説明

シェンケル型直流高圧電源

【課題】
シェンケル型直流高圧電源において、出力電圧のリップルを規定値の範囲内に収めるために、高電圧ターミナル5と電源タンク1内壁の間に生ずる平滑コンデンサーとして働く浮遊容量9を大きくしようとすると、高電圧ターミナル5を大きくせねばならず、このため電源全体が大型化してしまっていた。
【解決手段】
高電圧ターミナル5と電源タンク1内壁の間に、大地電位に接続された可動電極10を設け、これを出力電圧に対応する絶縁距離まで高電圧ターミナルに近づけることによって、平滑コンデンサーとして働く浮遊容量9を大きくする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電子線加速器あるいはイオン加速器のような粒子線加速器の加速電源などに用いられる直流高圧電源、特にシェンケル型直流高圧電源に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図1は従来から用いられてきたシェンケル形直流高圧電源の構成図である。
【0003】
図1に示すとおり、電源タンク1の内部に複数個の整流器6が同じ方向に直列接続され、これらの整流器6の個々の結節点に相当する箇所に複数段のシールド電極4が接続されている。これら複数段のシールド電極4に対向するように一組の高周波電極3が設けられ、この一組の高周波電極3には高周波入力電源2から高周波電力が供給される。
【0004】
最上段となる整流器6の高電圧出力端には高電圧ターミナル5が接続され、最下段となる整流器6は接地電流計7を介して大地に接続されている。
【0005】
高電圧ターミナル5と大地電位である電源タンク1の間には平滑コンデンサーとして働く浮遊容量CHV9が生じ、および個々のシールド電極4と高周波電極3との間には浮遊容量CSE8が生じる。これらの浮遊容量CSE8と浮遊容量CHV9と整流器6が昇圧回路を構成し、高周波入力電源2より高周波電力が供給されると、高電圧ターミナル5に高電圧が発生することになる。図1における整流器6の接続された向きにより、図1中の高電圧ターミナル5は負の高電圧となり、図1のシェンケル型直流高圧電源は負の高電圧電源として働く。もし、整流器6を全て逆向きに接続すれば、正の高電圧電源となる。
【特許文献1】特開平3−103073(第1図)
【特許文献2】実開平7−3294(第1図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような直流高圧電源を設計するにあたっては、前もって決められた最大出力電圧から、電源タンク1とその内部に収納する機器の間の絶縁距離を決定し、出力する電圧のリップル含有率が規定値(普通1%)の範囲内に収まるように、最大出力電流に基づいて平滑コンデンサーとして働く浮遊容量CHV9が決定されている。言うまでもなく、リップル含有率が大きいことは直流高圧電源として望ましくない。
【0007】
例として、例えば最大出力電圧1000kV発生時の出力電流が100mAであった場合(即ち100kW出力の場合)、絶縁距離は最大出力電圧の1000kVから決定する必要があるが、平滑コンデンサーとなる浮遊容量CHV9はこのときの出力電流100mAから決定することが出来ない。
【0008】
なぜならば、このような直流高圧電源は、最大出力電圧以下の電圧で運転されることも普通であり、例えば500kVで運転する際には最大電流は200mAとなるので、絶縁距離は最大出力電圧1000kVから決定し、平滑コンデンサーとなる浮遊容量CHV9は500kVで運転する際の200mAから決定しなくてはならないことになる。
【0009】
ところで、出力電圧のリップルを小さくするためには、平滑コンデンサーとなる浮遊容量CHV9を増大させる必要があり、これを達成するためには電源タンク1内の気体の誘電率を上げるか、高電圧ターミナル5とこれに対向する電源タンク1の内壁(図1では天井部)との間の距離を縮めるか、又は、高電圧ターミナル5の電源タンク1内壁に対向する部分の面積を増大させる必要がある。
【0010】
しかし、電源タンク1内気体の誘電率は使用する気体(例えば、空気、窒素、二酸化炭
素、あるいは六フッ化硫黄、あるいはこれらの混合気体)によって決定され、また、最大
出力電圧発生時の絶縁距離を確保する必要性から、高電圧ターミナル5とこれに対向する
電源タンク1の内壁(図1では天井部)との間の距離をむやみに縮めることも出来ない。
【0011】
従って、従来から、高電圧ターミナル5の電源タンク1内壁に対向する部分の面積を調整することで、浮遊容量CHV9を所定の大きさにすることが行われてきた。つまり、このやり方では高電圧ターミナル5の寸法を、電圧のリップル含有率が規定値に収まるような大きさにしなくてはならない。その結果、電源の機械的寸法の増大を招き、さらに、この電源を使用する装置全体が大型化してしまうという問題が生じていた。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、高電圧ターミナルと、電源タンク内壁との間に、大地電位に接続された可動電極を設けたことを課題解決の手段とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によるシェンケル型直流高圧電源は、電源タンクの内壁と、高電圧出力端に接続された高電圧ターミナルとの間に、大地電位に接続された可動電極を設けているので、出力電圧に応じて高電圧ターミナルと可動電極との距離を、出力電圧で許容される絶縁距離まで近づけることにより、平滑コンデンサーとして働く浮遊容量をそれだけ大きく採ることが出来る。これによって、その出力電圧におけるリップルを小さくすることが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明に係るシェンケル型直流高圧電源の実施例について、図2と図3を参照しながら説明する。
【実施例】
【0015】
図2は本発明に係るシェンケル型直流高圧電源の構成図である。図2において、図1と同じ構成要素には同じ名称と番号を付与している。従来例の図1との相違点は、高電圧ターミナル5の上部、電源タンク1との間に、大地電位に接続され、しかも電極昇降機構11によって昇降する可動電極10を設けたことである。この電極昇降機構11を稼動させることによって、可動電極10と高電圧ターミナル5との距離を可変とすることができる。これにより、可動電極10と高電圧ターミナル5との距離を出力電圧によって許容される絶縁距離まで近づけることによって、浮遊容量CHV9をそれだけ大きくすることが出来る。高電圧を発生する機構については図1記載の従来例と同じであるので省略する。
【0016】
本発明に係るシェンケル型直流高圧電源が、リップル含有率を規定値の範囲内に収めるために、どのように動作するかについて、以下、図2と図3を用いて説明する。
【0017】
例えば、本発明に係るシェンケル型直流高圧電源の電圧定格範囲が500kVから1000kVであり、出力が100Wである場合について説明する。この場合、1000kV出力時には出力電流は100mA、500kV出力時には200mAとなる。
【0018】
1000kVの最大電圧発生時には、可動電極10を高電圧ターミナル5から、この電圧に対応する絶縁距離だけ離すことによって絶縁耐圧を確保する。このときには可動電極10は最も上に位置し、高電圧ターミナル5との距離は最大となっている。この状態では電流値が100mAであるから、この電流に対して、出力電圧のリップル含有率が規定値の範囲内に収まる大きさに浮遊容量CHV9、即ち、電源タンク1と高電圧ターミナル5の寸法が決定される。
【0019】
上記の状態のまま、500kV出力にて200mAの電流を発生させた場合、電圧のリップル含有率は規定値の範囲を超えてしまう。このとき、可動電極10を下げることによって、高電圧ターミナル5との距離を縮めると、平滑コンデンサーとして働く浮遊容量CHV9の大きさを大きくすることが出来、その結果、リップル含有率を規定値の範囲内に収めることが出来る。
【0020】
もう少し定量的な説明をすると以下の通りである。簡単のため、高電圧ターミナル5と可動電極10の間に生じる浮遊容量CHV9は、高電圧ターミナル5と可動電極10が形成するほぼ平行平板からなるコンデンサーのそれであると見なす。ここで、1000kV出力時の可動電極10の位置(即ち最も上の位置)に対応して可動電極10と高電圧ターミナル5の間に生じる浮遊容量CHV9をCHV[U]、500kV時に対応した(即ち最も低い)可動電極10の位置に対応したCHV9をCHV[L]と書くことにする。1000kV出力時の可動電極10と高電圧ターミナル5の距離は、500kV出力時の二倍程度であるから、2CHV[U]=CHV[L]が成立する。
【0021】
さて、図2中の最終段(図2中では一番上)の整流器6と、浮遊容量CHV9によって構成される半波整流回路を考える。Eを出力電圧(単位:V)、Eをリップル(単位:V)、Iを出力電流(単位:A)とすると、抵抗RLは、RL=E/I(単位:Ω)、リップル含有率は、E/E(単位:%)で表される。
【0022】
以上に基づくと、1000kVの最大出力電流時にRL=[1000(kV)/100(mA)]=10MΩ、500kVの最大出力電流時にRL=[500(kV)/200(mA)]=2.5MΩとなる。ここで、浮遊容量CHV9(単位:F)が、上記のCHV[U]とCHV[L]の大きさの場合について、RLを横軸、E/Eを横軸に採って、両対数グラフ上に、CHV[U]の場合とCHV[L]の場合について、RLとE/Eの関係を書けば図3のようになる。リップル含有率E/Eの規定値は1%であるので1000kV出力時については、図3中のB点で本発明に係るシェンケル型直流高圧電源の状態が表される。このとき、可動電極10の位置をそのままにして500kV出力の状態へと移行すると、RLとE/Eの関係は、図3中の矢印bの方向へ移行する。つまりリップル含有率E/Eが規定値の1%を超えてしまう。
【0023】
しかし、ここで可動電極10を下げてやって、最も低い位置にして浮遊容量CHV9を大きくし、CHV[L](即ち2CHV[U])にすると、シェンケル型直流電源装置のRLとE/Eの関係は、図3中の矢印aの方向へ移行し、点Aの状態になる。即ち、本発明に係るシェンケル型直流電源装置の状態は点Bから点Aの状態へと移行したことになり、リップル含有率E/Eを規定値1%に収めることが出来たことが判る。これは、シェンケル型直流電源装置を大型化することなく、平滑コンデンサーとして働く浮遊容量CHV9を増大させることで、リップル含有率E/Eを規定値へと抑制できたことを意味する。
【0024】
以上、本発明の実施例を説明したが、本発明は実施例に限られるものではない。本発明に用いる直流高電圧発生用の昇圧回路としては、図1と図2記載の回路の他に、特許文献2に記載のような所謂、バランス形として知られているシェンケル形の昇圧回路を用いても良い。本発明においては、可動電極10を上下させるための電極昇降機構11は大地側に設けられているので、種々の機械装置を用いることが出来、特段の工夫を要しない。また、本発明においては、電源装置は高電圧ターミナル5が上部に位置する構成を採っているが、電源装置全体が横になった構成とし、高電圧ターミナル5を横部に設ける構成を採ることも出来る。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】従来から用いられてきたシェンケル型直流高圧電源装置の構成図である。
【図2】本発明に係るシェンケル型直流高圧電源装置の構成図である。
【図3】二種の浮遊容量CHVについて、リップル含有率と抵抗の関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0026】
1.電源タンク
2.高周波入力電源
3.高周波電極
4.シールド電極
5.高電圧ターミナル
6.整流器
7.接地電流計
8.浮遊容量CSE
9.浮遊容量CHV
10.可動電極
11.電極昇降機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高電圧ターミナルと、電源タンク内壁との間に、大地電位に接続された可動電極を設けたことを特徴とするシェンケル型直流高圧電源。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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