説明

シクロデキストリンのデオキシポドフィロトキシン包接錯体、その調製法、および癌治療への使用

シクロデキストリンのデオキシポドフィロトキシン包接錯体、その調製法、および癌治療への使用を開示する。包接錯体はデオキシポドフィロトキシンおよびβ-シクロデキストリン誘導体から成り、デオキシポドフィロトキシン対β-シクロデキストリン誘導体のモル比は1:1〜1:10である。β-シクロデキストリン誘導体は、スルホブチルエーテルβ-シクロデキストリンまたはヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は製剤分野、特に、シクロデキストリンのデオキシポドフィロトキシン包接錯体、その調製法、および癌治療への使用に関する。
【背景技術】
【0002】
デオキシポドフィロトキシン(DPT)は漢方薬のSinopodophyllum emodi(モモイロミヤオソウ)から抽出し精製された組成物である。1990年代にDPTのP-388白血病、ヒトの肺癌A-549、結腸癌HT-29の細胞株に対するin vitroでの抑制効果が既に報告されている(下記非特許文献1参照)が、この研究はそれらのin vitro活性についての実験のみに焦点を当てるものである。
【0003】
in vivo活性についての試験は10年以上報告されていないが、その理由としては、この化合物が非水溶性であり、静脈内投与用に製剤しづらいことに主に起因していると見られる。1970年代に、よく知られているエトポシドおよびテニポシドが臨床診療に応用されている、ポドフィロトキシンの4位にあるヒドロキシル基を使用して一連のグリコシド誘導体が合成された。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Arch Pharm(Weinheim).1994 Mar;327(3):157〜9.Planta Med.1993 Jun;59(3):246〜9)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ヒドロキシル基はDPTの4位には存在しない。したがって、DPTをグリコシド誘導体の製剤に使用できない。DPT製剤投与法をどのように使用して動物でのin vivo抗癌活性を検証し、また、臨床治療に応用するかが、科学者達にとって重要なプロジェクトとなった。
【0006】
本発明の目的は、in vivoおよびin vitro実験を動物を用いて実施し、さらには異なる種類の癌治療の薬物を開発するための水溶性のデオキシポドフィロトキシン(DPT)製剤を提供することである。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】図1は(a)DPT、(b)SBE-β-CD、および(c)その包接錯体のX線粉末回折スペクトルである。
【0008】
【図2】図2は(a)DPT、(b)SBE-β-CD、および(c)その包接錯体の示差走査熱量測定を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
水中でのDPTの溶解度は約0.5mg/Lであり、ほぼ不溶性である。本発明によれば、DPTをβ-シクロデキストリン(β-CD)誘導体に包接させることで、比較的良好な水溶解度のDPT包接錯体を調製することができる。
【0010】
実験によって、DPT包接錯体の調製中に、β-CDの親水性誘導体であるヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン(HP-β-CD)およびそのイオン誘導体であるスルホブチルエーテルβ-シクロデキストリン(SBE-β-CD)を用いて調製された包接錯体の包接能は、他のβ-CD誘導体による包接錯体よりも有意に良好であり、得られた包接錯体が非常に高い水溶解度を有しており、動物で実施するin vivo抗癌活性試験の実施要件を満たすことが出来ることが示された。
【0011】
本発明においては、デオキシポドフィロトキシン対β-シクロデキストリン誘導体の好ましいモル比は1:1〜1:10であり、本発明の以下に記載されるβ-シクロデキストリン誘導体はスルホブチルエーテルβ-シクロデキストリンまたはヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンである。
【0012】
実験によって、包接錯体中のβ-シクロデキストリン対DPTのモル比の違いにより、DPTの溶解度が異なってくることが判明した。異なる条件下でHP-β-CDとDPTの包接錯体を調製し、包接錯体中のDPT濃度を紫外分光光度法で測定し、続いて、包接錯体中のDPT対HP-β-CDの組成物のモル比を求め、中国薬局方(中国▲薬▼典;Chinese Pharmacopeia)2005年版の凡例に規定された方法に基づいて包接錯体の水溶解度を測定し、この包接錯体におけるDPTの溶解度の計算を行った。実験結果を表1に示す。
【0013】
【表1】

【0014】
表1によって、包接錯体中のHP-β-CD比率が増大するに従って、DPTの溶解度が上昇することがわかる。包接錯体中のHP-β-CD対DPTのモル比が2.24:1のとき、DPTの溶解度が597mg/Lに上昇するのでin vivo薬力学的試験の実施要件を満たす。
【0015】
一方、包接錯体中のHP-β-CD対DPTのモル比が6.35:1より高くなると、DPTの溶解度は上昇するが相対的な上昇度が緩やかになり、より重要なこととして、反応溶液においてHP-β-CDが非常に高濃度なので反応システム中で非常に高粘性となり、濾過、濃縮、乾燥等のプロセスが困難で操作性が悪くなる。したがって、包接錯体の調製のためにDPTとHP-β-CDを使用する場合は、DPT対HP-β-CDのモル比は1:2.24〜1:6.35であることが好ましい。
【0016】
同様に、SBE-β-CDをDPTの包接のために選択する場合は、表2に示されるように包接錯体中のSBE-β-CD対DPTのモル比が異なる場合、DPTの溶解度は異なる値を示す。
【0017】
【表2】

【0018】
表2によって、包接錯体のSBE-β-CD比率が増大するに従って、DPTの溶解度が上昇することがわかる。包接錯体中のSBE-β-CD対DPTのモル比が1.00:1のとき、DPTの溶解度が615mg/Lに上昇するのでin vivo薬力学的試験の実施要件を満たすことが出来る。
【0019】
包接錯体中のSBE-β-CD対DPTのモル比が8.06より高くなると、DPTの溶解度は上昇するが相対的な上昇度が緩やかになり、より重要なことは、反応溶液の粘性が非常に高くなり、濾過、濃縮、乾燥等のプロセスが困難で操作性が悪くなる。したがって、包接錯体の調製のためにDPTとHP-β-CDを使用する場合は、DPT対SBE-β-CDのモル比は1:1.00〜1:8.06であることが好ましい。
【0020】
表1と表2を比較してみると、SBE-β-CDのDPT可溶化能はHP-β-CDよりも高いことがわかる。したがって、SBE-β-CDとDPTの包接錯体をin vivoおよびin vitro抗癌活性試験に選択する。
【0021】
本発明における包接錯体の調製方法は以下のとおりである。すなわち、β-CD誘導体の水溶液を調製した後、保温状態で撹拌または破砕を行い、次いで、DPTをエタノール、アセトン、メタノール等の有機溶媒に溶かした後、β-シクロデキストリン誘導体の水溶液に滴下し、その後保温状態での撹拌または破砕を継続して、乾燥させることで包接錯体を得る。
【0022】
また、本発明における包接錯体の調製方法においては、好ましくは、β-CD誘導体で調製された水溶液の濃度が30〜40%W/Vである。
【0023】
また、本発明における包接錯体の調製方法においては、好ましくは、包接のための温度が40〜70℃である。より好ましくは、温度が50〜55℃である。
【0024】
また、本発明における包接錯体の調製方法においては、好ましくは、有機溶剤はエタノールである。
【0025】
また、本発明における包接錯体の調製方法においては、好ましくは、DPT溶液が滴下された後の撹拌または破砕を続ける時間は0.5〜3時間、より好ましくは1〜2時間である。
【0026】
実験によって、異なる条件で調製されたDPT-β-CD包接錯体では、異なる結果となることが示された。
【0027】
[DPT-HP-β-CD包接錯体の調製]
水溶液から撹拌-減圧濃縮-乾燥法により調製する、具体的な操作方法を以下に示す。
異なる濃度のHP-β-CD水溶液100mlを調製し、ビーカー内で加熱しながらマグネチックスターラーによる撹拌を実施し、DPTエタノール溶液の添加(DPTとHP-β-CDが1対2のモル比となるように添加)を行い、添加後所定時間の保温撹拌を続けた後、0.45μmのフィルター膜を用いて高温状態のまま溶液を濾過し、抱合されていないDPTは除去し、ろ液をロータリーエバポレーターを用いて真空乾燥させて、最終的に白色個体を得る。
【0028】
HP-β-CD溶液濃度、包接の温度、包接の時間の3つの因子に関しては、直交解析を3つのレベル(HP-β-CDの濃度が10%、20%、30%。温度が40℃、50℃、60℃。時間が1時間、2時間、3時間)で実施し、包接錯体中のDPTの含有量と溶解度を包接の有効性の評価パラメータとして使用した。これらの結果を表3に示す。包接錯体中のDPT含有量を紫外分光光度法で測定し、溶解度を中国薬局方2005年版の凡例に規定された方法で測定した、これらの結果を表4に示す。
【0029】
表3の総合スコアに対するR値から以下のように判断された、すなわち、3つの因子の中で包接の有効性に最も大きな影響を与えるのは、HP-β-CD濃度であり、30%の場合が最良であった。次に影響度が大きいのは温度であり、50℃が最良であった。影響度が一番小さいのは時間で、1時間が好ましい。したがって、包接するための最適条件は以下のようになる。すなわち、30%濃度のHP-β-CD水溶液を用いて、温度は50℃とし、DPTのエタノール溶液滴下後の撹拌継続時間は1時間となる。
【0030】
上述の9つの試料におけるDPT対HP-β-CDのモル比は1:2.07〜1:2.40、平均は1:2.24であり、溶解度は352〜943mg/Lであり、平均は597mg/Lである。
【0031】
【表3】

【0032】
【表4】

【0033】
[DPT-SBE-β-CD包接錯体の調製]
水溶液からの撹拌-凍結乾燥法により調製する、具体的な操作方法を以下に示す。
異なる濃度のSBE-β-CD水溶液100mlを調製し、ビーカー内で加熱しながらマグネチックスターラーによる撹拌を実施し、DPTアセトン溶液の添加(DPTとHP-β-CDが1対3のモル比となるように添加)を行い、次に、添加後所定時間の保温撹拌を続けた後、溶液を室温で2時間保存し、0.45μmのフィルター膜で溶液を濾過し、ろ液を冷凍機内で12時間予備凍結し、凍結乾燥器で48時間凍結乾燥させ、最後に、白色個体を得る。
【0034】
SBE-β-CD溶液濃度、包接の温度、包接の時間の3つの因子に関しては、直交解析を3つのレベル(SBE-β-CDの濃度が10%、25%、40%。温度が40℃、55℃、70℃。時間が0.5時間、1時間、2時間)で実施し、包接錯体中のDPTの含有量と溶解度を包接の有効性の評価パラメータとして使用した。これらの結果を表5に示す。包接錯体中のDPT含有量を紫外分光光度法で測定し、溶解度を中国薬局方2005年版の凡例に規定された方法で測定した、これらの結果を表6に示す。
【0035】
【表5】

【0036】
【表6】

【0037】
表5の総合スコアに対するR値から以下のように判断された、3つの因子の中で包接の有効性に最も大きな影響を与えるのは、SBE-β-CD濃度であり、40%の場合が最良であった。次に影響度が大きいのは温度であり、55℃が最良であった。影響度が一番小さいのは時間で、好ましいのは2時間である。したがって、包接反応のための最適条件は以下のようになる。すなわち、40%濃度のSBE-β-CD水溶液を用いて、温度は55℃とし、DPTアセトン溶液滴下後の撹拌継続時間は2時間となる。
【0038】
上述の9つの試料におけるDPT対SBE-β-CDのモル比は1:2.74〜1:3.89、平均は1:3.27であり、溶解度は736〜5095mg/Lであり、平均は2351mg/Lである。
【0039】
SBE-β-CDとDPTの包接錯体を用いて1種類の動物腫瘍細胞および6種類のヒト腫瘍細胞に対して実施したin vitro活性試験では、DPTは顕著な抑制効果を示した。すなわち、マウス神経膠細胞腫細胞株(C6)、ヒト肺腺癌細胞株(A-549)、ヒト白血病細胞株(HL-60)、ヒト赤血病細胞株(K-562)、ヒト子宮頚癌細胞株(Hela)、及びヒト胃癌細胞株(BGC-823)に対する抑制効果はエトポシド(濃度は10−5〜10−8Mの範囲)よりも有意に良好である。
【0040】
さらに、DPTにおいては、10−5〜10−8Mの濃度範囲では上述した全ての株に対する抑制効果について大きな変化は見られないが、一方で、エトポシドについては、10−5から10−8Mまで濃度が下がるに従って抑制効果が顕著に低下する。
【0041】
SBE-β-CDとDPTの包接錯体を生理食塩水に溶解後、尾静脈に静脈内注射することによる、マウスの移植腫瘍S180及びHepsに対する抑制効果試験を以下に示す:DPTの投与量が10、5mg/Kgのとき、S180に対しては腫瘍抑制率はそれぞれ54.53%と41.67%であり、Hepsに対してはそれぞれ52.09%および42.27%となり、有意な抑制効果を観察できた。すなわち、陽性対照であるシクロホスファミド(20mg/Kg)とエトポシド(20mg/Kg)の腫瘍抑制効果と類似していた。
【0042】
SBE-β-CDとDPTの包接錯体を水に溶解後、ヒト非小細胞肺癌H460株移植ヌードマウスの尾静脈に静脈内注射することによる移植腫瘍の増殖抑制効果試験によって、以下について判明した:DPTの投与量が8mg/Kgでは、腫瘍増殖率(T/C)は49.68%で、腫瘍抑制率は43.08%であり、顕著な抑制作用が見られ、陽性対照であるエトポシド(20mg/Kg)の抑制効果と類似するものであった。さらに、この試験によって以下のことがが判明した:DPTの投与群は実験動物の優位な体重減少は見られず、一方で、エトポシド群においては実験動物の体重が有意に減少した。これはDPTの毒性がエトポシドよりも低いことを示す。
【0043】
DPTとSBE-β-CDの包接錯体の薬理試験及びその結果を下記に示す。
[複数の腫瘍細胞に対するDPT包接錯体のin vitro活性試験]
腫瘍株はA-549(ヒト肺腺癌細胞株)、BGC-823(ヒト胃癌細胞株)、C-6(マウス神経膠細胞腫細胞株)、Hep G2(ヒト肝癌細胞株)、HL-60(ヒト白血病細胞株)、K-562(ヒト赤血病細胞株)、Hela(ヒト子宮頚癌細胞株)である。試験試料はDPTとSBE-β-CDの包接錯体であり(含有量は5.05%)、対照薬はエトポシド注射液(5ml 0.1g;Qilu Pharmaceutical Co., Ltd.製)である。予め、各薬物を生理食塩水を用いて10−2M濃度に調製しておき、5つの濃度勾配、すなわち、C1 5×10−5M、C2 10−5M、C3 10−6M、C4 10−7M、C5 10−8M、に希釈して試験液として用いた。
【0044】
実験方法:指数増殖期にある各腫瘍細胞株を一定量で96-ウェルプレートに接種し、各細胞を24時間培養した後、選択した各試料を添加(接種した後であれば懸濁細胞を直接添加できる)し、次に、細胞を37℃、5%COで48時間培養した後で、MITを4時間のさらなる培養のために添加し、最後に、試料をDMSOで溶解した後にマイクロプレートリーダーで検査する。結果を表7に示す。
【0045】
【表7】

【0046】
結果から以下のことが判明した。DPTが1つの動物腫瘍細胞と6つのヒト腫瘍細胞に対して有意な抑制効果を持つことが示された。すなわち、マウス神経膠細胞腫細胞株(C6)、ヒト肺腺癌細胞株(A-549)、ヒト白血病細胞株(HL-60)、ヒト赤血病細胞株(K-562)、ヒト子宮頚癌細胞株(Hela)、ヒト胃癌細胞株(BGC-823)に対する抑制効果はエトポシド(濃度は10−5〜10−8Mの範囲)よりも有意に良好であった。
【0047】
作用の特徴は以下の通りである。DPTにおいては、10−5〜10−8Mの濃度範囲では上述した全ての株に対する抑制効果について大きな変化は見られないが、一方で、エトポシドについては、10−5から10−8Mまで濃度が下がるに従って抑制効果が顕著に低下した。
【0048】
[マウスの移植腫瘍S180及びHepsに対するDPT包接錯体の尾静脈注射による抑制効果]
試験試料:DPTおよびSBE-β-CDの包接錯体であり、その含有量は5.05%であり、生理食塩水で所定濃度に調製する。
実験群:DPT群については10、5、2.5mg/kgを設け、加えて、ブランク対照群、及び、陽性対照群としてのシクロホスファミド(CTX)群とエトポシド群を設けた。
投与経路:尾静脈への注射とした。体重当たり投与量として0.4ml/20gとなるように投与した。
投与期間:薬物は株接種から24時間後の投与し、その後2日おきに1回、合計4回の投与とした。
【0049】
実験方法:標準体重18〜22gである60匹のICRマウスに対し、移植腫瘍の試験法に従って、S180またはHepsの固形腫瘍を接種した。マウスの前肢の脇の下に0.2mlの皮下接種を実施し、接種24時間後に体重を測定した後、ブランクコントロール群、CTX群(20mg/kg)、エトポシド群(20mg/kg)、DPT群(10、5、2.5mg/kg)の6群に無作為に分ける。薬物は接種から24時間後に投与し、その後2日おきに1回、合計4回投与を行い、投薬終了後、次に、腫瘍耐性マウスを殺して体重を測定し、分離した腫瘍塊を測定し、全てのデータの統計分析(t検定)をする。実験結果を表8と表9に示す。
【0050】
【表8】

【0051】
実験結果から以下のことがわかる。マウス移植腫瘍S180に対しては、ブランクコントロール群との比較により、DPT群(10mg/kgおよび5mg/kg)は腫瘍抑制率がそれぞれ54.53%と41.67%であり、これら2つの投与量はS180腫瘍の増殖を有意に(P<0.01)に抑制している。
【0052】
次に、マウス移植腫瘍Hepsに関しては、ブランクコントロール群との比較により、DPT群(10mg/kgおよび5mg/kg)の腫瘍抑制率はそれぞれ52.09%と42.27%であり、これらの2つの投与量はHeps腫瘍の増殖を有意(P<0.01)に抑制している。
【0053】
これらは、抗腫瘍薬の研究ガイダンスに関する中国のSFDAの要求(抑制率は40%を超えなければならない)を満たしていることを示す。抗腫瘍効果は、陽性対照であるシクロホスファミド(20mg/kg)とエトポシド(20mg/kg)の効果に類似している。
【0054】
【表9】

【0055】
[ヌードマウスにおけるヒト非小細胞肺癌の移植腫瘍の増殖に対するDPT包接錯体の抑制効果」
試験試料:DPTとSBE-β-CDの包接錯体であり、その含有量は5.05%である。
調製方法:至適量の食塩水中に穏やかに振盪しながらで溶解して濃度を0.4mg/ml(これは、8mg/kg群の試験液)に調製し、別の濃度のものは0.4mg/ml溶液を生理食塩水を用いて必要な濃度まで希釈して調製した。
【0056】
対照試料:Qilu Pharmaceutical Co., Ltd.製造のエトポシド注射液、バッチ番号は8060012EV、規格は5ml 0.1g。
調製方法:エトポシド注射液は透明性、粘着性があり、至適量の生理食塩水で希釈し、穏やかに振とうして均一な溶液として調製するが、濃度は1mg/mlとした。
【0057】
用量の設定:DPTの高用量群は8mg/kg、DPTの中用量群は4mg/kg、DPTの低用量群は2mg/kgとした。陽性対照群であるエトポシド注射液の用量は20mg/kgである。
【0058】
実験動物:採取源、生殖細胞系および血統:BALB/cヌードマウスはInstitute of Experimental Animals、Chinese Academy of Medical Sciencesにより提供されている。日令:35〜40日。体重:18〜24g。性別:オス。
【0059】
移植腫瘍:ヒト非小細胞肺癌株H460のヌードマウスへの移植腫瘍。さらには、ヌードマウスの脇の下にヒト非小細胞肺癌H460細胞株を皮下接種。細胞接種量は2×10とした。
【0060】
[実験方法]
指数増殖期にあるヒト非小細胞肺癌H460細胞株を無菌状態下で、2×10/mlの細胞懸濁液として調製し、0.1mlをヌードマウスの右脇の下に皮下接種する。ヌードマウスの移植腫瘍の直径をスライドカリパスで測定し、腫瘍が100〜300mmに増殖したら動物を異なる群に無作為に分ける。試験試料の抗腫瘍効果を、腫瘍の直径を計測することで動的に観察する。腫瘍の直径を2日に1回測定する。体重当たり投与量は0.4ml/20gである。投与から21日後にマウスを殺し腫瘍を外科的に分離して重さを測る。腫瘍体積(tumor volume;TV)の計算式は以下の通りである:
TV = 1/2×a×b
ここで、aとbは、それぞれ全長と幅を表す。
【0061】
計測値に基づき相対的腫瘍体積(RTV)を計算するが、計算式は、RTV=Vt/V0である。ここで、V0はグループ化と薬物投与が行われた間に測定された腫瘍の大きさであり(d0)、Vtは複数回行った各測定時の腫瘍の大きさである。抗腫瘍活性の評価パラメータは相対的腫瘍増殖倍率T/C(%)であり、以下の式で計算した。
【数1】

TRTV:治療群RTV、CRTV:陰性対照群:RTV。
【0062】
[実験結果]
ヌードマウスにおけるヒト非小細胞肺癌H460の移植腫瘍に関する、DPT実験的治療の結果を表10と表11に示す。DPTを尾静脈を介した静脈注射で、投薬量8mg/kgで週3回、合計9回投与した。ヌードマウスにおけるヒト非小細胞肺癌H460の移植腫瘍のT/C(%)は49.68%、腫瘍抑制率は43.08%である。DPT投与群では、各群において実験動物の体重におよぼす明らかな抑制作用はみられなかった。
【0063】
陽性対照としてエトポシド注射液を尾静脈へ注射した群では、投与量20mg/kgで週3回、合計9回投与したが、ヌードマウスにおけるヒト非小細胞肺癌H460の移植腫瘍のT/C(%)は32.18%、腫瘍抑制率は61.08%である。但し、動物の体重に対して明らかな抑制作用があり、明確な毒性がみられた。
【0064】
[結論]
ヌードマウスにおけるヒト非小細胞肺癌H460移植腫瘍に関するDPTのT/Cおよび腫瘍抑制率の実験結果によると、DPTはヌードマウスでのヒト非小細胞肺癌の移植腫瘍H460の増殖におよぼす抑制効果は顕著であり、DPTは良好な抗癌活性を備えること、新規の抗腫瘍剤の有効性に関する中国のSFDAの要件(T/C<60%、腫瘍抑制率>40%)を満たしており、加えて毒性は比較的少ないこと、が示された。
【0065】
【表10】

【0066】
【表11】

【0067】
本発明の包接錯体の調製方法にかかる実施例を以下に示す。
【実施例1】
【0068】
30%のHP-β-CD水溶液100mLを500mlの三つ首フラスコに移し、ウォーターバスで加熱して50±5℃の温度に維持し、撹拌しながら10%DPTエタノール溶液44mlを滴下した後、さらに1時間保温撹拌を継続すると同時に、エタノール蒸気を収集した。
【0069】
次いで、0.45μmのフィルター膜で溶液を高温状態のまま濾過し、濾液を薄膜式エバポレーターで減圧濃縮させて、得られた粘性の物質を真空乾燥させることで、33.6gの白色メッシュが得られた。紫外分光光度法による測定で、DPT含有量は12.12%であった。また、2005年版の中国薬局方の凡例の方法によって測定された、得られた包接錯体におけるDPTの水溶解度は、84.1%(mg/ml)であった。
【実施例2】
【0070】
化合物2の調製
30%のSBE-β-CD水溶液100mLを200mlの三つ首フラスコに移し、ウォーターバスで加熱して50±5℃の温度に維持し、撹拌しながら10%DPTアセトン溶液37.3mlを滴下した後、さらに2時間保温撹拌を継続してから室温で2時間保持し、その後、0.45μmのフィルター膜で溶液を高温状態のまま濾過した。
【0071】
次いで、濾液を12時間予備凍結してから、-45℃で48時間凍結乾燥させることで白色の多孔質固体62.9gを得た。紫外分光光度法による測定で、DPT含有量は5.05%であった。また、2005年版の中国薬局方の凡例の方法によって測定された、得られた包接錯体におけるDPTの水溶解度は、460%(mg/ml)であった。
【0072】
DPT-SBE-β-CDの包接錯体に対するX線粉末回折スペクトルを図1に示し、示差走査熱量計(DSC)についての図を図2として示す。これらにより、当該化合物が確実に得られていることが示される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
デオキシポドフィロトキシンとβ-シクロデキストリン誘導体の包接錯体であって、
前記デオキシポドフィロトキシン対前記β-シクロデキストリン誘導体のモル比が1:1〜1:10であり、
前記β-シクロデキストリン誘導体がスルホブチルエーテルβ-シクロデキストリンまたはヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンであることを特徴とする、デオキシポドフィロトキシンとβ-シクロデキストリン誘導体の包接錯体。
【請求項2】
前記β-シクロデキストリン誘導体がスルホブチルエーテルβ-シクロデキストリンであり、前記デオキシポドフィロトキシン対前記スルホブチルエーテルβ-シクロデキストリンのモル比が1:1.00〜1:8.06であることを特徴とする、請求項1に記載の包接錯体。
【請求項3】
前記デオキシポドフィロトキシン対前記スルホブチルエーテルβ-シクロデキストリンのモル比が1:2.33〜1:6.42であることを特徴とする、請求項2に記載の包接錯体。
【請求項4】
前記β-シクロデキストリン誘導体がヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンであり、前記デオキシポドフィロトキシン対前記ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンのモル比が1:2.24〜1:6.35であることを特徴とする、請求項1に記載の包接錯体。
【請求項5】
β-シクロデキストリン誘導体の水溶液を調製し保温状態で撹拌またはすり潰しを行う工程、エタノール、アセトンもしくはメタノールのDPT溶液を調製する工程、得られた前記DPT溶液を前記β-シクロデキストリン誘導体水溶液に滴下する工程、前記滴下後に保温状態での撹拌またはすり潰しを継続する工程を経た後、乾燥させることで包接錯体を得る工程からなる、請求項1に記載の包接錯体の製造方法。
【請求項6】
前記β-シクロデキストリン誘導体水溶液中のβ-シクロデキストリン誘導体の重量/体積濃度が10〜40%であることを特徴とする、請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記DPT溶液を前記β-シクロデキストリン誘導体水溶液に滴下する工程後の撹拌またはすり潰しを継続する工程における前記保温状態の温度が40〜70℃であることを特徴とする、請求項5に記載の製造方法。
【請求項8】
前記DPT溶液を前記β-シクロデキストリン誘導体水溶液に滴下する工程後の撹拌またはすり潰しを継続する工程における前記保温状態の温度が50〜55℃であることを特徴とする、請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
前記滴下後に保温状態での撹拌またはすり潰しを継続する工程における継続時間が0.5〜3時間であることを特徴とする、請求項5に記載の製造方法。
【請求項10】
小細胞肺癌、悪性リンパ腫、悪性胚腫瘍、白血病、神経膠細胞腫、子宮頚癌、非小細胞肺癌、胃癌、または肝癌を治療する薬物を製造するための、請求項1に記載の包接錯体の使用。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2013−507401(P2013−507401A)
【公表日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−533469(P2012−533469)
【出願日】平成22年10月1日(2010.10.1)
【国際出願番号】PCT/CN2010/077554
【国際公開番号】WO2011/044824
【国際公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【出願人】(512096791)ジェージァン ジェンフォン ファーマシューティカル ホールディングス (1)
【出願人】(509011743)チャイナ ファーマシューティカル ユニバーシティ (2)
【氏名又は名称原語表記】CHINA PHARMACEUTICAL UNIVERSITY
【Fターム(参考)】