説明

サーボ型静電容量式センサ装置

【課題】サーボ型静電容量式センサ装置において、構造体の振動を打ち消すサーボ力がゼロであるときを含めて、信号処理回路からセンサ素子へ供給されるサーボ信号が流通する信号線の断線有無を検出する。
【解決手段】信号処理回路14は、サーボ信号生成回路36により生成されるサーボ信号に、周波数が構造体の共振周波数に比べて十分に高い断検用信号を加算して得られる信号を、第2の信号線を介してサーボ電極に向けて供給する加算回路52と、センサ素子20からの変位信号から前記断検用信号の成分を抽出する断検用信号成分抽出回路54と、断検用信号成分抽出手段により抽出される断検用信号の成分に基づいて、第2の信号線に断線が生じているか否かを判別する断線判定回路56と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、センサ装置に係り、特に、信号処理回路からセンサ素子へ向けてセンサ素子の有する構造体の振動を打ち消すためのサーボ信号を供給するために設けられる信号線の断線有無を判定するうえで好適なサーボ型静電容量式センサ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、センサ素子に、基板に対して振動可能な構造体をX軸方向に励振するための駆動電極と、構造体にX軸方向に直交するY軸方向に加わる振動を検出するための検出電極と、を設け、構造体のY軸方向への振動に基づいて、センサ素子にX軸及びY軸の双方に直交するZ軸回りに作用する角速度を検出する静電容量式センサ装置が知られている(例えば、特許文献1及び2参照)。
【0003】
また、特許文献1記載のセンサ装置は、センサ素子が更に構造体にY軸方向に加わる振動を打ち消すためのサーボ電極を有するサーボ型センサ装置である。かかるサーボ電極には、構造体のY軸方向への振動を打ち消すサーボ力が構造体に付与されるように信号処理回路からのサーボ信号が印加される。信号処理回路は、構造体のY軸方向への振動を打ち消すサーボ力の大きさをZ軸回りの角速度として出力する。
【0004】
また、特許文献2記載のセンサ装置において、センサ素子は、故障診断用信号が入力される診断用電極を有している。診断用電極に入力された故障診断用信号は、検出電極に伝わった後、信号線を介して信号処理回路に供給される。信号処理回路は、供給された故障診断用信号が基準電圧近傍にあるか否かに基づいて、検出電極から信号処理回路に向けて信号が流通する信号線の断線有無を判定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−004127号公報
【特許文献2】特開2000−146590号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記した特許文献1記載の如きサーボ型センサ装置では、信号処理回路とセンサ素子との間に、信号処理回路からセンサ素子へ向けてサーボ信号が流通する信号線が介在する。かかるサーボ信号は、構造体に振動を打ち消すサーボ力を付与する信号であるので、信号処理回路から信号線を介してセンサ素子に入力されるサーボ信号をセンサ素子側から見ると、構造体に付与すべきサーボ力がゼロである場合とサーボ信号が流通する信号線が断線している場合とを区別することは困難である。一方、上記した特許文献2記載の如きセンサ装置では、センサ素子から信号処理回路への信号しか断線を検出することができず、また、素子に設ける電極の数が増大する。
【0007】
本発明は、上述の点に鑑みてなされたものであり、構造体の振動を打ち消すサーボ力がゼロであるときを含めて、信号処理回路からセンサ素子へ供給されるサーボ信号が流通する信号線の断線有無を検出することが可能なサーボ型静電容量式センサ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的は、基板に対して振動可能な構造体と、前記構造体に前記基板に対して第1軸方向に加わる振動に応じた静電容量変化が生じる検出電極と、前記構造体の前記第1軸方向への振動を打ち消すサーボ力が前記構造体に付与されるように電圧印加されるサーボ電極と、を有し、前記検出電極の前記静電容量変化に応じた変位信号を出力するセンサ素子と、前記センサ素子からの前記変位信号から前記構造体の前記第1軸方向への振動成分を抽出する振動成分抽出回路と、前記振動成分抽出回路により抽出される前記振動成分に基づいて算出される前記サーボ力の大きさを物理量として出力する出力回路と、前記サーボ力を前記構造体に付与するうえで前記サーボ電極に供給すべきサーボ信号を生成するサーボ信号生成回路と、を有する信号処理回路と、前記センサ素子から前記信号処理回路へ向けて前記変位信号が流通する第1の信号線と、前記信号処理回路から前記センサ素子へ向けて前記サーボ信号が流通する第2の信号線と、を備え、前記信号処理回路は、更に、前記サーボ信号生成回路により生成される前記サーボ信号に、周波数が前記構造体の共振周波数に比べて十分に高い断検用信号を加算して得られる信号を、前記第2の信号線を介して前記サーボ電極に向けて供給する加算回路と、前記センサ素子からの前記変位信号から前記断検用信号の成分を抽出する断検用信号成分抽出回路と、前記断検用信号成分抽出手段により抽出される前記断検用信号の成分に基づいて、前記第2の信号線に断線が生じているか否かを判別する断線判定回路と、を有するサーボ型静電容量式センサ装置により達成される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、構造体の振動を打ち消すサーボ力がゼロであるときを含めて、信号処理回路からセンサ素子へ供給されるサーボ信号が流通する信号線の断線有無を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施例であるサーボ型静電容量式センサ装置の回路構成図である。
【図2】本発明の一実施例であるサーボ型静電容量式センサ装置の備えるセンサ素子を模式的に表した図である。
【図3】本発明の一実施例であるサーボ型静電容量式センサ装置におけるサーボ信号の周波数fdと断検用信号の周波数fodとの関係を表した図である。
【図4】本発明の一実施例であるサーボ型静電容量式センサ装置において信号処理回路が有する断検用信号成分抽出回路及び断線判定回路の構成図である。
【図5】本発明の一実施例であるサーボ型静電容量式センサ装置における断検用信号と信号線の非断線時における出力波形との関係を表した図である。
【図6】本発明の一実施例であるサーボ型静電容量式センサ装置における、信号線の断線なし時及び断線あり時それぞれにおける角速度が発生していないとき及びその角速度が発生しているときそれぞれのチャージアンプ出力波形を表した図である。
【図7】本発明の変形例であるサーボ型静電容量式センサ装置において信号処理回路が有する断検用信号成分抽出回路の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を用いて、本発明に係るサーボ型静電容量式センサ装置の具体的な実施の形態について説明する。
【0012】
図1は、本発明の一実施例であるサーボ型静電容量式センサ装置10の回路構成図を示す。また、図2は、本実施例のサーボ型静電容量式センサ装置10の備えるセンサ素子を模式的に表した図を示す。
【0013】
本実施例のサーボ型静電容量式センサ装置(以下、単にセンサ装置と称す)10は、例えば車両などに搭載されるセンサ装置であって、X−Y平面に垂直なZ軸回りに生じる角速度を検出するための角速度検出装置に適用される。センサ装置10は、シリコンなどの半導体基板上に形成されるセンサ素子12と、信号処理を行う信号処理回路14と、を備えている。
【0014】
センサ素子12は、所定質量を有する構造体20と、構造体20をX軸方向に励振駆動するための駆動電極22−1,22−2と、半導体基板上で構造体20に生じるY軸方向の振動を検出するための検出電極24−1,24−2と、構造体20のY軸方向への振動を抑制するためのサーボ電極26−1,26−2と、を有している。駆動電極22−1,22−2、検出電極24−1,24−2、及びサーボ電極26−1,26−2はそれぞれ、構造体20に形成されて半導体基板に対して可動する可動電極と、半導体基板に対して固定される固定電極と、からなる。
【0015】
信号処理回路14は、駆動電極22−1,22−2に供給すべき駆動信号を生成する駆動信号生成回路(図示せず)を有している。この駆動信号生成回路により生成される駆動信号は、構造体20をその構造体20の共振周波数にほぼ等しい周波数fdでX軸方向に一定振幅で励振駆動する駆動力をその構造体20に付与すべく、駆動電極22−1,22−2の固定電極と可動電極との間に印加すべき駆動電圧であって、構造体20の共振周波数にほぼ等しい駆動周波数fdを有している。駆動電極22−1,22−2は、この駆動信号生成回路から駆動信号が供給されると、固定電極と可動電極との間で構造体20をX軸方向に励振駆動する駆動力を発生させる。尚、駆動電極22−1に供給される駆動信号と駆動電極22−2に供給される駆動信号とは、互いに逆相であり、駆動電極22−1と駆動電極22−2とは、互いに逆相で駆動力を発生させる。
【0016】
信号処理回路14は、また、検出電極24−1,24−2から出力される信号を受信するチャージアンプ30を有している。検出電極24−1,24−2は、構造体20に半導体基板に対してY軸方向に加わる振動変位に応じて、固定電極と可動電極との間で静電容量変化が生じる。尚、検出電極24−1での静電容量変化と検出電極24−2での静電容量変化とは、互いに逆相である。この検出電極24−1,24−2の静電容量変化は、構造体20のY軸方向への振動変位量がゼロである場合は略ゼロであって、構造体20のY軸方向への振動変位量が大きいほど大きくなる。検出電極24−1,24−2は、その静電容量変化を検出変位信号としてチャージアンプ30へ向けて出力する。
【0017】
検出電極24−1,24−2(具体的には、その固定電極)には、構造体20のY軸方向への振動変位を検出するための搬送波(一定電圧)が入力されている。検出電極24−1,24−2から出力される検出変位信号は、チャージアンプ30に入力される。検出電極24−1,24−2の静電容量が変化すると、その検出電極24−1,24−2(具体的には、その固定電極)とチャージアンプ30との間で電荷が移動する。チャージアンプ30は、検出電極24−1,24−2からの検出変位信号としての電荷移動量を電圧に変換して出力する。チャージアンプ30から出力される電圧信号は、構造体20のY軸方向への振動成分に応じた振幅を有する周波数fdの信号である。
【0018】
チャージアンプ30には、検波回路32及びサーボアンプ34が接続されている。検波回路32は、チャージアンプ30から出力される電圧信号を検波する。具体的には、そのチャージアンプ30からの電圧信号から周波数fdの信号成分(構造体20のY軸方向への振動成分)を抽出し、Z軸回りの角速度に応じた構造体20のY軸方向への振動の大きさ(振幅)に比例する直流信号を生成する。サーボアンプ34は、検波回路32の検波した電圧信号を所定信号と比較し差電圧を積分して出力する。
【0019】
サーボアンプ34には、サーボ信号生成回路36が接続されている。サーボ信号生成回路36は、サーボアンプ34から出力される構造体20のY軸方向への振動の大きさ(振幅)に応じた直流サーボ制御信号に基づいて、構造体20のY軸方向への振動を打ち消すサーボ力を構造体20に付与するのに必要なサーボ電極26−1,26−2に供給すべきサーボ信号を生成する。サーボ信号生成回路36により生成されるサーボ信号は、上記のサーボ力を構造体20に付与すべくサーボ電極26−1,26−2の固定電極と可動電極との間に印加すべきサーボ電圧であって、駆動周波数fdと等しい周波数fdを有している。尚、サーボ電極26−1に供給されるサーボ信号とサーボ電極26−2に供給されるサーボ信号とは、互いに逆相であり、サーボ電極26−1とサーボ電極26−2とは、互いに逆相でサーボ力を発生させる。サーボアンプ34から出力される上記の直流サーボ制御信号は、Z軸回りの角速度を表すヨーレート信号であって、車両にZ軸回りに生じる角速度として出力される。サーボアンプ34は、構造体20に付与するサーボ力の大きさを、検出されたZ軸回りの角速度として信号出力する。
【0020】
センサ素子12と信号処理回路14との間には、第1の信号線40、第2の信号線42、及び第3の信号線44が接続されている。第1の信号線40は、センサ素子12の検出電極24−1,24−2から信号処理回路14のチャージアンプ30へ向けて、構造体20のY軸方向への振動変位を表す検出変位信号を流通させるための信号線である。第2の信号線42は、信号処理回路14側からセンサ素子12のサーボ電極26−1,26−2へ向けて、構造体20にサーボ力を付与するうえでサーボ電極26−1,26−2に供給すべきサーボ信号を流通させるための信号線である。また、第3の信号線44は、信号処理回路14の電圧源46からセンサ素子12の検出電極24−1,24−2へ向けて、構造体20のY軸方向への振動変位を検出するために必要なサーボ電極26−1,26−2に供給すべき一定電圧を流通させるための信号線である。サーボ電極26−1,26−2にはそれぞれ、互いに異なる電圧が付与される。
【0021】
次に、本実施例のセンサ装置10のセンサ動作について説明する。
【0022】
上記したセンサ装置10において、X軸及びY軸の双方に直交するZ軸回りの角速度の検出が行われる場合、信号処理回路14は、まず、センサ素子12の駆動電極22−1,22−2を励振駆動させる。具体的には、信号処理回路14の駆動信号生成回路が、構造体20の共振周波数にほぼ等しい駆動周波数fdを有する駆動信号を生成して、その駆動電極22−1,22−2に向けて供給する。かかる駆動信号が駆動電極22−1,22−2に供給されると、駆動電極22−1,22−2の固定電極と可動電極との間に構造体20をX軸方向に励振駆動する駆動力が発生することで、構造体20が周波数fdでX軸方向に一定振幅で励振駆動される。
【0023】
角速度検出が行われる場合、信号処理回路14は、また、電圧源46から第3の信号線44を介して検出電極24−1,24−2へ向けて一定電圧を供給させる。かかる電圧が検出電極24−1,24−2に供給されている間、その検出電極24−1,24−2は、Z軸回りの角速度が発生した際に静電容量変化に応じた検出変位信号を信号処理回路14側へ向けて出力することが可能である。
【0024】
構造体20がX軸方向に励振駆動されている状態でZ軸回りの角速度が発生していない場合は、構造体20にコリオリ力が作用しない。この場合は、検出電極24−1,24−2がY軸方向に振動変位せず、検出電極24−1,24−2の固定電極と可動電極との間の静電容量変化が生じない。かかる静電容量変化が生じないと、検出電極24−1,24−2からチャージアンプ30へ向けて電荷は移動せず、検出電極24−1,24−2から出力される検出変位信号は、振幅が略ゼロである信号となる。
【0025】
一方、構造体20がX軸方向に励振駆動されている状態でZ軸回りの角速度が発生する場合は、構造体20にコリオリ力が作用する。この場合は、かかるコリオリ力の作用により検出電極24−1,24−2がY軸方向に振動変位して、検出電極24−1,24−2の固定電極と可動電極との間の静電容量変化が生じる。かかる静電容量変化が生じると、検出電極24−1,24−2から第1の信号線40を介してチャージアンプ30へ向けて電荷が移動することで、検出電極24−1,24−2から出力される検出変位信号は、発生する角速度の大きさに応じた振幅を有する信号となる。
【0026】
信号処理回路14は、検出電極24−1,24−2から出力される検出変位信号としての電荷移動量をチャージアンプ34にて電圧に変換し、その変換された電圧信号を検波回路32にて周波数fdで検波し、その検波された電圧信号をサーボアンプ34にて積分して出力する。サーボアンプ34から出力される直流サーボ制御信号は、サーボ信号生成回路36に供給されると共に、Z軸回りの角速度を表すヨーレート信号として外部へ出力される。
【0027】
また、信号処理回路14は、サーボ信号生成回路36にて、サーボアンプ34から出力される直流サーボ制御信号に基づいて、構造体20のY軸方向への振動変位を打ち消すサーボ力を構造体20に付与するのに必要なサーボ電極26−1,26−2に供給すべきサーボ信号を生成し、そのサーボ信号を第2の信号線42を介してサーボ電極26−1,26−2へ供給する。かかるサーボ信号がサーボ電極26−1,26−2に供給されると、サーボ電極26−1,26−2の固定電極と可動電極との間に構造体20のY軸方向への振動変位を打ち消すサーボ力が発生することで、構造体20のY軸方向への振動変位が抑制される。
【0028】
従って、センサ装置10によれば、Z軸回りの角速度が発生していないときは、構造体20のY軸方向への振動変位を打ち消すサーボ力の大きさをゼロと算出し、Z軸回りの角速度がゼロであることを表すヨーレート信号を出力することができる。一方、Z軸回りの角速度が発生しているときは、構造体20に実際に生じているY軸方向への振動変位を打ち消すサーボ力の大きさを算出し、Z軸回りの角速度の大きさを表すヨーレート信号を出力することができる。
【0029】
次に、本実施例のセンサ装置10において、センサ素子12と信号処理回路14との間に介在するサーボ信号が流通する第2の信号線42の断線有無を判定する手法について説明する。図3は、本実施例のセンサ装置10におけるサーボ信号の周波数fdと後述の断検用信号の周波数fodとの関係を表した図を示す。
【0030】
本実施例のセンサ装置10において、信号処理回路14は、第2の信号線42の断線有無を判定するうえで必要なハイとローとが繰り返される矩形波状の信号(以下、断検用信号と称す)を生成する断線検出用信号生成回路50を有している。この断線検出用信号生成回路50により生成される断検用信号は、第2の信号線42の断線有無の判定を実現すべくサーボ電極26−1,26−2の固定電極と可動電極との間に印加すべき電圧であって、サーボ信号生成回路36により生成されるサーボ信号の周波数fd(すなわち、構造体20の共振周波数)よりも十分に高い周波数fodを有している。
【0031】
信号処理回路14は、また、加算回路52を有している。加算回路52には、サーボ信号生成回路36の出力が接続されていると共に、断線検出用信号生成回路50の出力が接続されている。加算回路52は、サーボ信号生成回路36から出力されるサーボ信号と、断線検出用信号生成回路50から出力される断検用信号と、を加算する処理を行う。加算回路52により加算されて得られる信号は、サーボ信号に断検用信号が重畳された信号である。加算回路52の出力は、第2の信号線42を介してセンサ素子12のサーボ電極26−1,26−2に供給される。
【0032】
尚、サーボ電極26−1に供給される加算回路52の出力とサーボ電極26−2に供給される加算回路52の出力とはそれぞれ、サーボ電極26−1側で断検用信号により発生する電荷とサーボ電極26−2側で断検用信号により発生する電荷とが相殺されない極性で、断線検出用信号生成回路50により生成される断検用信号が加算されたものである。
【0033】
第2の信号線42が断線していない場合は、加算回路52から出力される断検用信号の重畳されたサーボ信号は、サーボ電極26−1,26−2に到達する。かかるサーボ信号がサーボ電極26−1,26−2に到達すると、サーボ電極26−1,26−2の固定電極と可動電極との間に、断検用信号の成分による電荷の移動が発生する。このため、第2の信号線42が断線していない場合は、構造体20のY軸方向への振動変位を打ち消すサーボ信号が、断検用信号の成分が重畳された状態で構造体20に付与される。
【0034】
断検用信号の成分が重畳されたサーボ信号が構造体20に付与されると、検出電極24−1,24−2の固定電極と可動電極との間に、断検用信号の成分に応じた電荷移動が生じる。かかる電荷移動が生じると、検出電極24−1,24−2から第1の信号線40を介してチャージアンプ30へ向けて生じた電荷が移動し、チャージアンプ34から出力される電圧信号に、断検用信号の成分が含まれることとなる。
【0035】
一方、第2の信号線42が断線している場合は、加算回路52から出力されるサーボ信号及び断検用信号がサーボ電極26−1,26−2に到達しないため、サーボ電極26−1,26−2の固定電極と可動電極との間に、断検用信号の成分が重畳された信号が構造体20に印加されない。この場合は、検出電極24−1,24−2の固定電極と可動電極との間に、断検用信号の成分に応じた電荷移動が生じないので、チャージアンプ34から出力される電圧信号に、断検用信号の成分が含まれないこととなる。
【0036】
信号処理回路14は、また、サーボアンプ34に接続される断検用信号成分抽出回路54と、その断検用信号成分抽出回路54に接続される断線判定回路56と、を有している。断検用信号成分抽出回路54は、チャージアンプ30から出力される電圧信号から、断検用信号の有する周波数fodの信号成分を抽出する。また、断線判定回路56は、断検用信号成分抽出回路54から抽出される信号成分に基づいて、第2の信号線42に断線が生じているか否かを判別する。
【0037】
図4は、本実施例のセンサ装置10において信号処理回路14が有する断検用信号成分抽出回路54及び断線判定回路56の構成図を示す。図5は、本実施例のセンサ装置10における断検用信号と第2の信号線42の非断線時における出力波形との関係を表した図を示す。また、図6は、第2の信号線42の断線なし時及び断線あり時それぞれにおけるZ軸回りの角速度が発生していないとき及びその角速度が発生しているときそれぞれのチャージアンプ出力波形を表した図を示す。
【0038】
断検用信号成分抽出回路54は、チャージアンプ30の出力が入力される2つのサンプルホールド回路58,60と、それらの2つのサンプルホールド回路58,60の出力がそれぞれ入力される差分検出回路62と、により構成されている。
【0039】
サンプルホールド回路58は、断線検出用信号生成回路50が生成する周波数fodの断検用信号がハイであるタイミングでチャージアンプ30からの電圧信号をサンプリングし、そのサンプリングした信号を断検用信号がローであるタイミングでホールドする回路である(図4におけるA点での出力)。一方、サンプルホールド回路60は、断線検出用信号生成回路50が生成する周波数fodの断検用信号がローであるタイミングでチャージアンプ30からの電圧信号をサンプリングし、そのサンプリングした信号を断検用信号がハイであるタイミングでホールドする回路である(図4におけるB点での出力)。
【0040】
差分検出回路62は、サンプルホールド回路58の出力レベル(すなわち、断検用信号のハイ時におけるサンプリング信号の電圧レベル;A出力)とサンプルホールド回路60の出力レベル(すなわち、断検用信号のロー時におけるサンプリング信号の電圧レベル;B出力)とのレベル差に応じた信号(電圧レベル差)を断検用信号成分として出力する回路である。差分検出回路62の出力としての断検用信号成分は、第2の信号線42に断線が生じていない場合は、断線検出用信号生成回路50の生成する断検用信号のハイとローとのレベル差に応じた振幅を有する一方、第2の信号線42に断線が生じている場合は、断線検出用信号生成回路50の生成する断検用信号のハイとローとのレベル差に応じた振幅を有さない。
【0041】
断線判定回路56は、コンパレータにより構成されている。断線判定回路56には、上記の差分検出回路62の出力が入力される。断線判定回路56は、差分検出回路62からの出力である断検用信号成分を基準電圧V0と比較する回路である。尚、この基準電圧V0は、検出電極24−1,24−2からの電圧信号に、サーボ信号に重畳されるハイとローとが繰り返される周波数fodの断検用信号の信号成分が含まれている場合に、その電圧信号における断検用信号のハイとローとのレベル差として通常現れ得る最低限の電圧レベルに設定されている。
【0042】
断線判定回路56は、差分検出回路62からの断検用信号成分による電圧レベル差が基準電圧V0未満であるか否かを判別する。断線判定回路56は、その電圧レベル差が基準電圧V0以上であると判別する場合は、センサ素子12からの検出変位信号に周波数fodの断検用信号に基づいてハイとローとが繰り返される信号成分が含まれていると判断できるので、第2の信号線42に断線は生じていないと判定し、出力するサーボ断線信号をオフとする。一方、上記の電圧レベル差が基準電圧V0未満であると判別する場合は、センサ素子12からの検出変位信号に周波数fodの断検用信号に基づくハイとローとが繰り返される信号成分が含まれていないと判断できるので、第2の信号線42に断線が生じていると判定し、出力するサーボ断線信号をオンとする。
【0043】
このように、本実施例のセンサ装置10においては、信号処理回路14から第2の信号線42を介してセンサ素子12へ供給されるサーボ信号に、構造体20の共振周波数よりも十分に高い周波数fodを有する断検用信号を加算すると共に、センサ素子12から第1の信号線40を介して信号処理回路14へ供給された検出変位信号に、上記の断検用信号によるハイとローとが周波数fodで繰り返される信号成分が含まれているか否かを判別することにより、サーボ信号が流通する第2の信号線42に断線が生じているか否かを判別することができる。従って、本実施例のセンサ装置10によれば、信号処理回路14からセンサ素子12へ向けてサーボ信号が流通する第2の信号線42の断線有無を判定することが可能である。
【0044】
また、本実施例のセンサ装置10においては、図6に示す如く、Z軸回りの角速度が発生しているか否かに関係なく、第2の信号線42に断線が生じていないときは、センサ素子12から第1の信号線40を介して信号処理回路14へ供給された検出変位信号に、上記の断検用信号によるハイとローとが周波数fodで繰り返される信号成分が含まれるので、その信号成分を抽出することで第2の信号線42に断線が生じていないと判定することができ、一方、第2の信号線42に断線が生じているときは、センサ素子12から第1の信号線40を介して信号処理回路14へ供給された検出変位信号に、上記の断検用信号によるハイとローとが周波数fodで繰り返される信号成分が含まれないので、その信号成分を抽出することで第2の信号線42に断線が生じていると判定することができる。
【0045】
すなわち、Z軸回りの角速度が発生していない場合は、センサ素子12の検出電極24−1,24−2から出力される検出変位信号における周波数fdの信号成分の振幅はゼロとなるが、この場合であっても、第2の信号線42に断線が生じていないときは、上記の検出変位信号に周波数fodの信号成分が含まれる一方、第2の信号線42に断線が生じているときは、上記の検出変位信号に周波数fodの信号成分が含まれないこととなる。一方、Z軸回りの角速度が発生している場合は、検出電極24−1,24−2からの検出変位信号に周波数fdの信号成分の角速度に応じた振幅が現れると共に、第2の信号線42に断線が生じていないときは、上記の検出変位信号に周波数fodの信号成分が含まれる一方、第2の信号線42に断線が生じているときは、上記の検出変位信号に周波数fodの信号成分が含まれないこととなる。
【0046】
従って、本実施例のセンサ装置10によれば、構造体20のサーボ動作を含む通常のセンサ動作を維持しつつ、構造体の振動を打ち消すサーボ力がゼロであるときすなわちZ軸回りの角速度が発生していないときを含めて常時、信号処理回路14からセンサ素子12へ供給されるサーボ信号が流通する第2の信号線42の断線有無を判定することが可能である。このため、本実施例によれば、第2の信号線42に断線が発生した際に速やかに、信号処理回路14から出力するサーボ断線信号をオンとすることが可能であるので、第2の信号線42に断線が生じた際にその断線に速やかに対応した措置(例えば、第2の信号線42の交換や故障ランプの点灯など)を行うことが可能である。
【0047】
尚、サーボ信号に加算される断検用信号は、そのサーボ信号の周波数fdすなわち構造体20の共振周波数よりも十分に高い周波数fodを有している。このため、断検用信号が、サーボ電極26−1,26−2を通じて、構造体20のY軸方向への振動変位を打ち消すサーボ力に大きな影響を与えることは回避され、断検用信号の成分に基づいて構造体20がY軸方向へ振動することは抑制される。従って、本実施例のセンサ装置10によれば、サーボ信号が流通する第2の信号線42の断線有無の判定を、サーボ信号に重畳される断検用信号によってセンサ素子12(具体的には、検出電極24−1,24−2)からの検出変位信号に大きな影響を生じさせることなく実現することが可能である。
【0048】
また、本実施例においては、断検用信号の周波数fodが、駆動電極22−1,22−2への電圧印加により構造体20が半導体基板に対してX軸方向に励振される駆動周波数fdと同期されていること、具体的には、周波数fodが駆動周波数fdの整数倍に設定されていることが望ましい(fod=n・fd;但し、nは“2”以上の整数)。かかる同期がとられていれば、センサ素子12の検出電極24−1,24−2から出力されて信号処理回路14に入力した検出変位信号に対して周波数fdによる検波を行ううえで、断検用信号の成分による影響を一定に保つことが可能である。このような一定に保たれる影響は、トリミングなどの手法で排除されることが可能である。従って、かかる構成によれば、信号処理回路14での周波数fdによる検波に際し断検用信号成分による影響を排除することができるので、サーボ信号の生成やZ軸回りの角速度検出を精度よく行うことが可能である。
【0049】
ところで、上記の実施例においては、Y軸が特許請求の範囲に記載した「第1軸」に、検波回路32が特許請求の範囲に記載した「振動成分抽出回路」に、サーボアンプ34が特許請求の範囲に記載した「出力回路」に、X軸が特許請求の範囲に記載した「第2軸」に、Z軸が特許請求の範囲に記載した「第3軸」に、それぞれ相当している。
【0050】
尚、上記の実施例においては、断検用信号成分抽出回路54を、図4に示す如く、チャージアンプ30からの電圧信号を断検用信号のレベルがハイとなるタイミングでサンプリングしてホールドするサンプルホールド回路58と、チャージアンプ30からの電圧信号を断検用信号のレベルがローとなるタイミングでサンプリングしてホールドするサンプルホールド回路60と、両レベル差を断検用信号成分として出力する差分検出回路62と、からなるものとしているが、本発明はこれに限定されるものではなく、チャージアンプ30からの電圧信号を周波数fodで検波することで、断検用信号成分を抽出して出力することとしてもよい。また、このようにチャージアンプ40からの電圧信号から断検用信号成分を抽出するのに周波数fodによる検波を用いた変形例は、信号処理回路14における回路構成が図7に示す如き全差動型である場合に適している。これは、全差動型であれば反転信号が生成されていることで周波数fodによる検波を行い易いためである。
【0051】
また、上記の実施例においては、センサ素子12が構造体20を唯一つ備えることとしているが、2つ或いは2つ以上の構造体20をセンサ素子12が備えるものとしてもよい。尚、この変形例では、センサ素子12に4つ以上のサーボ電極26を設けることとすればよく、各サーボ電極26それぞれへの各サーボ信号に断検用信号を加算することとすればよい。
【0052】
更に、上記の実施例においては、センサ装置10が検出する物理量として、構造体20のX軸方向への励振駆動中にコリオリ力の作用によりZ軸回りに生じる角速度を用いることとしているが、本発明はこれに限定されるものではなく、少なくとも、サーボ信号が流通する信号線を介して信号処理回路からセンサ素子へサーボ信号が供給されることで、構造体のY軸方向への振動変位を打ち消すサーボ力が発生するものであればよく、例えば加減速度が検出される加速度センサに適用することとしてもよい。
【符号の説明】
【0053】
10 サーボ型静電容量式センサ装置
12 センサ素子
14 信号処理回路
20 構造体
22−1,22−2 駆動電極
24−1,24−2 検出電極
26−1,26−2 サーボ電極
30 チャージアンプ
32 検波回路
34 サーボアンプ
36 サーボ信号生成回路
40 第1の信号線
42 第2の信号線
50 断線検出用信号生成回路
52 加算回路
54 断検用信号成分抽出回路
56 断線判定回路
58,60 サンプルホールド回路
62 差分検出回路


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板に対して振動可能な構造体と、前記構造体に前記基板に対して第1軸方向に加わる振動に応じた静電容量変化が生じる検出電極と、前記構造体の前記第1軸方向への振動を打ち消すサーボ力が前記構造体に付与されるように電圧印加されるサーボ電極と、を有し、前記検出電極の前記静電容量変化に応じた変位信号を出力するセンサ素子と、
前記センサ素子からの前記変位信号から前記構造体の前記第1軸方向への振動成分を抽出する振動成分抽出回路と、前記振動成分抽出回路により抽出される前記振動成分に基づいて算出される前記サーボ力の大きさを物理量として出力する出力回路と、前記サーボ力を前記構造体に付与するうえで前記サーボ電極に供給すべきサーボ信号を生成するサーボ信号生成回路と、を有する信号処理回路と、
前記センサ素子から前記信号処理回路へ向けて前記変位信号が流通する第1の信号線と、
前記信号処理回路から前記センサ素子へ向けて前記サーボ信号が流通する第2の信号線と、を備え、
前記信号処理回路は、更に、前記サーボ信号生成回路により生成される前記サーボ信号に、周波数が前記構造体の共振周波数に比べて十分に高い断検用信号を加算して得られる信号を、前記第2の信号線を介して前記サーボ電極に向けて供給する加算回路と、前記センサ素子からの前記変位信号から前記断検用信号の成分を抽出する断検用信号成分抽出回路と、前記断検用信号成分抽出手段により抽出される前記断検用信号の成分に基づいて、前記第2の信号線に断線が生じているか否かを判別する断線判定回路と、を有することを特徴とするサーボ型静電容量式センサ装置。
【請求項2】
前記断検用信号成分抽出手段は、前記断検用信号のレベルがハイとなるタイミング及び前記断検用信号のレベルがローとなるタイミングでそれぞれ、前記センサ素子からの前記変位信号のレベルを検出すると共に、
前記断線判定回路は、前記断検用信号のレベルがハイとなるタイミングで前記断検用信号成分抽出手段により抽出される前記変位信号のレベルと、前記断検用信号のレベルがローとなるタイミングで前記断検用信号成分抽出手段により抽出される前記変位信号のレベルと、の差が所定未満である場合に、前記第2の信号線に断線が生じていると判定することを特徴とする請求項1記載のサーボ型静電容量式センサ装置。
【請求項3】
前記センサ素子は、更に、前記構造体が前記基板に対して前記第1軸方向に直交する第2軸方向に励振されるように電圧印加される駆動電極を有し、
前記物理量は、前記構造体に前記第1軸方向及び前記第2軸方向の双方に直交する第3軸の回りに生じる角速度であることを特徴とする請求項1又は2記載のサーボ型静電容量式センサ装置。
【請求項4】
前記断検用信号の周波数は、前記駆動電極への電圧印加により前記構造体が前記基板に対して前記第2軸方向に励振される駆動周波数と同期されていることを特徴とする請求項3記載のサーボ型静電容量式センサ装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−137307(P2012−137307A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−287887(P2010−287887)
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】