説明

シャーシフレームのサイドメンバ構造

【課題】 この発明は、トラック等に用いられるシャーシフレームのサイドメンバ構造であって、ブランクの板取りを効率的におこなえる構造に関する。
【解決手段】2つの溝形断面のサイドメンバ構成部材を組み合わせて、矩形断面で一連のサイドメンバを形成するシャーシフレーム用のサイドメンバ構造において、サイドメンバ構成部材のブランクの一部に切込み部を形成し、前記ブランクを溝型断面に成形してから上記切込み部を溶接にて接合してなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、トラック等の車両に用いられる溶接組立てシャーシフレームのサイドメンバ構造の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、図7に示すように、一般にトラック等のシャーシフレーム30は、矩形断面または溝型断面を有して長手方向に延びる一対のサイドメンバ30A、30A間に複数のクロスメンバ30B、30B・・・を架け渡して固着したものであり、このシャーシフレーム30をベースとして図示しない車軸やサスペンション、燃料タンク等の各種部品が取り付けられるようになっている。
このサイドメンバ30Aは、その中央部分で略水平に延びて車体本体を支持する本体支持部32と、本体支持部32から組立時に車両前方(図中左方向)へ向かって延び徐々に上昇して先端が平坦となる前方部31と、前記本体支持部32の後端から後方(図中右方向)へ向かって延び徐々に上昇して先端が平坦となる後方部33とからなる略波形状からなっており、各部にかかる荷重による曲げモーメントの分布に応じてその厚みや高さの釣り合いなどが決定されている。
上記サイドメンバ30Aを成形するため、従来は、例えば、実開昭60−68869号や実開平4−26182号のように、長手方向に部材を複数に分割しておき、それぞれの分割部材を溶接等の手段をもって一体に接続する構造が知られている。この種の分割構造を模式的に図8に示す。
上記構造では溶接時の入熱によって素材の強度が低下し、サイドメンバひいてはシャーシフレームの疲労耐久性能が著しく低下するという問題がある。
特に、過酷な用途に使用されるトラック等の車両においては、商品性を損なうほど致命的な商品価値低下を招いてしまう虞れがある。
【0003】
一方、図9に示すように、サイドメンバ30Aを長手方向に一体に形成して継ぎ目を無くすることにより、素材強度を低下させない構造も知られている。
しかし、この場合、部材が長尺となるため、材料歩留まりが悪く、上記サイドメンバを分割して接合した分割構造と比較して材料コストが高くなるという問題が生じる。
【0004】
即ち、図10に示すように、鋼板材Kに板取りされるサイドメンバのブランク30A’の形状は、サイドメンバ(またはその構成部材)が溝型断面の場合にこれを展開した形状からなっており、ブランク形状における前方部31’および後方部33’と本体支持部32’の高低差から、鋼板材Kのブランク剪断時の送り方向(x方向)のピッチの幅P11が広くなる。
鋼板材Kで、上記送り方向の前端縁K1側に板取りされたブランク30A’の本体支持部32’は、上記前端縁K1に対して大きく凹んでいるため第1スクラップ量S11が多く、また上記送り方向の後端縁K2側に配置された別のブランク30A”の前方部31”および後方部33”は前記鋼板材Kの後端縁K2に対して凹んでいるため第2スクラップ量S12が多くなる。
それゆえ、サイドメンバのブランク形状を鋼板材から板取りする際に材料の歩留まりが悪くなるという問題点があった。
【特許文献1】実開昭60−68869号
【特許文献2】実開平4−26182号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記事情に鑑みて創案されたものであって、その主たる課題は、耐久性の求められる過酷な用途に使われる長尺のシャーシフレームに対し、一体構造のサイドメンバと同等の耐久性を維持しつつ、ブランク成形時の材料歩留まりを向上させることによって、材料コストを低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、請求項1の発明では、
2つの溝形断面のサイドメンバ構成部材を組み合わせて、矩形断面で一連のサイドメンバを形成するシャーシフレーム用のサイドメンバ構造において、
サイドメンバ構成部材のブランクの一部に切込み部を形成し、
前記ブランクを溝型断面に成形してから上記切込み部を溶接にて接合してなることを特徴とする。
また、請求項2の発明では、
前記サイドメンバ構成部材が、長手方向中央に本体支持部を有し、該本体支持部の両端に連接して延長方向に延びて前記本体支持部に対して斜めに延びる前方部および後方部を有しており、溝型断面が、シャーシ組立時に立設する側表面と、該側表面に対してその上下で折り曲げられる一対のフランジとからなっており、
切込み部が、ブランクの本体支持部に対応する中央部分で、シャーシ組立時に上方となるフランジから側表面に対応する部分の中途位置まで上下に延びており、切込みの開口側が幅広く、切込み先端側が幅狭く形成されてなることを特徴とする。
また、請求項3に記載の発明では、
前記切込み部を、溶接によって接合してなることを特徴とする。
更に請求項4の発明では、
前記切込み部が1つないし複数個所存在することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
サイドメンバのブランク形状において、その車体支持部に切込み部を設けて略直線状に延びる部分を前記切込み部を屈曲部として略ヘ字型に曲成して鋼板材上に配置することにより、本体支持部に対する前方部および後方部の傾斜角度を小さくすることができる。
これにより、ブランク状態での鋼板材のブランク形成時の送り方向(x方向)において、各ブランクの送りピッチの距離が短く抑えられる。
それゆえ、高炉での圧延サイズによって決められている1枚の鋼板材から取れるブランクの数量を増やすことができると共に、鋼板材の前記送り方向前端縁と後端縁の部分でのスクラップを減らすことができ、飛躍的に歩留まりが向上し、材料コストの低減につながる。
サイドメンバは、車体支持部となる中央近傍では上下曲げ入力によって下側に引っ張り入力がかかり、この部位の耐久性を必要とするが、本発明ではサイドメンバの下側には切込み部を設けないので継ぎ目が生ぜず、耐久性能の低下は発生しない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
この発明は、サイドメンバ構成部材の中央部分のブランクに切込み部を形成して、ブランク形状を、成形するサイドメンバ構成部材の凹凸の幅より狭く抑えることで、強度を落とさず板取りの効率化を実現した。
以下に、この発明の溶接組立てシャーシフレームのサイドメンバ構造の好適な実施例について図面を参照しながら説明する。
【実施例1】
【0009】
[サイドメンバ構成部材]
図1に示すように、本実施例のシャーシフレームのサイドメンバ構造は、溝形のサイドメンバ構成部材1を2つ重ね合わせて溶接により接合し(図1(b)参照)、図7に示したような略矩形の閉断面を有するシャーシフレームのサイドメンバを構成するものであり、全体形状をほぼ同じくしている(図1(a)参照)。
【0010】
即ち、サイドメンバ構成部材1は、図1に示すように、中央部分が略水平に延びて車体本体を支持する本体支持部3となっており、該本体支持部3から組立時に車両前方(図中左方向)へ向かって延び徐々に上昇して先端が平坦となる前方部2と、前記本体支持部3の後端から後方(図中右方向)へ向かって延び徐々に上昇して先端が平坦となる後方部4とからなるが、前記本体支持部3の中途位置に溶接の継目5を設けている。
[ブランク]
【0011】
このサイドメンバ構成部材1となるブランク(以下、単に「ブランク」とする)10は、サイドメンバ構成部材1の中央の側表部1bの上下で折り曲げられたフランジ1a、1cを展開した平面形状からなっており、図3に示すように、複数を並べて鋼板材20上に板取りされる。
【0012】
[切込み部]
各ブランク10は、車体支持部に対応する中央部分12に、切込みの開口側が幅広く切込み先端が幅狭に設定された略V字形状の切込み部15を形成している。
この切込み部15は、ブランク10の本体支持部に対応する中央部分12で、シャーシ組立時に上方となるフランジ1aから側表面1bに対応する部分の中途位置まで下向きに延びている。
従って、切込み部15の先端は、側表部1bの下方で、下方のフランジ1cが折り曲げられる下部コーナ部の折曲部(R部)までは達しない程度の切込み量となっている(図2(b)参照)。
【0013】
そして、上記ブランク10を鋼板材20からブランキングする際に、図10に示す従来のような単にサイドメンバ構成部材1の展開形状通りのブランク30A’形状ではなく、図3に示すように、切込み部15を起点にブランクの中央部分12の長手方向両側を徐々に下方(車両下側方向)に折り曲げた様な略ヘ字型に屈曲した形状としている点に特徴がある。
【0014】
本実施例の板取りは、図4(a)に示す従来の図10の切込み部を設けないブランク30A’形状に対して、図4(b)に示すように高低差を小さくしたブランク10形状となっている。
即ち、図4(b)では、切込み部5の溝底部を通る垂直線Cの開いた角度を、図中左側、即ち、前方部分11寄りの角度をθ1とし、図中右側、即ち、後方部分13寄りの角度θ2とする。
【0015】
中央部分12は、上記切込み部5を基点にして、それぞれ図4で図中左側の前方部分12Aがθ1、図中右側の後方部分12Bがθ2の角度で図中下向きに傾斜するので略へ字状となる。
また、中央部分12の前方部分12Aの傾斜に伴って、これに連なる前方部分11は、水平線C2に対してθ1の角度だけ図中下向きに傾斜し、同様に中央部分12の後方部分12Bの傾斜に伴って、これに連なる後方部分13は、水平線C2に対してθ2の角度だけ図中下向きに傾斜する。
【0016】
ここで、前方部分11は、中央部分12と連なる個所がよりθ3の角度で図中上向きに傾斜しており、また後方部分13は中央部分12と連なる個所がよりθ4の角度で図中上向きに傾斜している。
そして、図示例ではθ3>θ1、θ4>θ2であるので、水平線Hに対して、前方部分11は(θ3−θ1)の角度だけ図中上方向に傾斜し、後方部分13は(θ4−θ2)の角度だけ図中上方に傾斜するので、ブランク10形状全体として高低差の小さい波型形状とすることができる。
【0017】
本実施例では、切込み部15について図4(b)のブランク形状を例にして説明したが、この発明ではブランク形状は上記実施例に限定されない。
その場合、切込み部の角度は、ブランク形状全体として高低差の小さい波形形状となるように、車両の耐久性能やレイアウト要件、切込み部の数と配置等を考慮し、かつ車両前後端のキックアップ量の差異を考慮して、最適な曲げ角度に設定することが好ましい。
【0018】
このように鋼板材20上に配置されるブランク10の形状は、前記本体支持部に対応する中央部分12が切込み部15を起点に略ヘ字状に曲成される。
そして、図4(b)で示したように、中央部分12に対する前方部分11、後方部分13のブランク形状は、端部が斜め下向きになるようにやや角度をつけて配置することが可能となり、ブランク10全体の波形形状での高低差の度合いを従来より大幅に小さく設定しうる。
【0019】
これにより図3および図4(b)で示すブランク10の中央部分12に対する前方部分11および後方部分13の傾斜角度は、図中上下方向に大きく飛び出すことなく、送りピッチP1を従来より狭く設定することができる。
本実施例では、従来の板取り(図10参照)では1枚の鋼板材Kにブランク30A’を4枚しか板取りできなかったのが、本実施例では、図3に示すように、同じ寸法の鋼板材20に1枚多い5枚のブランク10を板取りすることができ、また、剪断時送り方向の前端縁21と後端縁22の部分でのスクラップ量S1、S2を大幅に減らすことができる。
【0020】
[継目構造]
次ぎに、前記切込み部15は、端縁部16、17を突き当てた状態で、溶接等の手段を以って1本の継目5となるように接合する(図5(a)参照)。
前記溶接は、例えば、炭酸ガスアーク溶接、MAG溶接、プラズマ溶接、レーザー溶接等、各種の溶接手段に対応できる。
【0021】
このブランク10は、図5(a)の平板の状態のままで切込み部15の端縁部15,16を溶接(縦ベンド)すると、溝状断面に成形する際に下側で折れ曲がるフランジ端が面方向に引っ張られ、板厚の減少が発生したり、端部割れが発生する虞れがある。
【0022】
そこで、成形に際しては、図5(b)に示すように、ブランク10をまず側表部1bの上下のフランジ1a、1cを略直角に折り曲げて溝型断面に成形し、次いで、図5(c)に示すように、溝型断面の状態で切込み部15の端縁部16,17を一体に溶接し、継目5が形成される。
これにより、本体支持部3の下側のフランジ1cは面方向の引っ張りではなく曲げ方向への成形となるため、板厚の減少や端部割れが発生せず、また成形荷重も低く抑えることができる。
【0023】
本実施例では、サイドメンバ構成部材1の中央近傍の本体支持部3に1箇所の切込み部15を形成しているが、この発明では本体支持部3ないしその近傍に切込み部15を複数個所設定しても良い。
【0024】
また、本実施例では、ブランク10の切込み部15がV字形状からなっており、溶接時には継目が縦に垂直に延びる直線状に形成されるが、この発明の切込み部15は、上部が開口し切込先端が幅狭となる切込みであれば、上記形状に限定されず、サイドメンバの用途に応じて適宜変更することができる。
【0025】
例えば、図6(a)は斜め継目構造を示すもので、切込み部を溶接した後の継目5が、溝型断面の上部フランジ1a上の部分5aでは端部に対して垂直に延び、上部コーナ部を超えたサイドメンバ構成部材の側表部1b上の部分5bでは傾斜する直線となるものでもよい。
【0026】
また、図6(b)は波型継目構造を示すもので、切込み部を溶接した後の継目5が、溝型断面の上方のフランジ1a上の部分5aでは端部に対して垂直に延び、上部コーナ部を超えた側表部1b上の部分5bでは波形に屈曲する折れ線状となるものでもよい。
【0027】
更に、図6(c)は丸穴切込み構造を示すもので、切込み部15の先端に丸穴16を有しており、溶接後の継目5の先端に丸穴6が形成される。
この丸穴6は、リベット止めしたり、ボルト等の締め付けに用いるもので、溶接の端面の強度を高めることができる。
【0028】
前記構造は、いずれも突き当てによる溶接であるが、切込み部15の一方の端縁部にすみ肉18を設けて溶接する構造であってもよい。
図6(d)はすみ肉溶接継目構造を示すもので、例えばV字状の切込み部15の一方の端縁部17に段差状にすみ肉18を形成した構造からなっている。
このすみ肉18を設けることで、溶接時に十分な溶け込み量が得られ、溶接の強度を向上させることができる。
その他、要するにこの発明の要旨を変更しない範囲で種々設計変更しうること勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】(a)は実施例1のサイドメンバの側面図、(b)は断面図である。
【図2】サイドメンバ構成部材の要部斜視図であり、(a)は斜め上方から見た図、(b)は斜め下方から見た図である。
【図3】鋼板材にブランクを板取りした平面図である。
【図4】鋼板材上のブランクの形状およびピッチ幅を説明する平面図であり(a)は切込み部が無い従来形状、(b)は切込み部が有る実施例1の場合である。
【図5】ブランクの成形手順を示す斜視図であり、(a)はブランクの平板状態を示す図、(b)は上下のフランジを折り曲げた状態の図、(c)は切込み部を溶接した状態の図である。
【図6】切込み部の異なる形状を示す斜視図であって(a)は継目がサイドメンバ構成部材の側面で傾斜する斜め継目構造、(b)は継目が側面で波形となる波型継目構造、(c)は継目先端に丸穴を有する丸穴切込み構造、(d)はすみ肉溶接継目構造である。
【図7】シャーシフレームを示す斜視図である。
【図8】従来の分割構造のサイドメンバを示す正面図である。
【図9】従来の一体型のサイドメンバを示す正面図である。
【図10】鋼板材に、図9の従来のブランクを板取りした平面図である。
【符号の説明】
【0030】
1 サイドメンバ構成部材
1a フランジ(上部)
1b 側表部
1c フランジ(下部)
2 前方部
3 本体支持部
4 後方部
5 継目
10 ブランク
12 中央部分
11 前方部分
13 後方部分
15 切込み部
16、17端縁部
18 すみ肉
20 鋼板材
21 前端縁
22 後端縁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの溝形断面のサイドメンバ構成部材を組み合わせて、矩形断面で一連のサイドメンバを形成するシャーシフレーム用のサイドメンバ構造において、
サイドメンバ構成部材のブランクの一部に切込み部を形成し、
前記ブランクを溝型断面に成形してから上記切込み部を溶接にて接合してなることを特徴とするシャーシフレームのサイドメンバ構造。
【請求項2】
サイドメンバ構成部材が、長手方向中央に本体支持部を有し、該本体支持部の両端に連接して延長方向に延びて前記本体支持部に対して斜めに延びる前方部および後方部を有しており、溝型断面が、シャーシ組立時に立設する側表面と、該側表面に対してその上下で折り曲げられる一対のフランジとからなっており、
切込み部が、ブランクの本体支持部に対応する中央部分で、シャーシ組立時に上方となるフランジから側表面に対応する部分の中途位置まで上下に延びており、切込みの開口側が幅広く、切込み先端側が幅狭く形成されてなることを特徴とする請求項1に記載のシャーシフレームのサイドメンバ構造。
【請求項3】
切込み部を、溶接によって接合してなることを特徴とする請求項1または2に記載のシャーシフレームのサイドメンバ構造。
【請求項4】
切込み部が1つないし複数個所存在することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のシャーシフレームのサイドメンバ構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−195304(P2008−195304A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−34158(P2007−34158)
【出願日】平成19年2月14日(2007.2.14)
【出願人】(390001579)プレス工業株式会社 (173)
【Fターム(参考)】