抗酸化剤は、往々にして還元剤、キレート剤及び脱酸素剤(例えば、チオール、アスコルビン酸又はポリフェノール)となる。抗酸化剤の非限定的例を挙げると、アスコルビン酸(AA、E300)、チオ硫酸塩、メチオニン、トコフェロール(E306)、没食子酸プロピル(PG、E310)、三級ブチルヒドロキノン(TBHQ)、ブチルヒドロキシアニゾール(BHA、E320)及びブチル化ヒドロキシトルエン(BHT、E321)がある。
【0040】
「防腐剤」とは、微生物増殖又は望ましくない化学的変化による分解を回避するための天然化学物質又は合成化学物質であり、製品(例えば、食物、医薬品、塗料、生体サンプル、木材、)などに添加される。防腐剤添加物は、単独で用いることもできるし、あるいは、他の保存方法と併用してもよい。防腐剤は、バクテリア及び菌類の増殖を抑制する抗菌防腐剤であってもよいし、あるいは、構成要素の酸化を抑制する抗酸化剤(例えば、酸素吸収剤)であってもよい。一般的な抗菌防腐剤を挙げると、塩化ベンザルコニウム、安息香酸、クロルヘキシジン、グリセリン、フェノール、ソルビン酸カリウム、チメロサール、亜硫酸塩(二酸化硫黄、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸水素カリウムなど)、及び2ナトリウムEDTAがある。
【0041】
II.低速静脈内点滴
本発明に関連して、サルカルディン硫酸エステルの高速静脈内点滴投与又はさらには短期点滴投与を行った場合、全身拡張及び収縮血圧低下が発生し、代償性頻脈とみなされるものとして、前臨床モデル又は当該薬剤を経口投与したヒトにおいてはみられなかった血行力学的効果が得られたことは予想外であった。さらに、イヌの場合において、この血圧低下効果は、全体的にではなくとも部分的にヒスタミン放出に起因する。これは実験によって示されており、この実験において、サルカルディン硫酸エステルのIV投与前に抗ヒスタミン(ジフェンヒドラミン)の投与を行った場合、ヒスタミン放出による皮膚症状(顔面紅潮並びに顔面及び耳部の浮腫)の一定鈍化が可能であったが、投与時における血圧低下の逆転は部分的にしかみられなかった。他の動物モデル(霊長類、ミニ豚)においても、サルカルディン硫酸エステルの静脈内投与時において血圧低下がみられた(データは図示せず)が、血流中へのヒスタミン放出は検出されず、これにより、サルカルディン硫酸エステルの高速IV投与に起因する血圧低下はアレルギー反応無しで発生し、血管平滑筋中のCaイオンチャネルを遮断する当該薬剤による効果と関連する可能性が高いことがさらに支持された。
【0042】
心筋梗塞によって突然死したイヌのモデルにより、薬剤点滴速度はこの血圧低下反応に反比例し、また、15分間を越える範囲(例えば45分以上)において点滴速度を遅くした場合、イヌへのIV投与後の血圧低下が完全に回避できることが分かった。これらのデータは、これらの副作用が、投与後にみられるサルカルディン硫酸エステルの高血漿濃度に関連することを示す。
【0043】
また、サルカルディン及びその薬学的に受容可能な塩の有効性は、ピーク血漿濃度と関連する信号変換トリガーイベントに起因するのではなく、血漿−時間曲線下の領域に関連することも分かった。そのため、サルカルディン又はその薬学的に受容可能な塩のうちの1つの低速投与を行うことで、最大血漿濃度を低下させることができ、その結果、有効性を維持しつつ副作用の低減又は回避を行うことが可能となる。
【0044】
よって、本発明は、対象に対して活性薬剤を含んだ組成物を投与する方法を提供する。前記活性薬剤は、4−メトキシ−N−(3、5−ビス−(1−ピロリジニル)−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼンスルホンアミド(サルカルディン)又はその薬学的に受容可能な塩である。前記方法は、前記対象に対して前記組成物を実質的に均一に且つ約15分を越える期間にわたって静脈内投与することを含む。前記期間は、約30分〜約180分、約30分〜約120分、約30分〜約60分、又は約45分であり得る。
【0045】
「実質的に均一に」とは、投与期間中において対象に対して同様の量の活性薬剤を単位時間あたりに投与することを指す。一局面において、投与期間中に1分あたりに投与される活性薬剤の最大量は、毎分あたりに投与される活性薬剤の平均量の約100%を越えない。あるいは、この数値は、毎分あたりに投与される平均量の約75%又は約50%であってもよい。別の局面において、投与期間において毎分あたりに投与される活性薬剤の最小量は、毎分あたりに投与される活性薬剤の平均量の約50%を下回らず、約65%を下回らず、又は約75%を下回らない。さらに別の局面において、投与期間において毎分あたりに投与される活性薬剤の量は、平均値及び標準偏差によって特徴付けられ、後者は平均の約100%を越えず、平均の約75%を越えず、又は平均の約50%を越えない。本発明によれば、さらに、別の投与期間において、高速点滴を必要とすることなく点滴を大幅に制限してもよいし、あるいは、一定期間にわたって停止してもよい。
【0046】
また、対象に対して活性薬剤を含んだ組成物を投与する方法も提供される。前記活性薬剤は、4−メトキシ−N−(3、5−ビス−(1−ピロリジニル)−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼンスルホンアミド(サルカルディン)又はその薬学的に受容可能な塩である。前記方法は、前記対象に対して前記組成物を静脈内投与することを含む。この工程においては、約0.1mg/kg未満、約0.2mg/kg未満、約0.3mg/kg未満、約0.4mg/kg未満、約0.5mg/kg未満、約0.6mg/kg未満、約0.7mg/kg未満、約0.8mg/kg未満、約0.9mg/kg未満、あるいは約1mg/kg未満の前記活性薬剤を毎分あたりに前記対象に投与する。
【0047】
本発明の上記実施形態の一局面において、前記投与される活性薬剤の量は、約90mg/kgよりも低いか、あるいは約80mg/kg、約70mg/kg、約60mg/kg、約50mg/kg、約40mg/kg、約30mg/kg、約20mg/kg、約10mg/kg、約9mg/kg、約8mg/kg、約7mg/kg、約6mg/kg、約5mg/kg、約4mg/kg、約3mg/kg、約2mg/kg、約1mg/kg、約0.7mg/kg、約0.5mg/kg、約0.3mg/kg、約0.2mg/kg又は0.1mg/kgよりも低い。別の局面において、前記投与される活性薬剤の量は、約0.1mg/kg〜約90mg/kg、約0.5mg/kg〜約80mg/kg、約1mg/kg〜約70mg/kg、約3mg/kg〜約30mg/kg、あるいは約10mg/kg〜約30mg/kgである。
【0048】
前記投与される活性薬剤の量は、前記対象の特性(例を非限定的に挙げると、前記対象の種、性別及び年齢)に部分的に依存する。例えば種間における投与量の変換を行うための多様な数学アルゴリズムについて、例えば以下の文献に記載がある:GUIDANCE OF INDUSTRY−ESTIMATING THE MAXIMUM SAFE STARTING DOSE IN INITIAL CLINICAL TRIALS FOR THERAPEUTICS IN ADULT HEALTHY VOLUNTEERS,U.S.Department of Health and Human Services,Food and Drug Administration,Center for Drug Evaluation and Research (July
2005)、(www.fda.gov/Drugs/GuidanceComplianceRegulatoryInformation/Guidances/ucm065014.htm)。よって、イヌに対する前記活性薬剤の1mg/kgでの投与は、ヒトに対する約0.54mg/kgでの投与に相当し、イヌに対する前記活性薬剤の0.3mg/kgでの投与は、ヒトに対する約0.16mg/kgでの投与に相当する。
【0049】
上記したように、本発明の製剤設計の活性薬剤は、サルカルディン、4−メトキシ−N−(3、5−ビス−(1−ピロリジニル)−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼンスルホンアミドの薬学的に受容可能な塩であり得る。以下、このような塩の調製について、反応化学を用いて説明する。
【0050】
1.サルカルディンと有機酸又は無機酸との反応 アミン(例えば第3アミンRN)が強無機酸(例えば、塩酸、臭化水素酸又はヨウ化水素酸)と反応すると、対応するアンモニウム塩RNH(XはCl、Br、又はI)が発生する。一般的に、この反応を行う手順を述べると、先ずアミンを水性溶媒中に溶解させた後、僅かに過剰な強酸を前記アミンに付加する。典型的プロトコルにおいては、サルカルディンを水性溶媒又は水性−アルコール性溶媒中に溶解させた後、フラスコを氷浴中に入れて冷却する。この冷却攪拌溶液に対し、僅かに過剰な強酸を滴下する。前記酸の付加後、反応混合物を室温にし、濃縮させ、対応する塩を沈殿させ、その後この塩をフィルタリングにより分離する。約1.1当量の強酸を付加した場合、サルカルディンのモノ塩が形成され、約2.1当量の強酸を付加した場合、ビス塩が容易に得られる。
【0051】
サルカルディンの有機酸塩(例えば酢酸塩)の合成は、水性有機溶媒システム(例えば、1.0〜2.0当量の酢酸を含む水−メタノール又は水−アセトニトリル溶媒システム)を用いた逆相高圧液体クロマトグラフィーカラムを通じて化合物を送ることにより、行うことができる。その結果、サルカルディンのモノ塩及びビス塩が形成される。以下の文献を参照されたい:Streitwiesser et al.,INTRODUCTION TO ORGANIC CHEMISTRY 4th ed.(Macmillan Publishing Co.)、736ページ。
【0052】
2.サルカルディンとハロゲン化アルキルとの反応 一般的に、第4級ハロゲン化アンモニウムの調製は、アルキル又はハロゲン化アラルキルと適切な第3アミンとを非反応性有機溶媒中において反応させることにより、行うことができる。同様に、サルカルディンとアルキル臭化物又はアルキルヨウ化物とをエーテル又はテトラヒドロフラン中において室温で反応させると、メチルピロリジニウムカチオンの形成を介して、対応するメチル塩を形成することができる。反応物中のハロゲン化アルキルの化学量論により、形成される塩の種類が決定する。よって、1.0モルのハロゲン化アルキルを付加した場合、単一の対応するピロリジニルメチル塩が得られ、2.0モルのハロゲン化アルキルを付加した場合、ビス塩が形成される(Streitwiesser et al.、同上、737ページを参照)。
【0053】
3.サルカルディンのアルカリ金属塩の形成
サルカルディンのアルカリ金属塩を合成するには、スルホンアミドの−NHプロトンの抽出を可能にするための強塩基の使用が必要となる。そのため、水素化ナトリウムをサルカルディンの低温高速攪拌溶液へと非プロトン性無水溶媒(例えば無水テトラヒドロフラン)中で付加した場合、化Iに示すようなナトリウム塩が形成される。以下の文献を参照:Singh et al.、BIOORGANIC&MED.CHEM.LETTERS16:3921−26(2006)。
【化I】

【0054】
スクラディン(sucradine)溶液を含む低温丸底フラスコに対し、水素化ナトリウムのテトラヒドロフラン溶液を滴下することにより反応を行う。水素化ナトリウムの付加後、反応物を室温まで加熱し、攪拌する。その後、水素ガスが発生しなくなると、反応は完了である。
【0055】
いくつかの実施形態において、前記組成物は、薬学的に受容可能な賦形剤又はキャリア又は他の薬剤を更に含む。前記組成物中の活性薬剤の量は、当業者によって用いられる範囲全体内において異なり得る。典型的には、前記組成物は、重量パーセント(wt%)ベースにおいて、製剤設計全体に基づいて、約0.01〜99.99wt%の前記活性薬剤を含む。その他の残りは、1つ以上の適切な薬学賦形剤である。好適には、前記活性薬剤は、約1〜80wt%のレベルで存在する。
【0056】
本発明の実施に適した薬学的に受容可能な賦形剤を挙げると、緩衝液、希釈剤、等張化剤、安定剤、抗酸化剤、防腐剤及びこれらの混合物がある。
【0057】
適切な緩衝液を非限定的に挙げると、グリシン緩衝液、ヒスチジン緩衝液、2−モルホリノエタンスルホン酸(MES)、カコジル酸塩、リン酸塩、酢酸、コハク酸エステル、及びクエン酸塩がある。一局面において、前記緩衝液はグリシン緩衝液である。別の局面において、前記緩衝液はヒスチジン緩衝液である。前記緩衝液の濃度は、約1mM〜約100mM、あるいは約2mM〜約40mM、あるいは約5mM〜約20mMであり得る。
【0058】
いくつかの実施形態において、前記希釈剤は、水、生理食塩水又は5%ブドウ糖である。
【0059】
いくつかの実施形態において、前記薬学的に受容可能な賦形剤は、安定剤である。一局面において、前記安定剤は、ソルビトール、EDTA及びグリセロールからなる群から選択される。別の局面において、前記安定剤はソルビトールであり、前記組成物中に約3%の濃度で存在する。さらに別の局面において、前記安定剤はEDTAであり、前記組成物中に約0.05%の濃度で存在する。さらに別の局面において、前記安定剤はグリセロールであり、前記組成物中に約2%の濃度で存在する。
【0060】
III.治療 別の局面において、本発明は、治療を必要とする対象を治療する方法を提供する。前記方法は、前記対象に対し、組成物を投与する工程を含む。前記組成物は、活性薬剤を含む。前記活性薬剤は、4−メトキシ−N−(3,5−ビス−(1−ピロリジニル)−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼンスルホンアミド(サルカルディン)又はその薬学的に受容可能な塩である。前記方法は、前記対象に対して前記組成物を実質的に均一に且つ約15分を越える期間にわたって静脈内投与する工程を含む。前記期間は、約30分〜約180分、約30分〜約120分、約30分〜約60分、又は約45分であり得る。
【0061】
また、治療を必要としている対象を治療する方法も提供される。前記方法は、前記対象に対し、活性薬剤を含んだ組成物を投与することを含む。前記活性薬剤は、4−メトキシ−N−(3、5−ビス−(1−ピロリジニル)−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼンスルホンアミド(サルカルディン)又はその薬学的に受容可能な塩である。前記方法は、前記対象に対し、前記組成物の前記活性薬剤を毎分あたり約0.1mg/kg未満、約0.2mg/kg未満、約0.3mg/kg未満、約0.4mg/kg未満、約0.5mg/kg未満、約0.6mg/kg未満、約0.7mg/kg未満、約0.8mg/kg未満、約0.9mg/kg未満、あるいは約1mg/kg未満だけ静脈内投与する工程を含む。
【0062】
本発明の上記実施形態の一局面において、前記投与される活性薬剤の量は、約90mg/kg未満であり、あるいは約80mg/kg、約70mg/kg、約60mg/kg、約50mg/kg、約40mg/kg、約30mg/kg、約20mg/kg、約10mg/kg、約9mg/kg、約8mg/kg、約7mg/kg、約6mg/kg、約5mg/kg、約4mg/kg、約3mg/kg、約2mg/kg、約1mg/kg、約0.7mg/kg、約0.5mg/kg、約0.3mg/kg、約0.2mg/kg又は0.1mg/kg未満である。別の局面において、前記投与される活性薬剤の量は、約0.1mg/kg〜約90mg/kg、約0.5mg/kg〜約80mg/kg、約1mg/kg〜約70mg/kg、約3mg/kg〜約30mg/kg、あるいは約10mg/kg〜約30mg/kgである。
【0063】
いくつかの実施形態において、前記対象は、不整脈に罹患しているか、又は、不整脈罹患の危険性を持つ。不整脈の非限定的な例を挙げると、上室性頻脈性不整脈、心室性期外収縮、心室頻拍、心室細動及び心房細動(VF)がある。一局面において、前記対象は、VFに罹患しているか、又は、VF罹患の危険性を持つ。
【0064】
本発明の実行に適した薬学的に受容可能な賦形剤を挙げると、緩衝液、希釈剤、有機共溶媒、等張化剤、安定剤、抗酸化剤、防腐剤、及びこれらの混合物がある。
【0065】
適切な緩衝液を非限定的に挙げると、グリシン緩衝液、ヒスチジン緩衝液、2−モルホリノエタンスルホン酸(MES)、カコジル酸塩、リン酸塩、酢酸、コハク酸エステル、及びクエン酸塩がある。一局面において、前記緩衝液はグリシン緩衝液である。別の局面において、前記緩衝液はヒスチジン緩衝液である。前記緩衝液の濃度は、約1mM〜約100mM、あるいは約2mM〜約40mM、あるいは約5mM〜約20mMである。
【0066】
いくつかの実施形態において、前記希釈剤は、水、生理食塩水又は5%ブドウ糖である。
【0067】
いくつかの実施形態において、前記薬学的に受容可能な賦形剤は、安定剤である。一局面において、前記安定剤は、ソルビトール、EDTA及びグリセロールからなる群から選択される。別の局面において、前記安定剤はソルビトールであり、前記組成物中に約3%の濃度で存在する。さらに別の局面において、前記安定剤はEDTAであり、前記組成物中に約0.05%の濃度で存在する。さらなる別の局面において、前記安定剤はグリセロールであり、前記組成物中に約2%の濃度で存在する。
【0068】
本発明の製剤設計は、当該分野において公知の方法により、投与することができる。また、好適な投与経路は、レシピエントの状態及び年齢並びに治療対象疾患によって異なる。投与における最も効果的な手段及び量を決定する方法は、当業者にとって公知であり、治療に用いられる組成物、治療目的、及び治療対象によって異なることが理解される。治療担当医師によって選択された投与レベル及びパターンで、投与を単回又は複数回行うことができる。適切な投与量の設計及び投与方法は、当該分野において公知である。
【0069】
本発明の製剤設計の有効量は、実験的に決定することができ、特定の製剤設計、治療又は軽減対象となる疾病又は症状、治療対象の年齢、性別及び体重、製剤設計の投与計画、病状の深刻度、投与方法などによって異なり得る。これらは全て、当業者が容易に決定することができる。
【0070】
本発明の製剤設計の投与は、1回だけ行ってもよいし、あるいは、連続的に複数回行ってもよい。投与の量及び頻度は、当該分野において公知の方法により決定することができ、継続リスクの危険性、活性成分の半減期及び製剤設計の毒性などの要素によって異なる。
【0071】
本発明の製剤設計の投与は、対象の1つの部位に対して行ってもよいし、あるいは対象の複数部位に対して行ってもよい。投与の量及び部位は、当該分野において公知の方法によって決定することができる。
【0072】
本発明の方法及び製剤設計によって適切に治療される対象は、ヒトを含む哺乳類であり得る。ヒト以外の治療対象動物を挙げると、サル、ネズミ、イヌ、ウサギ科(例えばウサギ)、家畜、競技用動物及びペットがある。

【実施例】
【0073】
本発明は、以下の例を参照すればさらに理解される。これらの例は、ひとえに本発明を例示するものである。本発明の範囲は、これらの例示的実施形態によって限定されない。これらの例示的実施形態は、本発明の単一の局面を例示するものに過ぎない。機能面において相当する任意の方法は、本発明の範囲内である。当業者であれば、上記の記載及び添付図面を参照すれば、本明細書中の記載の他に本発明の多様な改変を想起する。このような改変は、添付の特許請求の範囲の内に含まれる。

【0074】
実施例1.投与速度に依存する血行力学的効果
覚醒ビーグル犬に対しサルカルディン硫酸エステルを10分間にわたって静脈内投与点滴した場合の平均血圧、心拍数、及び血漿ヒスタミン濃度に対する影響を測定した。3匹の目的繁殖ビーグル犬(雄及び雌、体重は10.0〜12.7Kg)に対するサルカルディン硫酸エステルの静脈内投与を、投与量を徐々に増やしながら、10分間点滴後に15分間隔を空けて繰り返した(累積投与量:1〜44mg/kg)。投与量を以下に示す:1mg/kg、3mg/kg、10mg/kg及び30mg/kgのサルカルディン硫酸エステル。各薬剤点滴期間完了後、10分間隔で心拍数、平均動脈血圧及びヒスタミン濃度を測定した(表1)。
表1:血行動態に対するサルカルディン硫酸エステルのデータ要約

【表1】

【0075】
調査時において、10分間のサルカルディン硫酸エステルの静脈内投与は、動脈血圧の投与量に依存した低下と関連することが分かった。投与量に依存した動脈血圧の低下は、顔面及び耳部の紅斑炎症並びにじんま疹の発症を伴った。この依存性は、恐らくはヒスタミンの肥満細胞保存量の枯渇に起因して、連続的注入の進行と共に弱くなった。ジフェンヒドラミン(H1ヒスタミン受容体拮抗薬)又はロドキサミド(肥満細胞阻害剤)による前処理を行うことで、ヒスタミン媒介イベントが回避された。血漿ヒスタミン濃度の投与依存型増加は、ELISAアッセイによって決定された。
【0076】
3匹のさらなる動物に対し、サルカルディン硫酸エステル(14mg/kg、i.v.)の点滴を45分間行った。この調査の目的は、サルカルディン硫酸エステルの緩速点滴(45分)によって心拍数及び血圧に影響が出るか否かについて調査することであった。結果を表2中にまとめる。このデータは、点滴時における安静時心拍数の漸進的増加を示す。血圧変化は、恐らくは安静時心拍数の代償性増加に起因して緩やかであった。よって、サルカルディン硫酸エステルの緩速静脈内投与を14mg/kgの合計静脈投与量で行ったところ、ボーラス注入の場合のような安静時の血圧及び/又は心拍数の目立った変化はみられなかった。
表2:点滴を45分間行った場合の、心拍数及び血圧に対するサルカルディン硫酸エステル(14mg/kg)の効果

【表2】

【0077】
麻酔MI後突然心臓死モデルの調査において、サルカルディン硫酸エステルの血行力学的効果についても調査した。調査対象母集団は、10匹の目的繁殖雌ビーグル犬(体重:10.0〜12.0Kg)からなる。これらの動物においては、左冠動脈前下行枝の90分間閉塞の後に再かん流を行うことで、左心室壁虚血性傷害を発生させている。5匹の動物に対し、サルカルディン硫酸エステル(15mg/kg)の静脈内点滴を10分間行うことで治療し、その他の5匹の動物は、0.9%塩化ナトリウム溶液(プラセボ)で治療したビークル犬(vehicle
dogs)であった。治療後、120分間にわたり、最低平均動脈血圧を15分毎に測定した。結果の概要を図1に示す。
【0078】
サルカルディン硫酸エステル(15mg/kg)の10分間点滴完了後15分、30分及び45分経過後における平均動脈血圧は、サルカルディン硫酸エステルの基準値(P<0.05、反復測定ANOVA)よりもずっと低かった。ビークル動物における平均動脈血圧の有意な経時的変化は無かった。Two Way ANOVAを使用したP<0.05プラセボ対サルカルディン硫酸エステル。サルカルディン硫酸エステル点滴を10分間行った後、動脈血圧が漸進的に戻った。このような血液の漸進的回復は、薬剤前基準又は薬剤点滴後50分後のプラセボ処理動物と同様であった。

【0079】
実施例2.サルカルディン硫酸エステルの短期点滴と、ジフェンヒドラミン前処理とを組み合わせた場合の麻酔犬における血行力学的効果
犬にモルヒネ投与(2mg/kg皮下)を行った後、約10〜19分後に麻酔を投与した。犬への麻酔は1%α−クロラロース(100mg/kg静脈内)によって行い、その後α−クロラロースを一定点滴した(35〜75mg/kg/時間、IV)。2匹の健康な雌犬に対し、サルカルディン硫酸エステル静脈内投与を15分間にわたって酢酸緩衝液系において投与量を10、30及び90mg/kgに徐々に上げて行い、投与間隔を60分間空けて行った。他に2匹の犬に対し、ジフェンヒドラミンでの前処理(被験物質点滴開始の30分前に1mg/kgを投与)後に被験物質を投与した。薬剤投与後、犬に対し、心室、肺及び周辺についての血行動態変化の評価を行った。この評価は、Swanz Ganzカテーテル及び大腿部カテーテルの使用と、血液酸素飽和度、被験物質血中濃度、体温、血液生化学、血液学、ECG及びヒスタミンレベルの監視とによって行った。

【0080】
血行動態の結果
グループ1(10、30及び90mg/kgにおけるサルカルディン硫酸エステル)。全ての投与量のサルカルディン硫酸エステルにおいて、血行力学的効果がみられた。ジフェンヒドラミンでの10mg/kgでの前処理を行わなかった犬におけるサルカルディン硫酸エステルの初期点滴では、心拍数(HR)の急上昇(+194%から+271%)及び収縮性の急上昇(+96%から+109%)を含む変化が見られた。投与直後に左心室端部拡張圧(LVEDP)において初期増加がみられ、その後、急低下した(−157%から−710%)。サルカルディン硫酸エステルを10mg/kgで投与した後、平均肺動脈圧(MPAP)(+35%から+76%)及び心拍出量(CO)(+80から131%)も増加した。同じ期間において、平均動脈圧の初期増加(+66%)が2匹のうち1匹においてみられ、投与開始から10分後に最大となった。しかし、どちらの動物も、最終的には投与後期間において平均動脈圧(MAP)の低下を示した(−33%から−41%)。点滴開始から約10分経過後において最大効果が観測され、その後60分間の監視期間の終了に向かうにつれて、徐々に基準値に戻っていった。ただし、HR、収縮性及びLVEDPは、前記監視期間全体において例外的に上昇したままであった。2回目の点滴(30mg/kg)の開始時においても、同様の血行動態の変化がみられた。ただし、2回目の点滴においては、HR及び収縮性は投与時において点滴終了時まで若干低下した後、投与完了後に上昇した。90mg/kg時において、最後の15分間の点滴の完了後、全動物を殺処分した。この最後の15分間の点滴において、心機能低下に起因する血圧急降下がみられた。
【0081】
グループ2の動物:サルカルディン硫酸エステルをジフェンヒドラミン(1mg/kg)と共に10、30及び90mg/kgで投与した約30分後、サルカルディンe硫酸エステルを10mg/kgで治療した。ジフェンヒドラミン(H1拮抗薬)による前処理及びサルカルディン硫酸エステルの投与(10mg/kg)を施した動物については、H2レセプターによって媒介された血行動態変化がみられた。
【0082】
これらの変化は、グループ1の動物の変化と類似しているが、変化はグループ2の方が小さい。変化を挙げると、心拍数(HR)の急上昇(+124%から+157%)があるが、この上昇は継続しなかった。収縮性も急上昇しており(+41%から+58%)、平均肺動脈圧(MPAP)も急上昇しており(+30%から+57%)、心拍出量(CO)も急上昇しており(+108から184%)、平均動脈圧MAPは若干低下している(−12%から−17%)。左心室端拡張圧(LVEDP)については、投与直後に初期増加を示した後に急降下している(−163%から−435%)。点滴開始から約10〜15分経過後において最大効果が観測され、その後60分間の監視期間の終了に向かうにつれて、徐々に基準値に戻っていった。ただし、2匹のうち1匹の動物のMAPは低下したままだった。監視期間全体にわたって、収縮性の増加及びLVEDPの低下がみられた。2回目の点滴開始(30mg/kg)時においても、同様の血行動態がみられた。ただし、HR及び収縮性については、2回目の上昇がみられた(それぞれ、+158から+174%及び+25%から+33%)。これらの心臓血管の変化は、血漿ヒスタミンレベルと相関する。30mg/kgにおいて投与完了後、頻脈の深刻度が基準の200%を上回った。90mg/kgにおいて、グループ1の動物について、最終の15分間点滴の完了後、全ての動物を殺処分した。この最終の15分間点滴において、漸進的且つ大幅な血圧低下がみられた。
【0083】
本発明について上記の実施形態と関連して説明してきたが、上記の記載及び例は本発明を例示するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。本発明の関連する当業者にとって、本発明の範囲内の他の局面、利点及び改変が明らかである。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性薬剤を含む組成物を対象に投与する方法であって、前記活性薬剤は、4−メトキシ−N−(3、5−ビス−(1−ピロリジニル)−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼンスルホンアミド又はその薬学的に受容可能な塩であり、前記方法は、前記対象に対し一定期間にわたって前記組成物を実質的に均一に静脈内投与することを含み、前記一定期間は約15分を越える方法。
【請求項2】
前記期間は約30分〜約120分である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記期間は約30分〜約60分である請求項1に記載の方法。
【請求項4】
活性薬剤を含む組成物を対象に投与する方法であって、前記活性薬剤は、4−メトキシ−N−(3、5−ビス−(1−ピロリジニル)−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼンスルホンアミド又はその薬学的に受容可能な塩であり、前記方法は前記対象に対し約15分を越える期間にわたって前記組成物を静脈内投与することを含み、毎分あたり約1mg/kg未満の前記活性薬剤が前記対象に投与される方法。
【請求項5】
毎分あたり約0.5mg/kg未満の前記活性薬剤が前記対象に投与される請求項4に記載の方法。
【請求項6】
毎分あたり約0.1mg/kg未満の前記活性薬剤が前記対象に投与される請求項4に記載の方法。
【請求項7】
薬学的に受容可能な賦形剤は、緩衝液、希釈剤、安定剤及びこれらの組み合わせからなる群から選択される請求項1乃至6の何れか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記活性薬剤は4−メトキシ−N−(3、5−ビス−(1−ピロリジニル)−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼンスルホンアミド硫酸エステルである請求項1乃至6の何れか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記対象は、心不整脈に罹患しているか、又は、心不整脈に罹患する危険性を有している請求項1乃至6の何れか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記心不整脈は、上室性頻脈性不整脈、心室性期外収縮、心室頻拍、心室細動、心房細動、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される請求項9に記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2013−511472(P2013−511472A)
【公表日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−539070(P2012−539070)
【出願日】平成22年11月16日(2010.11.16)
【国際出願番号】PCT/US2010/056849
【国際公開番号】WO2011/062903
【国際公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【出願人】(512123949)フヤ バイオサイエンス インターナショナル エルエルシー (2)
【Fターム(参考)】