説明

シェルターの建設方法

【課題】資材の建設現場への搬入から完成に至るまでの工期が短く、しかも施工が容易で工費の安価なシェルターの建設方法を提供する。
【解決手段】シェルター7の建設方法は、壁1の屋内側の壁面に相当する位置に、通気孔を有する通気パネル29を起立させる手順と、通気パネル29の屋外側に、壁1に埋設される鉄筋35を配置する手順と、壁1の屋外側の壁面を画定するコンクリートパネル37を、通気パネル29に対面する姿勢で設置する手順と、通気パネル29とコンクリートパネル37との間に、壁1を形成するコンクリートを打設する手順と、コンクリートが硬化した後にコンクリートパネル37をコンクリートから離脱する手順とを含むものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、災害時の避難スペースを確保し、また生活用品又は食料等の保管もできるシェルターの建設方法に関する。
【背景技術】
【0002】
震災に備えた頑丈な避難室を建設しておけば、地震が発生したとき、被災者は、その避難室に退避することで、倒壊する家屋の下敷きになるのを免れることができる。しかしながら、避難室を建設しても役立つ蓋然性は極めて低いと考えられている。このため、避難室の建設に伴う大掛りな工事と多額の出費が敬遠され、避難室の建設は殆ど行われていないのが実情である。また、自宅付近で土砂崩れ等が起こり、直ちに自宅を離れなければならない場合、自宅から持ち出せる生活物資の数量には限度がある。このため、生活物資の多くが自宅に置き去りになるという問題がある。
【0003】
コンクリートの型枠としてコンクリートパネル、又はパンチングメタルを利用する技術は、下記の特許文献に開示されている。
【特許文献1】特願2000−30913号公報
【特許文献2】特願2004−60301号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的とするところは、資材の建設現場への搬入から完成に至るまでの工期が短く、しかも施工が容易で工費の安価なシェルターの建設方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は上記目的を達成するため、鉄筋コンクリートの壁、天井、及び床を有するシェルターの建設方法であって、前記壁の屋内側の壁面に相当する位置に、通気孔を有する通気パネルを起立させる手順と、前記通気パネルの屋外側に、前記壁に埋設される鉄筋を配置する手順と、前記壁の屋外側の壁面を画定するコンクリートパネルを、前記通気パネルに対面する姿勢で設置する手順と、前記通気パネルと前記コンクリートパネルとの間に、前記壁を形成するコンクリートを打設する手順と、前記コンクリートパネルを前記コンクリートから離脱する手順とを含むことを特徴とする。
【0006】
また、本発明は、前記通気パネルが、前記通気孔を前記コンクリートで塞がれるパンチングメタルであることを特徴とする。
【0007】
また、本発明は、前記天井の下面に相当する位置に、デッキプレートを設置する手順と、前記デッキプレートの上方に、前記天井に埋設される鉄筋を配置する手順と、前記天井を形成するコンクリートを、前記デッキプレートに受止めさせる手順とを含むことを特徴とする。
【0008】
また、本発明は、側部、上部、及び底部がそれぞれ開放した形状に鉄骨を枠組みする手順と、前記鉄骨の側部を前記通気パネルで塞ぐ手順と、前記鉄骨の上部を前記デッキプレートで塞ぐ手順と、前記床に埋設される鉄筋を前記鉄骨の底部に配置する手順とを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係るシェルターの建設方法によれば、通気パネルとコンクリートパネルとの間に、壁を形成するためのコンクリートを打設し、このコンクリートが硬化するのを待って、コンクリートパネルをコンクリートから離脱させれば、壁を完成させることができる。更に、デッキプレートに、天井を形成するためのコンクリートを受止めさせ、このコンクリートが硬化するのを待って天井を完成させることができる。
【0010】
従って、本発明に係るシェルターの建設方法によれば、シェルターの建設を容易に行うことができ、しかもシェルターの工費を安価に抑えることができる。また、以上の手順に基づき建設されるシェルターは、鉄筋コンクリートの壁、天井、及び床を有するので、その内部に生活用品又は食料等を保管することができる。しかも、シェルターは、生活用品又は食料等を風雨や気温の変化による影響から守ることに加え、これらの不当な持出しを予防するのに有効である。
【0011】
また、鉄骨を側部、上部、及び底部がそれぞれ開放した形状になるよう枠組みする手順、壁の屋内側の壁面に相当する位置に通気パネルを起立させる手順、天井の下面に相当する位置にデッキプレートを設置する手順、更に通気パネルの屋外側に壁の鉄筋を配置し、デッキプレートの上方に天井の鉄筋を配置し、鉄骨の底部に床の鉄筋を配置する手順は、必ずしも建設現場で行わなくても良い。
【0012】
以上の手順を工場等で終わらせた後、通気パネル、コンクリートパネル、及び壁の鉄筋を、上記の鉄骨と共に建設現場へ搬入することができる。例えば、シェルターの基礎を建設現場に造作する場合、この基礎が完成するまでの期間、シェルターの資材を建設現場に持ち込まないで済むという利点がある。続いて、シェルターの基礎上に鉄骨を位置決めし、鉄骨の底部にコンクリートを打設すれば、このコンクリートが硬化するのを待って床を完成させることができる。
【0013】
また、通気パネルが、パンチングメタルである場合、その通気孔によってコンクリートの水分の蒸発が促されるので、コンクリートの硬化が早まり、シェルターの工期が最小限に短縮される。通気孔の口径は、硬化する前のコンクリートによって塞がれる程度の大きさであるため、コンクリートは通気孔から漏れることなく、通気パネルとコンクリートパネルとに挟まれた領域で壁を形成することができる。また、例えば断熱材等を内装材としてシェルターに設ける場合、パンチングメタルを下地材として、これに内装材を接合できるという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図1は、鉄筋コンクリートの壁1、天井3、及び床5を備えるシェルター7を示している。シェルター7の建設方法について以下に述べる。特に断らない限り、以下に記す「接合」は、溶接、建設用金物による固定、又はボルト等を用いた締付けにより成されるものとし、その詳細な説明は省略する。
【0015】
先ず、図2に示すように、側部9、上部11、及び底部13がそれぞれ開放した鉄骨15を準備する。鉄骨15は、方形に枠組したH形鋼17のフランジ19の上面に、複数本の鋼製の四角柱21を立ち上げ、これらの四角柱21のそれぞれの上端に、鋼製の横架材23を掛け渡したものである。後述の挿通孔25、及び挿入孔27がH形鋼17に穿孔されている。
【0016】
図3に示すように、複数の通気パネル29を起立させ、これらの通気パネル29で鉄骨15の側部9を塞いだ状態で、個々の通気パネル29を鉄骨15に接合する。これにより、個々の通気パネル29は、図1に示す壁1の屋内側の壁面に相当する位置で鉄骨15に固定される。鉄骨15の側部9に扉を設けるための扉枠を接合する場合、この扉枠の内側を塞がないよう通気パネル29を配置する。通気パネル29として、多数の通気孔31を有するパンチングメタルを適用することが好ましい。
【0017】
図4に示すように、波形の鋼板であるデッキプレート33を水平な姿勢にする。デッキプレート33で鉄骨15の上部11を塞いだ状態で、デッキプレート33を鉄骨15に接合する。これにより、デッキプレート33は、図1に示す天井3の下面に相当する位置で鉄骨15に支持される。
【0018】
図5に示すように、通気パネル29の屋外側、デッキプレート33の上方、及び鉄骨15の底部13に鉄筋35を配置する。鉄筋35は1本の連続した形態として図示されているが、実際には複数本の鉄筋35が格子状に組まれる。また、鉄骨15の底部13に配置される鉄筋35は、H形鋼17の適所に多数形成された挿通孔25に挿通される。
【0019】
続いて、通気パネル29の屋外側にコンクリートパネル37を設置する。即ち、コンクリートパネル37は、図1に示す壁1の屋外側の壁面を画定するための型枠用合板である。コンクリートパネル37を建設用金物39で貫き、建設用金物39を通気パネル29に接合する。これにより、コンクリートパネル37は通気パネル29に対面した姿勢で建設用金物39によって保持される。コンクリートパネル37として、耐水ラワンベニヤ等を適用しても良い。
【0020】
以上の手順は必ずしも建設現場で行わなくても良く、これらの手順を工場等で終わらせた後、鉄骨15と共に通気パネル29、鉄筋35、及びコンクリートパネル37を建設現場に搬入しても良い。
【0021】
一方、図6に示すように、シェルター7の基礎41を建設現場に造作する。この造作が行われる期間、シェルター7の資材である鉄骨15、通気パネル29、鉄筋35、及びコンクリートパネル37を建設現場に持ち込まなくて良い。鉄骨15は、鉄筋35を所望に位置決めし、上記の壁面に相当する位置に通気パネル29を位置決めし、かつ、上記の下面に相当する位置にデッキプレート33を位置決めする治具としての役割を果たす。このため、シェルター7の資材は、図5に示すように鉄骨15に接合された状態で運搬車の荷台に載せられるので、これらを分解することなく輸送することができる。
【0022】
シェルター7の資材が工場等から建設現場に搬入されたところで、基礎41の上面に鉄骨15を位置決めする。この手順は、図6に示すように、アンカーボルト43を基礎41から予め突出させておき、H形鋼17の挿入孔27にアンカーボルト43を挿入させることにより行える。アンカーボルト43には、鉄骨15を基礎41に固定するためのナット45が締付けられる。
【0023】
続いて、方形に枠組したH形鋼17の内側にコンクリートを打設し、更に通気パネル29とコンクリートパネル37とに挟まれた領域にコンクリートを打設する。この領域がコンクリートで満たされた後、デッキプレート33の上にもコンクリートを供給し、デッキプレート33にコンクリートを受止めさせる。総てのコンクリートが硬化するのを待って、コンクリートパネル37をコンクリートから離脱させる。この時点で、図1に示すように、シェルター7の壁1、天井3、及び床5が完成する。また、壁1のコンクリートは通気パネル29に接着する。
【0024】
上記の領域に打設されたコンクリートの水分は、通気パネル29の通気孔31によって蒸発が促されるので、コンクリートの硬化が早まり、シェルター7の工期が最小限に短縮される。また、打設された直後のコンクリートが通気孔31から漏れることはない。これは、通気孔31の口径が約4mm以下に設定されており、硬化する前のコンクリートによって通気孔31が目詰まりすることによる。また、断熱材から成る内装材47をシェルター7に設ける場合、壁1(コンクリート)に接着した通気パネル29を下地材として、これに内装材47を接合できるという利点がある。符号49は床材を指している。
【0025】
以上に述べた建設方法によれば、シェルター7の建設を短期間で容易に行うことができ、しかもシェルター7の工費を安価に抑えることができる。また、シェルター7は、鉄筋コンクリートの壁1、天井3、及び床5を有するので、その内部に生活用品、又は食料等を保管することができる。しかも、シェルター7は、風雨や気温の変化による影響から生活用品、又は食料等を守ることに加え、これらの不当な持出しを予防するのに有効である。
【0026】
尚、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で当業者の知識に基づいて種々なる改良、修正、又は変形を加えた態様でも実施できる。例えば、通気パネル29としてエキスパンデッドメタルを適用しても良い。また、シェルター7の適所に窓、換気口、又は電気配線を設けても良い。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施形態に係るシェルターの建設方法に基づき建設されたシェルターの断面図。
【図2】本発明の実施形態に係るシェルターの建設方法で適用した鉄骨を示す破断斜視図。
【図3】本発明の実施形態に係るシェルターの建設方法の第1の手順を示す斜視図。
【図4】本発明の実施形態に係るシェルターの建設方法の第2の手順を示す断面図。
【図5】本発明の実施形態に係るシェルターの建設方法の第3の手順を示す断面図。
【図6】本発明の実施形態に係るシェルターの建設方法の第4の手順を示す断面図。
【符号の説明】
【0028】
1…壁、3…天井、5…床、7…シェルター、9…側部、11…上部、13…底部、15…鉄骨、29…通気パネル、31…通気孔、33…デッキプレート、35…鉄筋、37…コンクリートパネル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄筋コンクリートの壁、天井、及び床を有するシェルターの建設方法であって、
前記壁の屋内側の壁面に相当する位置に、通気孔を有する通気パネルを起立させる手順と、
前記通気パネルの屋外側に、前記壁に埋設される鉄筋を配置する手順と、
前記壁の屋外側の壁面を画定するコンクリートパネルを、前記通気パネルに対面する姿勢で設置する手順と、
前記通気パネルと前記コンクリートパネルとの間に、前記壁を形成するコンクリートを打設する手順と、
前記コンクリートパネルを前記コンクリートから離脱する手順とを含むことを特徴とするシェルターの建設方法。
【請求項2】
前記通気パネルが、前記通気孔を前記コンクリートで塞がれるパンチングメタルであることを特徴とする請求項1に記載のシェルターの建設方法。
【請求項3】
前記天井の下面に相当する位置に、デッキプレートを設置する手順と、
前記デッキプレートの上方に、前記天井に埋設される鉄筋を配置する手順と、
前記天井を形成するコンクリートを、前記デッキプレートに受止めさせる手順とを含むことを特徴とする請求項1又は2に記載のシェルターの建設方法。
【請求項4】
側部、上部、及び底部がそれぞれ開放した形状に鉄骨を枠組みする手順と、前記鉄骨の側部を前記通気パネルで塞ぐ手順と、前記鉄骨の上部を前記デッキプレートで塞ぐ手順と、前記床に埋設される鉄筋を前記鉄骨の底部に配置する手順とを含むことを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載のシェルターの建設方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−127041(P2010−127041A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−304536(P2008−304536)
【出願日】平成20年11月28日(2008.11.28)
【出願人】(508353499)株式会社タイシン技建フクダ (1)
【Fターム(参考)】