説明

システインの定量法

【課題】システインを簡便かつ正確に測定できる酵素的定量法を提供する。
【解決手段】試料に、システインに特異的に反応して硫化水素を生成する酵素(E1)であるο−アセチルセリン−リアーゼを作用させて発生する硫化水素を測定することにより、試料中のシステイン量を求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料中のシステインを、酵素を用いて簡便かつ正確に測定できるようにしたシステインの定量法に関する。
【背景技術】
【0002】
生体中の蛋白質を構成する硫黄含有アミノ酸としては、メチオニン、システイン、シスチンが知られており、生体内では、それぞれが一連の代謝サイクルの中で恒常性を維持している。
【0003】
食物中の蛋白質から由来するメチオニンは、通常、生体内でシステインに代謝されており、この代謝過程で中間体として生成するホモシステインは、再メチル化によるメチオニンへの変換、あるいはセリンとの縮合によるシスタチオニンの形成後、システインに導かれる経路により速やかに代謝されるため正常時にはほとんど存在しない。
【0004】
しかしながら、メチル化を触媒する酵素であるメチルテトラヒドロ葉酸メチルトランスフェラーゼやその補助因子である葉酸及びビタミンB12の欠乏、シスタチオニン形成を触媒するシスタチオニンβシンターゼの機能不全等により、代謝サイクルの中で異常が発生すると、ホモシステインが蓄積されてしてしまう。
【0005】
一方、システインはメチオニンの代謝により生成するアミノ酸であることから、ホモシステインとの関連が注目されている。最近、ホモシステインとシステインの比を指標として、シスタチオニンβシンターゼのヘテロ接合体遺伝子異常のスクリーニングに有用であるとの報告もなされている(下記非特許文献1参照)。
【0006】
近年、ホモシステインは、心筋梗塞、脳梗塞などの血栓塞栓症あるいは動脈硬化症において、独立したリスクファクターとして注目されており、血中濃度と疾患との関係における臨床データが数多く報告されている。
【0007】
また、システインに関しても、ホモシステイン代謝異常の原因把握の補助的な指標とも成り得るため、ホモシステイン及びシステインの血中濃度測定は有用と考えられる。
【0008】
ホモシステインの測定法としては、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)法が主流で行われており、多くの場合、システインも同時に分離測定できる長所があるが、操作が煩雑で時間を必要とし、多数検体を処理するには不向きである(非特許文献2−4参照)。
【0009】
最近、ホモシステインの測定法として、酵素反応によってS−アデノシルホモシステインに変換し、該変換物に対する抗体を用いて間接的に定量する方法も開発されているが、この方法では、抗原となる変換物もまた低分子であることから、抗体を用いた反応原理は競合阻害法をとらざるを得ず、複雑なものとなっている(非特許文献5参照)。
【0010】
また、システインの酵素的測定法として、グルタチオン・スルヒィドリル・オキシダーゼを用いた方法(特許文献1参照)が開示されているが、該酵素はグルタチオンやジチオスレイトールのようなチオール化合物にも反応を示すなど基質特異性に乏しく、特異的な測定法とは言い難かった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Boddie等.,Metabolism 47(2);207−211(1998)
【非特許文献2】Araki等.,J.Chromatogr.422;43−52(1987)
【非特許文献3】Fiskerstrand等.,Clin.Chem.39(2);263−271(1993)
【非特許文献4】Andersson等.,Clin.Chem.39(8);1590−1597(1993)
【非特許文献5】Shipchandler等.,Clin.Chem.41(7);991−994(1995)
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特許1594895号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
酵素を用いたホモシステイン及びシステインの測定法は、操作性などの面から有用と考えられるが、上述したように、現在までその測定系に応用可能な特異的な酵素が見出されていない。
【0014】
したがって、本発明は、血栓塞栓症や動脈硬化症の指標となるホモシステインや、ホモシステイン代謝異常の原因把握の補助的な指標となるシステインに関し、簡便で特異的な酵素的定量法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するため、本発明のシステインの定量法は、試料に、ο−アセチルセリン−リアーゼを作用させ、生成する硫化水素を測定することを特徴とする
【0016】
発明によれば、システインに特異的に反応して硫化水素を生成する酵素(以下「E1」ともいう。)であるο−アセチルセリン−リアーゼを用いることにより、システイン定量の操作が簡便となり、多数の検体も短時間で定量することができる。
【発明の効果】
【0017】
発明によればシステインに特異的に反応して硫化水素を生成する作用を有する酵素を用いることにより、簡便にシステインの定量ができる。
【0018】
本発明のシステインの定量法は、多数の検体を処理する場合などに有効である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】システイン共存及び非共存下でのホモシステインの検量線を示す図表である。
【図2】ホモシステイン共存及び非共存下でのシステインの検量線を示す図表である。
【図3】システインの検量線を示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
ο−アセチルホモセリン−リアーゼは、これまでアミノ酸合成作用(例えば、ο−アセチルホモセリンと硫化水素からはホモシステインが、メタンチオールからはメチオニンが生成する作用)を有する酵素として知られていたが、本発明者らは、後述する試験例に示すように、この酵素をチオール化合物存在下でホモシステインに作用させると、γ−置換反応により硫化水素を生成する触媒作用を示すことを新たに見い出した。
【0021】
ο−アセチルホモセリン−リアーゼは、ホモシステイン及びシステインを基質として硫化水素を生成する作用を有する酵素(以下「E2」ともいう。)であり、ホモシステインの定量に利用できる。
【0022】
すなわち、A)試料に、ホモシステイン及びシステインを基質として硫化水素を生成する作用を有する酵素(E2)であるο−アセチルホモセリン−リアーゼを作用させて、生成する硫化水素量(1)を測定する工程と、B)該試料中のシステイン由来の硫化水素量(2)を測定する工程とを行い、前記硫化水素量(1)から前記硫化水素量(2)を差し引いた硫化水素量からホモシステインを定量することができる。そのホモシステインの定量法においては、あらかじめ上記酵素(E2)を用いて、システイン含量と硫化水素生成量の関係を定数化しておき、システインとホモシステインを含有する試料に上記酵素(E2)をある条件下で作用させ、発生する硫化水素量(1)を測定する。次に、別途求めた該試料中のシステイン含量から、上記定数を用いてシステイン由来の硫化水素量(2)を求め、それを硫化水素量(1)から差し引くことにより、試料中のホモシステイン含量を求めることもできる。
【0023】
ο−アセチルホモセリン−リアーゼは、それを産生する様々な微生物(例えば、Ozaki等.,J.Biochem.91;1163−1171(1982)、Yamagata.,J.Biochem.96;1511−1523(1984)、Brzywczy等.,Acta.Biochimica.Polonica.40(3);421−428(1993))等から公知の方法により得ることができる。
【0024】
また、市販の酵素、例えばユニチカ株式会社製のバチルス属由来のο−アセチルホモセリン−リアーゼ(商品名「GCS」)を使用してもよい。ユニチカ株式会社製の上記ο−アセチルホモセリン−リアーゼの理化学的性質は次の通りである。なお、下記理化学的性質のうち、分子量以外の項目は、本発明者らにより求めたものである。
【0025】
<ο−アセチルホモセリン−リアーゼの理化学的性質>
1)作用:L−ホモシステインとチオール化合物のγ置換反応を触媒し、硫化水素及びチオール化合物置換ホモシステインを生成する。また、L−メチオニンとチオール化合物の置換反応を触媒し、メタンチオール及びチオール化合物置換ホモシステインを生成する。
2)基質特異性:L−ホモシステイン、L−メチオニンに作用する。また、L−システインにはβ置換反応として若干反応する。
3)分子量:180,000(ゲル濾過法)
4)至適pH:8.5〜9.0
5)Km:0.9mM(L−ホモシステイン)
【0026】
発明であるシステインの定量法においてシステインに特異的に反応して硫化水素を生成する酵素(E1)を用いる。このような酵素としては、チオール化合物存在下で置換反応を触媒する酵素、すなわち、ο−アセチルセリン−リアーゼが挙げられる
【0027】
ο−アセチルセリン−リアーゼは、これまでシステイン合成作用(ο−アセチルセリンと硫化水素からシステインを生成する作用)を有する酵素として知られていたが、今回本発明者らによって、チオール化合物存在下で、システインに作用させると、システイン特異的にβ−置換反応により硫化水素を生成する触媒作用を示すことが新たに見出された。
【0028】
本発明において、ο−アセチルセリン−リアーゼは、それを産生する微生物や植物(例えば、Burnell等.,Biochim.Biophys.Acta 481;246−265(1977)、Nagasaw等.,Methods Enzymol 143;474−478(1987)、Droux等.,Arch.Biochem.Biophys.295(2);379−390(1992)、Yamaguchi等.,Biochim.Biophys.Acta 1251;91−98(1995))等より公知の方法で得ることができる。
【0029】
例えば、植物(ホウレンソウ)から得たο−アセチルセリン−リアーゼの理化学的性質は次の通りである。なお、下記理化学的性質のうち、分子量以外の項目は、本発明者らにより求めたものである。
【0030】
<ο−アセチルセリン−リアーゼの理化学的性質>
1)作用:L−システインとチオール化合物のβ置換反応を触媒し、硫化水素及びチオール化合物置換システインを生成する。
2)基質特異性:L−システインに特異的に作用する。
3)分子量:63,000(ゲル濾過法)
4)至適pH:9.0〜11.0
5)Km:0.27mM(L−システイン)
本発明であるシステインの定量方法、又は上述のホモシステインの定量において、上記酵素(E1)、(E2)の添加量は、試料中のホモシステイン又はシステインを完全に消費することができる最低必要量を基本とする。
【0031】
特に、ホモシステインの定量においては、システインに対する反応が、システイン含量依存的に進行する条件とすることが好ましい。これは、酵素(E1)の添加量や反応時間を増減することによって、システインから生成する硫化水素量を調節することで達成される。
【0032】
ホモシステイン及びシステインは、血清などの生体試料中では主に生体内タンパク質とジスルフィド結合しており、一部は遊離ジスルフィド形態として存在している。よって、上記酵素(E1)、(E2)は、フリーな遊離状態のホモシステイン及びシステインに作用させるため、チオール類、ホスヒィン類や水素化硼素類などの還元剤を用いて解離処理を行うことが好ましい。特にチオール類は、容易にホモシステイン及びシステインを特異的に還元し、さらにそのまま酵素反応も行うことができるため好ましい。
【0033】
本発明で用いられるチオール化合物は、メタンチオール、2−メルカプトエタン、ジチオスレイトール、チオグリセロール、システアミンなど、酵素による置換反応の基質となるものであれば特に制限無く使用できる。
【0034】
例えば、上述のホモシステインの定量は、以下のようにして行われる。
(i)あらかじめ、システイン及びホモシステインに、上記酵素(E2)を作用させたときに発生する硫化水素量とシステイン及びホモシステイン含量の定数をそれぞれ求めておく。
(ii)試料に上記還元剤を添加して、試料中のホモシステイン及びシステインを還元したあと、上記酵素(E2)を添加して反応を行い、発生する硫化水素量(1)を測定する。
(iii)試料中に含まれるシステイン含量を、公知の方法又は本発明のシステイン定量法などにより求め、上記定数から換算して、硫化水素量(2)とする。
(iv)上記硫化水素量(1)から硫化水素量(2)を差し引いたものと上記定数から換算して試料中のホモシステイン量を求める。
【0035】
また、上記方法以外としては、まず上述した2種類の酵素(E1)、(E2)を用いて、生成した硫化水素量からホモシステイン及びシステインの総和を求め、次にシステインに特異的な酵素(E1)のみを作用させ、生成した硫化水素量をシステイン量とし、総和から差し引くことによりホモシステイン含量を求める方法も可能である。
【0036】
一方、本発明であるシステインの定量法も、上述したホモシステインの定量法と同様に、以下のようにして行うことができる。
(i)あらかじめ、システインに、上記酵素(E1)を作用させたときに発生する硫化水素量とシステイン含量の定数を求めておく。
(ii)試料に上記還元剤を添加して、試料中のシステインを還元したあと、上記酵素(E1)を添加して反応を行い、発生する硫化水素量を測定して上記定数からシステイン量に換算する。
【0037】
モシステイン及びシステインの定量は、酵素の反応生成物である硫化水素を測定することにより行われるが、その硫化水素を定量する方法は、公知の方法を使用することができ、硫化水素を直接定量する方法のみならず、硫化水素に起因する硫化物イオンを定量する方法であってもよい。
【0038】
例えば、発色検出として、2,2’−ジピリジルジスルファイド(Svenson.,Anal.Biochem.107;51−55(1980))やニトロプルシッドナトリウムを用いる方法、さらに、強酸性下で、N,N−ジメチル−p−フェニレンジアミンと塩化第二鉄を用いてメチレンブルーを生成させ青色発色を検出する方法(メチレンブルー法)などを用いることができる。また、セレニウムを触媒として、色素(トルジンブルーやメチレンブルー)の退色量及びその速度を測定する方法(Mousavi等.,Bull.Chem.Soc.Jpn.65;2770−2772(1992)、Gokmen等.,Analyst 119;703−708(1994))などがあるが、チオール化合物存在下で硫化水素の定量を行う場合は、特異性及び発色感度が良好なメチレンブルー法が好適である。
【実施例】
【0039】
以下、試験例及び実施例、又は参考例を挙げて、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0040】
参考例としては、ホモシステインの定量に用いる酵素(E2)として、バチルス属由来のο−アセチルホモセリン−リアーゼ(商品名「GCS」、ユニチカ株式会社製、以下に記載した力価はメーカー表示値による)を使用し、実施例としては、システイン定量に用いる酵素(E1)として、ο−アセチルセリン−リアーゼ(ホウレンソウ由来)を使用した。
【0041】
ο−アセチルセリン−リアーゼは、山口等の方法(Biochim.Biophys.Acta 1251;91−98(1995))に基づいて調製した。
【0042】
具体的には、ホウレンソウ葉2kgから、抽出、イオン交換クロマト、疎水クロマト及びゲル濾過クロマトの工程を経て、約4000単位の酵素を調製して用いた。なお、力価は、同文献に記載の方法により測定した。
【0043】
試験例1
20mM2−メルカプトエタノール及び10mMDL−ホモシステイン(アルドリッチ社製)を含有する100mMトリス・塩酸緩衝液(pH8.5)にο−アセチルホモセリン−リアーゼ(商品名「GCS」、ユニチカ株式会社製)を添加し、37℃で反応させ、経時的に反応液中の生成物と反応のモルバランスを、表1に示す条件でHPLCにて分析した。
【0044】
【表1】

【0045】
その結果、反応の進行と共にリテンションタイム6.7分のDL−ホモシステインのピークが減少し、新たにリテンションタイム7.8分の位置に反応生成物のピークが現れた。この反応のモルバランスは一致していた。
【0046】
試験例2
DL−ホモシステインをL−メチオニンに換え、試験例1と同様の条件で反応させた。また、ο−アセチルホモセリン−リアーゼと同様の作用を有すると考えられるL−メチオニンγ−リアーゼ(和光純薬株式会社製)をο−アセチルホモセリン−リアーゼに換えて添加し、同様の条件で反応させ、HPLCで分析を行った。
【0047】
その結果、いずれの場合もリテンションタイム7.8分の位置に反応生成物のピークが現れた。
【0048】
試験例1及び2の結果において、ο−アセチルホモセリン−リアーゼをDL−ホモシステイン及びL−メチオニンに作用させた場合の反応生成物のリテンションタイムが共に一致していること、更にL−メチオニンγ−リアーゼを作用させた場合の反応生成物のリテンションタイムもすべて一致していることから、ο−アセチルホモセリン−リアーゼの作用は、下記化学式1及び化学式2に示す通り、含硫アミノ酸とチオール化合物の置換反応であることがわかった。
【0049】
【化1】

【0050】
【化2】

【0051】
試験例3
200mMホウ酸緩衝液(pH11.0)0.25mlに、200mM2−メルカプトエタノールを0.025ml加え、さらに10mMのL−システィン(シグマ社製)溶液又は10mMのDL−ホモシステインを0.05ml加えた後、精製水を0.125ml添加させ混和後、37℃で5分間加温した。その液に、精製したο−アセチルセリン−リアーゼ酵素液(ホウレンソウ由来、6U/ml)を0.05ml加え、37℃で10分間反応させた後、3%NaOH液を0.1ml、16mMN,N−ジメチル−p−フェニレンジアミン・硫酸塩溶液0.325ml及び10mM塩化第二鉄 塩酸溶液0.075mlを順次添加し、室温で15分放置後、670nmの吸光度を測定した。その結果、L−システイン添加時の吸光度が1.01(OD)だったのに対して、DL−ホモシステイン添加時の吸光度は0(OD)であった。よって、ο−アセチルセリン−リアーゼは、ホモシステインに対する反応性はまったく認められず、L−システインに特異的であることがわかった。
【0052】
試験例4(HPLCによる反応生成物同定)
20mMメチルメルカプタン(東京化成社製)及び10mML−システイン(シグマ社製)を含有する100mMホウ酸緩衝液(pH11.0)にο−アセチルセリン−リアーゼ(ホウレンソウ由来)を添加し、37℃で反応させ、経時的に反応液中の生成物と反応のモルバランスを、前記表1に示す条件でHPLCにて分析した。
【0053】
その結果、反応の進行と共にリテンションタイム7.2分のL−システインのピークが減少し、新たにリテンションタイム6.8分の位置に反応生成物のピークが現れた。この反応のモルバランスは一致していた。
【0054】
試験例5
試験例4のL−システインをS−メチルシステイン(シグマ社製)に換え、酵素無添加条件で、HPLCにてピークを確認した。その結果、リテンションタイム6.8分の位置にピークを確認した。
【0055】
試験例4及び5の結果から、ο−アセチルセリン−リアーゼをメチルメルカプタン存在下、L−システインに作用させた場合の反応生成物のリテンションタイムが、S−メチルシステインと一致していることから、ο−アセチルセリン−リアーゼの作用は、下記化学式3に示す通り、L−システインとチオール化合物の置換反応であることが分かった。
【0056】
【化3】

【0057】
参考例1
200mMトリス塩酸緩衝液(pH8.5)0.25mlに、10mM2−メルカプトエタノールを0.05ml加え、さらに、各種濃度(0〜50μM)のL−ホモシスチン(シグマ社)溶液を0.05ml加えた後、L−システインの添加回収率を求めるために300μML−システインを0.1ml添加し、L−ホモシステインへの反応定数を求めるために精製水を0.1ml添加して、それぞれ混和後、37℃で5分間加温した。その液に、ο−アセチルホモセリンーリアーゼ(商品名「GCS」、ユニチカ株式会社製)酵素液(20u/ml)を0.05ml加え、37℃で10分間反応させた後、3%NaOH液を0.1ml、16mMN,N−ジメチル−p−フェニレンジアミン・硫酸塩溶液0.325ml及び10mM塩化第二鉄塩酸溶液0.075mlを順次添加し、室温で15分放置後、670nmの吸光度を測定して検量線を作成し、図1に示した。
【0058】
図1の実線(−◆−)は、L−システイン非共存下でのホモシステインの検量線で、0〜100μM(L−ホモシステイン換算)まで直線となり、その回帰式の切片を0として計算すると、傾きは0.926であった。
【0059】
一方、図1の破線(…●…)は、L−システイン共存下でのホモシステインの検量線で、0〜100μM(L−ホモシステイン換算)まで直線となり、その回帰式の傾きは0.917であり、切片は80.9となった。
【0060】
以上の結果から、ο−アセチルホモセリンーリアーゼは、L−システインの存在にかかわらず、濃度依存的にホモシステインと反応することが分かった。
また、L−システインに対する反応誤差が一定であることが分かった。
【0061】
参考例2
200mMトリス塩酸緩衝液(pH8.5)0.25mlに、10mM2−メルカプトエタノールを0.05ml加え、さらに各種濃度(0〜400μM)のL−システイン(シグマ社)溶液を0.1ml加えた後、L−ホモシステインの添加回収率を求めるために15μML−ホモシスチンを0.05ml添加し、L−システインへの反応定数を求めるために精製水を0.05ml添加して、それぞれ混和後、37℃で5分間加温した。その液に、ο−アセチルホモセリンーリアーゼ(ユニチカ株式会社製)酵素液(20u/ml)を0.05ml加え、37℃で10分間反応させた後、3%NaOH液を0.1ml、16mMN,N−ジメチル−p−フェニレンジアミン・硫酸塩溶液0.325ml及び10mM塩化第二鉄塩酸溶液0.075mlを順次添加し、室温で15分放置後、670nmの吸光度を測定して検量線を作成し、図2に示した。
【0062】
図2の実線(−◆−)は、ホモシステイン非存在下でのL−システインの検量線で、0〜400μMまで直線となり、その回帰式の切片を0として計算すると、傾きは0.259であった。
【0063】
一方、図2中の破線(…●…)は、L−ホモシスチンを添加した場合のL−システインの検量線で、0〜400μMまで直線となり、その回帰式の傾きは0.263であり、切片は28.4となった。
【0064】
以上の結果から、ο−アセチルホモセリンーリアーゼのL−システインへの反応が、ホモシステインの存在にかかわらず、濃度依存的であることが分かった。
【0065】
また、参考例1、2の結果より、添加したL−システイン及びL−ホモシステインの濃度及び添加回収率を算出した。すなわち、参考例1のL−システイン実添加量300μMに対して、図1の破線(…●…)の切片値を図2の実線(−◆−)の回帰式に当てはめ、添加濃度を算出すると濃度は312μMとなり、添加回収率は104%となった。さらに、参考例2のL−ホモシスチン実添加量15μM(L−ホモシステインとして30μM)に対して、図2の破線(…●…)の切片値を図1の実線(−◆−)の回帰式に当てはめ、添加濃度を算出するとL−ホモシステインとしては濃度は30.7μMとなり、添加回収率は102%となった。
【0066】
よって、システインを含有した試料中のホモシステイン量は、L−システイン含量を換算して差し引くことにより、算出可能であることが分かった。
【0067】
実施例
200mMホウ酸緩衝液(pH11.0)0.25mlに、200mM2−メルカプトエタノールを0.025ml加え、さらに各種濃度(0〜200μM)のL−システイン(シグマ社)溶液を0.1ml加えた後、精製水を0.075ml添加させ混和後、37℃で5分間加温した。その液に、精製したο−アセチルセリンーリアーゼ酵素液(6u/ml)を0.05ml加え、37℃で15分間反応させた後、3%NaOH液を0.1ml、16mMN,N−ジメチル−p−フェニレンジアミン・硫酸塩溶液0.325ml及び10mM塩化第二鉄塩酸溶液0.075mlを順次添加し、室温で15分放置後、670nmの吸光度を測定して検量線を作成し、図3に示した。
【0068】
図3に示されるように、0〜200μMまで直線となり、本酵素が触媒する置換反応を利用してシステインの定量が可能であることが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料に、ο−アセチルセリン−リアーゼを作用させ、生成する硫化水素を測定することを特徴とするシステインの定量法

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−100764(P2009−100764A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−14193(P2009−14193)
【出願日】平成21年1月26日(2009.1.26)
【分割の表示】特願平11−84035の分割
【原出願日】平成11年3月26日(1999.3.26)
【出願人】(390037327)積水メディカル株式会社 (111)
【Fターム(参考)】