説明

シイタケの高圧散水栽培方法

【課題】散水の1回の作業時間を短縮可能とし、しかもその作業を長時間の間隔を置いて行うことができ、均一で高品質なシイタケを得ることができるシイタケの高圧散水栽培方法を提供する。
【解決手段】培養中の菌床5に菌糸塊が発生した後、菌床5表面が褐色に変わり始まる時期から褐変が終了した時期において、菌床5の表面に散水ノズル2による高圧な噴出水7で、菌床5の表面が黒茶褐色に変わるまで刺激を与え、この作業を中1日置いて子実体の発生まで繰り返し、その菌床5の表面を黒茶褐色に変色させることを繰り返すことによって高品質のシイタケを均一に得られるようにしたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は菌床を用いたシイタケの栽培方法であって、特に高品質のシイタケを得るための栽培方法に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、下記特許文献1に記載のシイタケの人工栽培方法に記載されているように、菌床への散水が菌床の表面に褐色皮膜が形成されるときに菌床の乾燥を防ぐ目的で行われている。
近年では、散水は、優良な商品としてのシイタケを得るため、菌糸が蔓延した後、発芽前の菌床に対して行われるようになってきた。
【0003】
シイタケは、子実体の菌傘が正円で大きく肉厚、菌傘の上面にそれぞれの品種特有の白いリンピが多くあるものが優れた品質であるとされる。
このような高品質の子実体を得るには、菌床全体に褐色の皮膜が形成される(褐変と呼ぶ)と良い結果が得られることが知られている。
また、菌床の表面が褐変すると(a)害菌に対する抵抗力が強くなる。(b)乾燥や気温などの外界環境から直接受ける影響が小さくなる。などのシイタケの栽培にとって有益となることが知られている。
このように栽培に有益な褐変を促進する方法として、従来、後述する如き夏期に行う「夏期カット管理」や、空調栽培で1年中いつでも行う「高温抑制散水管理」などの手法がある。どちらも完熟した菌床であってもシイタケ菌が発生を起こさない程の高い温度と散水とを伴っていることは同じである。そしてこのような栽培方法は、主に菌床の全面栽培においては、初回の発生は何ら処理せずに2番発生までの期間に休養を兼ねて行なわれるのが一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−86610号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記「夏期カット管理」は、25°Cを越える真夏日が1週間続く7月の下旬からの梅雨明け後の時期に実施される。その作業手順は、菌床を入れた袋をカットし、4〜7日間かけて菌床を反転して逆さ置きをし、さらに正転し直し、袋にバンド掛けをして上面に散水及び給水を繰り返してシイタケの子実体を発生させる。このとき行う散水は通常中3時間から4時間の乾燥時間を置いて1日に2回行われる。
上記「高温抑制散水管理」は、培養施設での空調栽培において、温度と日数は品種で異なるが、例えば種菌として北研607号を使用した場合、27°Cで5日から7日間、散水と蒸散を繰り返すことで菌床の表面の皮膜を褐変させる。
このような「夏期カット管理」及び「高温抑制散水管理」は、菌床に作られている原基を高温で消失させることで初回発生の芽数を少なくし集中発生によるシイタケの品質低下を防ぐことにもなる。
【0006】
しかしながら、上記「夏期カット管理」及び「高温抑制散水管理」で行われる散水は、水が重力で菌床に降り注ぐ程度の弱い圧力によるものなので、菌床表面の菌糸への刺激が弱く、褐変も薄茶褐色にはなるが色が薄く、発生する子実体の品質がさほど向上することがなく、また品質にムラがあって、均一で高品質なシイタケが得られるものではなかった。また、散水作業は一日に2回繰り返さなければならず、これを毎日行うことは容易ではなかった。
なお、上記特許文献1に記載の方法では、単に散水を浸水処理と同様に乾燥を防ぐ目的で行うものでしかなく、散水で菌糸に発芽刺激を与えてシイタケの品質の向上を図ろうとするものではない。
【0007】
そこで、本発明は、1回の作業時間を短縮することができ、しかも、その作業を長時間の間隔を置いて行うことができ、且つ、菌傘が正円で大きく肉厚、しかも菌傘の上面に白いリンピが多い高品質のシイタケの子実体が、均一に多く得られるシイタケの高圧散水栽培方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、請求項1記載のシイタケの高圧散水栽培方法にあっては、 培養中の菌床に菌糸塊が発生した後、菌床表面が褐色に変わり始まる時期から褐変が終了した時期において、菌床の表面を黒茶褐色に変え得る圧力を有する水を1日以上の間隔をおいて繰り返し与えることを特徴とする。
【0009】
請求項2に記載の発明にあっては、上記発明において、高圧な噴出水の菌床の表面に対する水圧を10g/cm〜20g/cmとしたことを特徴とする。
【0010】
請求項2に記載の発明にあっては、用いる水の温度を10°C〜60°Cとしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、培養中の菌床に菌糸塊が発生した後からシイタケの子実体が発生するまでに菌床に対して、その表面に高圧な噴出水を与えることで、菌床の表面の色が、従来の方法による褐色に変色する色よりも濃い黒茶褐色に変色させることで、菌傘の上面にリンピを多く持った正円で肉厚の高品質なシイタケの子実体を均一に多く得ることが可能となった。
また、本発明の高圧な噴出水による散水作業は、従来のような乾燥を防止するための散水作業や、上記「夏期カット管理」及び「高温抑制散水管理」における散水作業に較べて、1日の作業時間や回数が大幅に減少し、且つ作業を行う間隔が長時間となったことで、栽培コストの削減や生産性の大幅な向上が可能となった。
【0012】
請求項2に記載の発明では、10g/cm〜20g/cmの水圧を、菌床に対して与えることで、菌床表面を確実に黒茶褐色に変色することが可能となり、且つその作業を極めて短時間で行うことが可能となった。
【0013】
請求項3に記載の発明では、用いる水の温度を10°C〜60°Cとしたことで、60°C以上の高温になることで菌床の皮膜を傷めたために起こる雑菌の繁殖を防ぎ、また10°C以下の低温刺激によって発芽は促進されるのを避けて得たいときに収穫ができるように計画的な管理をすることが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施状態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
シイタケの菌床の培地は、広葉樹チップ、オガコに栄養体および水を加えた原料が使用され、通常は直方体のブロック形状で所定のサイズに形成される。
この菌床は殺菌、冷却後、各品種の適正培養温度帯で適正日数培養を行った後、発生温度帯に移して初回の子実体の発生を得て1回目の収穫が行われる。
【0016】
本発明のシイタケの高圧散水栽培方法は、図1に示すように、上記培養中の菌床5に菌糸塊が発生した後、菌床5表面が褐色に変わり始まる時期から褐変が終了した時期において、菌床5の表面に散水ノズル2による高圧な噴出水7で、菌床5の表面が黒茶褐色に変わるまでの刺激を与え、この刺激を与える作業を1日以上の間隔を置いて繰り返す。
【0017】
このように高圧な噴出水7を与えて菌床の表面を黒茶褐色に変色させと、菌傘の上面にリンピを多く持った正円で肉厚である高品質のシイタケの子実体を均一に多く得ることが可能となる。
【0018】
菌床は、図1に示すように、上部に散水可能な空間が得られる程度の一定の間隔を置いて上下多段に架設した菌床載置棚10に、菌床5を栽培袋6に入れたままで隣の菌床とが一定間隔になるように菌床栽培棚9上に並べて載置する。
また使用する装置は、高圧な噴出水7を菌床5に与えるため、高圧の水を送るホース4の先端にレバー3で操作される高圧散水機1を設け、該高圧散水機1に水の拡散が可能となる散水ノズル2を備えたものを用いる。
【0019】
該散水ノズルは、菌床に対して円形に広がるタイプと線状に細長く広がるタイプが使用できる。この他に一定の面積に一度に散水可能なじょうろのような多くの細かい散水口持つ散水ノズルや、長い管の周囲の一方面に細かく散水口を並べて開口し、一方向に広く散水可能な管状散水ノズルなども菌床に対して一定の水圧で散水可能であるので使用が可能である。
【0020】
また、高圧の噴出水を得るための該高圧散水機1は、例えば、強力な射出水で自動車の表面を洗浄するのに使用される動力噴霧器を使用することもできる。
このほか、菌床に対して一定の水圧の噴出水を得るには、散水ノズルを装着したホース4を水道水に直接接続する方法や、高い位置にある貯水タンクに、散水ノズルを装着したホース4を接続する方法も可能である。
その際、得たい水圧よりも低い水圧しか得られない場合には、ホース4に加圧ポンプを設けて水をさらに高圧にして散水ノズルに送り出す方法も可能である。
【0021】
なお、図1に示す栽培方法は菌床の上面栽培方法であるが、本発明では栽培袋6を用いない全面栽培方法にも適用可能である。
【0022】
高圧な噴出水での散水作業は、図1に示すように、水が高圧に送られるホース4を作業員が左手で持ち、そのホース4の先端に設けた高圧散水機1を右手に持って、該高圧散水機1に設けたレバー3の操作で、前記散水ノズル2から高圧噴射水7を菌床に向けて菌床表面の一方から他方へ表面が黒茶褐色に変色するのを見ながら通過するように放出して行く。
【0023】
従来の一般的な菌床に対して水圧をかけていない散水では、菌床表面が乾燥している場合の散水は、菌床表面が水を弾いてそのまますぐに菌床から水が流れ落ちてしまう。
しかし本発明では、前記高圧散水機1を使用して高圧にした水を菌床のシイタケを発生させたい表面に対して、菌床表面から菌床内に高圧で強制的に水を注入するように散水する。
この散水の目安としては、菌床の表面が黒茶褐色に変色すれば良い。菌床に蔓延した菌糸の表面皮膜が剥がれるほどの強い圧力をかけるのは菌床の培地を破損し、破損箇所からは良好な子実体が発生しなくなるので好ましくない。
【0024】
なお、菌床表面の色は茶褐色であったものが、高圧な噴射水7で菌床に散水すると同時に黒茶褐色の変化するが、この色は見た目、黒に近い茶色となる。
【0025】
この黒茶褐色に色について、菌床表面の色を高圧な噴射水を用いた加圧散水とこれまでの通常散水とがどのように違いがあるかを調べた。その結果が下記表1である。
本発明で言う「黒茶褐色」は、英国王立園芸協会のカラーチャートを使用した場合、下記表1に示すように、ブラウングループ200A及びブラックグループ202A〜203Aで表される色であった。
これに対して、加圧しない散水で得られた色は、グレイブラウングループN199D、 グレイオレンジグループ177A、グレイオレンジグループ165Aであった。
このように色の違いが明らかとなった。
【0026】
【表1】

【0027】
また、加圧散水と通常散水とがどのように菌床表面の違いがあるかを調べた。その結果が下記表2である。
【表2】

【0028】
上記表2の通常散水の場合では菌床表面が樹木様に見えるが、これは菌糸が立ち上がって黄色く毛羽立っているように見える様子を表すものである、
これに対して加圧散水の場合、黒茶褐色に変色した表面は、一部の菌糸の細胞が崩れて、崩れずに立ち上がっている菌糸の間を埋めるように崩れた細胞が水の中に張り付いたように黒っぽく見えている。これを肉眼で目視すると、表面に光の反射による「照り」が見られる。
このように、黒茶褐色に変色した菌床表面は、一般的な褐変の褐色とは明らかな違いが見られた。
【0029】
以上、本発明の黒茶褐色への変色が従来の一般的な褐変とは異なることを説明したが、続けて本発明で行う作業の説明をする。
図1に示すように、上記高圧の噴射水を菌床に向けて放出して表面を黒茶褐色に変色させる作業は、1日以上の間隔を置いて子実体を発生させるまで繰り返し行う。
通常、中1日ほど置いて何度も高圧散水を繰り返すが、乾燥状態によっては中2日置いても良い。その目安は、高圧散水で菌床表面が黒茶褐色に変色後、時間とともに菌床表が薄い色となる。この色の変化は黒茶褐色、茶褐色、褐色、黄土色と順に白さが増す。これは白い菌糸が菌床表面に徐々に蔓延していくために色が変わるのである。
高圧散水前の元の色に戻るの見て、色が元に戻ったら、そのとき、高圧散水で菌床表面をまた黒茶褐色に変色させる。本発明ではこのことの繰り返しを行う。
【0030】
そして、この作業を停止すると初回の子実体が発生し、1回目の収穫が行われることとなる。
その後、2回以降の子実体の発生を得るために、初回と同様に、高圧な噴出水で、菌床の表面を黒茶褐色に変わるまでの刺激を与える作業を、黒茶褐色に変わる前の色に戻る中1日を置いて繰り返す。
そして、この作業を停止すると2回目の子実体が発生し、2回目の収穫が行われることとなる。
【0031】
本発明では、菌床の表面を高圧な散水で黒茶褐色に変えることで、菌傘の上面にリンピを多く持った肉厚で高品質なシイタケの子実体を均一に多く得ることが可能となるが、これは本発明者が実験した結果、何度も上記の如く高品質なシイタケが均一に多く得られたが、その理由については研究中である。
【0032】
(水圧試験1)
菌床に当たる水圧を確認するために水圧測定試験を行った。
その結果が下記表3である。
【0033】
【表3】

【0034】
上記表3を得るに当たって、水圧測定試験に用いた機材は、最大吐出圧力7.5MPaの高圧洗浄機と、水道の蛇口に水道ホース用散水スプレーのノズルを接続して用い、その計測は最大30Kg用と500g用の台ばかり2台を用いた。台は横13cm、縦16cmで面積208cmあった。
噴出する際の水の形状は、直噴から狭い縦に細く任意の広さに拡散幅を設定できるものを用いた。
前記散水ノズル2に送られる高圧な噴出水7の吐出圧力は一定とした。水道水では圧力は一定であり、その水道水も使用して試験をした。
【0035】
また、前記30Kg用の台ばかりの台板上の高さ50cmの離れた位置から直噴したものでは、計測の結果水圧は900gで最大あった。
これを徐々に拡散幅を広げる拡散モードにしていったが、あるところで900gであまり変化なく一定となり、最も広く拡散させたとき700gであった。
表中の水道では、使用した散水ノズル2では、台ばかりの台板から上に50cm離れた位置で測って150gであった。同じく水道圧で、ホースを切って、台ばかりの台板から上に50cm離れた位置で測って40gであった。これらの水道水の場合、水圧が小さいので茶褐色まで褐変したが黒茶褐色にまでにはならなかった。
台ばかりの台板から上に50cm離れた位置で測ったときの150gは台の面積208cmで計算すると0.72g/cmであり、この程度の水圧では好ましくないことが分かった。
【0036】
また、台板上の高さ50cmの離れた位置から900gの水圧であったものを、台ばかりの台板から上に35cm離れた位置に距離を変えて散水すると、水圧が高まり菌床表面は白くなって菌糸が剥離した。
また、同様に、台ばかりの台板から上に40cm離れた位置では菌床表面は白くなって剥離したものもあったので本発明に適するものではない。
【0037】
なお、散水する水を拡散させた場合には、台板上の高さ50cmの離れた位置から900gとなる水圧であったものを、直噴に切り替えて菌床に対して散水すると、菌床表面に穴が開くほどの強い水圧となった。この水圧では、コンクリートの表面当てるとコンクリートに表面が薄く剥がれる程の強さがあった。
【0038】
(水圧試験2)
再度菌床に対する高圧な噴出水の圧力を確認するための別の試験を行った。
その結果が下記表4である。
【0039】
【表4】

【0040】
上記試験に用いた機材は、最大吐出圧力7.5MPaの高圧洗浄機である。計測は最大2Kgの台ばかりを用いた。
噴出する際の水の形状は、一番上の段では直噴のノズルを用い、2段目以下は、縦に細く拡散される2cm幅で長さが22cmに拡散する散水ノズルを用いた。
最上段では、20cm離れた距離でノズルから水を噴射させた。このときの台ばかりの目盛は1.1kgであり、菌床に穴が開き菌床が破壊されるので試験をしなかった。
【0041】
次の距離19cmの場合では目盛は1kgであった。これを、散水面積の44cmで割って計算すると水圧は、22.7g/cmとなる。また、3段目の距離30cmでは目盛は950gであった。これを、散水面積の44cmで割って計算すると水圧は、21.5g/cmとなる。さらに、一番下の距離50cmでは目盛は750gであった。これを、散水面積の44cmで割って計算すると水圧は、17g/cmである。
【0042】
このことから、最大21.5g/cmとなるが、菌床の固体のばらつきも考慮して2g/cmが最大であると結論づけた。
また、この実験では水圧は最小17g/cmまで調べ、正常に黒茶褐色に変色した。
なお、別に水道水の実験から10g/cm以下の水圧でも時間をかければ黒茶褐色に変色するが、時間がかり過ぎるので効率上好ましくないことから、本発明の下限を10g/cmまでとした。
また上記水圧試験において水圧が0.72g/cmでは黒茶褐色にまで変色しないので使用できない。
【0043】
(散水時間試験)
次に、散水時間についての試験を行った。
この試験では、菌床の上面が横12cm縦20cmであるので、20cmを一方端から最後端まで均一に散水したときの時間をストップウオッチで計測した。
試験に用いた機材は、最大吐出圧力7.5MPaの高圧洗浄機である。
この試験の結果が下記表5である。
【0044】
【表5】

【0045】
最初は3.6秒とゆっくり散水した。それでも色が黒褐色で正常に変わった。徐々に早く行ったが0.5秒でも変わった。
この試験では、最下段の0.5秒では、1cm当たりでは0.025秒という極めて短時間に刺激となる。
このため、本発明の方法では短時間で効率良く作業を行うことが可能となる。
【0046】
次に、本発明のシイタケの高圧散水栽培方法を以下の実施例で詳しく説明する。
前記高圧散水機1を水道の蛇口に直結させて前記散水ノズル2から高圧の噴射水7が得られるようにした。使用した地下水の温度は17°Cであった。
そして前記高圧噴射水7の散水作業は、図1に示すように、作業員が手で持って菌床から一定の距離を保ちながら高圧散水した。
【0047】
水圧は12g/cmとし、1個の上面の横が12cm縦が20cmの菌床に対して2秒与えた。このとき、菌床表面の皮膜を黒茶褐色に変色するまで目視しつつ水圧を加えた。
この作業は、培養中の菌床5に菌糸塊が発生した後に、1日1回行い、毎回菌床5の上面から菌床5の表面の皮膜が黒茶色に変色するまで行った。
そして、この作業を中一日置いて繰り返し、3ヶ月でその高圧散水作業を停止し発芽を開始させた。
【0048】
通常の水圧をかけない散水では、菌床は半日程で乾燥するので、1日に2回の散水を行うことが今までの常識とされていた。
しかし本発明では高い水圧で散水することで、乾燥に2日かかるようになり、この結果中1日の長時間置いての作業が可能となった。菌床を浸水させて、単に内部に十分水が含まれる状態となった場合でも、1日程度で乾燥することから、本発明では、黒茶褐色に変色した菌糸が、水を通過させにくくなった皮膜となって黒褐色となっている間は菌床の表面を覆うことで菌床表面からの水の蒸散を防いでいるため長時間水が保たれるためと考えられる。
そして、高圧散水後2日目には菌床は乾燥に伴って菌床表面が薄い茶褐色に戻ることが繰り返されるが、このとき黒茶褐色の皮膜が薄い茶褐色に変わり更に白くなった表面からは速やかに水が蒸散して乾燥が進むものと考えられる。
この皮膜が黒茶褐色のである間は菌床が保水されて散水が必要ないので、その分散水作業が楽になる。
【0049】
また、使用する水の温度は10〜60°Cが好ましく、最適な温度は20°C〜28°Cである。
菌糸は高い温度に弱く60°C以上になると菌床の表面が傷み、その結果雑菌が繁殖してシイタケの菌糸が死滅すことがあるので好ましくない。また、10°C以下になると水による冷温刺激となって子実体の発生を抑えておきたいときに勝手に発生が始まってしまうので好ましくない。
そして、1旦シイタケの発芽が始まると、菌床の上部から子実体が斉一に発生し、発生した子実体の菌傘は肉厚で大きく、菌傘の上面に白いリンピが多く見られる高品質なシイタケが多く得られた。
【0050】
なお、本発明では菌床の上部から子実体を得る栽培に使用される菌床を入れる容器は合成樹脂製の袋容器、ビン及び箱などがありいずれでも使用が可能である。
【0051】
また、一度収穫が終わって培養完了後の2回目の発生でも、菌床の上部に前記高圧噴射水7の散水することで再度高品質のシイタケが得られる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は高圧噴射水を菌床に与えるシイタケの栽培方法であるが、他の品種のきのこであっても、高圧噴射水が発芽刺激として有効であれば利用できる可能性がある。
【符号の説明】
【0053】
1 高圧散水機
2 散水ノズル
3 レバー
4 ホース
5 菌床
6 栽培袋
7 高圧な噴出水
8 黒茶褐色となった菌床
9 菌床栽培棚
10 菌床載置棚

【特許請求の範囲】
【請求項1】
培養中の菌床に菌糸塊が発生した後、菌床表面が褐色に変わり始まる時期から褐変が終了した時期において、菌床の表面を黒茶褐色に変え得る圧力を有する水を1日以上の間隔をおいて繰り返し与えることを特徴とするシイタケの高圧散水栽培方法。
【請求項2】
請求項1に記載の発明において、高圧な噴出水の菌床の表面に対する水圧を10〜20g/cmとしたことを特徴とするシイタケの高圧散水栽培方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の発明において、用いる水の温度を10〜60°Cとしたことを特徴とするシイタケの高圧散水栽培方法。

【図1】
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【公開番号】特開2013−13358(P2013−13358A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−147803(P2011−147803)
【出願日】平成23年7月2日(2011.7.2)
【出願人】(000242024)株式会社北研 (17)
【Fターム(参考)】