説明

サンプルを分別するための磁性材料の使用

生体サンプル中のタンパク質分子の可逆的な結合に有用な方法。この方法は、粒子/タンパク質錯体が形成されるように、反対の電荷を有するタンパク質と結合するための結合電荷を有する常磁性粒子を使用する。錯体は、粒子/タンパク質錯体に磁場を印加することによって、容器の壁面に固定化することができる。サンプルは、より純粋な形のタンパク質サンプルまたは選択されたタンパク質が減少しているサンプルが得られるように、さらに処理することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2004年8月3日に出願した米国特許出願第60/598,117号の優先権を主張するものである。
【0002】
本発明は、一般に、タンパク質の可逆的結合に有用な組成物および方法に関する。より詳細には、本発明は、溶液から非特異的にタンパク質を抽出するのに有用な常磁性化合物に関する。
【背景技術】
【0003】
以下の考察では、背景および序文として、ある物品および方法について述べる。従来技術と「認められるもの」は本明細書には含まれない。本出願人は特に、適切な場合には、本明細書に引用される物品および方法が、適用可能な法規定の下で従来技術を構成しないことを実証する権利を保有する。
【0004】
従来、タンパク質の精製スキームは、精製されるタンパク質と望ましくないタンパク質汚染物質との間での、サイズ、電荷、および可溶性という分子特性の相違に基づいていた。これらのパラメータに基づくプロトコルには、サイズ排除クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、差次的沈殿(differential precipitation)などが含まれる。
【0005】
通常はゲル濾過またはゲル透過クロマトグラフィーと呼ばれるサイズ排除クロマトグラフィーは、固定相粒子の孔内への、移動相の高分子の浸透に依存する。差次的浸透(differential penetration)は、粒子の流体力学的体積の関数である。したがって理想的な条件下では、より大きい分子が粒子内部から除外され、一方、より小さい分子はこの体積に接近可能であり、その溶出順序は、溶出体積と分子量の対数との間に線形関係が存在することから、タンパク質のサイズによって予測することができる。
【0006】
イオン交換クロマトグラフィーでは、サンプルの荷電官能基と、吸着剤表面の反対の電荷を有するイオン官能基とが相互に作用する。2つの一般的なタイプの相互作用が知られている。第1は、正に帯電した表面と相互に作用する負に帯電したアミノ酸側鎖(例えばアスパラギン酸およびグルタミン酸)によって媒介される、陰イオン交換クロマトグラフィーである。第2は、負に帯電した表面と相互に作用する正に帯電したアミノ酸残基(例えばリジンおよびアルギニン)によって媒介される、陽イオン交換クロマトグラフィーである。
【0007】
沈殿法は、タンパク質の粗製混合物において個々のタンパク質の溶解度が広く変化しやすいという点に基づいている。水性媒体中のタンパク質の溶解度は様々な因子に依存するが、この考察では一般に、タンパク質と溶媒との相互作用が、同じかまたは類似の種類のタンパク質分子との相互作用よりも強力である場合に、このタンパク質が可溶性になると言うことができる。沈殿現象について述べているどのような特定のメカニズム理論にも拘泥するものではないが、それにもかかわらず、タンパク質と水分子との相互作用は、いくつかのタイプの非荷電基との水素結合によって、および静電的には荷電基を有する双極子として生ずると考えられ、また1価の陽イオンの塩(例えば硫酸アンモニウム)などの沈殿剤が、水分子を目指してタンパク質と競合すると考えられる。したがって、高い塩濃度では、タンパク質が「脱水」するようになり、それによってタンパク質と水性環境との相互作用が低下し、同様または類似のタンパク質との凝集が増大し、その結果、媒体から沈殿が生ずる。しかし沈殿技法は粗雑なものである。これらの技法には、濾過または遠心分離の後に、再懸濁、および透析、あるいはなんらかのその他の形の緩衝液交換を行って、下流での処理の前に塩濃度を低下させる必要があるという欠点もある。
【0008】
つい最近、アフィニティークロマトグラフィーおよび疎水的相互作用クロマトグラフィー技法は、より伝統的なサイズ排除およびイオン交換クロマトグラフィープロトコルを補うように開発された。アフィニティークロマトグラフィーは、タンパク質と固体化されたリガンドとの相互作用に依存する。リガンドは、問題とされる特定のタンパク質に特異的になることができ、その場合のリガンドは、基質、基質類似体、阻害剤、または抗体である。あるいはリガンドは、いくつかのタンパク質と反応することができる。アデノシン一リン酸、アデノシン二リン酸、ニコチンアデニンジヌクレオチド、またはある色素などの一般的リガンドを、特定の種類のタンパク質を回収するのに用いることができる。
【0009】
金属アフィニティー分配は、一部のタンパク質の表面に接近可能な、ヒスチジンおよびシステインなどの電子リッチなアミノ酸残基に対する遷移金属イオンのアフィニティーを活用する。金属イオンが部分的にキレート化し、ポリエチレングリコール(「PEG」)などの線状ポリマーに結合する場合、得られるポリマー結合金属キレートを使用して、PEG塩またはPEGデキストラン水性2相系のポリマーリッチ相に対する金属結合タンパク質の分配を高めることができる。
【0010】
タンパク質の単離のために、金属アフィニティーリガンドを利用することが知られている。ヒスチジンおよびシステイン含有タンパク質は、ポリマースペーサに結合しかつ銅、亜鉛またはニッケルなどの金属に結合するイミノ二酢酸(「IDA」)などのキレート剤で官能化された支持体を使用して、互いにクロマトグラフィーにより分離できることが実証されている。固定化金属アフィニティークロマトグラフィー(「IMAC」)は、タンパク質クロマトグラフィーに有用なツールとなり、いくつかのIDAベースのIMAC樹脂が、現在市販されている。
【0011】
【特許文献1】米国特許第5,907,035号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
粗製製剤から目標タンパク質を精製するために金属キレートを使用する場合、多くの問題が生ずる。1つの問題は、特に、目標タンパク質に対するリガンドの選択性に集中しており、すなわちリガンドは、目標タンパク質の結合において選択性が不十分でありまたは過剰になる可能性がある。また、目標タンパク質とのリガンド結合を阻害する粗製系での窒素含有化合物の問題もある。最後に、タンパク質の溶解度、および水性2相分配系で使用される塩による可能性あるタンパク質の沈殿に関する問題がある。これらの問題のすべては、目標タンパク質の収量に劇的な影響を及ぼす可能性がある。
【0013】
特許文献1(Guinn)は、粗製タンパク質溶液から目標タンパク質を精製するための水性2相金属アフィニティー分配系を開発することによって、金属キレート化に関連した問題の対処を試みている。この方法は、水性2相系を生成するための、塩およびポリマーなどの不活性な疎水性分子の使用と、この錯体に目標タンパク質を選択的に結合することによってこの目標タンパク質を精製するための、ポリマー−キレート剤−金属錯体の使用を含む。
【0014】
これらの分離技法が絶えず進歩しているにもかかわらず、粗製生体サンプルからタンパク質を迅速に分別する効果的かつ自動化された方法は、得られていない。沈殿技法は、依然として粗雑であり、自動化するのが難しい。クロマトグラフィーは、費用がかかり時間もかかる。したがって、粗製生体サンプル中のタンパク質を迅速に分別する技法が、依然として求められている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の目的は、コーティングおよび結合リガンドを必要としない、非特異的捕捉技法を提供することである。
【0016】
本発明の別の目的は、タンパク質を含有する生体サンプルを分別する手段を提供することである。
【0017】
本発明のさらに別の目的は、タンパク質を可逆的に結合するためのプロセスを提供することである。
【0018】
本発明の別の目的は、荷電タンパク質とは反対の電荷を有する荷電タンパク質と荷電常磁性粒子との粒子−タンパク質錯体を、溶液から抽出するために、磁気を使用することである。
【0019】
タンパク質の精製および処理のためにより効果的かつ効率的な技法を提供するために、本発明は、タンパク質またはペプチド分子を可逆的に結合する有用な組成物に関する。組成物は、結合を促進させる環境において常磁性粒子を含む。一態様では、本発明は、キットとして包装された組成物、ならびにタンパク質分子またはその付加物を可逆的に結合するためにこの組成物を利用する方法も含む。
【0020】
別の態様では、本発明は、タンパク質サンプルを分別するための方法を提供する。分別方法は、1種または複数のタンパクを含むサンプルに常磁性粒子を添加するステップを含み、このタンパク質は、少なくとも1つの結合電荷を有するものである。この方法は、電荷を常磁性粒子に結合するステップをさらに含み、電荷は、常磁性粒子およびタンパク質が錯体を形成することができるように、タンパク質の電荷とは反対のものである。錯体は、磁場を印加することによって固定化する。次いで磁場によって固定化されない材料を除去して、さらなる分析にかけることができまたは廃棄物として処分することができる。次いで磁場を除去して錯体を解放する。錯体がもはや固定化されなくなったら、望みに応じて洗浄溶液を添加することができる。洗浄溶液は、結合タンパク質および粒子の反対の電荷が有効であり続け、かつその他の材料を錯体から解放しまたは洗い落とすことができるような、組成物の溶液であるべきである。磁場を再び印加すると、錯体を固定化することができ、次いで固定化した材料を除去して廃棄物として廃棄することができる。次いで常磁性粒子上の電荷を変化させて、常磁性粒子およびタンパク質を解離させることができる。磁場は、ここで分別されたタンパク質サンプルの抽出を助けるために常磁性粒子が固定化されるよう、再び印加することができる。
【0021】
本発明の方法は、a)酸化鉄、硫化鉄、塩化鉄、水酸化第二鉄、および酸化第一第二鉄(ferrosoferric oxide)からなる群から選択された少なくとも1つの常磁性粒子を、1種または複数のタンパク質を含む前記サンプルに添加するステップであって、前記タンパク質の少なくとも1種が第1の電荷を有するものであるステップと、b)第2の電荷を前記少なくとも1つの常磁性粒子に結合するステップであって、前記第2の電荷は、前記少なくとも1つの常磁性粒子および前記タンパク質がタンパク質−粒子錯体を形成することが可能になるように、前記第1の電荷とは反対のものであるステップと、c)前記錯体を、第1の磁場を印加することによって固定化するステップと、d)前記第1の磁場によって固定化されていない材料を前記サンプルから除去するステップと、e)前記第1の磁場を残りの材料から除去して、前記固定化された錯体を解放するステップと、f)前記錯体が解離するように、前記少なくとも1つの常磁性粒子上の前記第2の電荷を変化させるステップと、g)第2の磁場を印加して、前記少なくとも1つの常磁性粒子を固定化するステップと、h)前記タンパク質を残りの材料から抽出するステップとを含むことができる。
【0022】
本発明の方法は、前記少なくとも1つの常磁性粒子が、鉄化合物、コバルト化合物、およびニッケル化合物からなる群から選択された金属化合物である、上述の方法を含むこともできる。
【0023】
本発明の方法は、前記鉄化合物が、酸化鉄、硫化鉄、塩化鉄、水酸化第二鉄、および酸化第一第二鉄からなる群から選択される、上述の方法を含むこともできる。
【0024】
本発明の方法は、酸が、前記第2の電荷を前記常磁性粒子に結合するのに使用される、上述の方法を含むこともできる。
【0025】
本発明の方法は、前記常磁性粒子が結合電荷を有する酸化鉄である、上述の方法を含むこともできる。
【0026】
本発明の方法は、前記結合電荷が全正電荷である、上述の方法を含むこともできる。
【0027】
本発明の方法は、リガンドの結合が、前記第2の電荷を前記常磁性粒子に結合するのに使用される、上述の方法を含むこともできる。
【0028】
本発明の方法は、前記1種または複数のタンパク質が全陰電荷を保持するように変性する、上述の方法を含むこともできる。
【0029】
本発明の方法は、前記1種または複数のタンパク質の前記変性が、シトラコニル化、マレイル化、トリフルオロアセチル化、テトラフルオロスクシニル化、スクシニル化、およびこれらの組合せからなる群から選択された変性を含む、上述の方法を含むこともできる。
【0030】
本発明の方法は、前記変性が界面活性剤の添加を含む、上述の方法を含むこともできる。
【0031】
本発明の方法は、前記界面活性剤がドデシル硫酸ナトリウム(SDS)である上述の方法を含むこともできる。
【0032】
本発明の方法は、前記1種または複数のタンパク質の前記変性が、前記1種または複数のタンパク質の少なくとも1つのリジンアミノ酸を変性させることを含む、上述の方法を含むこともできる。
【0033】
本発明の方法は、前記1種または複数のタンパク質の前記変性が、前記1種または複数のタンパク質の少なくとも1つのアルギニンアミノ酸を変性させることを含む、上述の方法を含むこともできる。
【0034】
本発明の方法は、前記アルギニンアミノ酸の前記変性が1,2−シクロヘキサンジオンを含む、上述の方法を含むこともできる。
【0035】
本発明の方法は、前記1種または複数のタンパク質が全正電荷を保持するように変性する、上述の方法を含むこともできる。
【0036】
本発明によれば、問題になっているタンパク質をサンプルから抽出するための方法は、a)少なくとも1つの常磁性粒子を前記サンプルに添加するステップと、b)前記少なくとも1つの常磁性粒子を前記サンプルに接触させて、前記問題となっているタンパク質と前記少なくとも1つの常磁性粒子との間に粒子−タンパク質錯体を形成するステップと、c)前記錯体を、第1の磁場を印加することによって固定化するステップと、d)前記第1の磁場によって固定化されていない材料を前記サンプルから除去するステップと、e)前記第1の磁場を残りの材料から除去して、前記固定化された錯体を解放するステップと、f)前記錯体を解離させて、前記問題となっているタンパク質および前記常磁性粒子を含む抽出溶液を生成するステップと、g)前記常磁性粒子を前記抽出溶液から分離するステップであって、前記分離された抽出溶液が前記問題となっているタンパク質を含んでいるステップとを含む。
【0037】
問題となっている1種または複数のタンパク質、および問題となっていない1種または複数のタンパク質を含有するサンプルを分別するための方法は、本発明の別の態様によれば、a)粒子−タンパク質錯体が前記少なくとも1つの常磁性粒子と前記問題となっていない1種または複数のタンパク質との間に形成されるように、第1の電荷を有する少なくとも1つの常磁性粒子を前記サンプルに添加するステップであって、前記問題となっていない1種または複数のタンパク質は、前記少なくとも1つの常磁性粒子とは反対の第2の電荷を有するものであるステップと、b)前記錯体を、磁場を印加することによって固定化するステップと、c)前記磁場によって固定化されていないサンプル部分を、前記固定化された錯体から分離するステップであって、前記分離されたサンプル部分が前記問題となっている1種または複数のタンパク質を含有するものであるステップとを含むことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
本発明は、粗製生体サンプル溶液からタンパク質を抽出するための物質の独自の組成物およびその使用方法に関する。本発明は、常磁性粒子とは反対の電荷を有するタンパク質を結合するために、帯電した常磁性粒子を使用する。本発明は、宿主細胞または微生物から核酸を放出する前に、サンプルからタンパク質を除去するのに使用することができる。この技法は、タンパク質を含まない核酸製剤が必要である場合に役に立つ。同様に本発明は、タンパク質結合条件を操作することによって、総タンパク質サンプル集団のサブセットを抽出するのに使用することができる。これらの目的で本発明を使用することにより、2つの個別の使用がもたらされ、すなわち(1)問題となっているタンパク質を結合し、問題となっていないタンパク質を含有する可能性のある未結合サンプルを廃棄し、結合タンパク質を溶出してさらなる分析にかけること、または(2)問題となっていないタンパク質を、問題となっているタンパク質を含有するサンプルから除去し、これを引き続き分離してさらなる分析にかけることである。
【0039】
常磁性粒子が、例えば電荷を保持する場合、これらの荷電粒子は、常磁性粒子とは反対の全電荷を有するタンパク質分子に可逆的に結合することができる。したがって粒子およびタンパク質は、結合してタンパク質および粒子の錯体を形成する。
【0040】
電荷は、いくつもの方法で常磁性粒子に結合することができ、本発明は、電荷と粒子との結合方法により限定されない。例えば電荷は、荷電リガンドを常磁性粒子に結び付けることによって、常磁性粒子に結合することができる。リガンドには、抗体、ハプテン、および受容体が含まれるが、これらに限定するものではない。別の実施形態では、電荷は、粒子を取り巻く環境のpHを操作することによって、すなわちpHを増減させることによって、またはそのイオン強度を操作することによって、常磁性粒子に結合することができる。どちらの例においても、常磁性粒子上の全電荷を、溶媒環境のリガンド(陰イオン性または陽イオン性)またはpHに応じて正または負にすることができる。
【0041】
特定の理論に拘泥することを望むものではないが、電荷を結合するのに酸を使用する場合、その酸性環境によって、強磁性粒子の金属部分の電気陽性的性質が増大すると考えられる。また、低pH状態によって、例えばタンパク質またはポリペプチド中の目標化合物の負荷電部あるいはグルタミン酸およびアスパラギン酸の高含量領域に対する粒子の結合性が増大すると考えられる。
【0042】
本明細書で使用する「常磁性粒子」という用語は、磁場に置かれたときに、これらの粒子に与えられた磁気モーメントを有することが可能な粒子を意味する。典型的な場合、この粒子は、金属の鉄、コバルト、またはニッケルからなるが、これらは、常磁性状態で存在すると同時に基底状態またはゼロ酸化状態にあることが知られている唯一の元素である。これら3種の金属の他に、有機および有機金属化合物も常磁性を有することができ、したがって使用することもできる。常磁性粒子は、磁場に置かれたときに、この磁場の作用によって動くことができる。そのような動きは、結合タンパク質分子をサンプル処理プロトコルまたはその他の操作で動かすのに有用である。したがって、常磁性粒子に結合したタンパク質分子は、タンパク質サンプルを保持するレセプタクルの内部に固定化することができ、あるいは、直接的な接触を最小限に抑えた状態で、異なる試薬および/または条件に曝すために異なる領域に動かすことができる。
【0043】
本発明で有用な常磁性粒子は、複雑な構造である必要はない。適切な常磁性粒子には鉄粒子が含まれるが、これに限定するものではなく、また鉄は、水性環境内での溶解度が低い水酸化第二鉄および酸化第一第二鉄などであるがこれらに限定することのない形の酸化鉄でよい。硫化鉄および塩化鉄などのその他の鉄粒子は、本明細書に記述される条件を使用してタンパク質を結合し抽出するのに適切とも考えられる。
【0044】
同様に、常磁性粒子の形状は、本発明にそれほど重要ではない。常磁性粒子は、例えば、球状、立方体、卵形、カプセル形、錠剤形、特徴のないランダムな形などを含めた様々な形状のものでよく、均一な形状または不均一な形状のものでよい。強磁性粒子の形がどのようであろうと、最も幅が広い点での直径は、一般に約0.05μmから約50μmの範囲内であり、特に約0.1から約0.3μmの範囲内である。
【0045】
電荷を強磁性粒子または目標化合物に結合するのに酸またはイオン強度を使用する場合、pHまたはイオン強度は、様々な手段を通して提供することができる。例えば、強磁性粒子を酸性溶液に添加することができ、または酸性溶液を粒子に添加することができる。あるいは、強磁性粒子が位置付けられている溶液または環境は、塩酸、硫酸、リン酸、酢酸、クエン酸などの酸性化剤を添加することによって酸性化することができる。
【0046】
強磁性粒子が位置付けられている環境のpHが約7.0未満であるならば、この粒子は、全負電荷を有する目標分子に可逆的に結合することになる。さらに、強磁性粒子(リガンドまたは官能基は結合していない)のタンパク質結合能力は、pHの低下と共に増大する。あるいは、溶液が中性またはそれよりも高いpHに近付き、かつ強磁性粒子上の全電荷が負になるにつれ、正に帯電したタンパク質を結合することができる。以下の実施例1に示すように、強磁性粒子、酸化第一第二鉄の最適な抽出は、3〜4および9〜10の間のpH範囲で生ずる。
【0047】
上述のように、酸性環境では、酸化第二鉄粒子などの正に帯電した常磁性粒子が、負に帯電したタンパク質分子に結合することになる。したがって、本明細書に記述される方法は、電荷に基づいてタンパク質を分別するのに使用することができる。本発明の一実施形態では、試薬をサンプルに添加して、全負電荷をサンプルのタンパク質に付与することができ、次いでこれを、正に帯電した常磁性粒子に結合することができる。例えば、リジン残基を、シトラコニル化によって可逆的に変性させることができる。同様に、アルギニン残基を、1,2−シクロヘキサンジオンにより変性させることができる。タンパク質に負電荷を導入するその他の手段には、マレイル化、トリフルオロアセチル化、スクシニル化、およびテトラフルオロスクシニル化が含まれる。ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)などの様々な界面活性剤を使用することもできる。
【0048】
別の実施形態では、タンパク質に全正電荷を付与し、それによって結合を防止するために、タンパク質の変性を使用することもできる。このタンパク質変性は、タンパク質サンプルを分別する別の手段を付加することによって、抽出効率および生成物の純度を改善するのに行うことができる。したがって、結合されるタンパク質以外の材料は、負に帯電した常磁性試薬に結合しないように、正に帯電させることができる。正に帯電した材料は、常磁性付加物により保持される結合タンパク質から抽出できるように、溶液状態のままになる。そのような分離は、遠心分離、濾過、または磁力を加えることなど、当業者に知られる手段によって実現することができる。
【0049】
タンパク質分子が結合したら、これを適切な緩衝液中に溶出して、様々な分析技法によるさらなる操作または特徴付けを行うことができる。溶出は、加熱しかつ/またはpHを上昇させることによって実現することができる。常磁性粒子からタンパク質を溶出するのに使用することができる物質には、正に帯電したタンパク質が粒子から離れるように、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、または環境のpHを上昇させる任意の化合物などの塩基性溶液が含まれるが、これらに限定するものではない。
【0050】
以下の実施例は、この文書に記述される本発明の特定の実施形態を示す。当業者に明らかにされるように、様々な変更および修正が可能であり、これらは記述される本発明の範囲内に包含されるものとする。
【実施例】
【0051】
(実施例1)
酸化第一第二鉄を使用するヒト血漿サンプルからのタンパク質の抽出
この実施例は、自動プラットホームを使用して、ヒト血漿サンプルからタンパク質を抽出するために、様々なpHの酸化第一第二鉄を使用することができるかどうかを決定するために行った。
【0052】
この実施例で使用した材料は、下記の通りであった:
(1)ヒト血漿サンプル
(2)500mMサンプル緩衝液
(a)リン酸、pH2;
(b)クエン酸、pH3;
(c)クエン酸、pH4;
(d)クエン酸、pH5;
(e)クエン酸、pH6;
(f)ホルフェート、pH7;
(g)ビシン、pH8;
(h)ビシン、pH9;
(i)Caps、pH10;または
(j)Caps、pH11
(3)酸化第一第二鉄
(4)抽出ブロックを備えたBC Viper
(5)Baker試験片
【0053】
10種の緩衝溶液のそれぞれを、ヒト血漿と1:1で混合した。10種の緩衝溶液は、蒸留水とも1:1で混合した。10種の緩衝液:血漿および10種の緩衝液:水のサンプルのそれぞれの一定分量(800μl)を、酸化第一第二鉄100mgがそれぞれ入っている抽出試験管内に入れた。タンパク質と酸化第一第二鉄との結合は、溶液のpHに依存する。試験管を、引き続きBD Viper(商標)抽出ブロック(Becton,Dickinson and Company)に導入した。各試験管を、45回の自動吸引混合にかけて、混合物を均質化し、それによって、血漿タンパク質と酸化第一第二鉄との錯体形成を促進させた。次いでタンパク質/酸化第一第二鉄錯体を、BD Viper(商標)抽出ブロックに一体化された磁石を使用して、抽出試験管の壁面内に固定化した。サンプル(200μl)を、抽出溶液のそれぞれから採取し、マルチウェル収集機器の空のウェルに入れた。処理済みの抽出溶液を、500mM KPO4緩衝液中で1:25に希釈して、280nmでの分光法を使用した正確な吸光度分析を可能にした。
【0054】
【表1】

【0055】
pH3以下の緩衝液では、最小限のタンパク質抽出が観察された。抽出は、4〜5のpH範囲で最適であり、より少ない程度では、抽出が9〜10のpH範囲内で観察された。タンパク質抽出の顕著な減少は、より中性を示すpH範囲(例えば6〜8)、およびより塩基性を示す状態(例えば11以上のpH範囲)で示された。
【0056】
本発明について、若干の特異性と共に述べてきたが、当業者に明らかな修正を、本発明の範囲から逸脱することなく行うことができる。本発明の様々な特徴を、以下の特許請求の範囲に述べる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)鉄、ニッケル、およびコバルトからなる群から選択された金属;酸化鉄、硫化鉄、塩化鉄、水酸化第二鉄、酸化第一第二鉄、コバルト化合物、およびニッケル化合物からなる群から選択された金属化合物;および有機金属化合物を含む少なくとも1つの常磁性粒子を、1種または複数のタンパク質を含むサンプルに添加するステップであって、前記タンパク質の少なくとも1種が第1の電荷を有するものであるステップと、
b)第2の電荷を少なくとも1つの常磁性粒子に結合するステップであって、第2の電荷は、少なくとも1つの常磁性粒子およびタンパク質がタンパク質−粒子錯体を形成することが可能になるように、第1の電荷とは反対のものであるステップと、
c)錯体を、第1の磁場を印加することによって固定化するステップと、
d)第1の磁場によって固定化されていない材料をサンプルから除去するステップと、
e)第1の磁場を残りの材料から除去して、固定化された錯体を解放するステップと、
f)錯体が解離するように、前記少なくとも1つの常磁性粒子上の第2の電荷を変化させるステップと、
g)第2の磁場を印加して、少なくとも1つの常磁性粒子を固定化するステップと、
h)前記タンパク質を残りの材料から抽出するステップと
を含むことを特徴とするサンプルからタンパク質を抽出するための方法。
【請求項2】
前記第2の電荷を常磁性粒子に結合させるために、酸を使用するステップをさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
常磁性粒子は、結合電荷を有する酸化鉄であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
本発明は、結合した第2の電荷が全正電荷である上述の方法を含むこともできることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】
第2の電荷を常磁性粒子に結合するために、リガンドの結合を使用するステップをさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項6】
全負電荷を保持するように1種または複数のタンパク質を変性させるステップをさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項7】
1種または複数のタンパク質の変性は、シトラコニル化、マレイル化、トリフルオロアセチル化、テトラフルオロスクシニル化、スクシニル化、およびこれらの組合せからなる群から選択された変性を含むことを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
1種または複数のタンパク質の変性は、界面活性剤の添加を含むことを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項9】
界面活性剤はドデシル硫酸ナトリウム(SDS)であることを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項10】
1種または複数のタンパク質の変性は、1種または複数のタンパク質の少なくとも1つのリジンアミノ酸を変性させるステップを含むことを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項11】
1種または複数のタンパク質の変性は、1種または複数のタンパク質の少なくとも1つのアルギニンアミノ酸を変性させるステップを含むことを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項12】
アルギニンアミノ酸の変性は、1,2−シクロヘキサンジオンを含むことを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項13】
1種または複数のタンパク質は全正電荷を保持するように変性させることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項14】
a)少なくとも1つの常磁性粒子をサンプルに添加するステップと、
b)前記少なくとも1つの常磁性粒子をサンプルに接触させて、問題となっているタンパク質と少なくとも1つの常磁性粒子との間に粒子−タンパク質錯体を形成するステップと、
c)錯体を、第1の磁場を印加することによって固定化するステップと、
d)第1の磁場によって固定化されていない材料をサンプルから除去するステップと、
e)第1の磁場を残りの材料から除去して、固定化された錯体を解放するステップと、
f)錯体を解離させて、問題となっているタンパク質および常磁性粒子を含む抽出溶液を生成するステップと、
g)常磁性粒子を抽出溶液から分離するステップであって、分離された抽出溶液が問題となっているタンパク質を含んでいるステップと
を含むことを特徴とする問題となっているタンパク質をサンプルから抽出するための方法。
【請求項15】
a)粒子−タンパク質錯体が少なくとも1つの常磁性粒子と問題となっていない1種または複数のタンパク質との間に形成されるように、第1の電荷を有する少なくとも1つの常磁性粒子をサンプルに添加するステップであって、問題となっていない1種または複数のタンパク質は、少なくとも1つの常磁性粒子とは反対の第2の電荷を有するものであるステップと、
b)錯体を、磁場を印加することによって固定化するステップと、
c)磁場によって固定化されていないサンプル部分を、固定化された錯体から分離するステップであって、分離されたサンプル部分が問題となっている1種または複数のタンパク質を含有するものであるステップと
を含むことを特徴とする問題となっている1種または複数のタンパク質および問題となっていない1種または複数のタンパク質を含有するサンプルを分別するための方法。

【公表番号】特表2008−511816(P2008−511816A)
【公表日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−524885(P2007−524885)
【出願日】平成17年8月1日(2005.8.1)
【国際出願番号】PCT/US2005/027208
【国際公開番号】WO2006/017427
【国際公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【出願人】(595117091)ベクトン・ディキンソン・アンド・カンパニー (539)
【氏名又は名称原語表記】BECTON, DICKINSON AND COMPANY
【住所又は居所原語表記】1 BECTON DRIVE, FRANKLIN LAKES, NEW JERSEY 07417−1880, UNITED STATES OF AMERICA
【Fターム(参考)】