説明

サーマルヘッドおよびプリンタ

【課題】発熱抵抗体に対応する位置に空洞部を有するサーマルヘッドにおいて、空洞部の強度を確保しつつ、熱効率を向上することができるサーマルヘッドおよびプリンタを提供する。
【解決手段】表面に凹部2を有する支持基板と、支持基板の表面に積層状態に接合された上板基板5と、上板基板5の表面の凹部2に対応する位置に設けられた発熱抵抗体7とを備え、上板基板5の裏面の少なくとも凹部2に対向する領域の中心線平均粗さが5nm未満であるサーマルヘッド1を採用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サーマルヘッドおよびこれを備えるプリンタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、サーマルプリンタに用いられ、印刷データに基づいて複数の発熱素子を選択的に駆動することによって紙等の感熱記録媒体に印刷を行うサーマルヘッドが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に開示されているサーマルヘッドは、凹部が形成された基板に薄板ガラスを接合し、薄板ガラス上に発熱抵抗体を設けることで、発熱抵抗体に対応する領域に空洞部を形成している。このサーマルヘッドは、空洞部を熱伝導率の低い断熱層として機能させ、発熱抵抗体から基板側に流れる熱量を低減することで、熱効率を向上して消費電力の低減を図っている。
【0004】
ガラス同士の接合には、例えば特許文献2に開示されているように、平滑な基板表面を得るため鏡面研磨された基板が用いられる。100μm以下の薄板ガラスは、その製造が困難であり、また、サーマルヘッドの製造工程でそのハンドリングが困難である。そのため、比較的扱いやすい厚さの元板ガラスを基板に接合した後に、機械研磨等によって所望の厚さに加工することによって、100μm以下の薄板ガラスを実現する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−119850号公報
【特許文献2】特開平6−298539号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、機械研磨では、貼り合せられた一対のガラス基板を所望の厚さにするため、第一段の粗削りの後、第二段の仕上げ研磨を行う二段加工の研磨操作が行われる。この際、第一段目の粗削りによって表面粗さが増大した基板表面に、ポリッシュ等による仕上げ研磨を行い、ガラス基板の表面を鏡面化する。
【0007】
しかしながら、第一段の荒削り研磨によって厚さが低減されたガラス基板は、その強度が低下するため、その後に行われる仕上げ研磨(ポリッシュ)の際に破壊されるおそれが増大する。また、仕上げ研磨では、研磨砥粒が細かいため、荒削りのときに比べ、基板にかける荷重を大きくする必要がある。そのため、仕上げ研磨の際、薄板ガラスの空洞部に面している部分で大きな引張応力が発生する。特に、機械研磨等で加工された薄板ガラスの表面には、多くのクラックが存在するため、このクラックが進行して薄板ガラスが破壊しやすいという問題がある。
【0008】
さらに、上記のサーマルヘッドを搭載するプリンタは、プラテンローラに感熱紙を挟んで押し付けられる構造をもつ。したがって、サーマルヘッドの発熱抵抗体は、加圧機構により所定の押圧力で感熱紙に押し付けられる。特に、プラテンローラと発熱部の間に、数μm〜数十μmの微小な異物が挿入された場合、薄板ガラスの空洞部に面している部分には非常に大きな引張応力が発生し、薄板ガラスが破壊されやすい。
【0009】
一方、薄板ガラスが破壊しないようにするためには、薄板ガラスの強度を確保する必要がある。しかしながら、従来のサーマルヘッドによれば、薄板ガラスの強度を確保ためには薄板ガラスを厚くせざるを得ないため、発熱抵抗体からの伝熱量が増加して、サーマルヘッドの熱効率を低下させてしまうという不都合がある。
【0010】
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであって、発熱抵抗体に対応する位置に空洞部を有するサーマルヘッドにおいて、空洞部の強度を確保しつつ、熱効率を向上することができるサーマルヘッドおよびプリンタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明の第1の態様は、表面に凹部を有する支持基板と、該支持基板の表面に積層状態に接合された上板基板と、該上板基板の表面の前記凹部に対応する位置に設けられた発熱抵抗体とを備え、前記上板基板の裏面の少なくとも前記凹部に対向する領域の中心線平均粗さが5nm未満であるサーマルヘッドである。
【0012】
発熱抵抗体が設けられた上板基板は、発熱抵抗体から発生した熱を蓄える蓄熱層として機能する。また、支持基板の表面に形成された凹部は、支持基板と上板基板とが積層状態に接合されることで、支持基板と上板基板との間に空洞部を形成する。この空洞部は、発熱抵抗体に対応する領域に形成されており、発熱抵抗体から発生した熱を遮断する断熱層として機能する。したがって、本発明によれば、発熱抵抗体から発生した熱が、上板基板を介して支持基板へ伝わって放散してしまうことを抑制することができ、発熱抵抗体から発生した熱の利用率、すなわちサーマルヘッドの熱効率を向上することができる。
【0013】
ここで、上板基板に荷重が加わった場合には、上板基板の凹部に対応する領域が変形し、該領域において上板基板の裏面に引張応力が発生する。この場合において、本発明は、上板基板の裏面の少なくとも凹部に対向する領域の中心線平均粗さを5nm未満に設定しているため、上板基板の裏面のクラックに応力が集中して、上板基板の表面のクラックが進行してしまうことを防止することができる。すなわち、本発明によれば、上板基板の強度を向上することで、上板基板を薄くしてサーマルヘッドの熱効率を向上することができ、印刷に必要なエネルギー量を低減することができる。
【0014】
上記態様において、前記上板基板の裏面の少なくとも前記凹部に対向する領域に形成された傷の平均深さが0.1μm未満であることとしてもよい。
クラックは深くなるほど、クラック先端に発生する応力が大きくなり、クラックが進行する。そこで、上板基板の裏面の少なくとも凹部に対向する領域、すなわち引張応力がかかる領域において、機械研磨等による切削痕の平均深さを0.1μm未満とすることで、クラックの進行を抑制することができる。
【0015】
上記態様において、前記上板基板の裏面の少なくとも前記凹部に対向する領域に、HF溶液によるウェットエッチングが施されたこととしてもよい。
上板基板の裏面の少なくとも凹部に対向する領域に対して、HF水溶液やHF混合液によるウェットエッチングを施すことによって、研磨工程で形成された切削痕を小さくし、クラックの深さが浅くすることができる。これにより、上板基板の裏面のクラックの進行を抑制することができ、上板基板の強度を向上させることができる。
【0016】
また、ウェットエッチングの代わりに、異方性エッチングにより表層を所定量除去してもよい。これにより、研磨工程で形成された切削痕をほとんど全て除去することができる。潜傷をほとんど全て除去することができる。
異方性エッチングの例としては、反応性イオンビームエッチングその他のイオンビームエッチング、プラズマエッチング、スパッタエッチング、光エッチング、ガスクラスターイオンビーム法等のドライエッチングがある。
【0017】
上記態様において、前記上板基板の裏面の少なくとも前記凹部に対向する領域が、ウェットエッチングにより5μm以上除去されていることとしてもよい。
上板基板の裏面の少なくとも凹部に対向する領域に対して、ウェットエッチングにより5μm以上除去することで、上板基板の裏面のマイクロクラックを除去することができ、上板基板の強度を向上させることができる。
【0018】
上記態様において、前記上板基板が、フュージョン法またはダウンフロー等によって製造されたガラス素板であり、前記支持基板の表面に接合される前記上板基板の裏面が、製造されたままの火造り面であることとしてもよい。
フュージョン法やダウンドロー法によれば、未研磨の状態で表面粗さの十分に小さなガラスを製造することができる。したがって、これら製造方法によって製造されたガラスを上板基板に使用することで、支持基板との接合面として、製造されたままの火造り面を使用しても十分な強度を確保することができ、ウェットエッチングや機械研磨等によって上板基板の裏面を平坦化処理する必要を排除することができる。
【0019】
上記態様において、前記上板基板の平行度を向上するために、前記上板基板の表面に機械研磨が施されたこととしてもよい。
フュージョン法やダウンドロー法などで製造されたガラスを上板基板に使用し、上板基板の表面に対して機械研磨等を行うことで、平行度の高い上板基板とすることができる。これにより、厚さバラツキの少ない上板基板を形成することができるため、基板全体に配置された全てのサーマルヘッドの発熱効率を均一化することができ、歩留まりを向上することができる。
【0020】
上記態様において、前記支持基板と前記上板基板とが乾燥状態で接合され、この接合された接合基板が、200℃以上軟化点以下で熱処理が施されたこととしてもよい。
クラックは加熱処理により、クラック表面のSiのダングリングボンドが再結合し、元の状態にもどることがある。この現象をクラック・ヒーリング効果という。クラック・ヒーリング効果は水分が多い状態では、OH基がクラック表面にターミネートされている。その状態で加熱処理を行った場合、空洞部に水分が閉じ込められ、クラック表面のSiダングリングがOH基と結合したままとなり、元の状態にもどることが困難になる。
【0021】
したがって、支持基板と上板基板とを乾燥した状態で接合した後、この接合基板を乾燥させてから熱処理させることで、クラック・ヒーリング効果によって比較的低い温度で熱処理しても、上板基板の空洞部に対向する領域のクラックを減少し、その深さも浅くすることができ、上板基板の強度を向上することができる。具体的には、200℃以上で熱処理を行うことで、クラック表面に残ったOH基を除去し、Siダングリングボンドの再結合を強固なものにできる。また、軟化以下で熱処理を行うことで、上板基板の変形を抑えることができ、平坦度を損なうことなく、上板基板の強度を向上させることができる。
【0022】
本発明の第2の態様は、上記のサーマルヘッドを備えるプリンタである。
このようなプリンタによれば、上記のサーマルヘッドを備えているため、上板基板の強度を確保しつつ、上板基板を薄くしてサーマルヘッドの熱効率を向上することができ、印刷に必要なエネルギー量を低減することができる。これにより、少ない電力で感熱紙に印刷することができ、バッテリーの持続時間を長期化させることができるとともに、プリンタ全体の信頼性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、発熱抵抗体に対応する位置に空洞部を有するサーマルヘッドにおいて、空洞部の強度を確保しつつ、熱効率を向上することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るサーマルプリンタの概略構成図である。
【図2】図1のサーマルヘッドを保護膜側から見た平面図である。
【図3】図2のサーマルヘッドのA−A矢指断面図(横断面図)である。
【図4】図3のサーマルヘッドの製造方法を説明する図であり、(a)は前処理工程、(b)は空洞部形成工程、(c)は平滑化工程、(d)は接合工程、(e)は薄板工程、(f)は抵抗体形成工程、(g)は電極形成工程、(h)は保護膜形成工程である。
【図5】本発明の第2の実施形態サーマルヘッドの製造方法を説明する図であり、(a)は平滑基板製造工程、(b)は空洞部形成工程、(c)は接合工程、(d)は薄板工程、(e)は抵抗体形成工程、(f)は電極形成工程、(g)は保護膜形成工程である。
【図6】本発明の第3の実施形態サーマルヘッドの製造方法を説明する図であり、(a)は平滑基板製造工程、(b)は平行加工工程、(c)は空洞部形成工程、(d)は接合工程、(e)は薄板工程、(f)は抵抗体形成工程、(g)は電極形成工程、(h)は保護膜形成工程である。
【図7】従来のサーマルヘッドの横断面図である。
【図8】図7のサーマルヘッドの製造方法を説明する図であり、(a)は前処理工程、(b)は空洞部形成工程、(c)は接合工程、(d)は薄板工程、(e)は抵抗体形成工程、(f)は電極形成工程、(g)は保護膜形成工程である。
【図9】サーマルヘッドに荷重が加えられた場合の挙動を説明する図であり、(a)は無負荷時、(b)は有負荷時を示している。
【発明を実施するための形態】
【0025】
[第1の実施形態]
以下、本発明の第1の実施形態に係るサーマルヘッド1およびサーマルプリンタ10について、図面を参照して説明する。
本実施形態に係るサーマルヘッド1は、例えば図1に示すようなサーマルプリンタ10に用いられており、印刷データに基づいて複数の発熱素子を選択的に駆動することによって感熱紙12等の印刷対象物に印刷を行うものである。
【0026】
サーマルプリンタ10は、本体フレーム11と、水平配置されるプラテンローラ13と、プラテンローラ13の外周面に対向配置されるサーマルヘッド1と、サーマルヘッド1を支持している放熱板(図示略)と、プラテンローラ13とサーマルヘッド1との間に感熱紙12を送り出す紙送り機構17と、サーマルヘッド1を感熱紙12に対して所定の押圧力で押し付ける加圧機構19とを備えている。
【0027】
プラテンローラ13は、加圧機構19の作動により、サーマルヘッド1および感熱紙12が押し付けられるようになっている。これにより、プラテンローラ13の荷重が感熱紙12を介してサーマルヘッド1に加えられるようになっている。
放熱板は、例えば、アルミ等の金属、樹脂、セラミックスまたはガラス等からなる板状部材であり、サーマルヘッド1の固定および放熱を目的とするものである。
【0028】
サーマルヘッド1は、図2に示すように、発熱抵抗体7および電極部8が、支持基板3の長手方向に複数配列されている。矢印Yは、紙送り機構17による感熱紙12の送り方向を示している。また、支持基板3の表面には、支持基板3の長手方向に延びる矩形状の凹部2が形成されている。
【0029】
図2のA−A矢視断面図が、図3に示されている。
サーマルヘッド1は、図3に示すように、矩形状の支持基板3と、支持基板3の表面に接合された上板基板5と、上板基板5上に設けられた複数の発熱抵抗体7と、発熱抵抗体7に接続された電極部8と、発熱抵抗体7および電極部8を覆い、これらを磨耗や腐食から保護する保護膜9とを有している。
【0030】
支持基板3は、例えば、300μm〜1mm程度の厚さを有するガラス基板やシリコン基板等の絶縁性の基板である。支持基板3の上端面(表面)、すなわち上板基板5との境界面には、支持基板3の長手方向に延びる矩形状の凹部2が形成されている。この凹部2は、例えば、深さ1μm〜100μm、幅50μm〜300μm程度の溝である。
【0031】
上板基板5は、例えば、厚さ10μm〜100μm±5μm程度のガラス材質によって構成されており、発熱抵抗体7から発生した熱を蓄える蓄熱層として機能する。この上板基板5は、凹部2を密閉するように支持基板3の表面に積層状態に接合されている。上板基板5によって凹部2が覆われることにより、上板基板5と支持基板3との間には空洞部4が形成されている。
【0032】
また、上板基板5は、後述するように、発熱抵抗体7が設けられる上端面(表面)には機械研磨が施された第二研磨面5aが形成され、支持基板3に接合される下端面(裏面)にはHF溶液によるウェットエッチングが施された平滑面5bが形成されている。上板基板5の平滑面5bは、その中心線平均粗さRaが5nm未満とされている。
【0033】
空洞部4は、全ての発熱抵抗体7に対向する連通構造を有しており、発熱抵抗体7から発生した熱が、上板基板5から支持基板3へ伝わることを抑制する中空断熱層として機能する。空洞部4を中空断熱層として機能させることで、発熱抵抗体7の下方の上板基板5を介して支持基板3に伝わる熱量よりも、発熱抵抗体7の上方へ伝わって印字等に利用される熱量を大きくすることができ、サーマルヘッド1の熱効率の向上を図ることができる。
【0034】
発熱抵抗体7は、上板基板5の上端面において、それぞれ凹部2を幅方向に跨ぐように設けられ、凹部2の長手方向に所定の間隔をあけて配列されている。すなわち、各発熱抵抗体7は、上板基板5を介して空洞部4に対向して設けられ、空洞部4上に位置するように配置されている。
【0035】
電極部8は、発熱抵抗体7を発熱させるためのものであり、各発熱抵抗体7の配列方向に直交する方向の一端に接続される共通電極8Aと、各発熱抵抗体7の他端に接続される個別電極8Bとから構成されている。共通電極8Aは、全ての発熱抵抗体7に一体的に接続され、個別電極8Bは個々の発熱抵抗体7にそれぞれ接続されている。
【0036】
個別電極8Bに選択的に電圧を印加すると、選択された個別電極8Bとこれに対向する共通電極8Aとが接続されている発熱抵抗体7に電流が流れ、発熱抵抗体7が発熱するようになっている。この状態で、加圧機構19の作動により、発熱抵抗体7の発熱部分を覆う保護膜9の表面部分(印字部分)に感熱紙12を押し付けることで、感熱紙12が発色して印字されるようになっている。
【0037】
なお、各発熱抵抗体7のうち実際に発熱する部分(図2において発熱部7A)は、発熱抵抗体7に電極部8A,8Bが重なっていない部分、すなわち、発熱抵抗体7のうち共通電極8Aの接続面と個別電極8Bの接続面との間の領域であって、空洞部4のほぼ真上に位置する部分である。
【0038】
以下、このように構成されたサーマルヘッド1の製造方法について、図4(a)から図4(h)を用いて説明する。
本実施形態に係るサーマルヘッド1の製造方法は、図4(a)から図4(h)に示すように、薄板加工前の上板基板5を機械研磨する前処理工程と、支持基板3に凹部2を形成する空洞部形成工程と、上板基板5に平滑化処理を施す平滑化工程と、支持基板3の表面と上板基板5の裏面とを接合する接合工程と、支持基板3に接合された上板基板5を薄板加工する薄板工程と、上板基板5の表面に発熱抵抗体7を形成する抵抗体形成工程と、発熱抵抗体7の上に電極部8を形成する電極形成工程と、電極部8の上に保護膜9を形成する保護膜形成工程とを備えている。以下、上記の各工程について具体的に説明する。
【0039】
前処理工程では、図4(a)に示すように、薄板加工前の上板基板5に機械研磨を施すことによって、上板基板5の上端面(表面)および下端面(裏面)にそれぞれ研磨面5c,5dを形成する。
【0040】
次に、空洞部形成工程では、図4(b)に示すように、支持基板3の上端面(表面)において、上板基板5の発熱抵抗体7を設ける領域に対応する位置に凹部2を形成する。凹部2は、例えば、支持基板3の表面に、サンドブラスト、ドライエッチング、ウェットエッチング、レーザ加工等を施すことによって形成する。
【0041】
支持基板3にサンドブラストによる加工を施す場合には、支持基板3の表面にフォトレジスト材を被服し、フォトレジスト材を所定パターンのフォトマスクを用いて露光して、凹部2を形成する領域以外の部分を固化させる。
【0042】
その後、支持基板3の表面を洗浄して固化していないフォトレジスト材を除去することで、凹部2を形成する領域にエッチング窓が形成されたエッチングマスク(図示略)が得られる。この状態で、支持基板3の表面にサンドブラストを施し、1〜100μmの深さの凹部2を形成する。凹部2の深さは、例えば、10μm以上で、支持基板3の厚さの半分以下とするのが好ましい。
【0043】
また、ドライエッチングやウェットエッチング等のエッチングによる加工を施す場合には、上記サンドブラストによる加工と同様に、支持基板3の表面の凹部2を形成する領域にエッチング窓が形成されたエッチングマスクを形成する。そして、この状態で支持基板3の表面にエッチングを施すことで、1〜100μmの深さの凹部2を形成する。
【0044】
このエッチング処理には、例えば、フッ酸系のエッチング液等を用いたウェットエッチングのほか、リアクティブイオンエッチング(RIE)やプラズマエッチング等のドライエッチングが用いられる。なお、参考例として、支持基板が単結晶シリコンの場合には、水酸化テトラメチルアンモニウム溶液、KOH溶液、または、フッ酸と硝酸の混合液等のエッチング液等によるウェットエッチングが行われる。
【0045】
次に、平滑化工程では、図4(c)に示すように、機械研磨された上板基板5に、例えばHF溶液によるウェットエッチング等の処理を施すことによって、上板基板5の上端面(表面)および下端面(裏面)にそれぞれ平滑面5e,5bを形成する。
【0046】
次に、接合工程では、図4(d)に示すように、例えば厚さ約500μm〜700μmのガラス基板である上板基板5の下端面(裏面)と、凹部2が形成された支持基板3の上端面(表面)とを、高温融着や陽極接合によって接合する。この際、支持基板3と上板基板5とは乾燥状態で接合され、この接合された接合基板は、200℃以上軟化点以下の温度で熱処理が行われる。
支持基板3と上板基板5とを接合することで、支持基板3に形成された凹部2が上板基板5によって覆われ、支持基板3と上板基板5との間に空洞部4が形成される。
【0047】
ここで、上板基板として100μm以下の厚さのものは、製造やハンドリングが困難であり、また、高価である。そこで、当初から薄い上板基板5を直接支持基板3に接合する代わりに、接合工程において製造やハンドリングが容易な厚さの上板基板5を支持基板3に接合した後、薄板工程において上板基板5を所望の厚さに加工する。
【0048】
次に、薄板工程では、図4(e)に示すように、上板基板5の上端面(表面)側を、機械研磨することで薄板加工を行うことで、上板基板5の上端面(表面)に第二研磨面5aを形成する。なお、薄板加工は、ドライエッチングやウェットエッチング等を施すことによって行うこととしてもよい。
【0049】
次に、このように分割された各サーマルヘッド1に対して、上板基板5上に発熱抵抗体7、共通電極8A、個別電極8B、および、保護膜9が順次形成される。
具体的には、抵抗体形成工程では、図4(f)に示すように、スパッタリングやCVD(化学気相成長法)、または、蒸着等の薄膜形成法を用いて上板基板5上にTa系やシリサイド系等の発熱抵抗体材料の薄膜を成膜する。発熱抵抗体材料の薄膜をリフトオフ法やエッチング法等を用いて成形することにより、所望の形状の発熱抵抗体7が形成される。
【0050】
次に、電極形成工程では、図4(g)に示すように、上板基板5上にAl、Al−Si、Au、Ag、Cu、Pt等の配線材料をスパッタリングや蒸着法等により成膜する。そして、この膜をリフトオフ法やエッチング法を用いて形成したり、配線材料をスクリーン印刷した後に焼成したりするなどして、所望の形状の共通電極8Aおよび個別電極8Bを形成する。
【0051】
発熱抵抗体7および電極部8A,8Bにおけるリフトオフもしくはエッチングのためのレジスト材のパターニングでは、フォトマスクを用いて、フォトレジスト材をパターンニングする。
【0052】
次に、保護膜形成工程では、図4(h)に示すように、上板基板5上にSiO、Ta、SiAlON、Si、ダイヤモンドライクカーボン等の保護膜材料をスパッタリング、イオンプレーティング、CVD法等により成膜して、保護膜9を形成する。これにより、図3に示されるサーマルヘッド1が製造される。
【0053】
ここで、比較例として、従来のサーマルヘッド100の構成およびその製造方法について以下に説明する。
従来のサーマルヘッド100の製造方法は、図8(a)から図8(g)に示すように、薄板加工前の上板基板5を機械研磨する前処理工程と、支持基板3に凹部2を形成する空洞部形成工程と、支持基板3と上板基板5とを接合する接合工程と、支持基板3に接合された上板基板5を薄板加工する薄板工程と、上板基板5の表面に発熱抵抗体7を形成する抵抗体形成工程と、発熱抵抗体7の上に電極部8を形成する電極形成工程と、電極部8の上に保護膜9を形成する保護膜形成工程とを備えている。
【0054】
上記製造方法で製造された従来のサーマルヘッド100は、図7に示すように、上板基板5の下端面(裏面)、すなわち、支持基板3の上端面(表面)に形成された空洞部4に対向する面は、前処理工程において機械研磨が施された研磨面5dとなっている。この上板基板5の研磨面5dには、前処理工程における機械研磨による多くのマイクロクラックが存在している。
【0055】
ここで、空洞部が形成されたサーマルヘッドに荷重がかかった場合の上板基板5の挙動について、図9(a)および図9(b)を用いて説明する。
図9(b)に示すように、上板基板5の空洞部4上に荷重が加えられると、上板基板5の空洞部4に対向する部分は、図9(a)に示される無荷重の状態に対して、下側に沈み込むように変形する。これにより、図9(b)の矢印50に示すように、上板基板5の下端面(裏面)、特に荷重のかかる中心位置において大きな引張応力が発生する。引張応力は上板基板5の変形量に比例するため、荷重が同じ場合、上板基板5の厚さが薄いほど応力は大きくなる。したがって、高い熱効率を得るために数十μm以下の厚さに加工された上板基板5は、荷重のかかる中心位置、すなわち引張応力がかかる部分を基点として破壊しやすいという問題がある。
【0056】
この場合において、従来のサーマルヘッド100によれば、上板基板5の下端面(裏面)に機械研磨による多くのマイクロクラックが存在しているため、上板基板5の薄板工程やその後の工程で、荷重がかかった場合にクラックが進行して、上板基板5が破壊しやすいという問題がある。また、プリンタに組み込んだ際にも、加圧機構による押圧力によって上板基板5が破壊しやすいといった問題がある。一方、上板基板5が破壊しないようにするためには、上板基板5の強度を確保する必要があり、そのためには上板基板5を厚くせざるを得ない。その結果、発熱抵抗体7からの伝熱量が増加して、サーマルヘッド100の熱効率を低下させてしまうという不都合がある。
【0057】
これに対して、本実施形態に係るサーマルヘッド1は、上板基板5の下端面(裏面)に形成された平滑面5bの中心線平均粗さを5nm未満に設定しているため、薄板工程やプリンタに組み込んだ際に荷重がかかった場合にも、上板基板5の下端面(裏面)のクラックに応力が集中して上板基板5の下端面(裏面)のクラックが進行してしまうことを防止することができる。すなわち、本実施形態に係るサーマルヘッド1によれば、上板基板5の強度を向上することで、上板基板5を薄くしてサーマルヘッド1の熱効率を向上することができ、印刷に必要なエネルギー量を低減することができる。
【0058】
また、上板基板5の下端面(裏面)に対して、HF水溶液やHF混合液によるウェットエッチングを施すことによって、研磨工程で形成された切削痕を小さくし、クラックの深さが浅くすることができる。これにより、上板基板5の下端面(裏面)のクラックの進行を抑制することができ、上板基板5の強度を向上させることができる。
【0059】
ここで、クラックは深くなるほど、クラック先端に発生する応力が大きくなり、クラックが進行する。そこで、上板基板5の下端面(裏面)の少なくとも凹部2に対向する領域、すなわち引張応力がかかる領域において、機械研磨等による切削痕の平均深さを0.1μm未満とすることで、クラックの進行を抑制することができ、上板基板5の強度をさらに向上させることができる。
【0060】
また、上板基板5の下端面(裏面)を、ウェットエッチングにより5μm以上除去することで、上板基板5の下端面(裏面)のマイクロクラックを除去することができ、上板基板5の強度をさらに向上させることができる。
【0061】
また、本実施形態に係るサーマルプリンタ10によれば、上記のサーマルヘッド1を備えているため、上板基板5の強度を確保しつつ、上板基板5を薄くしてサーマルヘッド1の熱効率を向上することができ、印刷に必要なエネルギー量を低減することができる。これにより、少ない電力で感熱紙に印刷することができ、バッテリーの持続時間を長期化させることができるとともに、プリンタ全体の信頼性を向上させることができる。
【0062】
なお、上述したサーマルヘッド1の製造工程において、上板基板5のクラックは加熱処理により、クラック表面のSiのダングリングボンドが再結合し、元の状態にもどることがある。この現象をクラック・ヒーリング効果という。クラック・ヒーリング効果は水分が多い状態では、OH基がクラック表面にターミネートされている。その状態で加熱処理を行った場合、空洞部4に水分が閉じ込められ、クラック表面のSiダングリングがOH基と結合したままとなり、元の状態にもどることが困難になる。
【0063】
したがって、支持基板3と上板基板5とを乾燥した状態で接合した後、この接合基板を乾燥させてから熱処理させることで、クラック・ヒーリング効果によって比較的低い温度で熱処理しても、上板基板5の空洞部4に対向する領域のクラックを減少し、その深さも浅くすることができ、上板基板5の強度を向上することができる。具体的には、200℃以上で熱処理を行うことで、クラック表面に残ったOH基を除去し、Siダングリングボンドの再結合を強固なものにできる。また、軟化以下で熱処理を行うことで、上板基板5の変形を抑えることができ、平坦度を損なうことなく、上板基板5の強度を向上させることができる。
【0064】
[第2の実施形態]
以下に、本発明の第2の実施形態に係るサーマルヘッド20について説明する。なお、以降では、前述の実施形態に係るサーマルヘッド1と共通する点については説明を省略し、異なる点について主に説明する。
【0065】
本実施形態に係るサーマルヘッド20の製造方法は、図5(a)から図5(g)に示すように、フュージョン法またはダウンフロー等によって平滑化された上板基板5を製造する平滑基板製造工程と、支持基板3に凹部2を形成する空洞部形成工程と、支持基板3の表面と上板基板5の裏面とを接合する接合工程と、支持基板3に接合された上板基板5を薄板加工する薄板工程と、上板基板5の表面に発熱抵抗体7を形成する抵抗体形成工程と、発熱抵抗体7の上に電極部8を形成する電極形成工程と、電極部8の上に保護膜9を形成する保護膜形成工程とを備えている。
【0066】
ここで、一般的なガラスの製造には、溶解したガラスをスズ浴に浮かせて製板するフロート法が用いられる。フロートガラスを電子デバイスに応用するには、スズと接触した面(スズ面)を機械研磨により除去する必要があった。また、製板しただけで板厚1mm以下をクリアするのは難しい。そこで、板厚が均一で、比較的扱いやすい厚さの元板ガラスを得るためには、機械研磨による加工は不可欠である。
【0067】
これに対して、本実施形態に係るサーマルヘッド20において、上板基板5は、フュージョン法またはダウンフロー等によって製造されたガラス素板が用いられている。また、支持基板3の上端面(表面)には、上板基板5の下端面(裏面)、すなわち、製造されたままの火造り面5fが接合される。
【0068】
フュージョン法やダウンドロー法によれば、未研磨の状態で上端面(表面)粗さの十分に小さなガラスを製造することができる。したがって、本実施形態に係るサーマルヘッド20によれば、これら製造方法によって製造されたガラスを上板基板5に使用することで、支持基板3との接合面として、製造されたままの火造り面5fを使用しても十分な強度を確保することができ、ウェットエッチングや機械研磨等によって上板基板5の下端面(裏面)を平坦化処理する必要を排除することができる。
【0069】
[第3の実施形態]
以下に、本発明の第3の実施形態に係るサーマルヘッド30について説明する。なお、以降では、前述の各実施形態に係るサーマルヘッド1,20と共通する点については説明を省略し、異なる点について主に説明する。
【0070】
本実施形態に係るサーマルヘッド30の製造方法は、図6(a)から図6(h)に示すように、フュージョン法またはダウンフロー等によって平滑化された上板基板5を製造する平滑基板製造工程と、上板基板5に機械研磨を行って表面と裏面とが平行な板形状にする平行加工工程と、支持基板3に凹部2を形成する空洞部形成工程と、支持基板3の表面と上板基板5の裏面とを接合する接合工程と、支持基板3に接合された上板基板5を薄板加工する薄板工程と、上板基板5の表面に発熱抵抗体7を形成する抵抗体形成工程と、発熱抵抗体7の上に電極部8を形成する電極形成工程と、電極部8の上に保護膜9を形成する保護膜形成工程とを備えている。
【0071】
本実施形態に係るサーマルヘッド30によれば、フュージョン法やダウンドロー法などで製造されたガラスを上板基板5に使用し、上板基板5の上端面(表面)に対して機械研磨等を行うことで、平行度の高い上板基板5とすることができる。これにより、厚さのバラツキが少ない上板基板5を形成することができるため、基板全体に配置された全てのサーマルヘッド1の発熱効率を均一化することができ、歩留まりを向上することができる。
【0072】
以上、本発明の各実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
例えば、第1の実施形態において、平滑化処理工程における上板基板5の平滑化処理は、上板基板5の下端面(裏面)全体に行う必要はなく、凹部2に対向する領域にのみ施すこととしてもよい。
【0073】
また、支持基板3の長手方向に延びる矩形状の凹部2を形成し、空洞部4が全ての発熱抵抗体7に対向する連通構造を有することとしたが、これに代えて、支持基板3の長手方向に沿って、発熱抵抗体7の各発熱部7Aに対向する位置にそれぞれ独立した凹部を形成することとし、上板基板5によって凹部ごとに独立した空洞部が形成されることとしてもよい。これにより、複数の独立した中空断熱層を備えるサーマルヘッドを形成することができる。
【符号の説明】
【0074】
1,20,30 サーマルヘッド
2 凹部
3 支持基板
4 空洞部
5 上板基板
5a 第二研磨面
5b 平滑面
7 発熱抵抗体
8 電極部
9 保護膜
10 サーマルプリンタ(プリンタ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に凹部を有する支持基板と、
該支持基板の表面に積層状態に接合された上板基板と、
該上板基板の表面の前記凹部に対応する位置に設けられた発熱抵抗体とを備え、
前記上板基板の裏面の少なくとも前記凹部に対向する領域の中心線平均粗さが5nm未満であるサーマルヘッド。
【請求項2】
前記上板基板の裏面の少なくとも前記凹部に対向する領域に形成された傷の平均深さが0.1μm未満である請求項1に記載のサーマルヘッド。
【請求項3】
前記上板基板の裏面の少なくとも前記凹部に対向する領域に、HF溶液によるウェットエッチングが施された請求項1または請求項2に記載のサーマルヘッド。
【請求項4】
前記上板基板の裏面の少なくとも前記凹部に対向する領域に、異方性エッチングにより表層が除去された請求項1または請求項2に記載のサーマルヘッド。
【請求項5】
前記上板基板の裏面の少なくとも前記凹部に対向する領域が、ウェットエッチングにより5μm以上除去されている請求項3または請求項4に記載のサーマルヘッド。
【請求項6】
前記上板基板が、フュージョン法またはダウンフロー等によって製造されたガラス素板であり、
前記支持基板の表面に接合される前記上板基板の裏面が、製造されたままの火造り面である請求項1または請求項2に記載のサーマルヘッド。
【請求項7】
前記上板基板の平行度を向上するために、前記上板基板の表面に機械研磨が施された請求項6に記載のサーマルヘッド。
【請求項8】
前記支持基板と前記上板基板とが乾燥状態で接合され、この接合された接合基板が、200℃以上軟化点以下で熱処理が施された請求項1から請求項7のいずれかに記載のサーマルヘッド。
【請求項9】
請求項1から請求項8のいずれかに記載のサーマルヘッドを備えるプリンタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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