説明

サーボプレス機械

【課題】過負荷状態を防止しつつ生産性を最大的に向上させる。
【解決手段】サーボプレス機械において、許容最大モータトルク記憶手段と、成形時最大モータトルク検出手段と、検出トルク過大判別手段および長期化補正制御手段と、検出トルク過小判別手段および短期化補正制御手段とを設け、検出された成形時最大モータトルクが記憶された許容最大モータトルクよりも大きいと判別された場合にスライドモーション情報の立上げ時間を長期化補正可能かつ検出成形時最大モータトルクが記憶許容最大モータトルクよりも小さいと判別された場合に立上げ時間を短期化補正可能に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スライドモーション情報に基づきサーボモータを回転駆動可能かつスライド駆動機構を介してサーボモータの回転運動をスライドの昇降運動に変換しつつプレス成形可能に形成されたサーボプレス機械に関する。
【背景技術】
【0002】
サーボモータを用いたプレス機械(サーボプレス機械)では、各種スライドモーションを容易に設定(乃至選択)変更することができる(例えば、特許文献1)。スライドを一時停止、正逆回転により昇降反転もできるから、プレス成形態様に対する適応性を拡大できかつ高品質製品を生産することができる。
【0003】
かかるサーボプレス機械は、モータ回転制御部が、予め設定(乃至選択)されたスライドモーション情報(モーション指令信号)にしたがってサーボモータを回転制御する。スライド駆動機構は、モータ回転により発生されるモータ回転動力を入力として、スライドを駆動する。スライド駆動機構としては、偏心駆動機構、リンク駆動機構あるいはねじ駆動機構が知られている。構造(機能)上の観点から偏心駆動機構(クランク機構や偏心軸構造)が採用される場合が多い。いずれの場合でも、スライドモーション情報は、行程(時間乃至角度)ごとのスライド位置として規定(作成)される。
【0004】
図6はクランク機構の場合で、スライドモーション情報である軌跡Rspに従ってスライド位置は上死点(位置Pu)から下死点(位置Pl)に向かって下降され、再び上死点に向かって上昇される。スライド速度は軌跡Rsvで示される。すなわち、横軸の時刻t0(0.0秒)からスライドの下降を開始させる。時刻t1(約1.1秒)の直前にスライドの下降速度をソフトタッチ用の低速に落とす。時刻t2(約2.0秒)で下死点に到達し、時刻t3(約3.6秒)で上死点に戻る。つまり、1行程(生産サイクル)は、3.6秒である。なお、軌跡Rspは、モータ回転数が一定である従来のプレス機械の場合(いわゆるサイン波形状)と全く同じではない。つまり、スライドモーションを自由に設定変更されていると理解できる。
【0005】
図6において、スライドモーション(軌跡Rsp)に対応するモータ回転数(速度)は軌跡Rmrで、時刻t1の直前からソフトタッチさせるために低速に制御されている。モータトルク(軌跡Rmt)は落ちる。その後に成形領域(この場合は、時刻t1〜t2)に入る。例えば深絞り成形の場合、品質向上のためにスライド速度が低速で運転される。成形終了直後(時刻t2経過後)から加速軌跡Rmrinにしたがって立上げられ高速(許容最大回転数Mvmax)とされる。
【0006】
なお、速度制御性の向上策の一つとしては、運転中に変動する負荷イナーシャを高精度で推定(演算)しかつ速度制御用定数を自動修正する装置が提案(特許文献2)されている。
【0007】
モータトルク(軌跡Rmt)は、成形負荷(荷重)の発生する時刻t1までの最小的な値から急激に増大され、成形時最大モータトルクTamaxとなる。成形終了(時刻t2)で小値に戻される。その後、回転速度の加速(軌跡Rmrin)に必要なトルク分だけ増大される。太点線で示された許容最大モータトルク(Tsmax)は、サーボモータの成形時に許容される最大のモータトルクであり、サーボモータ自身の容量はもとよりモータ回転制御部(位置速度制御部、電流制御部等を含む。)の容量もこのモータトルクに相応するものとして選択されている。
【特許文献1】特開2003−205395号公報
【特許文献2】特開2001−352773号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、低速成形により一段の品質向上を目指しつつ、成形領域外では最大のモータ回転数(Mvmax)として1行程(スライド昇降)に要する時間を短くする。つまり、生産性を高めるように努める運転がなされるのが一般的である。
【0009】
特に、運用上の実際においては、例えば図6に示す生産サイクル[(t0〜t3)=3.6秒]から図7に示す3.25秒に短縮して運転したいと要求される場合がある。この際、作業員は、スライドモーション情報(Rsp)を設定変更する。
【0010】
図7において、加速軌跡Rmrinは図6の場合に比較して早めに移行されている。例えば、成形開始時(時刻t1)乃至その直後のスライド速度が低速でありさえすれば所定の成形品質を担保することができるから、図6のように成形終了時(時刻t2)まで連続して低速状態を維持する必要がないとする考え方を持つ場合である。
【0011】
しかし、この考え方は、金型・製品に変更がないのだから最大的な動力(荷重)ひいてはモータ負荷(トルク)は同じ値であることを前提とするもので、問題が多い。つまり、サーボモータに掛かるトルクが、サーボモータ軸に直結されたイナーシャJを回転させるためのトルクTjと負荷Mを加速させるトルクTmと負荷Mにかかる重力Gを支えるトルクTgとの和であるとすれば、時刻t1直後からトルクTjに重畳される加速分トルクTmの影響を無視するに等しいからである。
【0012】
すなわち、生産性の向上のみに執着した運転を強行すると、成形時の最大モータトルクTamaxが、図7に示すようにプレス能力[許容最大モータトルク(Tsmax)]を超えた過負荷状態でプレス運転することになってしまう。つまり、運転条件が不適正状態である。これを放置すると、円滑な成形運転が妨げられるほか、サーボモータ、モータ回転制御部、さらに電源装置がモータトルクオーバーによる直接あるいは間接的に保護装置が作動してプレス機械が停止する。
【0013】
他方において、トルクTmの影響による不都合発生の完全回避を願う場合、あるいはトルクTmの影響および不都合発生問題を不知とする場合には、いわば必然的に成形終了後から加速(Rsp)するスライドモーション(運転条件)を設定するので、余裕状態(モータトルクが小さい。)ではあるが、生産性が低いまま運用される虞がある。金型や製品の変更、成型態様が異なると、大幅な生産性低下となる場合が生じる。
【0014】
以上の不都合問題が発生するか否か、あるいは不都合問題が放置されているか否かは、プレス運転を実際に行なう作業員の経験や勘に依存されているので、その解決が強く望まれている。
【0015】
本発明の第1の目的は、運転以前に運転条件を適正状態に確立可能でかつ運転中の生産性を向上することができるサーボプレス機械を提供することにある。第2の目的は、運転中において運転条件を不適正状態から適正状態に補正可能でかつ運転中の生産性を最大的に向上させることができるサーボプレス機械を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
請求項1の発明に係るサーボプレス機械は、スライドモーション情報に基づきサーボモータを回転駆動可能かつスライド駆動機構を介してサーボモータの回転運動をスライドの昇降運動に変換しつつプレス成形可能に形成されたサーボプレス機械において、サーボモータの成形時に許容される最大モータトルクとして設定された許容最大モータトルクを記憶する許容最大モータトルク記憶手段と、設定された成形データを記憶する成形データ記憶手段と、設定された荷重データを記憶する荷重データ記憶手段と、設定記憶された成形データと荷重データとを用いて成形時における最大モータトルクを算出する成形時最大モータトルク算出手段と、算出された成形時最大モータトルクが記憶された許容最大モータトルクよりも大きいか否かを判別する算出トルク過大判別手段と、算出成形時最大モータトルクが記憶許容最大モータトルクよりも大きいと判別された場合に成形データ記憶手段に記憶されている成形データの中の速度データについての立上げ時間の長期化修正を指令する旨を出力する長期化修正指令出力手段と、を設けたことを特徴とする。
【0017】
請求項2の発明に係るサーボプレス機械は、請求項1の発明の場合と同様な許容最大モータトルク記憶手段と成形データ記憶手段と荷重データ記憶手段と成形時最大モータトルク算出手段とを設け、さらに算出された成形時最大モータトルクが記憶された許容最大モータトルクよりも小さいか否かを判別する算出トルク過小判別手段と、算出成形時最大モータトルクが記憶許容最大モータトルクよりも小さいと判別された場合に成形データ記憶手段に記憶されている成形データの中の速度データについての立上げ時間の短期化修正を許可する旨を出力する短期化修正許可出力手段と、を設けたことを特徴とする。
【0018】
また、請求項3の発明に係るサーボプレス機械は、スライドモーション情報に基づきサーボモータを回転駆動可能かつスライド駆動機構を介してサーボモータの回転運動をスライドの昇降運動に変換しつつプレス成形可能に形成されたサーボプレス機械において、サーボモータの成形時に許容される最大モータトルクとして設定された許容最大モータトルクを記憶する許容最大モータトルク記憶手段と、サーボモータの成形時における最大モータトルクを検出する成形時最大モータトルク検出手段と、検出された成形時最大モータトルクが記憶された許容最大モータトルクよりも大きいか否かを判別する検出トルク過大判別手段と、検出成形時最大モータトルクが記憶許容最大モータトルクよりも大きいと判別された場合にスライドモーション情報の中の速度データについての立上げ時間を長期化補正する長期化補正制御手段と、を設けたことを特徴とする。
【0019】
さらに、請求項4の発明に係るサーボプレス機械は、請求項3の場合と同様な許容最大モータトルク記憶手段と成形時最大モータトルク検出手段とを設け、さらに検出された成形時最大モータトルクが記憶された許容最大モータトルクよりも小さいか否かを判別する検出トルク過小判別手段と、検出成形時最大モータトルクが記憶許容最大モータトルクよりも小さいと判別された場合に前記スライドモーション情報の中の速度データについての立上げ時間を短期化補正する短期化補正制御手段と、を設けたことを特徴とする。
【0020】
さらに、請求項5の発明に係るサーボプレス機械は、請求項3の場合と同様な許容最大モータトルク記憶手段と成形時最大モータトルク検出手段と検出トルク過大判別手段と長期化補正制御手段とを設けかつ請求項4の場合と同様な検出トルク過小判別手段と短期化補正制御手段とを設け、さらに、検出トルク過小判別手段および短期化補正制御手段が、短期化補正実行宣言がなされていることを条件に動作可能に形成されている、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
請求項1の発明によれば、成形データ(速度データ)に関する立上げ時間を長期化する修正作業を適時にかつ簡単に行なえ、運転中における過負荷状態を未然防止することができる。すなわち、運転以前において運転条件を適正状態に確立することが可能となりかつ運転中の生産性を向上することができる。
【0022】
請求項2の発明によれば、成形データ(速度データ)に関する立上げ時間を短期化する修正作業を適時にかつ簡単に行なえ、サーボモータの発生トルクを記憶許容最大モータトルク以下に抑制しつつ低生産性状態を解消することができる。すなわち、運転以前において運転条件を適正状態に確立することが可能となりかつ運転中の生産性を最大的に向上させることができる。
【0023】
請求項3の発明によれば、運転中に成形データ(速度データ)に関する立上げ時間を長期化する補正が実行されるので、運転条件を不適正状態(過負荷状態)から適正状態に自動的に移行させることができる。すなわち、運転中の過負荷状態を迅速かつ確実に防止することができかつ生産性を向上させることができる。
【0024】
請求項4の発明によれば、運転中に成形データ(速度データ)に関する立上げ時間を短期化する補正が実行されるので、サーボモータの発生トルクを記憶許容最大モータトルク以下に抑制しつつ低生産性状態を自動的に解消することができる。すなわち、運転中に運転条件を適正状態に維持しつつ生産性を最大的に向上させることができる。
【0025】
請求項5の発明によれば、請求項3の場合と同様な効果を奏することができかつ短期化補正実行宣言がなされていることを条件に請求項4の場合と同様な効果を奏することができるとともに、短期化補正実行宣言をしなければ短期化補正が自動的に行なわれないから、極めて低速によって深絞り成形を行なうことで高品質製品を生産する運転を担保できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0027】
(第1の実施の形態)
本サーボプレス機械1は、図1〜図3に示す如く、許容最大モータトルク記憶手段23Tと成形データ記憶手段23Ptと荷重データ記憶手段23Kと成形時最大モータトルク算出手段(21、22,23)と算出トルク過大判別手段(21、22,23)と長期化修正指令出力手段(21、22,23、26)とを設け、運転以前に成形データ中の速度データに関する立上げ時間の長期化修正指令を出力可能に形成されている。
【0028】
また、この実施の形態では、算出トルク過小判別手段(21、22,23)と短期化修正許可出力手段(21、22,23、26)とを設け、成形データ中の速度データに関する立上げ時間の短期化修正許可を出力可能に形成してある。
【0029】
確認的に、サーボプレス機械1は、スライドモーション情報に基づきサーボモータを回転駆動可能かつスライド駆動機構を介してサーボモータの回転運動をスライドの昇降運動に変換しつつプレス成形可能に形成されている。
【0030】
図1において、スライド駆動機構は、クランク軸3(クランク部4)を含むクランク機構2から形成されている。このクランク軸3は、軸受に回転自在に支持されかつ直接連結されたAC(交流)サーボモータ7の回転制御により可逆回転(正回転,逆回転)駆動制御可能である。サーボモータ7はDC(直流)サーボモータやリアクタンスモータとしてもよい。
【0031】
なお、クランク軸3とサーボモータ7とは、ギヤ(減速機)を介して間接的に連結させてもよい。ギヤ(減速機)を介せば、一段と高い加圧力を得ることができる。また、スライド駆動機構は、クランク機構2と機能的に類似的な偏心軸構造から形成してもよい。
【0032】
スライド6は、フレーム本体に上下方向に摺動自在に装着され、バランス装置に係合されている。クランク軸3を回転駆動すれば、コネクティングロッド5を介してスライド6を昇降駆動することができる。上死点は図3に示す位置Puで、下死点は位置Plである。金型はスライド6側の上型とボルスタ(図示省略)側の下型とからなる。
【0033】
ACサーボモータ7に連結されたエンコーダ8は、原理的には多数の光学的スリットと光学式検出器とを有し、サーボモータ7(クランク軸3)の回転角度(クランク角度)θを出力するが、この実施形態では、回転角度θ(パルス信号)をスライド6の上下方向位置(パルス信号)に変換して出力する信号変換器(図示省略)を含むものとされている。
【0034】
なお、宣言手段25Dおよびトルク検出器9については、第2の実施の形態において説明する。
【0035】
図1に示すプレス制御盤20は、CPU21,不揮発性のメモリ(ROMやHDD等)22,電源断でもデータを記憶保持可能なメモリ(フラッシュRAM等)23,タッチパネル24(操作部25および表示部26)およびインターフェース27・28を含み、メモリ22に格納されたプレス運転制御プログラムによりかつスライドモーション情報に基づいてモータ回転制御部30にモーション指令信号Smtnを生成出力しつつサーボモータ7を回転制御し、スライド6を昇降運動させることができる。なお、図1ではワーク搬送装置等に関する事項は記載省略している。
【0036】
ここに、スライドモーション情報MTN(P、t)は、図3に示す如く、時刻t(あるいは、クランク角度θとしてもよい。)とスライド6の当該時刻tにおける位置Pとを対応させたスライド位置情報(軌跡Rsp)であり、図1の操作部25(スライド位置情報設定入力手段25Pt)を用いて設定入力することができる。外部からのデータ伝送等により入力可能に形成してみよい。設定されたスライドモーション情報は、不揮発性メモリ22内のモーション情報エリア22mtnに、後で選択利用できるように記憶される。プレス運転に先立ち選択されたスライドモーション情報は、記憶保持可能なメモリ23に展開される。
【0037】
この実施の形態では、スライドモーション情報(P、t)には、このスライド位置情報(軌跡Rsp)に基づき変換生成された図3に示すスライド速度情報(軌跡Rsv)が対応記憶されている。さらに、スライド速度情報(軌跡Rsv)に基づき変換生成されたモータ回転数情報(軌跡Rmr)も対応記憶されている。なお、長期化(短期化)修正に係るスライドモーション情報(成形データ)中の速度データとは、スライド速度データおよびモータ回転数データを指すが、最終的にはモータ回転数として修正(第2の実施の形態では、補正)される。
【0038】
このスライド位置情報に基づき、図1に示すモーション指令信号(パルス信号)Smtnが生成出力される。モーション指令部(21,22,23)は、位置パルスの払出し方式構造とされている。
【0039】
すなわち、プレス運転に際して、操作部25を用いて希望のスライドモーション情報を選択(乃至設定)すると、モーション指令部(21,22,23)は、格納されたプレス運転制御プログラム(モーション指令信号生成出力制御プログラム)に従い図1に示すモーション指令信号Smtnをモータ回転制御部30に出力する。例えば、モータ回転数が120RPMで、エンコーダ8から1回転(360度)当りに出力されるパルス数が100万パルスで、払出しサイクルタイムが5mSである場合は、1サイクル(5mS)毎に出力されるパルス数は、10000パルス[=(1000000×120)/(60×0.005)]となる。つまり、モータ回転数を変えるには当該サイクルタイム内のパルス数を調整(変更)すればよい。
【0040】
このモーション指令信号Smtnを受けたモータ回転制御部30では、位置比較器31が目標値であるモーション指令信号Smtnとエンコーダ8で検出された実際のスライド位置信号(フィードバック信号f)とを比較して位置偏差信号を生成出力する。
【0041】
位置速度制御部32の一部を構成する位置制御部は、入力された位置偏差信号を累積し、それに位置ループゲインを乗じ、速度信号を生成出力する。速度比較器は速度信号と速度検出器(エンコーダ8)からの速度信号(この場合は信号fの速度成分)とを比較して速度偏差信号を生成出力する。他の一部を構成する速度制御部は、入力された速度偏差信号に速度ループゲインを乗じ電流指令信号を電流制御部(アンプ)33に生成出力する。この電流指令信号は、実質的にはモータトルク信号である。
【0042】
電流制御部33は、各相目標電流信号を生成しかつ電流偏差信号を生成出力する。引続き、PWM制御、パルス幅変調により各相の電流偏差信号からPWM信号が生成される。最終的には、各PWM信号でスイッチング(ON/OFF)制御され、各相モータ駆動電流U,V,Wを出力することができる。かくして、サーボモータ7を回転駆動制御することができる。
【0043】
さて、図1に示す許容最大モータトルク記憶手段23Tは、図3に太点線で示した許容最大モータトルクTsmaxを記憶する手段で、メモリ23の所定エリア(23T)から形成される。許容最大モータトルクTsmaxは、サーボモータ7の成形時において許容される最大モータトルクとしてモータの回転数に応じて設定される。トルク設定手段(操作部25のキー等)25Tを用いて設定入力される。
【0044】
この許容最大モータトルクTsmaxの値は、サーボモータ7の電気的容量はもとよりモータ回転制御部30(31〜33)の耐電圧・電流容量並びに電源装置の容量等の全ての関係において安定運転が出来るものとして選択決定される。
【0045】
成形データ記憶手段23Ptは、設定された成形データを記憶する手段で、メモリ23の所定エリア(23Pt)から形成されている。成形データ設定入力手段25Ptを用いて設定入力することができる。さらに、この実施の形態では取扱い便宜と迅速処理性の観点から、モーション情報エリア22mtnに記憶されているスライドモーション情報MTNの一部をそのまま(あるいはデータ変換処理する。)して成形データを生成し、この成形データを記憶(コピー)可能に形成してある。なお、成形データ記憶手段は、モーション情報エリア22mtnを兼用するものとして構築しても本発明は実施することができる。
【0046】
つまり、成形データとしては、最小的には時刻tごとのスライド位置(軌跡Rsp)のみで足りるが、この実施の形態では図3に示す成形領域t1〜t2内のスライド位置(軌跡Rsp)およびモータ回転数(軌跡Rmr)としてある。モータトルク算出の迅速化および容易化のためである。モータ回転数(軌跡Rmr)には、加速軌跡Rmrinが含まれる。
【0047】
スライド速度(軌跡Rsv)は、スライド位置(軌跡Rsp)から求められる。モータトルク(軌跡Rmt)は、負荷(荷重)Mを加速させるトルクTmを反映して算出する。この実施の形態では、成形時の最大モータトルクの算出を必要とすることから、成形データとしてモータ回転数(加速軌跡Rmrinを含む軌跡Rmr)を挙げかつ記憶しておく。
【0048】
かかる成形データ等は、表示部26に拡大したグラフ形式で表示出力可能に形成してある。詳細後記の速度データ(モータ回転数…軌跡Rmr)の長期化修正および短期化修正の作業容易化を図るためである。修正された速度データ(軌跡Rmr)は、メモリ22mtnに記憶されている当該スライドモーション情報MTNに反映される。以後のプレス運転を、修正後の速度データ(スライドモーション)に基づき、実行可能とするためである。
【0049】
荷重データ記憶手段23Kは、設定された荷重データを記憶する手段で、メモリ23の所定エリア(23K)から形成される。荷重設定入力手段25Kを用いて設定入力することができる。この荷重データは、スライド6がワークにソフトタッチされた以降の成形時における最大荷重(負荷)である。負荷(荷重)Mを加速させるトルクTmを考慮してモータトルク(軌跡Rmt)が算出される。
【0050】
なお、干渉チェックのための試打ちの際に、例えば歪ゲージ方式の荷重検出器(図示省略)を利用して検出し、検出荷重を荷重データとして自動的に荷重データ記憶手段23Kに設定記憶可能に形成してもよい。
【0051】
次に、成形時最大モータトルク算出手段(21、22,23)は、設定記憶された成形データと荷重データとを用いて成形時における最大モータトルクTamaxを算出する手段で、当該プログラム(モータトルク算出制御プログラム)を格納させたメモリ22とこのプログラムを実行するCPU21,算出結果(Tamax)等を記憶するメモリ23から形成されている。図2のST11〜ST13で実行される。
【0052】
モータトルクは、サーボモータ軸に直結されたイナーシャJを回転させるためのトルクTjと負荷M(スライド等)を加速させるトルクTmと負荷Mにかかる重力Gを支えるトルクTgとの和として算出する。設定記憶された成形データ(図3の加速軌跡Rmrinおよびこれから引き出せる最大角速度等)や荷重データ以外の算出に必要なデータ(イナーシャ等)はメモリ22内に記憶されている。
【0053】
算出トルク過大判別手段(21、22,23)は、成形時最大モータトルク算出手段(21、22,23)を用いて算出された成形時最大モータトルクTamaxが、許容最大モータトルク記憶手段23Tに記憶されている許容最大モータトルクTsmaxよりも大きいか否かを判別する手段で、図2のST14で実行される。許容最大モータトルクTsmaxは、ST10で読取りされる。例えば、図7に示す状態では、算出成形時最大モータトルクTamaxが許容最大モータトルクTsmaxよりも大きいと判別される。
【0054】
長期化修正指令出力手段(21、22,23、26)は、算出成形時最大モータトルクTamaxが記憶許容最大モータトルクTsmaxよりも大きいと判別された場合(ST14でYES)に、成形データ記憶手段23Ptに記憶されている成形データ(速度データ)についての立上げ時間の長期化修正を指令する旨を出力する手段で、CPU21とメモリ22・23と表示部26とから形成され、図2のST15、ST18で実行される。
【0055】
例えば、図7に示す算出成形時最大モータトルクTamaxが記憶許容最大モータトルクTsmaxよりも大きいと判別された場合(ST14でYES)に、時刻t1のモータ回転数から時刻t2の手前の最大的なモータ回転数(Mvmax)まで立上げるために必要な立上げ時間を長期化させるための修正を実行すべき旨の指令を出力する(ST15)。例えば、“このままでは過負荷状態なので、立上げ時間を延ばす修正をして下さい。”と表示出力する。
【0056】
つまり、成形荷重に対応するモータトルクに重畳されるモータ加速用モータトルクTmの小値化を促進させ、結果としてサーボモータ7の発生トルクの軽減を図る。プレス運転における過負荷状態の発生を未然防止する。すなわち、サイクル毎の過負荷状態(不適正状態)を放置したままのプレス運転を厳禁する主旨から長期化修正を指令するのである。
【0057】
図3に2点鎖線(図7の実線に対応する。)で示した速度データ(勾配が急な加速軌跡Rmrin)の修正としては、実線で示す勾配の緩い加速軌跡Rmrinlに変更する。これにより、時刻t1における最小的なモータ回転数(速度)から最大的モータ回転数(Mvmax)まで立上げるために必要な立上げ時間を長期化(時刻t2以降まで加速時間を延ばす。)することができる。かくして、加速用モータトルクTmを図3の1点鎖線から実線に示すように小さくすることができるから、算出成形時最大モータトルクTamaxを軽減(記憶許容最大モータトルクTsmaxの値以下乃至未満にする。)することができる。
【0058】
立上げ時間の長期化は、図3に示す時刻t2以降まで加速時間を延ばすように加速率を下げることに限定されず、例えば図5に示すように加速率は変更しないで加速開始時点をt1(約1.1秒)からその後の時刻(約1.5秒)に変更するようにしても同一の効果を得られる。2点鎖線で示す状態から実線で示す状態に遅らせる。さらに、例えば一段と荷重が大きい場合などの特殊事情によっては、一時的に減速工程を組込むことができる。
【0059】
なお、長期化修正指令出力は、表示部26への表示出力とされているが、音声ガイド等によって指令告知するようにしてもよい。
【0060】
以上は主に生産性の向上を目指した運転条件(スライドモーション)によるプレス運転に対する方策として説明した。以下では、主に品質向上や適正条件内での余裕ある安全運転を念頭に選択された運転条件(スライドモーション)でのプレス運転に対する方策として説明する。つまり、装置的に許容される範囲内で生産性を最大的に向上させることを企図する。この意味において、経験不足のために不適正な条件の改善を試みることなく低い生産性のままの運転をしている場合の対策として有効である。
【0061】
ここに、算出トルク過小判別手段(21、22,23)は、成形時最大モータトルク算出手段(21、22,23)により算出された成形時最大モータトルクTamaxが、許容最大モータトルク記憶手段23Tに記憶されている許容最大モータトルクTsmaxよりも小さいか否かを判別する手段で、図2のST16で実行される。
【0062】
また、短期化修正許可出力手段(21、22,23、26)は、算出成形時最大モータトルクTamaxが記憶許容最大モータトルクTsmaxよりも小さいと判別された場合(ST16でYES)に、成形データ記憶手段23Ptに記憶されている成形データ(速度データ)についての立上げ時間の短期化修正を許可する旨を出力する手段で、CPU21とメモリ22・23と表示部26とから形成され、図2のST17、ST18で実行される。
【0063】
例えば、図3の点線で示した算出成形時最大モータトルクTamax(記憶許容最大モータトルクTsmaxよりも小さい。)が記憶許容最大モータトルクTsmaxよりも小さいと判別された場合(ST16でYES)には、加速軌跡を点線で示した軌跡Rmrinllから実線で示した軌跡Rmrinlに修正することを許可する。時刻t1の最小的なモータ回転数から時刻t2経過後の最大的なモータ回転数(Mvmax)までの立上げ時間を短期化(軌跡Rmrinll→Rmrinl)させる修正すべき旨の指令を出力する(ST17)。
【0064】
つまり、成形荷重に対応するモータトルクに重畳されるモータ加速用モータトルクTmのある程度までの大値化を促進させ、結果としてサーボモータ7の発生トルクを記憶許容最大モータトルク(Tsmax)相当に抑制しつつ立上げ時間の短期化(モータ回転数をできるだけ早く最大的な値にする。)を図る。勾配が緩い加速軌跡(Rmrinll)を勾配が急な例えば図3の加速軌跡Rmrinlに修正することを促す。例えば、“成形時トルクに余裕があるので、立上げ時間を短縮して生産性を上げる修正をして下さい。”と表示出力する。
【0065】
これにより、最大的なモータ回転数(Mvmax…軌跡Rmr)までの立上げ時間を短期化(時刻t=約1.9秒の手前まで加速時間を短縮する。)することができる。かくして、生産サイクルを短くすることができるので、生産性を向上させることができる。
【0066】
この立上げ時間の短期化は、図3に示す時刻t=1.9秒の手前まで加速時間を短縮するように加速率を上げることに限定されず、例えば図5に示すように加速率は変更しないで加速開始時点を点線から実線で示すように早める変更でも、同一の効果を得られる。
【0067】
なお、例えば品質保証上の観点から、スライド速度(モータ回転数)の高速化つまり立上げ時間の短期化が出来ないような事状がある場合を考慮して、長期化の場合の“指令”ではなく、短期化修正の場合には“許可”とする。現場事状にも適う。
【0068】
かかる構成の実施の形態では、スライドモーション情報MTNの作成乃至選択時やプレス運転に入る以前に、負荷(モータトルク)診断指令を発する。読取制御手段(21、22,23)が、許容最大モータトルク記憶手段23Tから許容最大モータトルクTsmaxを読取る(図2のST10)。次いで、成形データ記憶手段23Ptから成形データを読取り、荷重データ記憶手段23Kから荷重データを読取る(ST11、ST12)。
【0069】
すると、成形時最大モータトルク算出手段(21、22,23)が、成形時最大モータトルクTasmaxを算出する(ST13)。引続き、算出トルク過大判別手段(21、22,23)が、成形時最大モータトルクTamaxが許容最大モータトルクTsmaxよりも大きいか否かを判別する(ST14)。例えば、図3に2点鎖線で示す状態では、算出成形時最大モータトルクTamaxが許容最大モータトルクTsmaxよりも大きいと判別される。
【0070】
長期化修正指令出力手段(21、22,23、26)は、算出成形時最大モータトルクTamaxが記憶許容最大モータトルクTsmaxよりも大きいと判別された場合(ST14でYES)に、成形データ記憶手段23Ptに記憶されている成形データ(速度データ)についての立上げ時間の長期化修正を指令する旨を出力する(ST15、ST18)。
【0071】
表示により立上げ時間の長期化修正指令を知った作業員は、過負荷状態の発生を回避させるために、スライド位置情報設定入力手段(成形データ入力手段)25Ptを用いて成形データ記憶手段23Ptに記憶されている成形データ(スライド位置…軌跡Rsp、モータ回転数…加速軌跡Rmrin)を変更する。なお、スライド位置(軌跡Rsp)を変更すれば、モータ回転数(加速軌跡Rmrin)がそれに対応するデータとして自動的に演算可能に形成しておくことも好ましい。
【0072】
立上げ時間の長期化修正は、直接に時刻tごとのモータ回転数を変更させ、あるいはスライド位置Pを変更することにより間接的にモータ回転数を変更させることで、結果として図3の2点鎖線の加速軌跡Rmrin(モータ回転数)を勾配の緩やかな実線の加速軌跡Rmrinlとすることで行なわれる。
【0073】
この立上げ時間の長期化修正の結果は、メモリ22mtnに記憶されている当該スライドモーション情報MTNに反映(一部訂正)される。かくして、作業員は、一部訂正されたスライドモーション情報MTNに基づくスライドモーションを表示部26に図3に示すように表示させ、長期化修正後の成形時最大モータトルクTamaxが許容最大モータトルクTsmaxを超えない値になったことを目視確認する。なお、許容最大モータトルクTsmaxを超えない値になっていない場合は、加速軌跡Rmrinlよりも勾配の一段と緩やかな加速軌跡にするように修正する作業およびその確認作業を繰り返す。
【0074】
図3に実線で示すように、長期化修正後の成形時最大モータトルクTamaxが許容最大モータトルクTsmaxを超えない(特に、TamaxがTsmax以下でかつ限りなく近い)状態で修正を終了するのが好ましい。これによるプレス運転では、過負荷状態(不適正状態)を完全に回避できるものと理解される。
【0075】
すなわち、図3から明らかのように、基準時(上死点での時刻t0=0秒)からの加速終了時刻t2は、2点鎖線の加速軌跡Rmrinの場合は約1.7秒で、修正後の加速軌跡Rmrinlでは時刻t2より遅い約1.9秒となる。つまり、立上げ時間を0.2(=1.9−1.7)秒だけ長期化させるだけで、過負荷状態の発生を未然防止できるわけである。
【0076】
なお、生産サイクルは、修正前(図7)のt3(=約3.25)から長期化分(0.2秒)だけ遅延した約3.45秒となる。つまり、約6%低下するが過負荷状態の完全回避効果からすれば、容認範囲内である。
【0077】
一方、ST14でNO判断された場合には、算出トルク過小判別手段(21、22,23)が、成形時最大モータトルクTamaxが許容最大モータトルクTsmaxよりも小さいか否かを判別する(ST16)。例えば、図3の点線で示した算出成形時最大モータトルクTamaxは、太点線で示された許容最大モータトルクTsmaxよりも小さいと判別される。なお、許容最大モータトルクTsmaxには一定の範囲(幅)を持たせ、あるいは過大判別用(大)と過小判別用(小)との2種類の許容最大モータトルク(TsmaxL、TsmaxS)とを設けておくこともできる。判別制御の安定性向上が期待できる。
【0078】
短期化修正許可出力手段(21、22,23、26)は、図3の点線の算出成形時最大モータトルクTamaxが記憶許容最大モータトルクTsmaxよりも小さいと判別された場合(ST16でYES)に、成形データ記憶手段23Ptに記憶されている成形データ(速度データ)についての立上げ時間の短期化修正を許可する旨を出力する(ST17、ST18)。
【0079】
表示により立上げ時間の短期化修正許可を知った作業員は、生産性の向上を期して、スライド位置情報設定入力手段(成形データ入力手段)25Ptを用いて成形データ記憶手段23Ptに記憶されている成形データ(スライド位置…軌跡Rsp、モータ回転数…加速軌跡Rmrin)を変更する。
【0080】
立上げ時間の短期化修正は、直接に時刻tごとのモータ回転数を変更させ、あるいはスライド位置Pを変更することにより間接的にモータ回転数を変更させることで、図3の点線で示した加速軌跡Rmrinllから実線で示した勾配の急な加速軌跡Rmrinl(モータ回転数)に変更することである。
【0081】
なお、加速軌跡Rmrinllの加速終了時刻tは約2.0秒であり、この場合の点線の成形時最大モータトルクTamaxは実線の値よりも大幅に小さな値である。
【0082】
この立上げ時間の短期化修正の結果は、メモリ22mtnに記憶されている当該スライドモーション情報MTNに反映(一部訂正)される。かくして、作業員は、一部訂正されたスライドモーション情報MTNに基づくスライドモーションを表示部26に図3に示すように表示させ、短期化修正後の加速軌跡Rmrinlによる加速終了時刻(約1.8秒)が修正前の加速軌跡Rmrinllによる加速終了時刻(t=2.0秒)よりも早くなっていることを確認する。念のために、修正後の成形時最大モータトルクTamaxが許容最大モータトルクTsmaxを超えない値であることも確認する。
【0083】
すなわち、図3を参照し、立上げ時間を0.2秒だけ短期化させるだけで、生産サイクルを短期化分(0.2秒)だけ向上(短縮)させることができる。過負荷状態の発生回避は担保されている。
【0084】
ST14でNO判断されかつST16でNO判断された場合は、許容最大モータトルクTsmaxでかつ過負荷状態の発生未然防止が確約された適正条件によるプレス運転が保障されているので、当該プロググラムは終了する。適正条件である旨を表示部26に表示するように形成してもよい。
【0085】
なお、ST16、ST17は、作業員の意思表示(例えば、短期化診断要求操作)があった場合に限り、実行可能に形成してもよい。
【0086】
しかして、この実施の形態によれば、許容最大モータトルク記憶手段23Tと成形データ記憶手段23Ptと荷重データ記憶手段23Kと成形時最大モータトルク算出手段(21、22,23)と算出トルク過大判別手段(21、22,23)と長期化修正指令出力手段(21、22,23、26)とを設けかつ長期化修正指令を出力可能に形成されているので、成形データ(速度データ)に関する立上げ時間を長期化する修正作業を適時にかつ簡単に行なえ、運転中における過負荷状態を未然防止することができる。すなわち、運転以前において運転条件を適正状態に確立することが可能となりかつ運転中の生産性を向上することができる。
【0087】
また、各記憶手段23T,23Pt,23Kを兼用可能としかつ算出トルク過小判別手段(21、22,23)と短期化修正許可出力手段(21、22,23、26)とを設け、短期化修正指令を出力可能に形成されているので、成形データ(速度データ)に関する立上げ時間を短期化する修正作業を適時にかつ簡単に行なえ、サーボモータ7の発生トルクを記憶許容最大モータトルク以下に抑制しつつ低生産性状態を解消することができる。すなわち、運転以前において運転条件を適正状態に確立することが可能となりかつ生産性を最大的に向上することができる。
【0088】
また、長期化修正指令および短期化修正許可の双方を出力可能に形成されているので、生産性重視の運転傾向が強い作業員乃至職場でも、許容負荷内での安定性重視や品質重視の運転傾向が強い作業員乃至職場でも、そのまま導入・利用できる適応性の広いものである。また、いずれの運転態様でも無理のない運転条件の下に生産性を最大的に向上・維持できる。
【0089】
さらに、立上げ時間の長期化および短期化は、加速軌跡の勾配の緩急や加速開始時刻の遅早あるいはこれらの組合せ等でも実行可能に形成されているので、適応性が広く取扱いも容易である。
【0090】
(第2の実施の形態)
この実施の形態は、基本的な構成・機能が第1の実施形態の場合(図1)と同様であるが、第1の実施の形態が立上げ時間の長期化を運転開始以前の作業員操作により行なうものと形成されていたのに対して、立上げ時間の長期化補正を運転中に自動的に実行可能に形成されている。
【0091】
また、第1の実施の形態が立上げ時間の短期化を運転開始以前の作業員操作により行なうものと形成されていたのに対して、立上げ時間の短期化補正を運転中に自動的に実行可能に形成されている。
【0092】
さらに、短期化補正に関しては、短期化補正実行宣言がなされていることを条件に動作(短期化補正)可能に形成してある。
【0093】
したがって、第1の実施形態の場合(図1等)の場合と共通する部分(許容最大モータトルク記憶手段等)については、説明を簡略化または省略する。
【0094】
さて、成形時最大モータトルク検出手段は、図1に示したトルク検出器9から形成され、サーボモータ7の成形時における最大モータトルクを電気(電流)的に検出する。検出された最大モータトルク(成形時最大モータトルクTamax)は、メモリ23のワークエリアに記憶保持される。
【0095】
検出トルク過大判別手段(21、22,23)は、検出された成形時最大モータトルクTamaxが許容最大モータトルク記憶手段23Tに記憶されている許容最大モータトルクTsmaxよりも大きいか否かを判別する手段で、図4のST24で実行される。第1の実施形態における算出トルク過大判別手段に対応する。
【0096】
長期化補正制御手段(21、22,23)は、検出成形時最大モータトルクTamaxが記憶許容最大モータトルクTsmaxよりも大きいと判別された場合(図4のST24でYES)に、スライドモーション情報(速度データ)についての立上げ時間を長期化するための補正を行なう手段で、ST25で実行される。
【0097】
検出トルク過小判別手段(21、22,23)は、検出された成形時最大モータトルクTamaxが記憶された許容最大モータトルクTsmaxよりも小さいか否かを判別する手段で、ST27で実行される。第1の実施形態における算出トルク過小判別手段に対応する。
【0098】
短期化補正制御手段(21、22,23)は、検出成形時最大モータトルクTamaxが記憶された許容最大モータトルクTsmaxよりも小さいと判別された場合(ST27でYES)に、スライドモーション情報(速度データ)についての立上げ時間を短期化補正する手段で、ST28で実行される。
【0099】
かかる検出トルク過小判別手段および短期化補正制御手段は、短期化補正実行用の宣言手段(操作部25のキー)25Dを用いて短期化補正実行宣言がなされていることを条件(ST26でYES)として、判別動作および制御動作するものと形成されている。
【0100】
メッセージ表示制御手段(21、22,23)は、補正内容を表示部26に表示出力して、作業員に自動的に実行された長期化補正および要求した短期化補正の内容を確認可能とする。
【0101】
かかる構成の実施の形態では、試打ちやプレス運転中に、成形時検出制御手段(21、22,23)が例えばスライド位置Pや時刻tから成形時であることを検出(図4のST20でYES)すると、成形時最大モータトルク検出手段(9)が最大モータトルク(成形時最大モータトルクTamax)を検出(ST21)し、読取制御手段(21、22,23)が許容最大モータトルクTsmaxおよび成形データ(モータ回転数)を読取る(ST22、ST23)。
【0102】
検出トルク過大判別手段(21、22,23)が、検出された成形時最大モータトルクTamaxが許容最大モータトルクTsmaxよりも大きいか否かを判別する。例えば、図5に2点鎖線で示した状態(図7の実線の状態と同じ。)では、検出成形時最大モータトルクTamaxが許容最大モータトルクTsmaxよりも大きいと判別される(ST24でYES)。
【0103】
すると、長期化補正制御手段(21、22,23)が、立上げ時間の長期化補正を実行する(ST25)。この補正内容は、第1の実施の形態において作業員がスライド位置情報設定入力手段(成形データ入力手段)25Ptを用いた手作業により行なわれていた内容と同等の内容とされ、補正制御プログラムにより自動的に行なわれる。
【0104】
つまり、成形データ記憶手段23Ptに記憶されている成形データ(スライド位置…軌跡Rsp、モータ回転数…加速軌跡Rmrin)を過負荷状態の発生回避可能な値に変更する。図5において、2点鎖線の加速軌跡(モータ回転数)Rmrinの勾配をそのままとして、その開始時刻を実線で示すように遅らせた加速軌跡Rmrinlとする。
【0105】
最初の長期化補正後における成形時最大モータトルクTamaxが依然として許容最大モータトルクTsmaxを超えている場合には、その開始時刻を実線の場合よりもさらに遅らせるように再補正される。これを自動的に繰り返す。
【0106】
実線で示した成形時最大モータトルクTamaxが太点線で示した許容最大モータトルクTsmaxを超えない値になった時点で自動補正は終了する。そして、スライド位置(軌跡Rsp)の補正後にモータ回転数(加速軌跡Rmrin)がそれに対応するデータとして自動的に補正(演算)処理される。この立上げ時間の長期化補正の結果は、メモリ22mtnに記憶されている当該スライドモーション情報MTNに反映(一部訂正)される。
【0107】
かくして、図5の2点鎖線で示した加速軌跡Rmrinの開始時刻t1(約1.1秒)が自動的に遅延補正され、立上げ時間を約0.4(=1.5−1.1)秒だけ長期化させることができる。長期化中のモータ回転数は一定(軌跡Rmrc)である。この補正内容は、メッセージ表示制御手段(21、22,23)により、図5に示すグラフ表示とともにメッセージとして表示部26に表示(ST29)される。表示メッセージとしては、例えば、“過負荷状態回避のため、立上げ時間を0.4秒だけ長期化補正しました。”である。
【0108】
一方、ST24でNO判断された場合には、短期化補正の実行宣言が成されていることを条件(ST26でYES)として、検出トルク過小判別手段(21、22,23)が、成形時最大モータトルクTamaxが許容最大モータトルクTsmaxよりも小さいか否かを判別する。例えば、図5の点線で示す検出成形時最大モータトルクTamaxは太点線で示した許容最大モータトルクTsmaxよりも小さいと判別される(ST27でYES)。
【0109】
すると、短期化補正制御手段(21、22,23)が、立上げ時間の短期化補正を実行する(ST28)。この補正内容は、第1の実施の形態において作業員がスライド位置情報設定入力手段(成形データ入力手段)25Ptを用いた手作業により行なわれていた内容と同等の内容とされ、自動的に行なわれる。つまり、立上げ時間の短期化補正は、図5に点線で示した約1.7秒から立ち上がる加速軌跡Rmrinllを実線で示す加速軌跡Rmrinl(モータ回転数)に変更することである。
【0110】
短期化補正後の成形時最大モータトルクTamaxが許容最大モータトルクTsmaxを超えない値に近づくように加速軌跡(Rmrin)の立上げ開始時点を一段と早めにする再補正を行なう。これを自動的に繰り返す。
【0111】
成形時最大モータトルクTamaxが許容最大モータトルクTsmaxを超えない値で最大的な値になった時点で短期化補正は終了する。そして、スライド位置(軌跡Rsp)の補正後にモータ回転数(加速軌跡Rmrin)がそれに対応するデータとして自動的に補正(演算)処理される。この立上げ時間の短期化補正の結果は、メモリ22mtnに記憶されている当該スライドモーション情報MTNに反映(一部訂正)される。
【0112】
かくして、図5の点線の加速軌跡Rmrinllが早めの時刻(1.5秒)において立ち上がるように自動的に補正され、立上げ時間を0.2(=1.7−1.5)秒だけ短期化させることができる。この補正内容は、メッセージ表示制御手段(21、22,23)により、図5に示すグラフ表示とともにメッセージとして表示部26に表示(ST29)される。表示メッセージとしては、例えば、“立上げ時間を0.2秒だけ短期化して生産性を上げるための補正を実行しました。”である。
【0113】
ST24でNO判断され、ST26でYES判断されかつST27でNO判断された場合は、許容最大モータトルクTsmaxでかつ過負荷状態の発生未然防止が確約された適正条件によるプレス運転が保障されているので、当該プロググラムは終了する。適正条件である旨を表示するように形成してもよい。
【0114】
また、ST26でNO判断された場合は、特別な成形態様(例えば、高深度の深絞り加工)である点あるいは高品質保証上の点から、あえて低速運転されているので短期化補正は不要である。当該プロググラムは終了する。短期化補正を必要としない旨を表示部26に表示するように形成してもよい。
【0115】
なお、立上げ時間の長期化は、図5に示すように加速開始時点をtを変更することに限定されず、例えば図3に示すように加速率を増減変更するように形成しても、同一の効果を得られる。
【0116】
しかして、この実施の形態によれば、成形時最大モータトルク検出手段(9)と検出トルク過大判別手段(21、22,23)と長期化補正制御手段(21、22,23)とを設け、成形データ(速度データ)に関する立上げ時間を長期化する補正を自動的に実行可能に形成されているので、運転中の過負荷状態を迅速かつ確実に防止することができる。すなわち、運転中において運転条件を不適正状態から適正状態に補正可能でかつ運転中の生産性を最大的に向上させることができる。
【0117】
また、検出トルク過小判別手段(21、22,23)と短期化補正制御手段(21、22,23)とを設け、運転中に立上げ時間を短期化する補正を自動的に実行可能に形成されているので、サーボモータの発生トルクを記憶許容最大モータトルク以下に抑制しつつ低い生産性状態を確実に解消することができる。すなわち、運転中において運転条件を不適正状態から適正状態に補正可能でかつ運転中の生産性を最大的に向上させることができる。
【0118】
また、長期化補正および短期化補正の双方を自動的に実行可能に形成されているので、生産性重視の運転傾向が強い作業員(乃至職場)でも、許容負荷内での安定性重視や品質重視の運転傾向が強い作業員(乃至職場)でも、そのまま導入・利用できる適応性の広いものである。また、いずれの運転態様の場合でも、自動的に働き、無理のない運転条件の下に生産性を最大的に向上・維持できる。
【0119】
さらに、宣言手段25Dを用いた短期化補正実行宣言をしなければ、短期化補正が自動的に行なわれないように形成されているので、例えば、極低速によって深絞り成形を行なうことで高品質製品を生産するような特殊的なプレス運転を担保できる。
【産業上の利用可能性】
【0120】
本発明は、サーボプレス機械を過負荷状態の防止を担保しつつ最大的な生産性でプレス運転する場合に極めて有効であり、あらゆるプレス成形に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0121】
【図1】本発明の第1の実施形態を説明するためのブロック図である。
【図2】同じく、動作を説明するためのフローチャートである。
【図3】同じく、動作を説明するためのタイミングチャートである。
【図4】本発明の第2の実施形態に係る動作を説明するためのフローチャートである。
【図5】同じく、動作を説明するためのタイミングチャートである。
【図6】従来例を説明するための図(タイミングチャート)である。
【図7】問題点を説明するための図(タイミングチャート)である。
【符号の説明】
【0122】
1 サーボプレス機械
2 クランク機構
6 スライド
7 サーボモータ
9 トルク検出器(成形時最大モータトルク検出手段)
20 プレス制御盤
21 CPU(成形時最大モータトルク算出手段,算出トルク過大判別手段,長期化修正指令出力手段、算出トルク過小判別手段,短期化修正指令出力手段、検出トルク過大判別手段,長期化補正制御手段、検出トルク過小判別手段,短期化補正制御手段)
22 不揮発性メモリ(成形時最大モータトルク算出手段,算出トルク過大判別手段,長期化修正指令出力手段、算出トルク過小判別手段,短期化修正指令出力手段、検出トルク過大判別手段,長期化補正制御手段、検出トルク過小判別手段,短期化補正制御手段)
23 記憶保持可能なメモリ(成形時最大モータトルク算出手段,算出トルク過大判別手段,長期化修正指令出力手段、算出トルク過小判別手段,短期化修正指令出力手段、検出トルク過大判別手段,長期化補正制御手段、検出トルク過小判別手段,短期化補正制御手段)
25 操作部
25D 宣言手段
26 表示部
30 モータ回転制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スライドモーション情報に基づきサーボモータを回転駆動可能かつスライド駆動機構を介してサーボモータの回転運動をスライドの昇降運動に変換しつつプレス成形可能に形成されたサーボプレス機械において、
前記サーボモータの成形時に許容される最大モータトルクとして設定された許容最大モータトルクを記憶する許容最大モータトルク記憶手段と、
設定された成形データを記憶する成形データ記憶手段と、
設定された荷重データを記憶する荷重データ記憶手段と、
設定記憶された成形データと荷重データとを用いて成形時における最大モータトルクを算出する成形時最大モータトルク算出手段と、
算出された成形時最大モータトルクが記憶された許容最大モータトルクよりも大きいか否かを判別する算出トルク過大判別手段と、
算出成形時最大モータトルクが記憶許容最大モータトルクよりも大きいと判別された場合に成形データ記憶手段に記憶されている成形データの中の速度データについての立上げ時間の長期化修正を指令する旨を出力する長期化修正指令出力手段と、を設けたことを特徴とするサーボプレス機械。
【請求項2】
スライドモーション情報に基づきサーボモータを回転駆動可能かつスライド駆動機構を介してサーボモータの回転運動をスライドの昇降運動に変換しつつプレス成形可能に形成されたサーボプレス機械において、
前記サーボモータの成形時に許容される最大モータトルクとして設定された許容最大モータトルクを記憶する許容最大モータトルク記憶手段と、
設定された成形データを記憶する成形データ記憶手段と、
設定された荷重データを記憶する荷重データ記憶手段と、
設定記憶された成形データと荷重データとを用いて成形時における最大モータトルクを算出する成形時最大モータトルク算出手段と、
算出された成形時最大モータトルクが記憶された許容最大モータトルクよりも小さいか否かを判別する算出トルク過小判別手段と、
算出成形時最大モータトルクが記憶許容最大モータトルクよりも小さいと判別された場合に成形データ記憶手段に記憶されている成形データの中の速度データについての立上げ時間の短期化修正を許可する旨を出力する短期化修正許可出力手段と、を設けたことを特徴とするサーボプレス機械。
【請求項3】
スライドモーション情報に基づきサーボモータを回転駆動可能かつスライド駆動機構を介してサーボモータの回転運動をスライドの昇降運動に変換しつつプレス成形可能に形成されたサーボプレス機械において、
前記サーボモータの成形時に許容される最大モータトルクとして設定された許容最大モータトルクを記憶する許容最大モータトルク記憶手段と、
前記サーボモータの成形時における最大モータトルクを検出する成形時最大モータトルク検出手段と、
検出された成形時最大モータトルクが記憶された許容最大モータトルクよりも大きいか否かを判別する検出トルク過大判別手段と、
検出成形時最大モータトルクが記憶許容最大モータトルクよりも大きいと判別された場合に前記スライドモーション情報の中の速度データについての立上げ時間を長期化補正する長期化補正制御手段と、を設けたことを特徴とするサーボプレス機械。
【請求項4】
スライドモーション情報に基づきサーボモータを回転駆動可能かつスライド駆動機構を介してサーボモータの回転運動をスライドの昇降運動に変換しつつプレス成形可能に形成されたサーボプレス機械において、
前記サーボモータの成形時に許容される最大モータトルクとして設定された許容最大モータトルクを記憶する許容最大モータトルク記憶手段と、
前記サーボモータの成形時における最大モータトルクを検出する成形時最大モータトルク検出手段と、
検出された成形時最大モータトルクが記憶された許容最大モータトルクよりも小さいか否かを判別する検出トルク過小判別手段と、
検出成形時最大モータトルクが記憶許容最大モータトルクよりも小さいと判別された場合に前記スライドモーション情報の中の速度データについての立上げ時間を短期化補正する短期化補正制御手段と、を設けたことを特徴とするサーボプレス機械。
【請求項5】
スライドモーション情報に基づきサーボモータを回転駆動可能かつスライド駆動機構を介してサーボモータの回転運動をスライドの昇降運動に変換しつつプレス成形可能に形成されたサーボプレス機械において、
前記サーボモータの成形時に許容される最大モータトルクとして設定された許容最大モータトルクを記憶する許容最大モータトルク記憶手段と、
前記サーボモータの成形時における最大モータトルクを検出する成形時最大モータトルク検出手段と、
検出された成形時最大モータトルクが記憶された許容最大モータトルクよりも大きいか否かを判別する検出トルク過大判別手段と、
検出成形時最大モータトルクが記憶許容最大モータトルクよりも大きいと判別された場合に前記スライドモーション情報の中の速度データについての立上げ時間を長期化補正する長期化補正制御手段と、
検出された成形時最大モータトルクが記憶された許容最大モータトルクよりも小さいか否かを判別する検出トルク過小判別手段と、
検出成形時最大モータトルクが記憶許容最大モータトルクよりも小さいと判別された場合に前記スライドモーション情報の中の速度データについての立上げ時間を短期化補正する短期化補正制御手段とを設け、
さらに、検出トルク過小判別手段および短期化補正制御手段が、短期化補正実行宣言がなされていることを条件に動作可能に形成されている、ことを特徴とするサーボプレス機械。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−160619(P2009−160619A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−1206(P2008−1206)
【出願日】平成20年1月8日(2008.1.8)
【出願人】(000100861)アイダエンジニアリング株式会社 (153)
【Fターム(参考)】