説明

サージ前兆保護システムおよび方法

【課題】翼通過周波数付近のパワー変化の測定による圧縮機内のサージ前兆検出および保護のためのシステムおよび方法を提供する。
【解決手段】本出願では、圧縮機(100)をモニタリングする方法が提供される。本方法は、翼通過周波数を求めるステップと、翼通過周波数上下のいくつかの周波数に対してパワー表示を求めるステップと、いくつかの所定の時間間隔に対して周波数に対する最大パワー表示と最小パワー表示との間の比率を求めるステップと、各所定の時間間隔に対する比率を解析して圧縮機(100)のサージ状態(330)を予測するステップと、を含んでいても良い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は一般的に、ガス・タービン・エンジンなどに関し、より詳細には、翼通過周波数付近のパワー変化の測定による圧縮機内のサージ前兆検出および保護のためのシステムおよび方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガス・タービン・エンジンの圧縮機圧力比は一般的に、不安定な圧縮機動作を回避するために、サージ/失速限界から離れている事前に指定されたマージンに設定される(サージ・マージンまたは失速マージンと言われる)。パワー発生および他の目的のために用いられるガス・タービン・エンジンでは、システム効率を高くするためには一般的に、圧縮機圧力比を高くする必要がある。しかし、このように圧力比を高くすることは、運転上のサージ/失速マージンを小さくする必要が、したがってサージまたは失速状態が現れ始めた場合の応答時間を短くする必要がある場合がある。
【0003】
圧縮機のサージまたは失速検出に対する1つのアプローチは、圧縮機を通る空気流および圧力上昇を測定することによって圧縮機の調子をモニタリングすることである。これらの圧力変化は、いくつかの異なる原因(たとえば不安定燃焼、旋回失速、および圧縮機自体上でのサージ事象など)に起因すると考えられる。これらの圧力変化を求めるために、圧縮機を通る圧力上昇の大きさおよび変化率をモニタリングする場合がある。しかし、このアプローチには、旋回失速またはサージを予測する能力はない。また、このアプローチでは、このような事象に積極的に対処するためにリード・タイムが十分な状態で制御システムに情報をリアル・タイムで提供することができない場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許6,532,433号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、サージ事象の前兆の検出および保護を行なうためのシステムおよび方法の改善が求められている。このようなシステムおよび方法によって、適切に応答して圧縮機に対する損傷を回避するためにリード・タイムが十分な状態で、実際のサージ事象自体の前に圧縮機内でのサージ可能性の程度が求められる場合がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
したがって、本出願では、圧縮機をモニタリングする方法を提供する。本方法は、翼通過周波数を求めるステップと、翼通過周波数上下のいくつかの周波数に対してパワー表示を求めるステップと、いくつかの所定の時間間隔に対して周波数に対する最大パワー表示と最小パワー表示との間の比率を求めるステップと、各所定の時間間隔に対する比率を解析して圧縮機のサージ状態を予測するステップと、を含んでいても良い。
【0007】
本出願ではさらに、圧縮機システムを提供する。本システムは、ロータの速度信号を取得するための速度センサと、いくつかの動圧信号を取得するための圧力センサと、速度信号から翼通過周波数を求めて、翼通過周波数上下のいくつかの周波数に対する動的なパワー信号に基づいてサージ表示信号を求めるように構成されたコントローラと、を備えていても良い。
【0008】
本出願ではさらに、圧縮機内のサージ状態をモニタリングする方法を提供する。本方法は、ロータ速度信号に基づいて翼通過周波数を求めるステップと、いくつかの動圧信号に基づいて翼通過周波数上下のいくつかの周波数に対してパワー表示を求めるステップと、所定の時間間隔に対して周波数に対する最大パワー表示と最小パワー表示との間の比率を求めるステップと、各所定の時間間隔に対する比率を解析して圧縮機のサージ状態を予測するステップと、サージ表示信号を圧縮機に与えるステップと、を含んでいても良い。
【0009】
本出願のこれらおよび他の特徴および改善は、以下の詳細な説明を複数の図面および添付の請求項とともに検討したときに、当業者に明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】既知の圧縮機の一部の断面図である。
【図2】本明細書で説明される場合がある圧縮機モニタリング・システムの概略図である。
【図3】本明細書で説明される場合がある圧縮機モニタリング用の高速フーリエ変換解析を示すフロー・チャートである。
【図4】翼通過周波数付近のパワー変化の高速フーリエ変換表現である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
一般的に述べて、非常に効率的なガス・タービン・エンジンにおいては、高い電力出力が比較的低コストで生成される。したがって、このような非常に効率的なガス・タービン・エンジン内の圧縮機は、高い燃焼温度に対応するサイクル圧力比が生じるように運転される場合がある。前述したように、圧縮機を用いて高い燃焼温度または高いサイクル圧力比を生じさせると、圧縮機は空力不安定(たとえば、失速および/またはサージ状態など)を受ける場合がある。圧縮機がこのような失速および/またはサージ状態を受けると、圧縮機およびガス・タービン・エンジン全体の構成部品および運転効率に影響を与える場合がある問題が生じることがある。
【0012】
次に、図面(複数の図の全体に渡って同様の数字は同様の要素を指す)を参照して、図1は、本明細書で説明される場合がある圧縮機システム100の一部を示す。圧縮機システム100はロータ110およびステータ120を備えていても良い。空気の流れ130は、ロータ110とステータ120との間で次第に圧縮される場合がある。通常、このような圧縮機システム100では、多段圧縮として、ステータ120を、空気の流れ130を用意しおよび/またはロータ110から後続のロータもしくはプレナムへ再び向けるように構成しても良い多段圧縮を用いても良い。本明細書では他のタイプの圧縮機構成を用いても良い。
【0013】
圧縮機システム100はまた、内部にいくつかのセンサ140を備えていても良い。センサ140は、失速および/またはサージ状態を示す場合があるいくつかの圧縮機動作パラメータを検知しても良い。具体的には、センサ140は、たとえば、ロータ110の回転速度を検出するように構成された速度センサ150と、ロータ110の周りで圧力を動的に検出するように構成された圧力センサ160と、を含んでいても良い。本明細書では、他のタイプのセンサ140および他のタイプの動作パラメータを使用し検出しても良い。
【0014】
図2に示すのは、本明細書で説明される場合があり、圧縮機システム100とともに用いても良い圧縮機コントローラ170である。圧縮機コントローラ170は、フィルタ180、記憶媒体190、信号プロセッサ200、およびサージ表示器210を備えていても良い。本明細書では他の構成部品を用いても良い。コントローラ170を、速度センサ150と通信状態にさせてロータ速度信号220を得るようにしても良く、また圧力センサ160と通信状態にさせて動圧信号230を得るようにしても良い。本明細書では、他のタイプの信号を用いても良い。
【0015】
フィルタ180は、これらの信号220、230を受信するとともに、検知したパラメータから望ましくない成分(たとえば、高周波ノイズなど)を取り除くように構成しても良い。本明細書では、他のタイプのフィルタリングを用いても良い。後に詳細に説明するように、フィルタリングされたデータをある時間に渡ってバッファリング(または記憶)することを、移動ウィンドウの間のサンプル・レートに渡って行なっても良い。一例では、移動ウィンドウは約8(8)秒間の時間に渡って生じる。本明細書では、他のウィンドウ長さを用いても良い。
【0016】
記憶媒体190を、フィルタリングおよび/またはバッファリングされたデータを記憶するように構成しても良い。信号プロセッサ200を、記憶媒体190に結合しても良く、またバッファリングされたデータの高速フーリエ変換解析を算出してサージの可能性を求めるように構成しても良い。後に詳細に説明するように、信号プロセッサ200は、ロータ速度信号220を翼通過周波数に変換する速度周波数コンバータ202を備えていても良い。翼通過周波数は、機械速度とローター翼の数との積であっても良い。信号プロセッサ200はまた、2乗平均平方根(RMS)コンバータ206を備えていても良い。RMSコンバータ206は、動圧信号230の2乗平均平方根を算出しても良い。サージ表示器210を、信号プロセッサ200に結合しても良く、またサージの可能性が求まったことに応答してサージ表示信号240を発生させるように構成しても良い。サージ表示信号240を、圧縮機システム100全体に結合して、サージの可能性が検出された場合の是正処置(たとえばシャットダウン)および他の処置を図っても良い。
【0017】
図3に示すのは、一つにはロータ速度信号220および動圧信号230に基づいてサージ表示信号240を求めるために用いても良い高速フーリエ変換解析250を示すフロー・チャートである。ブロック260において、翼通過周波数を、速度センサ150によって生成され速度周波数コンバータ202によって変換されるロータ速度信号220から求める。ブロック270では、パワー表示を、動圧信号230を介して、翼通過周波数上下の周波数帯域に対して求める。パワー表示は、2乗平均平方根コンバータ206によって求められる動圧信号230の2乗平均平方根であっても良い。この例では、翼通過周波数上下の約24〜約40ヘルツの周波数帯域に対して、パワー表示を求めても良い。本明細書では、他の範囲を用いても良い。これらの周波数帯域におけるパワー表示を、約1秒間に1回モニタリングしても良い。本明細書では、他のモニタリング・レートを用いても良い。
【0018】
ブロック280では、約8(8)秒間の間の各周波数に対してパワー表示のウィンドウを集めても良い。したがって、このウィンドウは、翼通過周波数の周りの各周波数におけるパワーの8(8)秒間の時間履歴である。ブロック290では、最小パワー表示および最大パワー表示を、ウィンドウ内の各周波数に対して求める。ブロック300において、最大パワー表示対最小パワー表示の比率を各周波数に対して求める。ブロック310では、比率のうち最大比率を求める。その結果、大きさに応じて、最大比率はサージ表示信号240として機能する場合がある。ブロック320では、ウィンドウを約1秒あたり1回のレートで更新しても良い。他の更新レートを用いても良い。
【0019】
図4に示すのは、翼通過周波数付近のパワー変化の高速フーリエ変換解析250の表現である。約t=1200秒において、比率のうち最大比率は、実質的に、先行する時間枠(t=0〜1200秒)の約50%〜400%のオーダーで増加している。図示するように、比率のうち最大比率の発生が頻繁になるほど、パワーの相対的変化があった場合にサージの可能性がより強く存在し得る。加えて、比率の大きさの違いが大きくなるほど、パワーの相対的変化があった場合にサージの可能性がより強く存在し得る。この場合、サージ330が約1600秒で起こっている。ここでは、比率のうちの最大比率の大きさが、直前の400秒間の先行する比率のうちの最大比率の大きさの2倍超だけ大きくなっている。大きさに応じて、これらのスパイクのうちの1つ(またはそれらの組み合わせ)が、サージ表示信号240として機能しても良い。
【0020】
このように、高速フーリエ変換解析250によって、圧縮機システム100のコントローラ170の、所望の速度設定点を維持する能力が測定される。サージ状態が現れ始めると、コントローラ170は、設定点を維持する能力を失う場合がある。これは、翼通過周波数付近においてパワーの変化が大きくなることによって示される。こうして、高速フーリエ変換解析250によって、圧縮機システム100の安定性(または安定性が無いこと)が示される。したがって、サージ表示信号240を適時に用いることによって、潜在的な圧縮機損傷が回避される場合がある。
【0021】
優位に、圧縮機動作パラメータを長期に渡って高速フーリエ変換解析することによって、現在の解析および操作手順の欠点が軽減される場合がある。さらに、高速フーリエ変換解析は、異常な圧力変動を正確に捕らえるのに役立つ場合があり、したがって、スケーリング因子などを用いることによる誤った圧力サージを最小限にする場合がある。また、これら前述の優位性は、圧縮機がサージを受けるかまたは失速する前にサージおよび/または失速状態の始まりを正確に予測するのに有用な場合があり、したがって、予測に基づいて動作パラメータを適切に制御することによって圧縮機を損傷から保護する場合がある。
【0022】
前述したことは、本出願のある特定の実施形態のみに関しており、本明細書において、多数の変形および変更を、以下の請求項によって規定される本発明の一般的な趣旨および範囲ならびにその均等物から逸脱することなく当業者が行なっても良いことは明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮機(100)をモニタリングする方法であって、
翼通過周波数を求めることと、
前記翼通過周波数上下の複数の周波数に対してパワー表示を求めることと、
複数の所定の時間間隔に対して前記複数の周波数に対する最大パワー表示と最小パワー表示との間の比率を求めることと、
各所定の時間間隔に対する前記比率を解析して前記圧縮機(100)のサージ状態(330)を予測することと、を含む方法。
【請求項2】
翼通過周波数を求める前記ステップは、ロータ速度信号(220)を取得して前記ロータ速度信号(220)を翼通過周波数に変換することを含む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
パワー表示を求める前記ステップは、動圧信号(230)を取得することを含む請求項1に記載の方法。
【請求項4】
パワー表示を求める前記ステップは、前記動圧信号(230)の2乗平均平方根を取得することを含む請求項3に記載の方法。
【請求項5】
複数の所定の時間間隔に対して前記複数の周波数に対する最大パワー表示と最小パワー表示との間の比率を求める前記ステップは、前記比率を約1秒間に1回求めることと、複数の比率をウィンドウにまとめることと、を含む請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記複数の比率をまとめる前記ステップは、前記複数の比率を約8(8)秒のウィンドウにまとめることを含む請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記ウィンドウを更新するステップをさらに含む請求項5に記載の方法。
【請求項8】
各所定の時間間隔に対する前記比率を解析して前記圧縮機(100)のサージ状態(330)を予測する前記ステップは、複数の最大比率を取得して、前記複数の最大比率のうちの1つをサージ表示信号(240)として与えることを含む請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記サージ表示信号(240)を前記圧縮機(100)に与えるステップをさらに含む請求項8に記載の方法。
【請求項10】
高速フーリエ変換解析(250)表現を生成するステップをさらに含む請求項1に記載の方法。
【請求項11】
ロータ(110)の速度信号(220)を取得するための速度センサ(150)と、
複数の動圧信号(230)を取得するための圧力センサ(160)と、
前記速度信号(220)から翼通過周波数を求めて、前記翼通過周波数上下の複数の周波数に対する前記複数の動的なパワー信号(230)に基づいてサージ表示信号(240)を求めるように構成されたコントローラ(170)と、を備える圧縮機システム(100)。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate