説明

シゲラIPADタンパク質、及び赤痢菌感染症ワクチンとしてのその使用

本発明は、動物の細胞へのシゲラの侵入を遮断し、それによって赤痢菌感染症から保護する、又は赤痢菌感染症の重症度を低下させる、組成物及び方法に関する。より詳細には、本発明は、シゲラ、特にS.フレックスネリの幾つかの血清型に対して保護活性を有する中和抗体を誘導する、自然源から得られるIpaDタンパク質、及び/又は合成若しくは組換え技術によって得られるIpaDタンパク質、及びその複合体の使用に関する。本発明の組成物は、シゲラファミリーの細菌によって引き起こされる細菌性赤痢の予防及び/又は治療に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動物の細胞へのシゲラ(Shigella)の侵入を遮断し、それによって赤痢菌感染症から保護する、又は赤痢菌感染症の重症度を低下させる、組成物及び方法に関する。より詳細には、本発明は、シゲラ、特にS.フレックスネリ(flexneri)の幾つかの血清型に対して保護活性を有する中和抗体を誘導する、自然源から得られるIpaDタンパク質、及び/又は合成若しくは組換え技術によって得られるIpaDタンパク質、及びその複合体の使用に関する。本発明の組成物は、シゲラファミリーの細菌によって引き起こされる細菌性赤痢の予防及び/又は治療に有用である。
【背景技術】
【0002】
多数のグラム陰性病原菌は、その宿主の細胞と相互作用するIII型分泌(T3S)機構を使用する。各T3S機構は、細菌エンベロープにまたがり、細菌表面に広がる分泌装置(T3SA)と、T3SAを通過し、宿主細胞の膜に入り、そこで細孔を形成する輸送体と、T3SA及び輸送体細孔を通過して、細胞質に達するエフェクターと、細菌細胞質中で輸送体及びエフェクターに付随する特定のシャペロンと、転写制御因子とからなる。T3SAの構築には約15種類のタンパク質が必要である。
【0003】
シゲラファミリーに属する細菌は、ヒトにおける細菌性赤痢の病原体である[1]。上皮細胞への細菌の侵入、及びマクロファージにおけるアポトーシスの誘導に必要な遺伝子は、220kb病原プラスミドの侵入領域と命名された30kb領域中でクラスターを形成する。侵入領域は、T3SAの成分をコードするmxi及びspa遺伝子、T3SAを通過するタンパク質をコードするipaA、B、C及びD、ipgB1、ipgD並びにicsB遺伝子、シャペロンをコードするipgA、ipgC、ipgE及びpa15遺伝子、並びに転写制御因子をコードするvirB及びmxiE遺伝子を含む[2]。
【0004】
T3SAは、ブロス中で増殖する細菌中では低活性であり、細菌が上皮細胞に接触すると活性化される[3]。ipaB、ipaC又はipaD並びに大部分のmxi及びspa遺伝子を不活性化すると、上皮細胞に侵入する細菌の能力が無効になり、マクロファージにおけるアポトーシスが誘導され、接触溶血活性(contact hemolytic activity)が発現する。IpaB及びIpaCは、疎水性セグメントを含み、溶解した赤血球の膜と結合したままであり、これら2種類のタンパク質がS.フレックスネリ輸送体の成分であることを示唆している。また、エフェクター機能は、IpaB及びIpaCに対して提案された[4、5、6、7、8]。ipaCではなく、ipaB及びipaDの不活性化は、調節解除された、すなわち常時活性型のT3SAをもたらし、IpaB及びIpaDが、誘導物質の非存在下でT3SAの不活性の維持にある役割を果たすことを示唆している[9、10]。IpaDの一小部分は細菌エンベロープと関連づけられる[9、11]。Pickingと共同研究者[12]は、T3SA活性の制御におけるIpaDの役割を上皮細胞への細菌の侵入におけるその役割から分離できることを報告した。
【0005】
針複合体の構造についての更なる見識を得るために、本発明者らは、架橋剤BSで処理した細菌の、細菌全体と軽度に精製された針複合体(NC)の両方について、免疫電子顕微鏡分析を実施した。本発明者らは、IpaDが針の先端に局在したNCの成分であり、IpaDに対する抗体が上皮細胞へのS.フレックスネリの侵入に対して阻害効果を有する証拠を提示する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】[1] E.H.LaBrec, H. Schneider, T.J. Magnani, S. B. Formal, Epithelial cell penetration as an essential step in the pathogenesis of bacillary dysentery. J. Bacteriol. 43 (1994) 1503-1518.
【非特許文献2】[2] C. Parsot, Shigella spp. and enteroinvasive Escherichia coli pathogenicity factors. FEMS Microbiol. Lett. 252 (2005) 11-18.
【非特許文献3】[3] F.G. van der Goot, G. Tran van Nhieu, A. Allaoui, P. Sansonetti, F. Lafont, Rafts can trigger contact-mediated secretion of bacterial effectors via a lipid- based mechanism. J Biol. Chem. 279 (2004) 47792-47798.
【非特許文献4】[4] Y. Chen, M. R. Smith, K. Thirumalai, A. Zychlinsky, A bacterial invasin induces macrophage apoptosis by binding directly to ICE. EMBO J. 15 (1996) 3853-3860.
【非特許文献5】[5] A. Kuwae, S. Yoshida, K. Tamano, H. Mimuro, T. Suzuki, C. Sasakawa, Shigella invasion of macrophage requires the insertion of IpaC into the host plasma membrane: functional analysis of IpaC. J. Biol. Chem. 276 (2001 ) 32230-32239.
【非特許文献6】[6] R. Menard. M. C. Prevost. P. Gounon. P. Sansonetti. C. Dehio, The secreted lpa complex of Shigella flexneri promotes entry into mammalian cells. Proc.Natl. Acad. Sci. USA 93 (1996)1254-1258.
【非特許文献7】[7] G. Tran Van Nhieu, R. Bourdet-Sicard, G. Dumenil, A. Blocker, P.J. Sansonetti, Bacterial signals and cell responses during Shigella entry into epithelial cells. Cell Microbiol. 2 (2000) 187-193.
【非特許文献8】[8] G. Tran Van Nhieu, E. Caron, A. Hall, P.J. Sansonetti, IpaC induces actin polymerization and filopodia formation during Shigella entry into epithelial cells. EMBO J. 18 (1999) 3249-3262.
【非特許文献9】[9] R. Menard, P. Sansonetti, C. Parsot, The secretion of the Shigella flexneri lpa invasins is activated by epithelial cells and controlled by IpaB and IpaD. EMBO J. 13 (1994) 5293-5302.
【非特許文献10】[10] C. Parsot, R. Menard, P. Gounon, P.J. Sansonetti, Enhanced secretion through the Shigella flexneri Mxi-Spa translocon leads to assembly of extracellular proteins into macromolecular structures. Mol. Microbiol. 16 (1995) 291-300.
【非特許文献11】[11] K.R. Turbyfill, J.A. Mertz, CP. Mallett, E.V. Oaks, Identification of epitope and surface-exposed domains of Shigella flexneri invasion plasmid antigen D (IpaD). Infect Immun. 66 (1998) 1999-2006.
【非特許文献12】[12] W. L. Picking, H. Nishioka, P.D. Hearn, M.A. Baxter, AT. Harrington, A. Blocker, W. D. Picking, IpaD of Shigella flexneri is independently required for regulation of Ipa protein secretion and efficient insertion of IpaB and IpaC into host membranes. Infect. Immun. 73(2005) 1432-440.
【発明の概要】
【0007】
本発明者らは、驚くべきことに、IpaD特異的中和抗体が上皮細胞などの許容性細胞へのシゲラの侵入を遮断することができ、この中和作用が、異なるシゲラ血清型で認められることを見いだした。この点に関して、本発明は、特に、組成物の調製におけるIpaDタンパク質、それをコードするポリヌクレオチド、又は抗IpaD中和抗体の使用、及び赤痢菌感染症に対して交差保護(cross protection)を誘発する方法の作成(elaboration)に関する。
【0008】
定義
「動物」又は「宿主」という用語は、S.フレックスネリなどのシゲラ系統によって感染されやすい、又は感染されることが知られている、任意の動物を指す。特に、動物はヒトからなる。
【0009】
「許容性細胞」という用語は、シゲラ系統によって感染され得る細胞を指す。例えば、かかる細胞は、上皮細胞又は免疫系細胞、特に樹状細胞、単球/マクロファージなど、腸管粘膜免疫系におけるシゲラ浸潤の標的である免疫系細胞だけに限定されず、シゲラエフェクターの浸潤につながらない場合でも、III型分泌機構によってシゲラエフェクターを注入され得るB及びTリンパ球であり得る。
【0010】
「治療」という用語は、シゲラ系統に関連する感染症又は疾患の症候が軽減又は完全に解消されるプロセスを指す。本明細書では「予防」という用語は、シゲラ系統に関連する感染症又は疾患の症候が妨害又は遅延されるプロセスを指す。
【0011】
「防御応答」という用語は、種によって引き起こされるシゲラ関連疾患若しくは感染症の発症の防止、又は動物に存在する疾患の重症度の軽減を意味する。
【0012】
「許容される担体」という表現は、動物宿主に有害作用なしに投与することができる、本発明によって企図される組成物の要素を含有するためのビヒクルを意味する。当分野で公知の適切な担体としては、金粒子、滅菌水、食塩水、グルコース、デキストロース又は緩衝溶液が挙げられるが、これらだけに限定されない。担体は、希釈剤、安定剤(すなわち、糖及びアミノ酸)、防腐剤、湿潤剤、乳化剤、pH緩衝剤、増粘剤(viscosity enhancing additive)、着色剤(color)などを含めて、ただしこれらだけに限定されない助剤を含み得る。
【0013】
一般に理解され、本明細書において使用される「機能的誘導体」とは、IpaDタンパク質/ペプチド配列全体の生物活性に実質的に類似した機能的生物活性を有するタンパク質/ペプチド配列を指す。換言すれば、前記機能的誘導体を動物に投与したときに、シゲラ系統感染症に対する抗IpaD中和抗体の産生を誘発する能力を実質的に保持するポリペプチド又はその断片を好ましくは指す。
【0014】
一般に理解され、本明細書において使用される「機能的断片」とは、IpaD核酸配列全体の生物活性に実質的に類似した機能的生物活性をコードする核酸配列を指す。換言すれば、また、本発明の状況において、動物に投与したときに、シゲラ系統感染症に対して抗IpaD中和抗体の産生を誘発するIpaDポリペプチド/タンパク質をコードする能力を実質的に保持する核酸又はその断片を好ましくは指す。
【0015】
「シゲラ血清型」という用語は、A−Dの大文字によって識別されるシゲラの4グループ、すなわちシゲラ ディセンテリエ(Shigella dysenteriae)(A)シゲラ フレックスネリ(Shigella flexneri)(B)、シゲラ ボイディ(Shigella boydii)(C)及びシゲラ ソンネ(Shigella sonnei)(D)を指す。それぞれは、グループA:8血清型、グループB:11血清型及びサブ血清型、グループC:11血清型、グループD:1血清型を含む。例えば、シゲラ血清型は、シゲラ フレックスネリ2a、1b及び3a、シゲラ ディセンテリエ1、並びにシゲラ ソンネであり得るが、これらだけに限定されない。
【0016】
「中和」又は「遮断」という用語は、IpaDタンパク質に特異的に結合し、また、IpaDタンパク質の生物学的機能に干渉し、したがって、例えば、その毒性エフェクターを標的細胞に送達する細菌の能力を遮断する、本発明の抗IpaD抗体の能力を指す。換言すれば、かかる抗体は、有利には、病原体を無力にし、病変部を生じることも、宿主免疫防御に効率的に抵抗することもできなくする。
【0017】
本発明の組成物
一態様においては、本発明は、赤痢菌感染症の治療及び/又は予防のための組成物を提供する。本発明は、許容性細胞への少なくとも1つのシゲラ血清型の侵入を遮断するための組成物も提供する。これらの企図された本発明の組成物は、以下の要素、すなわち、
− IpaDポリペプチド又はその機能的誘導体、
− IpaDポリペプチドをコードするポリヌクレオチド又はその機能的断片、
− 抗IpaD中和抗体
の少なくとも1つを含む。
【0018】
当業者には理解されるように、本発明の組成物は、宿主に投与すると、1つを超えるシゲラ血清型に対する交差保護を有利に与える。換言すれば、本発明の組成物は、1つを超えるシゲラ血清型の許容性細胞への侵入を防止又は実質的に低減させる。
【0019】
本発明によって企図されるIpaDポリペプチド又はその機能的誘導体は、例えば、配列番号1として本明細書に示すGenBankアクセッション番号AL391753のアミノ酸配列と同一又は実質的に同一であるアミノ酸配列を有する(図6参照)。IpaDポリペプチドの機能的誘導体の場合には、CNCMに2007年10月10日に受託番号I−3839で寄託されたプラスミドpMal−IpaDを用いることができる。このプラスミドは、IpaDタンパク質のコドン130で始まる、IpaDタンパク質の断片をコードする。
【0020】
アミノ酸配列に言及するときに「実質的に同一」とは、本発明によって企図されるポリペプチドが、例えば、配列番号1の配列の一部又は全部と少なくとも75%同一又は85%同一、さらには95%同一であるアミノ酸配列を有することを理解されたい。
【0021】
本発明によって企図されるポリヌクレオチド又はその機能的断片は、上で定義したIpaDポリペプチド又はその機能的誘導体をコードする。例えば、かかるポリヌクレオチドは、本明細書に配列番号2として示すGenBankアクセッション番号AL391753のヌクレオチド配列と同一又は実質的に同一である、ヌクレオチド又は核酸配列を有する(図7参照)。IpaDポリヌクレオチドの機能的断片の場合には、上で定義したプラスミドpMal−IpaDを使用することができる。
【0022】
ヌクレオチド又はポリヌクレオチド配列に言及するときに「実質的に同一」とは、本発明によって企図されるポリヌクレオチドが、例えば、配列番号2の配列の一部又は全部と少なくとも65%同一又は80%同一、さらには95%同一である核酸配列を有することを理解されたい。
【0023】
核酸及びアミノ酸「配列同一性」を決定する技術も、当分野で公知である。典型的には、かかる技術は、遺伝子に対するmRNAのヌクレオチド配列、DNA配列自体を決定すること、及び/又はそれによってコードされるアミノ酸配列を決定すること、及びこれらの配列を第2のヌクレオチド又はアミノ酸配列と比較することを含む。一般に、「同一性」とは、2個のポリヌクレオチド又はポリペプチド配列それぞれの正確なヌクレオチドとヌクレオチド又はアミノ酸とアミノ酸の一致を指す。2個以上の配列(ポリヌクレオチド又はアミノ酸)を、その「同一パーセント」を決定することによって比較することができる。2個の配列の同一パーセントは、核酸配列でもアミノ酸配列でも、短い方の配列の長さで除算し、100を掛けた、2個の整列した配列間の正確な一致数である。核酸配列の近接(approximate)アラインメントは、Smith and Waterman, Advances in Applied Mathematics 2: 482−489(1981)の局所的相同性アルゴリズムによって与えられる。このアルゴリズムは、Dayhoff, Atlas of Protein Sequences and Structure, M.O. Dayhoff ed., 5 suppl. 3: 353−358, National Biomedical Research Foundation, Washington, D.C., USAによって開発されたスコア行列であって、Gribskov, Nucl. Acids Res. 14(6): 6745−6763(1986)によって正規化されたスコア行列を用いることによって、アミノ酸配列に適用することができる。配列の同一パーセントを決定するこのアルゴリズムの例示的実行は、Genetics Computer Group(Madison、Wis.)によって「BestFit」ユーティリティアプリケーションにおいて提供される。この方法の初期設定パラメータは、(Genetics Computer Group、Madison、Wis.から入手可能な)Wisconsin Sequence Analysis Package Program Manual, Version 8(1995)に記載されている。本発明の状況において同一パーセントを確認する好ましい方法は、University of Edinburghが著作権を有し、John F. Collins及びShane S. Sturrokによって開発され、IntelliGenetics, Inc.(Mountain View、Calif.)によって配布されたプログラムのMPSRCHパッケージを使用することである。この一組のパッケージから、初期設定パラメータをスコア表に用いた(例えば、ギャップ開始ペナルティ12、ギャップ伸長ペナルティ1及びギャップ6)Smith−Watermanアルゴリズムを使用することができる。データから生成した「一致」値は、「配列同一性」を示す。配列間の同一パーセント又は類似度を計算する別の適切なプログラムは、一般に当分野で公知であり、例えば、別のアラインメントプログラムは、初期設定パラメータを用いて使用されるBLASTである。例えば、BLASTN及びBLASTPは、以下の初期設定パラメータ、すなわちgenetic code=standard、filter=none、strand=both、cutoff=60、expect=10、Matrix BLOSUM62、Descriptions=50 sequences、sort by=HIGH SCORE、Databases=non−redundant, GenBank+EMBL+DDBJ+PDB+GenBank CDS translations+Swiss protein+Spupdate+PIRを用いて使用することができる。
【0024】
IpaDタンパク質に特異的に結合する、本発明によって企図される中和抗体は、当業者に公知の種々の方法によって調製することができる。例えば、IpaDポリペプチドは、ポリクローナル抗体の産生を誘導するために、動物に投与することができる。或いは、本明細書に記載のように用いられる抗IpaD中和抗体は、公知のハイブリドーマ技術によって調製されるモノクローナル抗体であり得る(例えば、Hammerling et al., In Monoclonal Antibodies and T−Cell Hybridomas, Elsevier, NY, 1981参照)。本発明の企図される抗体に関して、「特異的に結合する」という用語は、IpaDポリペプチドの1個以上のエピトープに比較的高親和性で結合するが、IpaDポリペプチド以外の分子を実質的に認識せず、結合しない抗体を指す。本明細書では「比較的高親和性」という用語は、抗体と、少なくとも10−1、好ましくは少なくとも約10−1、更により好ましくは10−1から1010−1のIpaDポリペプチドとの結合親和性を意味する。かかる親和性の測定は、好ましくは、当業者に常識である標準競合的結合免疫測定条件下で実施される。
【0025】
細胞へのシゲラの侵入を中和する抗体をスクリーニングし、特定することは、当分野における知識の範囲内であると理解される。
【0026】
好ましい一実施形態においては、本発明の組成物はアジュバントを更に含む。本明細書では「アジュバント」という用語は、本発明の組成物に添加して、組成物の免疫原性を増加させる物質を意味する。アジュバントの作動機序は、完全には知られていない。幾つかのアジュバントは、抗原を徐々に放出することによって、免疫応答(液性及び/又は細胞応答)を増強すると考えられ、一方、別のアジュバントは、それ自体で強力に免疫原性であり、相乗的に機能すると考えられる。公知のアジュバントとしては、油及び水乳濁液(例えば、完全フロイントアジュバント及び不完全フロイントアジュバント)、コリツェバクテイ−イウム パルブイン(Corytzebactei−ium parvuin)、Quil A、IL12などのサイトカイン、Emulsigen−Plus(登録商標)、バチルス カルメット ゲラン(Bacillus Calmette Guerin)、水酸化アルミニウム、グルカン、デキストラン硫酸、酸化鉄、アルギン酸ナトリウム、Bacto Adjuvant、ポリアミノ酸、アミノ酸コポリマーなどのある種の合成ポリマー、サポニン、パラフィン油、並びにムラミルジペプチドが挙げられるが、これらだけに限定されない。アジュバントは、共接種されたDNA中に、又はCpGオリゴヌクレオチドとして、コードされた免疫調節性分子などの遺伝子アジュバントも包含する。共接種されたDNAは、同じプラスミド構築物中にプラスミド免疫原として、又は別のDNAベクター中に、存在し得る。
【0027】
本発明の好ましい実施形態によれば、組成物は、国際公開第2005/003995号に記載の多糖(polyosidic)抗原などの多糖抗原を更に含み得る。例えば、企図される多糖抗原は、目的の系統、特に高い普及率が好ましくは考えられる血清型、すなわちシゲラ フレックスネリ2a、1b及び3a、シゲラ ディセンテリエ1並びにシゲラ ソンネのO側鎖(血清型の構成要素(constitutive))に対応する合成多糖であり得るが、これらだけに限定されない。企図される多糖抗原は、類似の血清型の細菌培養物から抽出され、解毒されたリポ多糖(LPS)でもあり得る。
【0028】
治療方法及び組成物
本発明によって企図されるIpaDポリペプチド又は機能的誘導体、それをコードするポリヌクレオチド又は機能的断片、及び抗体は、赤痢菌感染症の治療及び/又は予防、又は許容性細胞へのシゲラ系統の侵入の遮断に、様々な方法で使用することができる。
【0029】
例えば、本発明の一態様によれば、IpaDポリペプチドは、特異的抗IpaD中和抗体の産生に対する免疫原として使用することができる。上述したように、適切な抗IpaD中和抗体は、適切な公知のスクリーニング方法を用いて、例えば、シゲラ系統が細胞に侵入するのを中和又は遮断する特定の抗体の能力を測定することによって、決定することができる。
【0030】
別の一態様によれば、IpaDポリペプチドをコードするポリヌクレオチド又はその誘導体は、DNA免疫方法において、抗IpaD中和抗体を産生するように使用することができる。すなわち、IpaDポリペプチドをコードするポリヌクレオチド又はその誘導体は、ベクターに組み込むことができ、ベクターは、注入後に複製可能であり、発現可能であり、それによって抗原ポリペプチドを生体内で産生することができる。例えば、ポリヌクレオチドは、真核細胞中で機能的であるCMVプロモーターの制御下でプラスミドベクターに組み込むことができる。好ましくは、ベクターは筋肉内注射される。
【0031】
遺伝子免疫法における本発明のポリヌクレオチドの使用は、好ましくは、筋肉中へのプラスミドDNAの直接注射[Wolf et al. H M G (1992) 1: 363、Turnes et al., Vaccine (1999), 17: 2089、Le et al., Vaccine (2000) 18: 1893、Alves et al., Vaccine (2001) 19: 788]、アジュバントと一緒又はアジュバントなしのプラスミドDNAの注射[Ulmer et al., Vaccine (1999) 18: 18、MacLaughlin et al., J. Control Release (1998) 56: 259、Hartikka et al., Gene Ther. (2000) 7: 1171−82、Benvenisty and Reshef, PNAS USA (1986) 83: 9551、Singh et al., PNAS USA (2000) 97: 811]、特定の担体と複合化されたDNAの送達による細胞のターゲティング[Wa et al., J Biol Chem (1989) 264: 16985、Chaplin et al., Infect. Immun. (1999) 67: 6434]、種々の形のリポソーム中に複合化又は封入されたプラスミドの注射[Ishii et al., AIDS Research and Human Retroviruses (1997) 13: 142、Perrie et al., Vaccine (2001) 19: 3301]、異なる照射方法を用いたDNAの投与[Tang et al., Nature (1992) 356: 152、Eisenbraun et al., DNA Cell Biol (1993) 12: 791、Chen et al., Vaccine (2001) 19: 2908]、生命のあるベクターを用いたDNAの投与[Tubulekas et al., Gene (1997) 190: 191、Pushko et al., Virology (1997) 239: 389、Spreng et al. FEMS (2000) 27: 299、Dietrich et al., Vaccine (2001) 19: 2506]などの適切な送達方法又は送達系を利用する。
【0032】
本発明の更なる一態様は、受動免疫のための特異的抗IpaD中和抗体の使用である。
【0033】
さらに、本発明の別の一態様は、動物における赤痢菌感染症の治療及び/又は予防方法を提供することである。本発明の方法は、動物に本発明の組成物を投与する段階を含む。
【0034】
さらに、本発明の別の一態様は、許容性細胞に感染する能力のあるシゲラ系統と抗IpaD中和抗体を接触させることによって免疫複合体を形成させる段階を含み、前記免疫複合体が許容性細胞における前記シゲラ系統の侵入を防止又は実質的に低減させる、許容性細胞への少なくとも1つのシゲラ血清型の侵入を遮断する方法を提供することである。
【0035】
本発明の組成物の成分又は要素の量は、好ましくは治療有効量である。企図される成分の治療有効量は、組成物を投与する宿主において過度に負の効果を生じずに、該成分がその免疫学的役割(すなわち、抗IpaD中和抗体の産生)を果たすのに必要な量である。使用成分及び投与組成物の正確な量は、治療する症状のタイプ、治療する動物のタイプ及び年齢、投与方法、組成物中の他の成分などの要因に応じて変わる。
【0036】
本発明の組成物は、種々の投与経路によって動物に投与することができる。例えば、組成物は、無菌注射水性又は油性懸濁液などの無菌注射製剤の形で投与することができる。これらの懸濁液は、当分野で公知の技術に従って、適切な分散剤又は湿潤剤及び懸濁剤を用いて、処方することができる。無菌注射製剤は、無毒の非経口的に許容される希釈剤又は溶媒中の無菌注射液又は懸濁液とすることもできる。無菌注射製剤は、非経口的に、例えば、注射によって静脈内、筋肉内若しくは皮下に、注入によって、又は経口的に投与することができる。適切な投与量は、組成物中の成分の各々の量、所望の効果(短期又は長期)、投与経路、治療する動物の年齢及び体重などの要因に応じて変わる。当分野で周知の任意の他の方法を、本発明の組成物の投与に使用することができる。
【0037】
本発明の別の一態様は、本発明によって企図される上記方法のいずれか内で使用するキットを提供することである。キットは、規定のアッセイを実施するのに必要な2種類以上の成分を含み得る。成分は、化合物、試薬、容器及び/又は装置であり得る。例えば、キット内の1個の容器は、IpaDタンパク質を特異的に中和するモノクローナル抗体若しくはその断片又はポリクローナル抗体を含み得る。1個以上の追加の容器は、アッセイに使用する試薬、緩衝剤などの要素を含み得る。本発明によって企図される別のキットは、上述したように、シゲラのIpaDタンパク質に対して中和免疫応答を誘導するために、少なくとも1種類のIpaDポリペプチド、又はそれをコードするポリヌクレオチドを含み得る。
【0038】
本発明は、以下の実施例を参照することによってより容易に理解されるはずである。これらの実施例は、本発明の広範囲な適用性を説明するものであって、その範囲を限定するものではない。本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、実施例を改変し、変更することができる。本明細書に記載のものと類似又は等価であるあらゆる方法及び材料を本発明の試験のための実施に使用することができるが、好ましい方法及び材料を以下に記載する。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】BSで処理され、ネガティブ染色された細菌の電子顕微鏡写真である。矢印は、細菌表面から突出した針の先端における明瞭な密集(distinct densities)を示す。バーは100nmである。
【図2】単一粒子分析によって得られたNCの針部分の突出部地図(クラス合計)である。BSで処理された野生型から単離されたNCの(A−B)地図(A−C)、BS処理なしで野生型から単離されたNCの(A−B)地図(D−F)、及びBS処理されたipaD変異体系統から単離されたNCの(A−B)地図(G−I)。矢印は、BS処理なしで調製された針部分に結合したレムナント密集を指す。バーは10nmである。
【図3】精製NCの免疫ブロット分析を示す図である。野生型及びIpaD欠損系統から精製された細胞全体の抽出物(WCE)並びに架橋(+CR)及び非架橋(−CR)NCを、SDS−PAGE並びにMxiJ、MxiN及びIpaDに特異的な抗体を用いた免疫ブロットによって分析した。IpaDは、架橋された野生型細菌から調製されたNC中でWCEレベルに濃縮されたにすぎなかった。MxiJは、完全なT3SAを実証する正の対照である。T3Sの細胞質成分であるMxiNは、非結合細胞質タンパク質の混入を実証する正の対照である。
【図4】免疫電子顕微鏡法によるIpaD局在化を示す図である。BS処理野生型細菌から精製されたNCを、抗IpaD抗体と一緒に温置し、ネガティブ染色した(A−D)。BSで処理されていない細菌から精製された250個のNCの平均画像を比較のためにEに示す。バーは10nmである。
【図5】野生型S.フレックスネリによる上皮細胞の浸潤アッセイを示すグラフである。細菌を抗IpaD又は抗IpaBポリクローナル抗体の段階希釈物と一緒に温置し、細胞溶解物を培養皿に蒔くことによって細胞内ゲンタマイシン耐性菌を数えた。各条件における侵入の効率を、PBSで処理した野生型系統の侵入効率に対して表す。値は、少なくとも3回の独立した実験の平均であり、エラーバーは標準偏差を示す。
【図6】シゲラ系統(GenBankアクセッション番号AL391753)のIpaDタンパク質の従来技術のアミノ酸配列である。
【図7】図6のIpaDタンパク質をコードする従来技術の核酸配列である(GenBankアクセッション番号AL391753)。
【0040】
(実施例)
III型分泌(T3S)機構は、多数のグラム陰性病原菌によって病原タンパク質を動物及び植物宿主細胞に注入するのに使用される。針複合体として知られるT3S装置の核は、細菌膜と細菌表面上に突出する針の両方を横断する基底小体で構成される。シゲラ フレックスネリにおいては、IpaDは、細菌が宿主と接触する前にT3S装置の活性を阻害するのに必要であり、宿主細胞中への細菌タンパク質の転位を補助すると提案された。本発明者らは、架橋された細菌及び軽度に精製された針複合体の電子顕微鏡法分析によって、IpaDの局在化を調べた。この分析によって、針先端における明瞭な密集の存在が明らかになった。単一粒子分析、免疫標識化及び生化学分析の組合せによって、IpaDは、針先端における構造の一部を形成することが実証された。抗IpaD抗体は、上皮細胞への細菌の侵入を遮断することが判明した。
【0041】
一般材料及び方法
細菌系統及び増殖培地
この試験に使用した系統は、野生型S.フレックスネリ5系統M90T−Sm[13]、そのipaD誘導体SF622[14]である。細菌は、トリプシンカゼイン(tryptic casein)ソイブロス(TSB)(Sigma)中で37℃で増殖された。
【0042】
針複合体(NC)の精製
NCを[15]に記載のように精製した。37℃のTSB 1l中の対数増殖期の細菌を遠心分離によって収集し、リン酸緩衝食塩水25mlに再懸濁させ、1mMビス(スルホスクシンイミジル)スベラート(BS)の存在下で37℃で30分間温置した。混合物に100mM Tris−HClを補充し、37℃で15分間温置した。BSで処理した培養物を収集し、1mMフェニルメチルスルホニルフルオリドを補充した氷冷溶解緩衝剤(0.5Mスクロース、20mM Tris−HCl[pH7.5]、2mM EDTA、0.5mg/mlリゾチーム)に再懸濁させ、4℃で45分間及び37℃で15分間温置した。生成したスフェロプラストを0.01%Triton X−100と一緒に30分間温置し、4mM MgCl及び80μg/ml DNAse(Sigma)で30℃で20分間処理した。破片を遠心分離(20,000gで4℃で20分間)によって除去し、膜画分を遠心分離(110,000gで4℃で30分間)によってペレット化し、TET緩衝剤(20mM Tris−HCl pH7.5、1mM EDTA、0.01%Triton X−100)に再懸濁させた。[16]に記載のように、MxiJ、MxiN及びIpaDに対する抗体を用いて免疫ブロット分析を実施した。
【0043】
電子顕微鏡法及び画像解析
細胞全体及び精製NCの試料を、グロー放電炭素被覆銅格子上で2%酢酸ウラニルを用いてネガティブ染色した。電子顕微鏡法を、120kVで操作された電界放出電子銃を備えたPhilips CM120FEGを用いて実施した。4000 SP 4K低速走査CCDカメラを用いて、80,000倍で、試料レベルで3.75Åの(画像を値域ごとにまとめた(binning)後の)画素サイズで、半自動化試料選択及びデータ収集用「GRACE」ソフトウェアを用いて、画像を記録した[17]。[15]に記載のように、複数基準(multi−reference)及び無基準(non−reference)手順、多変量統計解析並びに分類を含む単一粒子分析を実施した。免疫標識化のために、精製NCを親和性精製IpaDポリクローナル抗体(pAb)と一緒に最終濃度0.132ng/μl)で20℃で1時間温置した。試料を2%酢酸ウラニルで染色し、上記のように観察した。
【0044】
浸潤アッセイ
対数増殖期の野生型又はmxiD系統の培養物2ml(OD600nm 0.4)を抗IpaD(希釈1/2000から1/50)又は抗IpaB(1/50)抗体の存在下で37℃で1時間温置し、細菌を2 10 HeLa細胞を含むプレート上で2000gで10分間遠心分離した。37℃で1時間温置後、細胞をEBSS 2mlで3回洗浄し、50μg/mlゲンタマイシンを含むMEM媒質2mlと一緒に1時間温置した。EBSS 2mlで3回洗浄後、プレートを0.5%デオキシコラート溶液と一緒に20℃で15分間温置し、細胞溶解物を希釈し、寒天板に蒔いて、コロニーを数えた。
【実施例1】
【0045】
T3SA針の先端における特徴的構造
タンパク質精製手順は、弱く結合したサブユニットを含まなくてもよい最も安定な複合体を選択する傾向がある。本発明者らは、最近、0.01%と低いTriton−X100洗浄剤濃度が膜からのNCの放出を誘発するのに十分であることを示した(Sani et al, 2006)。針に結合した潜在的に不安定なサブユニットを検出するために、本発明者らは、精製前に細菌に対してBSを用いた架橋段階を実施した。電子顕微鏡法分析によれば、BS処理後に、大部分の細菌は、さらなる密集を有する針付属器を最先端に提示した(図1)。
【0046】
[18]に記載のように、膜の洗浄剤可溶化後にBS処理細菌からNCを精製した。調製物は、構造解析を実施するのに、針の先端にさらなる密集を有する十分な数のNCを含んだ。単離されたNCの2次元突出部地図を計算するために、電子顕微鏡法画像を単一粒子分析によって分析した。本発明者らは、比較的直線状の短い針付属器を有し、長さが45nmに近いNCの数百の画像を選択した。平均されたNCは、針先端周囲及び基底小体上部に密集の存在を明確に示した(図2A及び2B。NCの全景については図4Eも参照されたい。)。しかし、NCは、針の長さが変動した結果として、平均後にわずかにかすんで見えた。基底部をマスクした後に突出部を整列させ、分類したときに、針部分先端のより鮮明な特徴が得られた(図2C)。架橋された粒子の平均地図の際立った特徴は、針先端の両側の密集の存在である。対照的に、野生型系統から架橋せずに調製された粒子の平均地図は、これらの密集の大部分を欠く針を示した(図2D−F)。これらの試料では、架橋調製物では強力な密集が存在する同じ位置に、かすかな密集が見られる(矢印、図2E及び2F)。これらの結果は、架橋の非存在下では、大部分の精製NCが、架橋後に観察される密集を形成する追加の分子を欠くことを示唆している。T3SAの先端に密集を形成する分子を確認するために、本発明者らは、IpaDを発現しないipaD変異体を用いて類似の実験を実施した。IpaDは、IpaBと一緒に、誘導物質の非存在下でT3SA不活性を維持するのに必要であり、IpaDの一小部分は膜に結合している[9]。BS処理ipaD変異体から精製されたNCは、針先端の両側に密集を示さず(図2G−I)、IpaDがこの構造要素の一部であり、又はこの構造要素の構築に必要であることを示唆する。
【実施例2】
【0047】
IpaDは、T3SA針の先端に存在する。
【0048】
IpaDが、観察された密集を構成するかどうかを試験するために、BS処理野生型細菌から精製されたNCをSDS−PAGE及び免疫ブロットによって分析した(図3)。IpaDは、非架橋細菌から調製されたNCよりも、架橋野生型細菌から調製されたNCにおいて豊富であったが(図3、右パネル、右レーン)、少量は非架橋調製物においても同時精製され、したがって非架橋NCの平均の場合の針先端におけるかすかな密集を裏付けている。主要NC成分であるMxiJは、全調製物中に類似した量で存在する(図3)。MxiNなどのT3S機構の細胞質成分を認識する抗体を用いた対照実験は、内細胞成分によるNCの汚染を示さず(図3)、調製物中のIpaDの存在が細胞質タンパク質の混入によるものではないことを示した。
【0049】
NC先端で検出される密集がIpaDを含むことを確認するために、本発明者らは、抗IpaD血清を用いた免疫染色を実施した。抗体は、BS処理野生型細菌から調製されたNC中の針の先端に特異的に結合した(図4A−D)。一部の針は、恐らくは、2本の針を有する二価の抗体との相互作用の結果として、その先端によって結合することも観察された(左下の枠、図4D)。対照実験では、抗体はipaD変異体から単離されたNCの針に結合しないことが判明した(データ示さず)。
【実施例3】
【0050】
抗IpaD抗体は、上皮細胞への細菌の侵入を遮断する。
【0051】
IpaDは、上皮細胞への細菌の侵入に必要であり[14]、本明細書に示したように、T3SAの先端に局在するので、本発明者らは、抗IpaD抗体が、HeLa細胞への細菌の侵入を妨害し得るかどうかを検討した。異なる濃度の抗IpaD血清と一緒に温置した細菌、又は対照として抗IpaB血清と一緒に温置した細菌を用いて、HeLa細胞を感染させた。細菌を抗IpaD血清に曝露し、抗IpaB血清に曝露しないと、細菌の侵入は用量依存的に阻害された(図5)。抗IpaD抗体で処理すると、S.フレックスネリ2a系統の侵入も阻害された(データ示さず)。
【0052】
実施例1から3に関する一般的考察
S.フレックスネリT3SAは、細菌と上皮細胞の接触によって活性化され、ipaB又はipaDの不活性化によって調節解除される。これらのタンパク質は、T3SAを塞ぐ複合体の形成に必要であると提案された。ここで、本発明者らは、IpaDが針の先端に存在する証拠を示す。架橋細菌からの表面が露出した針の透過型電子顕微鏡写真は、針の先端に存在する特徴的構造を示し、軽度に精製されたNCの免疫ブロット分析は、IpaDが架橋NCと同時精製されることを示した。
【0053】
架橋野生型細菌から単離されたNCの計算された平均は、針の先端の両側に明瞭な密集を示した。この特徴は、架橋剤で処理されなかった野生型系統と架橋剤で処理されたipaD変異体の両方から単離されたNCにおいて認められなかった。免疫電子顕微鏡の結果によれば、針先端の観察された密集はIpaD分子を含む。しかし、追加の密集の正確な配置は、2D突出部地図からは想起することができない。2個の追加の集団は、約7×7nmの寸法を有する。IpaDのサイズは37kDaであるので、IpaDの幾つかの複製物がこれらの構造中に恐らく存在する。実際、IpaDは、オリゴマーを形成すると提案された[19]。IpaDは、エルシニア エンテロコリチカ(Yersinia enterocolitica)のLcrVと幾つかの機能的類似性を示し、これら2種類のタンパク質は類似のサイズを有し、どちらも宿主細胞の膜において、提案された輸送体、すなわち、S.フレックスネリにおけるIpaB及びIpaC、並びにY.エンテロコリチカにおけるYopB及びUopDの挿入に必要である[9、20、21]。最近のデータによれば、LcrVはT3SA針の先端に局在する[20]。エルシニアにおける構造は、シゲラにおける構造とわずかに異なると考えられ、より小さい突出した密集を側面に有し、異なる先端を有する。
【0054】
T3SA針の先端にIpaDを含む構造要素を確認することは、S.フレックスネリT3SAの組成及び構造に更なる見識を与える。ごく最近、IpaDがT3SA針の先端に局在し、そこで宿主細胞膜への輸送体の分泌及び適切な挿入を制御する機能を果たすことも生化学的方法によって実証された[22]。しかし、今回の単一粒子分析は、針先端におけるIpaDの位置を直接実証し、細菌が細胞と接触する前にIpaDがT3SAの栓として作用するという仮説に対する信頼を高める。エルシニアにおけるLcrVに対して提案されたように、IpaDは、細胞膜内の輸送体成分の挿入も促進し得る。抗IpaD中和抗体を用いた処理によるHeLa細胞への細菌侵入の阻害は、抗体とIpaDの結合がタンパク質の機能を妨害することを示す。LcrVは、動物試験において疫病に対する感染防御抗原であることも判明した[23、24]。したがって、IpaDは、シゲラの幾つかの血清型に対して有効であるワクチンを調製するための興味深い標的である。
【実施例4】
【0055】
生体内での抗IpaD抗体の保護作用
ウサギにおいて実施された腸骨係蹄(Intestinal iliac loop)に10CFUのシゲラ フレックスネリ血清型5aの懸濁液を単独で接種し、又は該腸骨係蹄をIpaDに特異的なウサギポリクローナル血清の異なる希釈物の存在下で温置した。抗IpaDポリクローナル血清は、CNCMに2007年10月10日に受託番号I−3839で寄託されたpMal−IpaD発現ベクターによって発現されたIpaDタンパク質の機能的誘導体で免疫化した後に、産生された。このモデルは、ヒトにおける細菌性赤痢中に、この腸管侵入性細菌による腸管上皮の破断、浸潤及び炎症性破壊後に観察された病変部セットの概要を示す。これらの病変部は、炎症細胞ろ液、特に多核好中球と組み合わされた、腸じゅう毛及び浮腫の形態学的変化と、最終的に腸管腔中の潰ようになる膿ようとの組合せによって顕在化する。全体として、これは、浸潤性であることが多い管腔の粘液膿性しん出物を増加させる。
【0056】
細菌を単独で接種した腸係蹄中の組織破壊を、抗IpaDポリクローナル血清の存在下で細菌を接種したものと比較することによって、抗IpaD抗体濃度に依存した保護作用が認められた。実際、使用する血清を希釈しないと、病変部が見られない。しかし、使用する血清が1/10希釈であると、極めて離散的な病変部が出現し、1/100希釈を用いるとより明確になり、その間中、細菌単独で認められた病変部よりも重要でないままである。非該当タンパク質に向けられる対照ポリクローナル血清では、保護作用は認められない。したがって、認められる保護作用は、抗IpaD抗体の存在と特異的に関連づけられる。
【0057】
【表1】




【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の要素、
− IpaDポリペプチド又はその機能的誘導体、
− IpaDポリペプチドをコードするポリヌクレオチド又はその機能的断片、及び/又は
− 抗IpaD中和抗体
の少なくとも1つを含む、許容性細胞への少なくとも1つのシゲラ血清型の侵入を遮断するための組成物。
【請求項2】
以下の要素、
− IpaDポリペプチド又はその機能的誘導体、
− IpaDポリペプチドをコードするポリヌクレオチド又はその機能的断片、及び/又は
− 抗IpaD中和抗体
の少なくとも1つを含む、赤痢菌感染症の治療及び/又は予防のための組成物。
【請求項3】
前記IpaDポリペプチドが配列番号1と同一又は実質的に類似したアミノ酸配列を有する、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記ポリヌクレオチドが配列番号2と同一又は実質的に類似したヌクレオチド配列を有する、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項5】
抗IpaD中和抗体がポリクローナルである、請求項1から4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
抗IpaD中和抗体がモノクローナルである、請求項1から4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
多糖抗原を更に含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
許容性細胞への少なくとも1つのシゲラ血清型の侵入を遮断するための以下の要素、
− IpaDポリペプチド又はその機能的誘導体、
− IpaDポリペプチドをコードするポリヌクレオチド又はその機能的断片、及び/又は
− 抗IpaD中和抗体
の少なくとも1つの使用。
【請求項9】
赤痢菌感染症の治療及び/又は予防のための以下の要素、
− IpaDポリペプチド又はその機能的誘導体、
− IpaDポリペプチドをコードするポリヌクレオチド又はその機能的断片、及び/又は
− 抗IpaD中和抗体
の少なくとも1つの使用。
【請求項10】
前記IpaDポリペプチドが配列番号1と同一又は実質的に類似したアミノ酸配列を有する、請求項8又は9に記載の使用。
【請求項11】
前記ポリヌクレオチドが配列番号2と同一又は実質的に類似したヌクレオチド配列を有する、請求項8又は9に記載の使用。
【請求項12】
抗IpaD中和抗体がポリクローナルである、請求項8から11のいずれか一項に記載の使用。
【請求項13】
抗IpaD中和抗体がモノクローナルである、請求項8から11のいずれか一項に記載の使用。
【請求項14】
多糖抗原を更に含む、請求項8から13のいずれか一項に記載の使用。
【請求項15】
− IpaDポリペプチド又はその機能的誘導体、
− IpaDポリペプチドをコードするポリヌクレオチド又はその機能的断片、及び/又は
− 抗IpaD中和抗体
を含む、許容性細胞への少なくとも1つのシゲラ血清型の侵入を遮断するためのキット。
【請求項16】
動物における赤痢菌感染症を治療及び/又は予防する方法であり、請求項1から7のいずれか一項に定義された組成物を前記動物に投与する段階を含む、方法。
【請求項17】
許容性細胞への少なくとも1つのシゲラ血清型の侵入を遮断する方法であり、前記許容性細胞に感染する能力のあるシゲラ系統と抗IpaD中和抗体を接触させることによって免疫複合体を形成させる段階を含み、前記免疫複合体が許容性細胞における前記シゲラ系統の侵入を防止又は実質的に低減させる、方法。
【請求項18】
生体内での方法からなる、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
抗IpaD中和抗体が、前記許容性細胞を含む宿主によって、IpaDポリペプチド若しくはその機能的誘導体及び/又はIpaDポリペプチドをコードするポリヌクレオチド若しくはその機能的断片を前記宿主に投与した後に産生される、請求項17又は18に記載の方法。
【請求項20】
前記IpaDポリペプチドが配列番号1と同一又は実質的に類似したアミノ酸配列を有する、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記ポリヌクレオチドが配列番号2と同一又は実質的に類似したヌクレオチド配列を有する、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
抗IpaD中和抗体が、前記許容性細胞を含む宿主を受動的に免疫することによって、前記宿主に与えられる、請求項17に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2010−505939(P2010−505939A)
【公表日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−531938(P2009−531938)
【出願日】平成19年10月12日(2007.10.12)
【国際出願番号】PCT/IB2007/004192
【国際公開番号】WO2008/044149
【国際公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【出願人】(591222762)アンステイテユ・パストウール (7)
【出願人】(500366598)インセルム(アンスティチュ・ナショナル・ドゥ・ラ・サンテ・エ・ドゥ・ラ・ルシェルシュ・メディカル) (17)
【氏名又は名称原語表記】INSERM(INSTITUT NATIONAL DE LA SANTE ET DE LA RECHERCHE MEDICALE)
【出願人】(509103705)ユニベルシテ・リーブル・ドウ・ブリユツセル (1)
【出願人】(506188817)ユニバーシティ オブ フローニンゲン (2)
【Fターム(参考)】