説明

シミュレーション方法及びシミュレーション装置

【課題】タイヤの挙動を高精度に予測することが可能なシミュレーション方法及びシミュレーション装置を提供する。
【解決手段】 シミュレーション方法は、空気入りタイヤを有限個の要素に分割したタイヤモデルを用いたシミュレーション方法である。なお、空気入りタイヤは、空隙を有するゴム部材からなるトレッドゴム部を備える。シミュレーション方法は、トレッドゴム部を有限個の要素に分割したトレッドモデルを生成するステップAと、トレッドモデルに含まれる空隙を形成する要素に対して、前記空隙の体積と前記空隙の内部圧力との乗算値が一定値となる関係に基づいて、変位条件を設定するステップBと、前記変位条件を設定したトレッドモデルを備える前記タイヤモデルを生成するステップCとを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シミュレーション方法及びシミュレーション装置に関する。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤ(以下、タイヤ)の開発の効率化を図るためには、有限要素法(FEM)などの数値解析手法を用いたシミュレーションが有効である(例えば、特許文献1参照)。有限要素法は、タイヤを有限個の要素に分割したタイヤモデルを生成するとともに、各々の要素に対して、材料特性や変位条件などを設定して、計算機上で挙動を解析するものである。このようなシミュレーションによって、タイヤを車両に装着して走行試験を行わなくても、新たに設計したタイヤの挙動を予測・評価することが可能になってきている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−168505号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、従来技術に係るシミュレーション方法では、発泡ゴムのように空隙を有するゴム部材からなるトレッドゴム部を備えるタイヤを対象としてシミュレーションを行う場合、空隙を分割した要素に、特性などの条件を何も設定していないタイヤモデルが用いられている。つまり、従来技術に係るシミュレーション方法では、空隙を分割した要素が、空間として設定されていた。
【0005】
その結果、従来技術に係るシミュレーション方法では、例えば、タイヤモデルに入力を与えてタイヤの挙動を予測するシミュレーションを行う場合、空隙の周辺に位置する要素が、空隙の内部領域に自由に膨出できてしまうため、実際よりもタイヤモデルの変形量が大きく算出されてしまうという問題があった。つまり、従来の方法では、空隙を有するゴム部材からなるトレッドゴム部を備えるタイヤを対象にして、タイヤの挙動などのシミュレーションを行う場合、タイヤの挙動が正確に予測できないという問題があった。
【0006】
そこで、本発明は、上述の課題に鑑みてなされたものであり、タイヤの挙動を高精度に予測することが可能なシミュレーション方法及びシミュレーション装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決するため、本発明は以下の特徴を備える。すなわち、本発明の第1の特徴は、空気入りタイヤを有限個の要素に分割したタイヤモデル(タイヤモデル50)を用いたシミュレーション方法であって、前記空気入りタイヤは、空隙を有するゴム部材からなるトレッドゴム部を備え、前記トレッドゴム部を有限個の要素に分割したトレッドモデル(トレッドモデル11)を生成するステップA(ステップS120)と、前記トレッドモデルに含まれる前記空隙(例えば、空隙70)を形成する要素(例えば、要素110乃至180)に対して、前記空隙の体積(V)と前記空隙の内部圧力(P)との乗算値が一定値(k)となる関係に基づいて、変位条件(例えば、境界条件としての拘束条件)を設定するステップB(ステップS130)と、前記変位条件を設定したトレッドモデルを備える前記タイヤモデルを生成するステップC(ステップS140)とを含むことを要旨とする。
【0008】
本発明の第1の特徴に係るシミュレーション方法では、トレッドモデルに含まれる空隙を形成する要素に、空隙の体積と空隙の内部圧力との乗算値が一定値となる関係に基づいて、変位条件を設定する。また、シミュレーション方法では、変位条件を設定したトレッドモデルを備えるタイヤモデルを生成する。このように、かかるシミュレーション方法によれば、要素に変位条件を何も設定していないタイヤモデルを用いてシミュレーションを行う場合と比べて、タイヤの挙動を高精度に予測することが可能になる。
【0009】
本発明の第2の特徴は、前記ステップBでは、前記トレッドモデルに含まれる前記空隙を形成する要素の内、前記トレッドゴム部の内部に密閉された前記空隙(空隙70)を形成する要素に対してのみ、前記変位条件を設定することを要旨とする。
【0010】
本発明の第2の特徴に係るシミュレーション方法では、トレッドゴム部の内部に密閉された空隙を形成する要素に対してのみ、空隙の体積と空隙の内部圧力との乗算値が一定値となる関係に基づいた変位条件を設定する。すなわち、トレッドゴム部の内部に密閉されず、トレッドゴム部の表面に露出する空隙を形成する要素に対しては、上述した関係に基づく変位条件を設定しない。ここで、実際にトレッドゴム部の表面に露出する空隙は、変形した場合であっても、内部圧力が外部に拡散するため、内部圧力に変化はない。よって、かかるシミュレーション方法によれば、実際の状態に即して変位条件を設定するので、シミュレーションによってタイヤの挙動を高精度に予測することが可能になる。
【0011】
本発明の第3の特徴は、シミュレーション装置であって、上述のシミュレーション方法を実行することを要旨とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、タイヤの挙動を高精度に予測することが可能なシミュレーション方法及びシミュレーション装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、本発明の実施形態に係るシミュレーション方法を実行するシミュレーション装置の構成図である。
【図2】図2は、タイヤモデルをタイヤ周方向に所定間隔で分割した1ピッチ分の分割モデルを表す図である。
【図3】図3は、タイヤモデルの全体構成を表す図である。
【図4】本実施形態に係るタイヤの挙動を予測するシミュレーション方法に関わる処理を説明するフローチャートである。
【図5】図5は、空隙を分割した要素のイメージを表す斜視図である。
【図6】図6は、トレッドゴム部の表面に露出した空隙を分割した要素のイメージ図を表す斜視図である。
【図7】図7は、従来技術に係るシミュレーション方法と、本実施形態に係るシミュレーション方法とによって、トレッドモデルの一部ブロックに入力を与えた場合の変形量の比較を表す断面イメージ図が示されている。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に係るシミュレーション方法の実施形態について、図面を参照しながら説明する。具体的には、(1)シミュレーション装置(2)シミュレーション方法、(3)作用・効果について説明する。
【0015】
なお、以下の図面の記載において、同一または類似の部分には、同一又は類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なのものであり、各寸法の比率などは現実のものとは異なることを留意すべきである。従って、具体的な寸法などは以下の説明を参酌して判断すべきものである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれる。
【0016】
(1)シミュレーション装置
図1には、本発明の実施形態に係るタイヤ挙動予測方法を実行するシミュレーション装置としてのコンピュータ300の概略が示されている。図1に示すように、コンピュータ300は、半導体メモリー、ハードディスクなどの記憶部(不図示)、処理部(不図示)などを備えた本体部310と、入力部320と、表示部330とを備える。処理部は、本実施形態に係るシミュレーション方法(後述)に関わる処理を実行する。
【0017】
コンピュータ300は、図示しないが着脱可能な記憶媒体と、この記憶媒体に対して書き込み・読み出しを可能にするドライバが備えられていてもよい。本実施形態に係るシミュレーション方法に関わる処理を実行するプログラムを予め記憶媒体に記録しておき、記憶媒体から読み出されたプログラムを実行してもよい。コンピュータ300の記憶部にプログラムを格納(インストール)して実行してもよい。コンピュータ300は、図示しないが、例えば、ネットワークに接続可能であってもよい。ネットワークを介して、本実施形態に係るシミュレーション方法に関わる処理を実行するプログラムを取得してもよい。
【0018】
また、本実施形態に係るシミュレーション装置は、有限要素法(FEM)を適用して、本実施形態に係るシミュレーションを実行する。具体的に、シミュレーション装置は、評価対象の空気入りタイヤを有限個の要素に分割したタイヤモデルを用いたシミュレーションを実行する。
【0019】
ここで、図2には、タイヤモデルをタイヤ周方向に所定間隔毎に分割した分割モデル10の斜視図の一例が示されている。なお、図2において、X軸は、トレッド幅方向を示し、Y軸は、タイヤ周方向を示し、Z軸は、タイヤ径方向を示す。シミュレーション装置は、図2に示すように、トレッドゴム部を有限個の要素に分割したトレッドモデル11と、ベルト、プライ、補強コードなどを含む空気入りタイヤのトレッドゴム部以外の部分を有限個の要素に分割したケースモデル12と作成する。なお、シミュレーション装置は、トレッドモデル11の要素サイズを、ケースモデル12の要素サイズよりも小さくして、トレッドモデル11を形成する。
【0020】
シミュレーション装置は、トレッドモデル11と、ケースモデル12とを結合して分割モデル10を形成する。また、シミュレーション装置は、図3の斜視図に示すように、分割モデル10をタイヤ周方向に一周分展開することで、タイヤモデル50を形成する。
【0021】
なお、本実施形態において、トレッドゴム部は、路面に接地する接地面を有するとともに、トレッドパターンが形成される領域である。また、トレッドゴム部は、空隙を有するゴム部材からなる。具体的に、トレッドゴム部には、発泡によって形成された空隙を有する発泡ゴムがゴム部材として用いられている。また、トレッドゴム部のトレッド幅方向(X軸方向)の幅は、正規内圧を有する空気入りタイヤに正規荷重をかけた際に、路面に接地する範囲である。また、正規内圧とは、JATMA(日本自動車タイヤ協会)のYear Book2008年度版のタイヤの測定方法で規定された空気圧である。また、正規荷重とは、JATMA(日本自動車タイヤ協会)のYear Book2008年度版の単輪を適用した場合の最大負荷能力に相当する荷重である。
【0022】
シミュレーション装置は、上述する方法で形成されたタイヤモデル50に対して、荷重を与える、又は、路面をモデル化した路面モデル(不図示)上で転動させることで、変形などのタイヤの挙動を予測する。このようにして、シミュレーション装置は、空気入りタイヤに相当するタイヤモデル50の挙動を予測するシミュレーションを実行することができる。
【0023】
(2)シミュレーション方法
次に、本発明の実施形態に係るタイヤモデル50を用いたシミュレーション方法であるタイヤ挙動予測方法について、図面を参照して詳細に説明する。図4は、本実施形態に係るタイヤ挙動予測方法に関わる処理を説明するフローチャートである。
【0024】
ステップS110において、シミュレーション装置は、空隙を有するゴム部材からなるトレッドゴム部の内部構造を測定して、トレッドゴム部のジオメトリ情報を取得する。この、ジオメトリ情報は、内部構造を非破壊で測定できるX線CTスキャンを用いて、トレッドゴム部に配置される空隙(発泡)を含む内部構造を測定した測定結果である。シミュレーション装置は、測定結果であるジオメトリ情報を入力する。このとき、シミュレーション装置は、空気入りタイヤ全体ではなく、少なくとも分割モデル10を構成するトレッドモデル11に相当するトレッドゴム部のジオメトリ情報を入力する。なお、ジオメトリ情報は、点群データであってもよいし、ポリゴン化された情報であってもよい。
【0025】
ステップS120において、シミュレーション装置は、トレッドゴム部を有限個の要素に分割したトレッドモデル11を生成する。具体的に、シミュレーション装置は、ジオメトリ情報に基づいて、トレッドモデル11を生成する。ここで、一般的に、発泡ゴムに形成される空隙(発泡)の径は、数十〜百μm程度の範囲である。したがって、シミュレーション装置は、空隙の形状をより正確に分割するため、要素サイズを空隙(発泡)の径以下とすることが好ましい。具体的には、シミュレーション装置は、数μm以下の要素サイズによって、トレッドモデル11を生成することが好ましい。
【0026】
ステップS130において、トレッドモデル11に含まれる空隙を形成する要素に対して、空隙の体積と空隙の内部圧力との乗算値が一定値となる関係に基づいて、変位条件を設定する。具体的に、シミュレーション装置は、ジオメトリ情報に基づいて、トレッドゴム部の内部に形成される空隙を形成する要素を特定するとともに、特定した要素に基づいて、空隙の体積を算出する。なお、空隙の体積は、特定した要素の数から算出してもよいし、ジオメトリ情報に基づいて、空隙の3次元形状を特定するとともに、特定した空隙の3次元形状から算出してもよい。
【0027】
ここで、図5には、空隙70を分割した要素のイメージを表す斜視図が示されている。なお、図5において、X軸、Y軸、Z軸のそれぞれの方向は、図2に示した方向と同様である。図5に示すように、シミュレーション装置は、空隙70を分割した要素110乃至180を要素グループ100として特定するとともに、要素グループ100の内部体積(V)を算出する。なお、シミュレーション装置は、トレッドゴムに形成される複数の空隙の各々を対象として、空隙の各々の体積を算出する。また、シミュレーション装置は、空隙に対して設定すべき内部圧力(例えば、101325Pa:1気圧)を取得する。なお、内部圧力は、入力部320を用いて、ユーザによって入力された値を取得してもよいし、記憶媒体に記憶される情報から取得してもよい。
【0028】
また、シミュレーション装置は、トレッドモデルに含まれる空隙70を形成する要素に対して、変位条件として、拘束条件(境界条件)を設定する。ここで、本実施形態において、空隙70を形成する要素とは、空隙70の表面領域を分割した要素を示す。
【0029】
具体的に、図5に示すように、シミュレーション装置は、要素グループ100の外周に形成される境界面に拘束条件を設定する。なお、図の例では、要素グループ100の外周に形成される要素の境界面は、境界面111乃至113、境界面121乃至123、境界面131乃至133、境界面141乃至143、境界面151乃至153、境界面161乃至163、境界面171乃至173、境界面181乃至183が該当する。言い換えると、要素グループ100の外周に形成される境界面は、要素グループ100内の全ての境界面のうち、空隙70の表面と交差していない面ともいえる。
【0030】
また、シミュレーション装置は、上述した境界面に対して、空隙70の体積(V)と、空隙70の内部圧力(P)との乗算値が一定値(k)となる関係を満たすように拘束条件を設定する。つまり、シミュレーション装置は、ボイルの法則に基づいて、下記1式の関係を満たすように拘束条件を設定する。なお、下記の拘束条件を設定することによって、要素グループ100の外周に形成される境界面は、変形に対する抑制が働く。
【0031】

空隙の体積(V)*空隙の内部圧力(P)=一定値(k) ・・・・・1式

また、このとき、シミュレーション装置は、トレッドモデル11に含まれる空隙を形成する要素の内、トレッドゴム部の内部に密閉された空隙を形成する要素110乃至180に対してのみ、拘束条件を設定する。つまり、シミュレーション装置は、トレッドゴム部の表面に露出する空隙に対しては、上述した拘束条件を設定しない。なお、トレッドゴム部の表面とは、路面に接地する接地面、溝を構成する側面及び底面など、外気に触れている面を示す。
【0032】
ここで、図6には、トレッドゴム部の表面に露出した空隙80を分割した要素のイメージ図が示されている。図6に示すように、シミュレーション装置は、空隙80を分割した要素210乃至240を要素グループ200として特定する。シミュレーション装置は、トレッドゴム部の表面を分割した要素(表面に位置する要素)を予め把握しており、要素グループ200に含まれる要素210乃至240が、トレッドゴム部の表面を分割した要素を含むか否かを判定する。
【0033】
また、シミュレーション装置は、トレッドゴム部の表面を分割した要素を含まないと判定した場合には、上述した拘束条件を設定する。一方、シミュレーション装置は、トレッドゴム部の表面を分割した要素を含むと判定した場合には、要素グループ200に対しては、従来技術のように、空間として設定する。具体的に、シミュレーション装置は、要素グループ200の外周に形成される境界面に対しては、拘束条件を設定しない。つまり、境界面211乃至213、境界面221乃至223、境界面231乃至233、境界面241乃至243に対しては、拘束条件を設定しない。
【0034】
なお、トレッドモデル11には、空隙を形成する要素が複数含まれているため、シミュレーション装置は、トレッドモデル11に含まれる空隙を形成する要素の一つ一つに対して、上述した処理を実行して、拘束条件を設定したトレッドモデル11を生成する。
【0035】
ステップS140において、拘束条件(変位条件)を設定したトレッドモデル11を備えるタイヤモデル50を生成する。具体的に、シミュレーション装置は、トレッドモデル11と、別途生成したケースモデル12とを結合して分割モデル10を生成するとともに、分割モデル10をタイヤ周方向に一周分展開することで、タイヤモデル50を形成する。
【0036】
ステップS150において、タイヤモデルを用いてシミュレーションを実施する。具体的に、シミュレーション装置は、タイヤモデル50に対して、荷重を与える、又は、路面をモデル化した路面モデル(不図示)上で転動させることで、変形などのタイヤの挙動を予測する予測値を算出する。
【0037】
(3)作用・効果
本実施形態に係るシミュレーション方法によれば、シミュレーション装置は、トレッドモデル11に含まれる空隙を形成する要素に、空隙の体積(V)と空隙の内部圧力(P)との乗算値が一定値(k)となる関係を拘束条件として設定する。また、シミュレーション装置は、拘束条件を設定したトレッドモデル11を備えるタイヤモデル50を生成するとともに、タイヤモデル50を用いてタイヤの挙動を予測するシミュレーションを実行する。
【0038】
ここで、図7には、従来技術に係るシミュレーション方法によって、トレッドモデルの一部ブロック250に入力Fを与えた場合の変形と、本実施形態に係るシミュレーション方法によって、トレッドモデルの一部ブロック260に入力Fを与えた場合の変形とを表す断面イメージ図が示されている。なお、いずれも、完全固定の拘束条件が与えられた面1000に配置されている。図7に示すように、本実施形態に係るブロック260では、空隙261を形成する要素に拘束条件を与えているため、従来技術に係るブロック260のように、空隙251を形成する要素に拘束条件を与えていない場合と比べて、変形を抑制することができる。
【0039】
このように、本実施形態に係るシミュレーション方法によれば、空隙によって抑制される実際の変形を考慮して、空隙を形成する要素に拘束条件を設定するので、空隙を形成する要素に拘束条件を何も設定していないタイヤモデルを用いてシミュレーションを行う場合と比べて、タイヤの挙動を高精度に予測することが可能になる。
【0040】
また、本実施形態に係るシミュレーション方法では、トレッドモデル11において、トレッドゴム部の内部に密閉された空隙を形成する要素に対してのみ、拘束条件を設定する。すなわち、トレッドゴム部の内部に密閉されず、トレッドゴム部の表面に露出する空隙を形成する要素に対しては、上述した関係に基づく変位条件を設定しない。ここで、実際にトレッドゴム部の表面に露出する空隙は、変形しても内部圧力に変化はない。よって、かかるシミュレーション方法によれば、実際の状態に即した拘束条件を設定するので、シミュレーションによってタイヤの挙動を高精度に予測することが可能になる。
【0041】
[比較評価]
次に、本発明の効果を更に明確にするために、以下の実施例に係るシミュレーション方法を用いて行った比較評価について説明する。具体的には、(1)比較例及び実施例の説明、(2)評価方法、(3)評価結果について説明する。なお、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。
【0042】
(1)比較例及び実施例の説明
まず、比較例に係るシミュレーション方法と、実施例1乃至2に係るシミュレーション方法とによって、トレッドモデルを生成して比較することとした。具体的には、X線CTスキャンを用いて、発泡ゴムからなるトレッドゴム部の内部構造を測定し、測定結果であるジオメトリ情報から、有限個の要素に分割したトレッドモデルを生成した。以下、比較例、実施例1乃至2について説明する。
【0043】
比較例に係るシミュレーション方法は、従来技術に係る方法を用いた。具体的に、比較例に係るシミュレーション方法は、トレッドモデルに含まれる空隙を形成する要素に対して、何も拘束条件を設定しないものを用いた。
【0044】
実施例1に係るシミュレーション方法は、トレッドモデルに含まれる空隙を形成する全ての要素に対して、拘束条件を設定したものを用いた。具体的に、空隙の体積(V)と、空隙の内部圧力(P)との乗算値が一定値(k)となる関係を満たすように設定したものを用いた。なお、体積(V)は、空隙を分割した要素の体積に基づいて算出し、内部圧力(P)は、101325Pa(1気圧)とした。
【0045】
実施例2に係るシミュレーション方法は、上述した実施形態に示す方法を用いた。具体的に、実施例2に係るシミュレーション方法は、トレッドモデル11に含まれる空隙を形成する要素の内、トレッドゴム部の内部に密閉された空隙を形成する要素に対してのみ、拘束条件を設定したものを用いた。なお、拘束条件は、実施例1と同様である。また、かかる点を除き、他は、上述した実施例1と同様である。
【0046】
(2)評価方法
比較例1乃至2、実施例の空気入りタイヤを用いて、以下の条件において、評価を行った。
【0047】
・ トレッドゴム部(サンプル)のサイズ : 幅(X)10mm×長さ(Y)10mm×高さ(Z)10mm
・ サンプル温度: −2℃
・ 評価方法: トレッドゴム部(サンプル)の一方の面を治具の平面に固定し、対向する他方の面に圧縮力を与えて、圧縮剛性値(実測値)を実測した。また、比較例、実施例1乃至2の方法によって、同条件のトレッドゴム部(サンプル)の圧縮剛性値を算出するとともに、実測値、比較例、実施例1乃至2を比較評価した。
【0048】
(3)評価結果
それぞれの方法による評価結果について、表1を参照しながら説明する。表1には、評価結果が示されている。なお、表1において、圧縮剛性値は、実測値を基準(100)にした場合の指数を示しており、この指数と基準(100)との差が小さいほど、タイヤの挙動の予測精度が高いことを示す。
【表1】

【0049】
表1に示されるように、実施例1乃至2に係る方法は、比較例に係る方法と比較して、圧縮剛性値の予測精度が高い結果となった。つまり、実施例1乃至2に係るシミュレーション方法では、空隙によって抑制される実際の変形を考慮して、空隙を形成する要素に拘束条件を設定するので、空隙を形成する要素に拘束条件を何も設定していない比較例と比べて、タイヤの挙動を高精度に予測することが可能になることが証明された。
【0050】
なお、実施例2に係る方法は、実施例1に係る方法と比べて、より精度が高い結果となった。つまり、トレッドモデル11に含まれる空隙を形成する要素の内、トレッドゴム部の内部に密閉された空隙を形成する要素に対してのみ、拘束条件を設定した方が、精度が高いことが証明された。
【0051】
[その他の実施形態]
上述したように、本発明の実施形態を通じて本発明の内容を開示したが、この開示の一部をなす論述及び図面は、本発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例が明らかとなる。例えば、本発明の実施形態は、次のように変更することができる。
【0052】
例えば、上述した実施形態では、シミュレーション装置は、空隙を形成する要素に対して、ボイルの法則に基づいた拘束条件を設定していたが、温度を考慮した拘束条件を設定してもよい。すなわち、温度(T)の変化を考慮して、(体積V*内部圧力P)/温度(T)=一定値(k)のボイルシャルルの法則を適用してもよい。
【0053】
このように、本発明は、ここでは記載していない様々な実施の形態などを含むことは勿論である。したがって、本発明の技術的範囲は、上述の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。
【符号の説明】
【0054】
10…分割モデル、11…トレッドモデル、12…ケースモデル、50…タイヤモデル、70…空隙、80…空隙、250…ブロック、251…空隙、260…ブロック、261…空隙、300…コンピュータ、310…本体部、320…入力部、330…表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気入りタイヤを有限個の要素に分割したタイヤモデルを用いたシミュレーション方法であって、
前記空気入りタイヤは、空隙を有するゴム部材からなるトレッドゴム部を備え、
前記トレッドゴム部を有限個の要素に分割したトレッドモデルを生成するステップAと、
前記トレッドモデルに含まれる前記空隙を形成する要素に対して、前記空隙の体積と前記空隙の内部圧力との乗算値が一定値となる関係に基づいて、変位条件を設定するステップBと、
前記変位条件を設定したトレッドモデルを備える前記タイヤモデルを生成するステップCと
を含むことを特徴とするシミュレーション方法。
【請求項2】
前記ステップBでは、前記トレッドモデルに含まれる前記空隙を形成する要素の内、前記トレッドゴム部の内部に密閉された前記空隙を形成する要素に対してのみ、前記変位条件を設定する
ことを特徴とする請求項1に記載のシミュレーション方法。
【請求項3】
請求項1又は2の何れかに記載のシミュレーション方法を実行するシミュレーション装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2013−14200(P2013−14200A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−147455(P2011−147455)
【出願日】平成23年7月1日(2011.7.1)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】