説明

シアノピリジンを含有する気体反応生成物をクエンチするためのプロセス

シアノピリジンの加水分解は、ピコリンを主として非水性のクエンチ流体として使用することによって、減少させることができる。ピコリンクエンチ流体はシアノピリジンの製造における反応物にもなり得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
優先権の主張
本願は2006年8月8日に出願された「A Method of Making Cyanopyridines」と題する米国仮特許出願第60/821,779号の出願日の利益を主張し、前記仮特許出願の開示は、参照により明示的に本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
本発明はシアノピリジン類の調製に関する。シアノピリジン類は、有用化合物の製造において、中間体として有用である。米国特許第4,341,907号では、シアノピリジンが触媒的役割を果たす。米国特許第5,719,045号には、アンモ酸化によるピコリン(別名メチルピリジン)からのシアノピリジンの調製が開示されている。シアノピリジン類は、作物保護用の化学薬品、例えば浸透性広葉除草剤ピクロラム(4−アミノ−3,5,6−トリクロロ−2−ピリジンカルボン酸)およびアミノピラリド(4−アミノ−3,6−ジクロロ−2−ピリジンカルボン酸)を含み、他の組成物を調製するためのビルディングブロックとしても応用される。
【0003】
ピコリンからのシアノピリジンの生産では、水性クエンチ流体が、シアノピリジン反応生成物を含有する気体反応混合物をクエンチするための便利な手段を提供する。しかし水性クエンチ流体の使用は加水分解副生成物を生成させる。本発明は加水分解副生成物を減少させる。
【0004】
置換複素環式化合物の調製は、しばしば、高温において、気体反応物を使って、固体触媒上で行われる。同様に、複素環式化合物からの置換基の除去も、しばしば、高温において、気体反応物を使って、固体触媒上で行われる。複素環式化合物から置換基を除去する反応の典型は、米国特許第3,689,491号に開示されているものであり、これは、五酸化バナジウム/二酸化チタン触媒上での3−ピコリン(3−メチルピリジンまたはβ−ピコリン)の酸化によるピリジンの生産に関する。この反応は300℃〜380℃で操作されて、その温度で気体反応生成物をもたらすとされている。リアクターを出た気体反応生成物は、スクラバー中の冷水でクエンチされる。
【0005】
英国特許第790,937号には、ピコリン類がアンモニアおよび酸素と共に関与するアンモ酸化反応からのシアノピリジン類の回収が記載されている。水溶性反応生成物を含む水のリサイクルを使って、シアノピリジンを含有する気体反応生成物がリアクターから出る時に、反応生成物をクエンチする。次に、シアノピリジンは、そのクエンチ水をクエンチャーへのリサイクル前に冷却することによって、クエンチ水から分離される。リサイクルされたクエンチ液は、副生成物ニコチンアミド、シアニド、およびCOを含む。
【0006】
米国特許第4,810,794号には、ピリジンを含む気体反応生成物を水に吸収することが開示されている。
【0007】
シアノピリジン類は、原料としてのピコリン類のアンモ酸化によって製造される。アンモ酸化反応は300℃〜450℃の温度範囲で作動する。酸素およびアンモニアは、触媒の存在下に、ピコリン類と反応して、高い反応温度でシアノピリジン類を形成する。予想され得るように、温度が低いと反応が不経済な速度にまで減速され得るのに対して、温度が上昇するにつれて、反応が生成する不要な副生成物の量が増加する。経済的な操作温度は、反応速度と所望の反応生成物とを両立させる。
【0008】
ピコリンアンモ酸化反応における典型的な水性クエンチの場合、気体反応生成物が、クエンチ操作において、反応温度から反応生成物の後処理に好都合な温度、例えば50℃で、クエンチされる。水性クエンチ流体は、反応生成物を後処理に好都合な温度まで冷却するべく、十分に低い温度で、クエンチ操作に給送される。必要に応じて、水性クエンチ流体の温度調節が施される。
【0009】
典型的には、ベンゼンなどの有機抽出流体が、シアノピリジン反応生成物を有機相中に取り出すのに役立つ。水性抽出流体は水性クエンチ操作にリサイクルされ、必要な補給水に加えられる。有機相ベンゼンおよびシアノピリジン流を蒸留によって分離した後、後処理および生成物シアノピリジンの精製を行うことができる。有機抽出剤は抽出ステップに戻すことができる。
【0010】
シアノピリジン類の加水分解はピリジンカルボキサミド(別名ピコリンアミド)をもたらし得る。ピリジンカルボキサミドなどの副生成物は、クエンチ液中で、水およびアンモニアの存在下に、ニトリルである所望のシアノピリジンが加水分解することによって生じると考えられる。加水分解副生成物を生成させずにシアノピリジン反応生成物を回収することが望ましい。シアノピリジンの加水分解生成物であるピリジンカルボキサミドの加水分解は、さらに、ピリジン−2−カルボン酸形成につながり得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許第4,341,907号明細書
【特許文献2】米国特許第5,719,045号明細書
【特許文献3】米国特許第3,689,491号明細書
【特許文献4】英国特許第790,937号明細書
【特許文献5】米国特許第4,810,794号明細書
【発明の概要】
【0012】
本発明は、ピコリンを含有する主として非水性のクエンチ流体を用いる、ピコリンのアンモ酸化によって生じるシアノピリジンを含有する熱い気体反応生成物のクエンチに関する。
【0013】
定義
アンモ酸化とは、有機物質の混合物が、アンモニア、酸素および触媒の存在下に、高温で、シアノ含有生成物に転化される化学プロセスと定義される。
【0014】
シアノピリジン類とは、ピリジン類の少なくとも1つのシアノ誘導体である化合物群と定義される。シアノピリジン類は、ピリジルニトリル類、ピリジンカルボニトリル類、ピコリン酸ニトリル類またはピリジンカルボニトリル類を含み、他にも多くの一般名を有する。
【0015】
ピコリン類とは、ピリジンの少なくとも1つのメチル誘導体を含む化合物群と定義される。ピコリン類は一般にメチルピリジン類とも呼ばれている。
【0016】
主に非水性とは、主に水を含まないことと定義され、大部分が水を含まないことを包含する。
【0017】
詳細な説明
シアノピリジンを含む気体反応生成物をピコリンでクエンチすることにより、シアノピリジンの加水分解副生成物への損失を著しく減少させることができ、従ってシアノピリジンの単離収率を著しく増加させることができる。
【0018】
実施形態
シアノピリジン類の生産は、主として非水性のクエンチ流体としてピコリンを用いる気体反応生成物のクエンチを伴う。ピコリンクエンチ操作は以下のような構造を取り得る。気体反応生成物はクエンチングシステム内でクエンチ流体と接触させることができる。クエンチングシステムは、ノズルを使ったクエンチング流体の噴霧による気体反応生成物との接触、堰、または流下膜式熱交換器、または噴霧システムを有する別個のチャンバーもしくは塔を含み得る。チャンバーまたは塔は、操作効率を増加させるために、表面積が増大するように充填することができる。
【0019】
気体反応生成物は、約5,000ポンド/時〜約15,000ポンド/時の概算範囲内(約10,850ポンド/時の速度を含む)で、リアクターを出ることができる。主として非水性のクエンチ流体は、約5,000ポンド/時〜約15,000ポンド/時の概算範囲内(約10,000ポンド/時の速度を含む)で供給することができる。気体反応生成物と、主として非水性のクエンチ流体との比は、約1:3〜約3:1の概算範囲内(約1:1を含む)にあることができる。
【0020】
ある実施形態では、気体反応生成物が、クエンチ操作中に、反応温度から反応生成物の後処理に好都合な温度、例えば70℃でクエンチされる。本実施形態では、気体反応生成物が、主として非水性のクエンチ流体、例えばピコリンを供給する分配器または噴霧システムを有する充填塔に入る。気体反応生成物は、充填塔を出る時および流下膜式冷却器に入る時は、クエンチと共存している。
【0021】
冷却器内で、ピコリンクエンチ流体は気体反応生成物からシアノピリジンを吸収する。気体反応生成物からのシアノピリジンを含むピコリンクエンチ流体は、液相を形成または液相に留まる。その液相は流下膜式冷却器を下って、ノックアウトポット(knock out pot)に集まり得る。液相はクエンチ流体として充填塔に戻すことができる。
【0022】
流下膜式冷却器を出る蒸気もノックアウトポットに入り得る。蒸気は、リアクターに戻る循環ガスとして、パージガスとして、または他のさらなる単離プロセスに進み得る。ピコリンクエンチ流体はピコリン原料を補足することもできる。
【0023】
ピコリンおよびシアノピリジンを含有する液相は充填塔を通過し得る。ピコリンおよびシアノピリジンを含有する液相は、流下膜式冷却器およびノックアウトポット(knockout pot)を通過しきっても、通過しきらなくてもよい。ピコリンクエンチ流体では、水性クエンチで利用されるような有機相抽出(例えばベンゼン)を行う必要性が排除され得る。
【0024】
シアノピリジンは蒸留によってピコリンから分離することができる。シアノピリジン、ピコリン、軽質物および重質物を含有し得る液相を蒸留して、ピコリンおよび軽質物をシアノピリジンおよび重質物から分離することができる。軽質物は、水、ピリジンおよび軽有機物を含み得る。重質物はピリジンカルボキサミド類を含み得る。シアノピリジンおよび重質物を含む部分は、塔、冷却器およびケトル型リボイラーを使ってシアノピリジンを追加単離するために、さらに分離することができる。
【実施例】
【0025】
[実施例1]
空気およびアンモニアの存在下に触媒上で2−ピコリン原料から調製される2−シアノピリジンの調製で生じる気体反応生成物のクエンチをシミュレートするために、バッチ式加水分解を設計した。100mLガラスチューブリアクターに、0.5グラムの2−シアノピリジン、磁気撹拌子、および20mLのアンモニア溶液を、表1に従って加えた。チューブに蓋をして、表1に示す温度で、表1に示す接触時間にわたって加熱した。各間隔後に、チューブリアクターを移動させて水浴で冷却し、チューブの蓋を開けた。溶液2μLのガスクロマトグラフィー試料を採取した後、チューブに再び蓋をして、新たな時間間隔にわたって加熱した。
【0026】
シミュレートした水性クエンチ流体は、未反応のアンモニアを表すアンモニアを含んだ。試料を残存2−シアノピリジンについて分析した。残存2−シアノピリジンの残余を、2−シアノピリジンの、対応するピリジン−2−カルボキサミド(2−ピコリンアミド)への、理論的加水分解とみなす。これらの条件下で、4時間を超える加水分解反応時間は、著しい量のピリジン−2−カルボン酸をもたらす。
【表1】

【0027】
表1は、所望のシアノピリジン生成物が水性クエンチ流体中でピリジンカルボキサミドに加水分解することを証明している。
【0028】
[実施例2]
実施例1のバッチ式加水分解シミュレーションを2−シアノピリジンの2−ピコリン溶液、水およびアンモニアを表2に示す各重量パーセントで含む、主として非水性のクエンチ流体を使って繰り返した。100mLガラスチューブリアクターに、6.25%2−シアノピリジンの2−ピコリン溶液を加えた。これらの条件下で、主として非水性のクエンチ流体を、下記表2に示す温度で、下記表2に示す接触時間にわたって撹拌した。表示の間隔で試料を加水分解副生成物ピリジンカルボキサミドについて分析した。
【表2】

【0029】
2−ピコリン中でクエンチされた2−シアノピリジンは、望ましくないピリジン−2−カルボキサミドへの低い加水分解速度を証明している。
【0030】
実施例1および2は、クエンチ流体の含水量の減少が、より低い加水分解速度につながることを証明している。実施例2は、主として非水性のクエンチ流体が、ピリジンカルボキサミド形成およびピリジンカルボン酸形成を実質的に最小化し、シアノピリジン単離収率を実質的に改善することも証明している。実施例2は、主として非水性のクエンチ流体が、水性クエンチ流体と比較してクエンチ流体は高温でありながらも、加水分解を実質的に最小化することも証明している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シアノピリジンを含む気体反応生成物をクエンチする方法であって、ピコリンを含有する主として非水性のクエンチ流体を供給するステップを含む、方法。
【請求項2】
シアノピリジンが2−シアノピリジン、3−シアノピリジン、4−シアノピリジン、またはその混合物である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
シアノピリジンが2−シアノピリジンである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
ピコリンを含有するクエンチ流体が本質的に非水性である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
ピコリンが2−ピコリンである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
クエンチ流体が水を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
クエンチ流体がシアノピリジンの加水分解を抑制する、請求項1に記載の方法。

【公表番号】特表2010−500369(P2010−500369A)
【公表日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−523964(P2009−523964)
【出願日】平成19年8月7日(2007.8.7)
【国際出願番号】PCT/US2007/075390
【国際公開番号】WO2008/021836
【国際公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【出願人】(501035309)ダウ アグロサイエンシィズ エルエルシー (197)
【Fターム(参考)】