説明

シトロネラエキスを含有する抗真菌活性を有する医薬組成物、シトロネラエキスの製造方法、及び、シトロネラエキスの使用

本発明は、抗真菌活性を有する医薬組成物の製造におけるシトロネラ(Cymbopogon nardus)エキスの使用、そのエキスの製造方法、及び、真菌症の治療に用いられる組成物の有効成分としての前記抽出物の使用に関する。
本発明は、抗真菌活性を有するイネ科の植物の地上部から得た植物抽出物を含有する組成物に関する。この植物抽出物が、前記植物の葉から得たものであることが好ましい。この植物が、シトロネラ(Cymbopogon nardus (L.) Rendle)であることが最も好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗真菌活性を有する医薬組成物の製造におけるシトロネラ(Cymbopogon nardus)エキス(この明細書において、「エキス」は、「抽出物」と同じ意味である。)の使用、そのエキスの製造方法、及び、真菌症の治療に用いられる組成物の有効成分としての前記エキスの使用に関する。
【0002】
本発明は、抗真菌活性を有するイネ科の植物の地上部から得た植物抽出物を含有する組成物に関する。この植物抽出物が、前記植物の葉から得たものであることが好ましい。この植物が、シトロネラ(Cymbopogon nardus (L.) Rendle)であることが最も好ましい。
【0003】
本発明は、真菌症(爪真菌症, 皮膚真菌症、 外陰膣カンジダ症)の治療におけるシトロネラの植物部から単離した物質及び/または植物抽出物を含有する組成物の使用に関する。
【背景技術】
【0004】
皮膚真菌症は、皮膚、毛髪、及び、爪のような部位を傷付ける最も一般的な感染症である。これは、疾病率(罹患率)、及び、死亡率に重要なものではないが、患者の生活の質に直接に関連する。この感染症は、世界的に増加しつつあるが、この真菌症の慢性的特徴及び治療困難に基づいて悪化しがちである。
【0005】
従来から皮膚真菌症の病原体として皮膚糸状菌(Trichophyton spp species, Microsporum spp、及び、Epidermophytom floccosun)が知られている。しかしながら、Candida spp種、Trichosporon spp及び Geotrichum spp、並びに、皮膚糸状菌を除いたフィラメント状の真菌(Fusarium spp, Scitalidium spp及びScopulariopsis spp)も比較的頻繁に診断されている。
【0006】
爪真菌症(OM)は、ヒトの爪を損なう最も一般的な感染症であり、不特定人に感染され得る。爪真菌症は、その感染症の特性などに起因して、有意な臨床的所見をもたらすが、それが原因となって、医療相談に応じる場合もあれば、職を失うことさえある。爪真菌症を患う患者の20%は爪に関するもので、それは世界中の爪関連疾病のうち最も一般的なものの一つでもある。この発明者らは、皮膚糸状菌を主な病因菌として把握し(80〜90%)、その次がイースト(5〜17%)で、非糸状菌フィラメント状の真菌(non dermatophyte filamentous fungi)が2〜12%である。
【0007】
爪の表面層に限って生存する真菌について、一部の専門家は、第1の選択肢として局所治療を薦める。その局所治療は、小さい局所感染症に対し行われるが、それに失敗した場合に、全身治療(薬剤投与)が行われる。にもかかわらず、全身治療は、慢性感染症に対し最も有効である。
【0008】
爪感染症の治療は、新たな抗真菌剤の開発が進んでいる中においても、問題視されつつある。
【0009】
その他の真菌感染症として外陰膣カンジダ症 (CVV)がある。それは、主に外陰部および膣を損なう性器粘膜感染症である。その原因菌は、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)である。このイーストは、二形成を示し、かつ、健康な無症状の女性の20%において発見される。CVVを特徴付ける主な症状として、 そう痒と、外陰部および膣の紅斑、チーズ状の百色の膣帯下、排尿時の激しい傷み、性交時の痛み、外陰部の浮腫及び亀裂などである。文献[Garcia & Svidzinski, 2002]参照。この感染症の診断は、これらの特徴的な症候群、膣内pH検査(正常値はpH4〜4.5である。)、膣帯下の特徴及びにおい、イースト同定、並びに、微生物検査(菌糸体検査)などに基づいて行われる。文献[Daniel & Robinson, 2005]参照。
【0010】
これは、世界中の数千に達する生産年齢の女性に影響を与える主な婦人科問題でもある。また、これはここ数年間増え続けている。現存する成人女性の75%が一生に一回は経験すると見られ、そのうち40〜50%は新たに発症したものであり、5%は再発(CVVR)によるものである。
【0011】
CVV症例の80〜90%は、カンジダ・アルビカンスによるものであり、10〜20%はカンジダ・ノンアルビカンス(C. non-albicans)と呼ばれるその他の種によるものである。そこには、C. tropicalis、C. glabrata、C. krusei、C. parapsilosisなどがある。しかしながら、ある集団においてはカンジダ・アルビカンス以外のイーストが単離されるケースが増加している。その原因として、これらの種が抗真菌剤により強い耐性を有する傾向があることが考えられる。
【0012】
通常の治療剤に対する病因菌の耐性は、ここ数年間増す一方である。現在の薬剤、例えば、テルビナフィン(Terbinafine)及びアゾール系誘導体は、爪真菌症に有効であるが、治療には費用がかかるために、その成功は限られてしまう。
【0013】
CVVは、婦人科において最も頻繁に診断がなされ、かつ、ここ数年間増え続けている疾病の一つであるが、その治療は、その症候群および再発のために、医師及び患者に悩み(心配)をもたらす。
【0014】
CVVの治療は、薬剤、宿主、及び、環境因子に大きく左右される。治療剤として、局所剤(ニスタチン、ミコナゾール)、経口剤(フルコナゾール、イトラコナゾール、および、セトコナゾールなどのアゾール系誘導体)などがある。
【0015】
ここ数年間CVV治療のために新たな抗真菌剤が開発されてきたが、依然として問題を抱えている。最大の問題は、治療にかかる費用が患者にとってかなり負担となることである。
【0016】
天然産物から生物活性を有する化合物について研究が進んでいる。薬用植物のエキス及びエッセンシャルオイルにける抗生活性の程度を評価することについての研究もかなり進んでいる。多くの植物は、異なる病因菌に耐性を示し、そして、この耐性は、天然の静真菌性化合物の存在に関係し得る。
【0017】
フィトセラピー(phytotherapy:「植物療法」とも呼ぶ。)に関する治療剤の研究には、エキスの最適化、治療に適した剤形の取得、及び、治療の有効性を高める必要性などの要請から、使用される植物由来の薬剤に関する知識が求められる。それに加えて、植物エキスの検証解析及びその標準化が求められる。
【0018】
世界には植物由来の療法が急速に広がっている。この療法は、一般的に面倒でなく、健康増進のために処方されることが多い。これは、様々な感染症に対し、より攻撃的な薬剤を用いる前に選択されることが多い。
【0019】
薬用植物は、病因菌の成長を阻害し、又は、その病因菌を死滅させる特性を有する様々な成分を生じるので、新たな抗生物質の開発の際の選択肢として考慮される。
【0020】
シトロネラとして知られている種(Cymbopogon nardus (L.) Rendle)は、熱帯又は亜熱帯地域(セイロン及び南インド)に一般的なイネ科の植物である。そのシトロネラ、イソプレゴール、及び、ゲラニオールに富むエッセンシャルオイルは、防虫剤又は殺虫剤として人気が高い。
【0021】
シトロネラの防虫性(防虫活性)については、広く知られており、そして、エッセンシャルオイル(シトロネラ、及び、イソプレゴール)の存在と結びついている。近年ネッタイシマカ(Aedes aegypti )に対するシトロネラの効果にD-トランス−アレトリン(aletrine)が関与することが証明された。その揮発性オイル(0.1%)を用いた場合の殺虫効果は、88.9%に達する。
【0022】
シトロネラの殺虫活性に関連した例は、ブラジル特許文献PI9106328-0号においても見られる。その特許文献には、タルペニオール(turpeniol)、シトロネラ、ロデノール(rodenol)エキス、及び、ゲラニオールを含むスプレー又はローションタイプの防虫剤が記載されている。その防虫剤は、ライム病を感染させるダニ(tick)、及び、刺す昆虫(シャーガス昆虫)に相乗的に作用する。
【0023】
同様に、PI9610350-7号には、蚊及びダニなどの虫よけに有用なシトロネラ、ゲラニオール、テルピネオール、及び、ロジノールからなる群から選ばれた少なくとも2つの成分と、メンタノジオールとを含む防虫剤混合物が記載されている。
【0024】
イネ科の植物についてなされた予備研究から、ヒトにおいて様々な感染症を引き起こす真菌に対し有意な抗真菌性を示すことが分かった。
【0025】
真菌に対するシトロネラ又はシムボポゴン(Cymbopogon)属のその他の種のエッセンシャルオイルのインビトロ抗真菌活性が、様々な著者によって報告されている。
【0026】
しかしながら、シトロネラエキスにおいて類似の活性の同定、フィトセラピー組成物、並びに、爪真菌症、 外陰膣カンジダ症、及びトリコモナス症の治療におけるそれらの使用に関する報告は未だない。
【0027】
このようなエキスの使用によって、フィトセラピー医薬組成物の製造を促進することができ、前述した製品のコストを大幅に下げることができ、かつ、異なる剤形への活性成分の使用を促すことができる。
【0028】
したがって、天然産物(主に、植物由来の天然産物)から得た新たな生物活性化合物に対する研究に、様々な疾病に有効な新薬に対するニーズに基づいて、高い関心が集まりつつある。
【0029】
シトロネラの駆虫活性に関して、PI0106192-5号には、シトロネラオイル系のフィトセラピー製品が、牛、羊、ヤギ、及び、馬における内部寄生虫及び外部寄生虫の治療・予防に効果的である旨記載されている。
【0030】
抗生活性に関して、PI9804814号には、シダー油、クロラムフェニコール、レモングラス油、シトロネラ油、 甘草エキス、ジュースを含んだバシリカオ(basilicao)果実油、バシリカオ油(Ocimum SP)、レモン油、ローズマリー油から選択された抗生物質を含む口腔衛生組成物が記載されている。
【0031】
PI0106903-9号には、レモングラス(Cymbopogon citratus stapf)(イネ科)の地上部の水性アルコール(hydro-alcoholic)、アルコール、及び、エーテルエキス、及び/又は、エッセンシャルオイルを1〜5重量%含有する経口及び膣内カンジダ症治療のための医薬組成物が記載されている。この医薬組成物には、様々な含量の天然又は合成製品(薬剤、ビタミン、塩、糖等)が含まれ得る。医薬組成物は、真菌及び細菌、特に経口及び膣内カンジダ菌による感染症の局所治療に用いられるチンク、エマルションA/O及びO/A,クリーム、ゲル、エアロゾル、ペースト、ソープ、シャンプーなどの剤形で提供され得る。
【0032】
PI0203521-9号には、有効量のレモングラス揮発性オイルを含有するカンジダ菌及び皮膚糸状菌(例えば、Epidermophyton floccusum, Microsporum canis及びtrichophyton rubrum)に有効な医薬組成物が記載されている。この医薬組成物において、揮発性オイルは、水蒸気蒸留(蒸留)によって、レモングラスの葉から抽出されたものであり、そして、その主成分はシトラール(60〜80%v/v)、ミルセヌ(mircene)、及び、ゲラニオール(geraniol)である。
【0033】
JP7061918号には、Vetiveria zizanoides, Hemidesmus indicus, Cymbopogon nardus, Piper longum, Piper chaba, Herpestris monnies, Cardiospermum halicacabum, Tinospora cordifolia, Desmodium gangeticum, Michelia champaca及びMelaleuca leucadendroncomから選択された1以上のエキスを含有する抗酸化化粧品(皮膚を輝くする。)が記載されている。
【0034】
これらの従来技術には、シトロネラから抽出した揮発性オイルを、防虫剤、及び、消毒剤として使用することや、Candida spp及び皮膚糸状菌に有効なシトロネラ及びレモングラスについて記載されているだけで、皮膚糸状菌及びカンジダ・アルビカンス(Candida albicans)に有効なシトロネラエキスを含有する組成物については全く記載も示唆もされていない。
【0035】
したがって、従来技術では、抗真菌剤としてシトロネラの用途を記載し、又はそれを示唆するものは存在しない。
【0036】
前述のとおり、新たな抗真菌剤の開発にもかかわらず、爪真菌症、 皮膚真菌症、及び、 外陰膣カンジダ症の治療は問題を抱えている。したがって、抗真菌性を有する植物由来の製品を用いることによって、爪真菌症、皮膚真菌症、及び、外陰膣カンジダ症の治療に今まで無かった大きな利点をもたらすことが可能であろう。
【0037】
したがって、シトロネラは、ブラジルの各地に容易に(特別な栽培条件を要しない。)育つ植物であるために、そのエキスも低コストで得ることができる。それに加えて、エキスは収率に優れている。本発明の生物学的結果は、テストすべき微生物を死滅させる高度の抗真菌活性を示し、かつ、静真菌剤が大部分を占める市場において有利な抗真菌活性をもたらす。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0038】
【特許文献1】PI0106192-5号
【特許文献2】PI9804814号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0039】
前述した文献には、植物抽出物から得た様々な医薬及び組成物が記載されているが、抗真菌活性を有するシトロネラのアルコール及び標準抽出物を含有するフィトセラピー組成物、その使用、並びに、それらの抽出方法については何ら記載されてなく、また示唆もされていない。そこで、本発明は、前記抽出方法、フィトセラピー組成物、及び、その使用を見出した。
【課題を解決するための手段】
【0040】
本発明は、医薬的に許容される賦形剤と、薬理学的有効量のシトロネラの水性アルコールエキスを用いる爪真菌症及び外陰膣カンジダ症の治療に適した医薬組成物に関する。
【0041】
また、この発明は、イネ科植物の水性アルコールエキス、乾燥エキス、及び、標準エキス、特に、シトロネラの水性アルコールエキスの製造方法に関する。
【0042】
また、本発明は、イネ科の植物、特に、シトロネラの地上部から得た植物エキスを含有し、かつ、爪真菌症、皮膚真菌症、及び、カンジダ症に対し抗真菌活性を示す組成物の使用に関する。
【発明の効果】
【0043】
本発明に係る医薬組成物などは、爪真菌症、皮膚真菌症、外陰膣カンジダ症の治療などに用いられる。
【0044】
本発明の技術的範囲の理解を助けるために、本発明に用いられた植物、即ち、シトロネラ及びそこから得たエキスの両方に同定された特性及び活性を図面に表した。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】図1は、皮膚糸状菌及びイースト単離物における100%阻害に対し、シトロネラの最小阻害濃度値(mg/ml)を示す。
【図2】図2は、皮膚糸状菌及びイーストの単離物を100%死滅できるシトロネラエキスの最小殺真菌濃度(mg/ml)を示す。
【図3】図3は、シトロネラの抗真菌活性の分析法を表す。
【発明を実施するための形態】
【0046】
本発明の第1の特徴は、シトロネラの水性アルコールエキスを含有する爪真菌症、皮膚真菌症、及び、カンジダ症の治療に適した医薬組成物である。
【0047】
本発明に係る医薬組成物は、シトロネラの水性アルコールエキスを5〜40%(p/p)含有する。
【0048】
好ましくは、この医薬組成物は、シトロネラの水性アルコールエキスを10〜30%含有する。
【0049】
(医薬)賦形剤として、治療すべきそれぞれの感染症に対し選択された剤形に適したものが用いられる。
【0050】
液剤の医薬組成物は、エタノール及びジプロピレングリコールのようなC1〜C10の水性アルコール溶媒を用いる。ジプロピレングリコールは、シトロネラ乾燥エキスに対して、0.5:20の割合、好ましくは、1:10の割合で用いられ、そして、エタノールは、水中に50%(v/v)の割合で希釈され得る。
【0051】
また、本発明は、イネ科の植物、好ましくは、シトロネラの地上部の水性アルコールエキスの製造方法に関する。
【0052】
シトロネラエキスの製造方法は、有機溶媒の存在下に植物の組織を分解させる物理的作業を採用して植物エキスを製造することから始まる。ここで、有機溶媒の使用により、液体の抽出が可能となる。この液体は、イネ科の地上部の総植物エキス(gross vegetal extract)を含む。
【0053】
このエキスを得るために、植物シトロネラの葉を用いることが好ましい。植物を分解するために用いられる物理的な作業は、ターボ抽出法(turbo extraction)であり、用いられる有機溶媒は、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、及び、パンタノールなどのC2〜C6のアルコールであっても良い。物理的な作業として、ターボ抽出法が選ばれ、かつ、有機溶媒としてエタノールが選ばれるのが最も好ましい。エタノールは、異なる割合で希釈され得るが、50、70、及び、94.6%(w/w)を用いるのが好ましい。
【0054】
その後、総植物エキス(gross vegetal extract)は、有機溶媒の部分的な除去によって濃縮される。エキスの濃縮は、35〜55℃、及び、減圧(真空)という制御された条件の下、蒸発によって行われる。
【0055】
有機溶媒を蒸発させるのに十分な温度にて回転式蒸発器を利用することが好ましい。その後、葉の総植物濃縮エキスを凍結乾燥させる。その後の段階は、技術パラメータ(technical parameter)及び殺真菌治療活性に関して評価することからなる。
【0056】
最小阻害濃度(CIM; Minimum Inhibiting Concentration)及び最小殺抗真菌濃度(CFM;Minimum Fungicidal Concentration)を測定することによって、爪真菌症に対するシトロネラエキスの抗真菌活性(インビトロ)を評価した。
【0057】
最小阻害濃度(CIM)は、ジュース中のマイクロ希釈法(micro-dilution)によって測定され、文献M−27A10に記載された臨床実験基準に対する標準化が行われた。
【0058】
このテストは、A〜Hと同定された8列からなる96ウェルを含有する滅菌プラスチックマイクロ−プラーク(Nunclon, Delta, Nunc A/S, Roskilde, Denmark)において行われた。前記各列は、1〜12の12個のウェルを備えていた。各行(A〜H)は、測定された接種物(inoculate)100μlを投与した真菌種に相当し、そして、各列には、YNBGジュース中に2の割合で1/128まで連続的に希釈させたシトロネラエキスを投与した。各陰性プラーク上に、陽性対照群及びイースト(Candida parapsilosis(ATCC 22019):基準物質)を含ませた。波長530nmにおけるマック・ファーランド・スケール(Mac Farland scale)0.5の濁度となるように、分光分析器(Baush&Lomb)において、前記接種物の濃度を調整した。この懸濁液100mlを前記プラークの各ウェル(0.5〜 2.5 x 103 UFC/ml)に添加した。その後現れた前記プラークを、毎日モニターリングしながら、35℃の滅菌器において48時間インキュベートした(イーストの場合)。皮膚糸状菌の場合、周囲温度にて7日間インキュベートした。それぞれの真菌に対し十分インキュベートしてから、鏡に映して(reflection in mirror)、視覚を通じた比較を行った(評価)。
【0059】
CIMは、それぞれの真菌単離物の成長を100%阻害することができるシトロネラ凍結乾燥エキスの最小濃度であり、基準としてそれぞれの陽性対照群を有する(図3参照)。CFMを測定するために、CIM測定のためのテストにおいて成長が見られない培養物のアリコートを、(薬剤を含まない培地に対して)サブローデキストロース寒天培地に移した。真菌の成長を妨げる最小濃度を、CFMとみなした。
【0060】
本発明は、皮膚糸状菌(例えば、Trichophyton spp、Microsporum spp、及び、Epidermophytom floccosun)並びにカンジダのようなイーストの成長を阻害し、又は、それを死滅させるシトロネラの水性アルコールエキスを含有する医薬組成物の使用(用途)を提供する。
【0061】
医薬組成物が、チンキ剤、ローション剤、ゲル剤、ポマード剤、クリーム剤、膣内オバール(vaginal oval)、及び、錠剤(以上、局所剤);又は、チンキ剤、粒剤、カプセル剤、及び、錠剤(以上、経口剤)などの剤形であっても良い。
【0062】
特許請求の範囲に記載した発明の理解を助けるために、いくつかの実施例を以下に記載する。しかし、本発明の技術的範囲は、実施例によって制限されるものではない。
【0063】
それぞれの真菌感染症に好ましい医薬組成物の実施例は、次の通りである:爪真菌症のイースト菌に対してはシトロネラアルコールエキスを1250μg/ml以上含有し、皮膚糸状菌に対してはシトロネラアルコールエキスを625μg/ml以上を含有し、そして、膣内イースト(カンジダ・アルビカンス)を阻害するためにはシトロネラアルコールエキスを625μg/ml以上含有する。前記含量に、賦形剤、希釈剤、溶離剤(eluent)、及び、その他の許容される医薬補助剤などは除かれる。
【実施例1】
【0064】
シトロネラエキスの製造
実施例1.A:出発物質としての植物の収集
本発明に係る組成物に用いられるエキスの出発物質として使用するためにシトロネラの葉を収集した。それは、2005年5月中に行われた。植物分析を行ってその植物を同定し、かつ、ガス分光分析装置につなげられたガスクロマトグラフィによって確認した。それをカラカラに乾燥させたものをUEM植物標本集(herbarium)に第11747号として寄託した。
【0065】
実施例1.B:植物出発物質のための技術パラメータの特性解析
植物シトロネラに対し技術パラメータを以下の通り確立した:乾燥喪失(loss by drying:PS)、乾燥喪失(loss by desiccation:PD)、総フラビノイド(FT)のテノール(tenor of total flavinoids)、及び、揮発性オイル(OV)のテノール(tenor of volatile oils)。その結果を以下の表1に示す。
【0066】
【表1】

【0067】
実施例1.C:エキスの製造
圧縮空気を用いてシトロネラの新鮮な葉を洗浄し、小さい片にカットし、そして、シトロネラ乾燥エキス(n=3)に対し20%比率の70%アルコール(p/p)を用いて、15分間ターボ抽出(turbo-extraction)を行った。このエキスをろ過して、回転式蒸発器において濃縮させ、その後凍結乾燥させた。乾燥させる前に、これらのエキスにおける技術パラメータ(例えば、乾燥残留物乾燥後における乾燥残留物(RS;dry residual)及びpH、総フラビノイド(FT)のテノール、総ポリフェノール(PH)、及び、抗真菌活性)を得た。その結果を表2に示す。
【0068】
【表2】

【実施例2】
【0069】
生物活性測定分析
異なる臨床的起源(clinical origin)の真菌単離物に対するシトロネラエキスの抗真菌活性を測定するために上記方法を用いた。
【0070】
サブローデキストロース寒天培地(SDA)において真菌を30℃で24/48時間再び活性化させた。それを成長させて、滅菌食塩水中で接種物を製造した。その細胞濃度は、波長530nm及び透過率90±2%で分光分析器(Baush&Lomb)を用いて調整した。その濁度は、1.0〜6.0×106ufc/mlであった。そこから新たな希釈液をイースト窒素塩基性グルコース(Yeast Nitrogen base glucose:YNBG)培地中に製造し、それにより、0.5〜2.5×103ufc/mlの最終接種物を得た。
【0071】
ジュース中のマイクロ希釈法(micro-dilution)を用いて、最小阻害濃度(CIM)を測定した。その後、文献[NATIONAL COMMITTEE FOR CLINICAL LABORATORY STANDARDS (INCCLS, 1997)](M−27A)に基づいて標準化した。
【0072】
テストは、A〜Hと同定された8列で構成された96ウェルを含有する滅菌プラスチックマイクロ−プラーク(Nunclon, Delta, Nunc A/S, Roskilde, Denmark)において行われた。前記各列は、1〜12の12個のウェルを備えていた。各行(A〜H)は、真菌単離物(測定された接種物100μl)に相当し、そして、各列には、YNBGジュース中に2の割合で1/1024(最終濃度9μg/mlに相当する。)まで連続的に希釈させたシトロネラエキスを投与した。各プラークには、陰性及び陽性対照群(賦形剤、及び、イースト(Candida parapsilosis(ATCC 22019):基準物質)を含ませた。
【0073】
前記プラークを毎日モニターリングしながら35℃の滅菌器において72時間インキュベートした。72時間経過後、鏡に映して(reflection in mirror)視覚を通じた比較を行った。CIMを、各イーストの成長を100%阻害できるシトロネラ乾燥エキスの最小濃度とみなした。ここでは、その陽性対照群を基準として用いた。シトロネラアリコートの最小殺真菌濃度(CFM)を測定するために、CIMのウェルからアリコート(成長が見られない。)を移して、薬剤を含んでない培地と比較した。イーストの成長を阻害する最小濃度をCFMとみなした。
【0074】
結果を分析するために、選択された方法によって得られた最小真菌阻害濃度(CIM)、及び、最小殺真菌濃度(CFM)を分析した:
(a)閾値の変化:テストすべき異なる種のイーストに関して、シトロネラエキスのCIM及びCFMにおける上限値及び下限値
(b)テストすべき試料の成長をそれぞれ50%及び90%阻害する(inhibit)ことができるシトロネラエキスの最小阻害濃度として定義されるCIM50及びCIM90
(c)テストすべき試料の成長をそれぞれ50%及び90%妨げる(prevent)ことができるシトロネラの最小殺真菌濃度として定義されるCFM50及びCFM90
【0075】
実施例2.1 爪真菌症におけるイーストについて
外来患者の爪からイースト単離物(19個)を得た。爪真菌症の病因菌として、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)、カンジダ・トロピカリス(C. tropicalis)、カンジダ・グラブラタ(C. glabrata)、及び、カンジダ・パラプシロシス(C. parapsilosis)が含まれた。
【0076】
その結果から、シトロネラエキス10mgに対し賦形剤1mgの割合において使用された最小阻害濃度が、総液体媒体中0.6〜1.25mg/mlであることが分かった。CFM値は、CIM値と同一であったが、それは、全ての種において同じ挙動を示すことを意味する(表3参照)。
【0077】
【表3】

【0078】
実施例2.2 爪真菌症における皮膚糸状菌について
外来患者の爪から皮膚糸状菌の単離物(20個)を得た。この爪真菌症の病因菌には、トリコフィトン・メンタクロフィテス(Trichophyton mentagrophytes)、トリコスポロン・トンスランス(T. tonsurans)、トリコフィトン・ラウビスチェキ(T. raubitscheki)、ミクロスポルム・カニス(Microsporum canis)、ミクロスポルム・ギプセウム(M. gypseum)、ミクロスポルム・フェルギニウム(M. ferrugineum)が含まれた。
【0079】
表4に示した結果から、皮膚糸状菌に対するシトロネラエキスの抗真菌効果を確認することができた。ここで、CMI値は、0.075〜0.6mg/mlの範囲で変動する。エキスの効果(作用)は、全ての皮膚糸状菌に対し殺真菌効果を示し、そのCMI値も同様に0.075〜0.6mg/mlの範囲で変動する。シトロネラエキスに対し最も敏感な皮膚糸状菌は、ミクロスポルム・カニス(M. canis)、及び、トリコスポロン・トンスランス(T. tonsurans)であり、その数値は、0.075mg/mlであった。T. tonsuransの場合、最も高い水準のCIM及びCFMを示した(ぞれぞれ0.075mg/ml及び0.6mg/mlであった)。その他の皮膚糸状菌は、非常に狭い範囲のCMIを示すか(即ち、変化がほとんどない。)(M. canis, M. Gypseum及びT. mentagrophytes)、又は、全く変化がなかった(M. ferrugineuma及びT. raubistscheki)。
【0080】
【表4】

【0081】
実施例2.3 外陰膣カンジダ症におけるイーストについて
外来患者から得たカンジダ・アルビカンスの外陰膣単離物(23個)を使用した。
【0082】
表5の結果から、シトロネラエキスの最小阻害濃度が、0.018〜0.62mg/mgの範囲内において変化することが分かった(表6のデータ参照)。CFM値は、CIM値と同一であったが、それは、全てのイーストに対し同様の挙動を示すことを意味する。
【0083】
したがって、爪真菌症を患う患者から得たイースト(19個)、皮膚糸状菌(20個)、及び、1個の標準試料(ATCC)に対し様々な濃度を試みて、エキスのCIM及びCFMを得た。ここで、0.018〜1.25mg/mlのシトロネラエキスの場合、テストすべき真菌を全体的に阻害することができなかった。
【0084】
【表5】

【0085】
生物活性結果に基づくと、シトロネラエキスは、ヒトの臨床的症状をもたらす真菌単離物に対するインビトロテストにおいて優れた効果を示した。この活性には、静真菌活性だけでなく、殺真菌活性も含まれ、かつ、低濃度においてもかかる効果を奏した。また、使用された抽出液体(抽出溶媒)に基づく変化も見られなかった。
【実施例3】
【0086】
抽出の最適化
エチルアルコール50、70、94.6%の3つの希釈液(dilution)を用いたエキスを得た。このエキスは、10、20、30%(p/p)のシトロネラを含有した。このエキスをろ過し、回転式蒸発器にて濃縮させ、その後、凍結乾燥させた。抽出の最適化のために、これを用いた乾燥残留物及び抗菌性評価を行った。それに加えて、次のパラメータを確立した:1%水溶液におけるpH値、官能特性(色、臭い、味(風味))、乾燥残留物、活性物質のテノール、及び、薄層クロマトグラフィ(CCD)。
【0087】
乾燥残留物の結果を表6及び7に示した。
【0088】
【表6】

【0089】
【表7】

【0090】
全てのエキスを対象として、抗真菌活性評価を行った。新鮮な葉及び乾燥した葉、並びに、その供給先(producer)を変えて同様の実験を行った。その結果を表8に示す。最適化プロセス対(versus)抗真菌活性に基づいて、50、70、95.6%に希釈した水性アルコール抽出液(extractor liquid)が、シトロネラエキスを得るのに適しており、且つ、患者のイースト単離物及び標準イースト(ATCC)に対するインビトロ抗真菌活性を妨げないことが分かった。好ましい植物の濃度:最も良い反応(効果)は、10〜20%(p/p)において得られた。
【0091】
【表8】

【0092】
上記実施例では、液剤、ゲル剤、ポマード剤、クリーム剤、バール剤(oval)、カプセル剤、及び、錠剤であり得る爪真菌症、皮膚真菌症、及び、カンジダ症に有効な医薬組成物において、有効成分として用いられる本発明の水性アルコールエキスを製造するための方法を言及したが、本発明がそれらに制限されるものではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
爪真菌症、皮膚真菌症、及びカンジダ症の治療に用いられる抗真菌活性を有する医薬組成物であって、
5〜40%(p/p)のシトロネラの水性アルコールエキスと、
1以上のC1〜C10のアルコール性有機溶媒と、
を含むことを特徴とする医薬組成物。
【請求項2】
前記シトロネラエキスの濃度が、10〜30%(p/p)であることを特徴とする請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記アルコール性有機溶媒が、水中の50%エタノールであり、かつ、前記シトロネラ乾燥エキスに対し1:10の比率で存在することを特徴とする請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記アルコール性有機溶媒が、グリコールであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記グリコールが、ジプロピレングリコールであり、かつ、前記シトロネラ乾燥エキスに対し0.5:20の比率で存在することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記アルコール性有機溶媒が、ジプロピレングリコールであり、かつ、前記シトロネラ乾燥エキスに対し10:1の比率で存在することを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
Mycrosporum canis、Mycrosporum ferrugineum、Mycrosporum gypseum, Trichophytum mentagrophytes、Trichophytum raubistscheki及びTrichosporum tonsurans を含む皮膚糸状菌、並びに、Candida albicans, Candida glabrata, Candida parapsilosis及びCandida Tropicalisを含むイーストに対し50〜100%の真菌阻害活性を有することを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
爪真菌症、皮膚真菌症、及び、カンジダ症を治療するための医薬組成物の製造におけるシトロネラの水性アルコールエキスの使用。
【請求項9】
Mycrosporum canis、Mycrosporum ferrugineum、Mycrosporum gypseum, Trichophytum mentagrophytes、Trichophytum raubistscheki及びTrichosporum tonsurans を含む皮膚糸状菌、並びに、Candida albicans、Candida glabrata、Candida parapsilosis及びCandida Tropicalisを含むイーストに対し50〜100%の真菌阻害活性を有することを特徴とする請求項8に記載の使用。
【請求項10】
組成物に用いられるシトロネラの葉の水性アルコールエキスの製造方法であって、
(a)C1〜C6のアルコール性有機溶媒の存在下に前記シトロネラの組織を分解するステップと、
(b)制御された圧力及び温度における蒸発によって、前記有機溶媒を濃縮するステップと、
(c)凍結乾燥するステップと、
を含むことを特徴とする製造方法。
【請求項11】
前記C1〜C6のアルコール性有機溶媒としてエタノールを用いることを特徴とする請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
前記ステップ(b)において、33〜35℃の温度及び減圧(真空)下で前記蒸発を行うことを特徴とする請求項10又は11に記載の製造方法。

【図3】
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【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2010−521499(P2010−521499A)
【公表日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−553873(P2009−553873)
【出願日】平成20年3月14日(2008.3.14)
【国際出願番号】PCT/BR2008/000073
【国際公開番号】WO2008/113146
【国際公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【出願人】(503230173)アプセン ファーマシューティカ エス.エー. (1)
【出願人】(509260628)ユニバーシダド エスタデュアル ド マリンガ (1)
【Fターム(参考)】