説明

サーモクロミック性質を有する熱硬化性物質の調製用組成物

【課題】サーモクロミック性質を有する熱硬化性物質の調製用組成物を提供する。
【解決手段】サーモクロミック性質を有する熱硬化性物質の調製用組成物であって、サーモクロミック複合物と熱硬化性物質の生産用原料成分との混合物から構成されている。前記サーモクロミック複合物は、以下の成分のうちの少なくとも一種の成分を含有する。これらの成分は、着色剤、現像剤、融剤、表面活性物質、及びポリマーである。前記サーモクロミック複合物は、また、混合物の中で熱硬化性物質の生産用原料成分に対して実質上不活性となるように処理されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特許請求項1の従来技術部分に基づく、サーモクロミック性質を有する熱硬化性物質の調製用組成物に関し、特許請求項13の従来技術部分に基づく組成物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
熱硬化性物質は、広範囲に応用されている。この応用は、臨界温度処理が行われ及び/又は頻繁な温度監視を必要とする分野で求められる。このような温度監視は、今まで従来の方式で行われ、つまり温度計及び熱素子或いは同様な温度測定方法及び関連の電子機器を使って非直接且つ複雑に行われている。また、従来の温度測定方法は、比較的広いエリアでの局部温度のみを測定するために用いられるので、広範囲での確実な温度判定は不可能または複雑である。特に、前述方法を用いた目での監視は、事実上廃止されている。その理由は、たとえ多数の温度測定センサを使っても、大きい表示面積を有し把握不能ほどの大量の温度データを示す表示装置が必要となるからである。特に、扱いやすさが求められる表示パネル等の分野では、必ず問題が発生する。
【0003】
そこで、大きい表面面積の温度を監視するのに適切でシンプルな温度監視装置が急きょ求められるようになった。一方、このような応用のため、既に、ある温度のとき光学性質が変化するサーモクロミック組成物及び積層物が開発されている。なお、従来の組成物は通常、温度の昇降に伴って非透明状態から透明状態に変化するので、特定温度のときの変化に関しては結論が出なく、或いは荒い結論しか出ていない。
【0004】
上述した問題を解決するために、米国特許第4,617,350号明細書及び米国特許第4,861,835号明細書は、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロアセトンの共重合物を添加した、アクリル酸又はメタアクリル酸エステルによって形成され光学及び光電子装置に用いられるポリマー組成物を記載している。しかし、これらの特許によって開示された樹脂組成物は、色変化性質を持っておらず、非透明/透明の過渡状態を示すだけである。
【0005】
一方、欧州特許出願公開第0677564号明細書は、サーモクロミック非透明/透明組成物を開示している。この組成物は、ビニルクロライド/ビニルアセテート共重合物マトリクス樹脂での分散体を含有し、サーモクロミック材料と無菌処理済アミン化合物とを可逆可能に混合することによって得られる。また、色付け成分は、微粒子となるように加工され、分散体の形を有するビニルクロライド/ビニルアセテート共重合物マトリクスに分布される。これにより、活性の樹脂原料成分と色付け成分との反応は、実質上防止されて、色強度の損失を回避すると共に、温度変動による色変化に対する敏感度を損なわずに済む。しかし、このプロセスは、次のような欠点を抱えている。つまり、前記微粒子は少なくとも外見上、樹脂を形成する反応成分から攻撃され、樹脂の硬化速度によりこの欠点が大半発生する。更に、着色剤は固体に加工される必要があるので、前記プロセスは、数少ない種類の着色剤に対してのみ有用である。そして、着色剤は、樹脂原料成分に対して低い反応性を示さなければならない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、サーモクロミック性質を有する熱硬化性物質の調製用組成物を提供し、このサーモクロミック性質により前記欠点が回避され、従来技術より広い種類の着色剤及び樹脂系に適用できる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的は、特許請求項1記載の組成物によって達成される。
即ち、前記目的は、サーモクロミック性質を有する熱硬化性物質の調製用組成物によって達成される。この組成物は、熱硬化性物質を生産するためのサーモクロミック組成物と原料成分との混合物からなり、サーモクロミック組成物は、着色剤、現像剤、融剤、表面活性剤、ポリマーのうち少なくとも一種を含有する。
【0008】
なお、本発明の重要なポイントは、表面活性物質を着色剤/現像剤及び融剤と併用することにある。サーモクロミック成分は、着色剤/現像剤の結合により構成され、適切な融剤と、ある温度のときにある色変化があるように結合される成分とを含有する。好ましくは、表面活性物質及び/又は、表面活性物質と融剤との結合体によって、数多くの着色剤/現像剤系を使用することが可能となる。即ち、表面活性物質及び/又は、表面活性物質と融剤との結合体によって、熱硬化性物質を生産するための原料成分の官能基は、着色剤/現像剤系から守られる。また、表面活性成分と融剤は、高分子構造によって構成されることもある。従って、全ての所要着色剤/現像剤系を使用することができ、熱硬化性物質を生産するための原料成分は、同様に種類上の限定を受けるべきではない。そして、使用される物質によって、表面活性物質のみを特別の要求にあわせることができ、着色剤系によって融剤を特別の要求に合わせることができる。
【0009】
本発明によれば、前記サーモクロミック組成物は、熱硬化性物質を生産する原料成分を含む混合物の中で実質上不活性となっている。
【0010】
このような不活性は、着色剤の色強度によって得られ、微カプセル化によって実現されるが、カプセルの非透明化という不利な点も生じる。なお、本発明によれば、好ましくは、サーモクロミック組成物の不活性化は、表面活性物質及び/又はポリマー及び/又は、表面活性物質とポリマーの混合物からなる保護性シールドで前記組成物、特に着色剤を覆うことによって得られる。好ましくは、このような保護性シールドは、ミセルの形を有する。なお、ここで強調すべきなのは、前記ポリマー及び表面活性物質、特に表面活性剤は、必ずしも物理的に混合物の形を有さなくてもよく、つまり互いに化合しても良い。
【0011】
また、本発明の好ましい実施例によれば、前記表面活性物質は、ある濃度でシステム全体に存在し、この濃度は、極性溶剤の場合、効果的に臨界ミセル濃度CMCに到達し或いはこれを超える。制限なく好ましい基準溶剤として使われる溶剤は、いつでも所要的に、サーモクロミック組成物の成分に整合し、更に熱硬化性物質の生産用原料成分に整合することが可能である。一方、使用されるpH値も反応温度も同様であり、これらのpH値も反応温度も反応物質に整合しており、ミセルが形成するように選択される。そして、本発明の好ましい例として、ミセル内において、少なくとも着色剤/現像剤は、熱硬化性物質生産用の原料成分の活性基から保護されている。従って、色付与物質の破壊や変性を防ぐことができる。
【0012】
前記融剤は、サーモクロミック成分と熱硬化性物質生産用の原料成分との混和性を得るために用いられ、そして着色剤/現像剤を樹脂形成成分から守るためにも用いられる。更に、温度に制御されている状態で、前記融剤は、複合体の凝集状態に変化をもたらす。このように、前記融剤の構造によって、よく調整された疎水性/親水性のバランスが確保される。このため、官能基がターミナル疎水成分の近傍に配置される。ここで、ポリマー成分は、広い意味では、初期凝集物又は単体を含んでいる。事実、熱硬化性物質生産用の全ての原料成分は、二つ以上の活性官能基を有する。なお、本発明では、前記組成物の成分は、次の表1に示す物質から選ばれる一種又は多種の物質である。
【0013】
【表1】

【0014】
本発明において組成物の好ましい成分濃度は、以下の表2に示されている。
【0015】
【表2】

【0016】
本発明に係るサーモクロミック複合物によって、少なくとも一つの、温度による明確定義の色変化を示す熱硬化性物質を調製することができる。このような色変化は、第1色から第2色へ変化する所定の色変遷に対応し、第1色と第2色の混合物の形での色変遷は発生しなくて、或いは比較的に軽い程度で発生するだけである。従って、例えば、第1色としての青から第2色としての赤への色変遷は、中間の紫色を介すことなく発生する。このため、本発明の組成物は、ある変遷温度で明確定義の色変化を示す熱硬化性物質を生産するときに効果的に使用することができる。従って、本発明の組成物は、臨界温度の標識として使用可能となり、主観影響を受けうる色変遷への説明を行う必要性がなくなる。
【0017】
本発明によれば、前記サーモクロミック組成物は、複数の着色剤/現像剤系を含むことができ、それぞれが少なくとも一つの明確定義の色変化を代表する。これにより、複数の変遷温度を含む広い温度範囲をカバーすることができる。
【0018】
また、本発明によれば、好ましい着色剤/現像剤系は、少なくとも一つの明確定義の色変化を果たす外に、少なくとも一つの更なる透明への可視変遷を果たす。このように、着色剤/現像剤系によって、観察者から見れば、ある特定の温度でただ一つの着色剤/現像剤系が可視的に活動している。従って、異なる着色剤/現像剤系間の干渉に起因する混合色が回避される。
【0019】
本発明の更なる実施形態によれば、本発明の組成物にサーモクロミック複合物を使用することによって、熱硬化性物質を調製することができ、そして温度によって、顕著な色変化、特に可逆の色変化は、明確定義の温度範囲内で発生する。更に、本発明によれば、温度範囲、つまり色変化が完全な温度ゾーンは、15Kの範囲であり、好ましくは8Kの温度範囲であり、特に好ましくは2Kの温度範囲である。
【0020】
また、温度監視に基づく感度の必要程度に特別対応することができ、そして熱的に問題が発生しない場合、例えば15K以上の大きい色変化温度範囲を選択することができる。一方、熱的に敏感な場合には、2K以下の色変化温度範囲が与えられる。
【0021】
本発明のもう一つの実施例によれば、前記組成物のサーモクロミック複合物により、複数の色変化変遷点を有する熱硬化性物質を調製することができる。これは、まず、複数の色変化を果たす着色剤/現像剤系によって実現される。或いは、異なる温度でそれぞれ活動的である複数の着色剤/現像剤系を有するサーモクロミック複合物によって、マルチ色変化変遷点は得られる。更に、それぞれ一つ以上の現像剤を有する二つ以上の着色剤は、異なる温度で異なる色への現像に関して活性を示すことが可能である。
【0022】
本発明の組成物を使用することによって、全ての空間方向に同様な色性質を有する実質的に等方性の熱硬化性物質を生産することができる。このように、熱硬化性物質を加工するとき、熱硬化性物質の配向が重要ではないので、熱硬化性物質を例えば成形品に加工することが相当簡単となる。
【0023】
更に、本発明の実施例によれば、少なくとも一つの色変化は、不可逆的に進行する。好ましくは、このような不可逆な色変化を利用して品質保証を行い、或いは他のタイプの監視、特に臨界温度の監視を行う。
【0024】
上述したように、本発明に係るもう一つの実施例によれば、サーモクロミック複合物の少なくとも二つの成分は、超分子構造内に機能的に存在することが可能である。この目的を達成するために、前記融剤および表面活性剤は、特に適切である。実は、本発明は、一つの構造内の異なる結合点に着色剤及び/又は現像剤及び/又は融剤及び/又は表面活性剤という化学結合を含んでいる。
【0025】
要するに、本発明の目的は、前記組成物を使用することによって達成される。即ち、本発明の組成物は、ハウジング、特に、ベアリング又はポンプ、スクレーパ、カバー、特に機械、監視装置及び表示装置に使用され、また、可視の温度監視、特に接着剤技術および品質保証を行うために使用される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明に係る他の実施形態は、従属請求項に記載されている。
そして、本発明は、次のような実施例を参照することによって、より詳細に説明することができる。
【実施例】
【0027】
12個炭素原子鎖を有するスルフォベタイン(0.35g)とポリアクリル酸(0.25g)とを250mlの蒸留水に混入する。これにより得られた混合物は、85℃まで加熱され、750rev/minの回転速度で攪拌される。そして、2.5gの着色剤複合体を加える。この着色剤複合体は、ビスフェノールA、結晶体バイオレットラクトン、1−オクタデカノールを2:1:15の重量比で配合して得られたものであり、このように得られた混合物は、85℃で更に2.5時間にわたり攪拌されて、安定なエマルジョンとして形成される。そして、7.5%のメチロールメラミン水溶液(30g)を5分間かけて加え、得られた混合物は3時間にわたり攪拌される。このように生成したサーモクロミック複合物(TC)は、簡単な方法で濾過し乾燥することができる。このTCは、攪拌しながら、樹脂/硬化剤混合物(重量比は10:4)に直接加えられ、混合物中のTCは4.5重量%である。完成した熱硬化性物質またはジュウロマ(duromer)は、安定なサーモクロミック性質を有し、60℃の際に青と無色との間で可逆的に変化する。
【0028】
なお、ここで主張すべきなのは、上述した詳細な説明は、単独でも結合の形でも、本発明にとって重要であり、本発明への修正は、当業者にとって自明である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サーモクロミック性質を有する熱硬化性物質の調製用組成物であって、以下の成分のうちの少なくとも一種の成分を有するサーモクロミック複合物の混合物からなり、これらの成分は、
着色剤、
現像剤、
融剤、
表面活性物質、
ポリマー、
及び熱硬化性物質の生産用原料成分であることを特徴とする組成物。
【請求項2】
請求項1記載の組成物であって、前記サーモクロミック複合物は、混合物の中で熱硬化性物質の生産用原料成分に対して実質上不活性となるように処理されていることを特徴とする組成物。
【請求項3】
請求項2記載の組成物であって、前記複合物は、表面活性物質及び/又はポリマー及び/又は表面活性物質とポリマーの混合物、特にミセルからなる保護性シールドによって覆われていることを特徴とする組成物。
【請求項4】
前記請求項の何れか1項記載の組成物であって、前記表面活性物質は、臨界ミセル濃度に到達し或いはこれを超える濃度で混合物に存在することを特徴とする組成物。
【請求項5】
前記請求項の何れか1項記載の組成物であって、前記組成物の成分は、以下の表に示した物質のうちの少なくとも一種であることを特徴とする組成物。


【請求項6】
前記請求項の何れか1項記載の組成物であって、前記組成物の成分は、以下の表に示した濃度で含有されていることを特徴とする組成物。

【請求項7】
前記請求項の何れか1項記載の組成物であって、前記サーモクロミック複合物を使用することによって、少なくとも一つの、温度による明確定義の色変化を示す熱硬化性物質が調製可能であることを特徴とする組成物。
【請求項8】
前記請求項の何れか1項記載の組成物であって、前記サーモクロミック複合物を使用することによって熱硬化性物質が調製可能であり、この熱硬化性物質は、温度により顕著な色変化、特に可逆の色変化が発生し、前記温度は15Kであり、好ましくは8Kであり、より好ましくは2Kであることを特徴とする組成物。
【請求項9】
前記請求項の何れか1項記載の組成物であって、前記サーモクロミック複合物を使用することによって、複数の色変化変遷点を有する熱硬化性物質が調製可能であることを特徴とする組成物。
【請求項10】
前記請求項の何れか1項記載の組成物であって、等方性の熱硬化性物質が調製可能であることを特徴とする組成物。
【請求項11】
前記請求項の何れか1項記載の組成物であって、少なくとも一つの色変化は可逆的であることを特徴とする組成物。
【請求項12】
前記請求項の何れか1項記載の組成物であって、前記サーモクロミック複合物の少なくとも二つの成分は、超分子構造内に機能的に存在していることを特徴とする組成物。
【請求項13】
請求項1〜12の何れか1項記載の組成物の使用であって、ハウジング、特に、ベアリング又はポンプ、スクレーパ、カバー、特に機械、監視装置及び表示装置に使用され、また、可視の温度監視、特に接着剤技術および品質保証を行うために使用されることを特徴とする組成物の使用。

【公表番号】特表2006−522179(P2006−522179A)
【公表日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−504607(P2006−504607)
【出願日】平成16年3月9日(2004.3.9)
【国際出願番号】PCT/EP2004/002416
【国際公開番号】WO2004/083338
【国際公開日】平成16年9月30日(2004.9.30)
【出願人】(505351164)ストウ・ウッドワード・エフェ・ウント・エー・ゲー・エム・べー・ハー (1)
【氏名又は名称原語表記】STOWE WOODWARD F&E GMBH
【住所又は居所原語表記】AM LANGEN GRABEN 22 D−52353 DUREN GERMANY
【Fターム(参考)】