サーマルヘッドの製造方法
【課題】大がかりな装置を用いることなく、利用されずに棄てられる熱量を見込んだ目標発熱量を精度よく出力可能な高効率のサーマルヘッドを簡易に製造する。
【解決手段】一表面に開口する断熱用凹部を有する平板状の支持基板に断熱用凹部を閉塞するように平板状の上板基板を積層状態に接合する接合工程SA2と、接合工程SA2により支持基板に接合された上板基板を薄板化する薄板化工程SA3と、薄板化工程SA3により薄板化された上板基板の厚さを測定する測定工程SA4と、測定工程SA4により測定された上板基板の厚さに基づいて発熱抵抗体の目標抵抗値を決定する決定工程SA5と、薄板化工程SA3により薄板化された上板基板の表面の断熱用凹部に対向する位置に、決定工程SA5により決定された目標抵抗値を有する発熱抵抗体を形成する抵抗体形成工程SA6とを備えるサーマルヘッドの製造方法を提供する。
【解決手段】一表面に開口する断熱用凹部を有する平板状の支持基板に断熱用凹部を閉塞するように平板状の上板基板を積層状態に接合する接合工程SA2と、接合工程SA2により支持基板に接合された上板基板を薄板化する薄板化工程SA3と、薄板化工程SA3により薄板化された上板基板の厚さを測定する測定工程SA4と、測定工程SA4により測定された上板基板の厚さに基づいて発熱抵抗体の目標抵抗値を決定する決定工程SA5と、薄板化工程SA3により薄板化された上板基板の表面の断熱用凹部に対向する位置に、決定工程SA5により決定された目標抵抗値を有する発熱抵抗体を形成する抵抗体形成工程SA6とを備えるサーマルヘッドの製造方法を提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サーマルヘッドの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、小型ハンディターミナルに代表される小型情報機器端末に多く搭載されるサーマルプリンタに用いられ、印画データに基づいて複数の発熱抵抗体を選択的に駆動することによって感熱記録媒体に印画を行うためのサーマルヘッドが知られている。
【0003】
このようなサーマルヘッドにおいては、発熱抵抗体により発生される熱量を管理するために、発熱抵抗体の抵抗値を調整すること(以下、「抵抗値トリミング」という。)が知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載の抵抗値トリミングの方法は、各発熱抵抗体に所定の電圧を印加してその発熱温度を検知し、発熱温度が所定範囲内の目標発熱温度となるように、各発熱抵抗体にトリミング用のエネルギーを印加して抵抗値や熱容量等を含む発熱特性を調整することにより、発熱温度を均一化することとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−63123号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の抵抗値トリミングの方法は、発熱抵抗体の目標発熱温度を設定するために、発熱抵抗体ごとに所定の電圧を印加して全ての発熱抵抗体の発熱温度を測定しなければならず、手間と時間を要するという不都合がある。また、各発熱抵抗体の発熱温度を測定するために、赤外線顕微鏡型放射温度計といった大がかりな装置を用いなければならないという問題がある。
【0006】
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであって、大がかりな装置を用いることなく、利用されずに棄てられる熱量を見込んだ目標発熱量を精度よく出力可能な高効率のサーマルヘッドを簡易に製造することができるサーマルヘッドの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明は、一表面に開口する開口部を有する平板状の支持基板に前記開口部を閉塞するように平板状の上板基板を積層状態に接合する接合工程と、該接合工程により前記支持基板に接合された前記上板基板を薄板化する薄板化工程と、該薄板化工程により薄板化された前記上板基板の厚さを測定する測定工程と、該測定工程により測定された前記上板基板の厚さに基づいて発熱抵抗体の目標抵抗値を決定する決定工程と、前記薄板化工程により薄板化された前記上板基板の表面の前記開口部に対向する位置に、前記決定工程により決定された前記目標抵抗値を有する前記発熱抵抗体を形成する抵抗体形成工程とを備えるサーマルヘッドの製造方法を提供する。
【0008】
本発明によれば、接合工程により、上板基板と支持基板とが接合されて開口部が閉塞されることで、上板基板と支持基板との間に空洞部が形成される。ここで、抵抗体形成工程により発熱抵抗体が表面に形成された上板基板は、発熱抵抗体により発生された熱を蓄える蓄熱層として機能するのに対し、空洞部は、発熱抵抗体から上板基板を介して支持基板側に伝達される熱を遮断する中空断熱層として機能する。したがって、薄板化工程により上板基板を薄板化することで、蓄熱層としての熱容量を低減させ、発熱抵抗体で発生した熱量のうち上板基板側に逃げる熱量を抑制して、利用可能な熱量を増加させることができる。
【0009】
この場合において、利用可能な熱量は、薄板化工程により薄板化された上板基板の厚さに依存するが、測定工程により測定した薄板化後の上板基板の厚さに基づいて決定工程により目標抵抗値を決定するので、抵抗体形成工程において、薄板化後の上板基板の厚さの如何にかかわらず、上板基板側に逃げる熱量を予め見込んで利用可能な熱量を精度よく発生する発熱抵抗体を形成することができる。
【0010】
したがって、従来のように各発熱抵抗体の発熱温度を測定したり温度測定のための特殊な装置を用いたりすることなく、利用されずに棄てられる熱量を見込んだ目標発熱量を精度よく出力可能な高効率のサーマルヘッドを簡易に製造することができる。
【0011】
本発明は、一表面に開口する開口部を有する平板状の支持基板に前記開口部を閉塞するように平板状の上板基板を積層状態に接合する接合工程と、該接合工程により前記支持基板に接合された前記上板基板を薄板化する薄板化工程と、該薄板化工程により薄板化された前記上板基板の表面の前記開口部に対向する位置に発熱抵抗体を形成する抵抗体形成工程と、前記薄板化工程により薄板化された前記上板基板の厚さを測定する測定工程と、該測定工程により測定された前記上板基板の厚さに基づいて前記発熱抵抗体の目標抵抗値を決定する決定工程と、前記発熱抵抗体の抵抗値を前記決定工程により決定された前記目標抵抗値にほぼ一致させる調整を行う抵抗値調整工程とを備えるサーマルヘッドの製造方法を提供する。
【0012】
本発明によれば、決定工程により薄板化後の上板基板の厚さに基づいて目標抵抗値を決定するので、抵抗値調整工程において、薄板化後の上板基板の厚さの如何にかかわらず、上板基板側に逃げる熱量を予め見込んで利用可能な熱量を精度よく発生するように発熱抵抗体の抵抗値を調整することができる。したがって、大がかりな装置を用いることなく、利用されずに棄てられる熱量を見込んだ目標発熱量を精度よく出力可能な高効率のサーマルヘッドを簡易に製造することができる。
【0013】
上記発明においては、前記測定工程が、前記開口部に対向する前記上板基板の領域に光を照射し、前記上板基板の前記表面およびその裏面における反射光によって前記表面および前記裏面の位置を検出して前記上板基板の厚さを測定することとしてもよい。
【0014】
開口部の位置においては、上板基板の表面は外部露出して空気に面するとともに、その裏面は開口部を閉塞することで形成された空洞内の空気に面する。したがって、上板基板と空気との屈折率の相違を利用し、上板基板のこの領域に光を照射して上板基板の表面および裏面においてそれぞれ反射された反射光を検出するだけで、支持基板に接合された上板基板の厚さを簡易に測定することができる。
【0015】
上記発明においては、前記上板基板の表面の前記発熱抵抗体が形成されない位置に板厚方向に貫通する貫通孔を形成する貫通孔形成工程を備え、前記接合工程が、前記貫通孔の一端が前記支持基板の一表面により閉塞されるように前記支持基板と前記上板基板とを接合し、前記測定工程が、前記支持基板に接合された前記上板基板の前記貫通孔の深さを測定することとしてもよい。
【0016】
このように構成することで、上板基板と支持基板とを接合した状態であっても、貫通孔の深さを測定することにより上板基板のみの厚さが分かる。なお、貫通孔の深さは、例えば、貫通孔にマイクロメータ等の測定器を挿入することにより測定することとしてもよい。
【0017】
また、上記発明においては、前記抵抗値調整工程が、各前記発熱抵抗体に所定のエネルギーを印加することにより前記抵抗値を調整することとしてもよい。
このように構成することで、容易にかつ短時間で発熱抵抗体の抵抗値を変化させることができる。
【0018】
また、上記発明においては、前記所定のエネルギーとして電圧パルスを用いることとしてもよい。
このように構成することで、発熱抵抗体の抵抗値を調整するための特別な装置を用いることなく、通常の印字作用時よりも高電圧の電圧パルスを発熱抵抗体に印加するだけで簡易に抵抗値を変化させることができる。
【0019】
また、上記発明においては、前記所定のエネルギーとしてレーザ光を用いることとしてもよい。
このように構成することで、発熱抵抗体にレーザ光を照射することにより、レーザ光が照射された部分の抵抗値を変化させることができる。また、レーザ光の照射幅を変えることで、発熱抵抗体の抵抗値を変化させる範囲を調節することができる。
【0020】
また、上記発明においては、前記決定工程が、前記上板基板の厚さと前記目標抵抗値とが対応付けられたデータベースから前記目標抵抗値を読み出すこととしてもよい。
このように構成することで、データベースにより、発熱抵抗体の目標抵抗値を簡易かつ迅速に決定することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、大がかりな装置を用いることなく、利用されずに棄てられる熱量を見込んだ目標発熱量を精度よく出力可能な高効率のサーマルヘッドを簡易に製造することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るサーマルヘッドの製造方法により製造されたサーマルヘッドを備えるサーマルプリンタの概略断面図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係るサーマルヘッドの製造方法のフローチャートである。
【図3】図1のサーマルヘッドを保護膜側から見た平面図である。
【図4】図3のサーマルヘッドの長手方向に直交する縦断面図である。
【図5】図3のサーマルヘッドの上板基板の厚さを測定する様子を示す概略断面図である
【図6】上板基板の厚さと発熱抵抗体の目標抵抗値とを対応付けた図表である。
【図7】本発明の第1の実施形態の変形例に係るサーマルヘッドの製造方法のフローチャートである。
【図8】本発明の第1の実施形態の変形例に係るサーマルヘッドの製造方法により製造されたサーマルヘッドの長手方向に直交する縦断面図である。
【図9】本発明の第2の実施形態に係るサーマルヘッドの製造方法のフローチャートある。
【図10】本発明の第2の実施形態に係るサーマルヘッドの製造方法により製造されたサーマルヘッドを保護膜側から見た平面図である。
【図11】図10のサーマルヘッドの長手方向に直交する縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
〔第1の実施形態〕
以下、本発明の第1の実施形態に係るサーマルヘッドの製造方法について、図面を参照して説明する。
本実施形態に係るサーマルヘッドの製造方法は、例えば、図1に示すようなサーマルプリンタ100に用いられるサーマルヘッド1(図3および図4参照)を製造するものである。
本製造方法は、図2のフローチャートに示すように、平板状の支持基板13の一表面に開口する断熱用凹部(開口部)32を形成する凹部形成工程(開口部形成工程)SA1と、断熱用凹部32が形成された支持基板13に、断熱用凹部32を閉塞するように平板状の上板基板11を積層状態に接合する接合工程SA2と、支持基板13に接合された上板基板11を薄板化する薄板化工程SA3と、薄板化された上板基板11の厚さを測定する測定工程SA4と、測定された上板基板11の厚さに基づいて発熱抵抗体14の目標抵抗値を決定する決定工程SA5と、上板基板11の表面における断熱用凹部32に対向する位置に、決定工程SA5により決定された目標抵抗値を有する発熱抵抗体14を形成する抵抗体形成工程SA6とを備えている。
【0024】
さらに、本製造方法は、抵抗体形成工程SA6により形成された発熱抵抗体14に電極配線16を接続する配線形成工程SA7と、発熱抵抗体14および電極配線16を含む上板基板11の表面を部分的に覆ってこれを保護する保護膜18を形成する保護膜形成工程SA8とを備えている。
なお、図3において、発熱抵抗体14は1本の直線状に表されているが、実際には基板本体12の長手方向に微小間隔をあけて複数(例えば、4096個)配列されている。
以下、各工程について具体的に説明する。
【0025】
まず、開口部形成工程SA1においては、支持基板13として、300μm〜1mm程度の厚さを有する絶縁性のガラス基板が用いられる。この支持基板13の一表面において、抵抗体形成工程SA6により形成される発熱抵抗体14が対向することとなる位置に、支持基板13の長手方向に延びる矩形状の断熱用凹部32を形成する(ステップSA1)。
【0026】
断熱用凹部32は、例えば、支持基板13の一表面に、サンドブラスト、ドライエッチング、ウェットエッチング、レーザ加工等を施すことによって形成することができる。
支持基板13にサンドブラストによる加工を施す場合には、支持基板13の一表面にフォトレジスト材を被覆し、フォトレジスト材を所定パターンのフォトマスクを用いて露光して、断熱用凹部32を形成する領域以外の部分を固化させる。
【0027】
その後、支持基板13の一表面を洗浄し、固化していないフォトレジスト材を除去することにより、断熱用凹部32を形成する領域にエッチング窓が形成されたエッチングマスク(図示略)が得られる。この状態で、支持基板13の一表面にサンドブラストを施し、所定の深さの断熱用凹部32を形成する。なお、断熱用凹部32の深さは、例えば、10μm以上で、支持基板13の厚さの半分以下とするのが好ましい。
【0028】
また、ドライエッチングやウェットエッチング等のエッチングによる加工を施す場合には、上記サンドブラストによる加工と同様に、支持基板13の一表面における断熱用凹部32を形成する領域にエッチング窓が形成されたエッチングマスクを形成する。そして、この状態で支持基板13の一表面にエッチングを施し、所定の深さの断熱用凹部32を形成する。
【0029】
このエッチング処理には、例えば、フッ酸系のエッチング液等を用いたウェットエッチングのほか、リアクティブイオンエッチング(RIE)やプラズマエッチング等のドライエッチングを用いることができる。なお、参考例として、支持基板が単結晶シリコンの場合には、水酸化テトラメチルアンモニウム溶液、KOH溶液、または、フッ酸と硝酸の混合液等のエッチング液等によるウェットエッチングが行われる。
【0030】
次に、接合工程SA2においては、支持基板13と同じ材料からなるガラス基板あるいは支持基板13の材料に性質が近いガラス基板である上板基板11が用いられる。ここで、上板基板11として厚さが100μm以下のものは、製造やハンドリングが困難であり、また、高価である。そこで、当初から薄い上板基板11を支持基板13に直接接合する代わりに、製造やハンドリングが容易な厚さの上板基板11を支持基板13に接合し、その後、薄板化工程SA3により、上板基板11をエッチングや研磨等によって所望の厚さとなるように加工する。
【0031】
まず、支持基板13の一表面からエッチングマスクを全て除去し、表面を洗浄する。そして、支持基板13のこの一表面に断熱用凹部32を閉塞するように上板基板11を貼り合わせる。例えば、室温にて接着層を用いずに上板基板11を支持基板13に直接貼り合わせる。
【0032】
支持基板13の一表面が上板基板11によって覆われることで、すなわち、断熱用凹部32の開口部が上板基板11によって閉塞されることで、上板基板11と支持基板13との間に断熱用空洞部33が形成される。この状態で、張り合わせた上板基板11と支持基板13に加熱処理を行い、これらを熱融着により接合する(ステップSA2)。以下、上板基板11と支持基板13とを接合したものを基板本体12という。
【0033】
ここで、断熱用空洞部33は、上層に形成される全ての発熱抵抗体14に対向する連通構造を有し、発熱抵抗体14で発生した熱が上板基板11から支持基板13側へ伝達されるのを抑制する中空断熱層として機能することとなる。断熱用空洞部33が中空断熱層として機能することで、発熱抵抗体14の一面に隣接する上板基板11に伝達される熱量より、発熱抵抗体14の他面に隣接する保護膜18の方向へと伝達される熱量が増大する。保護膜18には印刷時に感熱紙3(図1参照)が押し付けられているので、この方向への熱量を増大させることにより印字等に利用される熱量が増大し、利用効率の向上を図ることができる。
【0034】
次に、薄板化工程SA3においては、支持基板13に接合された上板基板11をエッチングや研磨等によって所望の厚さ(例えば、厚さ10〜50μm程度)となるように加工する(ステップSA3)。これにより、支持基板13の一表面に容易かつ安価にごく薄い上板基板11を形成することができる。
【0035】
上板基板11のエッチングには、凹部形成工程SA1のように断熱用凹部32の形成に採用される各種エッチングを用いることができる。また、上板基板11の研磨には、例えば、半導体ウェーハ等の高精度研磨に用いられるCMP(ケミカルメカニカルポリッシング)等を用いることができる。
【0036】
測定工程SA4においては、例えば、支持基板13の断熱用凹部32に対向する上板基板11の領域に光を照射し、上板基板11の表面および裏面における反射光によってその表面および裏面の位置を検出して上板基板11の厚さを測定する(ステップSA4)。
【0037】
ここで、発熱抵抗体14が形成される前の基板本体12は、断熱用凹部32に対向する上板基板11の表面およびその裏面がともに空気に面している。すなわち、この断熱用凹部32に対向する上板基板11の表面は外部露出して外気に接しており、裏面は厚さ断熱用凹部32を閉塞することで断熱用空洞部33内の空気に接している。
【0038】
したがって、例えば、図5に示すように、上板基板11のこの領域に青色レーザ光を照射すると、上板基板11と空気との屈折率の相違により、上板基板11の表面および裏面においてそれぞれ青色レーザ光が反射される。そして、上板基板11の表面および裏面においてそれぞれ反射された反射光をセンサ9等により検出するだけで、上板基板11と支持基板13とが接合された状態であっても上板基板11の正確な厚さ寸法を光学的に測定することができる。
【0039】
次に、決定工程SA5においては、図6に示すような上板基板11の厚さと目標抵抗値とが対応付けられたデータベースから、測定工程SA4により測定された上板基板11の厚さに対応する目標抵抗値を読み出し、発熱抵抗体14の目標抵抗値に決定する(ステップSA5)。
【0040】
次に、抵抗体形成工程SA6においては、上板基板11の表面における断熱用凹部32に対向する位置に、決定工程SA5で決定した目標抵抗値を有する複数の発熱抵抗体14を形成する(ステップSA6)。発熱抵抗体14は、上板基板11の表面において、それぞれ断熱用空洞部33を幅方向に跨ぐように形成し、断熱用空洞部33の長手方向に所定の間隔をあけて配列する。
【0041】
発熱抵抗体14の形成には、スパッタリングやCVD(化学気相成長法)、または、蒸着等の薄膜形成法を用いることができる。上板基板11上にTa系やシリサイド系等の発熱抵抗体材料の薄膜を成膜し、この薄膜をリフトオフ法やエッチング法等を用いて成形することにより、所望の形状の発熱抵抗体14を形成することができる。
【0042】
続いて、配線形成工程SA7においては、抵抗体形成工程SA6と同様に、上板基板11上にAl、Al−Si、Au、Ag、Cu、Pt等の配線材料をスパッタリングや蒸着法等により成膜する。そして、この膜をリフトオフ法やエッチング法を用いて成形したり、配線材料をスクリーン印刷した後に焼成したりして、電極配線16を形成する(ステップSA7)。
【0043】
電極配線16は、各発熱抵抗体14の配列方向に直交する方向の一端に接続する個別電極配線と、全ての発熱抵抗体14の他端に一体的に接続する共通電極配線とにより構成する。なお、発熱抵抗体14や電極配線16を形成する順序は任意である。発熱抵抗体14および電極配線16におけるリフトオフもしくはエッチングのためのレジスト材のパターニングでは、フォトマスクを用いてフォトレジスト材をパターンニングする。
【0044】
次に、保護膜形成工程SA8においては、発熱抵抗体14および電極配線16を形成した上板基板11上にSiO2、Ta2O5、SiAlON、Si3N4、ダイヤモンドライクカーボン等の保護膜材料をスパッタリング、イオンプレーティング、CVD法等により成膜して保護膜18を形成する(ステップSA8)。保護膜18を形成することにより、発熱抵抗体14および電極配線16を磨耗や腐食から保護することができる。
【0045】
なお、上板基板11の表面には、さらに、電極配線16を介して各発熱抵抗体14に電気的に接続する駆動用IC22と、駆動用IC22を被覆して磨耗や腐食から保護するIC樹脂被覆膜24と、発熱抵抗体14に電力エネルギーを供給する複数(例えば、10本程度)の給電部26等を形成する。これら駆動用IC22、IC樹脂被覆膜24および給電部26は、従来のサーマルヘッドにおける公知の製造方法を用いて形成することができる。
【0046】
駆動用IC22は、各発熱抵抗体14の発熱動作を個別に制御するものであり、個別電極配線を介して印加する電圧を制御しながら、選択した発熱抵抗体14を駆動することができる。上板基板11上には、2つの駆動用IC22を発熱抵抗体14の配列方向に沿って間隔をあけて配置し、各駆動用IC22に半数の発熱抵抗体14をそれぞれ個別電極配線を介して接続する。
【0047】
以上の工程により、図3および図4に示めすサーマルヘッド1が製造される。このようにして製造されたサーマルヘッド1は、アルミ等の金属、樹脂、セラミックスまたはガラス等からなる板状部材の放熱板28に固定することができる。これにより、サーマルヘッド1の熱が放熱板28を介して放熱される。
【0048】
また、このサーマルヘッド1は、本体フレーム2と、水平配置されるプラテンローラ4と、プラテンローラ4の外周面に対向配置されるサーマルヘッド1と、プラテンローラ4とサーマルヘッド1との間に感熱紙3等の印刷対象物を送り出す紙送り機構6と、サーマルヘッド1を感熱紙3に対して所定の押圧力で押し付ける加圧機構8とにより構成されるサーマルプリンタ100に用いることができる。
【0049】
このサーマルプリンタ100は、加圧機構8の作動により、サーマルヘッド1および感熱紙3がプラテンローラ4に押し付けられるようになっている。駆動用IC22により個別電極配線に選択的に電圧を印加すると、選択された個別電極配線が接続されている発熱抵抗体14に電流が流れ、その発熱抵抗体14が発熱する。この状態で、加圧機構8の作動により、発熱抵抗体14の発熱部分を覆う保護膜18の表面部分(印字部分)に感熱紙3を押し付けることで、感熱紙3が発色して印字することができる。
【0050】
以上説明してきたように、本実施形態に係るサーマルヘッドの製造方法によれば、発熱抵抗体14が表面に形成された上板基板11は蓄熱層として機能するため、薄板化工程SA3により上板基板11を薄板化することで、蓄熱層としての熱容量を低減させ、発熱抵抗体14で発生した熱量のうち上板基板11側に逃げる熱量を抑制して、利用可能な熱量を増加させることができる。
【0051】
この場合において、利用可能な熱量は、薄板化工程SA3により薄板化された上板基板11の厚さに依存するが、測定工程SA4により測定した薄板化後の上板基板11の厚さに基づいて決定工程SA5により目標抵抗値を決定するので、抵抗体形成工程SA6において、薄板化後の上板基板11の厚さの如何にかかわらず、上板基板11側に逃げる熱量を予め見込んで利用可能な熱量を精度よく発生する発熱抵抗体14を形成することができる。
【0052】
したがって、従来のように各発熱抵抗体14の発熱温度を測定したり温度測定のための特殊な装置を用いたりすることなく、利用されずに棄てられる熱量を見込んだ目標発熱量を精度よく出力可能な高効率のサーマルヘッド1を簡易に製造することができる。
【0053】
なお、本実施形態では、測定工程SA4において、上板基板11の厚さを光学的に測定することとしたが、これに代えて、例えば、接合工程SA2の前に予め支持基板13の厚さを測定しておき、測定工程SA4において、薄板化後の基板本体12の厚さ寸法から支持基板13の厚さ寸法を除算することにより上板基板11の厚さを算出することとしてもよい。
【0054】
また、本実施形態は以下のように変形することができる。
例えば、図7のフローチャートに示すように、接合工程SA2の前に、上板基板11における発熱抵抗体14が形成されない位置に板厚方向に貫通する貫通孔42(図8参照)を形成する貫通孔形成工程SA1´を備え、接合工程SA2が、貫通孔42の一端が支持基板13の一表面により閉塞されるように上板基板11と支持基板13とを接合し、測定工程SA4が、支持基板13に接合された上板基板11の貫通孔42の深さを測定することとしてもよい。このようにすることで、上板基板11と支持基板13とを接合した状態であっても、例えば、貫通孔42にマイクロメータ等の測定器を挿入して貫通孔42の深さを測定することにより、上板基板11のみの厚さを測定することができる。なお、貫通孔42の形成は、凹部形成工程SA1において断熱用凹部32の形成と同時に同様にして行うこととしてもよい。
【0055】
〔第2の実施形態〕
以下、本発明の第2の実施形態に係るサーマルヘッドの製造方法について、図9および図10を参照して説明する。
本実施形態に係るサーマルヘッドの製造方法は、所定の抵抗値を有する発熱抵抗体14を備えるサーマルヘッド101を製造した後に、上板基板11の厚さに応じて発熱抵抗体14の抵抗値を調整する点で第1の実施形態と異なる。
以下、本実施形態の説明において、第1の実施形態に係るサーマルヘッドの製造方法と構成を共通する箇所には、同一符号を付して説明を省略する。
【0056】
本実施形態に係るサーマルヘッドの製造方法は、図9のフローチャートに示すように、平板状の支持基板13の一表面に開口する断熱用凹部32および厚さ測定用凹部(開口部)34(図10および図11参照)を形成する凹部形成工程(開口部形成工程)SB1と、接合工程SA2および薄板化工程SA3と、薄板化工程SA3により薄板化された上板基板11の表面における断熱用凹部32に対向する位置に発熱抵抗体14を形成する抵抗体形成工程SB4と、薄板化工程SA3により薄板化された上板基板11の厚さを測定する測定工程SB5と、測定された上板基板11の厚さに基づいて発熱抵抗体14の目標抵抗値を決定する決定工程SB6と、発熱抵抗体14の抵抗値を決定工程SB6により決定された目標抵抗値にほぼ一致させる調整を行う抵抗値調整工程SB7とを備えている。
【0057】
凹部形成工程SB1においては、断熱用凹部32と同様にして、上板基板11上に形成される発熱抵抗体14に対向しない位置、例えば、支持基板13の接合面上のコーナー付近に、100μm程度の開口幅を有する正方形状の厚さ測定凹部34を形成する(ステップSB1)。
【0058】
接合工程SA2においては、支持基板13の断熱用凹部32および厚さ測定用凹部34が上板基板11によって閉塞されることで、上板基板11と支持基板13との間に断熱用空洞部33および厚さ測定用空洞部35がそれぞれ形成される(ステップSA2)。この場合に、発熱抵抗体14が形成されない領域に厚さ測定用凹部34を形成することで、厚さ測定用空洞部35に対向する上板基板11の表面およびその裏面がともに空気に面することとなる。
【0059】
抵抗体形成工程SB4においては、例えば、目標抵抗値より高い抵抗値を有する発熱抵抗体14を上板基板11上に形成する(ステップSB4)。なお、抵抗体形成工程SB4と測定工程SB5の順序は任意である。
【0060】
測定工程SB5(ステップSB5)においては、厚さ測定用凹部34(厚さ測定用空洞部35)に対向する上板基板11の領域に青色レーザ光を照射し、センサ9(図5参照)等を用いて、上板基板11の表面および裏面における反射光によってその表面および裏面の位置を検出して上板基板11の厚さを光学的に測定する。なお、一般的に青色レーザのスポット径が0.9μであるとすると、厚さ測定用凹部34の開口幅を100μm程度の大きさにすることで、レーザスポットの位置合わせを容易に行うことができる。
【0061】
決定工程SB6においては、図6に示すデータベースから、上板基板11の厚さに対応する目標抵抗値を読み出し、発熱抵抗体14の目標抵抗値に決定する(ステップSB6)。
抵抗値調整工程SB7においては、発熱抵抗体14に対して所定のエネルギーを印加することにより、発熱抵抗体14の抵抗値を下げて目標抵抗値にほぼ一致させる(ステップSB7)。このようにすることで、容易にかつ短時間で発熱抵抗体14の抵抗値を変化させることができる。所定のエネルギーとしては、例えば、電圧パルスを用いることとしてもよいし、または、レーザ光を用いることとしてもよい。
【0062】
発熱抵抗体14に電圧パルスを印加する場合には、発熱抵抗体14の抵抗値を調整するための特別な装置を用いることなく、通常の印字作用時よりも高電圧の電圧パルスを発熱抵抗体14に印加するだけで簡易に抵抗値を変化させることができる。また、発熱抵抗体14にレーザ光を照射する場合、レーザ光を照射した部分の抵抗値を部分的に変化させることができる。また、レーザ光の照射幅を変えることで、発熱抵抗体14の抵抗値を変化させる範囲を容易に調節することができる。
抵抗値調整工程SB7により発熱抵抗体14の抵抗値を調整した後、配線形成工程SA7および保護膜形成工程SA8等を経て、図10および図11に示めすサーマルヘッド101が製造される。
【0063】
以上説明したように、本実施形態に係るサーマルヘッドの製造方法によれば、決定工程SB6により薄板化後の上板基板11の厚さに基づいて目標抵抗値を決定することで、抵抗値調整工程SB7において、薄板化後の上板基板11の厚さの如何にかかわらず、上板基板11側に逃げる熱量を予め見込んで利用可能な熱量を精度よく発生するように発熱抵抗体14の抵抗値を調整することができる。したがって、大がかりな装置を用いることなく、利用されずに棄てられる熱量を見込んだ目標発熱量を精度よく出力可能な高効率のサーマルヘッド101を簡易に製造することができる。
【0064】
なお、本実施形態では、抵抗体形成工程SB4において目標抵抗値より高い抵抗値を有する発熱抵抗体14を形成することとしたが、これに代えて、目標抵抗値より低い抵抗値を有する発熱抵抗体14を形成することとしてもよい。この場合、抵抗値調整工程SB7において、発熱抵抗体14にレーザ光を照射すること等により発熱抵抗体14の抵抗値を上げて目標抵抗値にほぼ一致させることとすればよい。
また、本実施形態においては、凹部形成工程SB1により厚さ測定用凹部34を形成することとしたが、これに代えて、貫通孔形成工程SA1´により貫通孔42を形成し、測定工程SB5により貫通孔42の深さを測定することで、上板基板11の厚さを算出することとしてもよい。
【0065】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。 例えば、本発明を上記の実施形態および変形例に適用したものに限定されることなく、これらの実施形態および変形例を適宜組み合わせた実施形態に適用してもよく、特に限定されるものではない。
また、上記各実施形態においては、開口部として、断熱用凹部32および厚さ測定用凹部34を例示して説明したが、これらに代えて、例えば、支持基板13を厚さ方向に貫通する貫通孔としてもよい。
【符号の説明】
【0066】
1,101 サーマルヘッド
11 上板基板
12 基板本体(基板)
13 支持基板
14 発熱抵抗体
18 保護膜
32 断熱用凹部(開口部)
34 厚さ測定用凹部(開口部)
42 貫通孔
SA1、SB1 凹部形成工程(開口部形成工程)
SA1´ 貫通孔形成工程
SA2 接合工程
SA3 薄板化工程
SA4、SB5 測定工程
SA5、SB6 決定工程
SA6、SB4 抵抗体形成工程
SB7 抵抗値調整工程
【技術分野】
【0001】
本発明は、サーマルヘッドの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、小型ハンディターミナルに代表される小型情報機器端末に多く搭載されるサーマルプリンタに用いられ、印画データに基づいて複数の発熱抵抗体を選択的に駆動することによって感熱記録媒体に印画を行うためのサーマルヘッドが知られている。
【0003】
このようなサーマルヘッドにおいては、発熱抵抗体により発生される熱量を管理するために、発熱抵抗体の抵抗値を調整すること(以下、「抵抗値トリミング」という。)が知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載の抵抗値トリミングの方法は、各発熱抵抗体に所定の電圧を印加してその発熱温度を検知し、発熱温度が所定範囲内の目標発熱温度となるように、各発熱抵抗体にトリミング用のエネルギーを印加して抵抗値や熱容量等を含む発熱特性を調整することにより、発熱温度を均一化することとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−63123号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の抵抗値トリミングの方法は、発熱抵抗体の目標発熱温度を設定するために、発熱抵抗体ごとに所定の電圧を印加して全ての発熱抵抗体の発熱温度を測定しなければならず、手間と時間を要するという不都合がある。また、各発熱抵抗体の発熱温度を測定するために、赤外線顕微鏡型放射温度計といった大がかりな装置を用いなければならないという問題がある。
【0006】
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであって、大がかりな装置を用いることなく、利用されずに棄てられる熱量を見込んだ目標発熱量を精度よく出力可能な高効率のサーマルヘッドを簡易に製造することができるサーマルヘッドの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明は、一表面に開口する開口部を有する平板状の支持基板に前記開口部を閉塞するように平板状の上板基板を積層状態に接合する接合工程と、該接合工程により前記支持基板に接合された前記上板基板を薄板化する薄板化工程と、該薄板化工程により薄板化された前記上板基板の厚さを測定する測定工程と、該測定工程により測定された前記上板基板の厚さに基づいて発熱抵抗体の目標抵抗値を決定する決定工程と、前記薄板化工程により薄板化された前記上板基板の表面の前記開口部に対向する位置に、前記決定工程により決定された前記目標抵抗値を有する前記発熱抵抗体を形成する抵抗体形成工程とを備えるサーマルヘッドの製造方法を提供する。
【0008】
本発明によれば、接合工程により、上板基板と支持基板とが接合されて開口部が閉塞されることで、上板基板と支持基板との間に空洞部が形成される。ここで、抵抗体形成工程により発熱抵抗体が表面に形成された上板基板は、発熱抵抗体により発生された熱を蓄える蓄熱層として機能するのに対し、空洞部は、発熱抵抗体から上板基板を介して支持基板側に伝達される熱を遮断する中空断熱層として機能する。したがって、薄板化工程により上板基板を薄板化することで、蓄熱層としての熱容量を低減させ、発熱抵抗体で発生した熱量のうち上板基板側に逃げる熱量を抑制して、利用可能な熱量を増加させることができる。
【0009】
この場合において、利用可能な熱量は、薄板化工程により薄板化された上板基板の厚さに依存するが、測定工程により測定した薄板化後の上板基板の厚さに基づいて決定工程により目標抵抗値を決定するので、抵抗体形成工程において、薄板化後の上板基板の厚さの如何にかかわらず、上板基板側に逃げる熱量を予め見込んで利用可能な熱量を精度よく発生する発熱抵抗体を形成することができる。
【0010】
したがって、従来のように各発熱抵抗体の発熱温度を測定したり温度測定のための特殊な装置を用いたりすることなく、利用されずに棄てられる熱量を見込んだ目標発熱量を精度よく出力可能な高効率のサーマルヘッドを簡易に製造することができる。
【0011】
本発明は、一表面に開口する開口部を有する平板状の支持基板に前記開口部を閉塞するように平板状の上板基板を積層状態に接合する接合工程と、該接合工程により前記支持基板に接合された前記上板基板を薄板化する薄板化工程と、該薄板化工程により薄板化された前記上板基板の表面の前記開口部に対向する位置に発熱抵抗体を形成する抵抗体形成工程と、前記薄板化工程により薄板化された前記上板基板の厚さを測定する測定工程と、該測定工程により測定された前記上板基板の厚さに基づいて前記発熱抵抗体の目標抵抗値を決定する決定工程と、前記発熱抵抗体の抵抗値を前記決定工程により決定された前記目標抵抗値にほぼ一致させる調整を行う抵抗値調整工程とを備えるサーマルヘッドの製造方法を提供する。
【0012】
本発明によれば、決定工程により薄板化後の上板基板の厚さに基づいて目標抵抗値を決定するので、抵抗値調整工程において、薄板化後の上板基板の厚さの如何にかかわらず、上板基板側に逃げる熱量を予め見込んで利用可能な熱量を精度よく発生するように発熱抵抗体の抵抗値を調整することができる。したがって、大がかりな装置を用いることなく、利用されずに棄てられる熱量を見込んだ目標発熱量を精度よく出力可能な高効率のサーマルヘッドを簡易に製造することができる。
【0013】
上記発明においては、前記測定工程が、前記開口部に対向する前記上板基板の領域に光を照射し、前記上板基板の前記表面およびその裏面における反射光によって前記表面および前記裏面の位置を検出して前記上板基板の厚さを測定することとしてもよい。
【0014】
開口部の位置においては、上板基板の表面は外部露出して空気に面するとともに、その裏面は開口部を閉塞することで形成された空洞内の空気に面する。したがって、上板基板と空気との屈折率の相違を利用し、上板基板のこの領域に光を照射して上板基板の表面および裏面においてそれぞれ反射された反射光を検出するだけで、支持基板に接合された上板基板の厚さを簡易に測定することができる。
【0015】
上記発明においては、前記上板基板の表面の前記発熱抵抗体が形成されない位置に板厚方向に貫通する貫通孔を形成する貫通孔形成工程を備え、前記接合工程が、前記貫通孔の一端が前記支持基板の一表面により閉塞されるように前記支持基板と前記上板基板とを接合し、前記測定工程が、前記支持基板に接合された前記上板基板の前記貫通孔の深さを測定することとしてもよい。
【0016】
このように構成することで、上板基板と支持基板とを接合した状態であっても、貫通孔の深さを測定することにより上板基板のみの厚さが分かる。なお、貫通孔の深さは、例えば、貫通孔にマイクロメータ等の測定器を挿入することにより測定することとしてもよい。
【0017】
また、上記発明においては、前記抵抗値調整工程が、各前記発熱抵抗体に所定のエネルギーを印加することにより前記抵抗値を調整することとしてもよい。
このように構成することで、容易にかつ短時間で発熱抵抗体の抵抗値を変化させることができる。
【0018】
また、上記発明においては、前記所定のエネルギーとして電圧パルスを用いることとしてもよい。
このように構成することで、発熱抵抗体の抵抗値を調整するための特別な装置を用いることなく、通常の印字作用時よりも高電圧の電圧パルスを発熱抵抗体に印加するだけで簡易に抵抗値を変化させることができる。
【0019】
また、上記発明においては、前記所定のエネルギーとしてレーザ光を用いることとしてもよい。
このように構成することで、発熱抵抗体にレーザ光を照射することにより、レーザ光が照射された部分の抵抗値を変化させることができる。また、レーザ光の照射幅を変えることで、発熱抵抗体の抵抗値を変化させる範囲を調節することができる。
【0020】
また、上記発明においては、前記決定工程が、前記上板基板の厚さと前記目標抵抗値とが対応付けられたデータベースから前記目標抵抗値を読み出すこととしてもよい。
このように構成することで、データベースにより、発熱抵抗体の目標抵抗値を簡易かつ迅速に決定することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、大がかりな装置を用いることなく、利用されずに棄てられる熱量を見込んだ目標発熱量を精度よく出力可能な高効率のサーマルヘッドを簡易に製造することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るサーマルヘッドの製造方法により製造されたサーマルヘッドを備えるサーマルプリンタの概略断面図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係るサーマルヘッドの製造方法のフローチャートである。
【図3】図1のサーマルヘッドを保護膜側から見た平面図である。
【図4】図3のサーマルヘッドの長手方向に直交する縦断面図である。
【図5】図3のサーマルヘッドの上板基板の厚さを測定する様子を示す概略断面図である
【図6】上板基板の厚さと発熱抵抗体の目標抵抗値とを対応付けた図表である。
【図7】本発明の第1の実施形態の変形例に係るサーマルヘッドの製造方法のフローチャートである。
【図8】本発明の第1の実施形態の変形例に係るサーマルヘッドの製造方法により製造されたサーマルヘッドの長手方向に直交する縦断面図である。
【図9】本発明の第2の実施形態に係るサーマルヘッドの製造方法のフローチャートある。
【図10】本発明の第2の実施形態に係るサーマルヘッドの製造方法により製造されたサーマルヘッドを保護膜側から見た平面図である。
【図11】図10のサーマルヘッドの長手方向に直交する縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
〔第1の実施形態〕
以下、本発明の第1の実施形態に係るサーマルヘッドの製造方法について、図面を参照して説明する。
本実施形態に係るサーマルヘッドの製造方法は、例えば、図1に示すようなサーマルプリンタ100に用いられるサーマルヘッド1(図3および図4参照)を製造するものである。
本製造方法は、図2のフローチャートに示すように、平板状の支持基板13の一表面に開口する断熱用凹部(開口部)32を形成する凹部形成工程(開口部形成工程)SA1と、断熱用凹部32が形成された支持基板13に、断熱用凹部32を閉塞するように平板状の上板基板11を積層状態に接合する接合工程SA2と、支持基板13に接合された上板基板11を薄板化する薄板化工程SA3と、薄板化された上板基板11の厚さを測定する測定工程SA4と、測定された上板基板11の厚さに基づいて発熱抵抗体14の目標抵抗値を決定する決定工程SA5と、上板基板11の表面における断熱用凹部32に対向する位置に、決定工程SA5により決定された目標抵抗値を有する発熱抵抗体14を形成する抵抗体形成工程SA6とを備えている。
【0024】
さらに、本製造方法は、抵抗体形成工程SA6により形成された発熱抵抗体14に電極配線16を接続する配線形成工程SA7と、発熱抵抗体14および電極配線16を含む上板基板11の表面を部分的に覆ってこれを保護する保護膜18を形成する保護膜形成工程SA8とを備えている。
なお、図3において、発熱抵抗体14は1本の直線状に表されているが、実際には基板本体12の長手方向に微小間隔をあけて複数(例えば、4096個)配列されている。
以下、各工程について具体的に説明する。
【0025】
まず、開口部形成工程SA1においては、支持基板13として、300μm〜1mm程度の厚さを有する絶縁性のガラス基板が用いられる。この支持基板13の一表面において、抵抗体形成工程SA6により形成される発熱抵抗体14が対向することとなる位置に、支持基板13の長手方向に延びる矩形状の断熱用凹部32を形成する(ステップSA1)。
【0026】
断熱用凹部32は、例えば、支持基板13の一表面に、サンドブラスト、ドライエッチング、ウェットエッチング、レーザ加工等を施すことによって形成することができる。
支持基板13にサンドブラストによる加工を施す場合には、支持基板13の一表面にフォトレジスト材を被覆し、フォトレジスト材を所定パターンのフォトマスクを用いて露光して、断熱用凹部32を形成する領域以外の部分を固化させる。
【0027】
その後、支持基板13の一表面を洗浄し、固化していないフォトレジスト材を除去することにより、断熱用凹部32を形成する領域にエッチング窓が形成されたエッチングマスク(図示略)が得られる。この状態で、支持基板13の一表面にサンドブラストを施し、所定の深さの断熱用凹部32を形成する。なお、断熱用凹部32の深さは、例えば、10μm以上で、支持基板13の厚さの半分以下とするのが好ましい。
【0028】
また、ドライエッチングやウェットエッチング等のエッチングによる加工を施す場合には、上記サンドブラストによる加工と同様に、支持基板13の一表面における断熱用凹部32を形成する領域にエッチング窓が形成されたエッチングマスクを形成する。そして、この状態で支持基板13の一表面にエッチングを施し、所定の深さの断熱用凹部32を形成する。
【0029】
このエッチング処理には、例えば、フッ酸系のエッチング液等を用いたウェットエッチングのほか、リアクティブイオンエッチング(RIE)やプラズマエッチング等のドライエッチングを用いることができる。なお、参考例として、支持基板が単結晶シリコンの場合には、水酸化テトラメチルアンモニウム溶液、KOH溶液、または、フッ酸と硝酸の混合液等のエッチング液等によるウェットエッチングが行われる。
【0030】
次に、接合工程SA2においては、支持基板13と同じ材料からなるガラス基板あるいは支持基板13の材料に性質が近いガラス基板である上板基板11が用いられる。ここで、上板基板11として厚さが100μm以下のものは、製造やハンドリングが困難であり、また、高価である。そこで、当初から薄い上板基板11を支持基板13に直接接合する代わりに、製造やハンドリングが容易な厚さの上板基板11を支持基板13に接合し、その後、薄板化工程SA3により、上板基板11をエッチングや研磨等によって所望の厚さとなるように加工する。
【0031】
まず、支持基板13の一表面からエッチングマスクを全て除去し、表面を洗浄する。そして、支持基板13のこの一表面に断熱用凹部32を閉塞するように上板基板11を貼り合わせる。例えば、室温にて接着層を用いずに上板基板11を支持基板13に直接貼り合わせる。
【0032】
支持基板13の一表面が上板基板11によって覆われることで、すなわち、断熱用凹部32の開口部が上板基板11によって閉塞されることで、上板基板11と支持基板13との間に断熱用空洞部33が形成される。この状態で、張り合わせた上板基板11と支持基板13に加熱処理を行い、これらを熱融着により接合する(ステップSA2)。以下、上板基板11と支持基板13とを接合したものを基板本体12という。
【0033】
ここで、断熱用空洞部33は、上層に形成される全ての発熱抵抗体14に対向する連通構造を有し、発熱抵抗体14で発生した熱が上板基板11から支持基板13側へ伝達されるのを抑制する中空断熱層として機能することとなる。断熱用空洞部33が中空断熱層として機能することで、発熱抵抗体14の一面に隣接する上板基板11に伝達される熱量より、発熱抵抗体14の他面に隣接する保護膜18の方向へと伝達される熱量が増大する。保護膜18には印刷時に感熱紙3(図1参照)が押し付けられているので、この方向への熱量を増大させることにより印字等に利用される熱量が増大し、利用効率の向上を図ることができる。
【0034】
次に、薄板化工程SA3においては、支持基板13に接合された上板基板11をエッチングや研磨等によって所望の厚さ(例えば、厚さ10〜50μm程度)となるように加工する(ステップSA3)。これにより、支持基板13の一表面に容易かつ安価にごく薄い上板基板11を形成することができる。
【0035】
上板基板11のエッチングには、凹部形成工程SA1のように断熱用凹部32の形成に採用される各種エッチングを用いることができる。また、上板基板11の研磨には、例えば、半導体ウェーハ等の高精度研磨に用いられるCMP(ケミカルメカニカルポリッシング)等を用いることができる。
【0036】
測定工程SA4においては、例えば、支持基板13の断熱用凹部32に対向する上板基板11の領域に光を照射し、上板基板11の表面および裏面における反射光によってその表面および裏面の位置を検出して上板基板11の厚さを測定する(ステップSA4)。
【0037】
ここで、発熱抵抗体14が形成される前の基板本体12は、断熱用凹部32に対向する上板基板11の表面およびその裏面がともに空気に面している。すなわち、この断熱用凹部32に対向する上板基板11の表面は外部露出して外気に接しており、裏面は厚さ断熱用凹部32を閉塞することで断熱用空洞部33内の空気に接している。
【0038】
したがって、例えば、図5に示すように、上板基板11のこの領域に青色レーザ光を照射すると、上板基板11と空気との屈折率の相違により、上板基板11の表面および裏面においてそれぞれ青色レーザ光が反射される。そして、上板基板11の表面および裏面においてそれぞれ反射された反射光をセンサ9等により検出するだけで、上板基板11と支持基板13とが接合された状態であっても上板基板11の正確な厚さ寸法を光学的に測定することができる。
【0039】
次に、決定工程SA5においては、図6に示すような上板基板11の厚さと目標抵抗値とが対応付けられたデータベースから、測定工程SA4により測定された上板基板11の厚さに対応する目標抵抗値を読み出し、発熱抵抗体14の目標抵抗値に決定する(ステップSA5)。
【0040】
次に、抵抗体形成工程SA6においては、上板基板11の表面における断熱用凹部32に対向する位置に、決定工程SA5で決定した目標抵抗値を有する複数の発熱抵抗体14を形成する(ステップSA6)。発熱抵抗体14は、上板基板11の表面において、それぞれ断熱用空洞部33を幅方向に跨ぐように形成し、断熱用空洞部33の長手方向に所定の間隔をあけて配列する。
【0041】
発熱抵抗体14の形成には、スパッタリングやCVD(化学気相成長法)、または、蒸着等の薄膜形成法を用いることができる。上板基板11上にTa系やシリサイド系等の発熱抵抗体材料の薄膜を成膜し、この薄膜をリフトオフ法やエッチング法等を用いて成形することにより、所望の形状の発熱抵抗体14を形成することができる。
【0042】
続いて、配線形成工程SA7においては、抵抗体形成工程SA6と同様に、上板基板11上にAl、Al−Si、Au、Ag、Cu、Pt等の配線材料をスパッタリングや蒸着法等により成膜する。そして、この膜をリフトオフ法やエッチング法を用いて成形したり、配線材料をスクリーン印刷した後に焼成したりして、電極配線16を形成する(ステップSA7)。
【0043】
電極配線16は、各発熱抵抗体14の配列方向に直交する方向の一端に接続する個別電極配線と、全ての発熱抵抗体14の他端に一体的に接続する共通電極配線とにより構成する。なお、発熱抵抗体14や電極配線16を形成する順序は任意である。発熱抵抗体14および電極配線16におけるリフトオフもしくはエッチングのためのレジスト材のパターニングでは、フォトマスクを用いてフォトレジスト材をパターンニングする。
【0044】
次に、保護膜形成工程SA8においては、発熱抵抗体14および電極配線16を形成した上板基板11上にSiO2、Ta2O5、SiAlON、Si3N4、ダイヤモンドライクカーボン等の保護膜材料をスパッタリング、イオンプレーティング、CVD法等により成膜して保護膜18を形成する(ステップSA8)。保護膜18を形成することにより、発熱抵抗体14および電極配線16を磨耗や腐食から保護することができる。
【0045】
なお、上板基板11の表面には、さらに、電極配線16を介して各発熱抵抗体14に電気的に接続する駆動用IC22と、駆動用IC22を被覆して磨耗や腐食から保護するIC樹脂被覆膜24と、発熱抵抗体14に電力エネルギーを供給する複数(例えば、10本程度)の給電部26等を形成する。これら駆動用IC22、IC樹脂被覆膜24および給電部26は、従来のサーマルヘッドにおける公知の製造方法を用いて形成することができる。
【0046】
駆動用IC22は、各発熱抵抗体14の発熱動作を個別に制御するものであり、個別電極配線を介して印加する電圧を制御しながら、選択した発熱抵抗体14を駆動することができる。上板基板11上には、2つの駆動用IC22を発熱抵抗体14の配列方向に沿って間隔をあけて配置し、各駆動用IC22に半数の発熱抵抗体14をそれぞれ個別電極配線を介して接続する。
【0047】
以上の工程により、図3および図4に示めすサーマルヘッド1が製造される。このようにして製造されたサーマルヘッド1は、アルミ等の金属、樹脂、セラミックスまたはガラス等からなる板状部材の放熱板28に固定することができる。これにより、サーマルヘッド1の熱が放熱板28を介して放熱される。
【0048】
また、このサーマルヘッド1は、本体フレーム2と、水平配置されるプラテンローラ4と、プラテンローラ4の外周面に対向配置されるサーマルヘッド1と、プラテンローラ4とサーマルヘッド1との間に感熱紙3等の印刷対象物を送り出す紙送り機構6と、サーマルヘッド1を感熱紙3に対して所定の押圧力で押し付ける加圧機構8とにより構成されるサーマルプリンタ100に用いることができる。
【0049】
このサーマルプリンタ100は、加圧機構8の作動により、サーマルヘッド1および感熱紙3がプラテンローラ4に押し付けられるようになっている。駆動用IC22により個別電極配線に選択的に電圧を印加すると、選択された個別電極配線が接続されている発熱抵抗体14に電流が流れ、その発熱抵抗体14が発熱する。この状態で、加圧機構8の作動により、発熱抵抗体14の発熱部分を覆う保護膜18の表面部分(印字部分)に感熱紙3を押し付けることで、感熱紙3が発色して印字することができる。
【0050】
以上説明してきたように、本実施形態に係るサーマルヘッドの製造方法によれば、発熱抵抗体14が表面に形成された上板基板11は蓄熱層として機能するため、薄板化工程SA3により上板基板11を薄板化することで、蓄熱層としての熱容量を低減させ、発熱抵抗体14で発生した熱量のうち上板基板11側に逃げる熱量を抑制して、利用可能な熱量を増加させることができる。
【0051】
この場合において、利用可能な熱量は、薄板化工程SA3により薄板化された上板基板11の厚さに依存するが、測定工程SA4により測定した薄板化後の上板基板11の厚さに基づいて決定工程SA5により目標抵抗値を決定するので、抵抗体形成工程SA6において、薄板化後の上板基板11の厚さの如何にかかわらず、上板基板11側に逃げる熱量を予め見込んで利用可能な熱量を精度よく発生する発熱抵抗体14を形成することができる。
【0052】
したがって、従来のように各発熱抵抗体14の発熱温度を測定したり温度測定のための特殊な装置を用いたりすることなく、利用されずに棄てられる熱量を見込んだ目標発熱量を精度よく出力可能な高効率のサーマルヘッド1を簡易に製造することができる。
【0053】
なお、本実施形態では、測定工程SA4において、上板基板11の厚さを光学的に測定することとしたが、これに代えて、例えば、接合工程SA2の前に予め支持基板13の厚さを測定しておき、測定工程SA4において、薄板化後の基板本体12の厚さ寸法から支持基板13の厚さ寸法を除算することにより上板基板11の厚さを算出することとしてもよい。
【0054】
また、本実施形態は以下のように変形することができる。
例えば、図7のフローチャートに示すように、接合工程SA2の前に、上板基板11における発熱抵抗体14が形成されない位置に板厚方向に貫通する貫通孔42(図8参照)を形成する貫通孔形成工程SA1´を備え、接合工程SA2が、貫通孔42の一端が支持基板13の一表面により閉塞されるように上板基板11と支持基板13とを接合し、測定工程SA4が、支持基板13に接合された上板基板11の貫通孔42の深さを測定することとしてもよい。このようにすることで、上板基板11と支持基板13とを接合した状態であっても、例えば、貫通孔42にマイクロメータ等の測定器を挿入して貫通孔42の深さを測定することにより、上板基板11のみの厚さを測定することができる。なお、貫通孔42の形成は、凹部形成工程SA1において断熱用凹部32の形成と同時に同様にして行うこととしてもよい。
【0055】
〔第2の実施形態〕
以下、本発明の第2の実施形態に係るサーマルヘッドの製造方法について、図9および図10を参照して説明する。
本実施形態に係るサーマルヘッドの製造方法は、所定の抵抗値を有する発熱抵抗体14を備えるサーマルヘッド101を製造した後に、上板基板11の厚さに応じて発熱抵抗体14の抵抗値を調整する点で第1の実施形態と異なる。
以下、本実施形態の説明において、第1の実施形態に係るサーマルヘッドの製造方法と構成を共通する箇所には、同一符号を付して説明を省略する。
【0056】
本実施形態に係るサーマルヘッドの製造方法は、図9のフローチャートに示すように、平板状の支持基板13の一表面に開口する断熱用凹部32および厚さ測定用凹部(開口部)34(図10および図11参照)を形成する凹部形成工程(開口部形成工程)SB1と、接合工程SA2および薄板化工程SA3と、薄板化工程SA3により薄板化された上板基板11の表面における断熱用凹部32に対向する位置に発熱抵抗体14を形成する抵抗体形成工程SB4と、薄板化工程SA3により薄板化された上板基板11の厚さを測定する測定工程SB5と、測定された上板基板11の厚さに基づいて発熱抵抗体14の目標抵抗値を決定する決定工程SB6と、発熱抵抗体14の抵抗値を決定工程SB6により決定された目標抵抗値にほぼ一致させる調整を行う抵抗値調整工程SB7とを備えている。
【0057】
凹部形成工程SB1においては、断熱用凹部32と同様にして、上板基板11上に形成される発熱抵抗体14に対向しない位置、例えば、支持基板13の接合面上のコーナー付近に、100μm程度の開口幅を有する正方形状の厚さ測定凹部34を形成する(ステップSB1)。
【0058】
接合工程SA2においては、支持基板13の断熱用凹部32および厚さ測定用凹部34が上板基板11によって閉塞されることで、上板基板11と支持基板13との間に断熱用空洞部33および厚さ測定用空洞部35がそれぞれ形成される(ステップSA2)。この場合に、発熱抵抗体14が形成されない領域に厚さ測定用凹部34を形成することで、厚さ測定用空洞部35に対向する上板基板11の表面およびその裏面がともに空気に面することとなる。
【0059】
抵抗体形成工程SB4においては、例えば、目標抵抗値より高い抵抗値を有する発熱抵抗体14を上板基板11上に形成する(ステップSB4)。なお、抵抗体形成工程SB4と測定工程SB5の順序は任意である。
【0060】
測定工程SB5(ステップSB5)においては、厚さ測定用凹部34(厚さ測定用空洞部35)に対向する上板基板11の領域に青色レーザ光を照射し、センサ9(図5参照)等を用いて、上板基板11の表面および裏面における反射光によってその表面および裏面の位置を検出して上板基板11の厚さを光学的に測定する。なお、一般的に青色レーザのスポット径が0.9μであるとすると、厚さ測定用凹部34の開口幅を100μm程度の大きさにすることで、レーザスポットの位置合わせを容易に行うことができる。
【0061】
決定工程SB6においては、図6に示すデータベースから、上板基板11の厚さに対応する目標抵抗値を読み出し、発熱抵抗体14の目標抵抗値に決定する(ステップSB6)。
抵抗値調整工程SB7においては、発熱抵抗体14に対して所定のエネルギーを印加することにより、発熱抵抗体14の抵抗値を下げて目標抵抗値にほぼ一致させる(ステップSB7)。このようにすることで、容易にかつ短時間で発熱抵抗体14の抵抗値を変化させることができる。所定のエネルギーとしては、例えば、電圧パルスを用いることとしてもよいし、または、レーザ光を用いることとしてもよい。
【0062】
発熱抵抗体14に電圧パルスを印加する場合には、発熱抵抗体14の抵抗値を調整するための特別な装置を用いることなく、通常の印字作用時よりも高電圧の電圧パルスを発熱抵抗体14に印加するだけで簡易に抵抗値を変化させることができる。また、発熱抵抗体14にレーザ光を照射する場合、レーザ光を照射した部分の抵抗値を部分的に変化させることができる。また、レーザ光の照射幅を変えることで、発熱抵抗体14の抵抗値を変化させる範囲を容易に調節することができる。
抵抗値調整工程SB7により発熱抵抗体14の抵抗値を調整した後、配線形成工程SA7および保護膜形成工程SA8等を経て、図10および図11に示めすサーマルヘッド101が製造される。
【0063】
以上説明したように、本実施形態に係るサーマルヘッドの製造方法によれば、決定工程SB6により薄板化後の上板基板11の厚さに基づいて目標抵抗値を決定することで、抵抗値調整工程SB7において、薄板化後の上板基板11の厚さの如何にかかわらず、上板基板11側に逃げる熱量を予め見込んで利用可能な熱量を精度よく発生するように発熱抵抗体14の抵抗値を調整することができる。したがって、大がかりな装置を用いることなく、利用されずに棄てられる熱量を見込んだ目標発熱量を精度よく出力可能な高効率のサーマルヘッド101を簡易に製造することができる。
【0064】
なお、本実施形態では、抵抗体形成工程SB4において目標抵抗値より高い抵抗値を有する発熱抵抗体14を形成することとしたが、これに代えて、目標抵抗値より低い抵抗値を有する発熱抵抗体14を形成することとしてもよい。この場合、抵抗値調整工程SB7において、発熱抵抗体14にレーザ光を照射すること等により発熱抵抗体14の抵抗値を上げて目標抵抗値にほぼ一致させることとすればよい。
また、本実施形態においては、凹部形成工程SB1により厚さ測定用凹部34を形成することとしたが、これに代えて、貫通孔形成工程SA1´により貫通孔42を形成し、測定工程SB5により貫通孔42の深さを測定することで、上板基板11の厚さを算出することとしてもよい。
【0065】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。 例えば、本発明を上記の実施形態および変形例に適用したものに限定されることなく、これらの実施形態および変形例を適宜組み合わせた実施形態に適用してもよく、特に限定されるものではない。
また、上記各実施形態においては、開口部として、断熱用凹部32および厚さ測定用凹部34を例示して説明したが、これらに代えて、例えば、支持基板13を厚さ方向に貫通する貫通孔としてもよい。
【符号の説明】
【0066】
1,101 サーマルヘッド
11 上板基板
12 基板本体(基板)
13 支持基板
14 発熱抵抗体
18 保護膜
32 断熱用凹部(開口部)
34 厚さ測定用凹部(開口部)
42 貫通孔
SA1、SB1 凹部形成工程(開口部形成工程)
SA1´ 貫通孔形成工程
SA2 接合工程
SA3 薄板化工程
SA4、SB5 測定工程
SA5、SB6 決定工程
SA6、SB4 抵抗体形成工程
SB7 抵抗値調整工程
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一表面に開口する開口部を有する平板状の支持基板に前記開口部を閉塞するように平板状の上板基板を積層状態に接合する接合工程と、
該接合工程により前記支持基板に接合された前記上板基板を薄板化する薄板化工程と、
該薄板化工程により薄板化された前記上板基板の厚さを測定する測定工程と、
該測定工程により測定された前記上板基板の厚さに基づいて発熱抵抗体の目標抵抗値を決定する決定工程と、
前記薄板化工程により薄板化された前記上板基板の表面の前記開口部に対向する位置に、前記決定工程により決定された前記目標抵抗値を有する前記発熱抵抗体を形成する抵抗体形成工程とを備えるサーマルヘッドの製造方法。
【請求項2】
一表面に開口する開口部を有する平板状の支持基板に前記開口部を閉塞するように平板状の上板基板を積層状態に接合する接合工程と、
該接合工程により前記支持基板に接合された前記上板基板を薄板化する薄板化工程と、
該薄板化工程により薄板化された前記上板基板の表面の前記開口部に対向する位置に発熱抵抗体を形成する抵抗体形成工程と、
前記薄板化工程により薄板化された前記上板基板の厚さを測定する測定工程と、
該測定工程により測定された前記上板基板の厚さに基づいて前記発熱抵抗体の目標抵抗値を決定する決定工程と、
前記発熱抵抗体の抵抗値を前記決定工程により決定された前記目標抵抗値にほぼ一致させる調整を行う抵抗値調整工程とを備えるサーマルヘッドの製造方法。
【請求項3】
前記測定工程が、前記開口部に対向する前記上板基板の領域に光を照射し、前記上板基板の前記表面およびその裏面における反射光によって前記表面および前記裏面の位置を検出して前記上板基板の厚さを測定する請求項1または請求項2に記載のサーマルヘッドの製造方法。
【請求項4】
前記上板基板の表面の前記発熱抵抗体が形成されない位置に板厚方向に貫通する貫通孔を形成する貫通孔形成工程を備え、
前記接合工程が、前記貫通孔の一端が前記支持基板の一表面により閉塞されるように前記支持基板と前記上板基板とを接合し、
前記測定工程が、前記支持基板に接合された前記上板基板の前記貫通孔の深さを測定する請求項1または請求項2に記載のサーマルヘッドの製造方法。
【請求項5】
前記抵抗値調整工程が、各前記発熱抵抗体に所定のエネルギーを印加することにより前記抵抗値を調整する請求項2から請求項4のいずれかに記載のサーマルヘッドの製造方法。
【請求項6】
前記所定のエネルギーとして電圧パルスを用いる請求項5に記載のサーマルヘッドの製造方法。
【請求項7】
前記所定のエネルギーとしてレーザ光を用いる請求項5に記載のサーマルヘッドの製造方法。
【請求項8】
前記決定工程が、前記上板基板の厚さと前記目標抵抗値とが対応付けられたデータベースから前記目標抵抗値を読み出す請求項1から請求項7のいずれかに記載のサーマルヘッドの製造方法。
【請求項1】
一表面に開口する開口部を有する平板状の支持基板に前記開口部を閉塞するように平板状の上板基板を積層状態に接合する接合工程と、
該接合工程により前記支持基板に接合された前記上板基板を薄板化する薄板化工程と、
該薄板化工程により薄板化された前記上板基板の厚さを測定する測定工程と、
該測定工程により測定された前記上板基板の厚さに基づいて発熱抵抗体の目標抵抗値を決定する決定工程と、
前記薄板化工程により薄板化された前記上板基板の表面の前記開口部に対向する位置に、前記決定工程により決定された前記目標抵抗値を有する前記発熱抵抗体を形成する抵抗体形成工程とを備えるサーマルヘッドの製造方法。
【請求項2】
一表面に開口する開口部を有する平板状の支持基板に前記開口部を閉塞するように平板状の上板基板を積層状態に接合する接合工程と、
該接合工程により前記支持基板に接合された前記上板基板を薄板化する薄板化工程と、
該薄板化工程により薄板化された前記上板基板の表面の前記開口部に対向する位置に発熱抵抗体を形成する抵抗体形成工程と、
前記薄板化工程により薄板化された前記上板基板の厚さを測定する測定工程と、
該測定工程により測定された前記上板基板の厚さに基づいて前記発熱抵抗体の目標抵抗値を決定する決定工程と、
前記発熱抵抗体の抵抗値を前記決定工程により決定された前記目標抵抗値にほぼ一致させる調整を行う抵抗値調整工程とを備えるサーマルヘッドの製造方法。
【請求項3】
前記測定工程が、前記開口部に対向する前記上板基板の領域に光を照射し、前記上板基板の前記表面およびその裏面における反射光によって前記表面および前記裏面の位置を検出して前記上板基板の厚さを測定する請求項1または請求項2に記載のサーマルヘッドの製造方法。
【請求項4】
前記上板基板の表面の前記発熱抵抗体が形成されない位置に板厚方向に貫通する貫通孔を形成する貫通孔形成工程を備え、
前記接合工程が、前記貫通孔の一端が前記支持基板の一表面により閉塞されるように前記支持基板と前記上板基板とを接合し、
前記測定工程が、前記支持基板に接合された前記上板基板の前記貫通孔の深さを測定する請求項1または請求項2に記載のサーマルヘッドの製造方法。
【請求項5】
前記抵抗値調整工程が、各前記発熱抵抗体に所定のエネルギーを印加することにより前記抵抗値を調整する請求項2から請求項4のいずれかに記載のサーマルヘッドの製造方法。
【請求項6】
前記所定のエネルギーとして電圧パルスを用いる請求項5に記載のサーマルヘッドの製造方法。
【請求項7】
前記所定のエネルギーとしてレーザ光を用いる請求項5に記載のサーマルヘッドの製造方法。
【請求項8】
前記決定工程が、前記上板基板の厚さと前記目標抵抗値とが対応付けられたデータベースから前記目標抵抗値を読み出す請求項1から請求項7のいずれかに記載のサーマルヘッドの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−37018(P2011−37018A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−183555(P2009−183555)
【出願日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【出願人】(000002325)セイコーインスツル株式会社 (3,629)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【出願人】(000002325)セイコーインスツル株式会社 (3,629)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]