説明

シクロドデカノンオキシムの気相触媒転位によるラウリルラクタム(L12)の合成方法

【課題】シクロドデカノンオキシムの気相触媒転位によるラウリルラクタム(L12)の合成方法。
【解決手段】共通のエッジを介して互いに結合した四面体からなる三次元の無機主構造を有するゼオライトとよばれる細孔性材料の存在下で180〜450℃の温度で気相で行なう。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はシクロドデカノンオキシムの触媒転位(catalytic rearrangement)によるラウリルラクタム(L12)の合成方法に関するものである。この触媒転位はゼオライト型触媒の存在下で気相で行う。
【背景技術】
【0002】
カプロラクタムおよびラウリルラクタムはそれぞれポリアミド6および12の先駆体である。工業的に環状ケトオキシムからラクタムを合成する通常の方法は、酸性媒体中、例えば硫酸中での反応をベースにしており、多量の酸を必要とし、ラクタムの回収には塩基による媒体の中和が必要である。すなわち、酸を使用するという欠点に加えて、反応後に酸を中和しなければならないという問題がある。従って、酸を再循環させることができず、望ましくない排液が副生成物として多量に生じる(硫酸を用い、媒体をアンモニアで中和した場合にはラクタム1トン当たり3〜5トンの硫酸アンモニウムが副生成物として生じる)。有価物に回収不可能な上記副生成物が生じない方法、特に不均一触媒を用いた方法が種々考えられている。
【0003】
最近公開された下記文献には脱層ゼオライトの合成と、その有機合成での使用が記載されている。
【非特許文献1】Maria Climent st al, Studies in Surface Science and Catalysis 2001、135、3719〜3726
【0004】
この文献では上記固体を液相のバッチプロセスでベックマン転位に用いることが記載されている。固体の中ではデアルミネート化βゼオライトを用いた場合、シクロドデカノンオキシムのL12への転位の変換率および選択率はそれぞれ16%および98%である。すなわち、この型の触媒では選択率が高いのに対して、変換率は低いままである。さらに、気相ベックマン転位に関する記載はない。
【0005】
ベックマン転位は気相の不均一触媒でも行うことができる(特にカプロラクタムの合成)。これらは高沸点の化合物(シクロヘキサノンオキシムの場合は206〜210℃、カプロラクタムの場合は139℃/12mmHg)であるにもかかわらず、複数の方法が開発されている。しかし、触媒活性が高い優れた触媒を探すことの困難性の他に、有機化合物の吸着/分解によって急速に活性が失われるという触媒の安定性が最大の問題である。シクロドデカノンオキシムの転位の場合、有機化合物は6つの炭素原子を有するシリーズのものよりさらに重い。そのため、短期間試験の結果はいくつか報告されているが、触媒活性を維持するのが難しいため、工業的プロセスを考えるのは困難と思われる。
【0006】
下記文献には、三酸化ホウ素またはホウ酸と高度に分散した炭素(粒径が0.1mm以下)との混合物からなる触媒系上で水の存在下での気相転位によってラクタムを合成することが開示されている。
【特許文献1】フランス国特許第1,562,298号公報(米国特許第3,586,668号明細書)
【0007】
この特許にはカプロラクタムの合成が開示、例示されている。最終的な実施例(実施例8)には粒径が1〜2mmの触媒上でのラウリルラクタムの合成が記載されている。この実施例に記載の試験は短時間(5時間15分)であり、また、最終混合物中のL12の含有率(86%)は記載されているが、得られた生成物の重量が示されていないので、反応収率は計算できない。しかも、触媒の安定性および寿命に関する記載はない。
【0008】
不均一触媒上での気相ベックマン転位での問題点は下記文献に記載されている。
【特許文献2】特開JP48012754A号公報(Asahi Chemical Industry名義、1969年10月7日、第44-76676号)
【0009】
この特許の発明者達は固体上での有機化合物の熱分解および重合に起因する触媒の非常に急速な非活性化の問題を取り上げている。発明者達はこの問題、特にシクロドデカノンオキシムの場合の問題を克服するために多孔性担体、例えばケイ藻上に付着させたホウ酸からなる触媒の使用を勧めている。この特許の実施例1にはこの型の触媒上でのシクロドデカノンオキシムの転位反応が記載されている。この試験は30回繰り返されているが、短時間試験(5分)である。温度が300℃の場合、変換は安定であると記載されているが、L12の選択率または収率に関する記載はない。
下記文献はβゼオライトまたはMFI型のゼオライト上での気相不均一触媒によるカプロラクタムの合成方法が記載されている。
【特許文献3】米国特許出願第6,051,706号明細書
【特許文献4】米国特許出願第6,071,844号明細書
【0010】
この特許では触媒性能を向上させ、特にその非活性化を減すためにシクロヘキサノンオキシムをエタノール中に溶解するとともに、触媒を改質している(ホウ素を含むゼオライトの使用と、中心金属原子の全部または一部を除去するためのMFIの処理)。それにもかかわらず、この発明者達は空気または窒素の存在下で触媒の再生をしなければならなかった。これらの特許はカプロラクタムの合成に限定され、L12の合成に関する記載はない。
下記文献には、酸性性質を有するモノラミナーシリケート触媒の存在下で(i)気相または(ii)液相のいずれかでシクロドデカノンオキシムの触媒転位してラウリルラクタム(L12)を作る方法が開示されている。
【特許文献5】国際特許出願第WO 2004/037795号公報
【0011】
この触媒は積層構造を有するゼオライトの先駆体の脱層状化によって調製される。従って、これはゼオライトではない。
従って、従来技術は(i)ゼオライトではない触媒系上での気相(特許文献1および特許文献2)か(ii)ゼオライト上での液相(非特許文献1)で、シクロドデカノンオキシムを触媒転位してラウリルラクタム(L12)を作る方法である。
【0012】
ゼオライトとは共通エッジを介して互いに結合した四面体(完全に結合したコーナを共有する四面体)からなる無機の三次元の主構造を有する細孔性材料と定義される(下記文献を参照)。
【非特許文献2】無機ホストを有する秩序ある細孔性およびメソ細孔性材料の構造特性および組成特性の命名(L.B.McCusker,F.Liebau、G.Engelhardt、Pure Appl.Chem.,73、pp.381-394、2001)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明者は、ゼオライト上で気相でシクロドデカノンオキシムの触媒転位を実施してラウリルラクタムを生成することができるということを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の対象は、シクロドデカノンオキシムのベックマン転位をゼオライトの存在下で180〜450℃の温度で気相で行うラウリルラクタムの製造方法にある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
ゼオライトは広い細孔の領域(例えば、12の四面体を含むリングによって規定される開口での孔)内部に細孔分布を示すゼオライトであるのが有利である。
本発明の有利な一実施例では、本発明方法は下記の段階を含む:
(a)シクロドデカノンオキシムをアルコールおよび炭化水素の中から選択される溶剤に溶解させるか、溶融状態にし、
(b)(a)段階で得られる流体を蒸発させて、必要に応じてキャリアーガスを用いてゼオライトと接触させ、
(c)ラウリルラクタムを溶剤、キャリアーガス(使用した場合)および未転位(変換)のシクロドデカノンオキシムから分離する。
【0016】
別の実施例では、ゼオライトは骨格ヘテロ原子としてアルミニウムおよび/またはホウ素を有する。
別の実施例では、ゼオライトは初めに骨格ヘテロ原子としてアルミニウムおよび/またはホウ素を有し、脱アルミニウム/脱ホウ素処理したゼオライトである。
別の実施例では、ゼオライトはβゼオライトである。
別の実施例では、ゼオライトは骨格ヘテロ原子としてアルミニウムおよび/またはホウ素を有するβゼオライトである。
別の実施例では、ゼオライトは初めに骨格ヘテロ原子としてアルミニウムおよび/またはホウ素を有し、脱アルミニウム/脱ホウ素処理したβゼオライトである。
以下の説明ではゼオライトを「触媒」とよぶこともある。
【0017】
上記の操作条件を用いることによって、触媒を非活性化させるコークスの生成を最小にしながら、L12(またはその誘導体)の触媒上への堆積を減らすことができる。反応は大気圧で行うことができるが、有機化合物の分解と触媒が非可逆的に非活性化することになる過度に高い温度にせずに気体状態で運転できるようにするために、反応は減圧下で行うのが好ましい。触媒の表面に吸着したL12とその誘導体を定期的に脱着することが勧められる。この脱着はベックマン転位中にゼオライトの温度より高い温度の空気または不活性ガスで処理することで行う。これらの処理によって吸着生成物がコークスに変化して触媒を非可逆的に非活性化することを避けることができる。
【0018】
転位を行う温度に関しては、180℃以下の温度で操作すると、触媒が急速に且つ非可逆的に非活性化する。一方、450℃以上の温度では有機化合物が分解し、やはり触媒が非可逆的に非活性化する。ラウリルラクタムは180〜450℃の温度範囲で一般に70%以上の選択率で合成できる。過度に高い温度で生じる触媒の非可逆的非活性化を防ぎながら、高い変換率を達成するためには225〜400℃の範囲で運転するのが望ましく、225〜375℃の範囲が特に好ましい。
【0019】
運転圧力は、シクロドデカノンオキシムおよびラウリルラクタムを蒸発させるのが困難であること、そして、触媒上にオリゴマー、さらにはコークスが形成する危険を避けるために、大気圧、さらには減圧にするのが好ましい。この場合にも、有機化合物は低圧でより容易に脱着し、従って、選択率を高めることができる一方、低圧では触媒への基質の吸着が制限され、従って、変換率が下がるので、最良の妥協点を見出す必要がある。選択した温度範囲を考慮すると、50〜700mbarの絶対圧力の範囲内で操作するのが好ましい。
【0020】
ゼオライトはそれ自体は公知で、市販されている。一例として、USYゼオライト、骨格ヘテロ原子としてアルミニウムおよび/またはホウ素を有するゼオライト、初めに骨格ヘテロ原子としてアルミニウムおよび/またはホウ素を有し且つ脱アルミニウム/脱ホウ素処理したゼオライト、βゼオライト、骨格ヘテロ原子としてアルミニウムおよび/またはホウ素を有するβゼオライト、または、初めに骨格ヘテロ原子としてアルミニウムおよび/またはホウ素を有し且つ脱アルミニウム/脱ホウ素処理したβゼオライトを用いることができる。ゼオライトまたはβゼオライトで行なう上記脱アルミニウム/脱ホウ素処理は触媒の性能、特に選択率を大幅に高めることができる。ゼオライトの脱アルミニウム、実際にはさらに脱ホウ素の方法は多数公知である。これらはゼオライトの熱水処理または化学処理である。例として、下記文献に開示の方法が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【特許文献6】欧州特許第488,867号公報
【0021】
この特許に記載の酸性処理の利点はゼオライトの結晶性を保持できる点である。これは特にβゼオライトの脱アルミニウム/脱ホウ素に極めて適している。この処理のために選択する操作条件によってゼオライトの脱アルミニウム/脱ホウ素の範囲を変えることができる。その効果は得られた固体のSi/AlまたはSi/B原子比によって測定される。用いるゼオライトは初めにホウ素を有することができる。ゼオライトのアルミニウム原子の一部を除去するための処理によって、ホウ素も部分的に除去される。残留ホウ素の存在は選択率の点で触媒性能を損なわず、変換率の向上に寄与する。骨格ヘテロ原子として初めにホウ素のみを有するゼオライトは脱ホウ素処理後の変換率が低くなるが、選択率は極めて良い状態を維持する(いくつかの操作条件下で90%以上)。
【0022】
初めに骨格ヘテロ原子としてアルミニウム原子を有するゼオライト(場合によってはβゼオライト)は脱アルミニウム処理をして、Si/Al原子比を50以上、好ましくは80以上、さらに好ましくは150以上にすることができる。
初めに骨格ヘテロ原子としてホウ素原子を有するゼオライト(必要に応じてβゼオライト)は脱ホウ素して、Si/B原子比を20以上、好ましくは40以上にすることができる。
初めに骨格ヘテロ原子としてアルミニウム原子およびホウ素原子を有するゼオライト(必要に応じてβゼオライト)は脱アルミニウムおよび/または脱ホウ素して、Si/Al原子比を50以上にし、Si/B原子比を20以上、好ましくはSi/Al原子比を150以上、Si/B原子比を30以上にすることができる。
【0023】
シクロドデカノンオキシムはアルコールおよび炭化水素の中から選択される溶剤に溶解できる。溶剤は有機化合物を溶解でき、反応のために選択された操作条件下(温度、ゼオライトなど)で許容可能な溶剤が安定性を有するように選択するのが望ましい。一般に、ゼオライトの存在下で分解するアルコールでも脱アルミニウム/脱ホウ素ゼオライトの存在下ではるかに安定である。シクロドデカノンオキシムのための溶剤として使用可能なアルコールの中ではメタノール、エタノールまたはイソプロパノールが挙げられるが、これらに限定されるものではない。同様に、炭化水素を単独または混合物で用いることができ、これによって生成物の溶解度を温度に強く依存させることができる。後者の特性は最終生成物の回収および精製に重要である。溶剤としてイソプロパノール/シクロヘキサンまたはエタノール/シクロヘキサン混合物を用いることが特に好ましい。さらに、シクロドデカノンオキシムの溶剤への溶解度を上げて、転位の生産高を上げるために、反応部に導入する前にシクロドデカノンオキシム/溶剤混合物を予熱することができる。
【0024】
キャリアーガスの例としては窒素、アルゴンおよびヘリウムが挙げられる。
(c)段階では、任意の手段で分離を行うことができる。
【0025】
触媒の「再生」とは(ゼオライトの)触媒の表面に吸着したL12とその誘導体を脱着することができる処理を意味する。上記および実施例中の触媒(ゼオライト)および操作条件によって良好な触媒性能(選択率および変換率)が得られ、触媒上での有機化合物の堆積を減らすことができる。しかし、この触媒上での有機化合物の堆積を完全に抑制することは不可能である。従って、収率の著しい低下(10〜20%)がみられたらすぐに触媒を再生して、触媒の寿命を延ばし、非可逆的非活性化を避けるのが望ましい。この再生は有機反応物の非存在下で触媒をフラッシングおよび/または真空下に配置することで行なう。転位反応が行われる温度より高い温度が望ましい。そのため、再生は350〜650℃、特に400〜600℃の温度範囲、さらに好ましくは450〜590℃の温度範囲で行なう。
【0026】
この再生は大気圧または減圧下に行なうことができる。同様に、再生を窒素のような不活性ガスまたは酸素またはこれら2つの混合物、例えば空気でフラッシングしながら行なうこともできる。再生時間は触媒に吸着した有機化合物の脱着による触媒の減量をモニターすることによって決めることができる。温度上昇および温度降下の相を考慮に入れると、再生には一般に数時間が必要である。再生を真空下で行なうこともできる。
【0027】
本発明の転位ならびに反応物の調製およびラウリルラクタムの回収を行う装置は通常の設備を用いることができる。特に、ゼオライト上での転位反応は「固定床」、「流動床」または「移動床」反応器で行なうことができる。定期的に触媒を再生する必要があるので、複数の反応系を用い、一部を製造期にし、残りを再生期にし、次に、両者を逆にすることのが有利である。
【実施例】
【0028】
βゼオライトの合成
骨格ヘテロ原子としてアルミニウムを有するβゼオライトの合成:CAT 1
1.1gの水酸化ナトリウム(Carlo Erba)を78.6gの水に溶かした後、45gの35%水酸化テトラエチルアンモニウム(Aldrich)溶液と0.48gのNaAlO2(Carlo Erba)を続けて攪拌下に添加する。溶解後、18gのゼオシル(Zeosil)175MPシリカを攪拌下に添加する。周囲温度で4時間攪拌する成熟段階の後に、混合物をオートクレーブ内の静止状態で48時間、150℃の温度に加熱する。得られた混合物を濾過した後、pHが9.4になるまで水で洗浄する。得られた固体を100℃で12時間乾燥する。
乾燥固体の元素分析からSi/Al原子比が11であることがわかる。
【0029】
骨格ヘテロ原子としてアルミニウムとホウ素を有するβゼオライトの合成:CAT 2
0.75gのNaOH(Carlo Erba)を24gの水に溶かした後、0.059gのNaAlO2(Carlo Erba)と0.492gのNa247(Carlo Erba)とを続けて攪拌下に添加する。溶解後、45gの35%水酸化テトラエチルアンモニウム(Aldrich)溶液と18gのゼオシル(Zeosil)175MPシリカを依然として攪拌下に添加する。周囲温度で4時間攪拌する成熟段階の後に、この混合物をオートクレーブ内の静止状態で48時間、150℃の温度に加熱する。得られた混合物を濾過し、pHが9.1になるまで水で洗浄した後、遠心分離を行なう。最後にケークを100℃で14時間乾燥する。
得られた固体の元素分析からSi/Al原子比が41で、Si/B原子比が19.8であることがわかる。
【0030】
骨格ヘテロ原子としてホウ素を有するβゼオライトの合成:CAT 3
3.48gの水酸化ホウ素(B(OH)3、Aldrich)、1.43gの水酸化ナトリウム、26.6gのFK700シリカ(Degussa)および27.2gの40%水酸化テトラエチルアンモニウム水溶液(Fluka)を183.6mlの水に添加し、周囲温度で一晩(13時間)攪拌し続ける。次いで、31.9gの臭化テトラエチルアンモニウムを添加し、混合物を5時間攪拌し続ける。この混合物をテフロン(Teflon、登録商標)ライニング付きのオートクレーブ内で自生圧力下に240時間、150℃の温度に加熱する。濾過後、得られた結晶をアンモニア流(3l/時)下で400℃で焼成(1回目)する。周囲温度に戻した後、固体を1M塩化アンモニウム溶液を用いて24時間で3回洗浄する。濾過後、得られた固体を窒素下に400℃で焼成する。
こうして合成された固体の元素分析からSi/B原子比が16であることがわかる。
【0031】
脱アルミニウム
CAT1の脱アルミニウム
アルミニウムの一部を抽出するために、上記で合成したCAT1を70%の硝酸の存在下で130℃で処理(還流)する。還流で5時間処理した後に、17%の硝酸、次いで水で洗浄し、80℃の空気下で乾燥することによってSi/Al原子比が150の固体が得られる(触媒CAT1脱アルミニウムAl1(以下、Al1))。得られた固体を続いて550℃の空気下で8時間焼成する(昇温速度:2℃/分)。同じ処理を行なうが、還流段階を6.5時間続ける。洗浄、乾燥および焼成後に得られた固体はSi/Al原子比が180である(触媒CAT1脱アルミニウムA12(以下、Al2)
【0032】
CAT2の脱アルミニウム−脱ホウ素
触媒CAT2の骨格ヘテロ原子の一部を除去するために、この触媒を70%の硝酸の還流(130℃)で5時間処理する。17%の硝酸、次いで水で洗浄し、乾燥した後に、固体を550℃の空気下で8時間焼成する(昇温速度:2℃/分)。こうして固体が得られ、この固体の元素分析からSi/Al原子比が170で、Si/B原子比が37であることがわかる(触媒CAT2脱アルミニウム−脱ホウ素(以下、AlB1))。
【0033】
CAT3の脱ホウ素
触媒CAT3を周囲温度でHCl溶液(pH6)で1時間処理する。水で洗浄し、乾燥した後、固体の元素分析からSi/B原子比が32で、Si/Al原子比が1500以上であることがわかる(B1のCAT3)。
【0034】
転位試験:
蒸発室および反応器を備え、大気圧または加圧下で運転できる反応系を有する装置に、溶剤中の溶液状態のシクロドデカノンオキシムをポンプを用いて供給する。反応部は圧力計を備えた真空ポンプによって減圧する。特に説明の無い限り、固定床反応器で用いる触媒の導入量は1グラムである。結合された反応生成物を液体窒素トラップで回収する。
【0035】
試験1:
触媒CAT1(非脱アルミニウム触媒)での試験
この試験では、シクロドデカノンオキシムを周囲温度でイソプロパノールに溶解する(3gのオキシム/100gのイソプロパノール)。触媒床内の温度を325℃にし、操作圧力を50mbarに設定する。これらの操作条件下で、シクロドデカノンオキシム/イソプロパノール混合物をキャリアーガス(3.5Sl/時の窒素)と一緒に注入する。これによって、0.3gのオキシム/触媒1g.時の空間速度が得られる。設備の始動後(1時間後)、粗反応生成物を1時間集める。この混合物の分析によって下記の結果が得られた:
オキシムの変換率85%
ラウリルラクタムの選択率68%
【0036】
試験2:
触媒CAT1のAl1での試験
この試験2は試験1と同じ操作条件下で行なうが、触媒CAT1の代わりにAl1の触媒CAT1を用いる。試験の1時間後から1時間の間に回収された粗反応生成物の分析によって下記の結果が得られた:
シクロドデカノンオキシムの変換率:40%、
ラウリルラクタムの選択率:99%
【0037】
試験3:
触媒CAT1のAl2での試験
この試験3は試験1と同じ操作条件下で行なうが、触媒CAT1の代わりにAl2の触媒CAT1を用いる。試験の1時間後から1時間の間に回収された粗反応生成物の分析によって下記の結果が得られた:
シクロドデカノンオキシムの変換率:48%、
ラウリルラクタムの選択率:99%
【0038】
試験4:
触媒CAT2のAlB1での試験
この試験4は試験1と同じ操作条件下で行なうが、触媒CAT1の代わりにAlB1の触媒CAT2を用いる。試験の1時間後から1時間の間に回収された粗反応生成物の分析によって下記の結果が得られた:
シクロドデカノンオキシムの変換率:89%、
ラウリルラクタムの選択率:99.5%
【0039】
試験5:
触媒CAT3のB1での試験
この試験5は試験1と同じ操作条件下で行なうが、触媒CAT1の代わりにB1の触媒CAT3を用いる。試験の1時間後から1時間の間に回収された粗反応生成物の分析によって下記の結果が得られた:
シクロドデカノンオキシムの変換率:28%、
ラウリルラクタムの選択率:92%。
これらの実施例で用いるβゼオライトは初めに骨格ヘテロ原子としてアルミニウムまたはホウ素を有する。最良の結果は初めにアルミニウムおよびホウ素を有し且つ脱アルミニウム/脱ホウ素処理したゼオライトで得られる。
【0040】
試験6:
寿命
この試験では、シクロドデカノンオキシムを周囲温度でイソプロパノールに溶解する(3gのオキシム/100gのイソプロパノール)。このオキシム/イソプロパノール混合物を10g/時の流量で蒸発室に注入する。用いる触媒(3g)はAl2のCAT1であり、触媒床内の温度は325℃に設定する。さらに、操作圧力を50mbarに設定する。設備の始動後(1時間後)、粗反応生成物を毎時に、捕捉、秤量および分析する。反応器の出口で捕捉した粗反応生成物中の変換率およびL12の選択率の変化、および、触媒に吸着した生成物の重量を定量化することができる物質収支を[図1]に示す。
【0041】
試験の最初の12時間にわたる物質収支から、蒸発室に導入された3.6gのオキシムに対して3.36gの生成物がトラップに回収されたことがわかり、この分析から、この混合物が主にL12からなる(>99%)ことがわかる。痕跡量のシクロドデカノンの存在も観察される。欠失生成物は触媒に吸着したままである。再生を伴う追加の試験から、選択率が著しく低下する前に再生(選択率が85%を下回る前に再生)を行なった時に触媒に吸着した生成物の96%を回収でき、生成物は主としてL12で構成される(>95%)ことがわかる。従って、この12時間の間に、脱着した生成物の捕捉を伴う窒素による「予防的再生」を含めた完全物質収支によって、L12の収率は約96%になる。この操作条件下でのL12の生産性は約96g/時.触媒1kgである。
【0042】
試験の最初の12時間後に、選択率がわずかに下がると同時に変換率が徐々に下がって約80%になる相が4〜5時間続く。この中間相では、触媒上の生成物の堆積はない。第3相(16時間の試験後)では触媒のより急速な非活性化、特に変換率の低下が示される。再び、触媒上への有機化合物の堆積があり、この段階で触媒に(下記の条件下で)再生試験を実施しても、堆積した生成物を完全には脱着できないこと、すなわち、触媒の非可逆的非活性化が観察される。
【0043】
試験7:
触媒の再生
同じ導入量(3g)の触媒Al2のCAT1を、反応中(P:50mbar、T=300℃、イソプロパノール溶液に導入したオキシム、時間:2時間、1時間後から1時間の間に粗反応生成物を捕捉する)および再生中(550℃の空気下でフラッシング、全再生時間:12時間(550℃への温度上昇および300℃への温度降下を含む)、大気圧)に続けて試験した。連続した反応試験期を関数にして変換率および選択率の変化(捕捉した粗反応生成物を基にした分析値)を[図2]に示す。
【0044】
8つの反応試験後に、これら全ての試験でシクロドデカノンオキシムが完全に変換されることが確認される。初めに95%であったL12の選択率はわずかに上がり、反応中の第8試験の間に98%に達する。550℃の静止レベルに達する温度上昇、次いで反応温度に戻る温度降下に必要な時間のため、再生相を短くすることはできなかった。一方、反応で12時間使用した触媒に適用した上記再生操作(全持続時間:12時間)によってその次ぎの反応サイクルでの触媒活性を維持することができる。8つの試験/再生サイクル後に試験を中断したが、触媒の非活性化の有意な兆候は観察されなかった。
上記の結果から、複数の反応器を並行して用いる方法、いくつかの反応器を反応相で用い、他の反応器を再生相で用いる方法が可能である。
【0045】
試験8:
USYゼオライト(βゼオライト以外のゼオライト群)の使用
USYゼオライトはグレース(Grace)社から市販されている。Si/Al原子比は35である。試験条件は試験1と同じであるが、βゼオライトの代わりにUSYゼオライトを用いる。設備の始動後(1時間後)、粗反応生成物を1時間回収した。この混合物の分析から、オキシムの変換率が74%でL12の選択率が75%であることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】反応器の出口で集めた粗反応生成物中の変換率と、L12の選択率と、触媒に吸着した生成物の重量の変化を示すグラフ。
【図2】連続した反応試験期を関数にして変換率および選択率の変化を示すグラフ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
共通エッジを介して互いに結合した四面体からなる三次元の無機の主構造を有するゼオライトとよばれる細孔性材料の存在下で、180〜450℃の温度で、気相でシクロドデカノンオキシムをベックマン転位でラウリルラクタムを製造する方法。
【請求項2】
ゼオライトが広い細孔の領域に細孔分布を示すゼオライトである請求項1に記載の方法。
【請求項3】
(下記(a)〜(c)を特徴とする請求項1または2に記載の方法:
(a)シクロドデカノンオキシムをアルコールおよび炭化水素の中から選択される溶剤に溶解させるか、溶融状態にし、
(b)(a)段階で得られた流体を蒸発させ、必要に応じてキャリアーガスを用いて、ゼオライトと接触させ、
(c)得られたラウリルラクタムを溶剤、キャリアーガス(使用した場合)および未変換のシクロドデカノンオキシムから分離する。
【請求項4】
転位温度を225〜400℃にする請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
転位温度を225〜375℃にする請求項4に記載の方法。
【請求項6】
転位を50〜700mbarの絶対圧力で行う請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
ゼオライトがUSYゼオライトである請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
ゼオライトを下記(1)〜(5)の中から選択する請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法:
(1)骨格ヘテロ原子としてアルミニウムおよび/またはホウ素を有するゼオライト、
(2)初めに骨格ヘテロ原子としてアルミニウムおよび/またはホウ素を有し、脱アルミニウム/脱ホウ素処理したゼオライト、
(3)βゼオライト、
(4)骨格ヘテロ原子としてアルミニウムおよび/またはホウ素を有するβゼオライト、
(5)初めに骨格ヘテロ原子としてアルミニウムおよび/またはホウ素を有し、脱アルミニウム/脱ホウ素処理したβゼオライト。
【請求項9】
ゼオライトが初めに骨格ヘテロ原子としてアルミニウムおよび/またはホウ素を有し、脱アルミニウム/脱ホウ素処理したゼオライトである請求項8に記載の方法。
【請求項10】
ゼオライトが初めに骨格ヘテロ原子としてアルミニウムおよび/またはホウ素を有し、脱アルミニウム/脱ホウ素処理したβゼオライトである請求項8に記載の方法。
【請求項11】
必要に応じて、初めに骨格ヘテロ原子としてアルミニウムを有するβゼオライトを脱アルミニウムしてSi/Al原子比を50以上にする請求項9または10に記載の方法。
【請求項12】
必要に応じて、初めに骨格ヘテロ原子としてアルミニウム原子を有するβゼオライトを脱アルミニウムしてSi/Al原子比を80以上にする請求項11に記載の方法。
【請求項13】
必要に応じて、初めに骨格ヘテロ原子としてアルミニウム原子を有するβゼオライトを脱アルミニウムしてSi/Al原子比を150以上にする請求項11に記載の方法。
【請求項14】
必要に応じて、初めに骨格ヘテロ原子としてホウ素原子を有するβゼオライトを脱ホウ素してSi/B原子比を20以上にする請求項9または10に記載の方法。
【請求項15】
必要に応じて、初めに骨格ヘテロ原子としてホウ素原子を有するβゼオライトを脱ホウ素してSi/B原子比を40以上にする請求項14に記載の方法。
【請求項16】
必要に応じて、初めに骨格ヘテロ原子としてアルミニウム原子およびホウ素原子を有するβゼオライトを脱アルミニウムおよび/または脱ホウ素してSi/Al原子比を50以上にし且つSi/B原子比を20以上にする請求項9または10に記載の方法。
【請求項17】
必要に応じて、初めに骨格ヘテロ原子としてアルミニウム原子およびホウ素原子を有するβゼオライトを脱アルミニウムおよび/または脱ホウ素してSi/Al原子比を150以上にし且つSi/B原子比を30以上にする請求項16に記載の方法。
【請求項18】
シクロドデカノンオキシムを溶融状態で導入する請求項3〜17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
シクロドデカノンオキシムをアルコールおよび炭化水素の中から選択される溶剤に溶解させ、アルコールをメタノール、エタノールまたはイソプロパノールの中から選択する請求項3〜17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
溶剤をイソプロパノール/シクロヘキサンおよびエタノール/シクロヘキサン混合物の中から選択する請求項19に記載の方法。
【請求項21】
ゼオライトを再生する請求項1〜20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
収率の低下が10〜20%になったときにゼオライトを再生する請求項21に記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公表番号】特表2008−546743(P2008−546743A)
【公表日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−517532(P2008−517532)
【出願日】平成18年6月21日(2006.6.21)
【国際出願番号】PCT/FR2006/001399
【国際公開番号】WO2006/136699
【国際公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【出願人】(505005522)アルケマ フランス (335)
【Fターム(参考)】