説明

サンプリング装置及びサンプリング方法

【課題】所定の周期で圧力変動を繰り返すガス室から、サンプルガスをサンプルプローブを介してサンプリングして分析を行うサンプリング装置として、その圧力が短時間に大きく変動する場合にも、応答性よく分析を行う。
【解決手段】一端がサンプルプローブ5の出口に接続され、他端が大気開放されるとともに、サンプルプローブ5より流路断面積が大きい調整流路6を備え、吸引手段の働きにより、前記調整流路6から当該調整流路に直交する方向にサンプルガスを吸引してガス分析手段に導く吸引路を備え、圧力変動に伴って発生するサンプルガス流の流速が最大流速となる状態で、サンプルプローブから前記調整流路に噴出する噴流の再付着点Pcより下流側Psに、吸引路の吸引位置を設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定の周期で圧力変動を繰り返すガス室からサンプルプローブを介してサンプリングされるサンプルガスを、吸引手段によりガス分析手段に導いて、当該サンプルガスを分析するサンプリング装置に関し、特に、圧力変動が大きい場合にも、その変動に高速に応答してガス分析を行うことができるサンプリング装置及びサンプリング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の高速応答可能なサンプリング装置として、特許文献1には二重管構成のサンプリング装置が開示されている。この文献に開示の技術では、サンプルガスの流れに対向して(流れ方向逆向きに)二重管を配設し、内管内にサンプルガスを導入してガスの分析を実行する。この文献に開示の技術では、サンプルガスの分析を行う状態では、内管の先端位置を外管の先端位置より僅かに上流側に突き出した状態で、内管内にサンプルガスを受け入れ、受け入れたサンプルガスをガス分析計に導いて分析を行う(当該特許文献1図2(B)に示す状態)。
一方、校正ガスを使用して分析系の校正を行う場合は、内管の先端位置を外管の先端位置より僅かに引退した状態(内管が引退され、外管の先端近傍にデッドスペースが形成されている状態)で、内管と外管との間に形成される中間路に校正ガスを導入し、校正ガスを前記デッドスペースに噴出させるとともに、サンプルガスが有するガス圧により内管内に校正ガスを受け入れ、受け入れた校正ガスをガス分析計に導いて校正を行う(当該特許文献1図2(A)に示す状態)。
このようにすることで、分析系の校正を的確に行えるとともに、ある程度の高速応答性も備えたサンプリング装置を提供することが可能となる。
この種の分析系で採用されるガス分析計は、基本的に所定範囲の圧力の下、所定範囲の流量のサンプルガスをガス分析計に受け入れ、所要の目的の分析を行えるものである。
【0003】
【特許文献1】特許3429421号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この種のサンプリング装置の適用対象として、エンジンの燃焼室内のガス組成を分析対象とする場合がある。ここで、応答性よく燃焼室内のガスを分析できれば、燃焼室内のガス組成の変化をリアルタイムにとらえることが可能となり、例えば、ガスエンジンにおける燃料の排気管への吹き抜けの有無の解析や、吸気管内の濃度変化の計測が可能となる。
さらに、メタンを主成分とする都市ガスを燃料とするエンジンの燃焼室内のガスに関して、メタン濃度を応答性よく分析できれば、燃焼前の混合気の濃度変化を把握することができ、ノッキングの発生位置の特定や成層燃焼のような燃焼を実現するうえで重要な情報を得ることができる。
【0005】
しかしながら、例えば、今日実用の段階にある過給式のガスエンジンでは、燃焼室内圧が12MPaを超えるような応用例もある。この例の場合、燃焼室内の圧力変化が、非常に短時間で生じるため、燃焼室内のガスを従来から知られている技術を使用して直接分析計に導入した場合、応答性よくガス分析を行うことが困難であった。通常、この種のガス分析計にあっては、ガス圧力の上昇はそのまま出力の上昇に繋がるが、回転数が数100〜数1000rpmのエンジンの場合、その単一サイクル中でのガス分析が困難であった。
即ち、このような例にあっては、従来技術をそのまま適用すると、圧力変化が分析に大きく影響し信頼性の高い分析結果を得られなくなったり、甚だしい場合は、本来、分析対象とすべきでない分析対象外のサンプルガスをガス分析計内に吸引してしまったりしてガス分析計の出力が特定の指標値のまま、一サイクル中の過半の時間保持されてしまう等の問題が発生し、燃焼室のガス分析を的確におこなうことができないという問題が発生した。
【0006】
本発明の目的は、所定の周期で圧力変動を繰り返すガス室から、サンプルガスをサンプルプローブを介してサンプリングして分析を行うサンプリング装置として、その圧力が短時間に大きく変動する場合にも、応答性よく分析を行うことができるサンプリング装置を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための本発明に係る、所定の周期で圧力変動を繰り返すガス室からサンプルプローブを介してサンプリングされるサンプルガスを、吸引手段によりガス分析手段に導いて、前記サンプルガスを分析するサンプリング装置の特徴構成は、
一端が前記サンプルプローブの出口に接続され、他端が大気開放されるとともに、前記サンプルプローブより流路断面積が大きい調整流路を備え、
前記吸引手段の働きにより、前記調整流路から当該調整流路に直交する方向にサンプルガスを吸引して前記ガス分析手段に導く吸引路を備え、
前記圧力変動に伴って発生するサンプルガス流の流速が最大流速となる状態で、前記サンプルプローブから前記調整流路に噴出する噴流の再付着点より下流側に、前記吸引路の吸引位置が設定されていることにある。
【0008】
本願に係るサンプリング装置は、サンプルプローブとその出口側に備えられる調整流路とを備え、ガス室からサンプリングされるサンプルガスは、調整流路を流れるように構成される。そして、この調整流路の出口側(下流側)は大気開放されており、一定の圧力状態が確保されている。
【0009】
さて、サンプルプローブは、本来、ガス室内に起こっている事象に大きく影響することなく、ガス室内にあるガスをサンプルガスとして取り出すものであるため、プローブの流路断面積はかなりの程度絞られたものとされる。従って、この流路は一種の絞りとして働き、ガス室内での圧力変化に伴って調整流路にサンプルガスが送られるが、調整流路内の状態は、圧力変動(流量変動)が緩和され、サンプルプローブを通過する分の時間遅れを伴ったものとなる。この調整流路はその下流端が大気開放されていることにより、流路端に到るに従って、調整流路内のガス圧は大気圧に漸近する。
【0010】
本願にあっては、調整流路の流路断面積は、サンプルプローブの断面積より大きく選択されていることにより、サンプルプローブを比較的高速で流れてきたサンプルガス流は、噴流として調整流路内に流入し、調整流路の入口部位において流路壁から剥離して剥離流となる。また、この部位にあっては、サンプルガス流の流速は比較的高速に保たれる状態も発生するため、このガス流の噴出口近傍においてガス圧が比較的低くなる部位も発生する。そして、下流に行くに従って、流れが再発達することで圧力回復が起こる。
【0011】
調整流路には、吸引手段の働きにより、流路に直交する方向に流路内のサンプルガスを吸引してガス分析手段に導く吸引路が接続されている。
このように調整流路からサンプルガスを吸引することで、ガス室側のサンプルガスの圧力変動の影響を低減し、調整流路内のガスを、圧力、流量の点で、安定した状態でガス分析手段に導くことができ、ガス分析手段による分析を良好に実行することが可能となる。さらに、流路に直交する方向に流路内のサンプルガスを吸引することで、調整流路内を流れるサンプルガスの動圧の影響を排除することができる。
【0012】
さらに、当該吸引路が調整流路と接続されている位置である吸引位置は、ガス室内で発生している圧力変動に伴って発生するサンプルガス流の流速が最大流速となる状態で、サンプルプローブから調整流路に噴出する噴流の再付着点より下流側に、当該吸引路の吸引位置が設定されている。
【0013】
ここで、サンプルガス流の流速が最大流速となる状態は、サンプルプローブから調整流路へ噴出するサンプルガス流量が最大となる状態であり、この状態で、調整流路の入口部位に最も大きな剥離領域(帰還流域)が形成される。そして、この領域より下流側では、流れは大気開放された調整流路の下流側端へ向かって流れ、順次、調整流路から流出する。
【0014】
さて、この剥離領域より下流側の部位では、流れにおいて圧力回復が起こり、吸引手段で確実にサンプルガスを吸引することが可能である。従って、ガス室内の変化を代表できるサンプルガスを、当該吸引位置から順次吸引して、良好にガス分析を行うことができる。これに対して、再付着点より上流側に吸引位置が設定されている場合は、一旦、再付着点を通り過ぎたガスで、帰還領域に留まることがあるサンプルガスを吸引して、ガス分析を行うこととなりかねず、良好な分析を行うことはできない。
【0015】
上記のサンプリング装置にあって、
前記吸引位置が、前記再付着点より下流側におけるサンプルガス流の再発達により圧力が大気圧に回復する位置、若しくは当該位置より下流側の位置であることが好ましい。
【0016】
ここで、「大気圧に回復する位置」には「流れ方向で最初に大気圧以上となる位置」を含む他、「ほぼ大気圧に回復している位置であり、流れ方向で最初に大気圧の95%以上となる位置」を含む。
再付着点より下流側の位置に吸引位置を設定する場合にあっても、吸引手段を用いてガス分析手段にサンプルガスを吸引するのに、過度の吸引能力を必要とする構成は、必ずしも好ましいものではない。
そこで、吸引位置としては、サンプルプローブから調整流路内に噴出する噴流に関して、流れの剥離がなくなり、流れの再発達により大気圧近傍まで圧力が回復している位置、及びそれより下流とする。この様にすると、吸引能力が比較的低いものを使用しながら、ガス分析手段内を流れるガス流量を分析可能流量範囲として良好にガス分析を行える。
【0017】
さて、上記のサンプリング装置にあって、前記ガス室が、エンジンにおけるシリンダとピストンとにより画定され、内部で燃料が燃焼する燃焼室であるであることが好ましい。
【0018】
この構成を採用する場合は、エンジンに備えられる燃焼室内に存在するガスの分析を、良好に行える。
【0019】
さて、本願のサンプリング装置を使用してエンジンの燃焼室内のガスの分析をサンプルして実行するに、前記調整流路における前記吸引位置より下流側で大気開放される位置までの流路容積が、前記エンジンの1サイクル当りに前記ガス分析手段が吸引する体積未満に設定してあることが好ましい。
この構成にあっては、吸引位置から大気開放される位置までの流路容積を、エンジンの1サイクル当りにガス分析手段が吸引する体積未満とすることにより、エンジンから調整流路に流れるサンプルガスの流量が不足ぎみとなる時点において、吸引路に流入するガスは、最悪(サンプルプローブ側から吸引路に吸引されるガスが無いとした場合)でも、前記吸引位置から大気開放される位置までに残っているガスと大気との混合ガスとなる。通常、サンプルプローブ側から流れてくるガスが幾分含まれている。従って、ガス分析手段側で分析対象とするガスは、最悪でも、吸引位置を調整流路の下流側に通過したガスであって、大気により希釈されたガスとすることができる。よって、吸引位置を通過して、本来、再度分析の対象とすることが好ましいとはいえない吸引位置から大気開放される位置に残留しているガスのみをガス分析手段の導いて分析を行う等の不具合を解消できる。
【0020】
この構成を採用する場合、さらに、前記調整流路における前記吸引位置より下流側で大気開放される位置までの流路容積が、前記エンジンの吸気行程時間に前記ガス分析手段が吸引する体積未満に設定してあることが好ましい。
即ち、この構成では、直接的に、吸気行程時間分での問題を解決することとなる。この場合も、吸引位置から大気開放される位置までの流路容積を、エンジンの吸気行程時間にガス分析手段が吸引する体積未満とすることにより、エンジンから調整流路に流れるサンプルガスの流量が不足ぎみとなる行程において、吸引路に流入するガスは、最悪(サンプルプローブ側から吸引路に吸引されるガスが無いとした場合)でも、前記吸引位置から大気開放される位置までに残っているガスと大気との混合ガスとなる。通常、サンプルプローブ側から流れてくるガスが幾分含まれる。従って、ガス分析手段側で分析対象とするガスは、最悪でも、吸引位置を調整流路の下流側に通過したガスであって、大気により希釈されたガスとすることができる。よって、吸引位置を通過して、本来、再度分析の対象とすることが好ましいとはいえない吸引位置から大気開放される位置に残留しているガスのみをガス分析手段に導いて分析を行う等の不具合を解消できる。
【0021】
さて、これまで説明してきたサンプリング装置を使用して、前記サンプルガスを分析することにより、所定の周期で圧力変動を繰り返すガス室から吐出されるサンプルガスを良好に分析できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明の実施の形態について、図面に基づいて説明する。
以下に示す実施の形態にあっては、エンジン1に備えられるシリンダ1aとピストン1bとにより画定され、内部で燃料が燃焼する燃焼室2(ガス室の一例)からサンプルガスsgをサンプリングして、その分析を行う場合について説明する。
この例は、燃料がメタンを主成分とする都市ガスであり、燃料と空気との混合気g1を過給機3により過給した状態で燃焼室2内に導き、圧縮行程において混合気g1を圧縮するとともに、火花点火させて運転する火花点火式エンジン1における燃焼室2内のガスがガス分析の対象となる例である。
ガス分析計4(ガス分析手段の一例)としては、所謂、THC(全炭化水素)の測定に適した分析装置を使用する。このガス分析計4は、FID法(水素炎イオン化法)によりTHCを分析できるものであり、このガス分析計4に、ガス圧101Pa、ガス流量3.5リットル/minで、サンプルガスsgを導入することで、良好にガス分析を実行できる。
【0023】
図1は、上記の条件に従って、シリンダ1a内の燃焼室2からサンプルガスsgをサンプリングし、分析を行う本願に係るサンプリング装置100を模式的に示したものである。
図1に示すように、このサンプリング装置100は、燃焼室2に接続されるサンプルプローブ5と、このサンプルプローブ5の出口に一端が接続され、他端が大気開放される調整流路6とを備えている。
さらに、この調整流路6の所定位置には、サンプルポンプ7(吸引手段の一例)の働きにより、調整流路6から当該調整流路6に直交する方向にサンプルガスsgを吸引してガス分析計4に導く吸引路8が接続されている。
【0024】
以下、さらに詳細に各部位について説明する。
図5(c)は、サンプルプローブ5と調整流路6とからなる流路の構成を模式的に示したものである。
前記サンプルプローブ5は、一端が燃焼室2に、他端が調整流路6に接続されており、燃焼室内のサンプルガスsgをサンプリングするものであり、具体的には、流路径(図5(c)のd1)が0.5mm、流路長(図5(c)のL1)が1000mmに構成されている。
【0025】
前記調整流路6は、一端がサンプルプローブ5の他端に接続され、他端が大気開放されている。具体的には、この調整流路6は、その流路径(図5(c)のd2)が3mm、流路長(図5(c)のL2)が30mmに構成されている。
【0026】
図5(c)に示すように、サンプルプローブ5と調整流路6との間に流路断面積を急拡大する段差部6aが形成されることとなっている(図1参照)。即ち、流路は、流路径0.5mmから3mmまで、6倍に急拡大する。
【0027】
前記吸引路8は、調整流路6の先端(サンプルプローブ5の接続側)から20mmの位置に、調整流路6の路壁に対して直角に接続されている。さらに、この吸引路8の下手側に前記ガス分析計4が、さらにその下流側にサンプルポンプ7が接続されている。
この吸引路8では、サンプルポンプ7が、一定の吸引圧で吸引位置Psから調整流路6内のサンプルガスsgを吸引することで、ガス分析計4に所定範囲のガス流量でサンプルガスsgを導入し、安定的にガス分析が行える。図5(c)には、調整流路8の入口から吸引位置Psまでの距離をLsとして表示している。
【0028】
ここで、後にも図5(a)(b)を使用して説明するように、この吸引位置Psは、調整流路6に噴出する噴流Faの再付着点Pcより下流側におけるサンプルガス流の再発達により圧力がほぼ大気圧に回復する位置で、サンプルポンプ7の働きによりガス分析計4に、当該ガス分析計4の分析可能流量範囲の流量を吸引可能な位置とされている。
【0029】
一方、エンジン1の1サイクル当たりの時間に、このガス分析計4が吸引する体積をv1として、この調整流路6における吸引位置Psから大気開放端6bに至るまでの流路容積をv2とすると、このv2は前記v1より小さく設定されている。
一方、図5に示す例には対応しないが、吸引位置Psより上流側の構成を同一として、流路容積v2は、その最小値として、吸引位置Psのエッジによる流れの剥離の影響を回避するめ、吸引位置Psでの吸引口径(1mm)の5倍程度の距離(5mm)とすることができる。即ち、流路容積v2は、吸引位置Psでの吸引口径との関係で、その良好な最小値を規定でき、その最大値はこれまで説明したv1との関係で規定することができる。
【0030】
燃焼室内におけるガスの状態とサンプリング装置の作動
以下、図1に示すサンプリング装置100の働きについて、図面に基づいて説明する。
図2は、燃焼室2内におけるガス圧の変化を示したものであり、図3は、燃焼室2内におけるガス圧の変化に対応する、サンプルプローブ5の入口(実線)、調整流路6の入口(破線)、ガス分析計4の入口(一点鎖線)における流量を、夫々クランク角に対応して示したものである。
図2からも判明するように、この例では、燃焼室2内のガス圧は、正圧領域で、12MPa程度まで変化する。
図3に示すように、上記燃焼室2内のガス圧の変化に伴って、燃焼室2からサンプルプローブ5、調整流路6、吸引路8に、サンプルガスsgが流れる。サンプルプローブ5の入口では、エンジン1の1サイクル中の比較的制限されたクランク角域(特定の行程域)で、比較的大きな流量変化が起こっている。一方、調整流路6の入口では、上記のサンプルプローブの入口での変化に対して、時間遅れをもって、広いクランク角域で、比較的小さな流量変化が起こっている。さらに、調整流路8にはほぼ一定流量のサンプルガスsgが流れている。
【0031】
これら流量から、本願に係る調整流路6では、燃焼室2からサンプルプローブ5を介して調整流路6に、時間遅れを伴ってサンプルガスsgが流入するが、調整流路6に流入してくる流入量より、ガス分析計4に流入するサンプルガス量が多い領域(図3の場合:クランク角がほぼ−60°より小さいAで示す領域)では、必ずしも調整流路6に新たに流入してくるサンプルガスsgが吸引路8に吸引されていない。
【0032】
このような燃焼室2、サンプルプローブ5、調整流路6、吸引路8を介する構成において、ガス分析計4で得られるTHCの分析結果を示したのが、図4(a)である。この図も、横軸にクランク角をとって示している。さらに、この図には、クランク角に対応して、膨張・吸排気、圧縮・着火の別を矢印で示した。
【0033】
同図に示すように、圧縮に伴って、THC濃度が所定の濃度まで上昇し、その濃度が維持された状態で着火が起こり、膨張に伴ってTHC濃度は順次低下している。さらに、膨張・吸排気の進行で、THC濃度は、ほぼ最低値まで低下している。このような定性的挙動は、燃焼室2内におけるTHC濃度の変化として充分に納得のおける変化であり、本願に係るサンプリング装置100により、これまでほぼ不可能であった燃焼室2内におけるガス分析を良好に行えていることが判る。
【0034】
技術上の問題点と本願における解決手段
1 吸引位置の設定
これまで説明してきたように、本願にあっては、サンプルプローブ5の下流側に調整流路6を備える構成を採用する。ここで、サンプルプローブ5内の流路断面積及び調整流路6の流路断面積は流れ方向において一定であり、流路は調整流路6の入口で段差を伴って急拡大される。結果、サンプルプローブ5から調整流路6内に流れる流れは、調整流路6内に入った段階で、路壁wからは剥離し、再付着点Pcに至って、初めて調整流路6内の全断面において、大気開放側である下流側に向かう流れ成分を有するものとなる。
【0035】
この調整流路6の入口近傍における流れの状態と、流れに沿った各位置での圧力を模式的に描いたのが図5(a)(b)である。これら図からも示すように、調整流路6の入口から再付着点Pcの至るまでの流れは、路壁wから剥離した噴流Faの形態を取り、また噴流Faと調整流路6の路壁wとの間には、逆流(帰還流)Fbが形成されている。
一方、図5(b)から判明するように、調整流路6の流れに関しては、調整流路6の入口近傍が最も圧力の低い部位となっており、順次、下流側に向かうに従って圧力が回復する。
【0036】
さて、燃焼室2内のガス圧は周期的に変化するため、上記の再付着点Pcの位置が大気開放側へ移動したり、調整流路6の入口側に戻ったりする。この情況において、再付着点Pcが最も大気開放側に形成された状態で、吸引位置Psが、この再付着点Pcよりも調整流路6の入口側に位置されると、逆流したサンプルガスsgを吸引路8に吸引することとなりかねない。そこで、吸引位置Psは、燃焼室2の圧力変動に伴って発生するサンプルガス流の流速が最大流速となる状態(調整流路6の入口におけるサンプルガスsgの流速が最大となる状態)で、サンプルプローブ5から調整流路6に噴出する噴流の再付着点Pcより下流側に、吸引路8が接続される吸引位置Psを設定している。
【0037】
2 調整流路における吸引位置から大気開放位置までの流路容積
先にも説明したように、図4(a)は、図1に示すサンプリング装置100を使用した場合のガス分析計4の出力(THC濃度)を示したものである。この結果は、吸引位置Psから大気開放端6bに至るまでの流路容積v2に対して、エンジン1サイクル当たりに分析計4が吸引する体積v1が大きい場合である。
【0038】
さて、本願の発明者らは、本願に係るサンプリング装置100の検討過程において、吸引位置Psから大気開放端6bに至るまでの流路容積v2が、v1より大きい場合に関しても検討した。この場合、吸引位置Psより下流側の調整流路6には、吸引位置Psを所定のタイミングで通過したサンプルガスsgが主に滞留することとなり、燃焼室2側の圧力変動(サンプルプローブ5を介する周期的なサンプルガスsgの流出)に伴って、サンプルガスspは調整流路6内の流路方向に往復移動を繰り替えす。
【0039】
この情況におけるガス分析計4の出力を示したのが、図4(b)である。この図からも判明するように、吸引位置Psより下流側の調整流路6が不用意に長い場合は、ガス分析計4に、本来吸引されるべきでないサンプルガスsgまで吸引されることとなり好ましい結果が得られない。即ち、本願のようなサンプリング装置100では、吸引位置Psより下流側の流路容積v2を適切に選択することで、燃焼室2側の圧力変動によって形成される調整流路6内におけるサンプルガスsgの呼吸(調整流路6内での流路軸に沿った往復動)を利用して、大気を調整流路内に導き、サンプルガスsgをある程度希釈する必要がある。
【0040】
〔別実施形態〕
(1) 上記の実施形態にあっては、ガス分析計としてTHCを検出可能な分析計を採用したが、メタン等を検出可能な分析計等、任意のガス成分をその検出対象とするガス分析計を採用できる。
(2) 上記の実施形態では、調整流路における吸引位置Psより下流側で大気開放される位置までの流路容積v2が、前記エンジンの一サイクル時間にガス分析手段が吸引する体積v1未満とする例を示したが、この構成は、本来吸引位置Psより下流側に位置するサンプルガスsgの大気による希釈を目的とするため、エンジンの吸気行程時間にガス分析手段が吸引する体積未満に設定するものとしてもよい。
(3) 上記の実施形態にあっては、吸引位置Psを噴流の側壁への再付着が完了し、さらに下流側に流れて、圧力が充分に回復している位置としたが、吸引手段の能力が充分なものであれば、再付着点より下流側に設定しておけば帰還流を吸引することなく、新たな排気をサンプリングできる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
所定の周期で圧力変動を繰り返すガス室から、サンプルガスをサンプルプローブを介してサンプリングして分析を行うサンプリング装置として、その圧力が短時間に大きく変動する場合にも、応答性よく分析を行うことができるサンプリング装置を得ることができた。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】燃焼室内からサンプリングされるサンプルガスを本願に係るサンプリング装置を使用して分析している状態を示す図
【図2】燃焼室内のガス圧の変化を示す図
【図3】本願に係るサンプリング装置を使用してガス分析を行う場合の、サンプリング装置各部位の流量の変化を示す図
【図4】図1に示すサンプリング装置を使用したガス分析の結果を示す図(図4(a))及び、調整流路における吸引位置より下流側の流路容積が大きい場合のガス分析の結果を示す図(図4(b))
【図5】本願に係るサンプリング装置に関し、サンプルプローブから調整流路に至る流れの状態を示す図(図5(a))、ガス圧の状態を示す図(図5(b))及び流路の概略構成を示す図(図5(c))
【符号の説明】
【0043】
1 エンジン
2 燃焼室
3 過給機
4 ガス分析計
5 サンプルプローブ
6 調整流路
7 サンプルポンプ
8 吸引路
Fa 噴流
Fb 逆流(帰還流)
Pc 再付着点
Ps 吸引位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の周期で圧力変動を繰り返すガス室からサンプルプローブを介してサンプリングされるサンプルガスを、吸引手段によりガス分析手段に導いて、前記サンプルガスを分析するサンプリング装置であって、
一端が前記サンプルプローブの出口に接続され、他端が大気開放されるとともに、前記サンプルプローブより流路断面積が大きい調整流路を備え、
前記吸引手段の働きにより、前記調整流路から当該調整流路に直交する方向にサンプルガスを吸引して前記ガス分析手段に導く吸引路を備え、
前記圧力変動に伴って発生するサンプルガス流の流速が最大流速となる状態で、前記サンプルプローブから前記調整流路に噴出する噴流の再付着点より下流側に、前記吸引路の吸引位置が設定されているサンプリング装置。
【請求項2】
前記サンプルプローブと前記調整流路との間に流路断面積を急拡大する段差部を備えた請求項1記載のサンプリング装置。
【請求項3】
前記吸引位置が、前記再付着点より下流側におけるサンプルガス流の再発達により圧力が大気圧に回復する位置、若しくは当該位置より下流側の位置である請求項1又は2記載のサンプリング装置。
【請求項4】
前記ガス室が、エンジンに備えられるシリンダとピストンとにより画定され、内部で燃料が燃焼する燃焼室である請求項1〜3の何れか一項記載のサンプリング装置。
【請求項5】
前記調整流路における前記吸引位置より下流側で大気開放される位置までの流路容積が、前記エンジンの1サイクル当りに前記ガス分析手段が吸引する体積未満に設定してある請求項4記載のサンプリング装置。
【請求項6】
前記調整流路における前記吸引位置より下流側で大気開放される位置までの流路容積が、前記エンジンの吸気行程時間に前記ガス分析手段が吸引する体積未満に設定してある請求項4記載のサンプリング装置。
【請求項7】
請求項1〜6の何れか一項に記載のサンプリング装置を使用して、前記サンプルガスを分析するサンプリング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−286641(P2008−286641A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−132040(P2007−132040)
【出願日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成17年度〜平成19年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「超高効率天然ガスエンジン・コンバインドシステム技術開発」委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(593185544)社団法人日本ガス協会 (18)
【出願人】(000220262)東京瓦斯株式会社 (1,166)
【出願人】(000000284)大阪瓦斯株式会社 (2,453)
【出願人】(000221834)東邦瓦斯株式会社 (440)
【Fターム(参考)】