説明

サーマルプリンタと、サーマルプリンタを用いた印刷方法

【課題】各種インクリボンに応じて良質な印刷品質を得ることができるサーマルプリンタを提供する。
【解決手段】ラベル用紙12の搬送経路30の途中にプラテンローラ31とサーマルヘッド50が配置されている。サーマルヘッド50の近傍に密着ガイド部材70が配置されている。密着ガイド部材70は、熱転写直後のラベル用紙12とインクリボン15を互いに密着させた状態のまま移動させるガイド面71を有している。インクリボン15に応じた密着ガイド部材70がラベルプリンタ10にセットされると、検出器によって密着ガイド部材70の種類が検出される。そして密着ガイド部材70の種類に応じた印刷条件が制御部の記憶手段から読出され、密着ガイド部材70に応じた印刷条件で印刷が行われる。印刷条件は、例えば各種インクリボンに応じて周囲温度に基いて補正される熱転写エネルギーや搬送機構の搬送速度などである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、サーマルヘッドにより熱転写インクリボンから受容紙にインクを熱転写させて印刷を行うサーマルプリンタと、サーマルプリンタを用いた印刷方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ラベルプリンタやバーコードプリンタ等に用いられるサーマルプリンタは、ラインサーマルヘッド(以下、サーマルヘッドという)を備えている。サーマルヘッドは、複数の発熱素子を受容紙の搬送方向と直交する方向(主走査方向)に配列することにより構成されている。
【0003】
熱転写インクリボン(以下、インクリボンという)を使用するサーマルプリンタでは、サーマルヘッドとこれに対向するプラテンローラとによって、受容紙とインクリボンとが重なった状態で挾持される。そして駆動モータによってプラテンローラを回転させて受容紙を搬送経路に沿って搬送させながら、前記インクリボンにサーマルヘッドの発熱素子を当接させることにより、インクリボンから受容紙にインクを熱転写させている。前記インクリボンは、前記搬送経路に沿って移動しながらリボン巻取りローラに巻取られる。
【0004】
サーマルプリンタに使用されるインクリボンは、インクの材料等に応じて熱時剥離タイプと冷時剥離タイプとに大別される。さらに冷時剥離タイプのインクリボンについても、インクの性状等によって複数種類のインクリボンが市場に存在している。
【0005】
熱時剥離タイプのインクリボンは、一般にワックスの成分を多く含んでおり、印刷の際には受容紙にインクが熱転写された直後に受容紙から剥離させる必要がある。この種のインクリボンは、受容紙に転写されたインクの耐摺過性や耐候性に弱点があるが、転写性に優れているため、印刷速度を早くすることができる。
【0006】
一方、冷時剥離タイプのインクリボンは、一般にレジンの成分を含んでおり、印刷の際には受容紙に熱転写されたインクが定着するまで受容紙に密着させたのちに、受容紙から剥離させる必要がある。このため冷時剥離タイプのインクリボンは、印刷速度が遅いという問題がある反面、受容紙に熱転写されたインクの耐摺過性や耐候性に優れているという利点がある。
【0007】
これら2種類のインクリボンは、用途によって使い分けられるが、それぞれのインクリボンに適した搬送経路が必要である。つまり、熱時剥離タイプのインクリボンを使用するサーマルプリンタでは、インクリボンから受容紙にインクが熱転写した直後にインクリボンを受容紙から剥離させるように構成される。これに対し冷時剥離タイプのインクリボンを使用するサーマルプリンタでは、熱転写直後に受容紙とインクリボンとを所定距離だけ互いに密着させてから剥離させるように構成される。
【0008】
しかもこれら2種類のインクリボンはインクの材料等が異なるため、良好な印刷品質が得られる適正な熱転写エネルギーや、受容紙の搬送速度などの印刷条件が異なっている。例えば冷時剥離タイプのインクリボンを使用するサーマルプリンタでは、熱時剥離タイプのインクリボンを使用するサーマルプリンタと比べて、適正な熱転写エネルギーが高く設定される。
【0009】
このため従来は、熱時剥離タイプのインクリボンを使用するサーマルプリンタと、冷時剥離タイプのインクリボンを使用するサーマルプリンタとが別々に開発され製造されていた。その一方で、例えば下記の特許文献1に開示されているように、1台のサーマルプリンタで熱時剥離タイプと冷時剥離タイプのインクリボンに対応することができるように、インクリボンの搬送経路を2種類に切換えることができるように構成されたサーマルプリンタも提案されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前記特許文献1に開示されているサーマルプリンタでは、インクリボンの搬送経路を切換えることができるが、例えば冷時剥離タイプのインクリボンのための搬送経路を選択した場合に、密着ガイド部材のガイド面の長さ等が一義的に決まってしまうため、市販されている様々な冷時剥離タイプの純正インクリボンに対応することができないことがある。
【0011】
特に冷時剥離タイプのインクリボンはインクの性質によって熱転写後に密着させる距離や熱転写エネルギーがかなり異なっている。このため、インクリボンの種類に応じて周囲温度や熱履歴によって熱転写エネルギーや搬送速度等の印刷条件を補正しないと、インクリボンの性質に適合した良好な印刷品質を得ることができない場合がある。そこでインクリボンの種類に応じた印刷条件を手動で入力することも考えられるが、操作に手間がかかるだけでなく入力ミスが生じるおそれがある。
【0012】
従ってこの発明は、各種インクリボンに応じて良好な印刷品質を得ることができるサーマルプリンタと、サーマルプリンタを用いた印刷方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明のサーマルプリンタは、受容紙を搬送経路に沿って移動させる搬送機構と、前記搬送経路に配置されたプラテン部材と、インクリボンを前記搬送経路に沿って移動させるインクリボン送り機構と、前記搬送経路に前記プラテン部材と対向して配置され、前記インクリボンのインクを前記受容紙に熱転写させるための発熱素子を備えたサーマルヘッドと、前記サーマルヘッドに対して前記受容紙の搬送下流側の所定位置に配置され、前記サーマルヘッドを通過した前記受容紙と前記インクリボンとを互いに密着させた状態のまま所定の密着長さ分を移動させるためのガイド面を有した密着ガイド部材と、前記ガイド面の長さが互いに異なる複数種類の前記密着ガイド部材を前記所定位置に着脱可能に保持する保持部と、前記保持部に保持された前記密着ガイド部材を検出する検出手段と、前記複数種類の密着ガイド部材に対応した印刷条件に関する情報が格納された記憶手段と、前記検出手段によって検出された前記密着ガイド部材の種類に応じた印刷条件を前記記憶手段から読出し、該印刷条件に基いて前記発熱素子に供給する熱転写エネルギーおよび前記搬送機構の搬送速度の少なくとも一方を該密着ガイド部材の種類に応じて制御する制御手段とを具備している。
【0014】
本発明の印刷方法では、受容紙とインクリボンとを密着させるガイド面の長さが互いに異なる複数種類の密着ガイド部材のうち前記インクリボンに応じた密着ガイド部材を保持部に設けること、前記複数種類の密着ガイド部材に対応した印刷条件を記憶手段に格納すること、前記保持部に保持された前記密着ガイド部材の種類を検出手段によって検出すること、前記検出手段によって検出された密着ガイド部材に応じた印刷条件を前記記憶手段から読出すこと、前記受容紙とインクリボンとを互いに重ねた状態で移動させるとともに、前記記憶手段から読出された前記印刷条件に基いて、サーマルヘッドに供給する熱転写エネルギーおよび搬送速度の少なくとも一方を制御することにより、前記インクリボンのインクを前記受容紙に転写すること、前記サーマルヘッドを通過した前記受容紙と前記インクリボンとを前記ガイド面に沿って移動させたのち、前記インクリボンを前記受容紙から剥離させることを具備している。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、各種インクリボンに応じて選択して使用される密着ガイド部材の種類や密着ガイド部材の有無に基いて、そのインクリボンに適した印刷条件が自動的に制御手段に取込まれるため、各種インクリボンに応じたインクリボンの搬送経路に適した印刷条件のもとで熱転写を行うことができる。このため印刷条件の設定に際して入力ミスを生じるおそれを抑制でき、良好な印刷品質を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の1つの実施形態に係るサーマルプリンタで冷時剥離タイプのインクリボンを使用する場合を模式的に示す縦断面図。
【図2】図1に示されたサーマルプリンタの制御部等の電気的接続を示すブロック図。
【図3】図1に示されたサーマルプリンタの一部を拡大して模式的に示す側面図。
【図4】図1に示されたサーマルプリンタに使用される密着ガイド部材の正面図。
【図5】図4に示された密着ガイド部材の側面図。
【図6】密着ガイド部材の他の形態を示す正面図。
【図7】図6に示された密着ガイド部材の側面図。
【図8】密着ガイド部材のさらに別の形態を示す正面図。
【図9】図8に示された密着ガイド部材の側面図。
【図10】2種類のインクリボンの周囲温度と熱転写エネルギーとの関係を示す図。
【図11】インクリボンを用いて縦線と横線を印刷する場合の熱転写エネルギーと線幅との関係を示す図。
【図12】他のインクリボンを用いて縦線と横線を印刷する場合の熱転写エネルギーと線幅との関係を示す図。
【図13】図1に示されたサーマルプリンタで熱時剥離タイプのインクリボンを使用する場合を模式的に示す縦断面図。
【図14】図1に示されたサーマルプリンタの印刷制御を示すフローチャート。
【図15】本発明の他の実施形態に係る密着ガイド部材を備えたサーマルプリンタの一部を拡大して模式的に示す側面図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明の1つの実施形態に係るサーマルプリンタの一例であるラベルプリンタについて、図1から図14を参照して説明する。
図1はラベルプリンタ10の内部を模式的に示している。図2はラベルプリンタ10の要部の電気的接続を示すブロック図である。このラベルプリンタ10は、筐体11を備えている。筐体11の内部には、受容紙の一例であるラベル用紙12を搬送するための搬送機構13と、インクリボン15を供給するためのインクリボン送り機構16と、制御手段として機能する制御部17(図2に示す)などが収容されている。
【0018】
筐体11は、図1において下側に位置する本体ケース11aと、本体ケース11aに対しヒンジ部(図示せず)を介して上下方向に回動可能に設けられたカバー11bとを含んでいる。筐体11の前面11c側に、ラベル排出口20と、各種操作スイッチ21(図2に示す)と、表示器22などが配置されている。
【0019】
筐体11の内部に形成された受容紙収容部25にラベル用紙ロール12aが収容されている。ラベル用紙ロール12aは、台紙付きのラベル用紙12をロール状に巻いたものであり、台紙12bが外側を向くように巻かれている。ラベル用紙12には、台紙12bと接する面に粘着層が設けられており、必要に応じてラベル用紙12を台紙12bから剥がすことができるようになっている。
【0020】
筐体11の内部に、ラベル用紙12を搬送するための搬送経路30が形成されている。搬送経路30は、受容紙収容部25にセットされたラベル用紙ロール12aの下面からラベル排出口20に向ってほぼ水平方向に延びている。そしてこの搬送経路30の途中に、プラテン部材の一例であるプラテンローラ31と、ガイドローラ32と、ピンチローラ33などが配置されている。
【0021】
プラテンローラ31とガイドローラ32等はラベル用紙12を搬送するための搬送機構13の一部をなし、図示しないモータおよびギヤ等を含む駆動手段によって所定の方向に回転するように構成されている。図1において矢印Fがラベル用紙12の搬送方向を示している。
【0022】
ラベル排出口20は搬送経路30の終端付近に形成されている。ラベル排出口20の近傍に台紙剥離ガイド40が設けられている。台紙剥離ガイド40は、台紙12bを備えたラベル用紙12をラベル排出口20の直前で急角度に折曲げることにより、ラベル用紙12を台紙12bから剥離させるようにしている。台紙12bから剥離したラベル12cはラベル排出口20から取出すことができる。搬送経路30の下方には、剥離された台紙12bを巻取るための台紙巻取り機構41が設けられている。台紙巻取り機構41は、図示しないモータおよびギヤ等を含む駆動手段によって回転する台紙巻取りローラ42を含んでいる。
【0023】
搬送経路30の途中にサーマルヘッド50が設けられている。図3に拡大して示すようにサーマルヘッド50はプラテンローラ31の上方に対向して配置され、プラテンローラ31とサーマルヘッド50との間に台紙12b付きのラベル用紙12が挟まれるようになっている。サーマルヘッド50は、ヘッドブラケット51の下面に固定されている。サーマルヘッド50の下面の先端部に発熱素子52が設けられている。発熱素子52は、プラテンローラ31の軸線方向に沿って、ラベル用紙12の搬送方向と直角な方向(主走査方向)に所定間隔で複数配置されている。
【0024】
インクリボン送り機構16は、ラベルプリンタ10内のインクリボンロール15a(図1に示す)から繰出されるインクリボン15を、搬送経路30上のラベル用紙12に向けて供給するように構成されている。ラベル用紙12に向けて供給されたインクリボン15は、ラベル用紙12上に重なった状態でプラテンローラ31とサーマルヘッド50との間を通ったのち、上方に向きを変えてインクリボン巻取りローラ55に巻取られるようになっている。
【0025】
図2に示すように制御部17は、ラベルプリンタ10の動作を制御するための演算機能を有するCPU(Central Processing Unit)60と、印刷制御プログラム等の固定的データを格納する記憶手段の一例であるROM(Read Only Memory)61と、各種データを書き換え可能に格納するRAM(Random Access Memory)62などを有し、これらがバスライン63を介して互いに電気的に接続されている。
【0026】
CPU60には、前記搬送機構13のモータやインクリボン送り機構16のモータがバスライン63を介して接続されている。またこのCPU60には、操作スイッチ21と、表示器22と、台紙巻取り機構41と、サーマルヘッド50と、通信用インタフェース65と、後述する検出器90などがバスライン63を介して接続されている。通信用インタフェース65は、図示しないホストコンピュータから印刷に関する各種データを受信する機能を担っている。
【0027】
サーマルヘッド50の発熱素子52の近傍でラベル用紙12の搬送方向下流側、すなわち搬送下流側の印刷直後位置に、密着ガイド部材70が着脱可能に配置されている。この密着ガイド部材70は、熱転写直後のラベル用紙12とインクリボン15とを密着させる機能を有している。
【0028】
図3に示すように密着ガイド部材70は、その下面側にガイド面71を有している。ガイド面71は、発熱素子52を通過したラベル用紙(受容紙)12とインクリボン15とを互いに密着させた状態で所定長さ分を移動させることができるようになっている。ここで言う「所定長さ」とは、インクリボン15のインクがラベル用紙12に十分定着し、しかも熱転写後のインクがインクリボン15に再付着してしまうことを回避できる長さであり、冷時剥離タイプのインクリボンの場合には、例えば4mm以上、12mm以下が望ましい。熱時剥離タイプのインクリボンの場合には2mm以下が望ましい。そしてこのガイド面71は、ラベル用紙12とインクリボン15を間に挟んでプラテンローラ31と対向している。
【0029】
また密着ガイド部材70は、剥離したインクリボン15が上方に向かうことを許容する剥離側の縦壁面72を有している。この縦壁面72は、ガイド面71の前端から上方に延びており、ラベル用紙12から剥離したインクリボン15が2点鎖線A1で示すように上方に向かって移動することができるようになっている。
【0030】
図4に示すように密着ガイド部材70は水平方向に長い形状をなし、プラテンローラ31およびサーマルヘッド50と平行にラベル用紙12の幅方向(主走査方向)に延びている。密着ガイド部材70の両端部には、ラベルプリンタ10の両側部に設けられたフレーム部材75等に取付けるための取付部80,81が設けられている。取付部80,81の一例は、それぞれ複数のピン82,83を備えている。これらのピン82,83を、例えば筐体11のフレーム部材75に設けられた保持部85,86に嵌合させるなどして支持することにより、密着ガイド部材70をラベルプリンタ10内の所定位置、すなわちサーマルヘッド50に対してインクリボン15の搬送方向下流側でサーマルヘッド50の近傍位置に保持するようになっている。
【0031】
密着ガイド部材70は、インクリボン15の種類に対応して複数種類用意されている。例えば図5に示す密着ガイド部材70は、ガイド面71の長さがL1、ガイド面71に対して剥離側の縦壁面72のなす角度がθ1である。これに対し、図6と図7に示す密着ガイド部材70は、ガイド面71の長さがL2(L2<L1)、剥離側の縦壁面72の角度がθ2(θ2<θ1)である。図8と図9に示す密着ガイド部材70は、ガイド面71の長さがL3(L3<L2<L1)、剥離側の縦壁面72のなす角度がθ3(θ3<θ2<θ1)である。例えばL1が12mm、L2が8mm、L3が4mmであるが、これ以外の長さであってもよい。
【0032】
保持部85の近傍には、密着ガイド部材70の種類を識別するための検出器90が設けられている。例えば密着ガイド部材70の一方の取付部80に設けられた複数のピン82の形状あるいはピン群の組合せに応じて作動する検出器90により、密着ガイド部材70の種類を識別して制御部17に出力するようになっている。この検出器90は、密着ガイド部材70の種類を検出するための検出手段として機能する。
【0033】
図10は熱時剥離タイプのインクリボンと冷時剥離タイプのインクリボンの周囲温度と熱転写エネルギーとの関係を示している。一般に冷時剥離タイプのインクリボンは、熱時剥離タイプのインクリボンと比較して熱転写エネルギーを多く必要としている。しかも冷時剥離タイプのインクリボンは、インクが熱転写された直後に受容紙に対してある程度の長さ分を密着させておく必要がある。このため密着ガイド部材70が使用されることになる。
【0034】
図11と図12は、互いに異なる冷時剥離タイプのインクリボンの線幅と熱転写エネルギーとの関係を示している。図11のインクリボンの場合、3ドット線幅0.25mm付近での縦線と横線の熱転写エネルギーは同等である。しかし図12のインクリボンの場合には、3ドット線幅0.25mm付近での縦線と横線の熱転写エネルギーが大きく異なっている。
【0035】
このように冷時剥離タイプのインクリボンは、リボンの種類によって熱転写エネルギー等の印刷条件が大きく変化する。しかも冷時剥離タイプのインクリボンは、その種類によって最適なガイド面71の長さが変化する。
【0036】
制御部17の記憶手段であるROM61には、密着ガイド部材70の種類に応じて、周囲温度に基いて補正すべき熱転写エネルギーに関する情報を記憶したテーブル(周囲温度テーブル)が格納されている。またこのROM61には、密着ガイド部材70の種類に応じて、発熱素子52の熱履歴に基いて補正すべき熱転写エネルギーに関する情報を記憶したテーブル(熱履歴テーブル)が格納されている。各テーブルの一例を表1に示す。
【表1】

【0037】
本実施形態では、冷時剥離タイプのインクリボンを用いる場合、前述した複数種類の密着ガイド部材70(図4〜図9)の中からインクリボンの性質に応じた密着ガイド部材70を選択し、保持部85,86に取付ける。
【0038】
密着ガイド部材70が保持部85,86に取付けられると、検出器90の出力に基いて密着ガイド部材70の種類が検出され、前述の周囲温度テーブルと熱履歴テーブルがROM61から読込まれるように、印刷制御プログラムがCPU60に組まれている。ROM61は、複数種類の密着ガイド部材70に対応した印刷条件に関する情報を格納するための記憶手段として機能する。そしてCPU60は、読出された印刷条件に基いて発熱素子52に供給する「熱転写エネルギー」および搬送機構13の「搬送速度」の少なくとも一方を密着ガイド部材70の種類に応じて制御する制御手段として機能する。
【0039】
熱時剥離タイプのインクリボンを用いて印刷する際には、熱転写直後にインクリボンを受容紙から剥離させる必要がある。このため図13に示すように、前記密着ガイド部材70を用いずに印刷が行われる。密着ガイド部材70を使用しない場合、熱転写後のインクリボンは、図3に2点鎖線A2で示すように、発熱素子52を通過した直後に直ちにラベル用紙12から剥離される。
【0040】
図14は前記ラベルプリンタ10を用いて印刷を行う際の処理の流れを示すフローチャートである。以下にこのフローチャートを参照しながら本実施形態のラベルプリンタ10による印刷方法の一例について説明する。
【0041】
操作スイッチ21が操作されたときに、制御部17のCPU60は、以下に説明するように搬送機構13とインクリボン送り機構16とサーマルヘッド50等を作動させ、インクリボン15のインクをラベル用紙12に熱転写するように印刷制御プログラムを実行する。
【0042】
図14において、印刷条件を設定するステップS1では、使用するインクリボンを冷時剥離タイプとするか熱時剥離タイプとするかを判断する。また受容紙の種類に関し、例えば普通紙であるか上質紙であるかなどの判断を行う。インクリボン等を交換するステップS2では、用途に応じたインクリボンあるいは受容紙(例えばラベル用紙12)をラベルプリンタ10にセットする。冷時剥離タイプのインクリボンを使用する場合、ステップS3において、インクリボンに応じた密着ガイド部材70をラベルプリンタ10にセットする。
【0043】
ステップS4において、検出器90によって密着ガイド部材70の有無が検出される。密着ガイド部材70が有る場合、密着ガイド部材70の種類が検出される。ステップS5において、密着ガイド部材70に応じた周囲温度テーブルがROM61から読出され、RAM62に格納される。さらにステップS6において、密着ガイド部材70に応じた熱履歴テーブルがROM61から読出され、RAM62に格納される。また必要があれば、ステップS7において、ラベル用紙12とインクリボン15の組合せに関わるテーブルがROM61から読出され、RAM62に格納される。
【0044】
データ読込みステップS8において、印刷すべきデータが読出される。判断ステップS9において複数ライン分のデータが読出されたと判断されたら、書込みステップS10において熱履歴テーブルを書込んだのち、印刷ステップS11において複数ライン分を印刷する。判断ステップS12において全副走査ラインの印刷が終了したと判断されると印刷終了となる。
【0045】
このように冷時剥離タイプのインクリボンを使用する際、作業者はインクリボンの種類に応じた密着ガイド部材70を選択し、ラベルプリンタ10の保持部85,86に取付ける。そうすると検出器90からの信号がCPU60に入力されることにより、CPU60がインクリボンの種類を判断し、そのインクリボンに適した印刷条件(各種設定値)をROM61からRAM62に格納し、ラベルプリンタ10の印刷条件として設定する。
【0046】
制御手段として機能するCPU60は、検出された密着ガイド部材70の種類に応じて、例えば前記周囲温度テーブルによって補正された熱転写エネルギーを発熱素子52に供給する。あるいは、検出された密着ガイド部材70の種類に応じて前記熱履歴テーブルによって補正された熱転写エネルギーを発熱素子52に供給する。また、各密着ガイド部材70に応じた搬送速度に関する情報を予めROM61に格納しておき、検出された密着ガイド部材70の種類に応じて搬送機構13の搬送速度を制御してもよい。
【0047】
以上説明したように、冷時剥離タイプのインクリボンが使用される場合、インクリボンの性状に応じた密着ガイド部材70がラベルプリンタ10の保持部85,86に取付けられる。このため熱転写後のインクリボン15は、密着ガイド部材70のガイド面71の長さに相当する分だけラベル用紙12に密着した状態で搬送され、そののちラベル用紙12から剥離することになる。このためインクがラベル用紙12に十分定着し、しかも熱転写後のインクがインクリボンに再付着してしまう不具合も防止される。このためインクリボンの種類に応じた良好な印刷品質を得ることができる。
【0048】
図13に示すように、熱時剥離タイプのインクリボンを使用する場合には、前記密着ガイド部材70を保持部85,86に取付けることなく印刷を行う。この場合、検出器90は密着ガイド部材70を検出しないため、CPU60は熱時剥離タイプのインクリボンが使用されていると判断し、熱時剥離タイプのインクリボンを使用する場合に適した印刷条件を設定して熱転写を行う。この場合、インクリボン15はインクが熱転写した直後にラベル用紙12から剥離する。
【0049】
以上説明したように本実施形態のラベルプリンタの印刷方法は、下記の工程を含んでいる。
(1)互いに異なる複数種類の密着ガイド部材70のうちインクリボン15に応じた密着ガイド部材70を保持部85,86に設けること。
(2)前記複数種類の密着ガイド部材70に応じた印刷条件が記憶手段としての制御部17のROM61に格納されること。
(3)保持部85,86に保持された密着ガイド部材70の種類が検出器90によって検出されること。
(4)検出器90によって検出された密着ガイド部材70に応じた印刷条件がROM61から読出されること。
(5)検出された密着ガイド部材70に応じた印刷条件に基いて、サーマルヘッド50の発熱素子52に供給する熱転写エネルギーおよび搬送機構13の搬送速度の少なくとも一方(双方でもよい)を制御することにより、インクリボン15のインクをラベル用紙12に転写すること。
(6)サーマルヘッド50を通過したラベル用紙12とインクリボン15とを密着ガイド部材70のガイド面71によって互いに密着させた状態のままガイド面71に沿って移動させたのち、インクリボン15をラベル用紙12から剥離させること。
以上述べた工程(1)〜(6)を有する印刷方法により、各種インクリボン15に応じた良質な印刷品質を得ることができる。
【0050】
図15は本発明の他の実施形態に係る密着ガイド部材70Aを示している。この密着ガイド部材70Aは、回転軸Xを中心に回転可能であり、しかも回転方向(周方向)に複数(例えば3つ)のガイド面71A,71B,71Cを有している。密着ガイド部材70Aを回転軸Xを中心に回転させることにより、ガイド面71A,71B,71Cのうち、印刷に使用するインクリボンに適したガイド面を選択するとともに、選択されたガイド面を検出器(図示せず)によって検出するようになっている。各ガイド面71A,71B,71Cのリボン剥離側には、剥離角度がそれぞれθ1,θ2,θ3の縦壁面72A,72B,72Cが形成されている。それ以外の構成と作用効果は前記実施形態(図1,図14)と共通であるため説明を省略する。
【0051】
なお本発明はラベルプリンタ以外のサーマルプリンタにも適用することもできる。従って受容紙はラベル用紙以外であってもよい。また本発明を実施するに当たり、サーマルプリンタを構成するプラテン部材やサーマルヘッド、搬送経路をはじめとして、密着ガイド部材や検出手段等の形状や配置等を種々に変更して実施できることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0052】
10…ラベルプリンタ(サーマルプリンタの一例)
12…ラベル用紙(受容紙の一例)
13…搬送機構
15…インクリボン
16…インクリボン送り機構
17…制御部(制御手段)
30…搬送経路
31…プラテンローラ(プラテン部材)
50…サーマルヘッド
52…発熱素子
70,70A…密着ガイド部材
71,71A,71B,71C…ガイド面
85,86…保持部
90…検出器(検出手段の一例)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0053】
【特許文献1】特開2003−1859号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
受容紙を搬送経路に沿って移動させる搬送機構と、
前記搬送経路に配置されたプラテン部材と、
インクリボンを前記搬送経路に沿って移動させるインクリボン送り機構と、
前記搬送経路に前記プラテン部材と対向して配置され、前記インクリボンのインクを前記受容紙に熱転写させるための発熱素子を備えたサーマルヘッドと、
前記サーマルヘッドに対して前記受容紙の搬送下流側の所定位置に配置され、前記サーマルヘッドを通過した前記受容紙と前記インクリボンとを互いに密着させた状態のまま所定の密着長さ分を移動させるためのガイド面を有した密着ガイド部材と、
前記ガイド面の長さが互いに異なる複数種類の前記密着ガイド部材を前記所定位置に着脱可能に保持する保持部と、
前記保持部に保持された前記密着ガイド部材を検出する検出手段と、
前記複数種類の密着ガイド部材に対応した印刷条件に関する情報が格納された記憶手段と、
前記検出手段によって検出された前記密着ガイド部材の種類に応じた印刷条件を前記記憶手段から読出し、該印刷条件に基いて前記発熱素子に供給する熱転写エネルギーおよび前記搬送機構の搬送速度の少なくとも一方を該密着ガイド部材の種類に応じて制御する制御手段と、
を具備したことを特徴とするサーマルプリンタ。
【請求項2】
前記記憶手段には前記複数種類の密着ガイド部材に応じて周囲温度と熱転写エネルギーに関する情報が格納され、前記制御手段は前記検出手段によって検出された密着ガイド部材の種類に応じて、前記周囲温度によって補正された熱転写エネルギーを前記発熱素子に供給することを特徴とする請求項1に記載のサーマルプリンタ。
【請求項3】
前記記憶手段には前記複数種類の密着ガイド部材に応じて前記発熱素子の熱履歴と熱転写エネルギーに関する情報が格納され、前記制御手段は前記検出手段によって検出された密着ガイド部材の種類に応じて前記熱履歴によって補正された熱転写エネルギーを前記発熱素子に供給することを特徴とする請求項1または2に記載のサーマルプリンタ。
【請求項4】
前記記憶手段には前記複数種類の密着ガイド部材に応じて前記搬送機構の搬送速度に関する情報が格納され、前記制御手段は前記検出手段によって検出された密着ガイド部材の種類に応じて前記搬送速度を制御することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のサーマルプリンタ。
【請求項5】
受容紙とインクリボンとを密着させるガイド面の長さが互いに異なる複数種類の密着ガイド部材のうち前記インクリボンに応じた密着ガイド部材を保持部に設けること、
前記複数種類の密着ガイド部材に対応した印刷条件を記憶手段に格納すること、
前記保持部に保持された前記密着ガイド部材の種類を検出手段によって検出すること、
前記検出手段によって検出された密着ガイド部材に応じた印刷条件を前記記憶手段から読出すこと、
前記受容紙とインクリボンとを互いに重ねた状態で移動させるとともに、前記記憶手段から読出された前記印刷条件に基いて、サーマルヘッドに供給する熱転写エネルギーおよび搬送速度の少なくとも一方を制御することにより、前記インクリボンのインクを前記受容紙に転写すること、
前記サーマルヘッドを通過した前記受容紙と前記インクリボンとを前記ガイド面に沿って移動させたのち、前記インクリボンを前記受容紙から剥離させること、
を具備したことを特徴とするサーマルプリンタの印刷方法。
【請求項6】
前記インクリボンが熱時剥離タイプの場合には前記密着ガイド部材を前記保持部に設けずに熱転写を行い、前記インクリボンが冷時剥離タイプの場合には複数種類の前記密着ガイド部材の中から当該インクリボンに応じた密着ガイド部材を前記保持部に取付けて熱転写を行うことを特徴とする請求項5に記載のサーマルプリンタの印刷方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2011−62900(P2011−62900A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−214970(P2009−214970)
【出願日】平成21年9月16日(2009.9.16)
【出願人】(000003562)東芝テック株式会社 (5,631)
【Fターム(参考)】